【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
4日。帰路。
帰りのワンボックスの中。渋滞にはまりながらノロノロと帰宅の途中。
行きと同じ並びで座っている。運転手が伊織、助手席に美智留。
真ん中が詩羽、英梨々、恵。後部座席に出海と倫也。
「冬休みも終わりかぁ・・・」
助手席の美智留があくびをしながらぼやく。
窓の外から雪景色が消えて、高速道路つまらない景観が広がっている。日も沈み始めて電灯がついている。
「学校は11日からでしょ?」
英梨々が訂正する。
「英梨々、いくらなんでも波島くんに運転させて、お酒まで飲んで、わたし達は高校二年生です。というのは無理があるんじゃないかな」
「恵だって最初はそうだったじゃない」
「わたしは、ブレッシングソフトの冬期休暇の社員旅行のつもりだったよ?」
「あーそう・・・」
英梨々はよくわらかない世界線でのことは議論したくない。
「別に、いつだっていんじゃないかしら?澤村さんとしては目的を達しているわけだし」
「そうかしら?詩羽ってあたしのこと英梨々って呼んでなかったっけ?」
「ややこしいのよ。英梨々呼びが3人になるでしょ。こういう使い分けがないと会話ってわかりにくいし」
「そう・・・」
英梨々はよくわからない文章作成のことで議論はしたくない。
「澤村ちゃんも倫也と付き合ったなら、2人で冬休みを過ごせばよかったんじゃないのー」
「あたしはみんなと楽しく過ごしたかったのよ」
大事なことは恵に認めてもらうことだ。このみんなの仲の良い関係性を壊して英梨々ルートの完成はない。
「無理があるんじゃないかな・・・」
納得できない恵がいる。
「お人よしだから正妻戦争に勝てないんじゃないかしら?」
詩羽が冷静に評価を下す。
「って、なんであたしが負けているのよ・・・」
英梨々はよくわからない正妻戦争のことで議論はしたくない。
「そ・・・そんなつまらないことより、先輩・・・」
後部座席の出海が小さな声で話しかける。
「これは・・・もう出海ルートなのでは・・・?」
英梨々が後ろを向くと、倫也が出海にもたれかかって眠っていた。
出海はまっすぐの姿勢のまま固まっている。耳まで赤い。
「・・・疲れてるんでしょ。そのまま寝させてあげなさいよ」
怒る気もしない。
英梨々はよくわからない出海ルートのことで議論はしたくない。
「あの・・・澤村先輩・・・」
出海が申し訳なさそうに、「記念に写メとってもらっていいですか?」
まったく身動きしていない。
「・・・いいわよ」
その気持ちは痛いほどわかる。
英梨々は意地悪もせずに、寝ている倫也の寝顔をアップでとった。
「LINEで送ったから、あとでチェックしなさいよ」
「ありがとうございますぅ」
出海が消えるような声で答えた。
英梨々が少し考え込む。
高速に乗っていると、みんながうつらうつらとする。すると運転手も眠くなってしまうので誰かが起きて会話を続けないといけない。
「どうしよ・・・詩羽」
「私に聞かれても困るのだけど、澤村さんがしたいようにしたらいいのよ。ずっとそう言ってきたでしょう?澤村さんはどうしたいのよ?冬休みが10日までなら、そのように過ごしたらいいのよ。倫理君と2人で納得いくまでいちゃいちゃしなさい」
「そうだけど・・・」
英梨々がちらりと恵の方をみる。
恵も少しうとうとしている。車が心地よく揺れている。
英梨々の目線に気が付いて、恵が答える。
「英梨々がこれで納得したら、それで英梨々ルートは完成でいいんじゃないかな。わたしの倫也くんを奪って、両想いで結ばれて、わたしをサブヒロインにして認めさせて、その上で、みんなで楽しく過ごす。それでいいんだよね?」
「・・・だいぶ棘のあるいいかたよね」
「別にそんなつもりはなくて、ただありのままを客観的に言っただけなんだけど」
恵は口を押えながらあくびを1つして目を閉じた。手はお腹に添えている。
「・・・詩羽」
「実際、加藤さんが言った通りなのよ。ハーレム型の物語に決着をつけるってそういうことじゃないかしら?」
英梨々が後ろを振り向くと、倫也がいない。出海の目が点になっている。
よくよく見ると、倫也は崩れ落ちて、出海にひざまくらをしてもらっていた。
「・・・倫也」
怒ろうかと思ったが、倫也があまりに気持ちよさそうなので放っておくことにした。
「今の英梨々の感情の・・・」
恵が目をつぶったまま小さな声で言う。
「何倍もの強い感情を抱いているのがわたし」
「・・・」
車は小さく揺れている。
伊織はリピートしているアイシーテイルの曲を一度消した。
高速のトンネルに入ると、車の中はオレンジの光がいくつも通過していった。
「詩羽。倫也が探していた、あたしと恵が幸せになるルートってみつかったの?」
「あるにはあるわよ。もう冴えカノとはいえないSFになるけれど」
「・・・」
「澤村さん、だから劇中劇なんてしなければよかったのよ。こういう会話がナンセンスなのよ。普通に澤村英梨々として倫理君と過ごす時間だけを楽しめばいいの。そうすることで読者も楽しい気分になるのだから」
「あたしは・・・」
英梨々は言葉につまる。
「個人的にはしっかり終わるべきだと思う」
ずっと静かにしてた伊織が断言する。
「やめなよ・・・伊織ちゃん」美智留が止める。
「いや・・・未来編は・・・無駄だね」
伊織の発言が気になって、恵は薄目を開けるが睡魔には勝てそうにない。
「どういうことよ、伊織」
「プロットだけで十分なのさ、その結末もやはり英梨々ルートとして納得できるものじゃないからね」
「・・・そうね」詩羽が同意する。そして話を続ける。
「私が説明するわ。この加藤恵と澤村英梨々が幸せになるルートはあるにはあるのよ。むしろそのために伏線をはってきているとも言えるわ。『夏いちゃ』というリアルタイムの時間とリンクさせた加藤さんは、お正月の夫婦漫才で言った通り妊娠しているのよ」
「恵が!?」
「イデア的にね・・・と言うべきなのかしら。今は妊娠4ヶ月ちょっとってところね。彼女が妊婦らしい仕草をしているのはそういうことなのよ」
「なによそれ・・・」
「そうなると澤村さんはどうかしら?このままメインヒロインとして倫理君とくっつくことができるかしら?躊躇するんじゃないかしら?さらに加藤さんから『中絶』だの『母子心中』だの重いワードがでてきてごらんなさいよ・・・あなた、それでも英梨々ルートに進める?」
「無理ね」
「そして、次は加藤恵の子育て編が始まるわ。それが『夏いちゃ』のように短編集的に子育て編を作る事は可能なのよ。でもね、あなたがそれでは幸せになれないでしょ」
「そうね・・・」
「そこで、不治の病からのコールドスリープよ」
「さっき言ったSFよね?コールドスリープって冷凍睡眠?」
「そう。そして20年後に目が覚めて・・・倫理君と加藤さんの間にできた子と出会って結婚する」
「なるほど」
「今度はみんなを呼んだ本物の結婚式ができるわよ。ちょっと無理があるけれど、これなら澤村さんも幸せになれるし、加藤さんも幸せになれるわ」
「あら、いいじゃない」
「良くないわよ?それって、つまり倫理君のことを諦めているんだもの・・・」
「そうね・・・そうなるのよね」
「そう、例えその倫理君の子どもが成長した時の人格が倫理君のイデアだとしてもね・・・」
詩羽が寂しそうに肩をすくめた。
このストーリーが想像力の限界だった。
「たぶん、最初が間違ってたんだよ・・・英梨々」
恵は眠たい目をこすりながら会話に参加する。
「恵、妊娠してたの・・・?」
「ううん。それはいいの。一昨日、落とし穴に落ちた時に、もういいやって思ったから」
「・・・まさか・・・流産したんじゃ」
「そんな重い話は嫌でしょう?英梨々が楽しく過ごしたいのに、拗ねている自分のことも嫌だったし、倫也くんも未来編はやりたくなさそうだったし・・・」
「あいつにしっかり責任をとらせなさいよ」
「それを英梨々がいうかなぁ・・・」
恵がくすっと寂しそうに笑った。
「恵・・・」
「だからね。もういいの」
高速の出口見えてきた。車が減速して止まる。
「みんなで決めたことなんだ」
伊織がいう。
「そうそう、伊織ちゃんもあたしとの未来編が嫌みたいだし」
美智留が後ろを振り向きながら笑っている。「双子だったんだけどね」と続けた。
伊織は苦笑いをしている。
「そういうわけで、澤村先輩。出海ルートも断念します」
「それはそうでしょうよ」と英梨々が冷たく言い放ってから、笑った。でもちょっと涙目になっている。
「英梨々の物語で完成させなさい」
詩羽が強く言う。「あなたならできるわよ。劇中劇なんかいらない、過ごしたいように残りの冬休みを過ごせばいいのよ」
「詩羽」
「私たちが物語を綴れるのはここまでね」
「お別れなの?」
「違うわよ。冬休みが終わって三学期が始まって、私が卒業して、あなたたちは三年生になって・・・」
「あたしは入学しまーす」
「そうね。そして、物語はずっと続くのよ。でも、『冴えない彼女の育て方』が作られることのない世界だもの・・・それはもう、違う物語なのよ。わかるでしょ?」
「わからない」
「そう、わからずやね。いつまでも冴えカノに迷惑かけられないし、加藤さん人気に甘えられないのよ。あなたがあなたの物語を終えたら、冴えカノの同人はおしまい。私たちのイデアはまた別の物語で綴られるわよ」
「そうね・・・」
英梨々が泣くのを我慢していた。でも、目からは涙がでてくる。
みんなで楽しく旅行をした。でも、やっぱり最後に我慢できずに泣くのは英梨々だ。
「英梨々・・・じゃましてごめんね」
恵が謝る。もっと最初からうまくサブヒロインができていれば、こんなに一年間も迷わずに済んだはずだ。
「ううん。あたしの方こそ・・・ごめん」
「えっ?英梨々。謝るぐらいなら倫也くんを返してくれてもいいんだよ?」
恵の目にハイライトがない。
「そ・・・そういう意味じゃないわよ!」
英梨々が腕で涙をぬぐって、恵を抱きしめる。
恵がその背中をトントンと軽く叩いてなだめる。
「もう・・・娘になり損ねたね」
「さすがに恵をママって呼ぶのは無理ね」
「後ろにパパが寝てるわよ」
恵が後ろで狸寝入りをしている倫也を指さす。
「やだ、その言い方は流石に気持ち悪いわ」
英梨々が笑う。少し八重歯が見える。
「きりがないし、このへんでお開き。オチはつくる?」
「あるの?」
恵は小さくうなずく。
伊織がスイッチを入れて曲を流す。
「なーがいあーいーだー まーたせて ごーめんー」
「これ、キロロの長い間だっけ?」
「うん。帰路だけに」恵がフラットに言う。
「・・・もう」英梨々がはにかむ。
「おしまい!」
恵が指をバチンッと強く弾いた。
※※※
倫也のベッド上に英梨々は腰を掛けていて、倫也を膝枕していた。
「倫也ぁ・・・」
涙声で英梨々が言う。こんな帰路になるはずじゃなかった。
「どうして、こんな風になったのよ?」目から涙がこぼれる。
「英梨々の物語だから、英梨々がちゃんと作るべきなんだ」
倫也はどこか冷めた声で言った。倫也だって泣きたいのだ。それは悲しいからじゃない。
「あたしは・・・みんなと楽しく過ごしたかった!倫也ともみんなとも今回の旅行みたいに楽しく・・・」
「そうだな・・・」
ハーレムものはハーレムの間は楽しい、結末が近づくと疑心暗鬼で荒れて、結論がでると怨嗟が広がる。
「・・・あたしでいいのかな?」
鼻水を垂らした英梨々が、ずずずっとすう。それからティッシュでちーんと鼻をかむ。
倫也はため息をつく。泣きすぎだろ・・・
起き上がって隣に座り直す。
「だからさ・・・英梨々。お前がいいんだよ」
英梨々はきょとんしている。それから意味を考えて顔が赤くなって、耳も真っ赤になる。
倫也はタイミング的にはここで頭を寄せてキスするところなんだけど・・・と思いながら、英梨々が照れているので、自分まで照れてしまった。
「明日は・・・初詣に行こうな」
「うん!・・・じゃない、どーしてもっていうなら、行ってあげないこともないけどぉ?」
「下手かっ」
2人の時間が静かに過ぎていく。
(了)