【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
5日。初詣。
英梨々はお昼まで家族とゆったりと過ごした。
それから、家に来た美容師に髪を結ってもらい、呉服屋に着付けをしてもらう。
自分でデザインした帯は黄色を基調に金糸で模様が付けられている。
着物の色は少し明るい黄緑色で華やかな印象を与えで、装飾具や草履も贅を尽くし煌びやかだった。
一式含めて、数百万の壮麗な着物を英梨々は当然のように着こなし、それらが英梨々自身の美しさをより引き立てていた。
英梨々は鏡の前に立ち、深く呼吸をして気持ちを落ち着けようとするが気分は昂ぶっていた。
倫也の彼女として初陣のような気持ちである。
※※※
着付けが終わった時には夕方になっていた。
朱に染まる街並みを見下ろしながら、倫也の家へとゆっくりと歩いて行く。
手には丸めたポスターを一枚持っていた。
ピンポーン。
玄関がガチャリと開いて、倫也がでてきた。
「うん。知ってた。いいから、早く着替えなさいよ」
倫也がアニメプリントのださいトレーナーを着ていたが、あえてツッコむこともせず家へと上がる。
「・・・おう」
倫也としては緊張をほぐそうというちょっとした気遣いのつもりだったが、英梨々は臨戦態勢を崩さなかった。
英梨々が倫也の部屋へ上がる階段を見る。天井から槍がぶら下がるようなこともなく、いつもの家だった。
そのまま着物の裾をもって、階段を上がって倫也の部屋に入った。
いつもの倫也の部屋。
倫也が洗面所で着替えている間、英梨々はテーブルの上に立って、ポスターの一枚をはがし、持ってきた自分のポスターに貼り換えた。
腐女子御用達ゲームのキャラ、セルビスだった。
机から降りて、満足そうにそれを眺める。
はがした美少女のポスターは丸めてゴムで止める。これはこれで倫也が大切にしているものだから、大事に保管する。
倫也が着替えて部屋に入ってきた。
壁のポスターに気が付いたが、何も言わなかった。
「問題があるなら、あとで戻していいわよ」
「いや、別にいいよ」
倫也は黒を基調に服を着替えた。眼鏡もはずしてコンタクトにしている。
身長こそないが、髪もさっぱりと切ってあり、そこそこイケメンである。
「な・・・なんていうか、倫也。その方が・・・」
さっきまで美少女キャラ候の顔を維持していたが、正装する倫也を見て顔が赤くなってくずれた。
「す・・・素敵じゃないの」と小さな声でつぶやいた。
「お前には釣り合わないけどな」
倫也がはにかんで笑う。もう少し素直に英梨々を褒めたいが、言葉がうまく見つけられない。
「・・・バカ」と英梨々が言った。
※※※
大通りにでてタクシーを拾う。近場の有名な神社の名前を告げた。
「もう、屋台でてないかしら?」
「どうかな。大きい所だとまだ出ているかもしれないけど」
「まっ、しょうがないわよね」
「浅草までいけば屋台あるけどな」
「いいわよ」
タクシーの運転手は無駄口を叩かなかった。
静かな時間がずっと流れる。道路は少し混み始めていた。
年末年始の休暇が終わり、また東京の日常がはじまっているのだ。
目的地に着きタクシーが止まる。倫也が会計を済ませた。
「気前がいいじゃない」
「まぁな」
冬コミで稼いだ金もあるし、今日は財布にちょっとした金額をいれてきた。
「やっぱり屋台はないわね」
「そうだな」
「でも、この閑散とした神社もいいわね」
「おみくじぐらいはひけるだろうし」
2人が石段をあがって、会釈をしてから鳥居をくぐる。
人影はまばらだった。
柄杓をつかって水をすくい、手を清める。水がキンッと冷たい。
「まずは、参拝をすませましょうかしら」
英梨々が参道を通ってまっすぐ神社に向かう。
「あっ澤村さん!」と、前からきた2人組の女の子に声をかけられた。
英梨々は隣に倫也がいることを確認する。
「そばにいなさいよ」
「ああ」倫也が少し不安そうに英梨々を見る。
「あれ、隣にいる人は・・・?」
眼鏡をはずしているので、学校では有名な倫也とわからなかったようだ。
2人組の女の子は英梨々のクラスメートで、英梨々の取り巻きでもある。
「こんばんは」と英梨々は質問にはすぐに答えず、ゆったりと挨拶をする。
「うん。こんばんは」2人が声をそろえた。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」お嬢様モードで答える。所作も悠然として美しい。
相手が圧倒されているのがわかる。
「あっ、うん。あけおめー」とくだけて挨拶してきたのを、英梨々は優しく微笑んで受け止める。
「・・・」女の子が不思議そうに隣に立っている倫也を見つめている。
「誰だかわからないかしら?」
英梨々が少しおかしそうに言った。
「うん。こんな人学校にいないよね」
「これ、安芸倫也よ。知ってるでしょ?」
「えっと・・・」「ああっ、あのオタクの!?」
女の子のひとりが気付いた。
「そそっ」と英梨々が笑っている。
倫也は「ども」と恥ずかしそうに会釈だけする。
「実はね、こいつ・・・あたしの・・・」
英梨々の言葉がつまる。耳まで真っ赤になる。
(がんばれ)と倫也が心の中でつぶやいた。
「彼・・・あたしのカレシなのよ」
英梨々が意識的に冷静に言った。声が少し上ずった。鼓動が激しいのが自分でわかる。
「えっ、そ・・・そうなんだ」と1人が納得する。
「えっ、どうして?」ともう一人が掘り下げようとすると、ひじをあてて「あっ、邪魔した悪いからまたね」といって、2人はそそくさと去っていった。
「ふぅ・・・」と英梨々が大きく息を吐き出す。
今日のメインイベントを無事に終えた。
「あの2人のモブもまさかこんな重大な役目になるとは一年前には思わなかっただろうな」
「そうね。でも、あの2人ってモブじゃないのよ。ちゃんと原作でも名前があるの」
「へぇ・・・」
「って、またこんな劇中劇やって、茶化したらだめよね」
「そうだな」倫也は楽しそうに笑っている。
2人は並んで歩いて神前に進んだ。
賽銭箱の前で会釈をして、それぞれが賽銭を投げ入れた。
それから、英梨々は優雅に二礼二拍手一礼の作法で拝礼をした。
静かに目を閉じて、神様にお礼を言う。
初詣は願い事をいう時ではない。
あたりを見渡すと、暗くなっていて、電灯が灯っている。
巫女さんが片づけを始めているのが見えた。
「おみくじぐらいひきましょうか」
英梨々が巫女さんに声をかけて、まだ間に合うかを聞いた。
「倫也、大丈夫だって」
倫也が財布から小銭を出す、英梨々はペイペイで決済をすます。
「そういう時代を感じることはやめろよ・・・」
「別に何で払ったっていいじゃない」
倫也が200円を巫女に渡そうとして顔をみた。
「恵!?」
巫女服を着た恵がいた。
「ああ、お気になさらず、将来が変わったのでバイトでもしようかと思っただけなんで」
声のトーンが冷たい。
「お友達出演よね」と英梨々は冷静に答える。
ガシャガシャふって、おみくじの番号を告げる。
巫女の恵が棚から番号のおみくじを渡した。
倫也もガシャガシャとふっておみくじの番号を告げた。
恵が持っていたおみくじを渡す。
「棚からとれよ・・・」
「棚からとっても同じだよ」
恵は少し笑う。巫女服を着られて実はちょっとご機嫌だったりする。
「おっ、大吉だ」
倫也が喜ぶ。恵にお礼を言う。
「恋愛運は?」と英梨々が尋ねる。そこが大事だ。
「えっとな・・・『今の人が最上、迷うな』だってさ」
「あら、わかってるじゃない」
「ほんと、そのまんまだよね」と恵がいう。
倫也が恵の顔をみると、頬を赤らめてそっぽを向いていた。
深く考えるのはよそう。
「英梨々は?」倫也が尋ねる。
「あたしは・・・凶ね」
英梨々が恵を睨む。
「別に・・・不正はしてないよ」と恵が答える。
「出来レースなのよね・・・恋愛運は『周囲の理解が必要』だって」
英梨々がため息を1つつく。
「でもまぁ、そういうもんじゃね?」と倫也が納得する。
それから2人はおみくじを結んでいく。
「恵、そろそろバイト終わりでしょ?」
「うん、まぁ・・・そうなのかな?」あんまり考えずに登場してしまった。
「だったら、一緒に晩御飯食べましょうよ」
「ん~」迷ってから「うん」と答えた。
英梨々は倫也の腕の裾を指でつまむ。さすがに手はつながない。
倫也がいて、恵がいる。そんな物語が英梨々は好き。
「そうだ、何かオチをつくるんでしょ?」
「別に無理することねぇーよ」
「恵、お願い」
「わたし!?」
恵がお店のシャッターをガラガラと閉めた。
「ん~。じゃあ、大吉とかけまして、一年成長した英梨々と解きます」
「その心は?」
「どちらも、縁起(演技)がいいでしょう」
「さすがねぇ・・・」
「・・・別に、オチいらないんじゃないかな・・・」
恵が店に鍵をかけた。
それから3人で食事行った。
そう、3人で。
(了)