【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
6日。
「ふふん♪」と鼻歌混じりで、英梨々が本棚をいじっていた。
倫也はデスクに座りながら、それを横目に仕事をしている。
先日、ポスターを貼り換えた英梨々。今日は本を少し入れ替えている。
倫也はラノベサイトを運営していて、いち早くラノベを読みレビューをつける。
そのサイトに信用があったので、絶賛された霞詩子の『恋するメトロノーム』が売れるきっかけになった。
英梨々ももちろんサイトをチェックしていて、倫也のおすすめのラノベを読んだり、借りたりしていた。
だから、倫也の部屋にあるラノベで読んでないものはない。
趣味が一緒。なんてすばらしい。
とはいえ、英梨々はR18同人を描くので過激なラノベもよく読む。参考文献と言う方が正確かもしれない。
それらの本をこの本棚に紛れ込ませている。
目的は倫也に本を読んでもらうことではなく、倫也の部屋を少し英梨々色に染めることだった。
以前の物語では着々と進めたのにリセットされたから。
本棚の整理が終わったので、余った本をダンボールに丁寧にしまいクローゼにしまおうと扉を開ける。
中に小さなダンボール箱があったので、なんだろうと開けてみると『害虫駆除 バル〇ン』が1ダースほどはいっている。
「・・・」
それを棚から出して、そのスペースに本の入ったダンボールをしまう。収まりがいい。
さらにちょっとごちゃごちゃと汚れているので、中を掃除していたら、手にベチャリとはりつくものがあった。
びっくりして、確認すると『Gホイホイ』が巧妙に隠されていた。
幸い新しいもので中にGがいないものの、手についたのはそれなりにショックだ。
「・・・」
倫也はその様子を心配そうにみていた。激しいリアクションもなく、たんたんとイベントが進む。
「・・・倫也」少しか細い声。やっぱり泣くかな?
「どうした?」
「導入部分のボケはこのくらいでいいかしらね?」
「・・・ふむ」
英梨々が手についたものをはがしてゴミ箱に捨てる。
薬剤の入ったダンボールは廊下に出した。あとで処分だ。
それから下に降りて洗面台に行き、手を念入りに洗う。
イライラする心を落ち着けて、鏡に映っている不安そうな自分を見つめる。
※※※
「だいたいやることが陰険なのよ」
倫也は聞流して、ノートPCの画面を見ている。
英梨々はこたつに入ってゲームをしながら倫也に文句を続ける。
「あたしが悪いのかしらね?」
「それは主観によるんじゃないか・・・」
ああ、よせばいいのに余計なことをいう。
女が愚痴ったら、はいはいと言って聞流す。これが鉄則。
「主観ってどういう意味よ?人の事を害虫扱いして、笑いをとるとかそういう失礼な扱いが読者を減らすんじゃないのかしら?」
「それはどうだろう・・・」
「そもそも、センスがないのよ」
「ふむ」
「あたしだって、楽しいだけの物語が作りたいのよ?わかるでしょ?」
「ふむ」
「それを邪魔されるからおかしくなるんじゃないの」
「ふむ」
「倫也、聞いてる?」
「聞いてるよ」
コップにはいったドクペを倫也は一口飲む。
正月があけて仕事が始まっている。冬コミの作品を今度は販売店に直接売ってもらう交渉をしていた。
ネットのDL数は順調に伸びているし、評価も上々だ。
追加発注は勝負の2000枚。・・・ぐらいは売りたいが・・・
「だから、あたしとしては普通に部屋でいちゃいちゃしていたいのよ」
「ふむ」
「倫也だっていちゃいちゃしたいでしょ?」
「ふむ」
「倫也聞いてる?」
「聞いてるよ」
2000枚は難しいか、在庫抱えるの嫌だしな。
でも、全国の店舗からちらほらメールも来ているし・・・
なによりも、全国展開の大手が扱ってくれそうだ。
倫也は発注ボタンを押すかどうか迷っている。現物を抱えるのはやっぱりリスキーか。
DL販売だけなら問題がない・・・
「きゅうりにハチミツかけるとメロンになるらしいわよ」
「ふむ」
「同じウリ科だしね。わからなくもないわよね。だいたい甘くないメロンってきゅうりみたいだし」
「ふむ」
「きゅうりとキューイって似てるわよね」
「ふむ」
「倫也、聞いてるの?」
「聞いてるよ」
英梨々が倫也の後ろに立っている。
「わっ!」
「わああああぁ!!」
耳元で大声を出す。
「うわっ、英梨々。どうした?」
「どうした?じゃないわよ。あんた人の話ぜんぜん聞いてないじゃない」
「そう?」
「何悩んでるのよ?」
英梨々がPCの画面を確認する。発注作業中だった。
倫也のマウスを持っている右手に重ねて、クリックをする。
「うわあああああっ!?英梨々」
「2000枚ぐらい売りなさいよ」
「いや、売れるかわからないだろ?」
「そりゃー、わからないわよ」
「売れなかったらどうするんだよ?」
「そりゃー、在庫抱えて、こつこつネットで売ったり、カゴ売りになったりするだけよね」
「いや、まぁそうなんだがな・・・」
「店舗別に特典つくらないとね」
「特典?」
「あたりまえでしょ。あとで店舗一覧よこしなさいよ」
「それなら、あるけど」
倫也がプリントアウトした紙を渡す、販売予定数も書いてある。
「ふーん・・・ひぃふぅみぃよ・・・と」
「けっこうあるだろ」
「10種類ぐらいあればいいわよね」
「・・・そうだな」
「ここがポスターで、ここは詩羽に外伝書いてもらって小冊子つけて・・・、あとここはキーホルダーでいいんじゃないかしら?」
紙に赤ペンでメモをいれる。扱う店舗によって特色がある。
「そんなに大変じゃね?」
「規模が小さいのに小回りを失ったら大手に飲み込まれるだけでしょ」
英梨々の目が真剣。
英梨々がマウスをいじって、クラウド上のフォルダにアクセスをする。
「ここら辺の画像がポスターになりやすいと思うのだけど」
すでに何枚か描いてある。
「仕事早いな!」
「いいかしら倫也。あたしはね。『倫也と仲良くなったら絵が描けなくなる』という意味不明な設定にけっこう心底怒っているのよ?わかるでしょ?」
「・・・まぁ原作様様だから・・・あんまりな・・・そういうことは大声で言うなよ・・・」
「ふん」
「でもまぁ、仕事が早くて助かったよ。さっそく相談して進めてみる」
「相談って、誰とかしら?あたしの絵をポスターにするのに、倫也とあたし以外の誰の許可がいるのかしらね?」
「いや、一応サークル活動だからな・・・恵にも・・・」
「そう。ふーん?」
「えっと・・・英梨々?何か怒ってるのか?」
「怒ってるわよ?」
「えっと、何を・・・」
「あんた、さっき話聞いてたんじゃないの?」
「ごめん」
「って、あんまり真剣に怒るものじゃないわよね」
英梨々が倫也から離れて、こたつに戻る。
そろそろオチを考えなきゃ。
だいたい、なんも考えずに物語を始めすぎなのよね。
さっき手についた『Gホイホイ』の印象が強烈で、G関係のものしか浮かばないわね。
あれ、これってもしかしてボツ原稿なんじゃ・・・
そうよね、ちょっとしたイジメよね。人の事を害虫扱いするとか。
それにしても、『夏いちゃ』の40話を恵はよく夏休み前に完成させたわよね・・・
半分の20話ぐらいなら余裕と思ったけど、もう完全な自転車操業じゃないの。
ああ、ダメだ。ぜんぜん浮かばない。ボツにするほどの余裕もないし・・・
「倫也ぁ・・・」
ここは甘えよう。猫なで声で倫也にまかせてしまおう。
「ん?どした?」
倫也は発注予約を済ませたのですっきりしている。
「オチがぜんぜん見つからないんだけど?」
「ああ、オチ?そうなの?あんなに準備してたのに?」
「準備?」
「じゃあ、英梨々、せっかく金髪だし、ネイティブにいこうぜ」
「どういうことよ?」
「お前、本の整理をしたよな?」
「したわよ」
「発注予約もしたよな」
「そうね、倫也があんまり迷っていたから」
「どちらも英語でなんて言う?」
「ああそういうことかぁ・・・」
「ふむ」
「どちらもBOOKなのね」
(了)
自然体だな