【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み   作:きりぼー

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お正月が終わってしまった。
そして日常がはじまる。


英梨々には無理だったんだ・・・

8日(土曜)

 

倫也の部屋。

英梨々が楽しそうに棚のフィギュアを並べ替えている。

倫也とおそろいのブランドセーターに身包み、恋人役にもだいぶ慣れてきた。

「やっぱり休日って大事よね」

昨日、一日休みをもらったのでリフレッシュしているようだ。

「そうだな。休日は大事だな!でもな英梨々・・・締め切りが数時間後に迫ってるぞ・・・」

「それは定時の12時05分に投稿予約しているからで夜に投稿すればいいじゃない?」

「それが可能ならな!いいか、前日に完成させて投稿予約しているんだよ。土曜の夜に帰ってきて0時までに作成できるわけないだろ?」

「できるでしょ?」

「じゃあ、翌日のはどうするんだよ」

「そんなの徹夜して書けばいいじゃない!」

「それが今だよ!」

「・・・どうしよ・・・」

 

どうしよ。

 

「あと英梨々・・・伊織からのメール見たか?」

「いや、まだだけど・・・」

「ちょっと見ろ」

倫也はその間に、キッチンでコーヒーを淹れる。

悠長にコーヒーを飲むよりも、とりあえず完成させて寝たいが仕事が終わらない以上は踏ん張るしかない。

だいたい、毎日一作品を英梨々で書くという企画が無理だったのだ・・・

 

濃いブラックコーヒーがはいったマグカップを二つもって部屋へと戻る。

英梨々の目が点になっている。

「まぁしょうがないだろ・・・」

倫也はかける言葉がみつからない。

「・・・そうよね」

英梨々がしょんぼりするが、強く反論する気力がわかない。

 

『打ち切り』

 

と断言してあった。

自分から毎日作りたいといいながら、作れないならしょうがない。

 

「倫也・・・どうしよ・・・」

「どうしよって言われても・・・代替原稿ももうないぞ?」

「そうなの?どうしよ・・・」

「あのな、英梨々はどうやって過ごしたかったんだよ?」

「だから、倫也とイチャイチャって何言わすのよ!だいたい、倫也があたしとイチャイチャしないからいけないんじゃないの」

「そうか?お前・・・今日何してた?」

「部屋の模様替えの続き」

 

そう、一日かけて倫也の部屋に飾ってあるフィギュアを変更していた。1つ1つにこだわりがあり妥協はできない。時間がかかるのは当然で物語をおろそかにしていたわけではない。

英梨々は英梨々で自分の時間を楽しく過ごしていた。けど、ちょっと読者目線が足らないのだ。

 

「いや、それはいいんだがな・・・」

「だってこう・・・やっぱり環境って大事じゃない?」

「そうだな」

「何が問題なのよ?」

「物語を読んでいて楽しいと思うから、読んでもらえるわけだよな?お前が不安定だから読者が離れていくんじゃないのか?」

「あたしのせいにするわけね?」

「いや・・・そうでなくて・・・普通に楽しく過ごす物語をだな・・・」

「倫也の部屋で自分好みに模様替えして楽しく過ごしているつもりなんだけど」

「ふむ・・・」

そこは問題なさそうだ。

「あとはオチも考えないといけないのよね?」

「そこは重要でないけど、短編形式ならあったほうがいいだろうな」

「今回はフィギュアだから・・・ドール?えっと・・・整いました」

「どうぞ」

「フィギュアとかけまして、アメリカでお買い物と解きます」

「その心は?」

「どちらも、ドール(ドル)でしょう」

「ふむ。まぁあってるな」

「面白い?」

「いや・・・」

「じゃあ、何が問題なのかしら・・・?」

「・・・題名の時点で読者数が減っているからなぁ・・・」

「それって、あたしと恵の差ってことよね・・・」

「そうでもないだろう」

「どういうこと」

「英梨々の方は内容がな・・・少し暗いというか、劇中劇が過多というか・・・」

「ふーん。じゃ、あとは恵に任せるわよ!ふん」

 

英梨々がいじけて、ベッドに伏してしまった。

 

「・・・英梨々・・・そういうとこだよ・・・」

倫也はため息をつく。

英梨々なりに一生懸命なのに、読者が一桁まで下がった。

もちろん英梨々はショックで重責をますます感じる。

打ち切りと言われて、ほっとする英梨々がいる。

なんとかしなきゃ。

 

※※※

 

恵はキッチンで昼食を作っていた。

今日はサンドイッチと野菜スープ。隣の部屋で働いている従業員が好きなタイミングで食べられるように1人分ずつ小分けしてラップをする。

 

ガチャリと玄関ドアが開いて、出海が入ってきた。

「恵先輩。すみません、なかなか手伝えなくて」

申し訳なそうに出海が頭を下げた。

 

「ううん。少しは動いた方がいいみたいだから・・・」

恵が重くなってきたお腹をマタニティードレスの上からポンポンと軽く叩いた。

 

「あとはやるんで、座っててください」

「もうできているから、出海ちゃんも好きなタイミングで食べてね」

「はい。じゃあ・・・食べちゃいますね」

 

出海がカウンターの上に並べられているサンドイッチを一皿とってテーブルに置き椅子に座った。

恵はスープをカップによそって、出海に差し出す。

 

「まかない付きが一番助かります」

出海がいただきますと手を合わせて、ラップをはずす。

 

ここは池袋のマンションの一室で、隣がブレッシングソフトの会社。

 

「ふぅ・・・」と息を吐き出して、恵も椅子にすわる。

もっているスマホをチェックして、また大きくため息をついた。

「仕事のトラブルですか?」

出海がタマゴサンドを食べながら、話しかける。

「ううん。英梨々から」

「澤村先輩ですか」

「うん。高2の英梨々なんだけど・・・『冬いちゃ』が難航しているみたい」

「あれは、無理がありますよね。年末年始の忙しい時に過密スケジュール組むなんて」

「そうだよねー」

恵はおかしそうにクスクスと笑う。まぁ、目は笑ってないけど。

「で、どうしたんです?」

「なんか、作れないからこっちに投げてきたみたい」

「澤村先輩らしいというか・・・でも正月旅行のあと自分達だけで作る予定でしたよね」

「うん。締め切りに追われているみたい」

「締め切りに追われるまで仕事しないのが澤村先輩ですから、それはしょうがないですよ」

「まぁ、そうなんだけどね。あっ、蹴った」

恵がお腹をトントンと叩く。

「だいぶ大きくなってきましたねぇ・・・」

「そうだね」

ふふふっと恵が優しく笑う。今度は目も笑っている。

「やっぱり、恵先輩の『夏いちゃ』から、子育て編に繋げるのが自然ですよね」

「どうかなー。倫也くんも相変わらずフラフラしているし」

「ハーレム主人公らしくなってきたじゃないですか」

「それ、喜んでいいのかなぁ」

「そろそろ、出海ルートを・・・」

「それ、あきらめたんじゃないの?」

恵がじぃーと出海を見る。

「ですよねぇ・・・」

目をそらしてスープを飲む。

出海も昔は希望をもっていたが、さすがにリアルタイムに合わせて妊娠してくる恵のイデアに対抗する気はおきない。

 

恵が英梨々に返信する。

さて・・・どの時間軸の英梨々に送信しようかなと悩みながら送信を押す。

 

※※※

 

「だぁ~~~!!」

英梨々が自分の部屋のベッドで目が覚めた。

夢オチにしないと、危うく恵ルートが確定するところだった。

ほんと、ちょっと助けてもらうだけなのに、油断も隙もない・・・

 

「子育て編はボツにしたわよね・・・」

英梨々はスマホをつけて、時間を確認する。

「あれ・・・?」

 

西暦が未来だった。

高2の英梨々よりも10年以上先を示している。

英梨々が立ち上がって、鏡を確認する。

そこに映った自分の描写を避けて、頭を抱える。

スマホがメールの着信を知らせる。

 

英梨々がメールを確認すると恵からだった。

 

「英梨々。助けて。産まれそう。みんないなくて・・・」

 

「はぁ・・・?恵、いったい何を言っているのかしら・・・」

ほっといていいのか、よくわからない。

確かに正月の旅行で妊娠しているような伏線はたてていたけど、

それってなかったことにしてたはず・・・

「どうしよ・・・だいたい倫也は何をしているのよ」

スマホでスケジュールを確認すると、恵の出産予定日はまだ一週間先になっている。

そして、倫也は大坂のマルズに交渉のため出張中だった。

「・・・なんで、短時間でここまで伏線をひくのかしら・・・」

 

その時、もう一度メールの着信があった。

 

「もう一度寝なさい」

 

霞ヶ丘詩羽からだ。

 

※※※

 

英梨々はベッドの上で目が覚めた。倫也の匂いのするシーツだ。

体を起こすと、部屋は暗かった。時刻がよくわからない。

ベッドの下には倫也が布団を敷いて眠っている。

 

どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。

なにか夢をみていた気がするが、それが良い夢なのか悪い夢のかもう思い出せなかった。

 

(打ち切り)




(・人・)南無

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