【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
27日。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「大丈夫か?英梨々」
「大丈夫よ・・・さすがにここで筆が鈍るわね・・・」
「そりゃあ・・・まぁな」
「まさか一年かかるなんてね」
「・・・そうだな」
「じゃ、もう一度いくわよ」
英梨々と倫也がいつもの喫茶店の前に立っている。
締め切りギリギリになって迷惑かけたことを謝る事と、倫也と英梨々が付き合うことになったのを報告するためである。
中には恵と詩羽が待っている。
カランコロンッ 入口の鈴が鳴る。
「いらっしゃいませー」とあのウエイトレスさんもひさびさの登場。
奥の窓側の席に、恵と詩羽が向かいあって座っていた。何やら和やかな雰囲気で談笑している。
「お待たせ。いろいろごめんね。恵、詩羽」
「ううん」
「あら澤村さん・・・ごきげんよう」
「何よ、その挨拶?」
詩羽が席を立ってドリンクバーの方へ歩いていった。
席が開いたので、英梨々が奥に座り、倫也が・・・英梨々の隣に座った。
「そう?そっちに座るんだ?」恵が呟く。顔はフラットだ。トーンも正常。
「よっ、トモ。澤村ちゃんも」
明るい声をかけてきたのが、通路をはさんだ隣のテーブルに座っている美智留だ。
「あら、氷堂美智留も来ているのね」
「そりゃあ、サークルメンバーだし?」
隣に伊織が何食わぬ顔で座っている。
「やぁ、澤村さん。倫也君もひさしぶり」
「なんで伊織がいるのよ」
「ん~。一応・・・面白そうだしー?」
「澤村先輩、こんちわ」
「で、波島出海まで・・・あんた受験生でしょ?」
「もう、勘弁してくださいよ。何度のこの期間をさまよっていると思ってるんですか?澤村先輩がこの時間軸で繰り返すと、わたしは受験生になって迷惑なんです」
「・・・知らないわよ、そんなこと」
英梨々ルートを考える上で重要な時期なのでしょうがない。
「ご注文はどうなさいますか?」
「ドリンクバー二つ。あとアップルパイ1つ」
「かしこまりました」
ウエイトレスが注文を受けて去っていく。
「加藤、いろいろありがとうな」
倫也が恵の目を見て、お礼を言った。
「・・・仕事は仕事だし」
ブラックコーヒーすする。愛想はない。
「無事に完成して良かったわよね。締め切りさえ守ればいいのよ」
詩羽がドリンクバーから戻ってきて、恵の隣に座る。
「・・・」恵は無言でさっきまで向かい側に座っていた詩羽を見る。
「あら、席が変わったわね」詩羽は別に気にせずに、もってきたコーヒーに口をつける。
「あれ、大丈夫そう・・・?」
「これからですよ」
美智留と出海が小声で話す。伊織はクールにメロンソーダーを飲んでいる。
「そこ、ひそひそ話さないでくれるかな?」
恵のトーンが重い。
「倫也―。ドリンクバー行こう」
「そうだな」
2人が立ち上がって、ドリンクバーへと向かう。
「あ・・・あんたから切り出しなさいよ・・・」
「わかってる・・・」
英梨々がグラスを置いて、コーラとメロンソーダをいれた。
「1UPキノコいるかしら?」
「大丈夫だろ・・・」
「自信あるのね?」
「・・・さっき、カメたくさん踏んできたから」
「・・・先が思いやられるわね」
倫也は迷ったがホットコーヒーにした。
恵は窓の外を見ている。
英梨々と倫也が席に戻って座る。アップルパイがもうテーブルの上においてある。
「そ・・・それでね、恵」
英梨々が緊張している。
「ナニ・・・かな?」
顔は極めてフラットだ。目にハイライトがないことを除けば問題はない。
「加藤さん、落ち着いて」隣の詩羽が小声で囁く。
アニメだと、英梨々が満面の笑みで倫也にくっつきながら、謝っていた気がする。
もう痛々しくて見返す気も起きないのだが・・・
どういう神経だとああなるのか、わからない。
とはいえ、原作リスペクトも大事だ。
ここは英梨々にがんばってもらう。
「倫也、もう少しこっちに寄りなさいよ」
「ん・・・こうか」
倫也が英梨々との間をつめると、英梨々が倫也の腕にしがみついた。
控えめな胸元が倫也の腕に押し当てられる。
倫也は顔が赤くなる、英梨々はいざやってみると緊張がとれて、ニヤニヤが止められない。
ゴゴゴゴゴゴゴッ・・・
何かJOJO的効果音が聞こえる。
これは気にしない。
「・・・あのさぁ・・・」恵が声を殺しながらつぶやく。
「加藤さん、サブヒロインに徹しないといつまでも終わらないよ」詩羽がアドバイスする。
「・・・うん」顔はフラットだ。
「ほら、倫也から言いなさいよ」英梨々がうながす。
「あ・・・あぅ、うん。えっとさ・・・恵、詩羽先輩」
「何かしら?倫理君」詩羽が応える。
「えっと・・・俺たち・・・ゴクリッ」
倫也が恐る恐る恵の顔を見る。フラットだ。刺すような目線で倫也をまっすぐ見つめている以外は問題はない。
「・・・付き合うことになったから」
倫也が重い空気に負けずに言った。
「おおっ・・・」美智留が隣で感嘆している。
「ついに言いましたね・・・」出海も驚いている。
いったい何度リテイクしたことか。
伊織はケータイ画面を眺めながら笑いをこらえている。
「そう?」恵がフラットに答える。
「そう、そういうわけだから、恵。ずっとこじれていたんだけど・・・元鞘に収まったっていうか・・・」
英梨々が早口でまくしたてる。
「ん?英梨々。大丈夫?」恵が心配そうに聞いた。
「何?風邪ならもう治ったわよ。お陰様で」
「ううんそうじゃなくて、頭・・・大丈夫?」
「熱も下がったわよ」
「英梨々?そんなことじゃななくって・・・」
恵が顎を少し上にあげて、目のところまで暗い影の斜線を落としながら・・・
「人の旦那と付き合って、大丈夫なのかなぁ・・・?って聞いているんだけど」
倫也が固まる。
英梨々も顔がひきつった。
詩羽は下を向いて頭を横に振っている。
「クククッ」伊織が笑いを堪えきれない。
「やっぱいつものですね・・・」出海があきれている。
「加藤ちゃんだしね・・・さて、もう一度っと」美智留は慣れている。
「そこ、茶化さないでくれないかなぁ・・・?」
恵が非難めいて隣の席にいった。
「またリテイクね・・・澤村さんと倫理君はお店に入ってきたところからでお願い」
「・・・はい」
倫也と英梨々が立ち上がる。
「このままでいいから、ちょっと倫也くん・・・そこ座って」
「この時期は安芸くんでは・・・」倫也が呟く。
「そういうつまらないこと言わないでくれるかなぁ・・・?」
「あの・・・加藤?」
「加藤じゃない」
恵の表情が崩れた。眉間にしわを寄せて怒っている。
もっとも怒った顔もあざとカワイイ。そこら辺はぬかりがない。
「まぁまぁ、落ち着いて加藤さん」詩羽がなだめる。
「いいかしら?このままサブヒロインを演じて英梨々ルートを終わらせないと・・・また2人は高1とか小学生とかからやり直すことになるわよ?」
「中学生時代はないんですかねー?」出海が横やりをいれる。中学生時代だと出番がある。
「そこ、ややこしいから黙ってなさいよ」英梨々が釘を刺す。
「はーい」出海は黙る。少し大人になった。
「ねぇ、倫也くん・・・?これが答えなの?」
「加藤・・・」
「加藤じゃない」
「恵・・・」
「この、わたしの目の前で倫也くんと英梨々の付き合う報告を受けるのが正しい選択なの?倫也くん言ったよね。わたしも英梨々も幸せにするルートを探しているって、英梨々ルートに進むのも、英梨々が幸せになるのも、英梨々がメインヒロインでも構わない。でも、これが答えなの?わたしはそれでどうすればいいの?泣くのを堪えてフラットな表情で・・・ヒックッ」
そこまで言って、恵はテーブルに伏せてしまった。涙はかろうじて見せない。
「・・・めぐみ・・・」倫也の表情が崩れる。
英梨々はぎゅっと、倫也の腕をより強く抱いた。
その表情は堅く、恵以上にフラットで・・・やっぱり泣くのを我慢していた。
「笑い事じゃないですね・・・」出海が呟く。
伊織は手を顔に当てて考えに沈む。やはり話が重くなる・・・いや、それ以上に問題なのは・・・加藤恵が譲らないことだ・・・このままだと巻き添えをくらう。
美智留は意外と平気で、何食わぬ顔でケーキを食べていた。
「波島兄ちゃんも覚悟が足らないんじゃないー?」美智留はケーキを食べながら言った。
「どういう意味です?」出海が首をかしげて聞き返す。
「ううん。こっちの話だから」
「ん~。僕は関係ないと思うのだけど・・・?」
伊織が努めて冷静に答える、最近はずっと裏方で物語を作っている。表面にでてきたのはずいぶんとひさしぶりだ。
美智留は伊織の肩に、ガシッと手を置いて、「女性の方が少し早く大人になるんだよ。男の子よりも」と言った。
「どういう意味ですか?美智留先輩」
「そうね。波島ちゃんもその内わかるよ」
そういって、最後のケーキの一口を食べ終えた。
不安に震える英梨々に倫也は優しい声で、「大丈夫だ。このまま英梨々ルートは完成させる」と言い切った。
その言葉に恵がピクッと少しだけ反応した。
「頼む。サブヒロインになってくれ。そうじゃないと・・・英梨々ルートがいつまでたっても完成しない」
恵は顔を上げずに、「あのさー・・・自分がどれだけゲスな発言しているかわかって言ってる?」
「それでもだ」
「・・・冬コミ参加しないから」
恵がその場で消えた。
詩羽が深々とため息をついた。
「ちょっと・・・倫也、どうするのよ?」
「どうするもなにも・・・大丈夫だといったろ?」
「だって恵、冬コミにこないって・・・」
「そうね倫理君。ここで怒らせてしまったら計画が台無しよ。許可を得て那須まで行き、締め切りを守って冬コミに参加する。そうすることで加藤さんは怒ることができずに打ち上げに来るというのが当初の目標でしょう?」
「その通りですよ」倫也がはっきりとした口調でいった。
美智留と伊織は黙っている。
2人の様子がおかしいことに出海は首をかしげたがさっぱりわからない。
隣の夫婦喧嘩なんだか、不倫現場なんだかよくわからない事情とまるで結びつかなかった。
「いいか?英梨々。まずだな、原作でも恵と英梨々は喧嘩している」
「えっと・・・確か、あたしが移籍して裏切ったからよね?」
「そうだ」
「それで?」
「そこで恵は英梨々との仲を修復させるために、『ガールズサイド』というものを書いてもらっている」
「ラノベのことよね」
「そうだ。アニメではカットされていた気がするがな」
「あれって確か・・・恵と温泉にいくんだっけ?」
「そんな感じの話だった気がする・・・が、まぁそういうことだ」
「何がそういうことなのよ?」
「いいか、冬コミは30日。今日が27日。まだ二日もある。二話分もあるんだぞ?」
「そうね。で?」
倫也は、英梨々の肩に手をポンッと置いて、大きくうなずいた。
「任せた」
「はぁ?あんたバカなの?ここであたしに全部なげるの?ヘタレなの?」
「いや、これがきっとメインヒロインの試練なんだよ」
英梨々が口をポカーンと開けていた。
彼氏がヘタレなのは重々承知だろうに。
(了)
「大丈夫。君ならきっとできるよ!」なんてセリフを言われたことありますか?