【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
28日。晴れ。
英梨々は恵と仲直りのミッションを達成すべく、恵の部屋へとやってきた。
丸い白テーブルをはさんで2人は向かい合わせに座っている。
フェミニンなクッションがいかにも恵のセンスで、英梨々には少しくすぐったい気がする。
「カボスはちみつティーなんだけど、どうかな?」
「カボス?」
「うん」
カボス。スダチの従姉妹みたいな緑色の柑橘類。
英梨々がガラスのカップに入ったカボスはちみつティーを一口飲む。香りもいいし、はちみつの甘さもちょうどいい。
「おいしいわね」
「そう。よかった」
「で、なんだってカボスなのよ」
「ほら、柚子が売ってなかったから、代用したんだよ」
「柚子?」
「うん。柚子。知らない?」
「いや、知ってるけど・・・」
いったい恵が何の話をしているのかよくわからない。
出されたお茶の話題を掘り下げ過ぎたか、こういう対人コミュニケーションの匙加減が英梨々はよくわからない。
恵もカップのお茶を一口飲む。刻んだカボスの皮をはちみつに漬けてみたが、思ったよりもずっとおいしくできた。
「まぁ、柑橘類ならなんでもいいだろうけど」
「そう?」
「で、英梨々。何の用だっけ?」
「えっと、恵と仲直りをしようと・・・」
「わたしと英梨々が喧嘩しているのかな?」
「そうじゃないけど、恵が昨日のことで帰っちゃったから・・・」
「そうだっけ?」
恵がペラペラと印刷されたレポート用紙を確認する。年末で忙しすぎて英梨々ルートどころの騒ぎではない。
「・・・」
「ああ、うん。そうだね。でも、もういいよ」
「いいの?」
「うん。英梨々が倫也くんと付き合うことになったんだよね?あの日の那須別荘で」
「そうなのよ」英梨々が顔を少し赤らめて、照れながら認める。
「じゃあ、それで英梨々ルート完成して、物語は終わりでいいんじゃないかな」
「そうだけど、そうじゃないのよ」
「?」
恵は内心のイライラを表に出さないように気を付けている。
「あたしはみんなで楽しく冬休みを過ごしたいと思っているんだけど」
「それで?」
「恵にも参加して欲しい」
「どんな立場で?」
「えっと・・・サークル仲間として」
「でも、冬コミでサークルはいったん解散するよね?」
「そうね。でも、また次のゲームを・・・」
「それは倫也くんや英梨々の自由だけど、わたしは受験に専念するよ」
「なんでよ」
「なんでって、受験生が受験に専念して何がおかしいの?」
「・・・」
英梨々がカップのお茶を口にする。下に溶けきらなかったはちみつが溜まっていて甘さが濃い。
あと、カボスとスダチの差がよくわからない。
「でも、冬休みに少しぐらい遊んだって平気でしょ」
「そりゃ学生には冬休みかもしれないけど、個人経営の小さな会社に年末年始の休みなんてないんだよ?いつも締め切りと資金繰りに追われてるし」
「あんた、高校生よね」
「そうだっけ?今何年生?」
「二年生」
「英梨々、何回二年生やれば気が済むの?」
「できれば、今回で最後にしたいわね」
「変な会話」
「そうね」
恵がスケジュールを確認している。
「それで、どうしたいの?」
「恵には冬コミの後の忘年会の参加と、あと年末年始に旅行にいきましょうよ」
「旅行?」
「うん。あたしの別荘なんだけど」
「那須だっけ?」
「うん」
「英梨々ルートで?」
「うん」
「どんな必要があるの?」
「必要とかそんな堅苦しいのじゃなくて、英梨々ルートに進んだあとも、恵とは友達でしょ?」
「さぁ?」
「だって、原作とは立場が逆になるわけでしょ?」
「ちょっとまって、英梨々。倫也くんと結婚するの?」
「英梨々ルートってそういうことよね?」
「違うんじゃない?」
「なんでよ」
「だって、倫也くんはわたしのだよ?」
恵が断言する。ぶれない。
「倫也くんはわたしと『子育て編』をするから」
「そう」
「・・・そう・・・って、英梨々はそれでいいの?」
「いいもなにも、別の物語よね?」
「そうだけど・・・」
「なら別にいいんじゃないの?その代わり、この『英梨々ルート』では、恵はもう少しちゃんとサブヒロインらしく振る舞いなさいよ」
「・・・」
恵がお茶を飲み干して、カップの底をみている。はちみつが残っているのが気になった。お湯を注いで溶かそうか迷う。
「それでいいや。ブレッシングソフトの忘年会と慰安旅行ってことでいいよね」
「参加するならいいんじゃない。それで成立するなら」
「・・・そう。英梨々の作りたい物語がよくわからないなぁ」
「あたしは別にみんなで楽しく過ごしたいだけよ」
「お正月はメインヒロインになるから」
「何よそれ。ほんと恵って頑固よね」
自分でも自覚している。
「じゃ、そろそろオチいくよ」
「オチがあるのね?」
「うん。整いました」
「どうぞ」
「サブヒロインにならないわたしとかけまして、冬至の日のお風呂にカボスを浮かべると解きます」
「冬至の日のお風呂にカボスを浮かべると解く、その心は?」
「どちらも譲らない(柚子じゃない)でしょう」
英梨々がじっとグラスの底のカボスの皮を見つめている。
「えっ・・・そのためのカボスティー?」
「・・・うん。カボスはちみつティーだよ」
「はちみつ関係ないわよね?」
「うん。でもね、おかげで大変なことがわかったんだよ」
「何かしら?」
「私たちってね、血液型がない!」
「へぇ・・・それがはちみつと何の関係があるのよ?」
「だって、そしたら、はちみつとかけて、英梨々の血液型と解くみたいにできるでしょ?」
「なんで?」
「どちらもB(Bee)でしょう。みたいな」
「・・・」
「せっかくの二段オチなのに」
「だったら、二年生の時の恵のクラスでもよかったんじゃないのかしら?」
「えっ?」
「あなた、B組よね?」
「・・・」
「・・・」
「英梨々、もう一回これ作り直そうか」
「もうええわ」
(了)
寒い季節になってきましたね