【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
29日。冬コミ前日。
倫也の部屋にダンボールが積み重なっている。
「けっこうな量だな・・・」倫也が不安になる。
「大丈夫よ、これぐらいは売れるはずだから」
「ガレージの人気サークルじゃないんだぞ?」
「あたしのサイトでも宣伝しているし、倫也のサイトでも期待されているし・・・」
「全部売れたら倫也もちょっとした小金持ちよね」
「3千円で500枚だと150万か・・・」
「高校生なら豪遊できるわよね」
「そうだな」
倫也と英梨々がダンボールを眺めながら会話している横で、恵はお茶をすすっている。
「150万じゃ契約社員1人の給料も払えない金額だし、会社経営だとその10倍は売っていかないと厳しいという現実がブレッシングソフトの未来には待っているんだよね・・・」
恵の発言が妙にリアルティーがある。
「それに特典つけないと、今時は円盤なんて売れないし・・・違法DLすぐされちゃうし」
「そういう重たい話はやめようね!?」倫也が止める。
恵がフラットな顔でお茶を一口飲み、さらに続ける。
「子供たちは大きくなって、教育費も大変だし、ゲームが売れなくても家賃も人件費もたえず出費するし、ヒットしたゲームの貯金が目減りするのを通帳に記入する気持ちが倫也くんにはわかる?」
「あの・・・」
「それなのに、『物語のためだから』とかいって、幼馴染と浮気するし」
そして深くため息をつく。
「あの・・・恵!?俺ら高校2年生だからね」
「あっ、うん。わたしの勝手な妄想だから気にしないで、どうぞ倫也くんはこのまま英梨々ルートに進んでね。わたしのことなんか気にせずに」
顔も声もフラットフラット。
「倫也、看板はこんなんで大丈夫よね?」
英梨々が強引に話題を変える。
「ああ、いいと思う。人は集まりそうだな」
「集まれば売り子も美人揃いだし、売れるわね」英梨々は自信がある。
「任せた」
倫也が心配なのはゲームが売れるかどうかではなかった。
問題は恵が打ち上げに参加するかどうかだ。
「打ち上げどーすんのー?この時期だと予約とらないとどこも入れないんじゃない?」
美智留がベッドの上でくつろいでいる。さすがにゲーム完成したのでギターは持っていない。
「焼肉屋を予約はとっているけど」倫也がちらりと恵の方を見るが、目線は合わない。
「それって高級焼肉店かしら?」倫也の机に座ってノートPCで仕事している詩羽が聞いてきた。
「ええ、まぁ・・・形成肉を扱っていないようなお店ですよ」
「そう、じゃ私も参加しようかしらね」
倫也はチラリと恵を見る。反応はない。
「えっ、150万も売り上げがあるの!?」とかなり遅れて美智留が驚く。予算の心配をしていたからだ。
「全部売れればだからね?在庫抱えるかもしれないし・・・諸経費もあるし・・・」
「でも、10分の1を売り上げても15万じゃん。遠慮なく焼肉食べられるよね」と美智留が能天気に言っている。
「それだと赤字だけどな」
倫也は恵を見る。
「恵は焼肉でいいかしら?」聞きにくいところを英梨々が切り込む。
「ああ、わたしはちょっと・・・最近、脂の焼ける匂いを嗅ぐと気持ち悪くて・・・」
「あらそう・・・大丈夫?だったら店を変えましょうか。和食なら平気かしら?」
「うん」
「じゃあ、お店変えるわね」
英梨々がスマホをいじりはじめる。
倫也は恵が参加することを承諾したのでほっと一息ついた。またごねるかと思って気が重たかった。
「あのさー倫也くん。わたしをそういうめんどくさい女扱いしないでくれるかなぁ?」
「心読まないでっ」
ちょっと笑顔が戻る。
「あら、どこも満席ね・・・こうなったらしょうがないわね」
「やっぱりどこもダメか」
「叔父の料亭があるから、そこを頼んでみるけど・・・ちょっと高いのよね」
「まぁ・・・金は任せろ」
「じゃ、電話するわ。VIPルームが抑えてあるはずだから」
「VIPルームってなに!?」
倫也の不安をよそに、英梨々が電話を始めた。
倫也はやりとりを不安そうにみている。
「よし、決まったわ。倫也、こみこみで15万でいいってさ。安く上がってよかったわ」
「ふぁ!?」
「何よ、それぐらい払いなさいよ。あたし達をただ働きさせて、利益も全部自分のものにするつもりかしら?」
「いや、そうじゃないけど、なんでそんなに高いの・・・」
「赤坂の料亭で単価3万なら、妥当だと思うけど。一応飲み放題つけてくれるって」
「ソフトドリンクだよね!?」
その時、倫也のケータイが鳴った。相手は出海だ。
「あの・・・倫也先輩」
「どうしたの出海ちゃん?」
「ずるいです」
「何が!?」
「なんでいつもわたしだけ仲間外れなんですか?」
「受験生だよねぇ?」
「だって、いつも英梨々ルート作成ってこの時期じゃないですか?わたしが何度受験生をやっているとおもっているんですか?」
「えっ、怒ってるの・・・?」
「別にぃ・・・ただ、食べ物の恨みは怖いですよ?」
「いや、でも・・・どんな理由で参加するの・・・」
「そんなの知りませんよー」
「ちょっと待ってってな。かけ直すから」
倫也が一度電話を切った。
「出海ちゃんが参加したいって・・・」
「はい?なんで断らないのよ。この時期は関係ないでしょ?」
「英梨々・・・やっぱり物語が迷走してきているんじゃ・・・」
「えっ、あたしのせいなの?」
英梨々が首をかしげる。
「詩羽。どういうこと?」
「そうね・・・澤村さんの望みがみんなで楽しく過ごしたいなら、波島さんをはずすべきじゃないのかもしれないわね」
「そういうこと・・・」
「むしろ、なんでみんなと楽しく過ごしたいのか、私は理解しかねるわけだけど」
「別にいいじゃない?倫也、波島出海の分も予約とるわよ?」
「おうぅ・・・って、3万なんじゃ・・・」
「DVD60枚分でしょ」
「そう考えると安いなっ@@」
倫也がちらりと恵の方をみる。
恵は通帳をじっと眺めて、「倫也くん。中学受験のための塾代って年間130万らしいよ?」
「へぇ・・・それ、関係ないよね!?」
「えっ、そんなにかかるの?」ベッドの上の美智留が話にのってきた。
「いや、お前、その話広げるの?」
「だって、公立だったらそんなにお金かからないじゃん」
「なんかね、中高一貫校がいいらしいんだって、大学の付属とかなら受験も回避できるし、長い目でみると安いみたいな話だけど」
「ほんとに?」
「ちょっと、お前ら何の話してんだよ・・・」
倫也がため息をつく。
「倫也―。予約増やしたわよ」
「ああ、ご苦労」
「6名20万でいいって」
「なんか計算合わないよね!?」
「だって、偶数なら向かい合って鍋用意できるっていうから」
「鍋?」
「しゃぶしゃぶコースに変えたんだけど・・・」
「それはともかく、さっき恵が肉は食べられないみたいなこといってなかった?」
「ああ、お構いなく、脂の焼ける匂いが気持ち悪いだけど、しゃぶしゃぶなら平気じゃないかな」
「肉は食べられるんだ?」
「ううん。野菜食べるよ」
「しゃぶしゃぶコースで野菜だけ食べるの!?」
「しょうがないよ。倫也くんが英梨々ルートに予算をふりわけるから、そういうことになるんだよ」
「いや、意味がわからないからね?」
「トモ。心配しなくって、二人前ぐらいあたしが食べられるから平気だよー」
「いや、そこは心配してないからね?」
詩羽がノートPCを閉じる。
「よかったじゃない倫理君。加藤さんが打ち上げに参加してくれて」
「そうですね」
「それにあなた・・・加藤さんといる時は、いつもの倫理君に戻るのね」
「・・・」
「私としては、ちゃんと澤村さんを幸せにしてあげて欲しいのだけど」
「心配ないわよ詩羽。あたし、ちゃんと幸せだもの。ね?倫也」
英梨々が腕にまとわりついて、笑っている。
恵はその様子を見て、やっぱり面白くないなと思った。
そして、オチを作る気がない英梨々と倫也にだんだん腹が立ってきた。
「英梨々の倫也くんとかけまして、わたしと倫也くんと解きます」
「その心は?」と詩羽が反応する。
「どちらも、離したくない(話したくない)でしょう」
「さすが加藤さんよね」
(了)
副社長としての自覚が責任感を産むんだろうか。