【短編集型】英梨々がイチャイチャ過ごしたい冬休み 作:きりぼー
31日。大晦日。今年も終わる。
昼間の空いている高速道路をアイシーテイルでキャラデコされたピンクのワンボックスが走っている。
「で、なんで伊織が運転しているんだ・・・」
倫也が不安そうに尋ねる。今更細かいことにつっこみたくはないが・・・
「那須別荘の利便性の悪さよね、何をするんでも車がないと始まらないわよ?」
「そういう問題か?」
「昨日、お酒を飲んでおいて倫也は何を言ってるのかしら?」
「まて、英梨々・・・お前の作りたい物語ってこういうのなのか?」
「そうね。リアリティーが大事なのよ。7人で行くなら交通費の面から考えても車がベターだわ。幸い社用車があったわけだし」
「高2だよな?」
「高2よ?」
「それ、リアリティーないよね?」つっこみにも力が入らない。
「倫理君って、頭固いんじゃないかしら?リテラシーの問題を無視すれば、別に年齢に関係なく、運転もできるし、お酒だって飲めるのよ」
詩羽は2列目の左、助手席の後ろに座っている。
「違法だろ・・・」
「バカねぇ。倫也、捕まるような面倒くさいイベント起こさなければ、なんの問題もないじゃない」
英梨々は二列目の真ん中。右には恵が座っていて、シートベルトを緩くしめて眠っている。
「そうそう、トモはいろんなことに捕らわれすぎなのよ。心無罫礙 無罫礙故っていうでしょ」
「なんだそれ・・・」
「あら、およそ氷堂さんらしからぬ難しい言葉を使うわね」
「いやぁー、禅を真面目に勉強したら般若心経にはまっちゃって」
倫也はつっこむ気もしない。どこにそんな地下アイドルがいるんだ・・・いや、むしろ探せばいそうだな。
「そんなことより倫也先輩!むしろ後部座席にわたしと2人でいることに驚いてください。これはもう、出海ルートなのでは?」
「出海ちゃん、手にもってるもの言ってみて?」
「ダンボールです・・・しかもけっこう重い」
「俺のは?」
「クーラーボックスです」
「足元は買い物したものがスーパーの袋にはいってところ狭しと置いてあるよね」
「そうですね・・・」
「まぁ、そういうことだ」
「わかってますけど、そこはあえてポジティブにですね」
「ただ、ヒエラルキーが下なだけだと思うが」
倫也がため息をつく、後部座席に荷物の山と一緒に倫也と出海が座っていた。
「しょうがないでしょ。7人分の食糧を何日分だと思っているのよ」
「現地で買えよ・・・」
「年末に普通のスーパーなんてやってないわよ」
「妙なところリアルだな」
「だから、そういうディテールが小説に厚みと信憑性をもたせるんじゃない」
「なら、伊織に運転させるなよ・・・」
「細かいわね。文句があるなら降りなさいよ。伊織、止めなさい」
「澤村ちゃん、運転中話しかけないであげて、けっこう緊張してガチガチだから」
「あら・・・そう?」
伊織はハンドルを両手でもって、しっかり運転していた。
美智留がポッキーをもって、伊織にときどき食べさせていた。
「次のインターでチェーンを着けるから、みんなはトイレをしっかりすませておいて」
目的地は雪が降っている。主要道路は車が通り除雪させているとはいえ、念のため必要だ。
「ほんと、細かいな」
「いやいやトモ。安全第一でしょー」
「そうだな・・・まかせるよ」
手にもっている荷物が重い。
※※※
インターのガススタで伊織がスタッフに聞きながらチェーンを着けている。
倫也たちはトイレを済ませ、立ちながら缶コーヒーなど温かい飲物を飲んでいた。
「恵のこと、起こしたほうがいいんじゃないかしら?」
「寝てるし、いいんじゃないか?」
「雪道だと止まる時は止まるし、トイレは済ませたほうがいいわよ。一応、携帯トイレもはいっているけれど、この人数と密度でそれは・・・」
「どんなイベントだよ。わかったよ、起こしてくる」
倫也が車に戻って恵を起こしに向かう。
「恵。おい、恵」
「んにゃ・・・」
けっこう深く眠ったようで、半目を開けて倫也の方みる。
「あっ、倫也くん。着いた?」
「いや、まだ途中だよ。今チャーンを付けているんだけどな。これから雪道になるからトイレは済ませた方がいいって英梨々が」
「そう」
倫也がシートベルトのスイッチを押す。恵はシートベルトと体の間に手をいれて緩めていた。
カチャンと音がして外れる。
「これ、コート。外は寒いからな」
「うん」
そういって、倫也が先にでる。
「伊織、大丈夫そうか?」
「まぁ平気さ」
「すまんな、疲れたら言ってくれ、運転変わるから」
「はははっ、高2なんだろ?」
「お前がいうな」
倫也が苦笑いをする。
昔ほどではないが、まだまだ英梨々の物語は歪な気がする。
ガチャッとドアが開いた、恵はベージュのロングコートを着ている。
「うわっ、ほんとに寒いねぇ」吐いた息が白くなって、すぐに消える。
倫也は手をそっと差し出して、恵はそれに軽く手を添えてから、トンッと車から降りた。
「トイレはあっち」倫也が指を示す。
ガススタとインターは少し離れている。
「うん」
「あっちだと自販機や売店もあるから、何か飲むといいよ」
「うん」
そういって、恵は遠くを見つめる。自販機の前に英梨々たち四人が立ちながら話をしているのが見えた。
それを確認してから恵は手をぎゅっと強く握った。倫也が動揺する。
「俺はもう済ませたから」
「ちゃんと手・・・洗った?」
「洗ったよ!って、なんだそれ」
「だってぇ・・・」吐息が風でくるっと回ってから消える。
恵が手を離した。
「んっ~~」と、両手を上にあげて背伸びをする。それから、「サブヒロイン、サブヒロイン」と呟きながら、みんなのいる方へと向かっていった。
倫也はその後ろ姿を見送る。
「倫也君も大変だね」
伊織はチェーンを1つずつタイヤの前に並べている。
「お前もな」
「僕はただの肉体労働の脇役さ」
「そうでもねぇだろ・・・お前、美智留と仲良さそうだし」
「いやだなぁ、ただの脇役さ。変な勘ぐりはよしてくれないかな」
「まぁいいや。そん時は頼むよ」
「はははっ」
倫也がポケットの中の缶コーヒーを取り出して、開けて飲む。
恵がみんなと合流して、談笑しているのが見えた。
※※※
「伊織、そろそろ速度緩めて、右折するわよ。信号機がないから気をつけて」
後ろの座席から身を乗り出して英梨々が指示をしている。
「そこ」
「OK」
伊織が一度止まって、前後を確認しながらゆっくりと右折する。
スキーシーズンで少し道路は混んでいた。
「ここから道が少し悪くなるから気を付けて」
車がガタガタと揺れる。
「けっこう急な登り坂だし、チェーンついてても油断しないで」
英梨々が細かく指示を出す。
「あの白い建物よ」
『シャトーリリィ』と名付けられた二階建ての建物。
周囲の別荘地の建物に比べても異彩を放つ。イメージはノイシュバンシュタイン城らしい。
大きくはないが、レンガ作りの庭園も含めて贅を尽くしているがわかる。
「側道に大きな溝があるから、道路の真ん中に止めていいわ。どうせ人なんてこないから」
伊織が車を止める。
「お疲れ」と英梨々が一言。
「伊織ありがとうな」
みんながお礼を言う。伊織は大きく息を吐いた。無事についてよかった。
「さぁ、みんなで荷物をリレーするわよ」
ぞろぞろと降りていく。
英梨々が階段を少し上がって、解錠してからドアを大きく開いたままにした。
後ろから美智留が荷物を抱えて登ってくる。
「そのまま二階まであげてくれるかしら?」
「はいよー」
続く出海がもっている荷物を英梨々があずかり、玄関に置く。
出海はまた車に戻っていく。
「英梨々、人数いるから往復しなくても大丈夫そうだぞー」
「そう?わかったわ。じゃあ先に上がってるから、二階までお願い」
「OK」
英梨々は中にはいって、オイルヒーターと床暖房のスイッチをいれた。
それから、あちこちの水道の蛇口をひねり、水がでるか確認する。凍ってはいなかった。
お風呂のお湯もいれる。
二階に出海が上がってきた。
「うわー。中もしゃれてますねー」と出海が感心してキョロキョロしていた。
吹き抜けの天井にはシーリングファンがついていて、ゆっくり回っている。
「少し狭いけど」
「普通の家よりも広いじゃないですか・・・」
「そう?そうね。倫也の家ぐらいはあるわよね」
二階にはリビング、キッチン、バスルームと生活空間が広がっている。
そこにロフトがついている。
一階は寝室が二部屋ある。
みんながぞろぞろと荷物を抱えてあがってくる。
英梨々がテキパキと指示をする。
「キッチンはわたしが片付けるよ」と恵がキッチンで手を洗ってから冷蔵庫を開ける。
「そう?じゃあ、お願いするわね。そうだ、お湯も沸かさないと」
「わたしやるから、英梨々は他お願い」
「うん」
「俺らは?」
「倫也たちは適当に座ってなさいよ。今、お茶入れるから」
「悪いな」
「澤村先輩。こたつ着けていいですか?」
「勝手にどうぞー」
そういいながら、英梨々は袋から荷物を出して恵に渡していく。
恵はそれを冷蔵庫にしまっている。
倫也たちも洗面所で手を洗ってから座る。
6人用の長いこたつがある。
それとキッチンの隣に、6人掛けのダイニングテーブルもある。
出海がTVのスイッチもつけるが、つかなかった。
「ああ、出海ちゃん。コンセントかアンテナとか抜けているから」
そういって、倫也は立ち上がってコンセントをいれ、配線する。
「そうなんですねー」
「山間で雷も落ちるからな」
「へぇー」それから出海がチャンネルを確認する。
伊織は疲れた様子でこたつに入っている。
「伊織はこたつが似合わないな」
「そうかい?」本人は気にしていない。
たぶん、襟がついてアイロンのばっちりきまったシャツがこたつとミスマッチなのだろう。
「あと倫理君。ここってネット可能なのかしら?WIFIの設定をお願いしたいのだけど」
詩羽がノートPCをすでに広げている。
「ええできますよ」
倫也がPCの設定を進める。
「ということは倫也先輩、ネットTVもつなげれば見れるのでは?」
「そうだな。出海ちゃんTVっ子なの?」
「だって、ローカル放送しかここ映りませんよ」
「波島ちゃんは勉強した方がいいと思うぞー」
美智留がお茶を運んできた。
恵と英梨々が片付けしているので、お茶ぐらいは自分でいれたのだ。
「サンキュー」
倫也がお茶を一口飲むと、やっと一息付けた。
「もう受験生はいいですよー」と出海が非難めいていう。
「さてっと・・・」
恵と英梨々がテーブルの方に座ってお茶を飲んでいる。
「詰めれば、7人ぐらいこたつに入れそうだけど」
「いいわよ。別に。これからの段取りを言うわよ」
「おう」
英梨々が紙を取り出して読み上げる。
「えっと、女子チームはこれからお節料理をつくって盛り付けね。夜ご飯も並行して作るけど、夜はソバだからそんなにすることはないようね。詳細は恵にしたがってくれればいいから。男子は寝室の掃除とベッドメイキングをお願い。終わったら先にお風呂を済ませて置いて。お湯が沸くのに少し時間かかるから先に済ませておいて欲しいのよ」
「OK」
「あと、部屋割りもお願いね、倫也」
「・・・おう」
「部屋割り?」と伊織が首をかしげる。
「じゃあ、お茶飲み終わったら始めるわよ」
時刻は4時になって外が紅く染まり始めていた。
※※※
「部屋割りはだな・・・下の寝室が二部屋あるんだが、1つはダブルベッドなんだ」
「ご両親用?」
「そうだな。まぁシーツとか替えてあるからそこは平気なんだが」
「それで?」
「もう一つが布団だな。3組まで用意してある」
「それで5人か」
「そうなんだ。こんなに大勢くることを想定していないからな」
「で、僕らはどうするんだい?車中泊かい?」
「その手もあったか・・・いや、この上のロフトにマットレスがあって、寝袋で眠れる」
「なんでそんなもんが」
「ロフトで寝袋とか憧れるだろ?」
「なるほど」
「あと1人は、このこたつだ。6人用の長いのだから、意外と快適に眠れる」
「なら、僕と倫也君でロフトかこたつを決めればいいわけだね?」
「まぁ・・・そうなんだがな」
倫也が考え込む。伊織も考え込む。言わんとすることがわかってきた。
「なんでこんな部屋割りなんだい?三室用意したらよかったんじゃないかい?澤村さんの別荘なんだから自由に作ればよかったのに」
「まぁそうなんだがな・・・実物を元に作ってるからな・・・」
シャトーリリィは実在する。
「そういうことか・・・」
「でな。どうすればいいと思う?」
「これ、相当シミュレートしたんだね?」
「まぁ・・・そうだな」
「で、何が問題になったんだい?」
「美智留」倫也が一言でばっさり。
ずっと余裕をもっていた伊織の目が泳ぐ。
「そうか、そういうことか・・・」
「で、出海ちゃんがこたつで寝る流れになるんだがな・・・」
「それはそれで問題だね」
「で、いっそお前らが最初からダブルベッドでな」
「はははっ、冗談はよしてくれないか」
「割と本気なんだ」
「で、誰がこたつで寝るんだい?」
「それなんだよ・・・問題は」
倫也がキッチンでわいわいやっている女子チームを見る。
二階にこたつ。梯子登ってロフトに倫也。他は一階だ。
こたつは当然、英梨々になる。
なら、最初からダブルベッドで。そんな恐ろしい・・・
「はっはっはっ、手詰まりじゃないか。車で寝たら?」
「他人事でもねぇだろ・・・」
「ん~。なら、しょうがない。加藤さんに丸投げしよう」
「はい!?」
※※※
恵はみんなに指示をしながらお節料理のお重を完成させた。
恵は天ぷらを揚げて夕食はみんなで天そばだ。
夜はテーブルでトランプをしながら、順番に風呂に入っていく。
みんながお風呂にはいって、寝る支度も終わったら、
「今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします」
と、みんなそろって読者に言う。これで完成だ。
さすが恵。うまくまとめた。
※※※
「あのさー、倫也くん」
「はいぃ・・・」倫也がなぜか正座している。
「夜のことなんか妄想しているから、余計なことになるんじゃないかなっ?」
恵が笑顔で今年を締めくくる。
目が笑ってない。
(了)
お泊り編なのに、夜がないなんて・・・