コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
日本古来の神々(悪魔)の封印を解く
それは日本にいる【メシア教】の脅威を感じる人にとって
そして霊地活性化に怯える人にとって
大きな意味を持つ
封印された霊地を解放し、異界の管理を封印されていた神々(悪魔)に任せれば
霊地がある程度は静まるはずだ
そして管理異界として有効活用やいざという時の戦力にもなるかもしれない
しかしそれは同時に封印を施した者、【メシア教】にとっては違う意味を持つはず
それをする
「メシア教日本支部との交渉は済んでいます
ですので【封印異界】において【メシア教】との戦闘は発生しません」
事務の人の言葉だ
間違いなく朗報だ
全くもって【メシア教日本支部】の意図が読めないが
【メシア教日本支部】は【ガイア連合】と【メシア教】とを天秤に掛けて
【ガイア連合】を選んだとでも言うのだろうか?
同じ信仰を持つ者たちよりも?
信じるには都合が良すぎる
しかしそれはそれとして、本当であれば確かに封印を解く絶好の機会だ
事務の人に受ける事を伝え家に帰る
【【国有霊地】の攻略支援】の仕事はその後二回受け
同時並行で数々の異界が攻略され
【ガイア連合】の【地固め】は最終段階まで来た
大型異界【天樹山】の攻略である
これが終われば日本の神々(悪魔)が封印された異界はなくなる
俺は今、天樹山の山腹
異界攻略の為に作られた、麓から数えて三つ目の物資集積所で回復支援をしている
この異界は広大なものだ
山一つ異界化するというのはままある事だが
その山が大きく、奥行きがあり、そして空間が捻じ曲がっている
先遣隊や攻略部隊の情報を元にした地図を見せてもらったが記号が沢山ついた変な地図になる
「ここからここは地図上では数十メートルの洞窟だが、中では云キロの距離があって~」
なんて事も当たり前のようにあるらしく、それを記すための記号だ
空間が捻じ曲がった所は別の地図を必要とするらしい
この物資集積所はその広大な異界の奥に進む攻略部隊、彼らに物資を届けるための経路である
彼らの道中にこのような物資集積所が点々といくつもあり、その点と点を結ぶ線で物資が運ばれる
物資の多くはまず弾薬類、ついで各種霊薬、そして消耗品である霊的アイテム(食料がここに含まれる)だ
もっとも攻略部隊に運ばれる物資は全体の量からするとそれほど多くないらしい
ほとんどの物資は物資集積所を守るための防衛戦で消費される、道中での喪失も無視できない
その莫大な物資の消費も補給計画を立案、実質的に指揮をしている【五島歩兵師団】の方々によると
「最先端部分(攻略部隊)が不足をしていない分を供給できている」という点で満点なんだそうだ
なおこの攻略部隊は【ガイア連合】の幹部だけ、という訳ではない
【五島歩兵師団】の精鋭たちも多数加わっている大所帯である、個の力と数の力が合わさった部隊だ
しかし物資集積所で運ばれてくる山のような物資、奥へと運ばれる山のような物資を見ると
本当にこれで良いのか不安になる
俺の知っている異界攻略とは規模もやり方も違うからだ、これまでの【封印異界攻略】と比べてもだ
もっともその、「規模もやり方も違う」事を【五島歩兵師団】の協力で出来るようになった
だからこその【封印異界攻略】という面があるそうだ
聞いた話によると【ガイア連合】の方ではこれまで何度か【封印異界】の攻略を検討されたが
異界の規模が広すぎる事から戦闘能力はともかく、体力が持たないと判断されていたそうだ
その体力、継戦能力を専門家が計画した補給計画で賄う、という事らしい
この【封印異界攻略】は、政治的には【メシア教日本支部】と自衛隊が、
サポート面では【五島歩兵師団】が、そして直接的な個の力では【ガイア連合】が
それぞれ作用する事によってようやく成立した、そういう【異界攻略】だ
俺はその物資集積所で回復役をしている
「来たぞー!」
物資集積所に声が広がる
【五島歩兵師団】の人たちは【デモニカ】の通信機越しに会話をするから
こういう声を上げるのは【俺たち】の誰かだ
それまで作業していた人たちが手を止め武器を手にし、あるいは物資を奥の方に引っ込める
敵襲だ
今回の戦闘はあっさり終わった
襲撃してきた悪魔は【ユキジョロウ】数匹、半包囲の形にしてから火炎魔法と【火炎弾】で焼き払ったらしい
俺のいる物資集積所の辺りでは【ユキジョロウ】と【チュパカブラ】が出る
【ユキジョロウ】、雪女そのものである
女神転生においては20半ば~30くらいのレベルである
火炎弱点で氷結が吸収、もしくは耐性を持つことが多い
この異界で出る【ユキジョロウ】もその例に漏れず、レベル26である
レベル26、今までの異界では異界ボスですら中々見ない
これが雑魚敵として湧いて出てくるのだ
更にここの【ユキジョロウ】はブフ系だけではない【マハムド】すら使ってくる
これが厄介だ
そして戦闘が終われば
「お願いします!」
俺の仕事がやってくる
目の前にある死んだ【デモニカ】たち
それに蘇生魔法を掛ける
「【リカーム】【リカーム】【リカーム】!」
とりあえず今回のは終わった
「ふぅ」
「お疲れ様です」
<ライコー>に労われる
しかし思っていた仕事と違ったなぁ
てっきり俺はここで人を蘇生しまくるのが仕事だと思っていた
思っていたけど
「よっしゃ、稼働!」
「止まってると寒くてしょうがねぇからなぁ」
ほぼ死んだ【デモニカ】の蘇生なんだよなぁ
【デモニカ】
これは別に科学技術だけの産物と言う訳ではない
中に簡易式神が入りアナライズをしたり、レベルアップで耐性を付けたりする
簡易式神が入ったパーツが所謂【デモニカ】のコアパーツだ
【デモニカ】を着た人が呪殺系の攻撃を受けると
中の人が食らって死ぬ前に、【デモニカ】を構成しているこの簡易式神が先に食らって死ぬのだ
実質一回までなら呪殺を食らっても大丈夫、そういう使い方が出来る
そして死んだ【デモニカ】は【リカーム】で蘇るから安心して死ねる、そういう事である
もちろん通常の回復の需要もある、あるが
そちらは普通にディアを使える人(回復支援の仕事をしている人)が幾人もいるおかげで
【リカーム】持ちの魔力を節約しよう、という事になり
かくして俺はリカーム係となった
この物資集積所に物資を搬入している車両? らしきものを見る
【俺たち】の誰かが悪ノリして作った割に【五島歩兵師団】からの評判が良くて
「え~」という反応を掲示板でされていた新型装甲車だ
車両? 扱いなのはこの新型装甲車、車輪やキャタピラでなく脚で歩くのである
多脚戦車、という奴だ
モチーフにしたのは女神転生に出てくるマシン【T95D】らしい
真女神転生では【ゴトウ】が秘密裏に開発したことになっている自立戦闘兵器だ
この世界では【ガイア連合】が作って彼らに供与した
これもコアパーツに簡易式神が使われている
これが流通の肝となる
その緑色の蜘蛛っぽい新型装甲車たちがわさわさと動き物資を置き、あるいは物資を積み込み去っていく
その新型装甲車の部隊の護衛を務めるのは【五島歩兵師団】、ではない【俺たち】だ
シキガミを連れている事と服装が統一されていない事で丸わかりである
物資輸送中は隊列が延びる事から戦力の集中が出来ず
【五島歩兵師団】では輸送中の護衛は不向き、故に個人として強い【俺たち】が抜擢された
【ユキジョロウ】が出るような山の中、私服姿で蜘蛛っぽい新型装甲車にタンクデサントしている光景は
異様なものを感じさせる
まあこの新型装甲車の周りを【デモニカ】を着た人たちがうろちょろしてても異様な光景に見えるから
新型装甲車自体の見た目がアレなのかもしれない
物資集積地の点と点は、彼らが物資を運んで来ることで事で線となる
仕事場である大型の天幕、の横にある俺用の天幕で昼食のガイアカレーを食べる
ここで仕事をするようになってほぼ毎日ガイアカレーだ
美味しいし飽きないんだが三食カレーでも飽きない事に違和感を覚える
何か霊的に美味しいと感じさせられてるような?
本来はこのように個人で食事をとるというのは自衛隊のやり方ではないらしい
だがこの物資集積所内の【俺たち】の纏め役が
「飯くらい一人で食わせてくれ」とごねた為に成立したらしい
ありがたい
各物資集積所にはこんな感じで【俺たち】側の意見を向こうに伝える人たちがいるという
今回の作戦を含む【封印異界攻略】はあくまで【ガイア連合】と【五島歩兵師団】
もっと言えば自衛隊との協力で行っている物であり
主導権や指揮権を完全に【五島歩兵師団】に譲ったわけではない、そういう形にする為なんだそうだ
【ガイア連合】を自衛隊の指揮下に置く為の実績作りにされないように、という事らしい
【俺たち】が我が儘言う為の屁理屈に聞こえるが、まあいいや
こんな日々が一週間続いた後、攻略部隊が見事封印を解除した、という連絡が来たらしい
その後、様々な準備を行ってから撤退した
そして、今
【ガイア連合山梨第二支部】にて宴会をしている
ここは富士山の麓にあったコテージ、それが人が住めるようになり様々な工場や設備が建てられ
都市計画も節操もあったもんじゃない変な集落、その中にある宴会場だ
一般的に「お神酒上がらぬ神はなし」という
この言葉は正しいのだろう
右を見ても左を見ても美味しそうに酒を飲んでる神(悪魔)の姿がある
そしてそれと同じくらいに【俺たち】や【五島歩兵師団】の姿があり
笑い声が上がり雄たけびが上がり、苦労話や愚痴等で盛り上がっている
神々(悪魔)もそれを煽りたててる
最大の肴は【封印異界】の話だ
こればっかりはいかな山海の珍味でも勝てないらしい
これだけでいくらでも酒が飲める様子だ
俺たちのような後方支援の人間もお呼ばれして舌鼓を打っている
この場にいるのは異界【天樹山】に関係する神々(悪魔)だけではない
これまでに交渉に成功した神々(悪魔)との交流を兼ねてのものである
異界の主であり、全てが霊地の鎮静化を助けてくれるありがたい方々で
しかも多くの方々はそれに加えていざという時の【人々の守護】まで頷いてくれた
なんと頼りになる神々(悪魔)だろうか!
ご利益をくれる神が良い神である、ありがたや
そしてこの光景は【ガイア連合】にとって、一つの成果だと思っていいだろう
強力な霊能者である【俺たち】を鍛え上げたから
頼りになる協力者である【五島歩兵師団】との協調を選んだから
神々(悪魔)との協力を選んだから
そしてこれが出来る道筋を作ったから、それがこの光景に繋がる
自分は今回の異界攻略で大した事はしていない
どこにでもいる後方支援の一人だった
語り、喝采を受けるような武勲話も苦労話もない、いつもの異界攻略より楽だったくらいだ
だけどこの光景だけで酒が美味しく飲める気がした
【ガイア連合】がきたる【終末】を生き残るための大きな歩み、それが具現化した光景に見えた
きっとこの光景を忘れる事はないだろう
そして満足げに周りを見ていたら、ふと気づいた
自分はかつてこれと似たような物を見た覚えがある
【富士山覚醒体験オフ会】だ
寂しさと仲間を見つけた喜びで飛びついたオフ会だった
その時、覚醒修行を受ける前に飲み会があった、それを思い出した
あの時の自分と比べて何が変わっただろうか
あの時の自分は転生者である特別感と孤独感でいっぱいだった
そして周囲を嫌い、自分の居場所がない気がした
そのくせ何もその手にしている物がなかった
【俺たち】の一部にいる、覚醒もなしに霊感を持っていたり、転生前の知識で何事かを成した訳でもなかった
何者でもなく何にもない男だった
今は違う、そう思える
俺を愛してくれる<ライコー>がいる、悪魔になっても一緒に居てくれる<シロ>がいる
アガシオンの<シオン>も何となく最近は懐いてくれてるような気がする
稼ぎがあり、それで得た家がある
何者でもない俺だったが一人前になれた気がした
そう思ったら【ガイア連合】に入ってからジワジワと感じていた焦りのようなものが溶けて行った気がした
何者でもない自分が受けた恩を返したくて、そのために一番良いのは力だと思っていた
でも俺には力はなかった、多分今後レベルを上げても大した存在にはなれないだろう
それでもいい気がした、やれることをやればいいんだ
「<ライコー>」
こちらを見る<ライコー>に声を掛ける
「今後ともよろしく」
微笑んだ気がした
第一部完