コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
加護を貰ってからおおよそ平穏な日常を過ごしている
異界探索でのレベル上げやマッカ稼ぎもまず順調
事故や不幸とは無縁に積み上げている日々だ
まあ加護を貰って強くなった上で、それほど無理しない所を選んで探索していたのだから
それも当然と言えば当然である
<ライコー>が貰った加護は【源頼光の加護】という
物凄く直接的で文面では全く中身が分からないものだった
しょうがないから祠に聞きに行った所
自分の神としてのご利益が【勝運厄除】なのだが
【勝運厄除】は近年では金運や商売繁盛の色が強いが、
俺はあまりそれを必要そうにしていないという事
他にも考えたがより必要としているのが【力】のように見える為
【源頼光の加護】を与えたとのこと
この権能はスキルで言えば【貫通】と【戦神の加護】を合わさった物であるらしい
ただし【貫通】は「妖怪退治で有名な源頼光」としての側面から出したものであるため
【貫通(悪魔限定)】で人には効かないらしい
その代わり【貫通】としてはレベルが高い物であると言われた
【戦神の加護】はその言葉通りの物
デビルサバイバー2であったクリティカル率が上がるスキルである
正直、この世界にクリティカルなんてあるのか? と首を捻るが
まあとりあえず【貫通】だけでも儲けた、ありがたやありがたや
と言う訳で良い物を貰ったお礼に【ガイア連合】製のお酒を一本捧げた
しかし、異界【天樹山】攻略前は欲しくて欲しくてしょうがなかった【貫通】が
微妙に上昇志向が薄れてからこんな形で手に入るなんてなぁ
これが物欲センサーという奴か
出なかった【貫通】の為に回したガチャで消えたマッカに少し思いを馳せた
【源頼光】様より「金運や商売繁盛はあまり必要そうにしていない」と言われてしまった俺だが
金運や商売繁盛とは全く縁がない訳ではなかったようである
「ただいま」
家の敷地に入って目の前に広がる「敷地内に収まるはずがない広さの畑」が
近頃の俺のマッカ収入の柱の一つになっている
【クシナダヒメ】様より貰った【五穀豊穣の加護】だがこれには全く期待をしていなかった
だが期待をしていなかったとは言え貰った物は貰った物
とりあえず仕様を聞いて、どの程度使える物なのかの検証くらいはしておきたい
という事で根掘り葉掘り聞き出した所
どうも自分の想像とは違った物だった
まず、「五穀豊穣」と言うが五穀に限らないという
【クシナダヒメ】様は米だけの神様ではなく農耕神でもあらせられるので
米に特に効くが他の作物にも効くとか
まあ神様から何かの縁で「五穀豊穣の加護」貰ったのに
「お前、野菜農家だから対象外な!」とか言われたら
一揆起こして神社焼き討ちする気になるしなぁ、納得である
使い方は簡単、種や苗を見て植える予定地を見るか
既に蒔いたり植えてある土地を見れば「どの程度MAGを注ぎ込めば豊穣になるかわかる」という物
その感覚に従ってMAGを注ぎ込めば良いらしい
この時点で自分は「じゃあ柿の木でも植えるか、甘柿が良いな」とか考えていた
そしてどうも【クシナダヒメ】様としては「日本人の農作物=米」のイメージがあるのか
しきりに米を勧めるご様子
終いには頑張れば【ヒノエ米】も将来的には作れるかも、と言ってきた
いやいやいや無理ですから、皆大好き【ヒノエ米】はあれ、
当たり前のように消費されて美味しく食べられてますけど霊的な素材ですから
【ヒノエ島の豊穣神】様が異界を一つ握って作るから安定供給されているような品物
それがそう易々と人の手で出来る物ではないのである
だが俺の言葉に納得が行かないようで
「私の加護と十分なMAGがあれば霊的な物でも作物なら生る」と譲らない
農耕神としての意地であろう
しかしここまで言われるとこちらも気になるもの
よろしい、そこまで言うのであれば試してみましょう
と言う事で庭に植えてみたのが【カエレルダイコンの苗】だった
【カエレルダイコンの苗】、ペルソナ4 ザ・ゴールデン(P4Gと略される)で登場するアイテムである
P4G作中では【家庭菜園】で育てることが出来て【カエレルダイコン】を収穫できた
この【カエレルダイコン】はダンジョン内で使用するとダンジョンから脱出できる
魔法スキル【トラエスト】とほぼ同じ効果である
これらの苗類は【マヨナカテレビ】探索中に見つかっていたのだ
P4Gではジュネスにいる農作業姿の主婦から購入する物なのだが
この世界にはそんな怪しげな物を売る主婦はいなかった
その代わりダンジョン内で見つけたらしい
そして【ガイア連合】技術部の研究室レベルでは栽培に成功、していたが
コストが見合わなかったらしく、利用しての生産を諦めていた
これをわざわざ仕入れて植えてみる事にしたのだ、安かったから
微妙に行けそうだから植えた、MAGを注いだ、生った
疑ってごめんなさいした
お酒も供えた
出来た【カエレルダイコン】がアイテムとして使用出来る事を確認した
という事でもう一度作り、夏休みの自由研究並の資料と
使用している所と育てた様子を収めた映像資料を付けて事務の人に提出、
「副業で良い感じに儲かる作物って何かありませんか」とちょっと雑な相談をしたら
やけに良い笑顔で「少し検討してみます」と答えられまた後日にという事に
そして何日か後に突然技術部の研究対象になってモルモットの気分を味わった結果分かった事
1、普通の作物に普通に使う分には普通の作物が出来る
2、MAGを多く注ぐと早く育つ
3、霊的な作物を植えれば霊的な作物が出来る
4、俺のMAGが十分行き渡った土地じゃないと霊的な作物は無理
5、霊的な作物を育てる場合は高めのMAGの濃度が必要
普通の作物の実験では主に豆類を使ってもやしを作った
MAGを多めに注ぐとその分ぐんぐん伸びる芽はちょっと面白かった
また同じように外の畑で【カエレルダイコンの苗】を植えてMAGを注いでみたのだが
こちらは一向に「これなら育つ」という手応えを感じなかった
その後普通に育ちはしたがアイテムとしては使用できなかったらしい
家の庭で上手く行ったのは「家とその敷地」と言う区分けが外に俺のMAGが流れるのを防ぎ
その結果濃度が足りて加護になったらしい
という事で現状、霊的な作物は家の庭くらいでしか育てられない判定を受けた
俺のMAGが行き渡った土地や、俺が好きに区切って良い土地なんてそれくらいしかないしな
家庭で消費する野菜と消費アイテムのいくつかが生産できるようになった、位の認識をする
生産量的にはこんなもんだろ、良い加護貰った
そしてまた後日、事務の人に事業の提案をされてしまったのである
家を疑似的な異界化して俺を異界の主にして空間を捻じ曲げ
庭の規模をちょっと拡張(畑二反分+α)
農業用水用の井戸を掘り、
労働力として汎用スキル【農業】持ちのレンタル式神と各種機材を借りて畑作をやらせる
俺はただ加護を使えばいいとか
必要な費用は結構な金額だ、今までの貯金のかなりを吹き飛ばす形になる
マッカの借り入れも出来ると言われたが、そこまでする気はちょっとない……
うーん……
そして今、【カエレルダイコン】と【ミガワリナス】を出荷して金を稼いでいる
「ここまで上手くいくとはなぁ」
目の前の畑を見ながら思う
家の異界化や工事の為の金はもう回収した
今は借りてるレンタル式神を買い取るためのマッカを貯めている所だ
手が付いてるだけの一反木綿型式神(二体)とは言え、式神は式神、良い値段がする
レンタルのままで良いと最初は思ったのだが
【源頼光】様が彼らを「郎党」扱いしており手放すなとおっしゃるのだ
そして借りられなくなったら畑作が出来なくなると、そう言われると購入しなきゃなぁという気になる
俺の畑から出荷される【カエレルダイコン】と【ミガワリナス】は単価が安い
【カエレルダイコン】は【トラエストストーン】の下位互換品だから当然安い
呪殺と破魔による即死を一度防げる【ミガワリナス】も【ホムンクルス】の下位互換品だからまた然り
所詮は生ものでしかない以上、加工で多少日持ちさせても消費期限に限界がある
大体こういうアイテムを必要とする段階の【俺たち】なら呪殺と破魔への耐性を持つ装備くらいしている
呪殺、破魔耐性の優先度は特に高いものだ
そんな評価になってしまうこれらのアイテムだが
しかし上位互換のアイテムと比較しての強みもまたある
一つは作るのにコストがあまり掛からない事(水と肥料と苗と機材のレンタル料と俺のMAGくらい)
特に苗類は今まで使い道がない素材だったので安いし今では自給もいくらか出来ている
もう一つは出荷が早い事だ
なんとこの作物、【カエレルダイコン】は五日
【ミガワリナス】は九日で出荷できる、季節関係なしに
霊的な素材はやはり普通じゃない、と言うのを感じさせられた
ただし雪には弱いのではないかと思う、P4Gでは雪が積もると枯れるから
そして現状、消費アイテムとして上位互換があるこの二品目だが
今は何も考えずひたすら生産して【ガイア連合】に出荷するだけで良い
それを許す事情があった
現在の世界情勢は【メシア教】が圧倒的に優勢である
結局【多神連合】はエジプト陥落後は良い所無しで崩れた
表の世界で信者全てが殲滅されたわけでも大規模な決戦で主力を失ったわけでもない
ただ単に構成する勢力単位で各個撃破され続けてるのだ
東アジアや西欧の一部ではまだ気を吐いている勢力があるが
それも時間の問題、そう目されている
そして今、【ガイア連合】は残った反メシア勢力の多くから【この地上最後の希望】扱いされてしまってる
もうかつて反メシア教最大勢力であり、一つの陣営を作った【多神連合】は希望足り得ない
「しかし【ガイア連合】なら」そう思われてるという事だ
そう思われるようになったのにも理由がある
作戦【地固め】と同時並行で行われていた作戦【妨害】
これによって支援された現地霊能組織が【ガイア連合】に希望を見出してしまったのだ
彼らは【ガイア連合】が「少しでも時間稼ぎしてくれ」という思いで行われた
「各種物資」と「簡単な霊装」の支援を受け取り
これによって【ガイア連合】の生産力、それを可能とする技術力と戦力に大いに期待する事となった
【ガイア連合】的には「メシア教に目を付けられない程度」の支援であったというのに
そしてその支援は今も継続して行われている
霊地活性化が限界を迎えるその日(=終末)まで【メシア教】の目が日本に向かないように、という目的で
そして俺の畑で生まれるこれらの作物は彼らに支援として供与される安価なアイテム、その中の一つである
【カエレルダイコン】は彼らが安全に異界レベリングを行えるように
【ミガワリナス】は破魔系を使う天使たちから身を守るために
技術流出の危険が少なく、提供しやすい安価なアイテム
そういうポジションでほぼ無尽蔵に需要があるのだ
「支援向け低品質アイテム特需」と表現していいだろう
【ガイア連合】はとりあえず役に立つアイテムならほぼ何でも買い取ってくれるようになった
この特需によって利益を得ている者は少なくない
俺もその一人である
と、まあこういう事情もあり、俺としてはこの収入は一時の物と割り切り
稼げる内に稼いでおこうと思っている
そして元手が回収できればいつでも未練なく畳む、そう思っていた
まさか元手を早いうちに回収できて、小作人(式神の事)の購入を検討する程儲かるとは……
これで調子こいて借金して事業拡大とかしたら痛い目見るんだろうなぁ
良かった、拡張限界あって
俺のMAGが十分な濃度にならなきゃ育たなくて良かった
儲けが出なくなったら適当に俺用のアイテムと自家消費する野菜とか作ってもらおうと思う
これはあくまで一時的な需要である
しかも【ガイア連合】が砂漠に水を撒くが如く行っている支援、その余波でしかない
自分の作物含めたガイア連合が送り出すこれらの物資が莫大であればあるほど思ってしまう
【メシア教】恐るべし、と
メシア教の恐ろしさ、強さは【ガイア連合】を頼って密かに入国してくる難民の事を調べればより実感できる
時間稼ぎの為の行動で最後の希望と目されるようになってしまった【ガイア連合】は
世界中からやってくる彼らを【エジプト神話勢力】を前例にした扱いで受け入れた
【エジプト神話勢力】を前例にした扱い、という事は=その神話の神(悪魔)を連れているという事だ
いかな【ガイア連合】と言えども戦力になる見込みのない存在は受け入れない
今、彼らは日本の領海にて【新しく作られた島】で生活拠点を整え、捲土重来の時を待っている
彼らは【外様】と呼ばれる
これらの動きは実は俺とも無縁ではない
俺がレンタルした式神は、こういった島々の生活拠点を整える為に作られた【農業】スキル持ちの式神なのである
日本に逃れる神々(悪魔)が自活できるだけの権能を備えていれば良いのだが
そうじゃない神々(悪魔)も当然いる
難民もまたそういうスキルを持ってたり持ってなかったりする
そういう人たちが住む島の生活基盤をある程度整える為にこういった式神がレンタルされる
もちろん有料だ、その場合は神様価格で特別高額らしい
【ガイア連合】は彼らを日本の社会で受け入れる、と言うつもりはない
だからこその隔離であると同時に、異文化の中での苦しい生活にならないようにする配慮である
彼らがやがては去る客人であるという一線ともいえる
そしてそれは彼らを守る一線でもある
他神話勢力の神々(悪魔)となれば日本神話の神々(悪魔)と権能、ご利益が被り
信仰の奪い合いが発生する可能性がある
そうなれば日本神話の神々(悪魔)は彼らを追い出す事を考えるかもしれない
もちろんそれは「役に立つから受け入れる」と判断をした【ガイア連合】と日本神話の神々(悪魔)の
利害の不一致を意味する
意味するが、【ガイア連合】がそうなれば最終的に選ぶのは日本神話の神々(悪魔)だと俺は思っている
何せこの日本国内において信仰を得ていて、つまり国内では強くて、数が多い
結局は外から来た【外様】の神々(悪魔)は選ばれない
ゆえに【外様】の神々(悪魔)を守るための一線となるのだ
隔離する事で信仰の深刻な奪い合いを防ぐ
そして多分、日本神話の神々(悪魔)も【外様】の排除や本格的な潰し合いは望んでいない
そういう事なんだろう
その【外様】の数は増える一方である
減る見込みが全くない、見通しも立たない
島生みや国生みの逸話を持っている神(悪魔)たちは今、大忙しであり
ちょっと前の地図には載っていなかった島が多数出来上がっている
そのうち国土地理院は上の人たちから怒られるんじゃないだろうか
これも全部【メシア教】が悪いという事にしておこう
日本に、そして【ガイア連合】に逃げ込む彼らについて思う事がある
彼らは祖国に帰れる日が来るのだろうか、という事だ
彼らが祖国に帰るには現地のメシア教勢力との争いで優勢を確保し
霊地を押さえ、信仰を再び得ないといけない
そうじゃないとまた追い出される
しかしそれはその地での局所的と言えど【メシア教】相手に完全な勝利を必要とするという事だ
そんな日が来るのだろうか? 疑問である
あまり明るい気分にならない思考を捨てて
この疑似異界の肝である要石に手を当てMAGを全力で注ぎこむ
あっという間に日課になった作業だ
この要石が俺がいない間の異界の管理や異界ボスの役割、MAGの取り扱いをしてくれる
異界探索から帰ったら家の敷地の奥にあるこの要石にMAGを注ぐのである
直接土地にMAGを注ぐよりもこちらの方が満遍なくMAGが行き渡るらしい
そして自分を搾るようにMAGを出し、要石からググっと押し返してくるような感覚になったら終了である
多分俺が戦闘で使うMAGよりも消費してるなぁこれ
強い倦怠感を感じる
さて、実は今日楽しみにしていたものがあるのだ
【宝石メロン】である
【宝石メロン】、P4Gで登場する回復アイテムである、使用すると味方一人のHPとSPが全回復される
これも【家庭菜園】で作れるものであり、こちらでも栽培できたのだ
ちょっと前に苗を購入し育てた
作るのに十日と、なんとカエレルダイコンの倍も掛かる
作中の説明文で美味と書いてあったような気がする
だからきっと美味しいのだろうと期待している
これを食後のデザートとして食べる予定だ
<ライコー>に一口サイズに切り分けてもらった【宝石メロン】を見る
色は濃いオレンジ系、いわゆる赤色系のメロンだ
見るからに甘そうな、瑞々しい切り身である
「いただきます」
フォークで刺し、食べる、甘い、美味い美味い……
美味しい……
……
はっ
一瞬呆然としてしまった
濃厚な味、甘さ、ジューシーさ、食べると「身体が元気」になる奇妙な快楽
霊的にガツンと来る「美味」の概念
味自体は多分「高級な美味しいメロン」でしかない
しかしそれ以外の部分で「美味」と感じさせる食べ物
美味い
気が付くと要石にMAGを注いでから覚えていた倦怠感がない
霊薬として身体を癒したのだ、恐ろしい即効性
そして美味い
「<ライコー>も食べなよ」
自分だけ食べていると申し訳ない、そう思って
言うと少し笑ってから
「いただいていますよ」
と答えられた、そうか? もっと食べなよ
我関せずとした顔をしている<シロ>を見る
「<シロ>も食べるか? 美味しいぞ?」
こちらに来て少し匂いを嗅いでから「フン」と去っていった
美味しいのに……
いや猫ならメロンに興味なくてもおかしくないか
食べる、甘い、美味い……
気が付くと少し大きな一玉分有ったメロンの切り身がなくなっていた
「確かもう三玉あったな」
「もう一つ切りますか?」
いやそうじゃなくて
「うちの神様に一玉ずつお供えしよう、MAGがたっぷり含まれてるから多分喜ばれる」
MAGは神(悪魔)にとって死活問題である、現界するのにも力を振るうのにもMAGを消費する
あればあるほど嬉しいはずだし、力も増す、喜ばれるはずだ
素晴らしい加護をくれた【クシナダヒメ】様には改めて感謝したい、美味しかったからな
そして片方だけにそういう事するとへそ曲げるかもしれないから【源頼光】様にも
もう一玉は実家に、と思ったが
「これ、未覚醒者が食べても大丈夫かな?」
「多分大丈夫かと思われます、未覚醒者でもあのガイアカレーを食べられますから」
そっか
まあ後でちょっと調べてみるか
大丈夫そうなら一玉送ろう
先行きには不安がある
今の平穏は多分、雲の切れ間や何かの狭間のような、そんなものでしかないんだと思う
でも働いて、美味しい物を食べて、寝て
そういう日常が少しでも長く続いて欲しいと思った