コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

24 / 46
閑話6話

 世界は広く日本も広く、世には様々な呪術に溢れている

 雨乞い一つにしてもそうだ

 火を焚き、神仏に踊りを奉納し、神社に参拝し、

 水神にあえて罰当たりな事をして罰としての雨を乞う

 水を象徴するものに願いを掛け、涙を流し、生贄を捧げる

 これら全て雨乞いの儀式の一つである

 その中の一つに所謂、類感呪術と呼ばれるものがある

 何かを燃やして煙で雲を模倣し、太鼓の音で雷鳴を模倣し、水を振りまいて雨を模倣する

 似ている物は縁を結び、縁を結んだものは似ている物に近づく

 埴輪を生贄の代わりにするのも藁人形に釘を打つのもこれを理由とする

 似ている物、近い物に関係性を見出し、その関係性は相互に影響を与える

 これが類感呪術の基本である

 であればこれもまた類感呪術の一つなのだろう

 

 雨が降っている

 

 俺の家の、疑似異界化する事で空間が切り離され、捻じ曲げられ

 外の雨など入って来ないはずの畑に雨が降り注いでいる

「これが加護か……」

 その様子を見ながら呟いた

 

 

【スサノオ】様は偉大なる神である

 偉大な事は良い事だ、それに文句など全くない

 ただし偉大過ぎて【スサノオの加護】とだけ言われてもさっぱりわからない

 困った

 海神であり、暴風雨の神であり

 化け物退治の逸話を持ち、五穀をもたらした逸話を持ち、林業をもたらした逸話を持ち

 日本で最初に和歌を詠み、製鉄で有名な出雲族の祖である

 パッと上げるだけでこれである

 更に習合されている神や、この神はスサノオではないか? という説まで含めるとこれはもう切りがない

 もう一度言うがさっぱりわからない

 分からないならしょうがない、と思うには少々惜しいしせっかく貰ったなら有効活用したい

 変なデメリットがあると困るし詳細が知りたい

 俺は役に立つご利益さえ貰えれば何でもありがたがる自信があるが

 何貰ったのかもわからないのにありがたがる気はない

 という事で知らねばならぬ

 だけど【スサノオ】様に直接聞くのは怖いし、直接聞けるのか? という疑問が湧く

 しかし大丈夫、我が家には【クシナダヒメ】様の祠がある

【クシナダヒメ】様経由で聞けばいい

 と、思ったのが【ICBM】の迎撃に成功してから数日経ってからの事である

「よくわからないので教えてください」と祠でお願いして見た

 その日の晩、寝ていると神託が下った

 安眠妨害だから出来れば起きてるうちにして欲しい……

 

 翌日、要石にMAGを注ぐ

 感覚的にはもう注がなくて良いが今回が初めてであるから念のためだ

 そして家の中に入り<ライコー>に声を掛ける

「じゃあ、やってくれ」

「かしこまりました、【ジオ】」

 畑の傍にジオが落ちる、そうすると数秒経ってから

 腹を震わせる稲妻が落ちる音、それから少しして激しい雨が降ってきた

 強い風が吹く

 

 <ライコー>が貰った加護は直接的な戦闘力には一切関わらない物であった

 貰った加護の効果は単純【降雨による豊穣】である

 雷神たる【スサノオ】様は当然のごとく雨もその手に握りしめておられる

 田畑に雷が落ち作物の出来が良くなり、

 雷を稲の夫(いなのつま)と昔の人が呼んだのは別に落雷による窒素固定云々という理屈だけではない

 雷は雨を伴うのだ

 

 類感呪術というのがある

 その理屈で行う雨乞いの一つに「雷鳴を模倣する」というのがある

 雷が落ちるなら雨が降るはずなのだ、だから雷鳴を模倣する

 これもそうだ、俺のMAG(クシナダヒメの加護)が行き渡った土地に

 <ライコー>(スサノオの加護)が電撃(雷)を落とす

 ならば作物の実りも良くなる、つまり雨が降る

 順序がばらばらだ、だけど呪術とはそういう物である

 作物は雷と雨によって生る

 世界的にも雷神が農耕神も兼ねる、あるいは地母神を妻とする雷神がいるのはこういう事らしい

 この加護はそれを象ったものなのだ

 俺と<ライコー>の二人が揃わないと使えない加護だと説明を受けた

 しかし既に「五穀豊穣の加護」がある状態で

 更なる豊穣の効果を追加されても意味があるのだろうか?

 

 意味はあった、数日後の収穫後に気づいた事だが

 【スサノオの加護】を用いて作った作物は出来が良くなっていた

 霊的な効果は変わらないがより瑞々しくて美味しい、それと肥料の消費量がかなり減った

 

 水不足で苦しむ時が来たら使える加護かもなぁと思いながら窓の外の風景を見る

 結構風も吹いているのだが不思議と畑が酷い事にはならない

 そんな風に膝の上の白い生き物にブラシを掛けながら外を眺めていると

「クゥーン」と声がした、こっちを見ろという甘えた声だ

 <シロ>ではない、新しくうちの子になった<管狐>である

 名前は<ユキ>と名付けた

 

【ICBM】の迎撃は【ガイア連合】にとっても大きなプロジェクトだったのだろう

 迎撃までのしばらくの間通常業務のいくつかが停止、迎撃の為の諸々の準備に様々なリソースが投じられていた

 そのリソースの中に「ショタオジの時間」がある

【管狐】は【ガイア連合】の資産や持ち物、売り物ではない

 あくまでショタオジの【管狐】である

 審査を行い、その審査結果を判断し、契約を結び【管狐】を譲渡する

 その最終的な決定権はショタオジにある

 そのショタオジの時間が投じられた事から比較的優先度が低い物から後に回され

 その回された物の中に【管狐】の譲渡があった

 まあ俺としても文句はない、準備が整わず【ICBM】が着弾するよりはずっと良い

 そして通常業務が再開

 我が家に<管狐>が来た

 

 実はこの子を<ユキ>と名付けるにあたり少々問題があった

 この<管狐>、白いのである

 俺は名前は分かりやすいのが一番だと思っている

 <シロ>は良い名前だ、白いからシロだ

 この真っ白な管狐、白イタチのような、耳の長いフェレットの様な

 そんなこの子に付ける良い名前が思い浮かばない

 白を意味する名前をいくらか考えてみたんだが

 それでは<シロ>に被る

 これはよろしくない

 という事で狐関連の名前を最初は考えた

 お稲荷さんとかダキニとか、命婦とか信太とか葛の葉とかタマモとかイズナとか

 でもあんまり重い名前を付けるとそれで縁が生まれて厄介な事になりそうな気がする

 そこで良い名を思いついた、「桃花」というのだ

 由来は「日本霊異記」のとある「狐女房伝説」に因む

 その話で出てくる色とは違うが桃には白い花もあるしこれは良いじゃないかと思った

 その話は「キツネをなんでキツネと呼ぶのか」という由来が書いてある話である

 

 男がある時出会った女を妻にして子を成した

 そしてある日、妻がふとした拍子に飼い犬に吠えたてられ驚き変化を解いてしまい狐の姿を晒す

 驚き怯えて、家の垣根を上った妻に夫が言う

「子供まで作った仲ではないか、俺はお前を忘れられぬ、いつも来て寝よ」

 この時の言葉が「来つ寝よ」でキツネの由来である

 妻はその後毎夜やって来て夫と臥所を共にした

 そしてある時、上品な「桃花」の色の装束を着た妻がやってきて、また去っていく

 その後ろ姿を見て夫は妻を偲び恋歌を一つ歌い、子供にキツネと名付ける、という話しだ

 家の垣根は内と外を分ける境界である、もしこの時の夫の言葉がなかったらキツネの妻は去っていっただろう

 妖であっても気にしない夫の言葉がそれを引き留めたのだ

 俺の好きな昔話の一つである

 この子はどうやら女の子のようだしこれくらい艶やかな話が由来でもいいのではないか?

 そう思った

 一緒に考えていた<ライコー>に由来と共に話したら

 微笑みながら言われた

「つまりあなたはその女狐を妻にしたいと、そうおっしゃるのですか?」

 没になった

 そして最終的に<ユキ>になったのである、白いから

 

 

 

 ここ最近、俺が狩場にしている異界は妖獣【カクエン】が多く出る異界だ

 妖獣【カクエン】、女神転生ではそこそこ出るが耐性やレベルはブレがある

 見た目はでかい猿だ

 カクエンは中国の伝承にある妖猿だ

 女を攫い、犯し、子を産ませてから女と子供を返し育てさせる畜生のような悪魔である

 正直こんな害悪な悪魔が出てくる異界なんて消滅させた方が良いのでは? と思うが

 敵としてみるとこの【カクエン】、都合が良い敵なのが微妙に困る

 この異界の【カクエン】はレベル26程度、火炎耐性を持ち、衝撃が弱点の悪魔だ

 使う攻撃スキルが毒を与える物理攻撃の【ポイズンクロー】と【アギラオ】程度

 群れで生活しているらしく一匹だけで出てくることはあまりない

 つまり物理耐性と火炎耐性の確保、解毒と体力回復さえできれば楽に狩れて良い経験値になるのだ

 どちらも揃えやすい

 今の俺のレベルは28だ

 【神(高位の悪魔)の蘇生】という神話体験が俺の霊格に影響を及ぼした結果上がった

【カクエン】はレベルが上がる前から狩っていた相手である、ますます楽な相手だ

 この異界に他によく出てくる悪魔は妖獣【ライジュウ】であるが

 そちらも弱点は同じ衝撃、だが使ってくる攻撃は【放電】なのでこちらは注意が必要である

 

 最近の俺のPTの戦い方は今までと大して変わっていない

 <シオン>と<シロ>のスキルによる偵察で楽に戦えそうな敵を探し

 戦闘前に<ライコー>になるべく支援を掛け、戦闘中は<シロ><シオン>が魔法攻撃で援護したり

 支援を掛けなおしたりして戦うやり方である、最近は敵に対するデバフが出来るようになった

 俺はその間、回復したりアイテムを使うか判断したり、<シロ>の【マッパー】による周辺警戒をするというわけだ

 

 戦闘前に<ライコー>にタルカジャとスクカジャを掛け、

 まずは【アローレイン】を仕掛ける

 同時に<シロ><シオン>がそれぞれ敵に【雄叫び】【フォッグブレス】を掛ける、余裕があれば攻撃魔法だ

 デバフで弱った近寄ってくる敵を<ライコー>の【利剣乱舞】で仕留めるというわけだ

【利剣乱舞】、複数回の物理攻撃を行う範囲攻撃だ

 かつての異界【天樹山】の回復支援の時、張り切ってガチャで出した当たりスキルだ

 あの時は使う機会が全くなかったが今の俺のPTのメイン火力は<ライコー>が使うこのスキルと言って良い

 何回か戦闘をして調子を確かめる

 そして本日の本命の作業を始める、<ユキ>の実戦投入だ

 

 ★クダ<ユキ> Lv25

 魔法型 ステタイプ魔(特化ではない) 精神無効 破魔弱点 呪殺無効

 スキル 炎の乱舞 マハラギオン エナジードレイン マハムド マリンカリン 火炎強化

 汎用スキル 変化 農業

 

 <ユキ>のステとスキルはこんな感じである

 主力になるのが火炎属性の攻撃魔法であり火炎耐性の【カクエン】とは相性が悪い

 が、今回はあくまで試し撃ちに近い事、なるべく戦い慣れた相手の方が良いと思った事

 そして【カクエン】は対処がしやすい事からここでやる事にした

 色々試し、その結果

「もう俺、銃使わなくていいかも」

 そう思った

 

 魔法アタッカーが一人増えるというのは投射火力が増えるという事だ

 そして悪魔と言えども物理的な距離を無視して近寄れるものは稀である

 であるなら距離を壁として遠距離で攻撃をし続けるのは有効な戦い方だ、その事を今更実感した

 <シオン><シロ><ユキ>が範囲魔法攻撃で順繰りに攻撃をする

 <シオン>の【マハジオンガ】が痺れさせ、<シロ>の【マハザンマ】が足を止めもしくは吹き飛ばし

 そして高火力の<ユキ>の【マハラギオン】で仕留める

 これが意外と嵌る、属性がばらばらなのが良い、<ライコー>が近接戦闘する機会があまりない

 その間<ライコー>は俺の守りに入って貰い、いざという時に動いてもらう事になる

 その後何度か試してみたがかなりいい感じだ

 火炎耐性持ち相手でもその耐性の上から【炎の乱舞】で仕留めたのを見た時は

 火力の大切さを感じた

 <ユキ>強いわ

 問題はこの戦い方だと魔力の消費が激しい事か

 これは真面目に俺が使う武器を置いて行って

 その分、魔力回復用のアイテム類を持っていくのを考えないといけないかもしれん

 

 おおむね今回の試し撃ちは満足いく結果だった

 手数が増えると余裕が生まれる気がする

 呪殺範囲攻撃である【マハムド】も微妙に安定しないが刺さると即死なのは悪くない

 初手は【マハムド】にして運良く落とせたらラッキー、ぐらいのつもりでやっても良いかもしれない

 PTの戦力向上を感じた

 

 

 

 家に帰りゴロゴロして<シロ>を撫で、普通の狐姿に化けた<ユキ>にブラシを掛けて、

 そうして掲示板を見ながらようやく今までなるべく考えないようにしていた事に思考を向ける

【半終末】の事だ

【半終末】、半と付くがどうも俺にはほぼ【終末】の様に感じる

 半の部分、つまりまだ【終末】ではないとされている要因から纏める

 1.日本が平穏無事

 2.まだ異界じゃない土地の方が地球上に多い

 3.未覚醒者がまだ多い

 4.物理法則が壊れ切っていない

 

 これである、では次に【終末】を感じさせる部分を纏めると

 1.高位の悪魔が召喚されやすくなった(世界的なGPの急上昇)

 2.地域一帯が異界と化す現象が発見、また街中に野良悪魔が出没

 3.世界に終末をもたらす為の【大天使】【魔人】が各地に出現

 4.1.2の結果、各国神話の神々(悪魔)が降臨する予定

 5.その神々(悪魔)は【大天使】や【魔人】と生存競争をする予定

 どう見ても【終末】じゃないか

 

【ガイア連合】は意外な事に国外にも【ガイア連合のシェルター】を持っている

 これは極少数ながら海外に生まれた【俺たち】がいる事

 突然【終末】が訪れた時に海外を飛び回って仕事をしている【俺たち】が避難をする為だ

 これらのシェルターでは当然のように各種インフラが完備されていて、それには通信インフラも含まれている

 掲示板では彼らからリアルタイムの情報が流れ込んでくる

 その情報を纏めるとこうなる

「核兵器の爆発による電磁パルス攻撃以外の要因で動かなくなった機械等を少数確認、

【終末】時に起こると予想されていた現象、所謂【物理法則が壊れる】によるものと思われる

 将来的には通信機器に深刻な障害が生まれると予想、人類は分断される」

「世界中で生産と輸出入への悪影響が予想、それに伴い今後、大飢饉が起こる可能性大」

「【大天使】や【魔人】の被害が大きすぎて死者数も不明」

「海中、海上に悪魔発見、尋常な手段での海上交通は不可能」

「【過激派天使】を多数発見、理由は不明」

 情報提供は嬉しいが早く日本に帰ってきて欲しいと思う

 しかしこれらの情報は貴重だ

 更に彼らの情報によるとまず

 西欧は核兵器と【魔人(名称不明)】により大打撃

 アフリカも同上

 中東も同上

 その他各地で【魔人(名称不明)】が出没

 これは【メシア教穏健派】からの情報であるが

 アメリカは西が【過激派】、中央が【魔人(名称不明)】、東が【邪神・クトゥルー】で勢力圏を構築しており

 東から中央にかけてぽつぽつと生き残りがいるらしい、生き残り=【メシア教穏健派】である

 米国終了かな

 いや混乱により詳細が不明な事と、現代文明が死んだだけで人はまだ生きている可能性が高いらしい

 また各地の魔人が名称不明なのは高精度なアナライズが出来る者が近寄る事が出来なかったからだ

 見た目の詳細が分かるほど近寄るのを避けた結果でもある

 これから徐々に判明すると思われるが最低でも超高レベルな、【権能】持ちの【魔人】か【過激派の大天使】だと思われる

【終末】を呼ぶ事に積極的に行動するようなのはそんな連中しかいないからだ

 もしかしたらあの有名な【終末の4騎士】すらいるかもしれない

 このままでは生き残りたちがいなくなるのも時間の問題だろう

 この調子なら各国神話の神々(悪魔)が地上に顕現し、人の保護を始めるのも早まりそうという予想もされている

 人が減りすぎるとその分MAGが得られない、信者と霊地確保の為にそう動く

 力ある神(悪魔)に縋る人は多いだろうな、表側の体制でどうにかなる存在じゃない

 それも人がいればの話だが

 

 数少ないが良いニュースもある

 中国では、結界の発動といくらかの【ICBM】の撃墜の観測が出来た

 恐らく中国の現地の霊能者の努力か、神々(悪魔)の協力である程度の攻撃は防げたのかと思われる

 だがその代わりに中国では【魔人】とそれを追いかける【大天使】らしき者が確認

 ついでとばかしに周辺住民が殺されまくっているらしい

 

 

「ふぅ」

 溜息をついてしまう、朝見た情報と大して違いはない

 いや半日程度で何か違いがある方がおかしいと思うべきだ

 それにしても【過激派天使】を多数発見ってなんだよ、誰か天使配って歩いてんのか、いらねーよ

 しばらく前に<ライコー>が入れてくれた冷えてしまったお茶を飲む

 

 来る【終末】を意識して生きてきた、ガチ勢には及ばなくてもなるべく鍛えて来たつもりだ

 それは多くの【俺たち】も同じだったはずだ

 しかしここまで破滅的な【半終末】が来るとは……やはりもう【終末】では? 

【ICBM】の着弾とその後の悪魔の召喚での具体的な死者数は不明だ

 着弾した国で死んだ人間をまともに数える事が出来る組織なんてなかった

 だが億では済まない、このままだと最終的にはもう一つ上を行くんじゃないか、そんな話まで出てきている

 もしくは大損害を受けている所も実は生き残りも結構いるんじゃないか、そんな風にも言われている

 後者のは別に希望的観測だけと言うわけではない

 悪魔はMAGがなければ生きられないからだ、悪魔がいるならば必ずその悪魔を維持するに足る何かがある

 それが霊脈なり人なりだ

 まったくの無人地帯では生きられない

 人が殆どいないような環境では悪魔が生きるのは厳しくても、別に敵対的な悪魔がいなくても人は生きられる

 ならば悪魔が生きていくのに大変な人口密度で細々と生きている人たちだっているはずだ

 そして強い悪魔がいるならばそこには多くの人がいるはず

 そういう理屈だ、まだ完全に【終末】ではないからこそ成立する理屈である

 正直、夢物語みたいな前提条件だと思うがそんな理論上の話をしたくなるくらい世界情勢が破滅的なのだ

 何せ事態を招いた、世界中に核を乱射した【メシア教過激派】すら別に有利になっていないのだ

 彼らは元々世界の覇者であった、世界中の霊地に侵略し支配し【多神連合】を撃破し続けていた

 表側世界の覇者である米国をも後ろ盾に、あるいは武器に使えていた

【終末】なんて呼ばなくても【メシア教穏健派】も【多神連合】も、

 もしかしたら【ガイア連合】すら真正面から粉砕出来たかもしれない

 理屈を言えばこんな自暴自棄な、やけっぱちみたいな方法で終末を呼ぶ理由なんてないはず

 それを行った、そして【ICBM】が着弾した所の多くは【メシア教】の勢力圏だった、勝つための方法ではない

 まあ【メシア教過激派】と【メシア教穏健派】で陣取り合戦をしていたせいで

【メシア教】の勢力圏=【メシア教過激派】の勢力圏ではなかったようだが……

 それに【メシア教過激派】は【メシア教過激派】である

 こういう戦略的な有利不利以外に重視する要素があったのかもしれないし

 俺にはわからない何かがあったのかもしれない

 しかしその結果、首謀者のいる米国ですら安住の地ではなくなったというのはあまりにも人が生きるのが辛い話しだ

 それが狙いだったのかもしれないな

 

【メシア教】の事で思い出したが

【メシア教穏健派】が【ガイア連合】に世界中にある【メシア教穏健派が作ったシェルター】の情報を提供してきたらしい

【メシア教穏健派】は【終末】を予見、もしくは待ち望んでいて可能な限りの準備をしていた

 そして【ICBM】が降り注ぐ前に避難に成功していた

 今後はこれら【シェルター】を中心にして【メシア教過激派】への聖戦を行うらしい

 彼らの言う所によれば西欧にはそこそこ以上のシェルターが存在、戦力として有望らしい

 また彼らのシェルターは生産農場や工場が標準で着いているため

 かなりの持久も出来るはずだとか

 まあ、当てになるものじゃないな

 

 僅か数日でここまでの情報が集まるのは驚異的と言って良い

 これは【ガイア連合】と【メシア教穏健派】の情報収集、そして【外様】の神々(悪魔)からの情報提供の結果によるものだ

 しかしそれらの情報が指し示すものに希望はない

 

【ガイア連合】運営はこの事態にあらゆる伝手、あらゆる手段を用いて日本の情報統制をする事を掲示板で発表した

 人々の認識を「世界各地で疫病やテロや戦争でなんか酷い事になってるぜ! 日本は蚊帳の外だけどさ!」程度に留める

 目的はただ一つ「社会不安」を防ぐためだ

 社会不安はGPを上げる、GPが上がったら今はまだ平穏な日本ですら【終末】に近づく

 また悪魔に対する認識はその悪魔の存在を確かなものとする

 唯一無傷な日本は、そして【ガイア連合】は今後は人間の世界を支える工場となる

 その為には足元を揺るがしてなんかいられない

 そしてまだ政府機能が残っている国々にも【メシア教穏健派】がその影響力を駆使して

 民間へは悪魔の事を伏せるように情報統制をしている

 ただし【ガイア連合】が「【俺たち】がいる日本を守るため」「その生産力を守るため」に日本で行ったような

 そんな前向きな理由ではない

 それらの国々ではこれ以上の社会不安が起こればその地が「異界化する」可能性が高すぎるのだ

 そうなれば悪魔が溢れ出るようになり連鎖的に周辺諸国を巻き込んで亡びる

 言ってみれば、出血死を防ぐために末端の壊死を覚悟して血管を縛り上げているような状態だ

 勝手に壊死を覚悟される末端はたまったもんじゃない、しかし必要な事だ

 

 今の世界は不安に揺れる事すら許されない

 

 

 僅か数日ですっかり我が家で寛ぐようになった膝の上の<ユキ>を撫でながら

 少し思う

 この【半終末】で俺がやるべき事、出来る事は何だろう

 今までは【終末】に備えるという目的意識で動けていた

 少しでも戦力を上げ、マッカを稼ぎ、マッカを使って備えた

 そして【終末】ではないが【半終末】が来た

 今までと同じように動くには世界情勢が変わりすぎた

【俺たち】の、【ガイア連合】の敵は強大という言葉じゃ足らない存在だ

 今までと同じように動けるのか我ながらわからない、どこかで焦りが生まれそうな気がする

 このままでいいんだろうか、なにか行動の指針を、そして目的を見つけるべきなんだろうか

【半終末】がいつまで続くのかわからない、だけど本格的な【終末】は【俺たち】にも必ず来る

 流されるだけでは後悔する事になりそうな、そんな気がした

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。