コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

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幕間 とあるモブ地母神の話

 

【多神連合】が世界を二分していたのは昔の事

 年数的にはほんの少し前の事であるのに、その事を感じないものはそうはいないだろう

 今、世界を二分しているのは【多神連合】と【メシア教】ではない

【ガイア連合】と【メシア教】だ

 

 

 ああ! 自らの悲鳴のような声が漏れる

 支援を求め、それが得られるかどうか決まる【各代表会議】が開かれるその地に

 私は【低位分霊】として現れた

 声を上げてしまったのは【低位分霊】という弱い姿で現れた事を恥じての事ではない

 むしろその逆だ

 霊格(レベル)が大いに劣化してるとは言え、私ははっきりと【地母神】としてこの地に降りてしまったのだ

 もっと格を落とせれば、もっとMAGの負担が軽かったはず

 魔界の本体はずいぶんと無理をしたはずだ、そして先にこの世に顕現し氏子を守っている夫も……

 きっとずいぶんとMAGを消費しただろう、その無理はきっと数少ない氏子たちに皺寄せがくる

 ただでさえ苦しい時代を生きている私たちの氏子に! 

 わかっていた事だ、しかしそれでも嘆かずにいられない

 

 世界中に【メシア教】の悪しき兵器がばらまかれ、多くの人の子が儚くなった

 その人の子らの命を糧とし邪悪としか呼びようがない【大天使】や【魔人】が世界に顕現する

 その事を奇貨と捉え、我らは一度は去ったこの世界に再び舞い戻った

 しかし我らは十分な強い信仰と豊かな霊地を背景に顕現したわけではなかった

 そういう神々もいるのだろう、しかし我らはそうではなかった

 むしろ質的にも量的にも不足でしかない氏子と、弱く不安定な霊地でもって顕現したのだ

 我らは強い支援を心の底から求めている、生き残るために

 その支援を出せる存在は世界に一つしかいない

【ガイア連合】だ

【ガイア連合】、極東の小さな島国の一民間霊能団体である

 一民間霊能団体と侮るなかれ、その力、技術力、生産力は世界に轟き

【極東にガイアあり】と囁かれていたほどだ

 もっともそれは【多神連合】が崩壊の体を成していた頃の話である

 もし【多神連合】が、あの忌まわしい【エジプト神話勢力】の裏切りさえなければ

 そんな事は言わせなかったはずだが……

 その【ガイア連合】にこの世に顕現した我らは支援を求める

 とは言っても、乞食のように伏して求めるのではない

 共通の敵である【メシア教】、その戦線を担う勢力として

 双方の利益を主張して求めるのである、惨めに弱弱しくは求めはしない

 協力者として、同盟者として戦友として、堂々とそれを求めるのだ

 その為に必要な事だ

 

 嘆く私に夫が言って聞かせたのが上記の事だった

 そして、弱弱しい姿を晒せば侮られる

 侮られれば受け取れたはずの支援すら受け取れなくなる

 ここは多少の無理をする必要がある

 そう私に説いた

 言われずともわかっていますとも、この地に降りた時点で、しかし

 その為にMAGを搾り取り浪費のように格を備え、存在しない余裕を見せつける必要があるとは! 

 このMAGがあれば私たちは氏子たちに何度温かい食事を与えられたことか

 メンツのため、見栄を張るために顕現したこの身の厭わしい事よ

 そう思わざるを得ない

 

 

 夫と【各代表会議】に出る時が来た

 私は勢力を代表する者ではない、だから発言権はない

 ただ聞くだけとなる

 世界情勢等は夫が判断する事、私がするべきことはそれ以外の事だった

 その場にいる神、悪魔、そして【ガイア連合】の者たちを値踏みをする事だ

 少し前まで【ガイア連合】は謎に包まれた存在だった

 彼らは複雑なルートを辿って各種物資、各種霊装の支援をしてきた

 そこから分かる事は技術力と生産力はあるという事だけである

 それを支え、生み出す源である戦力、それは高いと見做されていたが未知数のものだった

 深い霧のように覆われた【ガイア連合】、その力がどの程度の物なのかをしっかり見ておかねばならない

 そういう事だ

 もっとも【ガイア連合】へのそれはする意味があまりない程度の物となっている、そう私は思っている

 何せこの国はこの事態に会ってもいまだに平和を謳歌しているのだから

 彼らは【メシア教】の攻撃を防ぎ切ったのだ

 それが弱いはずがない、それがこの地に避難した神々の力を使っていたとしても

 夫はまだ【多神連合】の力をいくらか信じているようだけど……

 

「今はもう【多神連合】の力では及ばないな……」

 会議が終わり、呆然としか表現できない顔で夫は言う

 ここが用意された一室であり他に誰もいないから出せる顔だ

「あら、ほんのちょっと前までは信じていたのに? 冷たい事」

 そう憎まれ口を叩く

「ふん、あれを見せつけられればそうもなろうよ」

「なにかありまして?」

「【デモニカ】なる鎧の霊装よ、あれは強い」

 そうかしら? 

「私としてはあの【門番】の方が魅力的に映りましたが」

「ふん、単純な力ではそうだろうな。

 しかしあの【デモニカ】は覚醒していない者を戦士に出来る

 これからの勢力は【デモニカ】の数で力を誇るようになるだろうよ

 強い戦士が多くなればその分俺たちも力を取り戻す事も出来る」

 いくさ事に関わる事だからか少しずつ頭が回ってきた様子

 そうよ、私たちには呆然としている時間すら惜しいの

「力が富の源泉だ、【メシア教】と戦い奪い、

 それを元手に【ガイア連合】から少しでも【デモニカ】を購入し

 氏子を守り、氏子を戦士にし、MAGを手に入れ、より力を取り戻す」

 今はこれしかあるまい、と繋げる

「だから【ガイア連合】のあの提案も悪くない

【ICBM】の迎撃だったか、取り合いにすらなろう

 我々はいわば傭兵だな、せっかく顕現してもこれはなんともな」

 そうは言いますけどあなた

「顔が笑っていましてよ」

「戦っていれば豊かになれるかもしれないのだぞ? 今までと比べてどれほど楽な事か

 これが笑わずにいられるかよ」

 

「口では何と言おうとも他の者たちもそう思っていたはずだ

 今までは【メシア教】共と戦う所か、すり減るのを見るだけで何にも出来なかったからな!」

 そう、その通りだ

【半終末】、今はそう呼ばれる時代らしい

 この時代になって私たちはようやくこの世に現れる事が出来た

 それ以前は倒れていく氏子を、弱くなる信仰心を、破壊される神殿を、失われる霊地を眺めるばかりだった

 たまに素質ある氏子に声を掛け、更にその中でも特に力ある者に加護を与えるのが精いっぱいだった

 加護を出し惜しみしているのではない、加護を受け取れるだけの才ある者がそれだけ少ないのだ

 その数少ない才ある氏子たちも【メシア教】との戦いでは失い続けた

 その結果、私たちは最後の霊地を失い身体を維持する事も出来ずに去る事となったのだ

 それが【半終末】まで氏子たちが何とか生き延びて、そして霊地を何とか手に入れた事で

 私たちはこの世に現れる事が出来るようになった、これで直接守り戦いそして信仰を得られる

 より多くの氏子を得て、より多くの戦士に出来れば、今までよりも多くの氏子に加護を与える事も出来るだろう

 失い続ける日々はようやく終わった

【半終末】以前には考えもしなかった事だ

 そして今、私たちは貧しく小さい領地を少しでも豊かに大きくする為に動くことが出来る

 

「それで我が愛する妻よ、お前の見た所どうであった? この地に集った者たちは」

 少し思い出し言葉を出す

「何人か生贄で得たMAGの匂いがいたしましたわ、但し【多神連合】の方だけ

 具体的な方々はこちらに」

 名前を書いた紙を渡す

 地母神であるが故に子供の血と肉と、そのMAGの匂いには敏感にならずにはいられない

 それを嗅ぎ分け、各勢力の余裕を計る事を期待されていた

 その紙を眺めながら夫が言う

「やはりか、この地に逃げ込んだ連中(外様)や【ガイア連合】の者はどうだ」

「そちらは全然」

「ふん、余裕があって羨ましい事だ

 俺とて妻が口煩くなければ幾人か領地の者を生贄にしようと思っていたのだからな」

「あなた!」

「思っただけだ、俺とて氏子の数を減らしたいわけではない

 しかし、いよいよ必要となればやるぞ」

 

【ガイア連合】の存在は思っていたより有望であった

 希望が有るのだ

 そうであればこの地に顕現した私の役割もより重くなるという物

 

 

【ガイア連合】はかつてのような野放図な支援は行わないという

 だがその代わり【ガイア連合】は【三つの場】を提供した

 一つ目は【話し合う場】、今後も【各代表会議】は開かれる

 そこでは【対メシア戦線】についての話し合いの他

 足りない物資の交換や、情報の交換等の話が出来る場としても機能する

 その場での揉め事等は起きないように【ガイア連合】が責任を持つ

 ありがたい事だ、今のこの地上に全てが満ち足りている勢力など片手で足りる程度しかありはしないのだから

 建設的な話し合いを安全が保証された場で行う、それが出来る者もまた少ない

 ただその場を【メシア教穏健派】の【天使】共にまで開いた事は面白くはないが

 そして二つ目は【物を売り買いできる場】、対価さえ払えば【ガイア連合】から物資や霊装の購入ができる

 目録を見たが霊薬も、氏子が身を守るために使える武器も食料品もあった

 その中には夫が気に入った【デモニカ】もある

 もっとも、数に限りがある故に必ず買えるとは限らないとも言われた

 更に買うだけではなくこちらの物を売る事も出来る、だけど売れる物なんてあるかしら? 

 問題は必要な物を購入できる対価を用意できるかだが、それは三つ目が関わってくる

 最後の三つ目が【働く場所】

【メシア教】共の兵器の迎撃、そして何より忌まわしい【大天使】【魔人】の撃破

 前回【ガイア連合】が行った【メシア教】共の兵器の迎撃に私たちもそれに加わる事が許される、という事だ

 希望する者だけであるが

 私にはどうにも理解できなかったがその場で良い働きをした者ほど良い報酬が得られる

 そういう仕組みらしい

「MVP」や「単独撃破ボーナス」等と言っていた

 夫はこれにある程度期待をしているらしい、確かに魅力的な報酬が多いのだ

 更にこの地に【分霊】を置いたり、あるいはこの地の【異界】を借り受ける神々であれば

【ガイア連合】が【権能】次第で適切な仕事を割り振る、とも言っていた

 これは今はどちらもする余裕がない私たちには無縁の話だ

 

「それで、あなたはひとまずは何を目標に傭兵をなさるのですか?」

「それについてなのだが、少々迷っている」

 あら、珍しい

 いつもは即断即決であられるのに

「【MVP】報酬が前提となるのだがな

 俺としてはこの地に【異界】を借り、後方として使いたいと思っている」

「【デモニカ】を優先しなくてもよろしいですの?」

「それも含めての考えだ、この地の【異界】にお前と氏子を移し

【権能】によるあるばいと? で安定して稼いでくれればそれで【デモニカ】を購入できる。

 迷いと言うのはだな」

 どこか恥ずかしそうに目を逸らしながら夫は続ける

「今の俺では【MVP】を取れるかわからん。

 取れやすくする為に【神々】向けの霊装等を購入する事が望ましい

 もしくはこの地で強い力を振るう為により多くのMAGを溜め込むかだ

 しかしそうなると……」

 ああ、そういう事ですか

「今いる氏子たちが後回しになると」

「それよ、得られれば大きい獲物を追いかける為に

 自らの地盤を放っておくのも看過は出来ん。

 あの霊地と氏子たちは必要なのだ」

 頷く、今まで苦労させてきた数少ない氏子たちだ

 私としてもなるべく手厚く扱いたい

「そして恐らく、このままでは時間と共に俺が【MVP】を取れる可能性はむしろ減る

 戦いに参加を希望する神々が増え、その神々の中には俺よりも地力がある者もいるだろう

 俺たちの領地の事を考えればそうそう何度も無理は出来ん」

 これにも頷く

 地に【天使】共が湧き、それだけではなく狂気を発する得体のしれない化け物共も湧いて来た

 領地を守るために割く力を考えればそう何度も【MVP】を狙った戦いは出来ない

 しかしどこかで余裕を生まないといけない

「狙うなら最初の一回だ、その一回に出来る限り賭けるべきだ

 それが一番勝算が高い

 しかしそれも同じような考えをする者たちの数による

 それに日本神たちが良い所取りをして我らを引き立て役にするつもりの場合でも……」

「分かりました、私の方でも探ってみます」

「頼む」

 

 各神話の女神たち、地母神たちを招いての茶会

 そんなものが何の思惑もなしに始まり、何の思惑もなしに終わるはずがない

 当然集まった彼女たちにはそれぞれの思惑があり背負うものがある

 本来、私が背負っていたものは「勢力の名誉」、これが最大のものだった

 侮られないように見栄を張り、独立した一つの名誉ある勢力である事を主張する

 その姿勢の表れでの参加であった

 今は事情が変わった

 名誉を背負っている事は今も変わらない、しかしそれだけではなくなった

 私は各勢力の【ガイア連合】への姿勢を彼女たちを通して探り

 その結果を夫に伝え今後の方針の為の一助にならねばならない

 それを思えば当初嘆いた見栄の為のこの身はむしろ最低限必要な事であったとすら言える

 女神たちに積極的に話しかけるのに格落ちしすぎては不都合が予想されるからだ

 嘲笑いと共に上品に無視される、なんて事になれば話にもならない

 

 

【各代表会議】は今後も行う、これは事前に伝えられていた事だ

 これからは【各代表会議】の結果がそれぞれの勢力に多大なる影響を与える事になる

 そして【各代表会議】は【合議制】である

【合議制】であれば勢力としての事情の他に距離感等が影響し

 また個人の友好関係によってもある程度の影響が出る

 このような茶会はそれを探るための場となり、サロンとなりえる

 この茶会が今後も行われるか、あるいはその方向性はいかなるものになるか

 それらは一回目の結果次第となるだろう

 そしてその茶会の主導権を握る「女主人」と言うべき立場の者は、不在だ

 

 本来なら「女主人」は「日本神話の最高神の妻」がするべき役目だ

 この地の神であり主催者なのだからそれが妥当というもの

 ところが日本神話の最高神は女神【アマテラス】だ、妻はいない

【アマテラス】が茶会の場に出れば格といい、立場といい、間違いなく「女主人」となろう

 しかしそれは茶会という「あくまで私的な場での交流」という建前を壊しかねない存在になる

【ガイア連合】の出身国の最高神である【アマテラス】の存在は重過ぎるからだ

 出ない理由とはこういう事ではないか? そう推測されている

 しかし代わりに「日本神話」側から出る女神が問題であった

【クシナダヒメ】という

 日本神話の最高神の弟【スサノオ】の嫡妻であり、格は十分との見方もある

 しかしその【スサノオ】の方に問題があった

 日本神話には大きく分けて二つの派閥があるという、【天津神】と【国津神】という

 そしてこの【国津神】の主宰神は【スサノオ】ではない

【スサノオ】の娘婿で息子、あるいは子孫とも言われる【オオクニヌシ】だ

 ここで格の話になってくる、【スサノオ】は最高神【アマテラス】の弟である

 しかし主流派閥ではない【国津神】に属し、更にその筆頭という訳でもない

【クシナダヒメ】はその妻でしかないのだ

 これならば我らの方が格が上なのではないか? と女神たちが思うのも無理はない

 こうして茶会の主導権を握るべき「女主人」、その座は空位であると見なされた

 そして【各代表会議】の裏口の一つとでも言うべきそこで主導権を握ることが出来れば

 それは勢力に対する大きな助力となるのではないか? 

 と一部の女神たちが色めき立ったようだ

 知り合いの女神に世間話の体でそれとなく聞かされた、これは忠告だ

 私たちのような弱い者はこういった事による利益よりも

 時には保身を考えて動く必要があるからだ

 

 その主導権争いに関わりようがない弱い立場であるからそう思えるだけであるが

 しかし愚かな事だ、と思ってしまう

 なるほど確かにそこで大きい顔をし、派閥を形成し、女神たちを伝手として利用できればそれは力になるやもしれぬ

 夫同士では話せない事や言えない事が妻同士でなら出来るかもしれぬ

 そういう場を握る事は確かな力になるかもしれぬ

 しかしそれがそれほど有意義な事であれば

 そもそも日本神話勢力にとっての「余所者」でしかない私たちに与えるはずがないではないか! 

 そんな簡単な話がわからないとは思えないが……

 しかしこれは好都合だ、メシア教の兵器の迎撃を「手札」だと思って出し渋る勢力もあるかもしれない

 その手札を切らせるための「飴」が「女主人」の座と解釈するのであれば……

 これは特に見極めねば

 

 

 

 そして茶会が緩やかに始まる

 始まると言っても【クシナダヒメ】含む一部の女神たちは席についていない

 彼女たちは理由を付けてもったいぶり、ぎりぎりまで現れず待たせるのだ

 私にとってそれは幸いである、場に「重い」存在がいないうちに可能な限り探りを入れておきたい

 

「氏子でもない人の為に動くと言うのはあまり気持ちのいい事ではございませんわね」

「人の子の為に爆発の盾になる、そのような事とても最高神の為さることでは、ほっほほ……」

「そもそも働きに応じて報酬など不遜ではありませぬか」

「音楽性の違い」等々否定的な事を言う者が半数以上、とは言えこれを全て信用するべきではない

 参加しないように見せかけて実は、という事もあり得る

 だが、そう言っている女神の中に「生贄」のMAGを感じさせた者の妻がいた

 氏子の数にそれほど余裕がないはずの今、生贄を求めざるを得なかったという勢力だ

 恐らく迎撃に参加をするリスクを重く見たのだろう、これは状況から信用できる

 一部訳分らない事を言っている者もいるがこれは判断材料から除外する

 

「【ガイア連合】には我らが氏子が世話になったそうで、主人はその恩を返さねばと……」

「やはり義理というものは重いものですねぇ、【ガイア連合】との付き合いもありますし」

 等々、これは参加をすると思われる発言をした女神たちだ

 この段階で参加を表明している者は私と同じような匂いを感じる、貧しいのだ、だから参加表明としては信用できる

 ただ、お前らの旦那が義理堅いなんて聞いた事もないわ! と言ってやりたい所だが我慢しよう

 そして中には武神としての側面を持っている者もいたらしい、その知見から

「今【ガイア連合】が脅かされれば我らにとって大変な不利に~」と一席ぶっている

 競争相手が増えたらどうするのよ! という意図を込めて

「まぁ! まるで殿方のような事を仰いますのね」と言ってやった、黙った、よし! 

 それからは普通の世間話をして時間を潰す

 

 

 そうしていると少しずつ、もったいぶっていた女神たちも入室してきた

 席の違いによる揉め事が生まれる事を避ける為だろう、この場に席順等はない

 空いている席に好きに着いて良いという事になっている

 隣の席に着いた者の顔を見て一瞬、自分の表情が硬ばった気がした

 今はこの地に間借りしている【エジプト神話勢力】の【ハトホル】だ

【ハトホル】、エジプト神話にて「愛と美の女神」であり「死者を養う女神」とされる

 エジプトの最高神ラーを父とし夫とし、子を成し、その他様々な者と子を成した

 ある種の「地母神」の典型である

 エジプト神話を代表する地母神、それを三つ上げればその一つに必ず入るだろう

 間違いなく大物の女神だ

 もっともそのエジプト神話の者たちの多くはこの世を去り、勢力としては没落したが

 しかし私にとってそれはあまり関係がない、【エジプト神話勢力】という事が重要なのだ

 

【エジプト神話勢力】、【多神連合】に所属した神々であればその名の意味は重い

【多神連合】が相互不信を起こし、戦力を有機的に運用できなくなり、

 忌まわしい【メシア教】共に良いようにやられた原因

 それがこの者たちである

 あの【エジプト決戦】では味方のはずのこの者らが行った無差別呪殺攻撃により

 援軍として送っていた多数の霊能者を失い、更にはその魂まで攫われてしまった

 それ以後【多神連合】では大規模な決戦は起こっていない、起こす事すら出来なくなったからだ

【エジプト神話勢力】はその後敗退、【ガイア連合】を頼りこの地に逃げ込んだ

 

 女神の中ですら埋没しない程に【美しい】褐色肌のこの者! 

【エジプト神話勢力】の者が近くに居れば、考えないようにしていた事を考えてしまう

【ガイア連合】が本格的に頭角を現したのが【エジプト決戦】より後の事

 例えば、あの裏切りがなく【多神連合】がその後も機能していたら

 そしてその【多神連合】と【ガイア連合】が完全に手を組んでいたら、もしかしたら、と

 そんな事を……

 私以外も同様なのか、自然と彼女に向ける視線が鋭くなっている

 それとなく当て擦り、皮肉をぶつける方もいる

 彼女はその視線と言葉を感じているだろうに誇り高く堂々としている、それがなお忌々しい! 

 しかし今の私にはこの女神にそのような視線を向けて満足しているような余裕はない

 努めて平静を装い周りを観察する

 彼女のような大物が来るようになったのだから他も来るはず、場が動くはずなのだ

 

 それから少し時間を置き、女神たちがいよいよ場に出揃った感があるが

【各代表会議】の場にいたはずの「主神の妻」の女神が幾人か欠けており、その娘や別の妻等が顔を出して居る

「発言権がない場なら良いがこのような場には不向き」と夫に判断されたのだろうか

 そうであればこれらの者は勢力の意図をしっかり飲み込んでこの場に来た者のはず

 だがそういう者は信頼されてきた者だけあってか中々読めぬ、如才ない振る舞いをする

 

 またメシア教の兵器迎撃の話の流れになった

「妾としては少々の疑念を呈さねばならぬ

 果たして【ガイア連合】は真に報酬を払う気があるや? と」

 何人かの女神が頷いている、私は頷かぬ

「妾たちには確かに契約は有効である、しかし常に抜け道はあるもの

 あの複雑な報酬システムはその抜け道を作らんとする行いでないとは言い切れぬ

 何より報酬が良すぎるしのぅ」

 特に霊格が高いその女神の声はどうにも場を動かすに足るものだったらしい

「もしそのような事があれば~」などと話に乗る者も出てきた

 私は乗らぬ

 この場には【ハトホル】等のこの地に間借りしている女神や【インド神話】の女神もいる

 特に【日本の神々】と【インドの神々】は繋がりを持つ者も多い

 揺れる姿を見せるべきではない、どんな形で返ってくるかわからぬ

 ちらりと、とその「見せるべきではない」者らを観察するが

 それほど気にした様子は見えない、この場での多数派工作の類をする気はなさそうだ

 これは判断が難しい

 陰で推し量っているのかもしれぬし、あるいは何も考えていないのかもしれぬ

 しかし、彼女たちが日本の神々と繋がりがあり

 そして私たちを引き立て役にするつもりなら参加を煽らせる動きを見せるはずだが……

 ここは適当に微笑み、受け流しておくべきか

「故にこの場に「日本神話の女神」が来たら機会を見て問うつもりぞ

 その時はその方らも~~」

 この女神は【ガイア連合】への不信を【日本神話の女神】に押し付け

 責め立てる事でマウントを取るつもりのようだが、そう上手くいくだろうか

 

 

 場が静まる、どうやら来たようだ

 白を基調とした和装の地母神が歩いている

 若々しい、少女のような地母神だ

 強い【力】を感じる

 この地母神の性質から概念や逸話による力ではない

 純粋に溜め込んだMAGによる霊格だろう、【地元補正】があるとはいえこれほどとは

「皆さん、お揃いのようで。

 始めましょうか」

【クシナダヒメ】の茶会が始まる

 

 入室した時はそれほど気にしていなかったがこの【クシナダヒメ】

 飾り気がないな

 例えばある女神は大粒の力ある宝石を使った装身具で身を飾っている

 高い対価を払い【ガイア連合】から購入したものだろう

 例えばある女神は明らかにMAGで作った装身具を身に着けている、夫が物を作る逸話があり作らせたのだろう

 例えば私は、多少無理してこの姿で顕現している

 威信財、という考え方がある

 その権威を示す為の財物の事である

 その意味で私含めたこの場にいる女神のほぼ全てが威信財として身を飾っていると言える

 身を飾り、その威信で持ってこの場で侮られる事のないようにしている

 ところがこの女神にはその霊格以外それがない

 例えばその身を力ある貴石、貴金属などでは飾ってはいないし

 なにか私たちに意識的にアピールする物がない

 これほどの女神がそれに意識を向けない訳がないのに

 

 そんな私の疑問を他所に話は進んでいく

 一通り挨拶をして軽く世間話をして茶を飲み

 お互いの懐事情をそれとなく探り、上品に貶し、ささやかな嫌みを言い合う極々普通の茶会として進行する

 一部の女神たちが意地故に持ち寄った土産の菓子類を互いに空虚な言葉で褒め称え合う

 茶を一口飲んで

「「日本神話の女神」が来たら機会を見て問うつもり」などと言っていた女神の方を窺う

 悔しそうなのが透けて見える、本来の霊格では【クシナダヒメ】に負けるつもりはないのだろう

 しかし信仰と【地元補正】で今は負けている、その事を意識せざるを得ないようだ

 そして気後れもしている

 さてこの女神がいつ仕掛けるか、その時の周りの反応が肝になる

【ガイア連合】への不信は【メシア教】の兵器迎撃の参加率にも繋がるはずだ

 そう思っていると【クシナダヒメ】が

「この日の為に水菓子を用意させていただきました。

 お口に合えばよろしいのですが……」

 と切り出した

 

 その言葉から少ししてから一人の人間がこの室内に入ってくる

 若い男だ、まだ100も行っていないだろう

 紙の面で顔を隠している

 そして、豊潤なMAGを湛えている

 それが果実を不器用に切り分け手を打ってから【クシナダヒメ】の後ろに控えた

 

「この者、私の氏子であります

 この場にある水菓子を奉納した者にて~」

 やはり氏子であったか

 人でありながら神に匹敵するやもと言われていた【ガイア連合】の幹部

 そしてそれを上回ると言われていた【神主】の存在

 それらの噂の確認が【各代表会議】で出来ていた。真であった

 そしてそうであれば気になる噂もあったのだ

「【ガイア連合】の【ブラックカード】持ちは才能豊かな者」という噂が

【ブラックカード】、基準は分からぬが【ガイア連合】がその霊的な才能確かな者たちに与えている身分証明らしい

 彼らは【ガイア連合】で優遇され、保護されている

【ガイア連合】の幹部は全員【ブラックカード】持ちという話も聞く

 神であれば、もしそのような者たちを氏子にすることが出来れば、と思うだろう

 恐らくこの者もその【ブラックカード】持ちに違いない

 それだけの霊格を帯びている、そしてこの場の女神たちを前にしても【恐怖】から発するMAGを欠片も出していない! 

 力強き氏子か……

 

 それにしても【クシナダヒメ】の話を聞いていると砂を噛む様な気持ちになる

 この氏子は自分の管轄の地で生まれ育ち、生まれて一月で親に抱かれて神殿に挨拶に参った? 

 独立してからは婚姻の為に故郷に戻り、自らの神殿で婚姻を誓った? 

 その氏子が独立した地で建てた小神殿にて祀られ氏神として見守り、加護を与えている? 

 今この場にいる女神でいったい何人そのような地母神としての幸せを味わっている者がいるか……

 かつては知っていた幸せであった、しかし信仰が衰え神殿も霊地も失った私たちには……

 いや、それをこれから取り戻すのだ、そのために顕現したのではないか

 ふと歯軋りのようなMAGの揺れを感じる

 揺れを感じた方に視線を向けると、とある力ある女神であった

 感情の制御ができず漏れ出たのだ

 この方は常に理知的な方だったはず、それが今の話のどこに、と考えたら気が付いた

【クシナダヒメ】の自慢の中にあった「最近は小神殿の周りを手ずから箒で掃き清めてくれている」という下りだ

 そういえばこの女神の失われた文化では自分に仕える巫女の象徴が箒であったか

 家庭と女の幸せを司る女神の巫女の象徴が箒で、それで掃き清める事に意味を見出していたはず

 失われた信仰を懐かしむしかない女神に【クシナダヒメ】はそれを見せびらかした事になるか

 確かこの島国でも箒は祭祀に使われていたな

 えぐい真似をするわ

 こうなると【クシナダヒメ】の意図も読めてくる

 これが、この氏子が【クシナダヒメ】の威信財だ

 夫の力でも財力でも、その美貌でもなく

 今でも民から敬愛され、強い氏子がいる事を、そしてその氏子が自分の為にわざわざ作物を奉納する事を

 この場にいる全ての女神たちに見せつけたのだ

 

 そして目の前にある果実は霊薬である

 切り分けられたその一切れを口に含む

 甘く、美味しい、しかしそれ以上に含まれるMAGの多い事よ

 そして地母神であるこの身が厭うようなMAGは一切含んでおらぬ

 氏子が【クシナダヒメ】の加護で持って作った物というのも本当に違いない

 それをいくらかの儀式の上で【クシナダヒメ】に捧げられた

【クシナダヒメ】の威信財は力の誇示でもあった、これほどのMAGを生み出し捧げる事が出来る氏子か……

 誰も何も言わず黙々と食す、私以外の者はいったいどういう気持ちでこれを味わっているのだろう

 嫉妬に駆られるのか、過去の栄華を思うのか、いずれこれ以上の物をと奮起するのか……

 その氏子は私たちが食べたのを見届けた後、褒美を受け取り何も言わずに退室していった

【クシナダヒメ】は彼に私たちを紹介する気はないらしい、自慢をするだけして下げたのだ

 

「機会を見て問うつもり」などと言っていた女神の方を見るが

 もうそんな事をするつもりもないようだ

 どこか身構えていた雰囲気が消えている

 元々その主張には瑕疵があった、仮にそういう問題があれば【各代表会議】で必ず問題になる

 私たちがその事を今問い質す必要はない上に

 どうせこの場では「報酬は出せる」「出せない」の水掛け論にしかならないのだ

 場の流れを奪う為に喧嘩を吹っ掛ける口実、その程度の主張だった

 それを力の差を見せつけられ出鼻をくじかれた形になった、もうあの主張では他の女神も付いていけない

「ご覧のように私たちはとても豊かでありますの、きっとあなた方の思う以上に」とでも言われてしまったら、

 そして本当にその通りであれば恥の上塗りにしかならない

 気位の高い女神たちがそのような事をする訳がない

【クシナダヒメ】は力を見せつける事で戦う気すら失わせて勝利したのだ

 今はこの場の者たちが口々に【クシナダヒメ】を褒め称えている、世辞だ

 

 それにしてもあの女神が屈辱に震えているようには見えぬな? 

 むしろ憑き物が落ちたような……

 そして気づいた、あの女神も私と同じなのだ

 勢力の名誉を背負わねばならぬ立場であった

 強いがゆえにむしろ引ける理由もなく、ただ場を譲る事が出来ない立場だったのだ

 対立を煽り喧嘩を売り、他の女神を同調させ存在感を示したかった

 それがあの女神の勢力が求めるメンツや見栄だった

 力や格を見せつけられる事でようやく引ける理由を得た

 そして引けるならこれ以上の無理はしなくて良い、きっとそういう事だ

 見れば幾人か同じように険が取れた表情の女神もいる

 まったくもって、この世とは……

 

 その後はゆるゆると茶会は進み

 最後に【クシナダヒメ】が茶会の終わりの挨拶を行い、お開きとなった

 

 

「どうであった?」

 土産に渡された果実に視線を奪われながら夫が聞く

「詳しくはここに、全体としてはそれなり以上の勢力が参加を渋る事になりそうです」

 自分の考察や覚書を纏めたメモを渡す

 駆け引きの手札に使おうとする者こそいなかったが

 単純に参加をするだけのMAGが不安なものは渋るし

 比較的余裕がある所は「飛びついた」と思われないよう時期を見て参加、そういう姿勢が薄ら見えた

 またどうせ参加をするなら特別な報酬を得る事で名誉を得ねば、そう思っている者もいた

 そういう者はしっかり準備をしてから参加するはず、つまり一回目はない

 もちろん彼女たちがそう思っていても、その夫や主たちは違うかも知れないが……

 驚く事にこの地に間借りしている神々の多くはすでに参加を前提にしていた

 そして残念ながら日本の神々の意図は不明だ、しかし確証がなくてもここはやるべきだと思う

「あなたの言う通り、賭けるなら最初の一回目がよろしいかと」

「そうか、うむ……」

 何やらお考えの様子ですが

「その果実、今は食さず迎撃の時に食すことにする、その時までどなたかに預かってもらおう」

「下手したら腐ってしまわれるのでは?」

「どうせ賭けだ、賭けの要素がもう一つ増えても変わらん

 その果実のMAGで少しでも成功率を上げたい」

 まあ! この方が甘い物を我慢するなんて! 

 

 

 そして夫は次のメシア教の兵器迎撃で勝負に出た

【MVP】こそ得られなかったが

【魔人発見ボーナス】と【ファーストアタックボーナス】は得られた

「【MVP】を取れなかったのが残念であるが」と言ってはいるが鼻高々としている

 私たちは得られる報酬を何にするかで頭を悩ませることになった

 【半終末】前にはありえなかった幸せな悩みだった

 

 




多分今後出てこない設定

モブ地母神とその夫
特にモチーフの悪魔はない
有力な勢力ではない

【クシナダヒメ】の格問題
日本神話の最高神の弟、三貴子である【スサノオ】の嫡妻【クシナダヒメ】
この格で問題視されるとは全く思っていなかった日本神側
【外様】からのそれとない忠告(予想)に激怒に近い状態に
日本神側からすると「仲良くしようぜ」と場を用意したら
「お前らの所の女神じゃ格が足らねぇ」と言われた形
「いちゃもん付けて血祭りに上げようぜー!」という過激な意見や
「【外様】とかも動員して威圧かまそうぜ!それでも文句付ける奴は村八分で!」という穏便な意見が出る中
【クシナダヒメ】が正面からマウントを取り黙らせる事を決意した

【多神連合】側の意見の一部
作中で出た意見+
知らんがな、もっとわかりやすい権威持って来て?
それに【クシナダヒメ】、ちょっと弱くない?飢餓とか招かない普通の地母神だし……
文句付けれる隙を見せるな

喧嘩を売りたかった女神たち側の勝利条件
ここで一発凹ませて、【アマテラス】を引っ張り出す(メンツ↑↑)
何でもいいからお茶会で一目置かれて「あの勢力は凄いなー」って周りから思わせる(メンツ↑ 茶会の主の座を得ると更に実益↑↑)
いちゃもん付けて譲歩を出させて唐突に【ガイア連合】からむしり取る(実益↑)


敗北条件
仁義なき戦い勃発(実益↓↓↓負ければ更にメンツ↓↓↓)
マウントの取り合いが消耗戦に突入(実益↓)
何か失敗して恥を晒して周りからの侮りを生む(メンツ↓)
まったく何も言えずに下風に立つ(メンツ↓↓)


特殊勝利条件
誰も傷がつかないうちにそれとなく決着(→か、微↑、長期的には↑)

【多神連合】の一部勢力の勝利条件
絶対に〇〇を出席させるな!傾くぞ!
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