コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

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3話

 さて、ここにきてまたもや自分の方向性に思い悩むことになる

 自分はこの居心地の良い、もはや故郷のような愛着すら持つガイア連合にどうにか貢献したかった、それが胸を張って一員であると誇れる道だと信じてた

 そしてそれが自分の幸福を守る【終末への備え】につながるとも思っていた

 だけど回復役としての自分には先が見えて、いくらいても困らない戦闘要員としての姿にそれを見出した

 そういう事になる、そういう事になるが

 今度は回復という、つまりは医療や治療という世界は自分があっさり諦め見据えることが出来るほど安っぽく底が浅い物ではなかった事を知った

 事の顛末はあっさりした話だった

 探索ルートから何故かわざと逸れた未覚醒転生者がユキジョロウと遭遇

 エナジードレインで体力をからっからになるまで吸い取られ、凍死させられその後遺体をご馳走されてしまったという、その結果【リカーム】での復活は出来ない有様になった

 緊急で駆け付けた医療班は【ユキジョロウ】のエナジードレインにやられ、干物のようになった【未覚醒者】を、身体が崩れ落ち無事な所を探すのが難しい【凍死体】だったそれを

 悪魔の身体の移植、シキガミの移植、回復魔法の連打等何でもありの荒業で復活させた、ちょっと性別が変わり人間を辞めたけど

 これが【リカーム】を使った結果であればまだよかった、【サマリカーム】でも良い

 魔法すげぇと感心して手を叩いて終わる

 そうじゃなかった

 未覚醒者とはいえ転生者である霊的素質に頼り、悪魔の身体にもシキガミにも頼り、回復魔法という超常の力にも頼り、しかし最後は人の執念で蘇らせた

 あの光景を自分はそういうものとして見た

 

 素晴らしい、人の輝きの一つは間違いなくあれだろう

 しかし自分はその光景の後に続く輝きを自分に見出せはしなかった

 自分は医療班の彼らほどその道に邁進出来るほどの熱はない、専門的でもない

 そしてきっと能力もない

 自分が出来たのは「自分の居場所を奪うであろうシキガミ」のように、言われたように回復魔法を掛ける事だけだった、魔法掛け装置だった

 まあつまり懸念していたように居場所が奪われると思う程度の働きしかしていない自分を直視した

 替えの利かない人物、未来という暗幕に光のような剣の切っ先を突き立てるのはきっと医療班のような人たちだと思った

 人の可能性を、自分が見切った道の更なる先を見たにもかかわらずそこに進めない自分がいた

 彼らの極まった精神性にドン引きしてしまったともいう

 自分は不純で俗物で、楽をしたがりの、そして即座に成果を欲しがる子供のような男だ

 自分は何をする存在になればいいんだろう、自分には何かに向かって正しい努力をすることが出来るのだろうか

 そんな悩みを膝の上で寝ているシロと、なんか俺のマッカを美味しく食べてる見知らぬ管狐に話した

 翌日、その見知らぬ管狐がどこからかガイア連合内の求人広告を持ってきた

 良い機会だからたまには違う仕事をしてみよう

 そういう事になった

 

 

 

「ふんぬうううううう!」

 握る魔石に魂込めて! 今注ぐは渾身の魔力! グオオオオオオオ! 

「ふぅ」

 成功だ、青っぽい【魔石】がダイヤモンドみたいな見た目をしたギラギラと輝く【宝玉】になっている

 これで本日12個目である

 ガイア連合山梨支部物作り班に所属する何人もいる職人さんの一人、に今雇われてる

 なんでもこの職人さん、魔石を加工する事は上手だけど

 その魔石に魔力をぶち込んで違うものに変換するのはあんまり得意じゃないんだそうな

 だから加工はその職人さんがやって、魔力を注ぐのはそれぞれの担当の人を雇って魔力を込めてる、職人さんを班長として何人か魔力込め要員を班員として雇い班としてストーン類の生産をするのだ

 自分は回復魔法担当、準備されている加工済み魔石に回復魔法っぽい魔力を大量にぶち込んで魔石を宝玉にする作業をしている

 宝玉、女神転生では味方1人のHPを全回復させる回復アイテムだった

 この宝玉も全回復、するらしいと聞く

 全回復ってどういう状態なんだろな、失った毛が生え、歯ぎしりで削れた歯が戻り、擦り減った軟骨が復活したりするんだろか

 そんなくだらない事を考えながらまた魔力を込める

 ちょっと前に「シキガミに居場所を奪われる!」と焦っていた自分が

 回復役がいなくても回復できるようになるアイテム製造に関わってる

 妙なおかしさを感じた

 しかしそんな自分も悪くない、今誰かの役に立ってる

 

 

「きゅーけーい、きゅーけーい、ごはんきゅーけい」

 班長のシキガミ(なんか河童? のキャラをモチーフにしたらしい、河童要素は知らない)が声を掛けて回る

 ガイア連合は凡そブラック労働とは無縁の組織である(ショタオジや事務方を除く)

 忙しいときは大変忙しくなるが基本的には緩い、それを支えてるのは覚醒者労働者という並の人間を凌駕する性能の暴力、オカルト分野という労働生産性がえげつない数字を叩き出す業界、そして幾人もいる財界の大物転生者通称「富豪俺たち」の全面的な協力のおかげだ

 よくわからないがまあガイア連合は豊かで金がぐるぐる回っててその結果が余裕になる、そんな状態らしい、良い事だ

 金銭の余裕は人心と時間の余裕に繋がるのだろう、昼食休憩はそれなりにゆったりと食事を楽しむことが出来るしガイア連合山梨支部の社食は安く美味しいものが多い

 その社食で特に人気が高いのはガイアカレーである、もちろんレトルトのそれよりも美味しい、具材も大きい

 この霊薬生産技術と霊薬調合技術と調理技術という「もしかしたらこれがガイア連合の技術力の証明かもしれない」と思うほど裏で高度なものが使われてるこれは

 朝から魔力を使いすぎた人たちの身体を癒し暖めてくれる

 そのガイアカレーのカレーうどんを啜っていたら雇い主の班長がやってきた、班長はカツカレーか

「やっお疲れ」「どうも」「前良い?」「どうぞ」「お仕事どう?」「悪くないです」「そう」

 班長が自分の正面の席に座り食べ始める

 なんだろ、何か話しかけた方が良いんだろか

 上司で雇い主に当たる人にどんな態度で話しかけたら良いのかわからねぇ、自分が一時的なバイトってのもある

 考えてみりゃ俺、前世ニート今世派遣ガイアーズで、しかも事務の人に「自分コミュ障ですよろしくお願いします!」してから特に人間関係緩いところの仕事回して貰ってた感じだから社会経験あんまりないんだよな……

 企業がやってるような新入社員の教育ってやっぱ大事なんだろうなぁ、こういう時何言ったら良いのか学校教育は教えてくれない、いや教育じゃなくてコミュ力の話かな

「あーえっと、宝玉君はさ……」

 なんか変なあだ名ついてる

「シキガミちゃん、いないけどもしかしてそういうの嫌いな人?」

 なんてことを言うのだ

「いやそういうわけじゃないんですけど、ただどんなシキガミにすれば良いのかわからないのと購入予算が中々貯まらなくてですね、ほらかなりいい値段するじゃないですか」

「今頑張って貯めてるんですけどどうにも難しくてなんか時間経てば経つほどシキガミも高くなってきてるし逃げ水追っかける遭難者みたいな感じでですね、それに順番待ちしてる人がいっぱいいるし何時になるかわからないですしね」

 ちょっと早口になってしまった

 でもシキガミは皆が欲しがる信頼できる戦力で念願の仲魔で、ガイア連合でも強い人たちが取り合ってて買おうとするとえらい額になる存在だ

 持っていないからって嫌いな人扱いされる謂れはないと思う

 俺だって欲しいさ

 そんな事を言ってたら班長が首を傾げながら言った

「宝玉君、覚醒者だしガイアの仕事もちゃんとやってたって言ってたでしょ?」

「なら最初のシキガミは優先されるはずだけど?」

 えっ……

「宝玉君が見てたの、ハイグレードの高級シキガミだと思う、ショタオジさん製の」

 えっ……

「戦闘力0の簡易シキガミなら一万円からだよ」

 えっ……

「それに最近は原料不足だから円で買うと高くなるだけで、マッカで買うならそんなに値上がりしてないよ、マッカが原料になるから」

 えっ……

 

 

 

「本当だ、知らなかった……そんなの、なんで誰も教えてくれなかったの」

「ちゃんとした覚醒者がシキガミ持っていないなら、何か事情があるか性癖の違いで持っていないと思うから、かな?」

 

 

 

 その後胸の上で香箱座りしているシロを毛に逆らう方向で撫でてボサシロにしてたら落ち着いた

 なんか最近悩むたびに迷走してる気がする

 シキガミ、買おう

 

 

 

「式神制作依頼をする前に担当の事務の人と仕様について相談した方がいいよ」

「事務の人は色んな霊能者を知ってるし、今まで仕事紹介してた分君に詳しいからアドバイスくれると思う」

「何か特別な拘りとかあるなら別だけどね」

 

 という既にシキガミを持っている班長の言葉は目から鱗だった

 確かに自分ひとりで考えるよりも他の人の意見も聞いた方が良いな、と納得しかない

 さっそく次の日、自分の担当の事務の人に電話を掛けた

 どうでもいい話だが自分は電話は嫌いである、むやみやたらと緊張する

 だからこれが自分から事務の人に掛けた初めての電話である

 

「物理型! 盾! タンク! そういう方向性が良いと思います!」

「あなたに必要なのは火力よりも身を守る手段だと思います!」

「スキルで言えば【物理耐性】【反撃】【何か適当な魔法攻撃スキル】が良いと思います! 先に言った順番に優先で! もちろん簡易式神じゃないですよね?」

「物理攻撃スキルですか? 低レベルな相手ならなくても勝てますし高額ですので今の段階では割に合わないと思いますよ」

「それなら遠距離から引き撃ち出来る魔法攻撃の方が必要だと思います、遠距離攻撃手段を持っていないと持っている相手に一方的に攻撃を受けますし」

「【汎用スキル】ですか? あれは一部を除いて趣味の領域ですので、余裕が出来てからがよろしいかと」

「何より最近はガチャの外れ枠で良く出回っていますしね欲しいなら後で買えます、購入段階で無理をしなくていいと思います」

「攻撃魔法は感電を発生させる【ジオ】凍結を発生させる【ブフ】がおすすめです、実戦に出ている方からの話では【ザン】の評判もよろしいようです、衝撃で敵との距離を開けるのに向いているとか」

「シキガミを購入なされましたら一度連絡をください」

 

 思っていたよりも熱く語ってくれた

「そういう事相談されても困るんですよねぇ」とか言われるんじゃないかとビクビクしてたから嬉しい

 そして俺に必要なのは火力よりも盾らしい、納得した

 戦力としての方向性もある程度固まった

 問題は予算だが……班長から渡されたシキガミ制作費用の目安表では

「ギリギリ足りる……」

 おすすめされた三つのスキルを付けた人型式神、が何とか買えるくらいの値段で収まった

 貯金と貯マッカ(貯マ?)を空にすれば何とか行ける、正確に言えばちょっと足らないマッカ分を現金で購入して穴埋めすれば行ける計算になる

 行っちゃうか

 そういうことになった

 

 

 

「それで宝玉君はあたしの所のバイト延長して、しかも日払いでバイト代受け取ることにしたと」

「いや本当びっくりですよ、財布の中に600円しかないとは……日払いにしてくれた班長には感謝してます」

「良いけどさぁ」

 

 社食のカレー南蛮(カレーうどんとは違うのだ!)を食べながらシキガミ購入の話をした

 結局買ったら有り金尽きてしまい、シロのご飯代にも困る財政状態になってしまったのだ

 シキガミが来ればそれで頑張って働いて金稼ぐ所存だが、そのシキガミが来るまでの生活費に事欠く

 しょうがないからその足で班長の所に行き、給料の前借か今後は日払いにしてくれないかと頼み込み、見事叶えられ

 そしてありがたくもバイトの期間延長までしていただいた、本当に感謝している

 

「まあ、あたしにとっても悪くない話だから本当に良いんだけどね」

「そうなんですか?」

 俺に日払いする事に何か良い事あるんだろか

 カレー南蛮のネギを食べながら適当に考えるが特に思いつかなかった、美味い

「宝玉君に仕上げてもらってる宝玉、あるでしょ?」

「あーありますね、最近慣れて来て今日なんて15個出来ました初めてです」

「そんなに出来る人はあたしのバイトしてくれないんだよお金(円)に困ってないからね、宝玉君はレアキャラだね」

 そして一息置いて繋げた

「あれを使って作りたいものがあってさ」

「宝玉輪って知ってる? あれを作りたいんだ」

 

 宝玉輪、味方全体のHPを全回復させる回復アイテムだ

 もちろん知っている

 使う機会はあったようななかったような、どの作品だったか覚えてないが金策で売ってマッカにした思い出はある

 

「宝玉輪ですか?」

 オウム返しに聞いてしまう

 自分は売った思い出しかないが宝玉輪はゲームでは半ば~後半になって入手するような強力なアイテムだ、そんな印象がある

 つまり作中でも高性能なアイテムと描写されているようなもの

 人の手で作れるものかすら意識した事がなかった

 

「うん、宝玉輪、あれを作りたい」

「この後、時間ある?」

 

 

 作りたい、と言ったが実はもう作ってあるのだと班長の個人工房に行く道中で聞いた

 ただ数が作れない、原料が足りない、加工に時間がかかる

 間に合わない

「間に合わない?」

「そっ、努力目標程度の話しなんだけさ」

「恐山攻略までに間に合わせたいんだよね」

「恐山?」

「時期はまだ未定だけど、そういう話が持ち上がってるらしいよ」

「現地の霊的組織はもう限界っぽいって」

 

 恐山、日本三大霊山にも数えられる大霊地である

 その恐山にはイタコが隠れ里を作り、霊的防衛拠点を設け、日夜悪鬼悪霊と戦い鎮霊をしている

 かつての恐山のイタコはあの【ヤタガラス】や【葛葉】にも一目置かれていたという、そんな話を聞いた覚えがある

 地方霊的組織の雄、そう言っても良い存在だ、もちろん我らがガイア連合を除いての話だけど

「その恐山がもう限界?」

「だってさ」

「そしてそうなったら他の戦線にも影響が出てえらいこっちゃになるかもって」

 ふー溜息を吐きながら足を進める班長

「だからとりあえずいくらか恩を売ってから、そこから関係繋いで吸収合併して飲み込んでー霊地の管理をガイアが握ってなんとかしてー」

「なんて話が持ち上がってるんだってさ、そこまでしなきゃ滅びそうって」

「何とかなるなら大丈夫なんじゃないですか」

 そう言ったら首を振られた

「ガイアは今までそういう事をした事がない、つまり相手にとって未知数の存在」

「いつどうやって信頼を勝ち取れるかわからない」

「そして相手はいつ霊地活性化で滅ぶかわからない」

「間に合うかどうかなんてわからない」

「という事で工房持ちの制作勢の間で情報が共有された、「やばいかも知れないからしばらくは回復アイテム量産しておかね?」って」

 まあやばいネタ見つけたらこういうのいつもの事よ不発だった事の方が多いけどねーと班長は軽く笑う

「だからあたしとしては、そのイタコが全滅してやばい異界になった恐山を攻略する時に宝玉輪いくらか作れておけばいいかなって」

「性能が良い回復アイテムはいくらあっても腐らないでしょ?」

 なるほどなぁ

 

 

 工房に着くなりすぐ本題に入った

「で、これがあたしが作った試作宝玉輪よ」

 とカチャっと納めていた紙製の箱から取り出されるネックレス

 綺麗だ

 キラキラと輝くカットされたいくつもの宝玉

 チェーンは良く磨かれた銀製だ

 小さい宝玉と小さい宝玉が結び付き中央にある一際大きな宝玉を飾り立てている、宝玉はカットされたらこんなにも光るようになるのか

「これと同じ物で集団に対する回復効果は認められたわ、だから宝玉輪と思っていいと思う」

「消費して消えるのがちょっと惜しかったけど」

 宝玉輪に目が奪われて言葉が出ない

「で、宝玉君にはバイトの延長期間中は、いつもの職場じゃなくてこっちで宝玉作ってもらいたいの」

「それとあたしのディア係」

 うん? 

「ディア?」

「これ作るのに血や肉を使うのよね、だから回復必須なのよ、今までは魔石使って治しながらやってたんだけど魔石代だけで良い金額になっちゃってさ」

 あはは、ほらあれ、と指差す先には使用した痕跡が見られるごついナイフと注射器と魔石が納められた箱

 なにそれ怖い

「宝玉君も無縁じゃないよ、シキガミ作る時「肉体素材使う?」って聞かれるんだから」

「いやそういう痛いのは勘弁してほしいかなーって」

「絶対そっちの方が強くなるし成長も早いのに?」

「マ?」

「マ」

 なにそれ

「あたしたち、転生者の身体ってちょっと他にはないくらい性能が良い霊的な素材らしくてね、覚醒者ならなおさらだからとりあえず使っておけば性能上がるのよ」

「ちなみに宝玉君が宝玉にしてる加工済み魔石もあたしの血を使って加工してたりする」

「マ?」

「マ」

 職人とは修羅の道でござったか

 

 

 

 そして少し疑問に思った事が

「ところでなんで宝玉輪がネックレスなんです?」

「?? 宝玉輪ってネックレスでしょ? ジュエリーショップで買える輪なんだし」

「ビシャモンテンからドロップするんだから仏具の輪宝では?」

「輪宝?」

「こう、タイヤみたいな」

「??」

 

 そもそも宝玉輪って何なんだろ

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