コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

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第二部5話

 近々大きな作戦が行われるらしい、と

 掲示板で囁かれていたのは【魔晶変化】に精を出すちょっと前の事

 とは言ってもそれは【ガイア連合】の事でも日本の事でもなく、

 遥か彼方の異国の地の話であるからそれを意識する事はなかった

 それよりも【俺たち】の有志で行っている【北米打通作戦】の方に関心を寄せていたくらいだ

 それがどうにも【ガイア連合】も支援を行う事が決まったらしい

 その大きな作戦を行う勢力は【多神連合】が【インド神話勢力】

 場所は「インド亜大陸」

 目的は「蝗の群れの撃滅」

【半終末】になってから初めての大規模作戦である

 

 

「【加護】を使っての支援、ですか」

「はい、そういう事になります」

【ガイア連合】は今、豊穣神系の【加護】を持つある程度以上のレベルの【俺たち】に声を掛けているらしい

 しかも仕事場は海外だ、【渡航制限】の例外になる。

【トラポート】で送り迎えしてくれるとか

 事務の人にそういう仕事を紹介された

「しかしインドですか……必要なんです?」

 インド、というか多神教では豊穣神なんて吐いて捨てるほどいる

 地母神に分類される女神は殆どそうだ、川も大地も女性に見立てられ神格化される事が多い

 インドならなおさらだ、あそこには「母なるガンジス」がある

【半終末】前ならともかく神々(悪魔)が顕現した今となってわざわざ【ガイア連合】からの人手を欲しがるほどか? 

 そう思ってしまう

「インド神話勢力の方の事情はわかりませんが、

【ガイア連合】に多額の報酬を支払う程度には必要とされたようです」

 はぁ

「詳細はこちらの資料にあります、

 【ガイア連合】としてはさほど優先度は高くない仕事となります」

 報酬は多額のマッカだ

 普通に断っても良いらしい

 とりあえず持ち帰って検討して見る事にした

 

「うーん……」

 唸ってしまう

 資料を読み、スマホで地図を見比べその作戦の規模の大きさを感じる

 まず前提はこうだ

 中東、メソポタミア南東部に魔王【アバドン】が顕現

 その【アバドン】が自らの眷属である蝗を大量に撒き散らした

 その蝗の群れが国を二つ三つ食い荒らし飛び越え、インドまで到達

 インドが誇る穀倉地帯「パンジャーブ州」を食い荒らしたという

 そこを何とかインド神話の神々が大変インド神話らしい大規模な攻撃で撃破、

 追い散らしそれ以上の被害の拡大を防いだ

 しかし蝗害というものはその一波を凌げればそれで良し、というものではない

 道中で産んだ蝗の卵が孵り群れを形成、更なる蝗害に発展する予想を生んだ

 そしてその規模は最終的には凌いだ第一波の蝗の群れ、それを遥かに超える規模になる見込みとなった

 この事態にインド神話勢力は一計を案じる事となる

 現在、インド神話勢力はインドに隣接するP国とA国の国境であり

 インド亜大陸をユーラシアと繋げる交通の要衝、世に名高き「カイバル峠」を防衛線と見なしている

 その「カイバル峠」の近く(大陸的感覚)にある「カーブル川」、この川沿いに地母神を配備し

 適当な草を権能による促成栽培によって大量に生えさせ、餌による蝗の群れの誘導、かき集め、纏めて撃破する

 このような作戦によってインドの地を断続的に襲ってくる蝗害から守っている

 この作戦を更に大規模にした物を行おう、そういう話になったそうだ

 現在の防衛線を「カイバル峠」から下げる

 そして「インダス川」沿いに促成栽培による餌と「集魔の水(ガイア連合製)」によって

 蝗の群れを千キロ以上離れたインダス川河口まで誘導、海に追いやる形で半包囲

 搔き集めた神々(悪魔)による一斉攻撃によって殲滅

 あわよくば蝗の群れを操る【アバドン】の眷属【アバドン虫アポリオン】の撃破も図る

 そういう作戦だそうだ

 

 川沿いに草を生やさせるのは権能によるMAGの消費を抑える為、水がある方が消費が低いからだ

 インダス川を使うのは作戦規模を広範囲な物にする事で可能な限り多くの蝗を集める為

 そして一度誘導が決まればインダス川の東にある広大な「タール砂漠」が壁となり

 インドへの被害を少なくしてくれる

 そういう意図によるものである

 この砂漠にも少数であるが神々(悪魔)を置き、被害の拡大を防ぐとか

 

【アバドン】が生んだ蝗はどうやらただの蝗ではなかったそうだ

 レベル1未満であるが0ではなかった

 その結果、ただでさえ難しい蝗害の対処が更に難しくなり人間ではどうしようもなくなった

 インド神話勢力は今、蝗への対処と【半終末】によって湧くようになった野良悪魔への対処

 この二つに全力を注いでいる

 

 

「しかしこの作戦、えげつないなぁ」

 作戦の規模に感心したら次はその作戦地点が気になった

 なんと最初の対処以外はインド神話勢力にとってのホーム、インドを舞台にはしていないのだ

 常に外に踏み込み内を守っている、この作戦もそうだ

「そうでしょうか? 彼らにして見れば至極当たり前のことだと思いますが」

「そうは言うけどさ、<ライコー>

 この作戦は完全に他国を切り捨てに掛かった作戦だよ」

 何もインド神話勢力にとって他国であるP国を守れとかそんな事を言うつもりはない

 しかし他国を舞台に無断で大規模作戦を行いその被害を所与のものとするその精神性

 これには目を見張るものがある、ここまで割り切る事が出来るのか

 それが神(悪魔)故なのか、守るべきものがある勢力であるが故なのか

「それを含めて、です

 インド神話勢力にとっての優先順位、それが明確な事の証でしょう

 そうでないよりはよほどまともだと思います」

 頷く

 ここまで大きな動きが出来る勢力なんてそうそうないのではないか

 確かな力を感じさせる

 それを可能とするのは勢力としての意思決定がしっかり出来ているという事だ

 方針を立て作戦を練り戦力を動員する、それが出来る勢力だという事である

 しかしそんな勢力がなんで【ガイア連合】にこの作戦の支援を望むんだろ

 

「おそらくそれは地母神の一部が協力を渋ったからでしょうね」

 意外な視点からの予想を聞いた

 俺は今、突然夢枕に立った【クシナダヒメ】様と軽い雑談をしている

 本題の話に入る前の雑談だ

 そして寝る前に考えていた疑問を聞いたらこういう返答を貰った

「地母神がですか?」

 蝗害から穀倉地帯を守るのに渋る理由なんてあるのか

 むしろこの作戦は地母神たちにとっては分かりやすい防衛戦になるのでは? 

 そう首を捻っていると、「これは私の予想だけど」と但し付きで聞かせてくれた

 インドを襲った最初の蝗害、これによる被害は大きなものだったはず

(後で調べたら被害に遭ったのはインド全体の米の一割、小麦を二割生産している州だった)

 その被害の程度によれば飢饉の可能性まである

 その状態で他国に顕現し、氏子の腹を満たす訳でもない物を作る事に権能を振るいたい地母神なんていない

 また地母神の多くは軍事的な成功による名誉を求める性質の者ではない

 余力がある者は勢力としての方針に従うが、そうでないものはそれとなく渋る

 そういう事が起こったのではないか

 なるほど、それによく考えてみれば……

「多分この作戦が成功してもしなくても、遠からず飢饉になりますしね」

 自分の考えを確認するように呟く

 地母神が今後を見据えるなら力の温存を図ろうとするのも分かる

 地母神にとっての本番の戦いはこれから徐々に忍び寄ってくるのだ

「そうなの?」

「はい」

【半終末】によってそれまでの海運が遮断された

 アバドンが生んだ蝗がインドまでの道中を食い荒らしもした

 野良悪魔も湧くようになった、核兵器による被害もある

 世界は混乱している、この状態で現代的な農業なんてとても出来ないはずだ

 例えば肥料、化学肥料等の生産を行いそれを消費地に届ける事が出来るだろうか

 例えば燃料、機械化された農業に必須の燃料をどこまで自給できるか、燃料がなければそれを前提とした農業は出来ない

 そして生産ができても流通の問題がある、必要とする場所に届かなければ飢える

【ガイア連合】の船は大丈夫だが世界の海運を【ガイア連合】で支える事なんか出来ない

 それに仮に出来ても海運だけでも駄目だ

 今はまだ良い、【半終末】が来て間もないから今までの備蓄や貯蓄がある

 しかしそれが無くなるのは早いはずだし、より終末が進めば機械もまともに動かなくなる

 結局は【半終末】前のあらゆる産業が破綻するのは時間の問題なんだ

【ガイア連合】の想定にあった「既存の社会の崩壊」はこういう所から来たのか

【終末】対策を施した生産設備を有するシェルター、【悪魔】による保護がなければ生きられない世界か……

 

 あっそうだ

「それで今日来たのはどんな理由ですか?」

【クシナダヒメ】様の方から用があったから来たはずだ、なんだろ

「この件とちょっと関係がある事なんだけど……」

 今、世界中に神々(悪魔)が顕現している

 顕現しているが何もそれは「勢力」としての活動でしているとは限らない

 個人的な欲望やMAG目当てに顕現する神々(悪魔)もいれば

 つい見かねて、で個人的に顕現してしまう神々(悪魔)もまた多いらしい

 特に地母神には後者の傾向があり界隈では「地母神を拗らせた」などと言われているのだとか

 どんな界隈だと思ったが黙って聞く

 とある地母神がインドにいた

 後先考えず自分の寺院の近くで悪魔に襲われる人を助けるために無理して顕現してしまった

 そしてその地母神は一度助けた人々を放ってはおけず、顕現した寺院で人を守護する事にする

 そうするとその地母神を頼りに悪魔に苦しめられた人々が保護を願い徐々に寄り集まってきた

 ここまでは良かった

 問題は彼らの食い扶持である、単純に食料が足らなくなった

 廃村寸前の村の寺院に顕現した地母神の下に人が集まって来たのだ

 碌に食料などなかったし持ち込まれなかったし足らない

 その地母神は困った、困ったけどどうにもならなかった

 顕現する時に身を軽くするため豊穣神としての側面を削りに削り、【鬼女】として顕現してしまっていたからである

 戦闘の事だけを考えるのであればそれで良かった

 しかしこれでは権能を使えない、頼ってきた者を飢えさせるだけになる

 霊格さえ取り戻し権能を使えればどうにかなるはずだ

 しかし霊地も弱く、強い氏子に信仰されている訳でもないため得られるMAGも少ない

 これでは霊格を取り戻すことが出来ない

 という事で同じ神話勢力の地母神に援助を願い出る、が断られた

 地母神たちは自分の氏子の為に権能を振るうのに忙しく、他所に回すMAGは無いのだ

 そこで伝手を辿って【クシナダヒメ】様の所に救援要請が来たという

 救援要請とは言っても実質は「加護を持っている氏子(俺)」の派遣依頼だ

 正直そんな話をされても困るがまずは、

「なんでそんな話が【クシナダヒメ】様の所に?」

「その方が日本でも祀られているからよ、【鬼子母神】って名前で」

【鬼子母神】、元々は豊穣神としての側面を持つヤクシニー(女の夜叉)であり

 悪鬼としての側面も持ち、それが更に釈迦によって改心させられ仏教を守護する天部(神)となった女神である

 【鬼子母神】は安産と育児を司る女神だ

 人の肉の代わりにザクロを食べなさいと諭された話は有名だろう

「【鬼子母神】ですか……」

 女神転生では【地母神ハリティー】として度々登場するが、

【鬼女】というから【ヤクシニー】だろうか

 ハリティーでもヤクシニーでも結構レベルが高かったと思う

「現地に顕現した姿は【鬼女ストリゲス】らしいわ」

 まったく関係がなかった! 

「あの、鬼子母神ですよね? なんでまったく関係ない鬼女になってるんです?」

「それが劣化分霊というものなの。

 地上に降りた時の身体と魔界の本霊が違うのはよくある事なのよ」

 レベルが低い、弱いだけじゃない事もあるのか

 まあ【鬼女ストリゲス】なら豊穣神としての面がないのも納得だな

 この鬼女は子供の血を吸う鬼としての面しかない

「それで救援って言うのが……」

 要約すると、信仰でMAGを手に入れて霊格を取り戻して【悪魔変化】で【地母神ハリティー】になりたい

 そうすれば豊穣神としての力も使えるようになる

 豊穣神としての力を使えれば「霊地改変」も出来て、今より多少マシに出来る

 だから「現地で地母神ハリティーを名乗っている【鬼女ストリゲス】の所に来て代わりに豊穣の力を振るって欲しい」という事らしい

 それで【地母神ハリティー】を信仰するMAGが【鬼女ストリゲス】に流れ込んで強くなれたなら

 そのうち【悪魔変化】で【地母神ハリティー】になれるはずだから、というものだそうで

「それ、地母神に普通に余裕ある時でもお断りされる案件だと思いますよ」

 手伝った上に信仰も【鬼女ストリゲス】が総取りするなら手伝い賃以外に儲けがないし

 多少のマッカでそういう仕事をする状況でもないだろう

 ちょっと都合が良すぎる事を言っていると思う

「そういう事なのよね……」

 とちょっと困った顔で【クシナダヒメ】様も頷いている

 報酬は霊装、もしくはスキルカード

 やる事は村付近で加護で作物を育てる事、これが仕事になるらしい

 断っても良いらしい

 

 

「という事で<ライコー>

 どっちの仕事を請けるべきだと思う?」

 最近、妙に感度が良くなって来た「霊感」的にどっちかが儲けに繋がりそうな気がする

 良い事に繋がる予感がするのだ

 但しどっちがそうなのか分からない、もうちょっとはっきりさせて欲しい霊感である

「どちらの仕事も請けず、今まで通りで良いと思われますが……」

 <ライコー>は堅実派なようだ

「<シロ>と<ユキ>……は意見なさそうだな」

 二匹ともさっき起こしたのにもう寝ている

 また起こすのも悪いから寝かせておこう

 少し考える

 こう言っては何だが、報酬は実益という観点で見るとどちらも弱い

 マッカか霊装もしくはスキルカードか、

 と言ってもマッカであればレベル上げが出来ないから実質経験値をマッカに換えるような物

 今の俺に何か急いでマッカを稼がないといけない理由は特にない

 霊装等の方はもっと悪い、何せ具体的に何を出すのかというのがまだ決まっていないらしい

 なるべく良い物を選ぶらしいと言ってはいたがこれではお話にならない

 どちらもさほど魅力的ではない、と言ってしまっても良いだろう

 しかし霊感が引っ掛かる、二分の一で大当たりならこれは少々惜しい

 日時が被っていなければ両方とも請けても良かったかもしれない、いやでも報酬がなぁ

 うーん……

 迷ったので表が出たら【インド神話勢力】、裏が出たら【鬼子母神】

 横だったらスルーと決め靴を放って見た

 裏だった

 そういう事になった

 

「という事で聖女ちゃん、インドに行って仕事してくるんでレベル上げは休みにして良いですか?」

「良いよー、その間適当に過ごしてるから」

 

 では【クシナダヒメ】様に仕事を請けると言おうとしたが

 しかしその前に気になった事がいくつかある、確認しておかねばならない

「今更ですけど【渡航制限】ありますけど大丈夫ですか? 

 それと渡航手段が……」

【ガイア連合】の注意を無視して行くほどの事でもないし

 何か月も掛けて移動した先でのお仕事、だったら絶対請ける気はない

 本当に今更だけどそこが気になった

「それは大丈夫よ、【トラポート】出来る人を借りるわ。

 それに危険が及ばないように【契約】もいくつか交えるの

 契約書の文面も【ガイア連合】の方に作ってもらうつもりよ」

 それで許可も下りる予定、と【クシナダヒメ】様が言う

 準備が良い、いやそれくらいの準備をしてもらえないならそもそも請けれないんだが

 仕事を請ける事を伝える、そして少し疑問に思った

「【クシナダヒメ】様はなんでこの仕事にそこまでするんです?」

 【ガイア連合】との交渉等手間がかかったはずだ

 他所の神(悪魔)の為にそこまでする理由ってあるんだろうか

「融和政策」

 融和政策?

「【鬼子母神】は日本で確かに祀られている神の一柱。

 そしてその上司は【毘沙門天】、この国で祀られている者同士、仲良くするべきじゃない?」

 そんなものかもしれない

 その後、いくつかの注意事項を聞かされる

 1、もし現地で【パーンチカ】等の偽名を名乗れと要求されたら断る事

 2、現地人には【ハリティーの使い】とだけ名乗る事

 3、現地の食べ物を口にしない事、口にしないで済むよう食べ物を持ち込む事

 4、誘惑されてもはねのける事、等々である

 受け取る報酬は「スキルカード」にした

 そうしたら「後は私に任せなさい! 良いの貰って来てあげるから!」と、

【クシナダヒメ】様が胸を張って仰った

 大丈夫なんだろうか、なんだか不安だ

 

 そして事務の人には紹介された仕事は断り

 数日、いつも通りのレベル上げを行い、準備を行い

 インドに跳んだ

 

 




主人公視点じゃ多分出てこない設定

融和政策と書いて切り崩しと読む
「日本の神の縁で私に頼ったんだからお前は日本の神だよなぁ!」と
日本にいる【鬼子母神】に圧力を掛けれるようになった
鬼子母神は、インド→中国→日本と渡ってきた外来の神である
なおクシナダヒメ的には「氏子に小遣いあげる為におつかいをさせる名目」という気持ちの方が強い
夜叉は財宝の神であり豊穣の神であるのでカモ
毟れれば美味しいカモだった
軽い気持ちで話を聞いたら思ってたより図々しい事言われて、えぇ…となった

最後にした注意事項はほぼ全てNTR対策である
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