コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

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第二部6話

 今、俺は機上の人である

 正確には鳥上の人だ、そして

 

「という訳だな君、やはり偉大な者は偉大な者に乗って現れるのだよ

 つまりより偉大なる者に乗られている者は偉大という訳で~」

 話が長い……

 

 

 仕事をする村まで【トラポート】でひとっ飛び、だと思っていたらそうはならなかった

【トラポート】には正確なイメージや目印、縁がある物

 そう言った物が必要とされる事がある

 慣れた人なら地図を見てその地点に飛ぶ事等も出来るらしいが

 残念ながら【半終末】になってその地図もどこまで頼って良いのか怪しくなった

 現在行われている【トラポート】は安定した霊地から霊地へ行く【トラポート】が多いという

 という事で、俺はインドの霊地まで【トラポート】して貰い

 その先で迎えの現地の悪魔に乗ってその村に行く事になる

 その迎えの現地の悪魔も俺を輸送する為に用意されたというよりも

 来る大作戦に向けての物資輸送、そのついでに俺を運ぶという形で行われているものだから

 寄り道も多く中々着かない、そのせいで今どこにいるのかもわからない

 そうなって来ると暇だからか何故か悪魔の方から話しかけてくる

 空を飛んでるのに何故かしっかり会話が出来るから無視する訳にも行かない

 これが【悪魔交渉プログラム】の弊害か……

 

「つまり私の本霊である【ガルーダ】はそれはそれは立派な者という事だ、分かるかね?」

 相槌を要求されている気がする

「そうですねー【スパルナ】さんも立派ですからねー

 ならきっとその本霊もさぞや、という気になりますねー」

 話しかけてくる迷惑な悪魔は霊鳥【スパルナ】である

 俺たちを乗せたうえで大量の物資を積んで空を飛んでいる働き者の悪魔だし

【美しい】のは確かであるから褒めるのに拒否感はない

 しかも妙に乗り心地も良い、風も当たらない、まったく落ちる心配がない

 だけど度々ヨイショを要求されるのはなぁ

「そうだろう、そうだろう!」

 とご満悦のようだ

【ガルーダ】なら普段から信者にこれでもか!ってくらい称えられてると思うが

 それでは足りないんだろうか

「君も力強き者足らんとするなら自分が騎乗する者の格はよく考えるように

 相応しい者に乗ってこその威厳、というものがあるからして~」

 なるほどなるほど、そうなのかー

 <ライコー>の方をチラと見る、<シロ>を撫でててこちらを見ない

 助け船はなさそうだ、俺がこれの相手をしなきゃいけないのか……

「いつかは【スパルナ】さんみたいな立派な方に乗れるようになりたいですね」

「残念だがそれは無理だろうな!何せ私は本霊が【ガルーダ】の特別な【スパルナ】なのだよ!

 これほどの霊鳥はそうは居るまい、諦めたまえ!はっはっは!」

 機嫌良さそうだなぁ、悪いよりは良いけど

 でも良い機会だからちょっと聞いてみよう

「浅学の身にて申し訳ないのですが、

 やはり【本霊】が素晴らしい方だと凡百な者とは違いますか?」

「はっはっは!見ればわかるだろう!違うとも!よろしい、私が教えて進ぜよう!」

 

 この世とは違う世界である魔界、そこには【概念】の存在になっている【本霊】がいる

 地上で生まれた悪魔でもない限りはこの【本霊】が【分霊】を派遣する事で悪魔が湧く

「ここまでは良いかね?」

 頷く、座学で一通り習った範疇の事だ

 さて、そんな悪魔であるが地上に顕現する時、確かな差が生まれる

 その差による違いが【高位分霊】と【劣化分霊】である

 大まかに言えば【本霊】がより力を注いだ特別な悪魔が【高位分霊】という事になる

【劣化分霊】はその逆だ

 なぜ差を生むかといえばそもそも地上に顕現するという事はコストが掛かる事であるから

 そのコストを軽くする為である、また強い存在は顕現できる状況も限られる

 そういった事情で高位と劣化が生まれる

「【高位分霊】であれば話は簡単なのだよ、より本霊に近く、より強いのが【高位分霊】だ」

 しかし【劣化分霊】にはその劣化の具合によって一口に劣化分霊と言っても差がある

【姿形】【権能】【霊格】を落とすのは当たり前

 更には【種族】すらも違うものになる事も珍しくない

 鬼神がただの妖鬼に、地母神がただの地霊に、女神がただの妖精に、なんでもござれだ

 そうして霊格を落として顕現された者は

 霊格を上げて力を取り戻したりも出来るが、それも簡単な物ではない

「しかし出来ない訳ではないのだ!本霊から特別な支援を貰う事も、

 強いスキルを取り戻すことも、本来の強さを得る事もな!

 本霊が特別な者はやはり特別であろう!この私のように!」

 そして【劣化分霊】も顕現する事に失敗して【スライム】として降りる事もあるという

 ちなみにこの【スライム】が【ガイア連合製シキガミ】の原料の一つだ

 原料の素であった魔界の【本霊】のスキルや姿形等をいくらか拝借する事で力を得る

 俺の<ライコー>は名付けと元ネタの縁で「本霊通信」が繋がり本霊と分霊の関係になったが

 このスライムの素である本霊由来で縁が生まれる事も多いらしい

「スライムになんぞなったら悲惨だぞ、まったく知性も何もない故な、

 これでは何のために顕現したのかわからぬよ、それに比べて私は~」

 突然自慢が入るのは何とかならないものか

「元々【スパルナ】は【ガルーダ】の異名、異称、別側面!

 その【スパルナ】の中にあって【ガルーダ】を本霊とする私は言わば

【スパルナ】の中の【スパルナ】!わかるかね!これが!」

 わからん

 

 まあここまでは大体事前に学んでた事だ、俺が知りたいのはその悪魔の気持ちの方だ

「それで気になる事があるんですが……」

「何だね?何でも聞いてみたまえ!」

「結局、【分霊】の方は【本霊】の存在があるから地上にある自分の命は失っても怖くない

 そういう事なんでしょうか?」

「君、中々にセンシティブな事を聞くねぇ」

 もう二度と会うかわからん悪魔だから聞いたんだぞ、普通はこんな事聞かない

「さてこれには何と答えるべきか、神らしく「自らの命を惜しむのは定命の者のする事だ」

 とでも答える事も出来るが、それは望むまい?」

 頷く、まあそんな返答貰ったら「じゃあお前の命は安いんだな!」と判断するが

「君がそのような疑問を持った理由もおおよそわかるとも!君が戦士であるが故に!

 だがしかしこれには一般論で答えるしかあるまい、「その者の事情による」と!」

「事情、ですか……」

「はぐらかしている訳ではない、聞きたまえ!」

 まず一つの要素を語ろう

 魔界の本霊の存在は悉く強大な者である、これはもう断言して良い

 そしてその本霊が地上に分霊を出す、しかしこれは何か狙いや意図が必ずしもある訳ではない

 羽毛が抜け落ちるように生まれる分霊もまたある、このような分霊には本霊は何も期待しない

 精々が地上からMAGやマッカや貢物を持って来てくれたら良いな、程度だ

 これは高位や劣化、強い弱いではなく本霊の篭められた気持ちの話である

 そして何か目的があって顕現した悪魔はその目的達成の為に当然自らの命を惜しむ

 そうでない者はそこまで惜しむ事はない、本霊も死のうが生きようが気にしない

「比較的【高位分霊】の方がこのように目的を持った分霊がいるがそれだけであるな。

 ギリギリ顕現できる【劣化分霊】を何とか出した、という事も当然ありえる

 これは一概には言えないだろう」

 かく言う私も【劣化分霊】だ、特別製だがな!と語る【スパルナ】

 どう特別製なのかはわからないが言いたい事は何となくわかる、頷いた

 更に言えば当初は何の期待もしていなかった分霊が目に掛かり、という事もあり得るのだ!

 世の中何があるか分からんな、と結ぶ

 次に分霊の方の事情を語ろう

 生まれたてのどこにでもいる分霊にとって自らの身を惜しむだけの理由は何があるか

 それは一に本霊が費やしたコストである、これが真っ先に来る

 本霊が同じ地で同じ側面から同じコストで同じように顕現させれば同じ自分が顕現するのだ

 そんな自分に価値を見出すことは難しい、自己の保存欲求はこの時点ではそれほどない

「この時点では?」

「まあ聞きたまえ」

 しかし分霊はあくまで「同じような分霊」というだけで全くの無個性という訳ではない

 食べ物の好き嫌いや笑い所が違う程度の個性なら最初から備わっている、本霊の複製ではない

 この分霊が経験を積み、自らの過去と未来を手に入れ更なる個性を得た時

 身を惜しむだけの理由が生まれる、何故なら分霊が死ねば本霊に吸収される。

 本霊が再度その分霊の経験を意図して篭めて顕現させない限りそれは絶対に失われるのだ

 地上で得た全てのものを失う事になる

 つまりこの時その分霊の「個」にとっての死が生まれる

「我々は個性を得る事で死を得る、とも言えるな。

 失うものを得たから生に執着する、と言っても良いだろう」

 つまり……

「命乞いをする悪魔の多くはそれだと?」

「とは限らない」

 限らないのか

「元々死ぬ、消えるというのは気持ちが良い物ではない故な!

 本能的に嫌う者も当然いるだろうさ!理屈でも何でもなく好き嫌いでな!

 誰だって痛いのも苦しいのも嫌なのだよ!」

 まあそうだろうなぁ

「また、生まれながらにして個性を持つ特別製もいるのだ!この私のように美しい~」

 色々と長々語った上で結論が「その者の事情による」であった

 

 目的地に着き、下ろして貰う

「ではまたな!」

 また?

「迎えに来るのも私と決まっている!その時また語り合おう!

 私は知性的な話は大好きなのだ、知性的であるが故な!はっはっは!」

 と叫んで飛び去って行った

 スマホを見る、お試し版の【アナライズアプリ】を入れていたのだ

 解析が済んでいた

 レベル15、霊鳥【<お調子者の>スパルナ】と出ていた

「なるほど、個性があるわ……」

 

 

 降りた地点で少し考える

「<ライコー>、ここは異界と思え、警戒を」

 頷き、武器を抜く<ライコー>

 懐の<ユキ>や指輪の<シオン>は出さないで良いだろう

 油断という訳ではない、襲われた時にこの二匹が隠れていれば奇襲になるはずだ

 相手に知性があればの話だが

 遠くから【スパルナ】が降りてくる様子が見えたのだろう

 こちらに近寄ってくる悪魔の姿が見える、弱い悪魔だ

 鬼女【ストリゲス】の使いだろうか、とりあえずその悪魔に手を振ってみる

 しかし今の地上には異界化してる所があると知識では知っていたが

 それを実際に見ると驚きが勝るな

 空間が歪んでいる訳でも異界の入り口がある訳でもなく

 本当に普通の地上が異界の雰囲気を放っているのだ、ここは悪魔が闊歩する世界だと感じる

 

 

「ご助力、感謝いたします……」

 と、しずしずと礼を言う鬼女【ストリゲス】

 正直、【クシナダヒメ】様の話を聞いた時は「ずいぶんな話だなぁ」と思ったが

 とてもそういう事を言い出すような人には見えない

 ゆったりとした服装で全身を覆い、頭も隠しているお淑やかそうな女性だ

 この服装に何か意味があるのだろうか

「では、こちらにサインをお願いします」

 報酬等に関する契約は既に日本にいる【鬼子母神】がしている

 そちらの方が踏み倒される心配がないからだ。

 この契約は俺の身の安全を保障するためのものである

 何も言われずさらさらとサインをしてもらった、少し気が抜けた

 サインはきちんと【ストリゲス】の方でされている

 ここは注意しておけと言われていた所だ、ハリティーの方でされていたら無効になる

「こちら、【クシナダヒメ】からハリティー様への贈り物です」

 持っていけ、と指示されていた「ザクロ」を渡す

「これはご丁寧に」

 受け取って貰えた、後は仕事をするだけだ

 

 俺は「ハリティーの使い」として仕事をする

 この地で加護を使って行った事への感謝の念や信仰から生まれるMAGを

 自称ハリティーの鬼女【ストリゲス】に流すためだ

 その為に鬼女【ストリゲス】から渡された「ヤクシャの仮面」を被る

 これによってハリティーの配下である事を示すのである

 それと同時に仕事が終わってこの仮面を返却したら縁が切れるという訳だ

 仮面の下は誰でもあり誰でもないのがお約束というもの

 その仮面を被り鬼女【ストリゲス】から村の案内を受ける

 村の、と言ったがほとんどは畑の案内だ

 既に種を播いてある畑を案内して貰い、どこからどこまで加護を使えばいいのかを確認する

 あそこには豆類を、陸稲を、繊維になる作物を、麦を等の説明を受け

 あちらの方は家畜の餌の為の草原だから何もしなくて良い、そんな事を言われながら歩く

 その最中違和感を覚えた、その正体を確かめたくて立ち止まりじろじろと観察する

 普通の風景だ。

 農道、農業用水路、働く大人、家畜、手伝っている子供たち、見渡す限りの畑……

 分からないな、気のせいだろうか

「何か引っかかるな。何だと思う?」

 俺の斜め前を歩く<ライコー>に聞く。

 <ライコー>は少し、周りを見渡し

「整備されすぎてます、ここは廃村寸前と聞きましたが」

 それに、と続けようとした<ライコー>の声を遮り【ストリゲス】が

「元々この村は貧しくて潰れかけていた訳ではありません。

【半終末】前からの悪魔の被害により廃村寸前まで追い込まれていただけなのです」

 ですから、と続ける

「少し整備すれば十分使えるようになりました、幸いな事です」

 なるほど、歩いていた道を見る、踏みならされたしっかりした道だ

 少し前までちゃんと人が住んでいた所だったからか

「その悪魔はどうされました?」

「私が顕現した際に滅しました、もういません」

 なら安心だ

 

 さて仕事をせねばならない、だが今日はあまりやる事はない、本番は明日だ

 牓示石というものがある

 土地の四隅や重要な地点に境界線を引き、所有権を明らかにする為に置かれた石の事である

 有名なのは「聖徳太子の投げ石」と知られるものだろうか

 昔はこういうのを勝手に動かして裁判沙汰になったりしたそうな

 結界石というものがある

 寺が寺領と俗世を区分する為に置いた目印で、使い方は牓示石と同じである

 上の二つに共通しているのは内と外を分ける目印だ、それによって結界は成る

 適当な大きさの石を洗い俺のMAGを通す。

 これを【ストリゲス】の使いの悪魔に渡し予定の農地の四隅に置いてもらう

 ちょっと遠いがまあいいだろ、この程度でも簡易の結界は成る、脆い結界だが

 この結界が俺のMAGの流出を少し食い止め

 効率よく【五穀豊穣】の加護を発動させてくれるはずだ

 この土地を握っている自称ハリティーからの仕事だから気軽にできる事でもある

 普通の土地を勝手に区切って「俺の領域な!」とかやったら

 その土地の神に喧嘩売るような話だからな

 これで今日の仕事は終わりだ、ほとんど移動時間だった

 

 用意された部屋で暇に苦しんでいると

「ハリティー様より、お食事の用意が整いましたのでよろしければご一緒にと……」

 と使いの悪魔が言ってきた

 何を言っているんだ

「お気持ちはありがたいが、そういうのは無しにと事前に伝えたはずです

 遠慮させていただきます」

 少し横柄な言い方だっただろうか、しかしきっぱり断らねばならない

「かしこまりました」と頭を下げ悪魔は去っていった

 良かった、粘られたら困ってたかも

 それにしても暇だ……

 この村は電化していないのか電力が止まったのか知らないが

 夜になると真っ暗になると言われた、明かりには灯油を使っているそうだ

 する事がないから早めに眠る事にする

「もう寝る事にする、おやすみ<ライコー>」

「はい、おやすみなさい」

 寝た

 

 

 朝である、ようやく朝になった気分だ

 予定では今日は儀式っぽい事を行ってから加護を発動させる事になっている

 仮面を被り外に出て村の中を見回す、皆働いているようだ

 そして昨日来た時より人がいる気がする。

 いや最初からいたはずだ、この村は現在孤立しているに近い状態にある、増える事はない

 おそらく俺を警戒してある程度の観察が済むまで家に居ろとでも指示していたのだろう

 俺が悪意を持った偽物だったら村に入る時点で存亡の危機になってしまうからだ

 人に化ける悪魔なんて探せばいくらでもいるしな、そういう事だろう

 そしてある程度警戒が解けたから普段通りの生活をするようになった

「そのあたりだと思うのですがどうですかね?」

 俺の推理を聞いてもらう、<ライコー>にではない

「間違ってはいません」と答える少女の悪魔にだ

【ストリゲス】の使いであり案内役であり、そしておそらく俺の監視役でもある悪魔だ

 監視はともかく案内は助かる、俺にはヒンドゥー語なんてまったくわからない

【悪魔交渉プログラム】のおかげで現地人より悪魔との方が会話が成立してしまうのだ

 だからいざという時通訳してくれる悪魔がいてくれると助かる

 この悪魔の解析は済んでいた、レベル5の鬼女【アチェリ】だ

 良く見ると影が妙に動いている

 これに気づければアプリに頼らなくても分かったのかなぁ、いや無理か

「であれば、少しは信用して貰えたと思って良いのかな」

「もちろんですとも、大変禁欲的な方でもあられるようですしね」

 チラりと<ライコー>の方を見ながらそんな事を言う、皮肉かな?

 嫁さん連れてきたのはそういう事の為じゃないぞ、頼りにしているからだ

 しかしこの【アチェリ】、口が達者だな

【アチェリ】は少女の悪魔だったはずだが【アチェリ】以外の何かが本霊にいるのかな

【<お調子者の>スパルナ】との会話があったせいかそんな事を思った

 

「<ライコー>、昨日の違和感の正体がわかったぞ、大人が少ない」

 動き回ってる人々を見ながらようやくわかった、大人の数が少ないのだ

 いない訳ではないしかし少ない、子供6に対し大人1くらいか?具体的な比率はわからない

 だから、という訳でもないのだろうが子供たちはよく働いている

 そして大人も男は比較的少ない、そのように見える

 戦闘かなと一瞬そう思ったが違う気がする

 というのもそれなら生き残った者、つまり大人の男たちには覚醒者が多いはずだ

 そういう風にも感じない、わからないな

 まさか生贄で減らしたのか?いやそんな……

 自分の中での地母神像は【クシナダヒメ】様だ

 だからそういう事をするのはどうにもイメージしにくい、追い詰められれば?しかし……

「【アチェリ】さん、どうなんですかそのあたり?」

 案内役に聞こう、こういう時の為の案内役だろう多分

「それは……」

 なにか【アチェリ】が言いかけた所で「カンカンカン」と連続的な金属音がする

 何の音だ

「答えの方から来たみたいですよ」

 答えか

 

 どうやら敵襲のようであった

 あの金属音は見張りをしていた覚醒者が鍋を叩いて知らせていた音らしい

 その音がした瞬間周りの人たちは一斉に適当な家に逃げ込んでいった、慣れてるな

 援護をしようか?と尋ねたら断られた

 今、【アチェリ】に連れられ家の屋根の上から戦闘を見下ろして見ている

 家畜の餌用の草原、と言われていた方から敵がやってきたようだ

 紫がかった身体、細い手足、突き出た腹、アプリを見なくてもこの敵の正体はわかる

 幽鬼【ガキ】の群れだ、レベルは一桁半ばってところかな?10匹ほどいる

 一方の【ストリゲス】陣営の悪魔は、俺の案内役と同じ鬼女【アチェリ】だ

 こちらは7匹ほどで少な目だ

 分からんな、こんな雑魚なら【ストリゲス】なら鎧袖一触なはずだが

 どこにいるんだと探せば【アチェリ】たちの後方から十数人の大人の男性を引き連れている

 何をする気なのか

「良かったです、今回は楽な戦いになりそうですよ」

 とは【アチェリ】の言葉だが俺としてはまあそうだろうな、としか思いようがない

 

 変な戦いだ

【アチェリ】たちが前線で壁を作り【ガキ】に相対し近接戦闘をしている

 そして後方から人間の集団が【ガキ】の方に石を投げている

 だが人間の集団は未覚醒者だらけだ、石が当たっても何の意味もない

 そもそも見当違いの方に投げているようにも見える、【アチェリ】に当たっているのもある

 もちろん【アチェリ】にも効かない

 未覚醒者だから視認する事も出来ないのではないか

 それを補うように集団の中の覚醒者と思われる人間が【ガキ】の方向に指を指している

 消極的な戦闘、味方の邪魔になる事すら出来ない攻撃、控える最高戦力

「【アチェリ】さん、これには何の意味があるのですか?」

 <ライコー>の方を見るがこちらは分かったようだ、<ライコー>に聞けばよかったか

「【覚醒修行】ですよ」

 覚醒修行?これが?

「彼らはこれで「悪魔との戦闘を乗り越えた」という体験を積む事が出来るのです

 それが覚醒の一助になる、そうは思いませんか?」

 思いません

 それで簡単に覚醒できるならショタオジが【俺たち】にやってるわ

 いくら覚醒しやすくなったと言われる【半終末】でもこれで覚醒はないと思う

 せめて悪魔を殺さないといけないだろ

「何度も何度も死の恐怖に立ち向かい、敵に攻撃をする行為。

 そう解釈するならどうでしょう?」

 なるほど、悪魔を死の恐怖と解釈するなら……でもなぁ

「それで今まで覚醒出来た人はどの程度居るんですか?」

「数人ほど」

 うーん、効率悪そうだなぁ、とりあえず【ガイア連合】で採用する事は絶対にない

 それなら【デモニカ】を装備させて銃を斉射させた方が普通に……

「あっ」

【デモニカ】がないのか

 

【ストリゲス】が顕現したこの地はそれほど強力な霊地とは言えない所だった

 それが霊的な素質を強く持って生まれた人間が少ない事に繋がった

 多少の修行、儀式を行っても覚醒出来る見込みが少ない

 もっと足りないのは時間だ、時間を掛けて覚醒させる余裕がない

 ならば無理やりにでも「戦闘に参加」させ、それによる体験で覚醒を図る

 そういう事をしているという

 そこまで覚醒を望むのはひとえにこの地を守る【ストリゲス】の維持の為

 覚醒させ、MAGの生産量を増やし、それによって民を守るのだという

「今回は楽な相手で良かったです、遠距離攻撃がありません」

 そうだな、未覚醒者が悪魔からの攻撃を受けたらまず助からない

 そうはならなくて、と思ったところで気づく

「遠距離攻撃があった場合は……」

「当たれば死にます」

 これが大人の男が少なかった理由か、戦死者か

 しかしそれをしてもなお覚醒者は少ない

「しかし無駄にはなりません

 亡くなった者の遺体からも【ストリゲス】が【吸血】を行います

 彼らの命も、MAGも無駄にする事はありません」

【吸血】を?【ストリゲス】のスキルだろう、それはわかる、しかし

「ハリティーは釈迦によって改心し、人を食わぬ女神となったのでは?」

「必要な事です」

 必要、か

 そして【アチェリ】はこちらを見つめ

「私は嬉しいのです、よくぞ間に合ってくださったと。

 今の集団の半数が死ねば次からは年長の子供たちが入る予定でした。

 そうなればハリティーが子食いをする事になったでしょう。

【ハリティーの使い】が来て信仰を確かなものするならば

 きっと今よりも……」

 

 戦闘は終了したようだ、【ガキ】の最後の一匹が消えた

 彼らが命の危険を冒して石を投げ続けた成果はあったのだろうか

 あって欲しいな

 

 

 さて儀式の時間だ、儀式とは言っても俺はハリティーの神官でも神主でもない

 全部それっぽく見せかけただけの適当な演出だ

 その演出の準備も殆どは【ストリゲス】や【アチェリ】がやってくれる

 俺がやる事はそれほど多くない

 適当に偉そうな事言いながらMAGを注いで加護を使うだけだ

 

「私はこの地に遣わされた偉大なるハリティー様の使いである

 偉大なるハリティー様は特にこの地を守護し愛でておられる

 そしてこの度、ありがたい事にこの地に住む者に格別の慈悲を賜れた!

 この地にある作物はハリティー様の愛の現れである

 この地に降る雨はハリティー様の慈悲の現れである」

 一呼吸置く、俺の言葉を翻訳して人間の覚醒者に伝えている【アチェリ】の姿がある

 覚醒者がそれを伝えるまで待つ

「そも!偉大なるハリティー様は~」

 ハリティーの謂れを語る

 インドの守護神がローカパーラの一柱、北方の守護を司るクベーラ(毘沙門天)

 その眷属に数えて5000のヤクシャあり、そのヤクシャの大いなる者は八柱なり

 この八柱を纏めて八大夜叉大将と言う

 その八大夜叉大将が一柱パーンチカの妻、それがハリティー様である

 そしてヴィシュヌの化身である釈迦により改心した鬼子母神エピソードを語り

 安産と育児の女神となった、右手には吉祥果を持ち左手にて子供を抱くと続ける

「その子を思う心は遥か東の果て(日本)まで鳴り響くなり!

 この地に生きる者全てハリティー様の子と心得よ!」

 周りを見渡す、よしよし、ちゃんと聞いてるな

 全力でMAGを注ぐ

「古語に言う、ヤクシャとは水を崇めるものなりと!

 しからばこれもまた自然の事、天を見よ!」

 空に指を指す

 これを合図に隠れている<ライコー>と<シオン>が【ジオ】と【マハジオンガ】を唱えた

【スサノオ】様の加護が発動し雨が降る

「喝采せよ!偉大なるハリティー様の慈悲と愛に!」

 

 

「恥ずかしい……」

 舞台の上で仮面を被って仮装して、身振り手振りで言葉も通じない相手に何やってんだ

 これでは道化だよ

 普通に作物育てるだけだったらどれほど楽だったか

 しかしあれだな、祝詞って便利だったんだなぁ全部定型文だもんな

 多分昔の人も俺と同じような恥ずかしい思いをしたから考えたに違いない

 あの後「ハリティー!」の唱和の中「祈りを捧げる」と言って用意された部屋に戻った

 今頃はこの雨の中にょきにょき育った畑の作物に気づいている頃だろう

 ちゃんと実る量のMAGを注いだ感覚がある、この村一帯の畑は全部実ったはずだ

 収穫大変だろうなぁ、俺には関係ないけど

「<ライコー>、俺もうこういう仕事はしなくていいかなって……」

 泣き言である

「そうですね、もうこのような仕事は受けなくてよろしいと思います

 それにもう終わりました、明日迎えの者に乗って帰るだけです」

 頷く

 

 そして身悶えたり<シロ>にダニやノミが付いてないか確認したりして時間を潰していたら

【ストリゲス】の使いが来た、案内役の【アチェリ】とは違う【アチェリ】だ

「食事の誘いなら申し訳ありませんが……」と断ろうとしたら

「ハリティー様がこの度の事で是非お礼を申したいと」と言われた

 まあこういうのも仕事のうちか、と思って<ライコー>と一緒に行く事にする

 

【ストリゲス】の部屋で一通り礼を言われる

 テーブルの上の菓子類や酒、お茶も勧められるがそちらは断り、持参した飲み物を飲む

 インドらしく部屋にはお香の匂いがするがあまり好きな匂いじゃないなぁ、軽く話をする

「では、ハリティー様への信仰は高まりつつあると?」

「ええ、この調子ならこの身体を維持する事はもちろん、

 霊格を上げ変化する事もそう遠い日ではないでしょう、改めてお礼を申し上げますわ」

 ならよかった、こちらも対価を貰う予定だし数日がかりの仕事だったんだ

 無為に終わったんじゃやった甲斐がない。

 そして徐々に【ストリゲス】は語りだした

 自分がこの地に顕現したは良いが、霊地も弱く信仰も弱くどうにもならなかった事

 特に覚醒者がどうにも増えず、自分の事を見る事すら出来ないものが多くて困っていた事

 信仰も集まらず力を失い続けこのままでは村が悪魔に飲み込まれると思っていた事

 そして、今までの犠牲は無駄ではなかったとポツリと言った

 起業したは良いけど赤字続きだった、みたいな話かな?とちょっと思った

 

 それから少し雑談をしていた

「日本にはこのような言葉があるそうですね。

「異国の鬼となる」と」

 正確には中国の言葉ですけどね、中国のとある古典にある言葉が由来だ

 中国だと鬼という言葉は幽霊のイメージらしく、

「外国で幽霊になっちゃったよー」くらいの解釈で良い、もちろん死ぬという事だ

「それが何か?」

「素晴らしい言葉だと思います、

「異国の鬼」に、この地の者になっていただけませんか?」

「異国の鬼はそういう意味の言葉じゃないですよ、解釈間違っていると思いますね」

「では……」

 何か続けようとした【ストリゲス】の言葉は遮られた

 俺の案内役をしていた【アチェリ】が突然部屋に入ってきた

 そして「失礼します」と言い【ストリゲス】に手紙を渡す

【ストリゲス】はこちらに一言詫びてから手紙に目を通し

「残念ですが、【自由恋愛】の時間は終わったようです」

 そんな時間はなかったと思うが

「本当に残念ですわ」と言う【ストリゲス】は軽く【アチェリ】の方を睨んでいた

 

 

 翌日、案内役で見送りをしてくれる【アチェリ】と共に迎えの悪魔を待つ

 いつ敵が来るか分からないから【ストリゲス】は村で待機だ

 大仰な見送りにならなくてほっとした

 村にいると崇められて大変居心地が悪かったんだ、通じない言葉でも何となくわかる

 暇だから少し疑問に思ったことを聞く

「【アチェリ】さんの本霊をお聞きしてもよろしいですか?」

 そう言うと何でもない事のように

「私は日本にいる【鬼子母神】の分霊ですよ」

 ??

「分霊が分霊を生む事が出来るのですか?」

「ある程度の格があれば」

 なるほど、思えばある種の悪魔の使いもそういうものだな

「ここにはあなたとこの地の【ストリゲス】、その目付として派遣されました」

「それは、面倒をお掛けしたようで……」

 なのか?よくわからないが

「良いのです、むしろ逆ですから」

 はぁ

 

 迎えの悪魔が来た

 遠目からでもわかる【スパルナ】だ、おそらく【<お調子者の>スパルナ】だろう

「ではそういう事で」

「はい、ありがとうございました」

 

 

 また鳥上の人になった、【<お調子者の>スパルナ】が最初から無闇矢鱈と話しかけてくる

 適当に相槌を打ち、ついでに聞きそびれた事を聞こう

「【スパルナ】さん、不躾な事を聞いても良いですか?」

「私と君の仲ではないか!なんでも聞いてくれたまえ!」

 どんな仲だよ

「あなたのアイデンティティは何ですか?

【ガルーダ】ですか?【スパルナ】ですか?」

 これが気になってしょうがなかったことだ。

 この【スパルナ】は【ガルーダ】を本霊とする事を自慢している

 しかしこれは【ガルーダ】視点からすれば

 自分が自分である事は当たり前のことだから特別な自慢にはならないし

【スパルナ】視点かと思えば、別側面である自分を持ち上げてるという事になる

 どっちから見ても微妙だ

「私は私だとも!私は個性を持つ者であるが故に!

 だから君!もし私に何かあったら悲しんでくれても構わんよ!」

 いやどうだろ、悲しむ必要あるか?

 

 色んな所を周り、【スパルナ】が積んでいた荷物を降ろしまた飛ぶ

「インド神話勢力の作戦、成功すると良いですね」

「安心したまえ!既に成功は約束されているのだよ!」

 約束?確実に勝てるという事か?

「これほどの大作戦、必ずや人々は神の力を感じるはずだ!

 信仰は絶対に得られる、絶対にだ!」

 そして一際力強く羽ばたき

「例え敗北しても失敗はないのだ!これが神の戦いよ!はっはっは!」

 これが神の考え方なのだろうか

 

 

 今回の仕事は悪魔の価値観の一端に触れられると思ったが

 どうもこの【スパルナ】の言う事はどこまで一般化して良いか分からないな

【ストリゲス】も分からない

 自分の身を衰えさせてまで領地と氏子たちを守ろうとしていた

 しかもそれが人食いに近い、吸血を行ってまでだ

 最悪の場合は善神として祀られる【ハリティー】や【鬼子母神】ではなく

 鬼としての色合いが強い【ヤクシニー】や【ヤカー】になってしまったかもしれない

 本霊、という者の性質を考えればそれは望まない事のはずなんだ

 概念の存在は概念の影響を受ける、悪神の誹りを好んで受けたいとは思えない

 それでも、と行ったのは【ストリゲス】の気持ちだろう

 やはり悪魔にも、分霊にも個があるのだ

 本霊と分霊の関係とは、それによって生まれる感性の違いはなんだろう

 彼らは俺に理解できる価値観を持っているのだろうか

 分からないな、それに仮に持ってたとしても俺はどうしたいんだ

 まあいい、今回の件で少し悪魔に対する理解が進んだ気がする

 別に急ぐ必要はないさ

【スパルナ】に乗りながらそんな事を考えていた。

 

 




【<お調子者の>スパルナ】の特別な部分
ガルーダの持つ、身体の大きさを自在に変えることが出来る、という特徴を再現されていた
荷物運び用である
こいつがお調子者な理由?お調子者だからです

古語に言う
言いません、そんな語源説があるだけです

【ストリゲス】が自由恋愛とか言い出した訳
ガイア連合は転生者の自由意志を重んじるからスキルや薬物等を使用しての恋愛沙汰はNG
だけどクシナダヒメが求めている「手を出したら死ねや!」レベルで契約で縛るのも
主人公とクシナダヒメの関係をクシナダヒメの既得権益として見做すようでよろしくないよね
という事で、あくまで主人公の自由意志が大事なんだよ!って趣旨の契約の書き方をしたら
じゃあ自由恋愛でこっちに持っててやるわ!最低でも何人か種付けさせよとなった
全部ライコーに妨害されたし、日本の鬼子母神の分霊にも妨害されたけど
主人公は自分の監視役だと思っていたけど監視対象は違った
現地の物を飲み食いしない、日数短い、嫁さん同伴
元々攻略難易度が高かった


【アチェリ】が持ってきた手紙は既に一度読んだ手紙
「そこそこ養えるようになりそうだから男手なら受け入れるよ」と
インド勢力にお手紙送ったら「じゃあ上手く行ったら何人か送るわ」って手紙が返って来てた
それを再度読ませて水を差すのと同時に
「もうここらで満足しておけ」と釘を刺した

主人公のおかげで信仰をしっかり得てMAGの心配がなくなり、いつかはハリティーになれそうで
氏子の飢えの心配もなくなって、追加の人員も得られるようになった
これ以上を求めて私(代金建て替える日本の鬼子母神)に迷惑かけるの?と言う意図である
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