コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
とりあえず【ケットシー】と【カブソ】を風呂に入れ洗った
(後で気づいた事だが悪魔だから蚤の心配とかはいらなかった)
そして【星霊神社】の方で手続きを行い正式に引き取り
契約書をいくらか余裕を持った数を購入し、契約する
これで<ケットシー>と<カブソ>はうちの子になった
【悪魔召喚プログラム】を介しての契約ではない、何故かそういう事になった
<ケットシー>と<カブソ>はまずは<シロ>の仲魔であり
俺の「要請」に従い「動員」される「<シロ>の戦力」である。
故に使いたい時はその都度【悪魔召喚プログラム】で契約して使う、という事らしい
そして使わない時は解約するという事になった、もちろん解約はプログラムの方だけだ
普段は【悪魔召喚プログラム】では縛らないという事になる。
「貴重な枠をいつも私どもで埋める必要はないという事です。
私としてはいつもストックしていただいて結構ですが」
「にゃーはそんなのは嫌ニャ!休暇はちゃんと欲しいニャ!」
なるほど、二匹にしてみれば【悪魔召喚プログラム】で契約している時は仕事
していない時は休暇、という事になるのか
これはこれでメリハリが利くかもしれない
ところで戦闘時は三重契約になるけど良いんだろうか、こんな縛られまくりでは窮屈な気が
猫たちは戦闘時は「<シロ>との契約」「俺との契約」「悪魔召喚プログラムでの契約」の
三重契約になってしまう。
そう心配すると<カブソ>が言った
「だから普段は【悪魔召喚プログラム】の方は勘弁してにゃ。
あれ、いたずらも出来なくにゃるから息苦しいにゃ~」
この二匹は【悪魔召喚プログラム】での契約を体験したことがあるらしい。
今の【悪魔召喚プログラム】が出来てからあるいは出来る過程で、
技術部が実際に悪魔と契約や召喚等の各種実験を行っていて
その実験に二匹のような保護された低レベル悪魔が駆り出されていたらしい。
その実験での感想がこの「息苦しい」だ
【悪魔召喚プログラム】での契約は純粋に戦闘向けの契約であり
特に戦闘の事であれば絶対服従に近いものを悪魔に強いる。
そして戦闘外でも召喚主に害をなす「恐れのある」行動は著しく制限される
そういう事になっている、注意事項にそう書いてあった。
それは確かに息苦しいだろう、しかし人間には必要な事だ。
今のところ【悪魔召喚プログラム】の召喚機能はあくまで召喚機能だ
悪魔のデータ化からの実体化や【COMP】への収納機能なんてものはない
だから召喚される悪魔は、召喚される前はどこかに待機しているという事になる
そんな仲魔たちの待機所をどこかに作るという話も動いているそうだ
とはいえ俺はそこを利用する事はないだろう、俺の仲魔は我が家から召喚される事になる
「俺が家にいない間に度が過ぎたいたずらをするようなら
我が家の守護神(源頼光様)に叱ってもらうからな?」
「おみゃーがいる間の度が過ぎないいたずらで我慢するにゃ」
それで良い……良いのか?<カブソ>の耳をムニムニ揉みながら少し疑問に思った
それにしてもこいつ、毛触り良いな。
その日はそれで終わった
<ケットシー>と<カブソ>が仲魔(仲魔の仲魔、略して仲魔)になってから数日が経った
俺は今、仲魔を求めて異界に居る
異界という物は適切に管理をしていても徐々に変化をする物らしい
それは出入りしている覚醒者たちのMAGや認識、現れる悪魔たちや異界ボスの性質、
それら複数の要因によるもので、
ある程度の制御こそ出来ても完璧なコントロールは難しいのだという。
だからこそ【ガイア連合】は都合が良い異界があればそこを管理し狩場として使い
あるいは資源を得られる土地として使い、あるいは農場として使う。
異界としてある程度確立している物を維持しその環境を利用するのであれば
比較的楽に管理する事ができるからだ。
もし変化も含めた完璧なコントロールが出来るのであれば一つの大規模異界を手にすれば
それで全て用が済む、だけどそれが出来ないからこういう形で異界を利用する。
いずれは異界管理技術が発達し解決するかもしれない、だけどそれは今ではなかった。
では、その異界の変化が望ましくない物であればどうなるのだろうか
管理者としての異界ボス、その手にも余るようであれば?
その答えの一つがここにある
俺がまだ初心者の域を脱していない頃、かつてマッカ稼ぎの為に働いた異界
通称【ピクシー異界】、そこの消滅が予定されている。
「懐かしさ、はあんまり感じないな……」
自分にとって濃い思い出を作ったリーダーたちの姿がここにはないからだろうか。
それとも自分が知っている【ピクシー異界】の姿と微妙に違うからだろうか。
あの頃のこの異界の構成要素は「山と森、それと平地」で、それは今も変わらない
しかしその山と森が今、重機によって削られ続け遠目に見える風景すら変わっているのだ。
もちろんこれは「異界の変化」によるものでも異界ボスが行っている事でもない
【ガイア連合】が行っている事だ。
消滅が決まったこの異界から資源を採取するために大量の重機を用いて
木を爪で切り倒し、山の斜面を爪で掘り返し、それらを異界の外へ運び出している
木も土も鉱石も低レベルとはいえそこそこの期間を異界で過ごした物であり
霊的な力を僅かに帯びている、それらを異界消滅前に可能な限り回収するのだ
多脚戦車の脚が少し大きくなったような重機がワラワラと俊敏に動き森を削っている姿は
中々に世紀末的な光景に見えた、率直に言って悪夢みたいだ。
こうして採った資源が何かしらの役に立っている。
そしてこの異界に来たのは消滅する予定のこの異界を見納めに、というわけではない
この異界にはいるのだ、低レベルの【ジャックフロスト】が。
この異界の消滅、有り体に言えば廃棄が決まったのにはいくつかの理由がある。
まずこの異界で長く生き残った【ピクシー】の一部が力(MAG)を得た。
通常、悪魔が十分なMAGを得ればそれは霊格の強化、レベルを上げる事にまず使われる
しかしここは管理異界、雑魚悪魔の強さの限界が定められ
それを超えた者は異界ボスによる容赦のない討伐の対象になる。
これでは霊格の強化をする意味がない、そこで【ピクシー】たちはこう考えたのだろう
「なら霊格を上げること以外に使えばいいじゃない」と
こうして一部の【ピクシー】たちがおそらく本霊にMAGを捧げ、様々なスキルを得た
そのスキルの中には魅了の状態異常を確率で与える魔法【マリンカリン】や
至福の状態異常を確率で与える魔法【ハピルマ】等も確認された
そしてスキルを得る事以外にもMAGを使った者もいた
彼らが得たのは【悪魔変化】である
この異界には今、低レベルの悪魔の種類が妙に多いのだ。
この異界は「低レベル向けの狩場異界」でありながら
「厄介な状態異常を使う敵」を含む複数の種類の悪魔が不規則に混在、
初心者覚醒者では少し難易度が高い異界、となった。
よって消滅が決まる、この異界は「狩場異界」としての分を超えてしまったのだ
一度雑魚悪魔の完璧な掃討が行われれば元に戻るだろう、一部の個体がいるだけだからだ
しかしそれをするほどの価値はないと判断された。
この異界の特徴であった【ピクシー】ですらもうそれほど珍しくはない。
【半終末】を期にそれまで以上に多様な種類の悪魔が日本の異界から湧くようになり
その中には【ピクシー】も含まれている。
外様や移民の影響か【半終末】になった事での影響か、それはまだわからない
何はともあれ、この異界の消滅はそう遠くない時期に行われる。
<ケットシー>と<カブソ>を召喚する
仲魔集めの他に異界での【悪魔召喚プログラム】の使い勝手も見ておくというのが
今回の目的の一つだった。
「どうだ?何か違和感はあるか?」
何度か召喚と送還を試してみたがちゃんとした異界に召喚するのはこれが初めてだ。
召喚された二匹は自分の身体を軽く見てから
「特に違和感はありません」
「大変ニャ!持病の腹痛を思い出したニャ!これは帰らないといかんニャ!」
うん、問題はなさそうだ。
「【ヒュギエイアの杯】【メディラマ】」
まずは二匹の為にこの二つの魔法を使う
大丈夫だと思うが突然奇襲されて死んだら嫌だからな、この二匹はそういうレベルだ。
これで多少はその不安が薄れる。
【ヒュギエイアの杯】はちょっと前に覚えた補助魔法である
その次に行う回復魔法の効果を上げ、上限を超える回復量をチャージしてくれる魔法だ
ゲームではHPの上限以上の回復をしてその上限以上に増えたHP分をHPとして扱えた
実質HPの最大値を増やす魔法だった。
この世界でもその効果は少し違うが存在する
ある程度まではダメージを受けた端から回復する、という効果になった
軽い検証の結果「ゲームより使いにくそうだなぁ」と思ってしまったのを覚えている
何せアナライズしても数値化されたHPなんて見る事が出来ないからな、
いつまで、どの程度回復するのかわからない
とは言え使える魔法なのは確かだ、レベルも30を超えるとこういう魔法も覚えるらしい
レベル上げをした甲斐を感じる。
「じゃあ【ジャックフロスト】を探してくれ。
それ以外の悪魔と接触しても戦う必要はない、戦闘を避けれるなら避けろ。
人と遭遇しても攻撃はするな逃げろ、状況次第で【ガイア連合】所属の俺の名前を出せ。
それでも攻撃してくるなら敵だ」
どうせこの異界の悪魔相手では稼げるマッカも経験値も大したものじゃない
【ジャックフロスト】は妖精だ、目の前で同じ妖精を殺しまくれば反感を買う可能性もある
当たるを幸い薙ぎ倒し、なんてする意味がないのであれば避けるべきだ
「では、行ってまいります」「見つけたらご褒美希望ニャ!」
猫たち、<シロ><ケットシー><カブソ>が別動隊を作り別れていく、偵察猫分隊だ
何かあったら、あるいは見つければ<ケットシー>か<カブソ>のどちらかが
俺の方に伝令をする事になっている。
契約の繋がりがあるから何か特殊な事情でもない限り猫たちが俺を見失う事もない。
本来ならこういう役目はテレパシー持ちの<シオン>の方が適任なのだが
お試しで運用を模索している最中という事だ。
俺たちは俺<ライコー><シオン><ユキ>の本隊だ、こちらも探して歩き回る
この場に聖女ちゃんはいない
一応誘ったのだが聖女ちゃんは聖女ちゃんで【悪魔召喚プログラム】を手に入れており
目星をつけた仲魔にしたい悪魔がいて、そっちを仲魔にするために動いているんだそうだ
ついでにPT活動もしばらくは休む事になった
活動再開は新しく得る仲魔、その関係構築やある程度の連携の訓練を終えてから、
そういう事になった。
また聖女ちゃんはこの機会に【ガイア連合】が譲渡の対象にしている使い魔の一つ
【トウビョウ】受け取りの申請を行うらしい。
「ニュー聖女ちゃんをよろしく!」と言っていた。
「見つからないなぁ、【ジャックフロスト】」
「そうですね」
しばし途方に暮れる。
あれからしばらく歩き回ったのだが中々見つからない。
見つかるのは【ピクシー】や【コダマ】、たまに【カーシー】だ。
せっかくの猫分隊も「見つからなかったにゃ」と言って揃って合流してきた、諦めたのだ
「お疲れ様」と言い<シロ>を撫でて地図を見て次に向かう方向を決め、畳む。
少し考える。
考えてみればこの異界での【ジャックフロスト】の成り立ちは
【ピクシー】が変化して成った【ジャックフロスト】だ。
異界から湧いて来る雑魚悪魔ではない、あくまでそういう変化をした個体がいたという話だ
その個体たちが既に死んでおり、あるいは誰かの仲魔になったりしていたら
この異界からは消えてなくなる存在、という事になる
もしかしたらもういないのか。
資料には何年にも渡って確認等と書かれていたので
当たり前の様にいると思っていたがそれは浅慮だったかもしれない。
しかしなぁ、契約できる低レベルな【ジャックフロスト】ってあんまりいないんだよなぁ
中々諦めきれない。
【ジャックフロスト】、女神転生のマスコット、代表する悪魔と言っても良い悪魔だ
登場しなかった作品を挙げる方が早いという位に登場している
レベル一桁後半から10代後半、あるいは20半ばと、作品ごとにレベルの差が激しい
耐性は氷結が反射もしくは吸収、火炎弱点、が多い。
大きな頭、短い手足、雪だるまの体、丸い目、半月型の口を持っていて
青いブーツを履き、首には青いギザギザの襟巻、二つに分かれた頭巾を被っている。
そんな姿で描かれてヒーホーヒーホー言ってる愉快な奴らだ。
元の伝承はイングランドの雪と霜の妖精であり、姿も小人や老人等も伝わり
実に多様である、多様であるが
女神転生の【ジャックフロスト】は女神転生の【ジャックフロスト】だ
伝承の事は考えなくていいだろう、もし考える必要がある【ジャックフロスト】がいるなら
それは女神転生の【ジャックフロスト】ではない。
いやまあ、女神転生らしからぬ【ジャックフロスト】がいても不思議ではないが……。
俺のPTに足りない氷結属性の攻撃手段、そして氷結への耐性を持つこの悪魔、
契約できる範囲の低レベルの【ジャックフロスト】を目当てに来たのだ。
「しょうがない、やれる事はやるべきだ」
せっかくの遠出だ、何も成果もなしには帰りたくない
猫たちも気疲れするほど探し回ったのだ
「という訳でお嬢ちゃん、俺たちは怪しい者じゃないんだ。
【ジャックフロスト】と友達になりたくて来たんだ。
なのに見つからなくてへとへとなんだよ」
ふんふん頷いてる【ピクシー】たちに作った笑顔で語り掛ける。
「本人を紹介してくれたら【チャクラドロップ】を二つ。
見つけてくれたら一つ、居場所を知っている子を紹介してくれたら一つ。
これでどうかな?悪い話じゃないと思うが」
「うーん悪くはないけど、さすがに友達を売るのはね」「そうねーそれはちょっとねー」
売るなんて人聞きの悪いな
「いやいや、売るんじゃないよ、引っ越し先と就職先を紹介するだけさ。
それに君たちも知ってるだろう?この異界がそろそろ消えるって」
頷く【ピクシー】たち、そう彼女たちはこの異界が消えると知っていたのだ。
今日も俺と同じようにこの異界で仲魔を得ようとした【俺たち】の誰かから、
そしてその前からこの異界を管理しているボスからも聞いたのだと言う。
おかげで説明をする手間が省けた。
「これは【ジャックフロスト】の助けになる事でもあるんだ。
俺も仲魔が増えると嬉しい、君たちも飴で美味しい、誰も困らない話だよ」
駄目かな、微妙に反応がよろしくない
諦めかけていた時、俺の交渉を聞いていた<ライコー>が声を掛けてきた。
「友達の身の安全が気に掛かる、というのならば
交渉が決裂しても殺めないと正式に契約を交わしても良いでしょう。
こちらにはその用意があります」
そう言われた【ピクシー】たちが「それなら」と態度を緩和してきた
諸々の条件と
「交渉が決裂してもそれを理由に【ピクシー】【ジャックフロスト】は殺さない」
で契約を交わし紹介して貰える事になった。
なんてちょろい連中だ、口実なんていくらでも付けられるのに
他人事だが少し心配してしまう。
「ありがとう<ライコー>、良く分かったな」
交渉が決裂しても【ジャックフロスト】を殺す、なんて考えていなかったから
その観点はなかった。
交渉決裂したら「じゃあ他のジャックフロストを紹介してくれ」と交渉するつもりでいた
【ピクシー】たちが気にしていた所はそこだったのか
「ええ、彼女たちからすれば我々は圧倒的強者ですから……」
なるほどなぁ、強者の気まぐれで殺されたくはないもんな
「騙された……」
【チャクラドロップ】を頬張る大量の【ピクシー】たちを見て呟いてしまった
20匹くらいいるか?美味しいだの甘いだの言って喜んでいる。
舐め終わって<ケットシー>や<ユキ>に跨ったり遊んでいるのもいる。
<シロ>と<カブソ>は玩具にされるのが嫌で逃げ出してしまった
<ライコー>はそんな俺たちの様子を見て微笑んでいる……
「人聞きの悪い事言うわね!私がいつ騙したって言うのよ」
「じゃあ早く紹介してくれ」
「【ジャックフロスト】の居場所を知っている【ピクシー】は集めたわよ?」
そう、【ジャックフロスト】の居場所を知っている【ピクシー】を紹介してくれた
問題はその【ピクシー】が【ジャックフロスト】の居場所を教えてくれなかった事だ。
その【ピクシー】は【チャクラドロップ】を抱きかかえている【ピクシー】を見ながら
「私を紹介したその子が飴を貰えたのに何で私は何もなしなの?
せめて同じ内容で契約するのが筋ってもんじゃないの?」と言った
なるほど、道理である。
そう思いその【ピクシー】とも同じ契約を行った。
そしてその【ピクシー】は紹介してきた。
自分と同じように【ジャックフロスト】の居場所を知っている【ピクシー】たちを。
やられた……。
悪魔交渉の為に作った笑顔と猫なで声が引っ込んだ。
「という訳でだな【ピクシー】、もう【チャクラドロップ】は二つしかない。
そろそろ【ジャックフロスト】を紹介してくれてもいいんじゃないか?」
悪魔交渉の難しさを思い知らされた俺が【ピクシー】にそう言うと少し考えてから
「そうね、もう良いかしら……誰か!【ジャックフロスト】を呼びに行きなさい!」
その【ピクシー】が声を上げたら群れの中の一匹が飛び立って行った
これでやっと本命の相手と交渉できる……
交渉材料の一つだった【チャクラドロップ】を失ったけど
「ヒーホー!お兄さんはおいらに何の用だホー?」
【ジャックフロスト】が【ピクシー】に引っ張られるようにやって来た
なんだかこれだけでもう達成感を感じた……
【ジャックフロスト】との交渉は順調だった。
こちらのレベルや求める事、実際に契約した<ケットシー>や<カブソ>のコメントなど
そこそこに好感触だ、そしてもう一押しな気配を感じる。
ここは水を向けてみるか
「【ジャックフロスト】の方から何か条件があれば考慮するが」
「ホー?」
首を傾げ、こちらを見てから少し悩んだ【ジャックフロスト】は語り始める
「……知っての通りおいらは【ピクシー】から【悪魔変化】した身だホー……」
この異界はもう終わる、異界ボスからも語られたし何度もそう言ってくる人間も見た
それまでしていなかった突然の自然破壊を見るとそうなんだと思う
でもそうなるとおいらたちは一体どうなるの?死んじゃうの?それは嫌だ
だから契約する事は嫌じゃない
でもそれならおいらの友達の【ピクシー】たちも何匹か連れて行って欲しい
独りぼっちは不安だし、群れの中で一人助かる事にも罪悪感を感じる……
「って言えってそっちの【ピクシー】に言われたホ!」
「おい!」
ちょっとしんみりした気持ちを返せ!
まあ何はともあれ【ジャックフロスト】の条件は
同じ群れで生活していた仲魔も何匹か連れて行って欲しいという事で良いらしい
群れに対する義理だそうだ。
これが悩む、一匹なら悩まなかった、しかし何匹かは複数を意味する。
【悪魔召喚プログラム】は同じ種族の悪魔は一体しか契約できないと決まっている
猫たちと同じように【悪魔召喚プログラム】とは別に契約を結び、
戦闘する予定の日だけ【悪魔召喚プログラム】で、というやり方をするにしても
使える【ピクシー】は一匹だけで他は使えないという事になる
【悪魔召喚プログラム】に拠らない契約だけで戦闘に出すという手もあるが
正直それだと戦闘時に裏切られないか不安が残る
【悪魔召喚プログラム】の強力な契約があるからこそ仲魔にしようと思える、
そして戦闘に出せる、そういう面も確かにあるのだ
俺との緩めの契約だけで戦闘に連れていける信頼がある<シロ>や
使い魔として生まれた<シオン>、同じく使い魔として生まれ育った<ユキ>とは話が違う
ましてやこの異界の【ピクシー】は「この異界のピクシー」だ。
やはり戦闘に連れ出せる【ピクシー】は一度に一匹だろう
そうすると【ピクシー】たちには戦闘時以外は別の形での貢献を求めざるを得ない
もしくは普段は何もしなくていいくらい戦闘や探索で物凄く有用なスキルがあるかだ。
とは言え戦闘での貢献は【ピクシー】にはそれほど期待は出来ないと思う。
何せ【ピクシー】だ、まあそういうのがあれば嬉しいが……。
という訳で、希望者への面接を行い有用なスキルを持っている【ピクシー】を選抜する
選べるほど希望者なんているのか?と思ったらこれが結構いた
【ピクシー】だって異界ごと消滅なんてしたくないのだ。
「【おまじない】出来ます!」「採用!」
「材料とMAGがあれば【チャクラドロップ】作れます!」「採用!」
「えーと、えーと、その……農作業手伝います!」「採用!」等々、中々の出物だった
不思議な事に希望者全員の採用が決まった。
しかし少し気になる事がある
この流れを作った【ピクシー】、最初に俺と交渉したその【ピクシー】は希望しないのだ
持ち込んだ契約書だけでは足らなくて当座の契約書として使ったメモ帳を仕舞う。
正式な契約書を購入しそれで契約するまではこれが俺と【ピクシー】たちの繋がりになる
丁寧に扱わないといけない。
「お前は、希望しないのか?」
俺が連れていく【ピクシー】を選ぶ姿を満足げに見ていた【ピクシー】に恐る恐る聞く
「私はこの群れのリーダーだからね、
最後の一匹になるまで群れの面倒を見るのが私の仕事よ」
そして俺の頬にキスをして「だから残念だけどこれでお別れ、ありがとね」と言い、
その【ピクシー】は群れを率いて去っていった
仲魔になる予定の【ピクシー】たちはその群れが見えなくなるまで手を振っていた。
異界の出入り口までの道を歩く、歩く
目的をしっかりと、いやそれ所か多めに達成したはずなのにどこか気が重かった
帰る途中、多数の重機が森林を切り開いてるのが遠くで見えた
きっとあの【ピクシー】はこの光景を見て、この異界が消滅する実感を得たのだ
歩き、立ち止まり、振り返り【ピクシー】たちがいるであろう山の方向を見る
最後に感じた頬の温もりを思い出す。
あの温もりの持ち主が、このままだとこの異界と共に消える。
「どうしたホー?」
俺の後ろを歩いていた【ジャックフロスト】が聞いて来る
一度自分の考えを整理しようとして失敗し、思ったことが口に出る
「……ずいぶん前にこの異界に来てさ、俺は結構えぐい事を【ピクシー】たちにしたんだ」
ああ、何を言っているんだ俺は……。
誰かに聞かせた所で何になるわけでもないのに
「後悔してるんだホ?」
「していない」
俺は異能者でデビルバスターで、私利私欲で以って悪魔と戦う身だ
それにあの後も数えきれない程の悪魔を殺してきた、実際何匹殺したのかもわからない
まだ初心者から脱してなかった頃の経験の一つ、その程度までもう風化している
あれからもう何年も経ったんだ。
あの時の俺は【ピクシー】を獲物にしていただけ、そういう事だ
ふと自分が【ディア】を掛けてしまった【ピクシー】の事が頭によぎった
あの【ピクシー】は今は何をして……馬鹿な事を考えた、その後の戦闘で多分殺してる
俺たちの手で。
「じゃあなんだホ~?」
なんだろうな
「多分、後ろめたさがある。
自分が酷い事をした事の生き残りを仲魔にするかもしれない恐怖がある。
酷い事をした相手の同族に、何かする事を偽善だと思う気持ちがある」
分からない。
「俺は別に償いをする事を求めていたわけでもないし、そのつもりで動いたわけでもない
あの【ピクシー】も多分そういう事は知らなかったと思うしそのつもりはないんだろう」
自分の腹の中から気持ち悪い何かを感じる
「俺が【ピクシー】を選抜した判断の中には損得やコスト以外にも、
「もし俺に恨みを持つ【ピクシー】がこの中にいたら」という思いもあった」
リスク管理、というには少々違う気がする
レベル差や契約の強制力まで含めて考えれば臆病風というべき程度の話だ。
「もう何年経ったと思っているんだホ、その頃の【ピクシー】なんてもういないホ
異界の【ピクシー】だって死んだり生まれたりするんだホ」
うん、まあその通りだろう。
「【ジャックフロスト】、あの群れのリーダーをやっていた【ピクシー】は……」
他に仲魔になる当てはないのか?そう出そうになった言葉を飲み込む。
いたら通りすがりの俺に仲魔を託すような真似はしない、分かり切った事だ。
支離滅裂だ、俺は何が言いたくて言葉を重ねたんだ?
立ち止まる俺と【ジャックフロスト】の会話に退屈を感じたのか、
【ピクシー】たちが<ケットシー>に飛びついた。
<ケットシー>は迷惑そうだ、猫が困った時の耳の向きをしているし尻尾も垂れてる。
<ケットシー>を馬にしたいようで<ケットシー>は押し倒されそうだ。
【ピクシー】たちの笑い声が聞こえる
その光景を意味もなく眺めながら考える
俺はあの時、群れのリーダーの【ピクシー】に仲魔になる事を希望しないのかと聞いた
あの時の俺は希望して欲しいと思っていたのかもしれない。
そういう形で仲魔になって欲しかったのか、なんでだ、分からない
踏ん切りが欲しかったのか?何のために?
ふと、別れ際に見えなくなるまで手を振っていた【ピクシー】たちの姿を思い出した。
手を振られていた【ピクシー】たちは振り返らなかった。
多分、きっと……
「うん、そういう事になるのか」
たまには流されてもいいだろう。
何に流されるのか分からないが。
「<ケットシー>、それと【ピクシー】たち」
声を掛ける
「あの【ピクシー】の群れを探して伝言をしてくれ、
「良ければ群れごと仲魔にならないか」って」
そう言うや否や【ピクシー】たちは花が咲いたような笑顔になり
「あっち!あっち!」と<ケットシー>を急かせて来た道を戻ろうとする。
【ジャックフロスト】もヒーホー言って追いかけていった。
微妙に引き離されてる、足が短いからかな。
「<ユキ>、彼女たちの護衛を、
俺はもう少し平地まで出る、視界が遮られるような場所に長居はしたくない」
森も山の斜面もどちらも嫌だ、敵が突然飛び出してくる事を想像してしまう
例え【マッパー】や<シオン>の偵察があってもだ。
<ユキ>は「クゥーン」と甘えた声を出し俺の足に首元を擦り付けてから走って行った
良い子だ。
「良いのかにゃ?きっと誘ったら仲魔になるにゃ。
あの群れに残っているのは碌なスキルもにゃいから無理だと思って諦めてた奴らにゃ
そんな奴ら面倒なだけじゃないかにゃ?搾りカスにゃ」
<カブソ>がこちらを見上げ猫のように目を細めて聞いて来る、いや猫だから良いのか。
「面倒だな。
今のうちの疑似異界じゃちょっと狭いから広げなきゃいけない、金もかかる
特に悪魔を多く入れるんだ、万が一を無くすために管理を厳重にする必要がある
それらの金額を回収できるのかわからん、出費だけになるような事は避けたい。
そこまでしても戦力化は怪しい、高い衝動買いだよ」
畑分を考えれば広さがあるが、あれは売りに出す作物だ
何か影響があった場合を考えるとなるべく【ピクシー】たちとは別けるべきだと思う。
そう考えると手狭になる、広げれば出費になる。
だから何か【ピクシー】を使った金策を考えるべきだろう、しかし
「とは言え【ピクシー】の20匹程度、その10倍でも余裕で支えられるMAGはある。
維持はどうとでもなる、一時的な出費もガチャで爆死したと思えばそれ程でもない」
言い訳ばかりしている、我ながら良くない事だ。
俺は自分に対する言い訳がないと【ピクシー】を拾う事もできないのか
情けない話じゃないか、したくてする事に理由と言い訳を求めている。
そのくせ自分に対する言い訳ですら自分を誤魔化し切れていない。
「群れごと引き入れると何かと面倒にゃ、頭だけでも潰した方が安全にゃ」
その通りだ。
「それだったら最初の【ピクシー】たちだけ確保するのが安全で一番利益が出たさ、
でも、もう決めたんだ」
今回は情に流される事に、多分そういう事だ。
ふーっと<カブソ>は息を吐いて
「じゃあにゃーからはもう何も言う事はにゃいにゃ」
そうか、ありがとうな、気にしてくれて
撫でる俺の手を<カブソ>は鬱陶しがった
平地に出る、そして少し歩いた所で人を見つけた
【デモニカ】を着ていて【ピクシー】を肩に乗せている、多分【俺たち】の一人だ
なんとなくそんな気がする、大体この勘は当たるのだ
何やら何匹か【ピクシー】を集めて語り掛けているようだ
少し気になる所があり近づいてみる。
【ピクシー】たちが来るまでの時間を潰せるかと思った。
「だーかーらー!この異界はそろそろ終わるの!避難しましょうよ!」
【デモニカ】を着た人の肩に乗っている【ピクシー】が声を張り上げて言う
しかしそれを言われている【ピクシー】たちは
「そうなのかー」「初めて知ったね」「異界が終わるとどうなるの?」「知らんなー」
と糠に釘な感じだ
うーん考えて見れば妖精なんて種族的にヒーホーみたいなもんだもんな。
色々と軽いなぁ。
「こんにちは」
と少し距離を置き声を掛ける、そうすると
「わー!」「にんげんだー」「気づかなかったわ」「突然現れるなや!」
と叫び【ピクシー】たちは散ってしまった、これは逃げる機会を窺ってたな。
「ああ、もう!あの子たちはっ!」と【ピクシー】は怒っている
興味本位で近づいて悪い事をしたかもしれない
「えっと、ごめんなさい?」「いえいえ、お気になさらず」から会話が始まった
聞けば、デモニカの人の仲魔である【ピクシー】はこの異界出身で
この異界が消滅すると聞き、少しでも同じ【ピクシー】を助けたくて
デモニカの人が「おねだり」されてこの異界に来たのだという
(何故かおねだりをデモニカの人が強調してた、こだわる所なのだろうか)
今日の目的は「人間に友好的な【ピクシー】等の悪魔の保護」
この異界から避難をして【星霊神社】に保護して貰うつもりなんだそうだ。
いずれは【デビルオークション】を介して【ピクシー】たちが世話になる所を見つけたいと
なるほどな、その手があったか。
思いつかなかった、そういえば今までも一部の友好的な悪魔の保護をしていたな。
とは言っても今更だ、一度仲魔になるかと誘っておいてやっぱり他の所に、は駄目だろう
「でもあんまり成功しないんですよ、人望がないんですかね」
とはデモニカの人の言だ。
その言葉に彼の【ピクシー】が
「避難した後は人任せって言って信用して貰えるわけないじゃないの!
そこはぼかすか騙しなさいよ!」と怒る
それで良いのか?
「俺は【ピクシー】には嘘を吐かないって決めてるんだ。
今は亡き【ピクシー】にそう誓ったんだっ!!」
と芝居がかったわざとらしい声で腰に差した透ける羽飾りが付いたナイフ、
おそらく【ピクシーナイフ】だと思われるそのナイフを撫でるデモニカの人。
俺はこのナイフが妙に気になっていた、力を感じる。
「もしかしてそのナイフは……」
そう質問しかけた俺に被すようにデモニカの人が言う
「えぇ!【ピクシーナイフ】ですよ!俺の最愛にして最初の【ピクシー】の形見!
あぁ!【ピクシー】!どうして君は去って行ったんだ!俺は悲しい!
一緒にメギドラオン【ピクシー】を目指そうって約束したのにぃいい!」
物凄くわざとらしい声と身振り手振りだ……うざい
そして【ピクシー】が切れた
「すぐ戻ったんだから良いじゃないの!そう責めないでよ!
それにちゃんと手紙も残したじゃない!」
「ばーかばーか!ああいうのは三行半って言うんだよ!
俺の心が癒えるまでずっとネタにするもんね!反省しろばーか!」
「馬鹿はあんたでしょ!馬鹿!」
もしかして……
「「ピクシーナイフ事件」の人ですか?」
デモニカの人が笑顔で頷いた。
そうか
感情が揺れる顔を他人に見られたくなかった、逃げるように立ち去ってしまった
少し失礼したと思う
「ピクシーナイフ事件」、最初の魔晶変化が確認された事件だ
目が覚めたら仲魔が魔晶変化していたという事件だった
俺はこの事件を、サマナー側の気持ちが仲魔に通じなかった
人と悪魔の価値観の相違が大きすぎた、そんな可能性を捨てきる事が出来なかった
今ならそうじゃないとわかる、
あの【ピクシー】は自らの我を持っての再度の顕現が出来ると思って
その身を魔晶変化させ、その後あのサマナーのところに帰ったのだ。
理由も理屈もわからない、何かあるのだろう。
もしかしたら何か前提が違うのかもしれない、それはどうでも良い事だ。
サマナーを捨てた訳でも見切りをつけた訳でもなかった、それだけで良かった
それが嬉しかった。
「なあ<ライコー>」
「なんでしょうか」
「ちゃんと、悪魔にも気持ちは通じるんだな……」
俺のその言葉に<ライコー>は「当たり前でしょう」と言葉を返してきた
当たり前?
「私、この<ライコー>も悪魔の身です。情も気持ちも通じますよ」
そう言って<ライコー>は俺の手を握った、柔らかく温かかった
そうか、そうだな、うん。
遠くからこちらに来る<ユキ>や<ケットシー>、そして【ピクシー】の群れの姿が見える
どうやら俺の仲魔になってくれるらしい。
多分長い付き合いになる、上手く付き合いたいな。
そう思った。
★妖精<ジャックフロスト> Lv8
魔法型 ステタイプ魔体 氷結吸収 火炎弱点
スキル ブフ マハブフ ディア 同族のよしみ
※ピクシーから変異したジャックフロスト、ディアはピクシー時代のスキルが残った物
PT内での氷結属性担当を期待され、常に悪魔召喚プログラムでストックされる
主人公はヒーホーくんとかフロストとか呼ぶが定着しない
なおどの呼び方も嫌な顔される
ピクシーたち
ピクシー23匹 低レベルジャックフロスト1匹 低レベルカーシー1匹の群れ
各作品の普通のピクシーが持っている類のスキルを持っていたり持っていなかったりする
主人公が思っているよりも戦闘経験豊富で、命が軽い
群れとして戦う時はカーシーにハピルマ持ちピクシーがタンクデサントして強襲、
初手カーシーのハッピーダンス、デサントしたピクシーのハピルマで無力化、フルボッコ
ハッピーダンス、ハピルマが効かなかった場合はカーシーのトラフーリで離脱
という戦い方で主に異界内の悪魔(コダマ等)を大量に狩っていた。
人間は精神状態異常が効かない奴(式神)を連れていることがあるので避けている
一度それで痛い目を見た
ジャックフロストは範囲攻撃担当、開幕マハブフでトラフーリをする時間を稼いだり
あるいは敵に逃げられないようにマハブフで状態異常の凍結を与える役目だった
ピクシー異界の生態系の最上位はピクシーである、例えどれほど可愛らしくても
このような群れが生まれたからこそピクシー異界の消滅が決まったとも言える
主人公は戦力としては期待していない、何かすることが見つかればいいなと思っている
某源頼光は非戦闘時の彼女たちを「領民」として認識する、つまり徴税の対象である
カーシーは速攻でシロにボコられて上下関係が決まった