コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
<ケットシー>の話
私が生まれたのは何という事もない平凡な異界の一つでした
その異界は後に知った霊格の基準で言えば、
レベル8の異界の主と2から4までのレベルの雑魚がいる、その程度の異界でしたから、
平凡よりも有象無象という表現の方が適切かもしれません。
今はもうその異界は存在しません、やはりその程度に評価される異界だったのでしょう。
もちろん私は異界の主、ボスと呼ばれるような多少は特別な存在という訳でもなく
ありふれた「雑魚」の中の一匹に過ぎません。
スキルもそして本霊も含めて特筆する所なし、その程度の悪魔です。
有象無象の異界に湧くこれまた有象無象の悪魔の一匹、そう言っても構わないでしょう
そんな私が生まれた異界と運命を共にしなかった理由、それは気まぐれによるものでした。
私自身と、強者による気まぐれ、それが私を救ったのです
ある日、生まれた異界の山の中を特に理由もなく歩いていると人の気配を感じたのです
その人は後に名を知る事になりました「デモニカスーツ」なる鎧の如き霊装を身に纏い
そして道に迷っていました。
異界で迷うとは何と愚かな人なのでしょう、とその様子を見ていて面白くなった私は
しばしその人を眺め、飽き、多少の気まぐれを起こしました。
「もし、道に迷われたのでしたらよろしければ案内いたしますが?」
その言葉を聞いた覚醒者は戸惑い、迷い、そして頷きました。
そして私は異界出口に繋がる道まで案内しました。
「ここまで来たらもう道はわかるでしょう?それでは……」と去ろうとした所引き止められ
「助かったよ!ありがとう!【ドルミナー】!」の言葉で眠りに付かされました
このようにして私は異界から連れ去られたのです。
なんなんでしょうね……起きた時、何があったか全く理解できませんでしたよ。
これが私が【星霊神社】に保護されるに至った経緯です。
どうやら私は「保護」されたらしい、と事情を呑み込むのに少し時間がかかりました。
しかしどうも私が寝ている間に話が進み、覚えがない契約をどことも知れぬ者と交わし、
【星霊神社】の者となってしまった事は動かしようがない事のようです。
MAGの供給まで行われていました。
ここまで来ると「そういうものだ」程度の理解はするようになるのです
諦観とも言います
そして【星霊神社】の者となって数日後、私の「保護」を頼んだらしい「誘拐犯」
道案内の対価が【ドルミナー】だった不逞の輩が私に会いに来ました。
どうも「保護」したというのは彼の主観では真らしく語ってくださりました
「案内してくれた悪魔が異界ごと消えるのが可哀想になってな」
そう、私の生まれた異界はこの者に存在を報告された後、攻略され消えてしまったのです
私が会った事もない異界ボスの討伐という形で、私が【星霊神社】で戸惑っている間に。
だから「保護」であり「善意」であるというのは真なようです。
別に惜しむような命ではありませんしさほど嬉しくもない事ですが、
そういう事であれば私は彼に恩があるのでしょう
感謝するべきかもしれません。
「私に何を求めるのでしょうか?」と率直に聞きました
マッカの提供かあるい仲魔になる事くらいはしても良いでしょう、そう思っての質問でした
もしかしたら、この時は何かを期待していたのかもしれません。
しかしそれを聞かれた彼は
「えっいや、特にないよ」
と予想外の事を言われたという様子、鳩に豆鉄砲と言うのですかね、ああいうのは。
そして「じゃあそういう事だから」とだけ言い、去っていきました
彼とはそれ以来会っていません、彼にとってはその程度の事だったのでしょう。
それからの日々は特に何もありません、日々が過ぎて行った、それだけです。
しかし何もない日々だからこそ思う事はあるのです。
「私は何のために生きている?」「私は何故消えていない?」
そう思うのです。
答えは「ただの気まぐれ」
私が道案内したのが気まぐれなら、そんな私を彼が「保護」したのも気まぐれです。
特に利益もなく助けるほど善意の者にも普段から義理堅い者にも見えませんでした。
それが当たり前、普通
私はただ「気まぐれにより助かり、生きている」
そこに善悪理非も、要求あるいは何かを願われることもない
ただ消えずにいる。
私は確かにちっぽけな悪魔です、しかしこれでは身の置き場がないというもの。
拠り所がない事の不安とそれを求める気持ち。
時が経つごとにその事を感じるようになりました
異界に居れば本霊にMAGやマッカを送る事を生きがいに過ごせたかもしれません。
戦闘が身近であれば生きていたいという気持ちだけで生きようと思えたかもしれません。
しかしこの場にそれらはなかった。
悪魔とは享楽的な者も多いようですがどうやら私はそうではなかったという事らしいです
おそらくそちらの方が楽しく生きられたと思います、正に損な性分という奴ですね。
そんな私にも転機が訪れるというのですから世の中は捨てたものじゃありません
まあ、もう【半終末】で世界は神に捨てられてるようなものですけれど
【悪魔召喚プログラム】なる霊装の実験が行われている、というのは
私と同じように保護された悪魔の間では早い段階で知れ渡りました
そしてその霊装の概要もまた知られるようになりました。
私たちにとってもそれは無縁なものではなく、興味を惹かれるのは必然であったと言えます
何度かその実験に協力し【悪魔召喚プログラム】の実態を知り
希望が湧いてきました
この霊具は悪魔と契約し、従わせ戦いに駆り出すための霊具なのです。
それが私が見る限りほぼ完成と言っても良いだけの物になっていました。
そしておそらく異界内の悪魔、それとの交渉や契約は危険なものになるでしょう
そうであるならば【星霊神社】に保護された私たちに需要が生まれます
既に契約済みである私たち相手なら安全に契約が出来るのです、悪い話ではないはずです。
何者かに望まれ求められ、何かを為し、そして自分の居場所を作れる!
力を手に入れ、ちっぽけなどうでも良い悪魔ではなくなる
きっとそうなる、私の胸に熱が入りました。
それだけただ無為に過ぎる時間が辛かったのです。
そんなある日、私と同じように実験に協力していた悪魔
魔獣【カブソ】に誘いを掛けられたのです
「美味しいはにゃしがあるんだけど、どうかにゃ?」と
「それでうちの<シロ>を紹介された、と」
主の主様が私を後ろから抱え込みお腹を触りながら相槌を打ちます、くすぐったいです
身の上話と言っても特に語る所はありませんでしたね。
まあ他に語る所と言ったら、<シロ>様に
「力が欲しいか、欲しいなら」とか
「もしもお前がそれを望むのなら……」とか意味深に言われて少し恐怖した程度ですか
まるで悪魔のようでしたよ、特に意味はないそうです。
「ないのか……」
はい、ちょっと期待したのですが交渉の為に適当言っただけだそうです。
まあ私、ただの<ケットシー>ですからね。
「まあそうだなぁ」
私を撫でるのに満足したらしく主の主様は「じゃあ」と言い去って行きました。
<カブソ>の話
にゃーは【冥土の道連れ】っていう変なスキルを持っているにゃ
死んだら敵に攻撃するスキルにゃ。
にゃんでこんなスキルを持っているかはわからないにゃ
「猫を殺せば七代祟る」からだと思うにゃ、まあどうでもいいにゃ
それで目を付けられて首根っこ掴まれて捕まって保護されたにゃ
その後は<シロ>様に首根っこ掴まれて捕まったにゃ
「お前捕まってばかりだな」
まあそうにゃ、話はこれで終わりにゃ
「そっかー」と納得してしばしにゃーの耳回りを撫でてから主の主はどこかに行った。
毛繕いをしながら思う。
自分はとりあえず「外れ」を引いた訳ではないらしい、と
<シロ>様に誘われ多少の労を取ったのは無駄じゃなかった
猫というのは見た通りに気分屋な奴らが多くて集めるのが大変だったのだ、
その苦労分は取り返せそうな主と主の主だ。
共に戦うだけなら甘ちゃんは困るが、自分の命を握るなら甘ちゃんくらいで良い。
同居人のような存在になった【ピクシー】たちの件でそう思った。
今でも思い出せる事がある。
自分は【星霊神社】で保護されたといってもそれは結果でしかない
自分は彼ら【ガイア連合】の者から興味の対象になる要素があった。
この【冥土の道連れ】だ。
このスキルを持っている者はどうも珍しかったらしく、
検証、実験されてしまった。
それが済んでから保護されたのである。
このスキルの検証とは、つまり自らの死亡によって発動する攻撃の事だ。
「恨みを抱いてから死んだら威力が増すのか、そうではないのか」
「精神状態異常、例えば魅了状態で死んだ場合、攻撃対象は誰になるのか」
「相手の存在を認識できない状態で死んでも効果はあるのか」
「自分を攻撃した存在を勘違いしながら死んだ場合はどうなるのか」
「このスキルを発動させる目的で自害をしたらどうなるのか」
結果は「思いで威力は変わらない、問答無用に正しい攻撃対象にスキルが発動する」だった
魅了に掛かっていようが勘違いしていようが自害だろうが正しく発動した。
ちゃんと自分を殺した敵に発動したし、自害でも害そうと思った相手に発動した、らしい。
まあスキルというのは「権能の簡略化」とでも言うべき要素がある
「祟る対象を間違った」なんてそうそうないだろう、そういうものだ。
そう検証していた者たちと共に納得した。
そして何度も死に、蘇生され、検証が進む度、徐々に心に忍び寄ってくる影があった
それは死ぬ事の恐怖ではなかった。
「次、死んだ時もちゃんと蘇生されるのか?」
言語化すればそんな影だ、それを自覚した時の恐怖
それが今でも思い出せる。
死ぬ事には慣れた、しかし消滅はしたくない、消滅には流石に恐怖を感じた。
この恐怖は決して自分では払えない。
だから抜け出したかった、そこから。
こんなスキルを持って生まれたのだ、それを活用する事に文句はない
またスキルの検証をした者たちへの恨みも特にない、貰う物もしっかり貰った。
とは言えこんな背筋を伝うような恐怖をいつまでも感じる生活なんてしたくないものだ。
この場から抜け出し適当なサマナーの仲魔になろう、
そうすればきっと不安を覚えない生活が出来る、仲魔を死なせたままにはしないはずだ
贅沢は言わない、自分が蘇生されると信じて死ねるサマナーでさえあればそれでいい。
どうせ自分のような弱い悪魔は強者に従わねば死ぬしかない時代が来ているのだ。
今の「保護された悪魔」なんて不安定な立場に拘る必要もないだろう。
そう思って【悪魔召喚プログラム】の実験にも付き合った、いつかサマナーを得るために。
【悪魔召喚プログラム】の完成が早くなればその日も早く来るはずだからだ。
そして最終的にはあの白い奴、<シロ>様の誘いにも乗った。
その時こんな事を言われた。
「お前に安住の地を与えよう、お前が弱くても愚かでも、
それでもお前が生きる事を望む者の所へ導こう。
だけど忘れるな、その安らぎはお前に献身を要求する」
あとで献身の意味を聞いたら
「適当に考えた口説き文句だから意味はない」と言われた
にゃー……
そんな流れで自分は<シロ>様の仲魔になり、おっかない守護神が言う所の郎党になった。
にゃんで主の主は、今のご時世で武家してるにゃ?
ある妖精の話
「ひゃっは~!俺たちは「オホーツク海気団解放戦線日本支部」のもんだ!
命が惜しけりゃマッカを出しなぁ!」
犬の声に追い立てられ、火炎魔法で焙られ羽を燃やされて、
仲間同士庇いあいながら逃げた先で聞いた声はそんな人間の声だった。
もう私たちには【ディア】を掛ける魔力もない。
羽を燃やされる仲間を癒すのに使い、逃げてまた羽を燃やされて
とうとう魔力も枯れ果てて癒す事も出来なくなったから走って逃げていたのだ。
これじゃ戦闘なんて出来ない、私たちは終わった、そう思った。
ところが敵の狙いはその言葉通り私たちの命ではなかったようだ
私たちを脅してマッカを巻き上げに掛かった、命が狙いではないなら隙を見て……
そう思ったのは甘かった、彼らは一人一人丁寧に心を折ってから巻き上げる。
逃げる、抵抗する、そういう意思と共に羽を折ってから一人ずつ解放されるのだ
そして解放されても私たちは死ぬのだ、飛ぶ事も出来ず魔法を使う事も出来ない私たちが
他の【ピクシー】たちの所に合流し身を休めるなんてよっぽどの幸運が必要になる。
たどり着く前に【ピクシー】以外の悪魔に見つかり碌な抵抗も出来ずに殺されるだろう。
もう駄目なのね、心の中に絶望の気配を感じるまでそれほど時間は必要としなかった。
そんな中、奇妙なMAGを感じた。
悪魔は人が発するMAGからある程度の感情を察する事が出来る
特に私たちのような【ピクシー】は人間と距離感が近い悪魔故に敏感と言っても良い
【ピクシー】は怠け者に厳しく良き者に優しく、自分に恵みを与えた者に報いる悪魔だから
私たちを計画的に追い詰めた人間たちが発するMAGの多くは「喜び」からだった、
獲物を捕らえた喜び、私たちから何かを得る喜び、手間が報われた喜び、形は様々だ。
その中で「喜び」以外に二つ、異なる強い感情から生まれるMAGがあった。
一つは「警戒心」、「リーダー」と呼ばれていた者から感じる金属のような固い心
私たちから巻き上げる配下の者とは違い全くの油断も、そして喜びすらもない。
人とは思えない渇いた冷たい精神!こんな哀れな私たちを見ても油断しない獣の如き心!
この男が見ている場で逃げる事なんかとても無理だと思った。
そしてもう一つは「憐憫と罪悪感、自己嫌悪」、それらが入り混じった感情
少し離れた所にいるその者は一緒にこんな事をしていながら私たちを憐れみ、
身勝手な罪悪感を覚えているのだ!
そう思うならやらなければ良いのに!悪いと思っているなら助けてよ!
そう思い、ついその者に視線を向けてしまう
だけど発するMAGから罪悪感の色合いが強くなっただけで視線を逸らされるだけだった。
なんて心の弱い男だろう、これでは助けにはならないわね……
そして私も他の【ピクシー】と同じようにマッカを差し出し、羽を折られてから解放された
仲間たちの何匹かはまだ捕まっていて彼らの言う「悪魔交渉」を受けている。
私は急いで他の群れに合流し、事を伝え仲間の救援を乞わねばならない
それが私の役目だろう。
おそらくすぐに助けを出してくれる、いえ絶対にそうなるわ。
ああ、それにしても自らの足で走るとこれほど遅いなんて!
やはり駄目なのだろうか、やはり他の悪魔に殺されてしまうのだろうか。
助けを求めるのではなく隠れてやり過ごし、解放される仲間との協力を優先すべきだった?
でもきっとそのような事は許されない、そのような姿勢を見せれば殺されてしまうだろう
人間たちからしてみればそれは「攻撃の機会を窺う」事との違いがないのだろうから
やはり助けを求めないと!
一歩でも二歩でも早く足を動かし、他の【ピクシー】の群れの所に行かなければ。
知っている他の群れがいる方向を真っ直ぐ見ながら足を急がせた。
そして私は、自分が「心の弱い男」と思っていた相手からの突然の【ディア】を受け
癒えた身体で空を飛ぶ。
他の群れに合流してから救援要請はすぐに通った、更に他の群れにも協力して貰って
その人間たちを退治する事が決まる。
話しが早いのは実は前々から極少数、同じように襲われ奪われ解放され、
そして運よく他の群れに助けられた【ピクシー】がいたらしいからだ。
しかしその【ピクシー】から事情を聴き駆け付けた頃には既に人間たちはいない、
そんな事が何度かあり噂されていたらしい。
やはり私たちの小さな足では移動をするのに時間がかかってしまうのだろう。
だけど今回は癒えた羽のおかげですぐに合流できた、人間たちはまだそこにいる。
「この機会を逃す手はない!」そう【ピクシー】たちは張り切っている
いくつかの群れで協力してあの人間たちを退治するのだ、もちろん私も参加する
魔力が枯れててもそれくらいはしないといけない、仲間を助けるのだ。
人間たちがいる所まで空を飛びながら思う。
あの人間たちは皆殺しよ!あんな酷い事をしたんですもの!当たり前よ!
でもあの心の弱い男だけは助けてあげましょう、私を癒したのだから。
それくらいはしてあげてもいいわ、特別よ。
そして私が飼ってあげるの!二人で月夜の下の妖精の丘で永遠に踊り続けるのよ
なんて素敵な事なのかしら
あの男もそっちの方がきっと幸せに違いないわ
だってあの男、全然戦いに向いてそうに見えないんですもの!
敵に憐れみを感じているようじゃダメね!ましてや癒しを与えるなんて!
だからあの男を私のタムリンにしてあげるのよ、
私は女王じゃないしあの男を地獄への捧げものになんかしないけどね。
ずっと、ずっと飼ってあげるの。
それは素敵な未来に思えた。
そして私たちは順当に負け、散り散りになった。
人間たちは単純に強く戦いに慣れていて、大群に襲われても誰一人逃げ出さなかった。
出来る限りの人数を集めたけど、それでも勝てなかった。
「負けちゃったね」「そうね」「次は勝とうねー」、あっさりしたものである
同じ種族が酷い事をされて一時は怒りに駆られても所詮悪魔の命なんてこんなものだ
感情的になって敵に飛び掛かっただけ、それで気が済んだ。
明日にはこの戦いの事を忘れてる子もいるだろう。
何人か私のいた群れの【ピクシー】を助ける事が出来たのが幸いだ、道中で見つけたのだ。
そして私も新しい群れに加わり日常が戻る。
それから何年も経った、もうあの頃一緒に戦った【ピクシー】なんていない
人間や悪魔との戦いで自然に死んでいった、命が軽い悪魔は移り変わりも早いのだ
おかげで私も何度も群れを渡り歩く形になってしまった。
私は今でも時々あの時の事を思い出す事がある
きっと私はあの心の弱い男に恋をしていた、そう気づくのはあれから少し経ってからだ
人間を見つける度にあの人じゃないかと顔を確認し、あの人が傷つくような言葉を考えた
次会った時はその心に確かな傷を与えようと決めていた。
だけどあの人とは会う事はないまま年月は過ぎていく
その事が無性に悔しくて悔しくて堪らなかった、そして仲間内でその事を話したら
「まるで捨てられた女みたいね」と茶化された。
その時思ったのだ、これは恋だったと。
変な話だ、私はあの人とは会話もした事もなく酷い目に遭わされただけの関係なのに
しかも一度しか会った事がないのだ。
次会ったら、次会ったら、そう思ってもやはり会う事はなかった
今は私もあの頃のままではない、きっと会ってもあの人は気づかないだろう
そしてきっとあの人も変わっている、人間というものは変化が早いものだから。
変な恋だった、出来る事ならあの弱い人を独占して傷つけ自分だけが優しくしたかった
あの人は私が責め立てたら傷つくだろう、それを許し慰める事が出来るのは私だけなのだ
それは素敵なことに違いない、そう思っていた。
でもそろそろこの恋も終わる
この異界ごと。
今いる群れのリーダーをしている【ピクシー】は中々のやり手だった。
戦闘に強く、そして仲間思いで責任感が強いそんな【ピクシー】だった。
彼女とは度々群れの事で相談を受けた仲だ、私の経験が買われたのだ。
もっとも私の忠告を聞かない事も多いのだけれど。
そのリーダーをしている【ピクシー】が異界が消滅すると知って以来、変な事を始めた
仲魔を探す人間をあえて試し、見極め、合格したら仲間を譲る事にしたのだ
とは言っても彼女はどうも人間への求める所が高く、まったく合格者が出ない
怒らせるような事をして怒ったら不合格なのだ、何がしたいのだろう
「なるべく相手を選んで高く売りつけるのよ、安く売ったら扱いが悪くなるわ!」
とはその【ピクシー】が言う事だが、このままでは異界と共に群れが消滅する気がする
まあ私はそれでもいいのだけど……
その【ピクシー】が新しい獲物を見つけた
この場合の獲物とは「群れの【ピクシー】の有望な押し付け先」を意味する
なんでもずいぶんと高い霊格の覚醒者がこの異界に来て、何かを探している様子らしい。
「きっと【ピクシー】を求めてるのよ!」
と私が寝床にしている木の洞に飛び込んできた【ピクシー】が興奮している。
遠目に見た限りとても人間とは思えないくらいのMAGを感じたとか。
MAGは強さと余裕を意味する、群れの誰かがそういう覚醒者の所に行けるなら……。
そんな希望を持ったのだろう。
そして霊格のせいでその覚醒者は悪魔から微妙に避けられている、今がチャンスという訳だ。
まずはそれとなく接触し
この【ピクシー】は少しでも多くの群れの仲間をより良い場所に逃したいのだ、
出来る事なら誰一人この異界に残す事なく、少し前にそう言っていた。
私としてもある程度は協力をしても良いと思っている、仲間だから。
なんて奇縁なんだろう、まさかこんな日が来るなんて。
でもこれを運命と呼ぶには優しさが足りない気がするわ。
あの人がいた、でも私があの時の【ピクシー】なんて欠片も思わないでしょうね
あの人は何も変わっていない?いいえ、変わっているわ、
まさかこれほどの霊格になるなんて
あの人にも私にも過ぎ去った時間は決して軽い物ではなかった、そういう事ね。
会うのであればもっと早く会いたかった、今の私ではとても……
いえ、昔だったら何だと言うのかしら、昔だったら……
無意味な抵抗をする私を仲間の【ピクシー】が引っ張り、背を叩き彼の前に突き出した
諦めて私は務めて明るい声を出す。
「ヒーホー!お兄さんはおいらに何の用だホー?」
「おいらの身の上話なんて話すような事はないホ?むしろ何かあると思ったホー?」
もう心の弱い男とはとても言えなくなったあの人、
今は私の主になったお兄さんから渡されたアイスをガリガリ食べながら首を傾ける
それだけでお兄さんは納得してくれた、そして私の頭を撫でながら言う。
あの時と違い、痛ましい物を見る目ではなく優しい目だった。
「ヒーホーくんはヒーホーだもんなぁ」
その呼び方はやめて欲しい。
私が次に【悪魔変化】した時、名前に引っ張られたら目も当てられない
私は次は女性的な、もっと美しい悪魔になるつもりなのだ
そのためにMAGやマッカを貯めるつもりでいる、悪魔というのは本霊すら現金で困る。
「まあそれならそれでいいや、実は話というのはだな」
お兄さんが言うにはなんと<ピクシー>たちの為にこの異界に居住地を作ってくれるらしい
そのためにどんなのが良いか意見を募っているのだ!
「ヒーホー!それなら丘が良いホ!妖精と言ったら丘だホ!
<カーシー>もきっと喜ぶホ!」
「妖精の丘かぁ」
「あと森も欲しいホ、植える木や花にはちゃんと気を遣うホー」
それからお兄さんは少し考えて「参考までに聞くけどどんな植物が良い?」と聞いてきた
「まずエルダーフラワーは外せないホ!ブルーベルも欲しいホ!
クローバーも大事だホ!それと森と言えば楢の木だホー!」
興奮してしまう、きっと素晴らしい所になるわ!
「サンザシも良いホ!ハシバミも忘れちゃいけないホ!ナナカマドもあれば嬉しいホー!
あとは、あとは……」
色々あったけど、今の私は悪くない生活をしていると思う。
きっとこれからも、その先も、きっと
>覚えがない契約を~
寝ぼけながらサインしただけ、その後二度寝した