コミュ障ぼっち、ガイアを行く   作:犬西向尾

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4話

 班長のバイト、その最終日の事である

「とりあえず宝玉君はもうちょっと常識的になった方が良いと思うなぁ」

「はぁ」

 いきなり班長から駄目出しをされた

 今はバイト、の休憩時間である

 魔力は一度使い切ったらアイテムを使わない限りじわりじわりとしか回復しない

 よって自分のようなバイトは魔力を使い切ったら=休憩時間の開始である、昼食休憩とは別のものだ

 こういう事情があるためストーンの魔力込め要員は基本的に出来高制らしい

 ちなみに本職の職人は魔力を使い切ったら魔力を使わなくても出来る作業を進めるものだそうだ

 魔力枯渇状態は身体が重くてつらいのに凄い人たちだと思った

 そしてこの休憩時間は実質班長との雑談の時間となっている、班長は休んでいないが

「非常識ですか」

「悪い意味でね」

 カットした宝玉のチェックをしながら班長は言う

「まず掲示板をちゃんと見てないでしょ?」

「いや見てますよ」

「見てたらマッカの使い道知らないわけないじゃない」

 そうかな、そうかも……

「周りにシキガミ持ってる人増えても「凄いなー」「良いなー」で済ませてたんでしょ」

 はい

「だから駄目」

 駄目ですか

 

 言われてみれば自分は掲示板を情報収集の手段というよりも娯楽として使っている気がする

 気になるタイトルのスレッドがあればちょっと覗いて満足、みたいな

「本スレ(ガイア連合山梨支部スレ)と派遣スレと雑談スレとシキガミスレくらいは毎日目を通した方がいいよ、なるべく過去ログも」

「ガイア運営が出入りしてるからそこまで変な事してるのもいないし、たまに爆弾みたいな情報投下されるしね」

「あの掲示板は今やあたしたちの生命線の一つだから……うーんよし、ニトリ! ニートーリ!」

「なんだい、めいゆう」

 呼ばれてすぐやってきたシキガミに班長は目の前にある二つの箱を指して

「こっち合格、こっち没、没の方は片しちゃって」

「はいよーめいゆう」

 しかし棒読みな子だなぁ

 

「没多かったですね」

 自分が魔力込めた宝玉の質が悪かったんだろうか、不安になる

「回復アイテムの素材に求める質は高くしてんのよ、命綱だから」

「それにほとんどカットの失敗だから宝玉君は気にしなくて良いよ」

「没にした方も違う素材として使えるから無駄にはならないしね、まあだから安心して選り分け出来てるんだけど」

 そして班長はぐいーっと体を伸ばして

「まあそんなわけで宝玉君はさ、もうちょっとアンテナ高くしてさ、自分の周りに気を使った方が良いと思うよ」

「半端に間違った知識で納得しちゃ駄目、簡単に調べるくらいの事はしておきなさい、そして考えて人に聞きなさい」

「こんなご時世だしさ」

「じゃ、もう上がっちゃっていいよ、あっ帰る前にニトリからお金受け取って」

「お疲れ、シキガミちゃんと元気でね」

 

 

 

 

 それが二月程前のことである

 班長に言われた事を心に刻みそして今

「なんでこんなに回してんのに当たらねぇんだよおおお!」

 沼に嵌っていた

 

 

 シキガミに期待をしていなかったと言えば嘘になる

 まず戦力としてが一番に来て、そして次に恥ずかしながら男としての寂しさを埋めるものとして

 だがまあ後者の方はそこまで強くは期待してなかった

 だって俺、式神制作依頼する時の書類の希望する外見を書く欄に「女性、美人、黒髪、大きすぎない程度に巨乳」としか書かなかったんだもの

 これでも頑張ったのだ、でも気恥ずかしくてこれ以上書けなかった

 シキガミスレ覗いたら大体その欄はみっちり具体的にキャラデザと設定資料集を書き込むのが今の流行らしい、欄にキャラデザを代筆する事で小遣い稼ぎしてる人までいるとか

 そこまでやってお祈りしてからようやく願った通りのものが来るかもしれない、と、そんな話である

 これでは俺のは期待できないだろう、要望というにはスカスカすぎる、だけどまあそもそも第一に戦力だからね

 そう思っていた

 

 シキガミは段ボールに入れられて配達されてきた

 話には聞いていたが人ひとり分の姿をしてるはずの人型式神がちょっと大きめの荷物、程度のサイズでやってくる事に驚きを感じさせる

 開けると血の気の失せた人の首が入ってた

「は?」

 いや式神だ、生首じゃない

 えっまじ? これ作りもの? 細部に神宿しちゃった系? すげーすげー

 感心しきりで色んな角度で眺めてしまった、触っても見た

 普通に人の皮膚っぽいんだけど

 ガイア連合、なんかやばい技術使ってない? 法に触れる系の? あっ使ってないわけねぇや、俺ら終末系カルト宗教とかそんな存在だもんな、それにガイアだぜ

 あまりの凄さに思考が変な所に逸れる

 変な話、今まで回復要員として派出所に詰めていた時、シキガミ連れの霊能者と会っても「霊能者とシキガミ」とちゃんと認識できていたと思う

 ここまで人っぽくは……と思ったがわかった、装備の違いか

 異界攻略等に出た霊能者が連れているシキガミの多くはなんかしらの霊装をしていた

 それが非日常感を感じさせ現実味を薄れさせてたんだ、美人すぎるしな

 そういうのがないとここまで人間っぽいとは思わなかった、人間の生首にしか見えないそれも美女の生首だ

 ひとしきり驚いてから取り扱い説明書を読む

 読むが、書いてある内容は多くない、要約すれば「魔力ぶち込め」で終わる

 制作過程ですでにマスター登録も済んでるから後は目覚めさせるだけ、らしい、ユーザーフレンドリーだ流石だぜガイア

 さっそく頭に、いや頬に手を当て魔力を注いでみる

 こういう魔力操作はバイトでもう慣れたものだ

 しばらく魔力を注いでいると顔に生気が宿ってきた体温も感じる、おいおい良いのかよこれ

 そして髪が伸び色艶を増し唇にうっすらと血が通い、梱包材のように入っていたシキガミの一部が人型に形を成し服を成し最後に目を開け微笑んだ、ような気がした

 

 あっこのキャラ知ってるわ

 FG〇のママの方の源さんだ

 大きすぎない程度に巨乳とはいったい? 

 

 シキガミが入っていた段ボールには制作してくれた人のメッセージカードが入っていた

「わかってますよ><b」

 何をわかられてしまったのか

 

 

 

 念願のシキガミを手に入れたので

 とりあえず事前に言われていたように事務の人に連絡する、電話を掛ける際ちょっと時計をちらちらとみて迷惑な時間じゃないよな? と不安になる

 はっはい、ご無沙汰しております登録してい、あっはい、そうですはい

「では、シキガミを無事ご購入できたという事で?」

 はい、そうです

「よろしければ、ステータスをお聞かせいただいても?」

 はい、えーっと

「あっ、取扱説明書と一緒にアナライズを書き写したものが同封されているはずです」

 ありましたえーと人型で

 

 ★シキガミ<未定> Lv1

 物理型 物理耐性 精神状態異常無効 呪殺無効

 スキル・反撃 ジオ 一分の活泉

 

 ?? 

「どうかなさいましたか?」

 いえ、その、購入した覚えがないスキルがありまして

 これ後から請求されたりは……

「もしかして、肉体素材を使用して制作したのではないでしょうか?」

 あっしました、そっちの方が強くなるって聞いて

「肉体素材を使用した場合、予期せぬスキル習得が発生することがあると確認されております」

「もちろんそれでスキル分の代金請求が発生した事はございません」

 あっよかったです

 安心してスキルを読み上げ

「では、こちらのシキガミ様と今後はお仕事を共にすると登録してよろしいでしょうか」

 はい、お願いします

 そういう事になった

 

 

 

 それからシキガミに<ライコー>と名を付けた

 異界探索の仕事をする日が始まる

 

 

 <ライコー>との最初の異界攻略は拍子抜けするほど上手くいった

 ガイア連合において異界攻略とは個人、単PTでするものではない

 複数人の霊能者が集まりPTを作る、そして更に複数のPTが集まり波状攻撃で玉ねぎの皮を剥くように異界の情報を丸裸にし

 最後の締めにその目的に合った本命PTを作り効率良く攻略する

 これが基本、あるいは理想であると言われている

 最後の目的は異界ボスの抹殺による異界消滅であったり、異界ボスとの交渉での鎮静化だったり、儀式による霊脈修繕だったりと状況によって変わる

 もちろんシキガミを得てすぐの自分が異界攻略の決定打になる何かには関わることはない

 <ライコー>との最初の異界探索はかっこよく言えば「異界に対する強行偵察」、身も蓋もなく言ってしまえば

「異界を当たるを幸い薙ぎ倒し、薙ぎ倒せそうにない奴を見かけたら逃げろ」という仕事だった

 可能な限り情報収集するのが望ましいが最悪「このPTで勝てそうにない奴がいた」という情報だけでも十分な働き、そういう仕事だ

 こう聞くとずいぶん乱暴な話しに聞こえるが実際にやった事は

「シキガミ一体でも無双できるような雑魚悪魔相手に、複数人でフルボッコにするだけの簡単なお仕事」だった、勝てそうにない敵なんていなかった

 そしてぐるっと異界を周回し倒した敵の報告をして、その情報を纏めた人が「特に異常なし」これで終わった

 同じようにシキガミを得て初めての仕事だった別PTの人たち(仕事前にそう紹介を受けた)が物足りなそうな顔をしていたのを覚えている、自分もそんな顔をしてたかもしれない

 楽な仕事だ、その楽な仕事一回で報酬が「下手しなくても一年分の生活費になる」額だった、自分はこれを現金で受け取った

 この仕事に掛かった費用は<ライコー>に装備させた金属バット一本だけだった

 あと今まで気にしてた「異界の仕事受けたら介護された」案件だがようやく自分の中で消化することが出来た

 シキガミこんなに強いのにわざわざシキガミなしで異界に入る奴いたらそりゃ心配するよなぁ、当時の俺自殺志願者とか思われてたのかもしれん

 

 

 

 そして二回三回と続けて仕事を受けた

 やはり最初の一回は初心者向けに用意したものだったのだろう

 それ以降からは難易度が上がった

 難易度が上がったが、前回が無傷で済んだとしたら今回はライコーが何度か被弾する程度だった

 とりあえずディアラマ掛けまくったが妙に効きが弱い

 自分のディアラマはシキガミにもそこそこ効いた覚えがある、それが密かな自慢なのだ

 派出所に戻ってから不思議に思って掲示板を覗き、過去ログで似たようなことを言ってる人がいないか探してみた

 ちょっと違うがいた

 どうやら式神の【汎用スキル】の差のようだ

 人としての概念が強くなれば霊薬が効くようになる等あった、俺の<ライコー>は汎用スキルを何も覚えていない

 つまりノーマルなシキガミは回復の効果が特に低い、そういう事だろう

 派出所備え付けの簡易式神のアナライズで見る限りHPはまだ十分だ

 見た目の傷もシキガミとしての自動修復で治る気配があるが……

 とりあえずしばらく報酬はマッカで良いな

【汎用スキル】は<ライコー>の戦力化の為に必要な経費だ、シキガミは【汎用スキル】で人としての概念を強化する事でより扱いやすい存在になる

【汎用スキル】を買うためにはマッカが必要だ

 なるほど、みんな報酬や給料をマッカで貰うわけだ

 一度現金で貰ったらしばらくは現金は不要で、でも相変わらずマッカを必要とするものがある、そういう事か

 班長の言った「自分の周りに気を使った方が良いと思うよ」はこういう事だったのかもしれない

 皆がやっていること、というのはそうなる理由があるのだ

 

 

 <ライコー>が【食事】をしている

 その姿に深く満足している自分がいる

 考えてみれば今までがおかしかった

 仮にも人の形をし、まだ薄いとはいえ自我もある(はずの)存在と一緒にいたのに

 自分だけ食事をして<ライコー>は見ているだけというのはいかにも居心地が悪い

 何より自分は<ライコー>のおかげで異界に潜れるようになった身と言っていいのに

 とりあえずガイアカレーをたっぷり食べて身体を癒してほしい

 

 

 

 

 地方への派遣の愚痴は至る所で聞くがまさに愚痴りたくなる所である

 自分がガイア連合の派出所もないようなところの異界に行くことになるとは思わなかった

 正確には行ける日が来ると思えなかったわけだから、これもまた自分の成長の成果だと思えなくもない

 今回の仕事は回復役としての自分の本領発揮と言える仕事でもあった

 つまり「とある地方協力者の霊能力者の所で世話になっているPTの支援」が来た

 中々割の良い仕事だと思って受けたが事情を知ると中々につらい

 異界はそれほど大きくなく敵も数は多いが大した強さはない、だがその地方協力者の霊能力者は霊能力者としては全く使い物にならず、よってその家は霊地霊的拠点としては落第、失格の類

 そんな所でどんなに身体を休めても全然休まらないという、

 ゲーム的に言うとHPとMPの回復が一晩寝ても雀の涙な回復って所か

 PTは連日異界に赴き間引き(攻略ではなく応急的な対処、その異界はガイアの管轄下になくあくまで援軍である為)していたが徐々に消耗してとうとう悲鳴と救援を求める声を上げたのだそうだ

 だからそのPTへ回復役としての自分が派遣された

 地獄に仏というが、地獄に行ったら仏と会ったかのような顔されるのも中々地獄である

 10食分持ち込んだレトルトのガイアカレーを即座にPTで分け合う事になったほどだ

 そして今回自分は後方拠点での回復要員ではなくPT(戦闘要員)の中の回復役として仕事をしに来た

 こんな消耗してるPTで大丈夫なのか、あっ大丈夫じゃないから俺が派遣されたのか

 

 へとへとになって帰った、もう地方はいやじゃ霊的都会の山梨だけで良い……

 結局あの後、ひたすら毎日戦い続け魔力をすり減らし朝起きたらアナライズ持ちにチェックしてもらって多少余裕があるのがいれば「今日は〇〇を中心に戦って云々」そんな日々だった、

 それがなるべく消耗を避けるための戦い方だった

 笑ってしまうのがそんな状況になると大真面目に「シキガミの消耗を避けるために霊能者が前面に出るべきでは?」なんて話し合うようになったことだ、回復効率が全く違うから

 そんな怖い戦い方したくないし人死にも見たくないので必死に「自分、回復ブースタ持ちなんで多少はシキガミ回復できますよ」アピールした、

 シキガミの方に条件があるが嘘ではない実際お試しでした回復は通った、<ライコー>に対する回復よりも回復量が多かった、大事にされてるシキガミなんだろう

 こういった努力有ってなんとか霊能者がシキガミを守る本末転倒な戦い、人の盾作戦(ガチで命名されてた)は避けられたのだった

「こいつ量産して地方に貼り付けられねぇかな」ぼそっと言われた怖い

 そして耐えに耐えたある日、他PTの応援が駆けつけてくれて異界全体を巻き狩りしてようやく解放された、これが数の暴力! 人の力だ! 

 このまま攻略して異界を消滅させたくてしょうがなかった、こんな所二度と来たくない

 でも良い稼ぎにはなったそれだけが救い、何か<ライコー>のスキルを買おう

 自分へのご褒美だ

 シロの尻尾を軽く握ったり放したり撫でたりしながら、売りに出されている汎用スキルを眺め考える

 そういえば最初のうちは<ライコー>に威嚇していたシロだが最近はそういう事も減ってきた、<ライコー>に慣れたのかもしれない良い事だ

 しかしこういうのを見てると、どれも欲しいこれも欲しいとなっていくらあってもマッカが足りないなぁ

 

 

 高い買い物をしてしまった……

【汎用スキル】の中でも特に需要が高いスキル【剣術】だ

【剣術】が汎用スキル? 【戦闘スキル】じゃないの? と思ったが戦闘スキルはどうも女神転生における戦闘で使うスキルの事を指すので

【剣術】はそうではないので汎用スキルになるそうな、ついでに模造刀を二本ほど、こちらは円で買った円で買えるなら安いものだ

<ライコー>なのにいつまでも金属バット装備ってのは解釈違いだったからしょうがないよね

 

 つえー【剣術】つえー

 さっそく剣術スキルの試し切りに難易度が低そうな依頼を受けた、受けたけど

 なんだか無双していらっしゃる、金属バット振り回してた頃のがむしゃらにぶん殴るスタイルではなく

 避けたり捌いたり的確に攻撃を当てるようになってる、つまり技術を持ってる

【汎用スキル】って奥が深い

 

 ちょっと散財したからしばらく貯金(マッカ)だ

 

 

 

 

 そして今、貯めたマッカがガチャに消えていった

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