コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
「ワーン!ターン!メェェェェン!」
謎の掛け声と共に、武器型式神なのか魚型式神なのかわからない巨大な鯉を振りかぶり激突
何かが爆発したかのような腹に響く衝撃と音が生まれる、その一撃で城門が破られた。
「俺の、「川ヌシ様」は最強なんだ!!」
なにやら余韻に浸ってる城門突破の功労者を無視して城内に侵入、足を踏み入れる。
今やこの城はかつて人が建てた城とは似ても似つかぬ姿に成り果てた
人が建てた頃のその城よりも大きく、全体的に鋭角的なシルエットになっている
外観すら違うのだ、内部構造はもっと違うだろう、相手にとって有利な戦いとなる
気を引き締めて行かねばならない。
ここは【ヴァルトブルク城】、メシア教過激派に握られた霊地
攻城戦が開始された。
というのがもう三日前の事、今は予想外の事が起きて暇している。
攻城戦自体はスムーズに終わった、【ヴァルトブルク城】のボスは天使【ドミニオン】
レベル45、万能属性の強力な魔法である【メギド】を持っていて、
天使のくせに何故か【呪殺弱点】の耐性を持っていなかった
ボス補正等、何らかの方法で克服したのだとみられる。
お供をする取り巻きたちはレベル28の天使【アークエンジェル】と雑魚の【エンジェル】
前者はそれほど強くはないが範囲物理攻撃スキルである【ヒートウェイブ】と
範囲回復魔法である【メディア】を持つ
単体でなら怖くないが、集団を形成しボスの補佐をするなら厄介な存在だった
集団で【メディア】を掛け合えば並大抵の攻撃では帳消しにされてしまう。
無数の【エンジェル】が【アークエンジェル】隊の肉壁をして呪殺攻撃等を防ぎ
その【アークエンジェル】隊が【ドミニオン】を守る。
そして【アークエンジェル】隊に守られた【ドミニオン】は後方から【メギド】をぶっ放す
例えるなら自他を回復させる防壁を持った強力な砲台との削り合いに近い戦闘になった。
強敵と呼べる敵だ。
女神転生では【ドミニオン】はレベル50以上の事が多い、
それと比べれば若干の弱体化をした上でこの強さだった。
とはいえその戦闘は何人かの【俺たち】の死者を生み出しながらも勝利
死んだ人も幸いにも全員蘇生できる範疇だったので実質は被害0での勝利となる
結果としては地脈からの回復も有するボスを正面から打ち破ったという形となった
完璧な勝利である。
そもそも【俺たち】が8人も集まればそこそこの拠点だったら余裕をもって勝利できる
そうリーダーが言っていた。
というのもある程度の【俺たち】であればまず自身が戦力になり、
同レベル帯の悪魔より強いシキガミを供にし、あるいは武器型シキガミを持ち戦力にする
そして【アガシオン】や【イヌガミ】、【トウビョウ】等の仲魔を持つ事を推奨されており
それなりに高い率でそれらを所有し、また【悪魔召喚プログラム】で悪魔も召喚できる
こうなると【俺たち】一人いればそれだけで3~4体くらいで構成されるユニットとなる
であれば、レベルが30も越えた【俺たち】ならばもはやただの個人の覚醒者ではなく
一つの纏まった戦力単位として数える事が出来る、という事らしい。
いまいちピンと来ない話だが。
そして種族天使は属性や弱点が偏っている事が多く、装備やアイテムでメタを張れば
ボス以外の敵であれば楽に戦える、そう見込まれての戦いだった。
そうであるから【俺たち】が8人も集まればこれくらいの戦果は期待して良いもので
順調に攻略出来たことは何も不思議な事ではない、という事になるらしい。
また前日に待機班がアイゼナハへやってきた【過激派】の救援部隊を散々に打ち負かし
雑兵の数を減らしたことも功を成したと見ていいだろう。
城攻略後は城を奪い返しに来る敵軍との戦闘も想定していて、それを考えての速戦だった
ひたすら力押しでボスを倒したのはその敵軍に備える時間を重視したという事である。
予想外の事とは攻略に関する事ではない
むしろその逆に近い事だ。
来ないのだ、この城を奪い返そうとする敵が。
早ければ攻略したその日のうちに、遅くても翌日くらいにはやってくると踏んでいた
その敵の大軍がやって来ない
やってくるのは精々が数十匹の雑魚の群れ、それが散発的に来る程度
この程度のはずではなかった、却って不安になる。
「これはどういう事なんだか」
占領したヴァルトブルク城内にある適当な部屋を俺たちの待機所にしている、
その部屋の中で【DDS】に繋がってる動画サイトをなんとなく見ながらそんな事を呟く
この部屋には【俺たち】とその式神しかいないから気楽なものだ
部屋には来る敵と戦うための各種アイテムと弾薬が入った箱が所狭しと詰め込まれていた。
【DDS】、正しくは【DDS-NET】は【COMP】で接続できるウェブサイトだ
【俺たち】向けや現地民向けの掲示板等も置かれている。
そこから接続した先に【ガイア連合】で運営している動画サイトがある
これはこの【半終末】の世界のネットで見る事が出来る数少ない動画サイトという事になる
何せ日本の外、ネットインフラが崩壊した今の世界でも見る事が出来るのだ。
【ガイア連合】が【COMP】使用者へのレクリエーションの一環で整備したとも
情報収集のために整備したとも言われている。
当初は救援要請や愚痴、エロ動画やグロ動画ばかり投稿されていたのだが
やがてそれも落ち着き、今ではそこそこ見所のある動画が投稿されるようになった。
「世界に残す俺の故郷の料理シリーズ」とか「猿でも出来た自作霊薬シリーズ」とか
そんな娯楽性のある動画が投稿されるようになったのは大変良い事だと思う。
俺の呟きに山田さんが自分の眼鏡を拭きながら聞いてきた。
「これとは何ですか?
敵軍が来ない事ですか、それともこの城の文化財が無かった事ですか?」
「前者ですよ、文化財の事はどうでもいいです」
見た事もない失われた文化財の事を気にしたってしょうがない。
それよりも来るはずと想定していた強敵が来ない事の方が気になる
レベルこそ、この城の前の持ち主の方が高くなるだろうが
この城を取り返しに来る敵も中々の敵になるはずだと見込まれていたのだ
霊地によるMAGの供給があったボス、それより高いレベルの敵が来る事はないだろうが
もし来たら敵は本気だ尻尾巻いて逃げよう、そんな話もしていたくらいなのに。
この城は【メシア教過激派】にとってどうでも良いものだったんだろうか。
「来ない者の事を考えても無駄ですよ
こちらの判断に過りがあったのかもしれませんし、情報も足りません
そもそも【メシア教】の思考なんてどこまで読み取れるか怪しいものです
予想以上に敵が強くて死に掛けるよりはずっとマシでしょう」
山田さんはかちゃっと眼鏡を掛けてから、そんな事よりも、と続ける
「私としては文化財も大事だと思いますよ?
歴史が積み重ねた価値というのは現金に換算するのは難しいですからねぇ」
まあそうだけど……
城の破却作業の一つである、城の象徴的な物の回収に乗り出した新チュートン騎士団だが
そこで思わぬ事態に遭遇する。
彼らが想像していた、この地を霊地として管理するに足る象徴的なアイテム、
この城に幾つもあった歴史的な品々の尽くが無くなっていたのだ。
彼らは霊地の要としてそれらを掌握する事でこの地を支配したと思い込んでいた
それは、とある著名な聖職者がぶちまけたインクの跡だったり
逸話を描いたフレスコ画であったり、この地に謂れを持つ聖人を描いたモザイク画だった。
しかしそれらは全て失われ、霊地の要は天使【ドミニオン】が成していた事が判明する。
それによって直接、霊地の管理、霊脈の調整を行っていた。
【過激派】にとって人間の歴史と認識から生じた概念の後押しなど、要らなかったのだ
【新チュートン騎士団】の団長、老いた聖職者はその事を知って倒れてしまった。
それだけ思い入れがあったのだろう。
そしてもはや象徴的な諸々も核であった天使も失ったこの城は霊地の中心地足りえない
何せ建物すら新造されてしまっているのだ
この城はもう、人が作り、人が意味を持たせたヴァルトブルク城ではなかった
もし再びそのような地にしたかったら新たに何かを据える必要がある。
破却作業はある意味、何もせずとも完璧に終えていた。
「私もこの城には、正確にはこの城から生まれた物語には心惹かれる物がありましてね
特に名前が良かった、ですから少々惜しいとは思ったんですよ」
意外だった、「この城から生まれた物語」には心当たりはある。
あるがこの人の興味を引く要素があったようには思えなかったからだ。
あれはゲルマン的世界観を素材にして、一神教的世界を批判的に見た話だったと思うんだが
ああいや、民話の方じゃなくて戯曲の方かな?
山田さんは真剣な目でこちらを見つめて言った。
「1992年クラシック世代、ご存知ですか?」
すみません、ご存知ないです。
その後競馬の話をされた、いやこの城は関係ないよそれ、名前だけじゃん。
「たっだいま~」
聖女ちゃんが帰ってきた、助かる、競馬にはさっぱりなんだ。
過去の名レースだとかその馬の血筋とか子孫の話とか
「競走馬とは云わば馬の英雄の子孫たち、覚醒してもおかしくないと思いませんか?」とか
濁流のように語られても困る。
でも「霊感と占いと霊視を使った勝率74%の単勝馬券の買い方」はちょっと気になった。
「おかえりなさい、どうでした?」
「あっうん、特に問題はなかったわ
街の掃討は終わってたし、場も清めたから後は結界さえ張れば良いんじゃないかな」
聖女ちゃんがちょっと早口で説明してくれた
ならよかった。
敵が来なくて暇になったせいで、今はアイゼナハの整備を手伝っている。
別にここが【ガイア連合】や【俺たち】の街になるわけではないが
別に減るもんじゃないし、の精神でいくらか協力しているのだ。
ついでに予定よりちょっと早いが蘇生できる人は蘇生もしておいた。
中の有害な悪魔を滅し、場を清め、区切ったら次は
【新チュートン騎士団】の団長が個人的に契約している【エンジェル】が結界を張り
街の安全を確保する予定だ。
この天使は【悪魔召喚プログラム】に拠らない自力での召喚、契約に基づくもので
【過激派】とも更に言えば【穏健派】の天使とも微妙に立ち位置が違う天使らしい。
【守護天使】がどーのこーの言っていた。
詳しい事は知らないが、まあ「微妙にレアな天使」くらいに思っておけば良いだろ。
それよりも自力で天使を召喚して契約を結べた一神教の【エクソシスト】
天使よりもこちらの方がレアな気もするが。
「私としてはここは気分が悪いから、向こうが整ったらそっちで待機したいんだけど」
「それは難しいと思いますよ、城攻めからやり直すのは面倒ですし荷物もあります」
「だよねー」
気持ちはわかる。
この城は【メシア教】の過激派天使が一度更地にしてから周辺住民を大量に殺し、
その死体とMAGを使用した儀式によって作られた城だという事が判明している
ここでは城だったが、普段は【カテドラル】建築に使われる事が多いやり方らしい。
掲示板では何故か「武田信玄される」とか「藤吉郎された」とか謎の隠語になっている
不謹慎すぎて【俺たち】らしい。
この儀式を使った建築方は具体的にどういう技術で行われたのか今だ判明していない
奇跡を司る【ヴァーチャー】による【奇跡】説が今のところ有力だが、それも確定ではない
どうでも良い事だ、気分が良いものでない事は確かなのだから。
またそれとは別に気色悪い物も多々あった。
例えばそれは、より強い覚醒者を「作る」為の人体実験の跡や
MAGが枯れて干物になるまで強制的に【讃美歌】を歌わせる祝福された洗脳オルガン
大量に見つかった中世的な使用済み拷問器具等々だ。
ボーナスを期待して家探ししたら散々な物しか出て来なかったのだ。
どうにも過激派はこの地をまともに統治する気は一切なかったようで
ひたすら人を消費してMAGを搾り取る方向の設備だらけだった。
この城にいるだけで穢れるような気持ちになる。
「でもいつまで待機すればいいのかわからないのはちょっと嫌ね
ガチで何もないならあと四日でおさらばだっけ?
まあ来ないなら来ないで良いんだけどさ」
「そうですね」
昨日の時点で「城攻略から一週間以内に動きが無ければ去る」と決まった。
何というかこれで帰るのはちょっと肩透かしを食らった感がある
別に戦うのが好きだとか、そういう話ではないんだけど……
「その件ですが、動きがあったようですよ」
俺と聖女ちゃんの話を聞いていた山田さんが自分のスマホを見ながら言う、動き?
「副団長が【ガイア連合】ドイツ支部からの話を仕入れたそうです
会議をするので召集を頼まれました」
ようやくか、良い流れならいいんだが。
「【メシア教穏健派ドイツ支部】の作戦が成功した
また副産物として、【メシア教過激派】の外征能力への打撃が観測された」
城の外で警戒をしている2人を除いた5人、その視線を浴びながらリーダーはそう口にした
ちなみに警戒中の2人はスマホでリアルタイムで見ている筈なので除け者という訳ではない
【司教】の作戦、作戦名「聖女の復活、王の帰還、人の夢」は
大きく3つの段階に分かれている
1、聖女の復活 ドンレミの地にて【ジャンヌ・ダルク】を召喚する
2、王の帰還 聖女を旗印にドイツにてクーデターを決行、その後王を選定する
3、人の夢 聖女に見出された王による【千年王国】を建国する
この3つだ
これらを達成する事によって強力無比な体制を築き【過激派】に立ち向かうのだ!
という胡散臭い話を実行しようとする【司教】をカモにしようという【過激派】
を騙そうというのが【穏健派ドイツ支部】の作戦だった。
騙す事によって生まれた隙を突いて、人員や物資の大規模な輸送を済ませるのが狙いだ。
成功の前提条件として、
これらの偽情報を【過激派】が真に受ける、そして【穏健派】の予想通りに動く、
この2つが必須で、更に察知されてから動かせる戦力の余裕もないと期待しての作戦。
こんなのが成功したらしい
正直に言えば「穏健派も焼きが回ったもんだな」と思ったものだが。
「大まかな流れとしてはこうだ」
予定通りドンレミの教会を占拠した【司教】一派は偽装用に儀式のような何かを行いつつ
それと並行して村内に各種罠を設置、攻撃してくる【過激派】への迎撃準備を整えた。
この時点で、村の外にはレベル30越えの天使が複数確認されていたという。
【トラポート】持ちが偽装用の人員の輸送を開始、恙なく終わる。
そして今日の朝、結界が破られ戦闘が勃発、【司教】一派十数名は全員討ち死にを遂げた。
しかしながら【司教】一派はただやられた訳ではなかった。
彼らは【半終末】前から【来る日】に備えて用意していた高性能爆弾による自爆を行う
この高性能爆弾の詳細は不明だが、死ぬ寸前まで【司教】が【聖別】を施していたらしい。
これによって【過激派】が連れていた低レベルのMAG補充用【覚醒者】の撃破に成功する
これらは【ガイア連合】ドイツ支部が保有する偵察用の式神によって観測された事で
確度が高いと思っていい。
「MAG補充用【覚醒者】?」
なんだそれは、契約者ではないのか?
思わず呟いた俺の疑問をリーダーが補足してくれた
「要は餌だ」
悪魔が顕現しやすい【半終末】と言えどそれは無制限の顕現と活動のイコールではない
特にその活動の為の条件は依然として【半終末】前となんら変わる所はない。
MAGの供給だ。
高レベルの悪魔はその身体を維持する為に大量のMAGを必要とする
霊地を支配し、霊脈からのMAGを得られるボスはそれでもいい、MAGのあてがある。
しかし問題になるのが土地に縛られず、あるいは移動をする高レベルの悪魔たちだ
MAGの量が活動限界とイコールになる、また自前のMAGの消費は弱体化にも繋がる
この、土地に縛られない悪魔はその戦力を運用する側の立場から言ってみれば
「敵を攻撃しに行ける戦力」「違う土地の防衛に回せる戦力」であり有用性は大変高い
そのためその活動に差し障りがある事は好ましい事とは言えなかった。
それを補うのがMAG補充用【覚醒者】だ。
この【覚醒者】は【メシア教】のテンプルナイト等や、
更には中東において【アバドン】によって生まれた無数の「苦しみにのた打ち回る者」
によって構成されていた、これらがMAGを補充し活動を助ける。
今回、撃破に成功したのは後者の方だった、前者については残念ながら生存が確認された。
檻のようなものや車にすし詰め状態になった彼らに対し、
「聖別された爆弾」による爆発で、その苦しみを断つ事に成功する。
主な死因は直接的な爆発による物ではなく気圧の変化や酸欠によるものと推測される
【アバドン】の伝承、「死さえ許されない5ヶ月間の苦しみを与える」は
苦しみによる死を許さなかっただけで、疑似的な不死を与える物ではなかったようだ
あるいは【聖別】による効果かもしれない。
中東において猛威を振るった【アバドン】は【過激派】へMAGを産む覚醒者を供給し
その行動を助けていた。
何はともあれ【過激派】の高レベル天使の活動、外征能力へ打撃を与える事となった。
当初の作戦計画以上の成果であり、僥倖とすら言える。
フランスのドンレミに向かった【過激派】天使たちは再度の補充を受けない限り
再びの積極的な活動は避けると推測される。
これはある程度の時間を稼ぐ事に成功した事と同義であり、
ドンレミに誘き寄せた【過激派】天使たちの一時的な無害化に成功したと解釈できた。
【穏健派】ドイツ支部は誘引した戦力の数から、ドイツに残存した高レベル天使の数を推定
積極的な動きは控えると推測、作戦の成功を信じるに至る。
それまでの「瀬踏み」のような部分的な輸送から全面的な輸送へと移行
一分一秒を争うがごとく猛烈な輸送を開始した。
うーん、複数人の唸り声が部屋の中で小さく響く。
要は敵の活動に必須の物資への攻撃が決まったという事か
これは大きい、そしてこれは今後にも期待できる話にはならないか?
今後はこれを参考に、敵のMAG補充を断つ方向での攻撃を優先させれば
【過激派】の行動をいくらか鈍化させる事も出来るんじゃないか
その、狙う対象が人という所がどうしようもなくアレだが。
それにしてもよく【半終末】で稼働する爆弾なんて用意できたな、宝石よりも貴重な品だぞ
特に高火力な爆弾の類はその機序が複雑だからほぼ機能しないと言われていたはずだが。
「副団長、これは今後も参考にして良い話なんですかねぇ
MAG次第でいくらでも湧く悪魔ではなく、それを支える者を討つのが必勝法、と」
俺と同じ事を思った山田さんがリーダーに問いかける、それに対しリーダーが
「いや、今回の件はあくまでそういう事例があった、
程度にしておいた方がいいというのが【ガイア連合】ドイツ支部の分析らしいな
連中には【ICBM】絡みの技術がある」
【ICBM】絡みの技術、心当たりがあった。
今や日本に週に1~2回くらいの頻度で飛んでくる【ICBM】
これに使われている技術の解析結果が少し前に公開された。
過激派は【生体部品】、主に覚醒者の脳や神経を加工して【マグバッテリー】として使用し
霊的な兵器として仕立て上げていた。
これによって着弾後の【悪魔召喚】を行うMAGを溜め込ませると同時に
【半終末】下でも問題なく電力を供給し機械を稼働させているという。
【ガイア連合】が悪魔のフォルマを加工し【マグバッテリー】を製造するように
過激派は人間を加工し【マグバッテリー】を製造していた
技術としてもう確立しているのだ、後はそれを転用するだけとなる。
そう遠くない未来、MAGの補給に不安がない高レベル天使の群れが闊歩する日が来る。
そういう予測へと繋がる。
「我々は近い将来、人の脳みそを背負った天使と交戦するわけですか、世も末ですねぇ」
「これ以上なく世紀末な光景じゃねぇか」
くっくっくとリーダーと山田さんは笑っていた、笑うしかない話だ。
「話しを続ける、【穏健派】の作戦は上手く行ったと奴らが思えるだけの結果になった
敵にもどの程度かわからんが打撃を与えた、
そして話は【穏健派】だけじゃねぇ。
プレイヤーは他にもいる、【北欧神話勢力】だ」
その言葉にテーブルの上に広げられた欧州の地図に視線を向ける、
地図上にあるユトランド半島の根元にはいくつかの駒が置かれていた。
【北欧神話勢力】は【穏健派】から情報を得てから独自の行動を開始していた。
【穏健派】の作戦が開始される前日、兵をかき集め、大軍で以って北欧からの南下を開始
電撃的に軍港がある都市【キール】を攻略、更に南下を進め都市【リューベック】へ進軍
現在は【リューベック】を流れるトラヴェ川を挟んで【過激派】と睨み合いをしている。
この地にも【過激派】の戦力が集まっている。
「【穏健派】の作戦の思わぬ成功、そして前々からの【北欧神話勢力】の行動によって
俺たちが来ると思っていた敵の攻撃はしばらくは来ない可能性が高い
優先度と規模に差があるからな
よって俺たちはフリーハンドになった、今後をどうするか決める」
10分間時間を与えられ、その間に思考を纏める。
今後をどうするか、漠然とした話だ、そもそも俺たちがここに来たのは戦闘経験を積むため
それ以上を求める理由は特にないはず。
今、目標も目的もない戦いをする意味はない、このまま帰るのも正解だろう
一番最悪なのはここでただ敵を待っている事だ、俺たちが相手しようと思っていた敵は
要約すれば「穏健派の作戦を見破って調子に乗った敵」「穏健派の作戦に引っかかった敵」
のどちらかの一部だった。
敵戦力の想定は「穏健派に対応した戦力」からの転用が大部分という事になる。
しかしここまで上手く作戦が嵌った今、その戦力のままという保証はどこにもない
上手く行き過ぎた分、危機感を抱いた過激派が「ドイツ戦線の立て直し」を図るべく
周辺から戦力をかき集める可能性も十分あり得る
外から見た場合、【穏健派】も【北欧神話勢力】も動員された大作戦にすら見えるからだ。
その場合だと敵は「この状況からドイツ戦線を立て直すべく集めた戦力」という事になる
どの程度の敵になるのかすらわからない、そしていつ来るのかも。
ここで何も考えず待つ事はそういう敵と当たるリスクを飲み込むという事に繋がる。
動くなら相手に時間を与えるべきではない、即座に動くべきだ。
そして積極的に動くにせよ、動かないにせよ
「穏健派の作戦の成功」に対して「過激派がどう動くか」を想像しなければならない。
想定以上の成功は俺たちにとってはむしろ読みにくい戦況を招いた。
そこまで考えた所で欲が生まれた、「これは稀に見る機会ではないか」と。
敵は割合的にどこまでかはわからないが戦力を誘引され、なおかつ大きな動きが出来ない
こんな機会はそうはない、ここで攻勢に出ればある程度以上の勝利に繋がるのでは?
そしてそれをするだけの戦力が今ここにある、敵が態勢を整える前に遊撃を……。
そこまで考えて、浮かんだそれを捨てるように頭を振る、馬鹿な事を考えた
俺含む8人はそんなつもりでここに来た訳じゃないんだ
なのに当てにして得る物も不定な攻勢?お前だけで勝手にやってろって言われるし、
何なら逆なら俺が言うかもしれない言葉だ、あまりにも馬鹿げてる、気の迷いだな。
そもそもそういう風に動いた上で何を何処まで求めた戦いをするんだ
俺はドイツの事なんかまるで知らないんだぞ
勝利条件の設定がない攻勢なんて愚かすぎる。
とすると、俺たちがする事、するべき事ってなんだ?
すぐに思い浮かぶのは、もうこの城はもう取っておく必要がない、とっととぶっ壊すべきだ
後はせっかく手が空いたんだ、この辺りの畑でいくらか食料を生産するのも良い
無駄には多分ならないと思う
その程度かな、でもこれ俺たちでするべき事って程の事じゃないな、特に思いつかない
何かあるかな。
「<ライコー>はどう思う?」
<ライコー>の意見を聞いてみる。
一人で考えてもしゃあない、思考が空回りしてる気がする。
「即時撤退です」
即答、断言だった
「理由は?」
「情報と、無理をして得られる物が少なすぎます」
敵に打撃を与えたと言ってもそれがどの程度の重みがあるのかは判明していない
そもそもこの【ドイツ】という地自体、リスクを負って獲得すべき地ではない
【ガイア連合】のある日本から遠すぎて維持にコストが掛かり、防壁には使えず、
何よりも一神教の霊的地盤が盤石過ぎる
何かしらの動きをしたとして、これでは得られる物が不確定なリスクに見合うとは思えない
天使との戦闘経験という最低限の目的を達成した上でこれではやる意味を見出せない。
そういう趣旨の事を<ライコー>は言った。
「なるほど、ありがとう」
<ライコー>は小さく頷いた。
<ライコー>は元々今回の旅行には反対だった、慎重論が出るのは当たり前か。
その後に行われた会議では
「撤退」「とにかく【過激派】の拠点を殴って追剥」「リューベックの戦に加わる」
等の意見が出て紛糾したが結論が出る前に続報によってこの議題は終了する事になる。
【北欧神話勢力】が思わぬ大勝利をしたのだ。
「大勝利ですか……」
朗報なのだが唐突過ぎて上手く呑み込めない、戦という物はそういうものなのか
「大勝利だ、それは間違いねぇ」
リーダーも少し考え事をした様子だ。
【リューベック】にて睨み合いをしていた【北欧神話勢力】と【過激派】だったが
ここで【北欧神話勢力】が動きを見せる。
質的な主力である【ヴァルキリー】及び【ベルセルク】が姿を消し
バルト海に侵入、【カテドラル】が存在する【ゴトランド島】への進軍を開始した。
北欧神話にはその神話上に「魔法の船」が複数存在する、それらを使ったらしい
【嵐の夜】に紛れて船は進んだ。
そして主力が抜けた、と見た【リューベック】の【過激派】は残存した【北欧神話勢力】へ
全面的な攻撃を開始する。
残った者と言えばレベル20程度の妖魔【ディース】や現地民の覚醒者がそこそこ
この程度なら睨み合いの必要などない、これを破り、奪われた【キール】まで取り返そう
その判断は妥当な物だったはずだ、そして伏兵である【オーディン】によって全滅した。
【オーディン】は大幅に弱体化した姿で参陣していた、
そして天使を殺す事でMAGを得て力を取り戻し、その力でまた天使を殺し続けた。
「ふん、「
よくもまあ主神がそこまで動くもんだ、結構な話だ。
そして天使どもを殺してそのMAGを得た【オーディン】も【ゴトランド島】の方へ行った
時間的にもう攻略されててもおかしくねぇな
さて問題はこの後の【北欧神話勢力】の動きだ。
次はどこに行くのか、次があるのかだ」
それによってこの動きの意味が大きく変わってくる
おそらくはまだ大きく劣化しているだろうが
【北欧神話勢力】の主神【オーディン】がまともに動けるならその影響は大きい
たとえその力を振るえる時間が短くてもだ。
自分が【オーディン】ならどうするか、広げられた地図を見ながら考える。
【オーディン】にとっての優先度は、目的は、敵は、望みは……
北欧神話というのは哀れな神話体系だ、失礼ながらそう思う。
もちろんこれはその北欧に住む人々を侮辱する意味ではない
北欧神話に存在する神々が哀れなのだ、この神々は人に捨てられ忘れ去られた歴史を持つ
そしてそれが象徴するかのように北欧神話の主神、オーディンには欠けている物がある
片眼ではない、それはどうでも良い
オーディンを祀り奉る子孫が、それを誇りとする王家が、オーディンにはいないのだ。
ある種の多神教的世界観において、王は神でありそしてその先祖も神である事が求められる
地方の歴史、それぞれの支配者たちが綴ったそれらが神話になるのだから当然である
おそらくはオーディンもそうだったに違いない。
事実オーディンではないが北欧神話のとある神の末裔、
そう推定できる血統を主張している王家も存在する、そういう所の神話だ。
まあ王家はどうでも良い、問題なのは先祖の神の方の視点だ
この神視点では、子孫が自分を祀らない場合どうなるのだろうか?
日本においては、もっと言えば中華含む東アジアにおいてはこうなる
「不孝」
先祖の供養もしない子孫ってどうなの?お前のご先祖様だぞ?こういう事になる
だから日本においては古くからある神社の神主の家系は「神別氏族」に分類される家が
ままあるのだ、ちゃんと祀らないと文句の一つも言ってくるのが日本の神だから。
その神主の家系的にはご先祖様である氏神を祀っている感覚になるのだろう。
俺的にはわかりやすい話だ、まああの方々とは直接の血縁関係はないと思うが、多分。
そしてオーディンにはもはや【オーディンの血】を引き、祀る者はいない。
故にオーディンは不憫な神だ、主神でありながらそれを祀る子孫がもはやなく
名は高けれどそれを祀る神殿の多くは壊された。
オーディンへの信仰は、そして北欧神話という神話体系は
一神教の布教からたった数百年で、人間の感覚ではゆっくりと滅ぼされた。
一部の地域では一神教の洗礼を受ける際、「トールとオーディンと部族神を捨てる」と
言葉に出して誓わせるのが慣例化するくらいに、それは積極的なものだった。
そして一神教の者の手によって編集された神話と歴史と、
僻地であったが故に残る事が出来た詩とその断片が今に残る北欧神話を知る資料となる
彼らの多くは自分の事を「偉大なる先祖」として語り継ぐ者すら失った。
彼らは一神教の作った資料と微かに息づく民話の中で生きる事となる。
その中で現世に顕現出来るだけの信者と霊地を守り切った事、これはもう奇跡と言って良い
次の機会はないのではないか?そんな事すら思う。
そんな神々が再び現世に帰ったら、そしてかつて自分たちを追いやった者と戦うなら
失ったものを取り戻したいと思うのが情ではないか?
かつての時代を懐かしみ、輝かしいと思うのであればこそ。
血を引いた子孫はもう無理だ、いなくなった、しかしかつての神殿ならばそうではない
そしてそういう地であれば取り戻す事がその勢力内におけるある種のアピールになる
失った物を取り戻す戦い、それは士気が上がるだろう
そしてそれ以外のものもいつかは、と思う事が出来るかもしれない。
かつて、スウェーデンに異教の王がいた。
その王家は戴冠式の際に、そして9年ごとに生贄を伴う大きな祭りを主催していたという。
その王家はオーディンの子孫ではない、しかし祀る者だった
その神殿には三柱の神が祀られていたという、【トール】【フレイ】そして【オーディン】
デンマークの歴史書は言う
「オーディンはそこに滞在するのが常であった
それは住人の愚かさによってか、その場所の快適さゆえか、そこに滞在する事を好んだ」
その神殿は焼かれ、跡地に一神教の大聖堂が建てられ、後にその大聖堂も燃えて移転した
歴史はその神殿の焼失こそがスウェーデンにおける一神教の勝利だと評価する。
その神殿があった地の名前は
「【オーディン】の狙いは故地奪還。
行先は【ガムラ・ウプサラ】
次の攻略先は道中のストックホルム、ウプサラだと思います」
【オーディン】を動かすもの、それを未練だと解釈した。
場が沈黙で満たされる。
時間的には大した事がない、しかし自身の緊張がそれを長く感じさせた
自分の考えを人前で長々と語るというのは、それも親しくない人も含むそれは嫌な感覚だ
別に否定されたからって俺自身が傷つくわけではないんだが。
地図をじっと見つつ自身の米神を指で軽く叩きながらリーダーが言った。
「動機の線から追っかけたのは面白れぇ、場当たり的な損得よりは理屈が通る。
面白れぇが疑問点は残るな、【ゴトランド島】を攻める理由はそれじゃわかんねぇし
仮にも神がそこまで未練がましい存在なのかもわからねぇ」
だが、と続ける
「動きとしてはこの意見が一番俺たちにとって「都合が悪い」
奴らが更に北に進むならドイツでの圧力が減るからだ。
これも視野に入れて考えるべきだ」
その他、今後の予想が複数出されそれを踏まえた上で俺たちの動きとしては
「撤退」が選ばれた。
当然とも言える、現状【北欧神話勢力】の動きが読み切れず、またそれに成功しても
俺たちにとって意味がある何かは見出せなかった。
いつ来るかも、来たとしても規模の予想もつかない敵を待つ、という選択肢はなかった。
待機部屋の隅っこで息を吐く、今回の会議は妙に疲れた
自分の意見を言うという事はどうにも疲れる。
それに撤退、撤退かぁ、会議で自分が主張した事であるがこんな消極的な事で良かったのか
何か他に出来る事があったんじゃないか
終わった事なのに少しそんな事を思う
いや、今回集まった8人の目的にはこれで良いんだ
俺たちは別にドイツ戦線を有利にしたいから来た訳でも、
特定の勢力に肩入れしたいが為に来た訳でもない。
日本の異界では珍しい天使、それも組織的に活動し独自の技術力を持つ敵【過激派】
それとの戦闘経験を積みたくて来たのだ。
そしてそれはやる意味があったと、肩透かしのような物を食らった今になっても思える
「洗脳された覚醒者」「人口七万の街が数百人しか残っていない惨状」
「強力な【天使】との集団戦」「城から発見された人からMAGを搾り取る為の諸々」
これらは確かにここに来た事で実感を得られたものだ、する甲斐はあった。
【メシア教過激派】というものが確かな敵であると、そう感じた。
ただの野良悪魔とは違うと感じた。
この経験は無駄にはならないだろう
そして目的を達成したのだから速やかに撤収し、余計なリスクを背負わない事を選ぶべきだ
最低限、得る物を得たのならそれ以上はおまけでしかない。
しかし何となく落ち着かないような、そんなもやもやとしたものを感じた。
別にこの戦線に決定打を与えるために来た訳でもないし
確証があるわけでもないのに「有利かもしれない」で突っ込む理由もないんだが。
自分でも良くわからない感情だ、焦っているのかもしれない
多分こういうのに任せて突っ込むと痛い目を見るんだろうなぁ
英雄願望があるわけでもあるまいに。
「団長、お疲れー」
「参謀もお疲れ様です」
そんな無意味な事を思っていたら聖女ちゃんが来た、とりあえず労う
聖女ちゃんは外に出ていた「書記」役の人の代わりに議事録の作成をしていた
多分会議中、一番忙しかった人だと思う。
「またなんか余計な事考えてる顔してるわね」
「まあ、そうですね」
もう結論が出た事だから本当に余計な事だ、今考えてもしょうがない事でもある。
どうせあと何日かしたら行動の是非がわかる話だ
聖女ちゃんが俺に目を合わせながら言った。
「大体何を考えているかわかるけどさー
私たちはドイツになんか義理も利益もないんだから、程々でいいでしょう?
用が済んだら帰ろうよ、ね?」
そうですね。
「それと帰るって向こうの人に伝えたら祝勝会するから是非って誘いがあったってさ」
祝勝会?
「街と城の攻略戦が終わったっていう、区切りみたいなもんかもね
今日の夜だってさ、今慌てて食べる物の準備とかしてるっぽい」
全く想像もしてなかった平和的な話のおかげでようやく実感した
そうか、俺たちのドイツでの戦いは終わったんだな。
今夜、祝勝会に出席して、明日の昼には日本に帰る
そういう事になった。
悲報 主人公、運命力が足らない
作中でオーディンの子孫はいないと主人公は勝手に思っていますが現実にはいます
某ブリティッシュな王室には
記述が正しければオーディンの子孫を名乗っている血が女系を通して入っていて
そのため12世紀以降にブリティッシュでイングランドな王室と縁組をした所は
全員オーディンの末裔と言えなくもないです
欧州の名立たる貴族にはそこそこいる、くらいには広がってるはずです
ただし主人公的には「オーディン信仰してないじゃん」という点で子孫と思いません
アイデンティティ的な話です
>「トールとオーディンと部族神を捨てる」と言葉に出して誓わせる
日本人的に解釈すると、お稲荷様とアマテラスと氏神を捨てて仏壇をぶち壊すと誓う、くらいの事です
登場しない人物設定
覚醒犬 ブルーノ
レベル3 挑発
茶色が強いジャーマン・シェパード 雄 8歳
特に謂われもない普通の覚醒犬
主人を助けるためにゾンビ(レベル0)を噛み殺し覚醒する
覚醒できなかったらゾンビの毒で死んでいた
挑発スキルを使って囮やガキの誘導などを務める
黒猫のミアがいる集団とは別の集団に所属
交流する際には、ブルーノもしくはミアが先触れをしてからというルールがあった
二つの集団にとっては安全な交流のための架け橋になる一匹