コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
それから二週間ほど班長の所でバイトをこなし
班長の宝玉事情が市場に出回る宝玉を今後も買い続ければ何とかなる、というところまで状況が好転し
ちょうど良く給金として支払われたマッカが汎用スキル【家事】分まで貯まった所で今回のバイトは終了した、今後は受注を絞るのだそうだ
もちろん1【家事】分のマッカは【家事】に変換されることになる
二週間で1【家事】分は破格のバイトだった、最近家事は値上がりしてるのだ
ガチャ産の霊刀(対霊汎用装備枠から出た装備である、銘がそのまま「霊刀」だった)を
<ライコー>の【剣術】スキルでちゃんと扱えるか確認する、刀を構える<ライコー>を見ながら思った
他の装備も何とかしたい
こうなると欲が出てくる
人型式神の強みの一つは人用の装備を使うことが出来る事
そして標準的な装備と言われているのが、剣(武器) 鎧 小手 靴の四つ
あとはこれに頭に兜やヘルメットを付けたり付けなかったり、小物類として何か霊装を身に着けるかどうかって話だ
自分の<ライコー>は今ちゃんとした武器を手にした
次は何か良い防具を使わせてやりたい
<ライコー>は前に出て戦い、時には自分の盾として敵との間に割り込んだりしている
なら防具くらいちゃんとしたのを用意せねば、そうなると
「やはりガチャか」
普通に対霊装備も売ってはいるんだが性能が良いのはやはりガチャ産だ
というか性能が良い装備は普通に販売するとあっという間に売れてしまって全然買える気がしない
「こんな値段で買える人いるの?」と一瞬目を剥くような高品質でお値段も相応に高い装備も飛ぶように売れてしまってるのだ
誰もが心をガチャに捧げているわけではないのである
ガチャにするか購入競争に打ち勝つかはまだわからないが
必要なのはマッカだ、稼がないといけない
そういうことになった
事務の人に装備を新調しガチャ産の刀を使う事にしましたと報告した上で
稼ぎたいので何か良い仕事があれば、と言ったら
「それならおすすめなのがありますよ!」
と明るい声をいただいた
この言葉には信頼が置ける
「紹介はしますがそれはあまりおすすめ出来ません」とはっきり言っていた仕事が
あの「とある地方協力者の霊能力者の所で世話になっているPTの支援」だった
あの時は今まで紹介されないような仕事でつい手に取ってしまったのだ
そして苦労した、いやでもあのPTはギリギリだったから結果的には良かったのかな
ああでも自分が受けなきゃもっと優秀な人が行ってあのPTも楽できたかも、
でもあれ今までの異界での稼ぎの半分以上を占めてるんだよなぁ、もうやりたくないけどやってよかった仕事な気もしないわけでは……
「あの……」
「あっすみません、聞かせていただけないでしょうか」
「はい!」
そして今
「ひゃっは~! 俺たちは「オホーツク海気団解放戦線日本支部」のもんだ!」
「命が惜しけりゃマッカを出しなぁ!」
何やら珍妙な名前をしたPTで阿漕な仕事をしている
ガイア連合の派出所に着き職場となるPTに合流し、さて名乗ろうとした瞬間いきなり面食らう事になる
「俺はリーダーだ、そう呼べ。そしておめぇはここにいる間は森田だ、わかったな?」
世紀末を感じさせるモヒカンのおじさんに突然言われた
「え?」
誰だよ森田って
「わからな」
いんですがと続けさせてくれなかった
「山田ぁ! 説明しておけ!」
誰とも知れないその人は立ち去って行った
「え?」
「驚いたでしょう、あれがリーダーのやり方なんですよ」
そう細長い眼鏡をした山田さんと思われる男性が俺に語り掛けた、まったく戸惑いも動揺もない
ここではあれが普通なのか
説明、説明してほしい
「まあ簡単に言えば森田さんはここにいる間は」
「「オホーツク海気団解放戦線日本支部の森田」を名乗れって事です」
簡単じゃない、わからない
「ちゃんと説明しますから安心してください」
「お願いします」
「ここの異界ではピクシーが湧く事は知っていますね?」
知っている、ちゃんと説明を受けてきた
もともとこの異界にはピクシーはいなかったのだが、転生者が出入りするようになってから出てきたらしい
「女神転生ならどこかにピクシーいるだろ」という転生者の勝手なイメージとMAGで生まれるようになったのではないか、そう言われている
「低レベル異能者が行く異界によく目にするのはコダマ、スダマ、ポルターガイストあたりですね」
「どれもレベルは1~3程度、まあ普通に勝てる相手です、知恵も働きませんし」
「ところがここにはレベル5~7のピクシーが出てくる、少女くらいの知恵も働きます、大事なのはレベルじゃありません知恵と勇気です」
「だからここでレベリングすればとりあえずは脱初心者と思っていいと思いますよ多分ね、あっ約束された脱初心者おめでとうございます」
とりあえずとか、思っていいと思うとか付いてるとあんまりおめでたく感じないなぁ、
とってつけた感じもするし根拠も弱いし
「話しを戻しますが、ピクシー、これにリーダーは恐怖しました」
「恐怖?」
「ええ、ピクシーの伝承、ご存じですか?」
ここに来る前に少し調べた、頷く
「なら話が早い、その中にこんなものがあるはずです」
「取り替え子(チェンジリング)」
「まさか、リーダーのお子さんが?」
ぞっとする、まさかそんな
「いえ、そう言う訳ではないようです」
えっ
「それにリーダーは生涯独身で生涯童貞だそうです」
「はぁ」
身構えていただけに拍子抜けしてしまった
しかも童貞誓ってるのか
だが疑問がある
「あの、変な肩書と名前との関係性が見えないんですが……」
「それがあるんですよ、まあ聞いてください」
「ここでピクシーを狩りまくって経験値にした後、ふと取り替え子の話しを思い出して思ったそうです」
「「家にいる子供を勝手に盗むようなやべぇ連中の恨み買ったらやばくね?」って」
おい!
「いや割と切実ですよこれ、我々は異能者霊能者名乗ってても結局はデビルバスターなんですから」
「バスターした相手からの恨みや仇討は覚悟しないと、相手もチェスト関ヶ原の精神を持ってる事忘れちゃダメです」
なんだよチェスト関ヶ原って
「それで「子供泥棒が出来るならじゃあそのノリで寝込み襲われたら死ぬじゃん!」と思ったそうで」
まあそうかもしれないなぁ
「そこで名前隠しです」
はぁ
「古来より我々日本人は名前に力があると信じていました」
「本名を取られれば命や魂を取られる、そういう信仰がありました」
「だから本名は隠す、世間で使うのは使っていい名前を使う」
「近代になるまで歴史上の人物の名前で妙に官職や通称が多くて受験生を泣かせて来たのはそれが理由です」
「我が身可愛さに受験生を泣かせるろくでもない連中が我々のご先祖様という事です、共感しますねぇ」
しなくていいです
「じゃあこの変な名前は……」
「そうです、悪魔に名前を知られないための偽名です」
「名前も知らない相手の家を見つけられるわけがない、そういう事です」
「最初はもうちょっと現実的な所属と名前にしてたんですよ」
「東京の伊藤とか東京の後藤とか」
「ところがこれで東京の伊藤さんとかに被害が出たらちょっと目覚めが悪いじゃないですか」
「そこで一月くらい前までは被害出ても心が痛まない連中の名前を拝借してたんですよ」
「「メシア教日本支部の方から来ました」って、そうし「ダメでしょそれ!」
話を遮って声を出してしまった、メシアン騙る方が不味いだろ!
あいつら人をマヨネーズとか餃子とかメシアとかにするんだぞ! 怖いだろ!
掲示板でアンケート取ったら「終末起こしそうな組織No.1」に絶対輝く連中だぞ! 次点は多分俺ら
「まあそんな訳でちょっと配慮してやめて、じゃあどうするかってなって出た結論が」
「存在しない適当な組織の適当な名前を名乗る、だったんですねぇ」
「他に何か聞きたいことはありますか? 森田さん」
これは聞かないといけない気がする
「あの、この異界にいる他のPTも同じことを?」
「そう言う話は聞いたことがありませんねぇ」
リーダーは頭モヒカンだが見た目以上に知性があった
まずリーダーの犬型式神<ワン太郎>(シベリアンハスキー)が異界内を単独捜索
獲物であるピクシーを見つけたら汎用スキル【テレパス】でリーダーに報告
報告を受けたリーダーは地図で地形を確認、待ち構える場所を吟味する
この異界は山そのものが異界になった異界だ
良いのは高い斜面がある所、斜面を壁と見なしてそこに追い込む
次に良いのが逆に遮蔽物が全くない平地の部分、隠れる所がない所に追い込む事になる
そして待ち構える場所が決まったらPTを分割する
PTメンバーは6人6式、これを追い立て班と待ち構え班に分ける、基本的には3人3人で分けるが状況により増やしたり減らしたりするそうな
追い立て班とその式神が獲物であるピクシーを追い立て、待ち構え班がいる所まで誘導する
常にリーダーは待ち構え班に、リーダーの式神<ワン太郎>が追い立て班にいる事で位置取りが楽にできる
追い立て班の仕事は待ち構え班よりも経験を必要とする
ピクシーを生かさず殺さずしかし機動力を失う程度のダメージを与え、時には恐怖を与えるためだけの攻撃をし誘導しなければならない
この塩梅は特に山田さんの得意とするものらしい、ちなみに山田さんが追い立て班の班長である
「ピクシー狩り」は今日が初めての俺は当然待ち構え班にいる
へとへと、ずたぼろになり、道中に食らったアギで羽が焼かれてるピクシーに通せんぼする形で待ち構え班が現れ必ず言うのだ
「ひゃっは~! 俺たちは「オホーツク海気団解放戦線日本支部」のもんだ!」
「命が惜しけりゃマッカを出しなぁ!」
「う~ん? たったこれっぽっちかぁ?」
「ここで出すマッカがお前の命の価値だぞぉ?」
「たった5マッカの命、安すぎんだろおい!」
「話しは変わるがよ、妖精オ〇ホって知ってるか? 今メシア教の奴らでブームなんだとさ! 悪い奴らだよメシア教は!」
「そうそう、素直に出せばいいんだよ素直に、俺たちは素直な悪魔に優しいんだぜ?」
「じゃあな、32マッカのお嬢ちゃん、次あった時はもっと価値ある命になっててくれよ! 今日一番安い命だったぜ!」
「ひゃひゃひゃ! 全てはオホーツク海気団の為に!」
全部リーダーの言葉である
なんなのだこれは、あのピクシー泣いてるぞ
悪魔って泣くのか
「ふ~、また悪魔の命乞いに耳を傾けちまった」
「ライトに属性が傾いちまう、まあ俺はライトニュートラルな男だからな」
それは絶対にない!
俺は今日、人の心を失ったかもしれない……
あんな酷い事をして得るマッカに今目が奪われてる
じゃらじゃらと机の上に積み上げられた大量のマッカ
リーダーが声を上げる
「今日は初めての奴がいるから丁寧に説明する! 黙って聞いて俺を崇めろ!」
「まず、依頼だった【妖精の透羽根の回収】は今日は数が揃わなかったから完了しない! ボーナスはなしだ!」
「この依頼には緊急性も期限もねぇ! 「出来たら納品してね」扱いだから罰則もねぇ! だから安心しろ! うちのPTではボーナス扱いだ」
「次! 今日の儲けの3807マッカは6人で均等分けだ! 貢献度だの被害の度合いだのは考慮しねぇ! 被害を受けるな! 貢献しねぇ奴は俺が追い出す!」
「この金は俺が飯を食ってから分配される! 金をより分ける為の時間だ! 山田ぁ! おめぇのシキガミが分けろ!」
「えーっと634枚と3枚余り! おい山田ぁ! この3枚はPT予算行きだぁ! おめぇが管理しろ! 以上! 解散!」
PT予算?
「シキガミが大ダメージを受けた時、たまに修理代を払えないPTメンバーがいましてね」
山田さんが怪訝な顔した自分に気づいたのか聞かずとも説明してくれる
「そういう人向けの慰労金の積み立てです、あんまり使われませんけどね」
「そんな事を……」
「あの人はあれでリーダーしてますから、ではこれで」
と立ち上がる山田さん
「じゃあ頼みます」と自身のシキガミ(銀髪の女型)に声を掛けて去っていった
じゃあ俺も今日はもう……
「それと新人おめぇに話したいことがある、ちょっと付き合え」
えっ
今、派出所内のリーダーの部屋で夕食を食べてる
リーダーはジャーキー等つまみと酒、俺はかつ丼だ
<ライコー>はサンドイッチ、<ワン太郎>は骨がついてるごつい肉を食ってる
俺とリーダー、<ライコー>と<ワン太郎>がテーブルを挟んで向かい合っている
俺が食べ終わったのを見計らってリーダーが声を掛けてきた
「今日一日でおめぇの運用方を考えた、黙って聞け」
聞きます
「まずおめぇはステ通り大して【速】くねぇ、これは追い立てには向かん」
「逃げる奴を余裕を持って追いかけれねぇとただ逃げられるだけだ」
「そしておめぇのシキガミは近距離物理型、ジオが使えるがこれも追い立てには向かん、ジオは掠らせる攻撃に向かんからだ」
「その一方おめぇのシキガミは待ち構え班に向いた素質がある」
素質?
「おめぇのシキガミは「弱い主」を守る事に慣れてるって事だ」
「おめぇは俺と一緒に待ち構え班固定だ、そしておめぇのシキガミでおめぇの横にいる俺をついでに守らせろ」
「<ワン太郎>は追い立てに必要だ、これは動かせん」
「だから俺の身を守る役割が待ち構え班にある、これはいいな?」
頷く
「だから待ち構え班には守る事に適性があるシキガミがいるのが好ましい、それがおめぇのシキガミだ」
「俺自身もPT内じゃ弱い方じゃないがさすがにシキガミには劣る」
「……わかってない顔だな、何がわからん?」
あえて言うなら
「<ライコー>が守る事に適性があるって事が?」
自分がリーダーの言う「弱い主」であり守る事に慣れてるのは間違いないが、「<ライコー>が守る事に適性がある」とまで言う要素はなんだろ
そんなスキルは持っていなかったと思うが……反撃かな?
ちらと<ライコー>の方を見る、優し気に微笑んでいる
「そんな事か……」
ポリポリと困ったように頭を掻くリーダー
そしてため息を吐くように
「見ればわかる」
と言い、続いてぼやいた
「隣で歩く時の距離やおめぇとの角度とか射線とか、おめぇから見て左右どちらにいる事が多いとか、多分言ってもわからねぇよなぁ」
少し考えて
「……例えばこの席、おめぇと俺が正面で、おめぇの<ライコー>は俺の<ワン太郎>の正面にいる、これの意味は何だと思う?」
意味なんてあるのか
「意味はある、俺の<ワン太郎>がおめぇに飛び掛かろうとした時、斜めであれば少し飛びつく距離が延びおめぇを庇える可能性が少し増えるからだ」
「逆に言えばおめぇと<ワン太郎>が正面であれば少し庇うのが遅れるかもしれねぇ、その可能性の為にこの席になってる」
「おめぇは意識してなかったから覚えてないだろうがおめぇの<ライコー>は自分からその席に座った」
「そして飯を食う時、俺の<ワン太郎>が肉に噛みつくまでサンドイッチに手を付けなかった、
<ワン太郎>の口が塞がるまで自分の手が塞がれるのをそれまで嫌がっていたって事だ」
「これは大げさなことかも知れねぇ、だけどこういう動作の積み重ねを命がかかる場だと意識しねぇといけねぇんだ」
「これだけ見ても適性はわかる、守ろうとする意志があるって事だ」
「高レベルシキガミは自我が強いとされているが、低レベルシキガミだって自我がないわけじゃねぇ弱いだけだ」
「その弱い自我からすらも滲み出る精神性の方向、それを適性、素質の類だと俺は決めつけた」
むむむ
「話しを続けるぞ」
「次におめぇの回復魔法だが、自由に使っていい」
「但し俺が指示した時は絶対優先だ」
「極論すれば、誰が死んで誰が生き残った方が被害が少ないか、それを判断する義務はリーダーの俺にある」
「この一線は譲らん」
「まあ今までそんな判断するような事はなかったが」
フラグかな、と軽口を叩きそうになったが我慢する
本当にフラグになったら嫌だしね
「あっ、俺の方から質問いいですか」
「良いとも、俺がこの酒を飲み切る前に話が終わるならな」
900mlの紙パックの焼酎を茶碗に注いで飲んでる……
「なんでピクシーを恐喝してるんです? 普通に殺してマッカ落とさせた方が効率が良いのでは? 経験値も積めますし、あれでは時間も掛かります」
追い回されて羽を焼かれてズタボロになって脅されて有り金巻き上げられて、その後解放されたピクシーたちは他の野良悪魔に殺されていた
あんな惨い事をするなら普通に敵として真正面から戦って勝った結果殺す方が有情だと思う
そっちの方が恨みを買わないとも思う、あれでは哀れだ
「効率が良いからだ」
「??」
「倒した結果落とすマッカなんぞ財布から零れた金みたいなもんだ」
「ならそいつの意思でそいつの財布を逆さに振らせた方が良い、そういう事だ」
「何か根拠が?」
「ある、ピクシーを狩りまくってドロップとしてのマッカと、恐喝してのマッカの期待値を比べた」
「結果、恐喝の方が効率が良かった」
「おそらく他の異界、他の悪魔ならまた変わるだろう、だがあの異界のピクシーならこれが良い」
「うん? 酒が尽きたようだな、退出してよろしい」
……900mlの焼酎ってあんなに気軽に消費される量だったのかぁ
なんというか実に偉そうな人だった、迫力があるとも感じる、雑魚っぽいモヒカンなのに
こういう所が山田さんの言う「リーダーしてる」って事なんだろうか
そして派出所内の部屋に帰ろうとした時、山田さんのシキガミからマッカが634枚入ったビニール袋が渡された、ずっしり重い
うーん金の輝きってビニール袋に入ると随分色あせて見えるんだなぁ安っぽい
それから三週間ほど「オホーツク海気団解放戦線日本支部」をしている
このPTは確かに稼げる、凄い
1日の稼ぎが600マッカを下回る事はない
PT全体では1日3600マッカ以上稼いでいる計算だ
一匹のピクシーへの強盗(恐喝じゃなくてこっちの表現が正しい気がしてきた)は多くても100マッカを超えない
それを考えると1日36匹以上のピクシーにオホーツクしてきたという事である
それを支えるのはやはりまずリーダーのシキガミ<ワン太郎>だろう
<ワン太郎>はピクシーを見つけ、常にその声でピクシーを追い立て、【テレパス】でリーダーと情報のやり取りをする
リーダーからの指示を追い立て班に共有させ、命令を伝える(<ワン太郎>の動作の意味を山田さんに覚えさせ、翻訳させてるらしい)
特に<ワン太郎>の凄みはリーダーが言う所の「トレイン」の使い手である事だ
もちろんそんなスキルはない
トレイン、ネトゲ用語である
大量のアクティブモンスターを引き連れて集団を成す迷惑行為である
<ワン太郎>は見つけたピクシーの数が10より上の集団であった場合
リーダーの指示で周辺から悪魔たちを探し出し、喧嘩を売って引き連れあるいは追い立てをし
そのピクシーの集団にぶつけるのだ
ピクシーはこの異界では最強の雑魚悪魔である、もちろんそんなピクシーの集団が負けるわけがない
ピクシーたちは勇敢に立ち向かう
しかしピクシーは人間の霊能者より気軽に魔法を使う、悪魔にとって魔法は自然な行いなのだ
だから悪魔は、それもそれほど賢くない者は魔力の節約に意識が向かないことが多い
そうやって魔力がすり減り戦闘能力を減少させたピクシーの集団を取り囲み、リーダーはこういうのだ
「ひゃっは~! 俺たちは「オホーツク海気団解放戦線日本支部」のもんだ!」
「命が惜しけりゃマッカを出しなぁ!」
追い立て班のエース、<ワン太郎>
その主人であるリーダーもまた貢献度が高い、というか<ワン太郎>の主人なのだから全部リーダーの貢献だ
こんな事があった
<ワン太郎>が30を超えるピクシーの大集団を見つけた時があった
リーダーは即座に<ワン太郎>にトレインを指示、それも複数回の実施を指示した
そして自身は俺と<ライコー>と共に追い立て予定地に先行、アギストーンとザンストーンを複数設置
6人6式の追い立て班を直接指揮し、よたつくピクシーの集団に攻撃をぶつけながら誘導
追い立て予定地にて追い込んだらストーンを発動
「ひゃっは~! 俺たちは「オホーツク海気団解放戦線日本支部」のもんだ!」
「命が惜しけりゃマッカを出しなぁ!」
アギストーン+ザンストーンは当初俺は「ファイアストーム」という物理現象を再現するのかと思った
がそうはならずただの「衝撃と熱量」が吹き荒れるだけだった、要は爆弾である
「ああやりゃ誘導されて死地に追いやられたってわかるだろ?」
「じゃあもう抵抗できねぇよ、いきなり連戦で追いやられて最後にドカンじゃ心が折れるわ、ピクシーなんて少女なんだぜ」
「心を攻めるのが良い指揮官ってもんだ、森田もそれを考えろ」
とは酒を飲みながらのリーダーの言である
マッカも経験値も手際よく稼いでるけど
なんかこう、辛くて帰りたいなぁって思うようになってしまった、心が荒む
大体、オホーツク海気団解放戦線ってなんだよ
PT脱退、仕事の終了、をリーダーに願い出た
てっきり自分の至らなさを怒鳴られるのかと思ったら
そんな反応はなかった
ただ条件は付けられた
「ふん、まあいい、誰にでも適性ってもんがある」
「このPTに就職したってわけじゃねぇ、固定PTってわけでもねぇ、なら止める権利はねぇさ」
「だが森田はヒーラーだ、ヒーラーが突然抜けると困るし士気に響く」
「これから増員の要請をする、具体的な話しはその返答如何で良いか?」
頷く
「何も森田の代わりが来るまで居ろって言ってんじゃねぇさ」
「次のヒーラーがいつ来るかの目途が立つまでだ」
「そうすりゃ俺も、何日後にヒーラーが来るとPTに言える」
ぐいっと茶碗酒を煽り
「まあそれまでよろしくな」
「ひゃっは~! 俺たちは「オホーツク海気団解放戦線日本支部」のもんだ!」
「命が惜しけりゃマッカを出しなぁ!」
やめる、と思ったら一気に気が楽になった
楽になったが、だからと言って気持ちよく見れる訳でも、慣れて良い光景でもないと思う
今も8匹ほどの集団を相手取り順当に追いつめ包囲し、降伏させ身包み剥いだ
その姿を少し離れたところで見ている、この距離なら見ようと思わなければ表情はわからない
見たくなかった
「実は私はメシア教の人と友達でねぇ」
「彼らがよく言ってたんですよ、「矮小にして下等で汚れた妖精ごときが空を飛ぶのは許しがたい」」
「「空を飛ぶのは天使様に許された奇跡のはずだ」って、私も同意見でしてねぇ」
山田さんも中々堂に入った脅しの姿だ、特にあれを聞かされてるのはこの集団のリーダー格のピクシー
一匹だけ無事な羽を持つそのピクシーに「仲間の為に羽を捧げろ」という脅し文句で追いつめて限界までマッカを絞るつもりだろう
あまり見たくない
彼らと一緒になって働いている一味なのにそう思う自分に嫌悪感が湧く
そんな時、視界の隅に動くものがあった
「うん?」
見るんじゃなかった、あの集団のピクシーの一匹だ
リーダーに対する人質は数匹いればいい、ならもう搾り取った奴らは先に解放する
そういう判断で捨てるように解放されたピクシーだ
羽を折られ懸命に歩いてる、30センチに満たない小さな身体で、一定の方向をまっすぐ見つめて
でも、この子は多分この後、悪魔に食い物にされてきっと……
「ディア」
判断をして動いたわけじゃなかった、反射的に掛けてしまった
瞬く間に回復し羽が動くようになり一瞬こちらを見てから即座に飛び去るピクシー
「あっ」
やっちまった
「森田!」
瞬間飛び込んでくる声と音に身を竦める、顔を上げたら
「チッ」
殴りかかってきたリーダーの拳から俺を庇う<ライコー>の姿があった
「チッ」
またもや舌打ちするリーダー、そして吐き捨てるように言う
「これだから人型は嫌いなんだ、すぐ女になりやがる」
「森田ぁ! おめぇ、自分がしたことの意味が分かってんのかぁ!」
「わっわかってます」
声が震える
脳裏に蘇る初日に聞かされた山田さんの「バスターした相手からの恨みや仇討は覚悟しないと」の言葉
「じゃあなんでやった、何の意味がある? どんな得があると思った」
そんなものない
「つい、反射的に……」
泣きたくなる、喉が痛い
「婦人の仁か、まったくこれだから……」
「分かっているな? これから俺たちはピクシーの大群から報復を受ける」
頷く
そこそこの期間やったのだ
リーダーが意図的に「解放したピクシーを悪魔の餌にしていた」事に気づいていた
多分<ワン太郎>が連れてきた悪魔でだ、命が惜しければと言ってマッカを奪っておいて酷い契約違反だと思った
そしてその理由は多分
「ピクシーはおよそ善良で仲間思いで少女の心を持っている悪魔だ、悪戯好きだがな」
「そんなのが敵に酷い事をされたと逃げ帰ればどうなるかわかるな?」
頷く
「ましてや俺たちの手口はちょっと酷い」
ちょっと?
「怒りに燃えて大量に集まってくるだろうよ」
「おめぇがやった事は意味もなく俺たちを危険に晒したことだ、反省しろ」
「それと俺は「命が惜しければ」と言うが助けてやるとか無事に返すとは絶対言わねぇ」
「更に俺が手を下したわけじゃねぇから嘘もついてねぇ」
「悪魔相手に口約束でも嘘つくのは怖いからな、そういう点でも万全だ、嘘はつかねぇ」
「だから後ろめたく思う必要は何もねぇんだ」
「撤退はしねぇ」
「ここで俺らが異界からずらかれば、ピクシーの大群が勘違いして他のPTを襲うかもしれねぇ」
「ピクシーどもが俺らを見失っても同じだ、一回は当たらねぇといけねぇ」
「ここで迎撃する、幸いにもここは山の斜面を背に出来る、空を飛ぶことと数の有利は平地ほどじゃねぇ」
「とりあえず今日のおめぇの分け前の二割は罰金で持っていくぞ」
「話しを合わせろ」
力強く歩むリーダーの背を見ながら俺は震えながら<ライコー>の手を握りしめていた
そこは今回収したマッカを数えて喜びの声に満ちていた、が
「聞けぇ! 俺の無能な手下ども!」
リーダーの声で瞬時に静まる
「実は森田の奴がちょっと前に文句言ってきてな」
笑いながら話すリーダー
「ボーナスになるはずの【妖精の透羽根の回収】が全然捗ってないってよ!」
「俺ら、マッカ回収が捗りすぎて全然ピクシー殺してねぇからなぁ! ひゃひゃひゃ!」
「その事を思い出した俺はよ、ちょっと良い事思いついたのよ」
「ジャンプさせたピクシーを出汁にして誘きよせたら良いんじゃね? ってな!」
「という事でこれからピクシーの大群が来る予定だ! 規模は大きいと思うが不明!」
「迎撃準備! たまには殺傷しねぇと善人になっちまうぜ!」
「可愛い後輩とボーナスの為に【妖精の透羽根】集めようじゃねぇか!」
その声で周りも動き出す
「森田さん! あなたのせいですよ! 余計なことは言わんでください!」
「リーダーはああいう人なんですよ!」
「まったく! 楽して稼ぐのが人の喜びというものを!」
山田さんの言葉に軽く「すみません!」と頭を下げた
もっと深く下げたかった
戦闘が始まった
最初にやってきたピクシーの群れは7匹程度
これを難なく<ワン太郎>筆頭に<ライコー>やシキガミ達が通常攻撃で倒しきる
人間は一切何もしない、体力魔力の温存をリーダーに命じられたからだ
次に来たのは5匹の群れ、これも先ほどと同じように、と戦っていたところで
突如現れた4匹の群れが戦っている最中のシキガミ達を横から攻撃、した直後待機していた人間たちがリーダーの命令で魔法スキルの一斉射
後から来た群れの方を蹴散らし撃破、シキガミ達も余裕を持って最初の5匹の群れを片付けた
その後は20匹くらいと思われる群れが登場したが
事前の打ち合わせ通りにシキガミ達が退却、
それに釣られ突出した群れの半分ほどを、伏せていた山田さんのシキガミが真横からのマハブフで纏めて撃破、
怯み勢いがなくなった残りのピクシーを反転してきたシキガミ達が通常攻撃で撃破
ここまでが統制されたまともな戦いである
その後10匹くらいの群れが襲来し戦っている間に他の群れが続々到着、完全に乱戦となった
「しかしひっでぇ姿だなぁおい」
と周りを見渡し笑いかけるリーダー
「まあ全員生きてるから上等だな、とりあえず撤退だ」
「な? ピクシーと正面からやるの効率わりぃだろ、やっぱ俺天才だわ」
こうして長い1日が終わる