コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
夜、リーダーの部屋に訪れる
「入れ」
「はい」
「用件はわかってる、手早く済まそう」
億劫そうにこちらを見るリーダー、いつもより少し酒が入ってるように見える
席に着こうとする俺を軽く押し止め<ワン太郎>の前に座る<ライコー>
……何となく初日にリーダーが言っていた事の意味が分かってきた気がする
「罰金の件だな」
「はい、それと今日の事は「それは良い」
いきなり手を振って遮ってくる
「えっ」
「おめぇはやった事の意味がわかってる、反省している、悪意もねぇ」
「俺しか知らんから「示し」がどうたら言う話しでもねぇ」
「それなのにそういう話しは聞きたくねぇ、特に意味もねぇ」
「はい」
「だが罰金は受け取ろう」
今日の俺の取り分820マッカを取り出す
暗くなりかけていた事で撤退が優先された、その結果あれだけ倒しても大した増益にはなってない
「うん? 多いぞ、誰がこんなに持って来いなんて言った?」
「いえその、二割はって言ってたんで」
「じゃあ二割で良いだろ、おめぇのシキガミに分けさせとけ」
ふぅ、と茶碗酒を一気に煽ってからリーダーが言う
「俺はよ、PT内での金のやり取りは嫌いなんだ」
「だから均等に分けるし消耗品を使う事も避けるし勝手に使わせん、極力シンプルに済ませてぇ」
「だからよ、この罰金もそれだ」
嫌なものを見る目で<ライコー>が並べているマッカを見るリーダー
「そして今回の件は【ああいう事】になった」
「これじゃおめぇの罰金の向かう先がねぇ」
そういうのは基本山田がやってるからな、と続ける
「当たり前だが俺が受け取る筋でもねぇ」
「だからおめぇが抜けた後に適当に処理する、適当に名目作ってPT予算に入れとくさ」
「そしてそのうち適当に名目作って四人に分ける」
「予算の恣意的な運用さ、恐れ入ったか、まあ大した額じゃない」
「それで今回の件はチャラだ」
「取り返しがつかない事は何もなかった、ならこんなもんだろ」
「シキガミが死んだ奴も居なかったしな」
「お前はこれで罰を受けた、償った、それでお終いだ」
「リーダーの俺がそう判断し裁いた」
「は、い」
胸のつかえが取れた気がした、ほっとしたら涙が零れてきた
顔を上げられない
なんかリーダーが言っている
「おめぇ、そういう泣いたり泣きそうになったりするのやめろよな」
「それするとおめぇのシキガミの視線が冷たくなるんだよ」
「まあとにかく、また明日からもうちょっと仕事がある、よろしく」
「ところでなんで四人で分けるんですか?」
自分を除いたら五人のはずだ
「リーダーがPTメンバーにさせた罰金を受け取れるわけねぇだろ、馬鹿か」
「そんなのありならいくらでも罰金背負わせる屑が出てくるぞ」
はぁ
翌日の朝
「聞けぇ! 雁首並べた間抜けども!」
「森田が抜ける事になった!」
「代わりの奴は三日から七日、もしくは不明らしい!」
「よって森田は三日後抜ける! これに伴いそれまでは森田に悪魔狩りの基本的なレクチャーをする事にする!」
「おめぇらはその間適当に戦って教材になれ!」
聞いてないぞ、何それ
そして「えー!」と上がるPTからの声
「黙れ! おめぇらにだって抜ける時は同じ事するって決まってんだ!」
「文句は聞かねぇ!」
ドンっとテーブルを叩くリーダー
「おい、もしかして昨日のあれって」
「強制的なレベリングじゃろなぁ」
「リーダーなりの可愛がりってやつだ」
「こわやこわや」
「まあ怖いのはモヒカン見ればわかる」
「餞別の始まりがレベリングってなんだそれ、俺らの時もやらされんの?」
リーダーはそんな事しない!
「まずおめぇが知るべきは悪魔の知恵の恐ろしさだ」
「奴らは知恵が人並みにあったりなかったりする」
「よく見ておけ」
三匹ほど屯っていたピクシーに攻撃を仕掛けようとしたシキガミ達、を攻撃してくる五匹のピクシー
を人間たちの魔法スキルで撃破した
これって
「昨日も似たようなものを見たな?」
「ピクシーはなりが小さい、同種族での仲がいい、群れの数が多いときもある」
「下手に近づくと警戒していたピクシーに気づかれてる状態から戦闘が開始する可能性がある」
「別動隊を分派し奇襲や横殴り、くらいは普通にやると思っていい」
「一人でヤるなら単独行動してる奴を狙え」
「PTで複数と正面からやるなら何かあった時対応できる戦力を使わずに取っておけ、予備戦力って考え方だ」
「つまり「ギリギリ勝てる」程度の戦力で立ち向かうな、弱い奴と戦え、何があるか分からない」
「次に逃げ方を教える」
「と言っても良い逃げ方の見本なんざそうそうない」
「よって悪い見本としてピクシーを見ろ」
これはいつもの「ピクシー狩り」だった
「奴らは攻撃を受けた方と逆の方向に真っ先に逃げた、誘導しやすい良いカモだ」
「向かう先が自分たちにとって助けになる遮蔽物がない所だった、何も考えない良いカモだ」
「足手纏いを見捨てる事が出来ず全体での足が遅くなった、逃げれない良いカモだ」
「疲れ切った状態になってからまとめて立ち向かってきた、一網打尽にできる良いカモだ」
「そして予定通り有り金を俺たちに捧げてくれた、良いカモだ」
どうすれば良かったんだろ
「まず逃げなきゃ行けない状態を作るな、と言いたいがまあそんなのは無理だ」
「俺も逃げ上手とは言えん、だから理屈だけ言う」
「戦力的に時間稼ぎを出来る奴で足止めし、集団にとって価値がある存在を逃がす」
「この足止めする部隊を殿(しんがり)という、最後方で敵の攻撃を受け時間を稼ぐ事になる、戦国時代では生き残っただけで大手柄って役目だ、そういうやり方がある」
「但し殿は特に大きい被害を受ける、やりたいものじゃない」
「他にも狙撃できる足止め要員を置き、相手にとって攻撃されたくない存在に」
「積極的に攻撃をする事で妨害、時間稼ぎをして本隊の撤退を助けるというやり方もある」
「皆大好き島津の捨て奸がそれだ、使った戦力は確実に死ぬ、それも本隊の為に死んでくれる様な立派な戦力がだ」
「殿と同じで、これもやりたいものじゃない」
「これらに共通しているのは、高価値の何かを低価値の何かの犠牲で守り、被害を極限させるという考えだ」
「何に価値を置くかの共通認識がないと絶対に上手くいかん、そして低価値側の献身か強制力が必須だ」
「これが出来る敵は強さに限らず厄介だ」「もし出来る奴がいたら注意しておけ」
「逆にこれらの技術を使わなくても逃げられる恵まれた状態もある」
「単純にこちらの方が早かったり、有利な地形だったり、相手が地理に疎かったり、様々だ、但し異界では全くあてにならねぇ」
「俺らの場合は逃走を助けるようなアイテムを使いまくって、シキガミに乗ったり抱えられて逃げるのが一番だと思ってる」
「実戦でやった事がないからこれはわからん」
「次に悪魔交渉を教える」
「が、おめぇは基本が部分的に理解出来ているから大丈夫だ」
「約束事で嘘をつくな、弱みを見せるな、相手を知れ、これだけだ」
「友好的な交渉をしたいなら他は自分で考えろ」
「俺はしたことがない」
「ただ言える事は悪魔に人間の、それも俺らの価値観がそのまま通じると思うんじゃねぇぞ」
「友好的な悪魔でもだ」
「PTの戦力はしっかり把握しろ、自分がPTを率いる立場なら特に」
「範囲攻撃は魔法でも物理でも便利で強い、使う所はよく考えろ」
「特別なスキルや範囲攻撃を持っている奴だからってPT内で過度の厚遇はするな、
そいつが増長する、それ以外の奴らもへそを曲げる
しかし尊重しろ、自身が大事な戦力であるという自負は勇気に繋がる」
「金銭や強力なアイテムはPTを崩壊させるパワーを持つと思え、付き合い方に正解はない」
「おめぇに攻撃をする才能はねぇ、石投げるだけ無駄だから自決用以外は違うもん持っとけ」
「俺の<ワン太郎>を勝手に撫でるな」
「知性を持つ悪魔に命乞いをするためのアイテムを持っておけ、逆に悪魔が命乞いしたら何か分捕れ、お互い様だ」
「装備に気を遣え、特に防具だ、人型式神の蘇生費用はえげつねぇ」
「おめぇには注意力がねぇ、シキガミが喋れるようになったら言う事を聞け」
等々、濃厚なレクチャーを受けた
いつだったかのアギストーンとザンストーンを使った爆弾の作り方も教えてもらいたかったのだが
「あれは適当に石詰めただけだ、あえて言うなら金を燃やす覚悟が必要ってだけだ」とだけ言われた
最後の夜
リーダーに呼び出され部屋に訪れると
「今日は忠告がある」といきなり切り出された
「ここ数日、レクチャーしていたが気づいたことはあるか?」
首を横に振る
なんだろ、さっぱりわからない
「俺はあれから、おめぇにもおめぇのシキガミにもピクシーを殺させてねぇ」
ドクン
一気に緊張が走る
「当然、これは意図的なものだ」
「一度同情が芽生えた相手をまたすぐ殺せるようになるかは怪しい」
「大群が来た時にしっかり……」
抵抗のようにした反論は
「あんなもん緊急避難みたいなもんだ」
あっさり否定された
「まあそれでもいいと思ってる」
「PTを抜けると言われた時にも言ったが適性ってもんがある」
「問題はこれ、同情心に対する向き合い方よ」
はぁ
「割り切った方が楽だから割り切った方が良いと思うが、押し付けるのも良くねぇしな」
「自分の同情心に向き合い、同情しながら殺すのもありだし、殺さないのもありだ」
「仮に「ピクシーだけ殺さないマン」でも「女悪魔だけ殺さないマン」でもガイアなら受け入れる懐はあるはずだ」
「その逆よりはよっぽどな! ひゃひゃひゃ!」
と笑うリーダー
「ただまぁどっちに向かうかも決めてねぇ奴に殺させるのもどうかと思ってな」
「そんな訳で棚上げさせてもらった、経験値稼げなくて残念がってもいいんだぜ」
なるほど、配慮してもらってたのか
「でだ、忠告ってのはそれだ」
「俺の見た所、今のおめぇは割り切るのも、向き合うのもどっちも出来そうにねぇ」
「だからこの仕事が終わったらしばらくゆっくり休め、これが言いたかった」
「作ったばかりの傷口に塩水垂らしたら誰でも痛いもんだからよ」
「休んでからならどうするのもおめぇの好きにしたらいいさ」
「あっ、宗教に救いを求めるのはやめておけよ」
「それがメシア教なら俺の敵だ」
「俺は人の自由と混沌を愛するガイアーズだからな! ひゃひゃひゃ!」
そして次の日【ガイア連合山梨支部】に帰ってきた
リーダーの言う事も一理ある
しばらく休もう
お金(マッカ)は貯まったし、最近シロにも会えてない、撫でたいモフりたい毛繕いされたい(シロはたまにしてくれる)
<ワン太郎>の肉球は肉球っぽくなかったし欲求不満だ
ゆっくりしよう、考えてみれば<ライコー>に【家事】スキル入れたのに家事してもらってなかったし
ゴロゴロしたい気もする
それにもともと俺はそんなに勤労なタイプじゃないんだ
まあガチャに全部回してすぐ働く事になるかもしれんけどさ
そして自宅に帰ったら
立ち退きしろって趣旨の張り紙が家の扉に貼ってあった
「は?」
「は?」
慌てて事務の人に電話を掛ける
家賃は先払いで纏めた額を支払ってたはずだから問題ないはず
ここはガイア連合(まだ星霊神社でしかなかった頃だが)に紹介された物件で
確か今はガイア連合傘下の不動産会社が管理していて
しかも転生者特権(通称俺ら割引)で特別に家賃が安くされてる所
いわば社宅みたいなもんだ
社宅から追い出されるってなんだ、俺何か悪いことしたか
もしやショタオジがピクシーにでもマリンカリンされて俺に仕返ししてるのか!
いやそれはねぇわ、ショタオジに限って
それに妖精のやる事じゃねぇよそれ
「あーその件はですねー」
そして電話だと長くなるから、という理由で
登録してるガイアの派遣会社の事務所に呼び出されたのだった
なぜか判子とかも持ってきてくれって言われた
来ても契約書に判子をしてとっとと出ていく為、いつ来ても初めて来たような感覚になる事務所
物を書く音やデータを入力していると思しき音、電話に出ている声が聞こえる
最初の頃は仕事に必要な契約書をショタオジの管狐に運んでもらってたんだよなぁ
最近は来なくなっちゃったけど元気してるかなあいつ、真面目な良い子だった
居心地の悪さにちょっと現実逃避しながら待っていると
ようやく俺の担当の事務の人が来た
「区画整理? 区画整理って、あの?」
「はい、そういう事になります」
区画整理、そんな現実的な言葉が俺に関わってくるなんて想像もしてなかった
「行政の方からですか?」
「いえ、ガイアのです」
ガイアの方ならしゃあない
興味本位で聞いてみよう
「事情をお聞かせ願っても?」
「それはちょっと……暫くしたらそうとわかるのが発表されると思います」
こりゃガチっぽいな
まあガイアが区画整理するなら……
「あの、あそこ追い出されると困っちゃうんですけど」
「どこか紹介してくれたりは……?」
あと、あわよくば立ち退き料! ガチャ単発チケットくらいは期待して良いかな? 無理かな?
まあ無理でも格安物件だからしゃあない気も
「はい、それで立ち退く方に紹介されるのが~」
そんな訳で家を買う事になった
紹介されたそこは格安でお買い得で将来値上がり確定物件らしい
ちゃんと下の土地もついてくる、借地じゃないらしい
立ち退き対象者に紹介する物件で特別で今だけらしい
しかもマッカ払いなら割引もついてさらにお得らしい
距離的にも星霊神社により近づいて今まで住んでた所よりもいいらしい
即入居可能で新築、もしかしたら他の人に取られちゃうかもしれなくて早い者勝ちで俺は運が良いらしい
区画整理の説明を受けて家の話しされて名前書いて、なぜかちょうど良く持ってた判子をポンと押して契約成立して、マッカで払って
家を見に行くまで30分掛からなかった
後のことは事務の人が全部やってくれるって
今引っ越し業者に連絡して、今日から暮らせるようになるって
なんだかすごいことになった
「という事でここが新しい家だよ」
知らない所に来て落ち着いていないシロを撫でながら言う
この和室が新しい俺の部屋だ、この家で一番狭い和室
狭い部屋が落ち着く、畳は良い……
ついでに<ライコー>に好きな所を自分の部屋にしていいよって言ったら隣の部屋が<ライコー>の部屋になった
しかしずいぶん立派な家だ、これ明日は家具とか買いに行かないといかんかも、すかすかしてる
この家は二階建てで庭と地下室がある
霊的に一番安定してるのは地下室だから霊装類は地下室に置くのがおすすめします、と引っ越し前に事務の人に言われた
いざという時はそこに避難も出来るとも言われたが
「いやぁこの距離なら星霊神社に走っていきますよ、そっちの方が絶対安全ですもの」
というと「ですよねー皆さんそう言います」と笑われた
しかしここ、新興住宅街してたなぁ
部屋で意味もなくゴロゴロしながら、この家に来るまでの風景を思い出していた
星霊神社を中心に都市が生まれている
その都市の一部がここで、他も凄まじい勢いで工事や建設が進んでいるらしい
さしずめここは星霊神社の門前町か城下町か
そして自分と同じ転生者がこの街にはいっぱいいる、そのことに気づいてなんだか嬉しかった