コミュ障ぼっち、ガイアを行く 作:犬西向尾
あれから家具類を買い生活に必要なものを揃え、ぐーたら生活をしている
自分がリーダーの言う所の「傷口」を抱えている自覚は
【ガイア連合山梨支部】に帰ってから持つようになった
ピクシーが出る悪夢を不定期に見るようになったのだ
仕事をしている間は見なかったのに
これを見ないで済むくらいになったら仕事再開だな、それまで休もう
そう思い、事務の人にしばらく休みますと連絡し、瞬く間に時間が過ぎて行った
自分が無為徒食を美味しく味わっている間にも世間は動く
【ガイア連合】が恐山イタコを筆頭に外部(現地人=非転生者)の霊能団体複数と合併、および提携
自分のいる【ガイア連合山梨支部】もまた【ガイア連合山梨第一支部】と名を変え
かつて住んでいた一帯が【ガイア連合山梨第二支部】予定地となり区画整理の理由もわかった
聞けば日本各地に【ガイア連合】支部が建設されるらしい
支部とは派出所よりもより広範の支援が出来て、いざという時のシェルターになる場所なんだとか
そしてそれ以外にもわかる事がある
【ガイア連合】は大きく動き、規模を拡大している
いつまでも「俺たち(転生者)のガイア」じゃない、いや「俺たちのガイア」ではある
ただ「俺たちだけのガイア」ではなくなってきたのだ
それに寂しさと、それでも第一支部が「俺たち」の強力な牙城として存在することに喜びと安堵を覚える
第一支部には明確に「俺たち(転生者)」が集められている節があるのだ
味方が増えるのは良い事だ、例えそれが「俺たち」と比べて頼りないように見えても、
裏切らないと信じる理由も保証もなくても、それでも彼ら彼女らは【ガイア連合】の仲間なのだから
だけどどうか全ての聖域を取り上げたりはしないで欲しい、そう願った
そして俺は物件の値段を考えれば激安になっても金額としてはそこそこ取られた家屋購入代と
繁華街に出来た雀荘での敗北と久々のガチャ敗北(爆死と言えるほどは回していない!)でマッカの残高に不安になり思ったのである
そろそろ働こう、と
悪夢はもう見なくなっていた
「それで働こうと思うんですけど、何か良いのありますか?」
「うーん困りましたねー」
事務の人を困らせてしまった
「いえ、お仕事自体はいくらでもありますよ?
ただ実力が上がられたので受けられる仕事の量と種類が増えました、それで今までみたいな曖昧な条件ではちょっと……」
なるほどそういう事か
「俺(コミュ障)でもできる」+「稼げる」だけじゃ確かに曖昧だ
「じゃあその、今回はあんまり可愛い悪魔が出てこないような所の異界で……」
「あっそれならありますよ!」
「中国地方のO県のオニしか出ない異界なんですが~」
妖鬼オニ、女神転生において作品によって強さがまちまちであり名前だけでは判断することは難しい
ただ大体の作品においてイメージは統一されていると言っていいだろう
物理攻撃に耐性を持ち、物理攻撃をする、分かりやすい物理型の悪魔だ
赤い肌をして角の生えた体格の良い男の姿をしている
赤鬼、の一言でだいたい浮かぶイメージで良い、大きくは外れないだろう
その異界の鬼はレベルは8~12程度、そして
「電撃弱点か」
<ライコー>は電撃魔法であるジオを習得している
同じように物理型で物理耐性を持ち、相手の弱点を突ける魔法を所持
多分これが事務の人に勧められた理由だ
そして【ガイア連合】謹製のシキガミ故に高いステータスを誇る<ライコー>なら
そのオニと真正面から殴り合いしても勝てるだろう
もちろん俺の回復魔法の支援も有効だ、同じ物理耐性持ち同士の殴り合いで片方が弱点を突き更に一方的に回復されるのは相手からは辛いはず
「良かった、違った……」
ちょっと嫌な予感がして資料を貰い、読み、そして安心した
中国四国地方には鬼絡みで掲示板で有名な異界があったのを思い出したのだ
異界【鬼ヶ島】
もちろんこれはあの桃太郎の鬼ヶ島である
有名な異界には、有名な悪魔がボスとして居座り特別に強化されている
そんなのを相手に突っ込もうと思えるほど己惚れる事は出来なかった
もしこれだったらお断りしよう、そう思っていた
【鬼ヶ島】が有名になったのは元々のネームバリューだけではない理由がある
随分前に鬼ヶ島を管理していた地方霊能組織が管理に失敗
異界から大量の鬼や妖怪の類を放出、人の目に触れる所まで野放しにしてしまったのだ
その事件が大いに話題になったのである
紹介された異界はその【鬼ヶ島】ではない
しかし【鬼ヶ島】ではないがその事件と関係がある、らしい
目撃情報が拡散、そして荒れた不安定な霊地の霊脈が人々の認識によって後押しされ
新規の異界が誕生、鬼だらけの異界が生まれたらしい
その鬼だらけの異界は現在、ガイア連合の管理する所となっている
この異界の探索、出来得るのであれば攻略が今回の仕事になる
ガイア連合と言えどもお上には逆らいきれぬのか
短距離ならまあいい、しかし山梨から中国地方となると道中におけるあるリスクを考慮せざるを得ない
どういうリスクか、銃刀法違反で捕まるリスクである
事務の人の説明を最初は理解できず、徐々に納得し、最後は日本の治安組織の優秀さを呪った
なんてことだ、まさかちょっと許可証のない日本刀を持って飛行機や新幹線に乗るだけで捕まるかもしれないとは!
しかもかつて我らがガイア連合の人間が「ちょっとくらいええやろ」の精神で持ち込み発覚
即座の逃亡に成功したせいで、特に長距離移動での荷物チェックが厳重になっているとか
いやまあ逃亡に失敗する方が問題だから逃げるのは良いんだけど
そのためガイア連合ではとあるサービスを実施している
「武器密輸サービス」である
うーんまるでやばい組織みたいだ
異界から最も近い支部もしく派出所まではガイア連合の多種多様な手口でどうにかして持ち込んでくれる
しかし安全で確実な輸送を重視するためどうしても日数がかかるのだとか
すぐ動いて現地に行っても武器が届く日数分、暇になる
しかし、
「まあいいか、観光でもして時間潰すか」
そういうことになった
自分は前世も今世も生まれも育ちも関東の人間である
関西や西日本という場所にはどうにも縁がなかった
しかしせっかく行く機会が出来たのだ
適当に遊んで美味い物食って楽しもう、<ライコー>もいるから一人じゃないし
さて、観光と言えば特別な興味や、特別な何かがない限りある程度相場が決まってる
寺社仏閣巡りと温泉である
しかし残念ながら自分はもう【星霊神社】の温泉という至高の温泉を知っていて
とても普通の温泉では満足できない身体にされてしまった自覚がある
わざわざケチをつける為に温泉に入るのも変な話だ
そんな訳でいくつかの寺社仏閣の、ズタボロになってたり微妙に生き残ってるように見えて死んでいる霊的拠点の機能に一々感心しながら回っている
あっダメだ、なんか仕事の視察に来てる気分になってきた
H県にこの観光の最大の目的であるとある神社がある
その神社は源氏の名門、清和源氏の基礎を築いた五公が神として祀られている
その五公の中にその清和源氏の中でも嫡流
宗家とも言える摂津源氏を築いた方がいる
【源頼光】
俺のシキガミ、<ライコー>の外見、その元ネタの元ネタである
最初は軽い気持ちだった
「鬼がいる異界に行くんだからその前に<ライコー>に縁がある神社についでにお参りするかね」
その程度の気持ちだった、源頼光には鬼退治の伝説がある、誰でも知っている有名な話だ
ただのゲン担ぎである
しかしふと思ったのだ
「これやばいんじゃね?」と
<ライコー>に縁がある、勝手に別世界の創作物を引き合いに出して縁があるとは言うも言ったりだが
しかしこれが曲者だった、つまり「<ライコー>の存在は相手からすると怒りを買いかねない行いなのでは?」と
女神転生世界には神も悪魔もいる、全部悪魔という分類だが、いる
そして【源頼光】は神である
実は自分をモチーフにしたキャラについて怒りを持っていて、良い機会だから滅しよう!
と思っている可能性もないとは言えないのだ
そしてじゃあ「触らぬ神に祟りなし」の精神で無視するかと言えばそれも難しい
自分たちの次の仕事場がある異界は中国地方がO県、山梨から道沿いに線を引くとわかる
しっかりH県を経由するのだ
つまり遠回りしたり行かなかったりすると「無視しやがって!」になりかねない
触らぬ神じゃない、俺はもうしっかり触っているのだ、あかん
となればこちらも腹を括らねばならない
無視はしない、筋は通す
謎の金貨なんぞ放り込まれる神社の人には迷惑だがお賽銭もちゃんとマッカで出す
怒られたらごめんなさいする
それでもダメならしょうがない、しっぽ巻いて逃げる、申し訳ないがその際はストーンをばらまく
反応しなかったら黙認を得られたと解釈して忘れる
そういうつもりだった
神に会うかも知れないなら身綺麗にしないといけない
人間由来の神だからそこまで気にしないかもしれないが
日本の神は穢れを嫌う、これ常識である
であれば常識は守らねばならない
神社にお参りする前に、宿泊しているホテルでシャワーを浴び、顔を洗い口をすすぎ歯を磨き、
最後に水垢離のつもりで水のシャワーを浴びる
そして革製品や動物繊維を使用していない新品の服に体を通す、もちろん下着も靴下も新品だ
部屋を出た直後、失態に気づいた、靴は買い換えてない……
ええい、もう行く!
そういうことになった
そして今、俺は戸惑いの中にいる
「<ライコー>?」
「はい、あなたの<ライコー>です」
良い神社だ、そう思った
鳥居は立派だし橋を渡ってすぐ階段を上る、このロケーションも良い
こんな事情がなければもっと楽しめたはず。
鳥居をくぐる前に一度礼をし、境内に入りしっかり参道の端を歩く事を意識する
門も立派だ、まっすぐ目的の場所まで足を進める
手水で口をすすぎ、手を洗う
この時点で何も反応がない、これはセーフか……! そう思っていた
何かあるなら境内に入った瞬間だと思っていたからだ
そして身体から緊張が少し抜け楽になるのを実感しつつ
鈴を鳴らし賽銭箱にマッカを放り、そこそこ練習した二礼二拍手一礼
(お願いします)と念じながら祈る
何をお願いするのか、それはもちろん<ライコー>と自分の関係である
<ライコー>のおかげで自分は戦える
<ライコー>のおかげで役割を持てると思える
<ライコー>のおかげで寂しさからは遠ざかった
<ライコー>のおかげで少し自分を信じる事が出来るようになった
もし<ライコー>がいなくなれば、その先の想像すら怖い
俺から<ライコー>を奪わないでくれ
そして突然横にいた気配が変わった
「<ライコー>?」
「はい」
繰り返し<ライコー>の名を呼んでしまった
わからない、変わった気配に驚きつい声を掛けた<ライコー>から
返事が返ってきた事が
【会話】も入れていないのに
汎用スキル【会話】、特に人気が高い汎用スキルの一つである
効果は単純にして明快「会話が出来るようになる」
しかし俺はこれを購入しようか悩んだ事はあれど、実際には購入も、もちろんスキルとしての付与もしていない
それは「高レベルシキガミになれば【会話】がなくても会話が出来るようになるから」などという
そこそこ前向きで真っ当な理由ではない
単純に怖かったからだ
<ライコー>に強い自我がある事がわかる事が
<ライコー>に強い自我がない事がわかる事が
それを確かめる一番楽な手段が会話であるがゆえに
そしてその自我が俺の事をどう思っているか分かってしまう
もし、嫌っていたら? 俺に何か嫌な所があれば? 本当は俺のシキガミなんてやっていたくなかったら?
そしてこう思っている
「俺は誰かに、それも女性に好かれるような男じゃない」
分かり切っている、確信を持てる事だ
そして心の片隅でこうも思っているのだ!
弱い自我であればいい、俺を嫌えないように
会話が出来なければいい、嫌ってもそれを言えないように
そして何より「出来れば強い自我で俺を愛していてほしい」
恥ずかしかった、そんな自分を直視したくなかった、醜く卑しいゴミのような性根が
だから【会話】はいらない、自分と同程度稼いだ転生者ならシキガミに【会話】を持たせて当たり前だろうと
それによって意思の疎通が出来るようになり戦術的に有利になろうと
今まで<ライコー>からの好意のようなものが見えていても、それでも怖かった
持っていなければ知らずに済む、それでいいじゃないか
パンドラの箱は手に届く所になければ開けずに済むのに!
そして今、パンドラの箱は開かれた
「ホテルに戻ろう、ちょっと考えたい」
「はい。
大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのかよくわからないがとにかく部屋に戻りたい
足早に歩いて戻った
ホテルに戻ってすぐ<ライコー>の気配が変わった理由が判明する
<ライコー>は、一般的なシキガミの身体ではなくなっていた
手に触れる、温かい、指先に振れる、柔らかい、頭部以外からも体温を感じる
ああ、これは人の、女の身体だ……絶望した
【高級式神】、そう言う式神がある
まだ派出所派遣の回復要員をやっていた頃、死んだ転生者に悪魔の身体と式神のパーツを移植、回復魔法を掛けまくり蘇らせた現場を見た
その時移植された式神のパーツは、3Dプリンターで作ったこの高級式神のパーツだったという
特徴は分かりやすい「人体そのもの」
いや正確に言えばそのものではない
パワーは普通の式神を上回り、生物としての特徴のいくらかを有し、劣化せず、美しい
そのパーツは人体への移植に耐えうる完成度を持つ
【ガイア連合】が誇る技術班と医療班、そしてショタオジ、その技術と狂気の粋である
一般的な人型シキガミはどうか
見た目ですら人体そのもの、と呼べるのは首から上だけだ
身体を構成する多くは紙であり、体重もそれに相応しく軽い
身体の各部位を触っても、見た目を繕った紙であるとわかる
ガイア連合の構成員の一部がガチャ狂いになる理由の一つである
良い汎用スキルを入れて少しでも人に近づけたい
入れれば途端に人間味が増すのだ
そしてそれ(ガチャの原資稼ぎ)とは別にレベル上げに邁進する理由の一つにもなる
高レベルシキガミは汎用スキルがなくとも一部の汎用スキルと変わらない動きをする
(というより汎用スキルが本来「レベルアップで得るそれをショートカット」する役割もあるのではないか、と俺は考えている)
レベルが上がる事で人型式神の「人型」の概念がより強まる
そういう事だと思われる
そして<ライコー>の身体はおそらく
【高級式神】に近い、もしくはそのものではないかと思われる
そう思った理由は簡単、単純に自分のMAG消費量がそれほど増大していないからだ
高レベルシキガミとは悪魔として高レベルだ、その身体の維持には使用者のMAGを相応に消費させる
それの上昇幅が大したことない、少なくとも俺に分不相応なレベルに突如上がったようには感じない
ではレベルアップをして変化をしたのではなく
それ以外の要素で変化をしたのではないか
そして実はその何かも何となく予想がつく
「シキガミのアップデート」というものがある
自分が知っているのはショタオジがするそれしか知らないが、そういうものがある
簡易式神(戦闘力皆無の代わりに非覚醒者でも扱える)を一般的なシキガミに
そして一般的なシキガミを、【高級式神】に近づかせることが出来るのだそうだ
マッカを使ってやがては【高級式神】に! というのも掛かる費用は別として全く期待できない話じゃない
そのアップデートに近い何かがあったのではないか
今の<ライコー>は俺のシキガミ<ライコー>ではない
一人の美女だ
もう素晴らしく出来が良いフィギュアを見ていた目で見る事はできない
その美貌、白い肌艶のある長い髪も温和そうな目も妖艶な唇もたわわに実った胸も豊満な尻も、その全てが俺の獣欲を刺激させる
そして同時に<ライコー>は俺のシキガミである
使用者である俺の命令には逆らえない、そういう風に作りこまれてる
そうじゃないとシキガミなんて扱えるものではない
<ライコー>から少し距離を置こう、俺は畜生になりたくない
今まで俺を守るために身体を張ってくれてた<ライコー>にそんな目を向けたくない
明日、リーダーに電話して色々相談しよう
俺より間違いなく高レベルなリーダーならこの不可思議な現象について何か知っているかもしれない
多分、いや間違いなく、あの神社が何か関係しているはず
今日はもう精神的に疲れた寝たい
「<ライコー>、俺はもう寝るよ。
細かい事は一々指示できないかもしれない、朝まで<ライコー>の自己判断に任せる」
ホテルに戻ってから初めての俺の声に<ライコー>はこくり、と頷いた
夜這いを受けた
俺愛されてるわ