英雄を屠るもの   作:アママサ二次創作

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第4話 アサシンとは

 オール・フォー・ワンとともに黒い靄のようなものに包まれて。次に目を開けるとそこは薄暗い部屋だった。室内には低いテーブルとそれを挟むように大きなソファーが2つ。他には壁際の本棚ぐらいで、無機質な床と壁が広がっている。

 

「ようこそ僕の城へ。といっても今はあちこち転々としているからあまりしっかりはしていないんだがね」

「転々というのは、追われて、ということか?」

「まあ、それも半分あり、僕が忙しくあちこちを回っているというの半分というところだ。さあ座ってくれ」

 

 机を挟むようにして2人が座り込むと同時、部屋の扉がノックされた。オール・フォー・ワンがそれに答えると、料理が満載のワゴンを押しながら一人の男が入室してきた。その頭部は大きく膨れ上がっており、形状としては明らかに人間のものではなく何らかの虫らしき形状をしていた。

 

 その異形とも言える顔つきにアレクシオスがまじまじと見入っていると、オール・フォー・ワンが情報を補足してくれる。

 

「個性には色々と種類があってね。大きくは発動型、変形型、異形型なんて分けられている。彼は身体が蟻の特徴を持つという異形型の個性で、あれが彼にとって普通の状態なんだよ。異形型というのは、文字通り見た目がこれまでの人間と比べれば異形になる、ということだからね」

「発動型と変形型というのは?」

「文字通りさ。君が戦ったうち火を吐く方が発動型、腕が伸びる方が変形型なんて言われてる。ただその2つがちゃんとした人の形を取れるのにたいして、異形型は化け物であることしかできない。困ったものだよ」

 

 そう説明されている間にも、机の上には様々な料理が並べられていく。いずれもアレクシオスには見たことのある料理ばかりで、あまり文化というものは大きく変化はしていないのだなと実感させられた。

 

 と、そこでアレクシオスがずっと気になっていた事を思い出す。

 

「そう言えば、あなたは日本語を話しているようだが……」

「そうだね。ここは確かに日本だ。何かおかしかったかい?」

「いや……俺が出てきた遺跡は本来ならギリシアにあったはずなんだが。まあ何かがあったんだろう」

「なるほど。ともあれ、まずは食べようか」

 

 オール・フォー・ワンに促されて、アレクシオスは料理に手を付ける。ここで無用な警戒をするのは得策ではない。何より男は、ヘルメス・トリスメギストスの杖をアレクシオスにきっちりと届けた。少なくともアレクシオスの側の情報を開示するまでは信用せざるを得ないだろう。

 

 そんな思考が表情に出ていたのか、オール・フォー・ワンは苦笑をこぼしながらアレクシオスに話しかけた。

 

「そんなに警戒しなくても、少なくとも今君を害するようなことはしないさ。君が僕に敵対するようなことが無ければ、ね。君にはそのつもりがあるのかな?」

「……警戒するのは性分でな。気を害したならすまない」

 

 アレクシオスがそう答えると、オール・フォー・ワンは興味深そうな表情をする。

 

「へえ……。君はどうやら、個性に耐性があるようだね」

 

 突然意味のわからない事を言いだしたオール・フォー・ワンにアレクシオスが食事から顔を上げると、彼は興味深そうな表情でアレクシオスの方を見つめていた。

 

「今君に『君には僕と敵対するつもりがあるのか』と聞いた時、個性を使ったんだ。使われた相手は正直に話してしまうという個性を。だが君は曖昧な答えしか返さなかった。槍の力なのかそれとも君自身の個性なのかはわからないが、何らかの形で僕の個性を弾いたんだろうね」

 

 そう言われてアレクシオスは嫌そうに表情を歪める。オール・フォー・ワンの言っていることが正しければ、目に見えない形で人の意思に干渉するような個性も存在しているということだ。そんなもの、どれだけの警戒があっても警戒しきれるものではない。あるいは目を合わせただけで操られる、なんて、まるでエデンの果実のような個性すら存在する可能性がある。

 

「すまないすまない。君に害がない形で試したんだよ。何度も言っている通り、僕は『影に潜みし者』の『秩序に挑み自由を勝ち取る』という信念に同調しているからね」

 

 オール・フォー・ワンの言葉に、アレクシオスはアサシンとテンプル騎士団について説明することにした。オール・フォー・ワンはとにかく、自由、という言葉を強調している節がある。それは確かにアサシンの教義でもあるのだが、その真の意味は『強権的な支配を行うテンプル騎士団を妨害する』という意味合いが強く、更に言えばエデンの果実を支配のために利用しようとするテンプル騎士団を妨害する為の意味合いが強い。

 

 例えばこの世界において既にテンプル騎士団が力を失っていた場合、またアサシンのスべきことは変わってくる可能性が高い。

 

 だが一方で、アサシンが時代時代の支配者に挑んできたことも事実であり、そこにテンプル騎士団の影は関係ないと言えば関係ない。自由を束縛する意思にたいして挑むのもまたアサシンの役目なのだ。

 

「アサシン教団とテンプル騎士団は、その前身の組織である頃からずっと争いを続けてきた。争いの始まりはいつだったかわからないが、アサシン教団の前身となる組織、『隠れし者』が結成されたのは紀元前50年頃。エジプトでのことだ。それにたいしてテンプル騎士団の前身となる組織は紀元前400年以前には既に存在していた」

 

 アレクシオスが語り始めると、それまでは頬に笑みを浮かべていたオール・フォー・ワンも、前に乗り出して真剣な表情で話を聞き始める。オール・フォー・ワンは純粋に、力で全てを打ち破る魔王に憧れた。全てを圧倒する力とは純然たる自由の証である。だからこそ『影に潜みし者』の伝承が途絶えた後もその意識を引き継ぎ、こうして自由を求めて戦っている。

 

 だからこそ、アレクシオスの話すアサシンとテンプル騎士団の過去は、オール・フォー・ワンにとっても興味深いものであった。

 

「テンプル騎士団とアサシン教団それぞれの思想を端的に説明すれば、テンプル騎士団が『個人の自由を制限することで完全なる世界』を作ろうとしているのにたいして、アサシン教団は『人の自由意思こそが人間を進歩させる』という信念のもと、テンプル騎士団と対立していた」

「それが、『影に潜みし者』の、アサシンの考え方、かい?」

「そうだ。テンプル騎士団は中世騎士修道会のテンプル騎士団の事を指している。つまり、テンプル騎士団は歴史の表舞台に立ちながら、裏で世界を支配し、導く事を選んだんだ。西暦2010年頃には、アブスターゴ社という巨大企業の皮を被って活動していた」

「アサシンは?」

「常に歴史の裏側にいた。彼らが歴史の表舞台に立ったことはない。だが世界中で起きている戦争では常に支配と戦っていた」

 

 それを聞いて、オール・フォー・ワンは嬉しそうに頷く。それこそが、自分の望んでいる自由の姿であると。

 

 そこでアレクシオスは、アサシンの教義の一つの問題について語り始めた。

 

「だが、アサシンの教えにも問題が一つある」

「ほう?」

「アサシン教団はもともと、当時支配者の側に立って圧政をしいていたテンプル騎士団に対抗するために結成され、その後も常にテンプル騎士団と争ってきた。だから、支配された秩序という形を取るテンプル騎士団にたいして当然ながら自由の側に立って戦った、という面もある」

「そうだね」

 

 では。テンプル騎士団が消滅したときにはどうすればよいのだろうか。

 

「アサシン教団の教えは、人が自由意思で秩序と完全なる世界を望んだときのことが考慮していない。それにアサシンは基本的に弱者の味方に立ってきた。だからその弱者が秩序を作り上げたとき、それは破壊すべきものなのか判断することが出来ない」

 

 アレクシオスの説明に、オール・フォー・ワンは思わず黙り込む。それは確かに、正確な指摘だ。そもそもが、アサシンの教えは『自由意思が支配された秩序より優れている』というある種おしつけがましいものである。人々が秩序を選ぶことがあっても、それは許されてはならない、と。そう判断してしまう可能性もある。それが、アサシン教団の目指すところであった。

 

「俺は、調和をもたらすために行動する。秩序と混沌、どちらか一方が勝った時世界は終わってしまう」

「……ならば、自由のために戦い続ける僕は間違っている、と」

 

 確認するように尋ねたオール・フォー・ワンの言葉に、アレクシオスは首を横にふる。

 

「そういうわけではない。例えば秩序が100の力を発揮するときに、混沌もまた100の力を発揮しなければ釣り合いが取れない。一方で秩序が10の力しか発揮していないとき、混沌もまた10に抑えなければならない」

 

 そこで言葉を切り、アレクシオスは続ける。

 

「それにこれは、あくまで俺の考えであり役目だ。アサシン教団で最も大切にされる考え方というのは伝わっているか?」

「自由意志こそが人を進歩させる、ではなく、かい?」

「ああ。アサシン教団の組織としての信条は確かにそのとおりだが、一人一人のアサシンに求められる信条は違う。一人一人に求められるのは『真実など無く、認められることなど無い』という考え方だ」

「……それは文字通り、ということか?」

「解釈もまた個々人次第だ。俺はエツィオというアサシンの解釈を一番推している」

 

 そう言って、アレクシオスはその解釈は説明した。

 

『真実など無い』とは、絶対的な真実などではない私達の社会の基盤は脆弱なものであり、私達は支配からそれを守り、育まねばならず。

『許されぬことなど無い』とは、全ての行動は許されており、それを逆に捉えれば信念に基づく行動の結果は例えそれがどのような悲劇であっても受け入れなければならない。

 

 それが、エツィオという一人のアサシンの解釈であった。

 

「これは他にも、アサシン教団の教えすらも真実ではく、一人ひとりのアサシンが自分で自分の信念を定めなければならない、という意味でもある。あなたがアサシンであるならば、あなた個人の信条に従って行動するのが最も正しい。その中で俺に同調できる部分があればついてきてくれればいいし、無ければ別々の道を行けばいい」

 

 アレクシオスがそう語り終えると、オール・フォー・ワンは深く深く椅子へと沈み込んだ。単純であると捉えていたアサシンの教えは、実は遥かに複雑なものであった。オール・フォー・ワン自身、弱者のために戦っているつもりはある。だがそれはあくまで一部の弱者のためでしかなく、その過程で他の弱者を踏みにじっていることも事実だ。

 

 ともあれ。アレクシオスが自分と今すぐどうこうという関係に無いのは理解出来た。そう考えたオール・フォー・ワンは、席を立ちながら声をかける。

 

「今すぐ君に同調することは出来ない。僕にも成し遂げたいことというのはある。だが、君の今後の活動については出来る限りの助力をしよう。その変わり、またアサシンの教えなどについても教えてくれ。その装束なんかもわずかに残っていた伝承から僕が作り上げたに過ぎないからね」

「ありがとう。礼を言う、オール・フォー・ワン」

「こちらこそ、珍しい客人を迎えられて光栄だよ」

 

 そう言ったオール・フォー・ワンは退席することを告げ、部屋から出ていった。それを見送ったアレクシオスは、深く椅子へと座り込む。

 

「とりあえず敵対するようなことにはならなかったか……」

 

 アサシンの教義というのは、解釈次第で様々な形を取り、その実行においても様々な形が存在する。

 

 更に言えば、アレクシオスがレイラに杖を譲った時代ぐらいにもなるとアサシンもテンプル騎士団もその活動は直接的に世界に関与できるものではなくなっていた。単純な話、アサシンでもテンプル騎士団でもない人間の勢力が強くなりすぎたためにテンプル騎士団が支配力を及ぼせず、そんな統制された秩序ではないその当時の政治体制にたいしてアサシンも自由のために挑むというのはやりづらかったのだ。

 

 それが、再び自由と秩序の戦いになっているとオール・フォー・ワンは言った。彼が従来の『弱者のための』アサシンから道を外している可能性もあったし、そうでなくても現代の秩序がそれほど支配的でないにも関わらずそれに挑んでいる可能性もあった。

 

 とにかく、アレクシオスの目的である『秩序と混沌の調和』と『自由』というのは全く違うものなのだ。それが現在の世界でどう成し遂げられるのか。それは、これから見ていかなければならないことでもあるのだが、それがオール・フォー・ワンと対立することにつながることは、できれば避けたい。

 

 そんなアレクシオスの懸念は、ある意味では杞憂なのだが、それを彼が知るのはもっと後の話である。




なんかオール・フォー・ワンとアサシン、アレクシオスの立場難しいなと感じてます。なるべくならこの2人は対立させず共闘する形を目指して書きたいですね。
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