「よお、アーキー」
「……義爛か」
地下の、ヴィラン御用達のバーで酒を飲んでいたアレクシオスは、後ろからかけられた声に振り返らないまま答える。隣に座った義爛は、バーテンダーに酒を注文するとアレクシオスに話しかけてきた。
「いつ以来だ?」
「さあな。せいぜい半年かそこらだろう」
「釣れねえな。俺はもっとお前の話を聞かせてもらいてえって思ってたのによ」
「……そのうちな」
「はいよ」
互いに言葉を切り、酒を含む。その沈黙が、アレクシオスには心地よく感じられた。
******
アレクシオスと義爛が初めて会ったのは、アレクシオスが現代に目を覚ましてわずか一週間が過ぎた頃のことだ。初めて訪れたバーに数度通ってそこの客と親しくなったアレクシオスは、その人物に渡りをつけてもらってこの義爛という男とであった。
アレクシオスがヴィランに仕事を斡旋している人物を探していたのは、それが裏社会について深く知るのに手っ取り早かったからだ。例えば情報をオール・フォー・ワンからのみ受け取っていた場合、そこから得られる情報は視点の偏ったものになる。それはどこの組織でも言えることだ。
だが斡旋者、即ちブローカーは違う。様々な組織やヴィランを比較した情報を持ち、それを斡旋に利用している。そこから得られる情報というのは貴重なのだ。
そうやって義爛と初めての対面に望んだアレクシオスだが、会ってそうそう、義爛は驚いた顔をしたのだ。
「あんた……もしかしてアサシン、か?」
一言目でそう尋ねてきたのである。
「なんの話だ? 仕事をもらえるというから来たんだが」
アレクシオスがそう返すと、はっとした義爛は首を振って口元を歪める。
「いや……婆さんからよく聞かされた存在と似たもんを感じてな。ついこれじゃねえか、と思っちまった。よおく考えりゃあ、あんなのはおとぎ話に過ぎねえってわかるんだがな」
義爛のその言葉に、アレクシオスは一切反応を見せない。こういうとき深いフードというのは反応を隠せて便利だった。
「婆さんが懐かしくなったのか?」
「もう死んじまって10年になる。つい今まで忘れてたよ。と、こんな話をしに来たわけじゃねえんだよな。それで、仕事が欲しい、って話だろ? ガゼから聞いたぜ?」
表情を切り替えて、やり手のブローカーとしての話し始める義爛は、アレクシオスにとあるヴィラン集団が銀行強盗を企てているのでそこに参加してはどうかと勧めてくる。今どきヴィランの団体というのは山程あって、中には積極的にヒーローと戦いたいなんて奴らもいるが、腕もわからないやつをいきなり大きな山には回せないのだ。ちっぽけな銀行強盗など、金にはなるだろうがヴィランからしたら小さなことである。
細かい条件や内容を確認し終えて、一息ついたアレクシオスは、立ち去る前に懐から1枚のカードを取り出し、それを伏せて義爛の方へと押し出す。
「こいつに見覚えは?」
カードを表にした義爛は一瞬眉を潜めた。
「なんかの紋章か?」
「……いや、覚えが無いなら良いさ。じゃあな」
そう言ってアレクシオスは席を立ち、店から出る。と。つい今しがた番号を登録したはずの義爛からメッセージが届いていた。
確認すると、短いセンテンスだけのメールだった。
『真実はなく』
ただ、その一文だけ。だが、それを見ればアレクシオスには、義爛がそれを知っている側の人間であると認識するには十分であった。
『許されぬことはない』
そうメッセージを送信すると、10秒もしないうちにアレクシオスの端末が着信を告げる。
「……もしもし」
『思い出したぜこのカード。アサシンの紋章だ。婆さんがよく話してくれた』
「それで?」
『あんたがそうなのか?』
「その情報の対価には何をもらえる?」
アレクシオスがそう問いかけると、通話の向こうで一瞬義爛が驚き、そしてニヤリと頬を歪めるのが伝わってくる。
『俺相手に交渉するのか? あんた、いい度胸してるぜ。だいたい今のであんたがそうだってのはわかった』
「俺たちにとって、その名はあくまで所属をあらわすものに過ぎない。何をなしてきたのかを知るのは個々人だけだ。その名で満足ならそうすると良い」
そう言ってアレクシオスが電話を切ると、再度着信がある。
「もしもし」
『そう焦るなって。わかった。あんたの希望にできる限りこたえてやるよ』
「なぜそこまでする?」
『純粋な好奇心だ。婆さんも耄碌してたからな、断片的な話しかしてくれねえ。だが、聞いてて爽快だったぜ。体制に牙を剥く暗殺者ってのは』
「……」
『また連絡するから日を開けといてくれよ』
そういうと同時、次の再会の日と場所が告げられて通話は途切れた。
それが、義爛とアレクシオスの出会い。そして。
この時代の『アサシン教団』の礎となるものだった。
******
「調子はどうだ?」
「……雲を掴むような話だ。そう簡単には見つからない」
「俺が送った奴らはどうよ。役に立ってるか?」
「手は猫に借りてでも欲しいくらいだ。ただ……」
「ただ?」
「信のおけない相手には秘宝の話も出来ない。まあ、気長にやるさ」
「そういや、入団試験ってのは?」
「あちこちに潜入させて情報を収集させてる。この時代じゃあ、誰を殺れば良いのかもはっきりとはしてないからな」
アレクシオスがそう答えると、義爛は用紙の束をアレクシオスに手渡してくる。
「調べといたぜ」
「手際が良いな」
称賛しながらもアレクシオスが確認しているのは、表社会で上位にある人間、即ち大企業の社長クラスや国の機関の上層部、それにヒーローの中で暗い噂があった人間やその裏付けが出来た者をまとめた資料だ。
義爛の情報網は伊達では無いのである。
「……感謝する」
「おい、もう行くのか?」
礼を言いながら席を立とうとするアレクシオスを義爛は引き止めるが、アレクシオスは珍しく笑って見せた。
「悪いな。明日はアイツラに会ってやらなくちゃあいけないんだ」
「あいつら、って前言ってたガキか?」
「ああ。可愛い奴らだ」
そう答えたアレクシオスは、用紙を懐にしまってあるき出す。それを見つめる義爛は、その背中の思っていた通りの格好良さに、子供のように声をあげて笑った。
展開考えるのが難しいですね。特にアレクシオスの立ち位置というのが……
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