朝。カーテンの向こうでは燦燦と太陽が輝き、七時過ぎでも布団に籠らなくていいくらいには気温も高い。
藤丸立花の名前を持つ彼は、けたたましい目覚ましのアラームで目を覚ました。しばらくもぞもぞしてからむくりと起きて欠伸を一つ。
「…………ねむい……」
今日も一日が始まる。
重い瞼を擦りながら朝の支度を済ませていく。顔を洗い、歯を磨いて、制服に袖を通す。
着替え終えたら朝食の準備。『朝食は必ず食べること』――耳タコに言われた両親の言いつけ通り、簡単でも作ってきちんと食べる。食べ盛りの高校生なので朝抜くとかなりキツい。
「いただきます」
本日のメニューはベーコンエッグと食パン。焦げる一歩手前くらいのカリカリが好み。
『今日の最下位は~……かに座! かに座!!』
マッハで動く未確認飛行物体が出たとか、世界的大スタァがお忍びで来日したらしいとか、特に関心もないニュース番組を適当に聞き流しながらパンを齧る。
同時に新聞に折り込まれたチラシを見ながらスーパーの特売品をチェック。
(お、洗剤が安い。けど先週買い足したし大丈夫か)
生活費に困っているわけではないが、親からもらった資金は浪費していいものでもない。倹約できるところはしていく主義の彼。周りからはよく『主夫か!』と言われるが、こういう生活が立花の性に合っていた。一人暮らしの長かった父親に似ただけかも知れない。
「……野菜は商店街の方が安いかな?」
最終的にお一人様一パックの卵は買い、と脳内にメモを残してご馳走様をした。
食器を水に浸けて、もう一度歯を磨いたら朝の準備は終わり。課題と教科書を詰め込んだカバンを肩に担ぎ、誰もいないが習慣通り挨拶をして。
「行ってきまーす」
玄関のドアを開け、ると。
『…………Grrrrr……』
遊戯の王様になったり決闘者のマスターズになるカードゲームに出てきそう。そんな、ドラゴン。
「……ひゅっ」
玄関を開けたらすごくメカメカしいドラゴンと目が合った。真っ黒で攻撃的かつ機動的な見た目はとてもかっこいい。
ところでここはマンションの五階である。ということは目の前のこのドラゴンは最低でも15メートルくらいはあるということになる。
(…………あれ、映画の撮影があるとか回覧板来てたっけな?)
現実逃避してそれっぽい理由を必死に探したがそんなものはなかった。夢かと思って頬をつねったが痛いだけだった。
『Gyaoooooooo!!!!』
その咆哮は突風の如く。整えたばかりの立花の髪を一瞬でボサボサにしてしまった。
(マジヤバくね? 俺死んだ?)
『――やっとみつけた。マスター』
ふとドラゴンから聞こえた、涼やかな声。柔らかく、余裕がある、綺麗な声だった。
「え?」
(マスター? ……なんだろ、聞き覚えがあるような)
するとそのドラゴンは、ぱぁぁぁぁ……と光を放ちながら収縮していき、立花の前で人型に変化した。
「……ふぅ。ここだと、こっちの姿の方が楽だね」
身長は立花の胸元程。紺色のドレスを纏い、薄紫の銀髪をたなびかせ、両腕に鞘を装着した堂々たる騎士然の立ち居振る舞い。百人いれば百人が振り返る美少女。
(――俺は知っている? このドラゴンと、彼女のことを……)
誰が呼んだか、『最も強く、最も美しい妖精騎士・ランスロット』。その真名を――。
「メリュ、ジーヌ……?」
「そう。私はメリュジーヌ。異聞帯ブリテンにおいて最強の妖精騎士と言われたもの。また会えて嬉しい、マスター。ここがたとえ一時の夢であっても、私の翼は君のために。何度でも羽ばたかせるよ」
「…………なんでさ」
思わず父親の口癖が出た。
→→→→→
「…………」
「へぇ。ここが私たちの家なんだね。飛ぶにはちょっと小さいけど、素敵な家だと思うな」
「…………」
「あ、ここがマスターの部屋? ……すぅー。ふふっ、マスターの匂いがする」
とりあえず玄関先で話すのも……とメリュジーヌを招き入れた立花。メリュジーヌはあちこちを見て回りながら、時折感想を言ったり立花の私物を漁ったりしている。
「とりあえず、ここに座って」
ひとまずマンションの中をふらふらし終えたメリュジーヌを捕まえて、リビングのソファーに座らせた。
「……えーっと、その……メリュジーヌ?さんはどうしてうちに来られたんですか?」
「メリュジーヌと呼んで欲しい。敬語も必要ない」
「そう? じゃあ……メリュジーヌはどうしてうちに?」
この状況を放って学校に行くわけにいかず、自主休校を決め込んだ立花。メリュジーヌに訪問理由を尋ねると。
「マスターと一緒に住むためだよ」
「……俺と? なんで?」
「マスターが言ってたんだよ。『いつかメリュジーヌと暮らしたいなぁ』って」
「……俺が!?」
「うん」
(……やっぱりこれは夢かな? だったらいつ覚めるんだろう)
突然のドラゴンお宅訪問。まぁドラゴンの存在自体は両親から聞いたことがあるのでそれはいいとして。
目の前のドラ娘が言うには、やって来たのは立花が理由だという。何故か名前は頭の奥から出てきたが、とんとそれ以外に覚えがなかった。
「えっと……どこかで会った?」
「前世で。画面越しに」
「……前世。……画面越し」
(前世かぁ……まぁ魔術師の家に産まれてるわけだし、そういうことがあってもおかしくないと思うけど……画面越し? 水晶越しに会ったとか?)
「私がいたところはこう呼ばれていたよ。――Fate/GrandOrder」
「――っ!?」
ずきり。立花の頭が軋むように痛む。封じた扉を無理やりこじ開けるような、ぎりぎりとする痛み。
水の底から泡が浮いてくるように、ぼんやりと記憶が、そして感情が浮いてくる。
『よっしゃぁぁぁ!! 諭吉は十人死んだがこれでメリュジーヌ宝具レベル5だぁぁぁぁ!!』
『高難易度がなんじゃぁ! 俺のフル強化メリュジーヌは最強なんだよぉぉぉぉ!!!』
『あーメリュジーヌかわいいなぁ……。画面から出てきて一緒に暮らせねぇかな……』
(うわなんだこいつキモ)
残念ながら前世である。
どうやら恐らく、前世の自分らしい“彼”はメリュジーヌと呼ばれる彼女に対し、深い愛情を持っていたようだ。そして、彼女が言うように一緒に生活することを望んでいた。
(嘘だろ……)
自分がやったわけでもないのにとんでもないことをやらかした気分。立花の顔から血の気が引いていく。
「マスターから受け取った優しさも、愛情も、全部覚えているよ。さぁ、私と契約しよう。君だけの最強のサーヴァントとして、いついかなるときも君を守るよ」
「いや、そう言われても……」
「ふぇっ」
当たり前のように契約できると思っていたメリュジーヌ。難色を示されたことでうろたえてしまう。
「もしかして報酬? それなら必要ない。一日二十四時間一緒にいてさえくれれば他には何もいらない。あ、たまに頭を撫でたり、夜は一緒に寝て欲しい」
「報酬の話でもなくて……」
「戦闘なら誰にも負けない。私は最強の竜だ、たとえ国が相手だろうと君に傷一つ付けさせはしない。君の邪魔ものだって一人残らず――」
「しなくていいよ! そうじゃなくて……その、さすがにドラゴンをサーヴァントっていうのは……気持ち的に、ちょっと」
立花の家系は魔術師に連なるものだ。魔術師にとって、より高位の使い魔を使役することはステータスのようなもの。その理屈で言えば、この話は渡りに船。
しかし立花の親と立花本人の気質は限りなく一般人のそれに近いもの。急にドラゴンの方からサーヴァントにしろと押しかけられても困ってしまうのだ。
なにせ、会った瞬間からビリビリと圧のようなものを肌で感じ続けている。ここまで格が違えば、腰は引けて当然だった。
「……そんな」
「あっ。……えっと、その」
見るからに落ち込むメリュジーヌ。目の端には潤むものさえ現れている。
「…………」
実のところ、先程から立花の頭ではポコポコと記憶の泡が浮き続けていた。
立花が前世でプレイしていたゲーム、FGO。そこに登場するキャラクターの一人がメリュジーヌ。
ストーリーでの活躍に惚れ、召喚してのデレっぷりに惚れ、周回でも高難易度でも何でもござれの性能に惚れ。課金に課金を重ね、育てに育てた推し鯖。それがメリュジーヌだった。
(マスターと、サーヴァント……か)
立花にとってサーヴァント、使い魔とは。ある種奴隷のようなそれでイメージされるもの。ペットよりは気安く雑に扱い、使い捨ての品よりは大切に扱うもの。
しかし。浮き上がってくる記憶の中での“彼”は、たとえキャラクターといえどもメリュジーヌのことをとても大切に思っていた。ゲームシステムだから、と言ってしまえば身もふたもないが、立花が思う使い魔の扱いをする者でもないらしい。
マスターとサーヴァント。人間と、過去の英霊を具現化した魔術存在。それでいて、ただの主従を超えた関係。“マスターとサーヴァント”としか表現しようのない関係。
(前世で繋いだ縁、か)
納得のいかないことは多い。けれど、
「……わかった」
「……えっ」
「俺が思う、魔術師と使い魔の契約は結ばない。代わりに、君と、前世の俺が結んでいた契約なら。――サーヴァントとマスターの契約なら……。ほとんど君のことを覚えていない、こんな俺でよければ」
「――うんっ!」
ここに契約は結ばれ、この世界にたった一人のマスターが誕生した。
→→→→→
「これが……令呪?」
「そう。サーヴァントに対する絶対命令権。そんなことにはならないけど離れ離れになってどうしようもない時に呼び寄せたり、宝具を連発するための予備魔力源にしたりできる。……あとは自害させたいときとか」
メリュジーヌと契約した瞬間、右手の甲に浮き上がった真っ赤な紋様。三つのパーツで出来ていて、それぞれ一画につき一回拒否権のない命令を下すことができる。なのに一日一画回復するという。なんというお手軽さ。
(子供が使う一生に一度のお願い、みたいだな)
「……自害なんてさせないよ。無理やり嫌なことを命令するつもりもないし。いざって時に呼べるんだよね? それで十分だよ」
「……変わらないね、君は」
「?」
「ううん、なにも。ところで、契約したから今の私が消費する魔力は君から供給されているわけだけど。体に異常はない? 魔力量が少ないと、高位のサーヴァントと契約するだけでも辛いと聞いているよ」
自らを最強と自負し、最高位のサーヴァントであると自覚している発言だったりするのだが、立花はそんなこと気にならず。
「なんともないよ。ちょっと体から力が抜けたような気がしたけど、もう慣れた」
立花の家族自体は一般人と言って差し支えないが、血筋だけで言えばこの世界の魔術師の中でも名家にあたる一族のそれを引いている。魔力量も質も、FGOにおける超一流の魔術師に相当する。契約のパスを繋いだことで魔力を吸われていたが、メリュジーヌ一人を賄う魔力はたかが知れていた。
「それはよかった。じゃぁ――」
「メ、メリュジーヌ……?」
「少し多めに魔力を貰うよ」
ソファーから立ち上がって、立花の前へ。そのまま膝の上にライドオン。両手を立花の顔に添えた。
「それなら好きに持って行けばいいから、降りてもらえると……」
「直接、欲しいな」
「直接!? どうやって――」
「――粘膜接触」
「ねんま……っ!?」
「ありていに言えばキス。それとも、もっと深い粘膜接触の方がいい?
「いやいやいやいや!」
(こうして近くで見ると、メリュジーヌってめちゃくちゃ可愛い……!)
長い睫毛。さらさらの髪。抱きしめれば手折ってしまいそうなほど華奢で軽い体。赤みがかった金色の瞳。体温と香りがダイレクトに伝わり、嫌が応にもメリュジーヌが『女の子』であることを理解させられる。
ドラゴンであることなど忘れてしまいそうになるが、振り払えない力強さがその証左。
「マスター……♡」
「メリュ、ジーヌ……」
潤んだ瞳と、瑞々しい唇に目を奪われ、段々と近づいていく。やがて二人の影は重なり――。
ピンポーン!
「「…………」」
ピンポーン! ピンポーン! ピンポン!ピンポン!ピンポン! ピンピンピンピンポピピピピピピ!!!!!
――ドガァン!!
――キィー……
玄関が開く音が聞こえた。
(え。誰か入ってきた? ていうかドア壊れた?)
――コツ、コツ、コツ……
ヒールのような硬い音が近づいてくる。数秒もせずにリビングのドアが開き。入ってきたのは。
「想像以上にみすぼらしい部屋ね……。まあいいでしょう。喜びなさい、この星でもっとも美しい白鳥が来てあげたわ。あ、でも気安く話しかけないで。私、トップスタァだから。スキャンダルは避けたいの。そうね……私の事は謎のアルターエゴ・Λとでも呼んでもらおうかし……ら……?」
嘴のようなつばと目をあしらったフード。前面腹部のみ白く、あとは真っ黒なデザインの大きなパーカー。すらりとした脚部はメタリックな装甲で覆われ、目を引くのは藤の花を溶かし込んだような長い髪と湖のような透き通る青い瞳。傍らには南極の象徴、ペンギンが二匹。
(――俺は知っている。このペンギンと、彼女のことを)
誰が呼んだか、『カジノに降り立った大スタァ・ラムダリリス』。本人が言うには『謎のアルターエゴ・Λ』。その真名を――。
「メルトリリス……」
「――ええそうよ。人前ではないから特別に私の名を呼ぶことを許してあげるわ」
サングラスを外したメルトリリスの目は、南極の氷のようにとても冷え切っていた。
「――で? 私がわざわざ出向いてあげたのに、迎えのリムジンもなければ歓迎のパーティーもない。譲りに譲ってあなたが私との再会に涙して喜ぶというのなら、三日三晩お仕置きするくらいで許してあげようと思っていたのだけれど……まさかこんな真昼から獣になろうとしていたとは思わなかったわ」
「いや、あの、これはですね」
「口答えしない」
「はい! ……いたっ、また、頭に……!」
メルトリリス。彼女もFGOに登場するキャラクターの一人。ゲーム内のコラボイベントに登場した彼女はメインヒロインと呼ぶにふさわしい活躍を見せ、前世の立花は多くのプレイヤー同様に惚れた。
『あぁぁぁメルトかわいぃんじゃぁ~』
当然ガチャを回しフル強化。それでは足りず友人から原作のソフトを譲り受けて徹夜でクリアもした。
『CCCは……神……もっかいコラボイベ読むか』
そんな彼女が水着衣装となったのがラムダリリスこと水着メルトであるこの姿。こちらも当然マックスまでリソースをつぎ込んだし。紛れもない推し鯖だった。
『あーあ、メルトみたいな女の子に出会いたいなぁ……!』
(やっぱこいつキモいにも程がないか?)
案の定、というべきか。前世の立花はメルトリリスにもメリュジーヌと似たようなことを言っていた。ここにいるメルトリリスもそれを受けてここにやって来たのだろう、と立花は推測した。
「よりによってこの白トカゲとなんて、いい度胸じゃないマスター……!」
「……誰かと思えば……。お風呂ならあっちだから、ペンギンは好きに水浴びしてるといいよ。僕はマスターと魔力供給するから」
「はぁ!? まさか、先に契約したの!?」
「向こうでは先を取られたけど、この世界では僕がマスターの第一にして最強のサーヴァントだ。君は二番目。海竜もどきは引っ込んでなよ」
「……言ってくれるじゃない。たかがトカゲの腕一本の癖に」
「君がそれを言うのかい? たかが竜一匹と神格を混ぜたつぎはぎの癖に」
ゆらりと立花の膝から立ち上がったメリュジーヌと睨み合うメルトリリス。
メルトリリスの目には光が籠っていない。『私のものに手をだそうだなんてとんだトカゲもいたものね。ファブニールのお仲間かしら。境界の竜なんて名前は捨てて盗賊竜とかに改めたら?』という目である。
メリュジーヌの目には熱が籠っていない。『聖書に載った程度の竜をいくらか混ぜた程度でよく咆えるね。白鳥かペンギンか竜かはっきりしたらどう? 邪魔だから川で泳いでいれば?』という目である。
(思い出した記憶の中にそういうのは無かったけど……もしかしてこの二人、仲が悪い?)
片や境界の竜、最後の純血竜と呼ばれる幻想種・アルビオンの化身。片や嫉妬を司る竜、聖書に刻まれた海の怪物・リヴァイアサンをエッセンスに持つ。
最強の竜としての側面を持ち、自尊心に溢れ実力を隠すことをしない。マスターに対する気持ちは天元突破、傍から見て駄々洩れの愛情をぶつける者同士。
メルトリリス本来のクラスはアルターエゴだが、今はランサー。そしてメリュジーヌのクラスもランサー。
役割が違うため評価を一律には下せないが、相手がアーチャーだった時に前世の立花はどちらを使おうかよく迷っていた。それが一つの楽しみであったし、『俺のメリュジーヌ/メルトリリスは最強なんだ』とフレンドに自慢したものだった。プレイしていた本人としては、この二人に優劣をつけていなかったのだが。
それはあくまでプレイヤーから見た話。
「……前から思ってたんだ。いつも予言の子を連れてマスターと出かけて。『僕の方が強いのに』って」
「それはこっちのセリフよ。いつもイベントの最後辺りはマスターを独占して。『私の方が強いのに』と何度思ったか知れないわ」
(『それは普段の周回と変則周回で分けてただけで、どっちかを贔屓したわけじゃ……! ゲーム上、仕方なく……!』ってなんかすごい罪悪感が浮かんできてる!)
「マスター。もう令呪は出ているのよね? 私とも契約しなさい」
「えっ。あ、はい」
立花の右手の紋が熱を帯びて淡く光った。また少し体から力が抜ける感覚がしたものの、やはりその程度でしかない。数分もすれば慣れて気にしなくなるだろう。
そんなことはさておき。
「少し削ってあげるわ……!」
「強いものの言うことは聞くものだよ……?」
二人の魔力が暴風圧を伴って溢れ出る。バチバチと空気が焦げ、閃光が迸る。混ざった魔力は濁流のように押し寄せ渦を巻いてうねりをあげていく。
「瞬きの間に終わらせる。吹き飛ばされないよう、下がっていて」
「すぐに終わるから、花束の用意をしておいて。容赦なく切り刻んであげるわ」
「「――殺す!」」
ここで闘うのはやめて――。そう言葉にする前に、立花の思考は途切れた。
→☀→☽→
結論から言うと、部屋は無事だった。
魔力の奔流に吹き飛ばされた立花が気絶したためバトルは即時中断。知り合いのライダーでありランサーでもある蛇神に倣ってマスターを舐めてみたり、知り合いの治療狂に倣ってベッドをぶつけてみようとしたり。治癒の魔術が使えるわけでもないドラ娘サーヴァント二人が気を失ったマスターを前にオロオロすること数時間。
起きた途端泣き出した二人を宥めるのに立花は手間取り、顔を上げればとっぷりと陽は落ちきっていた。
それからはメリュジーヌが心配のあまり立花の腰にコアラし続けたり、泣き顔を見られて恥ずかしくなったメルトリリスが部屋の隅で静かに悶えた後サングラスを外さなかったりしたが、その程度は些事。
立花が作った夕飯に対しメルトリリスが全行程「あーん」を要求したためにメリュジーヌにも同じことをすることになったり、さすがに風呂にまで突撃はしてこなかったものの”体温が恋しい”やら”抱き枕になれ”とごねる二人と壮絶な舌戦が繰り広げられることになったりもしたが。これもまた特筆すべき事柄ではない。
――そして。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ、マスター」
「おやすみ」
メリュジーヌとメルトリリスの二人は立花のベッドで、立花自身はリビングに布団を敷いて寝ることとなった。
来客用の布団が一つしかなく、かと言ってサーヴァントとはいえ女性と同衾するわけにもいかなかったので(ドラ娘にとっては)苦渋の決断だった。
(さすがにこの安物じゃ私と寝られないわよね。早急に、明日にでもイタリア製のベッドを用意させないと。大きさは……キングでいいかしら)
(別に小さくても私は構わないのに。あぁでも、人間の恋人は寝るベッドを二人で選ぶと言うし……。明日見に行こう)
実のところ、立花が住まうこの部屋は広めの家族マンションタイプ。部屋自体はあるのでベッドさえ用意すればいいと言うのは間違いではない。
ちょうど一年ほど前、立花が高校に進学する頃のこと。立花の母親は実家のあれこれに伴い、数年ほど海外に赴くこととなった。最初は一人での渡航だったのだが父親がついて行くことになり、そうなると義務教育中の妹もついて行くことに。妹は最後まで兄と残ると駄々をこねたのだが、結局進学が決まっていた立花一人が残ることを決めた。
帰国後は兄が通った高校に通うと決めていた妹のワガママと、当時から地元の大学に進学する気だった立花への先行投資兼一人暮らし研修。ついでに母親が未来を占った結果の『複数部屋を用意するべし』により、入居を決めたのがこのマンション。父親は意見を求められなかった。
そういった経緯があり、部屋はある。リビングではなくその別の部屋に布団を敷けばよかったのではと立花は起きてから思ったのだが、夜の間は妙なテンションだったので仕方ない。
初めて高ランクのサーヴァントを、しかも同時に二体も契約した影響か。吸われる魔力量は平気でも心労が堪えたか。自分のベッドで女性が寝ているという事実にドギマギすることもなく、立花はこの晩すやすやと
……一方、ドラ娘たちは。
「…………」
SE.RA.PHでの記憶がメルトリリスの頭をよぎっていた。
ゲーム中では封印された虚数の記憶。この世界に召喚された瞬間に思い出した、在りし日の記憶。
――マスターに恋をして、そして最悪の形で一度は破れた。時を超え、獣を裂いて届いた踵の剣。二度目は守れた。あの時の自分は満足して消えた。SE.RA.PHでの出来事、その一瞬一瞬がありありと思いだせる。どす黒い感情と、暖かな感情が混ぜこぜになって。
当然、召喚された後の楽しい記憶もある。アルターエゴとして、ランサーとして多くの戦いを乗り越えた。メインストーリーもフリークエストも、プレイヤーにとっては苦しいことであっても、メルトリリスにとっては自分と過ごしてもらったかけがえのない時間。
だからこそ怖い。今の自分が不確かにここにあることもそうだが、何よりも主人公だったマスターを、立花を失うのが怖い。
この世界は泡沫の夢かもしれない。魔法使いと魔術師がよくわからない形で両立しているし、世界からドラゴンの霊基を強く補正する強制力がかかっている。はっきり言えば空想樹がないだけで異聞帯そのものだ。
(……それでも構わない)
今一度出会えたのだ。それ以上に望むことはない。……自分以外のサーヴァントがいたことは驚いたが、それはそれで良し。戦力があるに越したことはない。
何があっても、必ずマスターを守る。心で繋がったアルブレヒトを三度失わせることはありえない。メルトリリスはそう決意した。
「…………」
メリュジーヌは召喚されてからの日々を思い出していた。
二部六章、ゲームで言えば終盤に当たる時期。新参だったメリュジーヌが過ごした時間はあまりにも短い。
――しかし濃厚な日々だった。妖精國は良くも悪くも自分本位に純粋無垢。弱い他人を気遣うものなんて誰一人いなかった。……彼女も、あれは自分を飾る方便にすぎなかったのだから。そんなメリュジーヌが初めて出会った、『弱いものに手を差し伸べられる人』。自分の身を守るだけでも精一杯のはずなのに、自分が弱いことを認めながら、それでもなお弱いものを想う優しさと輝きに触れた。
一度も優しさを受け取ったことがない自分をマスターは最初から愛してくれた。彼のために自分の全てを投げ出しても構わないと思えた、紛れもなく素敵な時間だった。
だからこそ怖い。そんな優しさゆえに苦しんでしまうことを知っているから。その優しさを利用しようとする、妖精よりも妖精らしいような人間を知っているから。
今の状況そのものがおかしい。聖杯戦争もないのにサーヴァントとして現界できているし、そもそも一キャラクターに過ぎなかった自分がどうして彼を知っているのか。疑問を数えればきりがない。
(……それでも構わない)
召喚されたときにこう告げた。出会った時にこう告げた。『夢であっても構わない。私の翼は君のために』――。
何があっても、必ずマスターを守る。最強の名に懸けて何人たりとも恋人を奪わせはしない。メリュジーヌはそう決意した。
ここはドラゴンと人が共存する世界。異界と交わった結果生まれた特殊領域。彼らが住まう世界から遠く離れたこの星で、一人のマスターとサーヴァントたちはどんな夢を見る。
ドラゴン娘図鑑
「メリュジーヌ」/「アルビオン」
妖精國において最強と謳われた妖精騎士ランスロットその人。メリュジーヌとはとある水の妖精の名であり、このメリュジーヌ自身とは関係はあまりない。
その正体は竜の中の冠位、境界の竜アルビオンの左腕から生じた存在。肉塊に過ぎなかったメリュジーヌをとある妖精が見つけ名を与えた際、妖精と竜の間であるメリュジーヌの姿が確立された。
ドラゴンの姿に戻った場合、元に戻れずひっそりと消滅する……らしいが、宝具を打つたびに消えるわけにもいかないゲーム上のあれこれが反映されたのかこの世界では自由に可変可能。霊衣を着替えるくらいの手軽さでドラゴンになれる。
自らを『最強』と公言し、その名に恥じない戦闘力を持つ。反面、人の心の機微に疎い部分がありコミュ障。召喚すると超デレる。一日中眺めていたいと発言したり恋人宣言したり、構ってもらえないならとカルデアを滅ぼそうとしたりする。つまりめんどくさいドラ娘。
アルビオンは型月世界では「地球、星と同じ46億年分の情報量を持つ」と推測されており、最後の純血竜と言われている。普段エネミーとして戦っている竜やワイバーンとは発生理由が異なる、神と並ぶ超越存在。現実においてはイギリスにて白い竜の伝説として残っている。対になる赤い竜と合わせて、某悪魔×ドラゴンのおっぱいライトノベルに出てくるものが有名だろうか。メイドラゴン世界においての立ち位置は現時点で不明。なので独自設定マシマシになる。
結論、地球が出来たくらいから存在してた超強いドラゴンの左腕であり化身。戦闘機じみた空中戦をする最強格のサーヴァント。超強い。
マスター(主人公)との関係
「恋人」
「メルトリリス」/「リヴァイアサン」
Fate/EXTRA-CCCにおいてBBが作り出したハイ・サーヴァントの一人。サラスヴァティー、アルテミス、そしてリヴァイアサン(レヴィアタン)のエッセンスを持つ複合サーヴァント。
本来であればメルトリリスの主軸となるのはサラスヴァティーだが、水着霊基になった際にはリヴァイアサンの側面が強くなっており、いつもより嫉妬深かったり独占欲が増している。眷属としてペンギン……リヴァイアサン(自称)を召喚できる。水着↔通常霊基は切り替えできるが、今回はメイドラゴン世界の影響か水着霊基が主の様子。つまりめんどくさいドラ娘。
リヴァイアサンは旧約聖書に語られる海の怪物の一種。後に悪魔として語られるようになると、七つの大罪である嫉妬を司るとされた。上記の水着メルトの行動原理はここから。クラーケンと並ぶ海の怪物・竜として知名度が高いが、水や氷に関わる能力などは後付けとされる。当然ペンギンとは何の関係もない。世界を覆うほどの大きさを持ち、世界が終わるまでは不死身ともされている。メイドラゴン世界においての立ち位置は、エルマの竜体がリヴァイアサンに似ていると言われており、海でトールに喧嘩を吹っ掛けようとした描写もある。しかし詳しいことは現時点で不明。なので独自設定マシマシになる。
結論、ドラゴンとしての強さは不透明な部分が多い。しかしサーヴァントとして見るなら神格二つにドラゴンなので弱いわけがない。ドレインスキルと完全流体スキルを合わせれば水辺では負ける理由がない。超強い。
マスター(主人公)との関係
「アルブレヒト」