朝。目を覚ました立花は、リビングで寝ていた状況に何秒か戸惑った。ぼんやりした頭でゆっくりと昨日のことを探ると。
……ドラゴン。……サーヴァント。
……前世。……マスター。
――契約。
「そっか。俺、マスターになったのか」
右手の甲を見ると真っ赤な紋様――令呪。触れてみると、一瞬鼓動したような錯覚。そしてなんとなくサーヴァントと繋がる糸のような、経路のような、目には見えないが確かにそこにある“何か”を感じる。
「
竜の側面を持ったサーヴァント、メリュジーヌとメルトリリス。そんな二人を知識として知る使い魔のように扱うつもりはない。都合のいい生贄にする気も、雑用係にするつもりもない。
だからと言って前世の記憶のように何かと戦わせるのか、いやそれもない。聖杯のために競う相手もいないし、世界を滅ぼそうとする悪もいないのだから。
では、立花というマスターはサーヴァントをどう扱うべきか。仲間か、同居人か、家族か。
「……
しかしそれは、おいおい知っていけばよいこと。いずれ見つければいいもの。藤丸立花が、自分だけの答えを出せばいい。
「考えても仕方ない、か」
奇妙な関係の、ドラゴン娘との生活。今日からの生活は、昨日までのそれと全く違うものになるのだろう。そう思うと、遠足当日のように胸が躍った。
「よしっ!」
頬をパチンと叩き、気合を一つ。今日も一日が始まるのだ。
▲△Δ▽▼
「うぅぅぅぅ……マスター……ぅぅぅ……」
ここに、寂しさゲージを三本ほどブレイクされたメリュジーヌがいた。
今日は平日。高校生である立花は学校に行かねばならない。昨日はドラゴンの突撃事件があったために自主休校したが、根はとても真面目な立花。休む理由も遅刻する言い訳もなかったので今日は至極普通に登校したのだが――。
『学校まで歩いて三十分? じゃあ僕が送るよ、アルビオンの姿なら二秒もあれば着く。だからもっと一緒に……目立つからいらない? そう』
『じゃあ護衛として同行しよう。人類悪や魔神柱が襲って来ても大丈夫。マスターにはかすり傷一つ負わせないよ。……そんな敵はいない? そう』
『それなら僕も学校に通うことにする。騎士として教養は身に着けてあるから問題ない。ダンスもお茶会も完璧に――。そういう科目はない? そもそも色んな手続きがあるから今日は無理? ……そう』
何かにつけて立花と一緒にいたかったメリュジーヌだが、全て最もな理由で断られてしまった。
挙句の果てに『いざとなったら令呪で呼ぶ』『留守番お願い』と言われてしまっては、無理強いするわけにもいかず。玄関ドアを立て掛けて出て行く立花を大人しく見送ったのだが、十秒ももたずに『会いたい』と声を漏らしたのだった。
「……枕からマスターの匂いがする……」
ここで一般的な家事が出来たり、あるいは現代の遊戯物を嗜んでいればまだ時間の潰しようがあったのだろう。しかし家事が出来る二人ではなかったし、メルトリリスはともかくメリュジーヌはゲームやアニメという文化に興味がない。
立花が学校に行って一時間。ウサギよりも寂しさHPが低いドラゴン娘、メリュジーヌ。早々に“マスター欠乏症候群”を発症していた。
「この世界でなら、二十四時間一緒にいられると思っていたのに。……よし、ちょっと学校滅ぼしてくる」
「落ち着きなさい」
メリュジーヌの頭上から振り落とされた魔剣ジゼル。ゴチン!と鈍い音が響いたが、そこは最強種。お互いにダメージ0で痛み分け(?)となった。
「はぁ。そこまで思いつめるなら学校に行けばいいじゃない」
「留守番を任されているし、その任務を放棄するわけには……」
「サーヴァント二人がたかだか家一つを守るほど非効率なものもないでしょう。私一人で十分よ」
メリュジーヌは平然としているメルトリリスが不思議に見えた。寂しかったり、心配にはならないのか、と。
「……君は、マスターと一緒にいたくないの? もしも今、何か危険が迫っていたら……。そう心配にはならない? 守らないと、とは思わない?」
メルトリリスはそう問われると、ふい、と顔を逸らした。
「……まぁ? 縋りつくサーヴァントが私しかいなくて? どうしてもというのなら? 守ってあげなくはありません。けれどここは特異点でなければ異聞帯でもない。普通の世界で、普通に学校に行くだけ。心配するだけ無駄だわ」
そう言うとメルトリリスはソファーに戻り、大きめのパッド端末を操作し始めた。
「どちらにせよスタァの私が外に出ようものなら本末転倒。行くならあなた一人で行ってきなさい」
「わかった」
そうまで言うのなら、会いに行ってしまおう。そもそも最強種である自分が誰かの言うことを聞く必要はないのだ――。メリュジーヌはそう帰結した。見た目と振る舞いからクールで頭の切れるタイプと思われがちだが、どちらかといえばメリュジーヌは脳筋タイプ。敵は殲滅してから考える方。即断即決。寂しさを埋めるためにとりあえず立花の近くに行くことに。
ベランダに続く窓を開け外に出る。メリュジーヌの体は発光を始め、段々とドラゴンの姿へと――。
「ちょっと待ちなさい。歩いて行きなさい。学校に入る時も霊体化すること。あなた、私ほどではなくてもいい造形してるんだから目立つわよ。目立ったら困るのはあの人なんだから自重しなさい」
「……わかった」
と、いうわけで。徒歩で立花の通う高校へ向かった最強種。背後50センチほどのところで立花の学校生活を眺めることにした。
……どこかで蛇姫が『あいでんてぃてぃが取られた気がします!』と叫んだ気がする。
「おーい藤丸ー! この問題教えてくれー!」
「いいよー」
「藤丸、教科書貸してくれー」
「いいよー」
「藤丸頼む! 来週の試合に助っ人で参加してくれ!」
「いいよー」
「ふじまr」
「いいよー」
いつでもどこでも常に固まる陽キャ集団の中にいるわけではない。ひっそりと教室の隅で固まる陰キャ軍団に属するわけでもない。あっちこっちを行き来するキョロ充というわけでもない。しかし何故か彼を訪れる人は途切れない。それが、メリュジーヌが見た立花の学校生活だった。
勉強をそつなくこなし、スポーツも中の上。集団に放り込めば誰よりも効率的に潤滑油と化す立花。皆の相談役と呼べば聞こえはいいが、人によっては『都合がいい存在』と呼ぶのだろう。しかし生来の人当たりの良さのなせる業か、誰も立花を都合がいいとは思わずに一人の友人として誠意をもって接している。妖精眼を持たないメリュジーヌでも、それは感じ取れていた。
(マスターはたくさんの人間に慕われている。助けを求める弱いものに優しいその姿……素敵だなぁ)
「委員長、それ職員室まで持ってくの? 俺も用があるから、手伝うよ」
「ほんと? ありがとう藤丸君」
頼られずとも、助けが必要と見ればすぐに手を伸ばす。ある意味で当たり前の、こうあるべきという人間の姿。それを体現する立花を、メリュジーヌは熱い目で見つめていた。
……見つめていたからこそ、気づいてしまった。
「おい藤丸ぅ、これやっといてくれよぉ。俺、忙しくてさぁ」
「シンジくん。あぁこれ? いいよ」
「いつも悪いなぁ、助かるよ」
(……また、この人間)
立花に頼みごとを持ってくる生徒の99%は本当に困って立花の元へやって来る。そんな中、一人だけそうでない人間がいた。
メリュジーヌはそれに気がついてしまった。この男は、わざと立花に面倒ごとを持ち込んでいると。今持って来た仕事さえ、本来ならこの男がやるべきこと。忙しいというのが方便であるのは誰が見てもわかる。
受けてしまう立花が悪い、と言えばそれまで。しかし立花の精神性――頼みごとを受けるかどうかを人で判断しない――を思えばこそ、「断りなよ」とは誰も言い出せない。それをわかっていてこのワカメのような髪をした男は実行しているのだ。
「……またかよあのワカメ」
「いくら藤丸のほうが人望あるからってな」
「まぁ正直、デキルかデキナイかで言えば、あいつ藤丸と同じくらいデキルからな。皆が藤丸ばっか頼るのが気に入らないんだろ」
「そりゃぁなぁ。性格良くて能力高い奴と、性格悪くて能力高い奴なら絶対性格いい奴だろ」
「だから余計気に入らないんじゃないか?」
「おい、そこのお前ら。俺に言いたいことでもあんのかよ。あん?」
「……行こうぜ」
「あぁ」
「――はんっ。凡人は黙ってろよな」
(…………よし、殺そう)
悪意をもってして悪意を為す。妖精と人間が違うのは、この部分。人間は悪いことだと分かっていて悪いことが出来る。出来てしまう。だからこそ、立花のような人間は割を食うことが多い。現界して短いメリュジーヌだが、それは否が応でも理解していた。
なれば排除する。立花を二度と悲しませないためにも、不要なものは消すのみ。立花の穏やかな生活の邪魔になるものには容赦しない。
防御術式も結界も何一つ見当たらない無防備な標的だし、仮にあったところで貫けばいいだけのこと。メリュジーヌなら刹那ほどの時間があれば三回は殺せる。
目立ってはいけない。万が一にも立花に知られてはならない。殺るなら一人になった瞬間。死体さえ蒸発させてしまえば何も残らない。
立花の傍を離れ、チャンスをうかがう。色んな人間にちょっかいをかけるため、中々一人になるタイミングは現れなかったが……。
「――ちっ、使えるやつがいねぇな」
飲み物をパシらせようとしたところ、ちょうど手ごろな人間が周りにいなかった。仕方なく昇降口下の自販機まで買いに行くことにしたワカメは一人で移動を開始した。
休み時間ともなれば自販機前には数人の列ができるはずだが、偶然人がいなかった。教室移動でもなければ訪れない昇降口下。人気はなく、窓から見える位置にもない。絶好のチャンスが訪れた。
(今だ)
――霊体化を解除して、アロンダイトを展開して、首をはねる――。一秒にも満たない間に終わらせられる。
「おいおい、サイダー切れてんのかよ。使えねぇ」
霊体化したままワカメの背後に近づいていく。あと一歩。次の瞬きを終える頃にはワカメの首と胴体は分かたれていることだろう。
(……!)
メリュジーヌが霊体化を解き、右腕の鞘から光が漏れた瞬間。
「おーい、シンジくーん」
「――っ!」
ワカメが振り返る前に再び霊体化。形成されていたアロンダイトは宙に霧散していく。
「なんだよ藤丸」
「言われてたこれ、終わったよー」
「そうかよ。俺のところに持ってこないで教師のとこ持ってけよな。いつも言ってるだろ」
「あっ、そっか。ごめん」
「ったく」
そう言うと、ワカメはどこかへ行ってしまった。
(……仕留め損ねた。けど、マスターに見つからなかったから良しと――)
「メリュジーヌ。いる?」
(――!)
呼ばれたメリュジーヌは霊体化を解き、立花の前に姿を現した。
「うわっ、本当にいた!」
「気づいてたの?」
「え? 全然。なんとなく、いるかなーって」
「…………そう」
「どうしてここに?」
「マスターの護衛のためについてきた。そうしたら、あの人間が……」
沈黙。メリュジーヌにとって、ワカメの排除は秘するものではない。それが立花の利益になると心の底から思っている。だが、『クラスメイトを殺そうとしていた』、とは言えなかった。
「……あー、もしかして。シンジくんに、何かしようとしてた?」
「……っ!」
頷くことも、首を振ることもできない。ただ、俯くしかできなかった。
「……そっか」
(どうしよう、どうしよう。マスターに、嫌われる)
そうだった。忘れていた。一度経験したはずなのに。
勝手に動いちゃいけない。きちんと、明確に、命令を受け取らないと。たとえ言外に意図を察しても。兵器が勝手に動けば、勝手に排除すれば。それに返ってくるのは感謝や労いではなく嫌悪と恐怖。
(また、『穢らわしい』って、言われる……! 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!)
押しつぶされそうなほど、胸が痛い。どうすればいい、どうすれば――。
「ありがとう」
「……え?」
思わない言葉に、メリュジーヌは驚きの表情を貼り付けて顔を上げた。
「俺が心配で、シンジを怒ろうとしてくれたんでしょ? でも大丈夫だよ、俺は気にしてないから。あいつも色々抱えてるみたいだし……。それに、このくらいのことを頼まれるのはいつものことだから」
「…………どうして? 『醜い』とか、『穢らわしい』とか、思わないの?」
「? なんで?」
「…………」
きょとんとした顔で、当たり前のように告げる立花。メリュジーヌは、その顔に在りし日の極光を思い出した。
「あーでも、ちょっとだけ怒ってるかも」
「……!」
「メリュジーヌ。君ほんとはシンジに怒るの、嫌だったんじゃない? 出てきたとき、なんだか少しほっとした顔してたし」
「えっ……」
「言ったよね。嫌なことをさせるつもりはないって。俺のためでも、嫌なことはしてほしくない。だから、ちょっとだけ怒ってる」
メリュジーヌの心にこびり付いた何かに、ひびが入る音が聞こえた。
(嫌、だった? 私は、殺したく、なかった?)
かつて、自分の半身ともいえる存在を守ってくれた彼らを葬った。命令ですらなかった、お願いで。後悔したのか、懺悔したのか、もうあまり思い出せないけれど。今回のこととは、状況も相手もまるで違う。……だが。
(……そうか。私は、嫌だったのか)
――たとえ周りがどう思っていようとも、立花自身が望まないそれを行うことが。立花が友人だと思っている人間を殺すことが。嫌だったのだ。
「……ありがとう、マスター」
「メリュジーヌ?」
「やっぱり、君の傍でなら。私は兵器でなく、サーヴァントとしていられる。君が優しいことのために私を使ってくれるから。私は君のためにあることで、優しいことのためにこの力を使える」
心が暖かい。前の世界でも感じていた安らかな気持ちを、今思い出した。
(そうだったよね。私は、妖精騎士ランスロットでも、妖精メリュジーヌでもない。マスターのサーヴァントのメリュジーヌなんだ)
「えっと、よくわからないけど……うん。君の力を、悪いことには絶対に使わない。嫌なことは絶対にさせない。改めて誓うよ」
「……マスター!」
「おっとと」
メリュジーヌは立花に抱きついた。そして、満面の笑みを浮かべて。
「マスター、私の恋人。――うんっ。大好き!」
◇◆◇◆◇
「なぁなぁ見たかあれ?」
「あぁ、ワカメだろ? なんか人が変わったよな。急に坊主にしてきたから、ワカメって呼ぶのもなんか変だけど」
「それな。けどマジで横柄な態度とか一切取らなくなったよな。その理由なんだが、なんでも帰り道に黒服の連中に連れていかれた日からああなったらしいぜ」
「黒服? もしかして893ってやつか?」
「いや。見たやつが言うにはどっかのSP? ボディーガードみたいな人たちだったって話だ」
「なんだそりゃ。なんでそんな連中がワカメを?」
「さぁ? なんかすごいVIPでも怒らせたんじゃねぇか?」
「あぁー、ワカメならあり得るかもなぁ」
「だろ?」
「誰なんだろうな、そのVIP」
「さぁー……?」
■□■□■
(なんだか今日はやけに黒服サングラスの人とすれ違ったな……。逃走中ごっこでもしてたのかな?)
授業が終わった放課後も人助けをせっせとこなし、部活勢が下校するより少し前にメリュジーヌと一緒に帰ってきた立花。その際、校門前で姿を現したメリュジーヌに『突然謎の美少女が!?』と騒然になったり『藤丸が美少女と手を繋いで帰ってる!?』と騒然になったり『まさか妹!? いや彼女!? ……まさか子供!?』と騒然になったりしたが、この街でその程度は騒ぎのうちに入らないので割愛。
ちょうど六時にマンションへ到着した。
「あれっ、ドアが直ってる」
玄関ドアに手を伸ばすと、前日にメルトリリスがダイナミック入室して破壊されたそれが綺麗に直っているのがわかった。土日にでも修理を頼もうと思っていた立花は不思議に思いながらリビングに向かう。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい」
「ねぇメルト、あの玄関って……」
立花はメルトリリスに目を奪われた。
菫色の長い髪は一つにまとめてポニーテールに。上はレースをあしらったオフショルダーの白いワンピース、もちろん手元は萌え袖を忘れずに。そうすることでパーカーで見えなかった肩と
膝より上はタイトなデニム生地のボトムスでカバー。メルトリリスの細い脚部を強調し、貞淑なように見せて若々しさと初々しさを醸し出す。上部の白と合わせれば、守りたくなるような儚さと長年連れ添ったパートナーらしさが帰宅した立花の脳にダイレクトアタック。
その状態で熱い料理が入った鍋を持っていれば、メルトリリス特製『男性特攻クリティカルQブレイブチェイン!新婚風幼な妻! ~病弱設定を添えて~』の出来上がりである。
「え? あれ? メルト、その服。ていうか、料理? え?」
押し寄せた情報量の波に立花は処理速度が追い付かなくなってしまった。わかっていたはずだった、メルトリリスの美少女オーラにあてられたとも言う。
「玄関は修理業者に頼んでおいたわ。服は通販、料理はデリバリーを温めなおしただけ。このくらいなら私の手でも出来るわよ」
「そ、そうなんだ。ありがとう」
鍋をテーブルに置いたメルトリリスは立花の前へ。
「それだけ? 気の利いた言葉の一つでも欲しいのだけれど」
「えっと……似合ってるよ。すごく可愛い」
「――赤点よりは上ね。次はもっとウィットと色を含んだ言葉にしてちょうだい」
まんざらでもなさそうな顔で指摘したメルトリリスに、
「……善処します」
はにかんで答えた立花。「ただいま」→「お帰り」コンボにより完全に雰囲気が出来上がっていた。
それを見ていたメリュジーヌは。
(――――!??!!!??)
思考回路がバグっていた。
(!!? !??!? !!!?? !?!?!?!?)
あえて意訳すると――『恋人と帰宅したら新婚風ムーブを唐突に見せつけられた。おかしい、さっきまで確実にヒロインを務めていたはずなのに。これではまるで自分が当て馬の様ではないか。馬とは何だ最強種だぞ。この星一のドラゴンだぞ。はっ、まさか! 一人だけ護衛に出るように言ったのはこれのため! 一人暮らしをしてきたマスターが久しぶりに味わう“お帰りなさい”を! より効率的に! より感動的に! より甘く! より印象的に! このリヴァイアサン、あの時にはすでに計画していたというのかっ!』――という感じの思考である。
そのような困惑と驚愕とちょっぴりの嫉妬を込めてメルトリリスを見ると。
「……(ニヤリ)」
(……!!)←例の顔のメリュジーヌ
「さ、夕飯にしましょう?」
殺気が駄々洩れるメリュジーヌをよそに会話の主導権を握ったメルトリリス。それからの流れは見事なもので、ドアの修理の功績(もちろん自分が破壊したことは棚上げ)、夕飯の支度(近所の店からUbe〇Eats)、手先の感覚(実はこの世界ではそこまで不感ではない)を口実に、昨日に引き続き全行程「あーん」を要求。立花の膝上権までもを勝ち取っていったのだった。
┌―――――――――――――――――┐
| 本日の勝敗:メルトリリスの勝ち |
└―――――――――――――――――┘
〇●〇●〇
「よいしょ」
生活するだけで悶着に事欠かないドラ娘たち。二日目だというのに今日も今日とて疲労を溜めた立花がリビングに布団を敷いていると。
「マスター、もう布団で寝なくていいわよ」
「え?」
「こっちよ」
メルトリリスに連れられ、空き部屋の一つへ。入るよう促されドアノブを捻ると。
「……なにこれ」
「私の部屋よ。ほんの一部だけど、コレクションが届いたから飾ったの」
色彩鮮やかな塗装に細部まで緻密に彫り込まれた造形の、いわゆる美少女フィギュアが飾られた展示用ガラスケースが三つ。鑑賞・整備・創作が可能なガレージキット。羅列すればただのオタク部屋のように聞こえるが、そこは腐ってもメルトリリス。清潔感ある配置がなされ、個人の部屋というよりはまるで展示室か職人の私室のよう。
「それもあるけど、このベッドは?」
「K³(KINPIKA・KANEMOTI・KINGSの略)ブランド製のオーダーメイド。急いで取り寄せたの」
見ただけで究極の寝心地が想像できるのに主張しすぎない高級感。最初からこのベッドのために間取りを決めたかのように、採寸ピッタリサイズで部屋に溶け込んでいる。いくらかかったのか想像がつかないベッドがそこにあった。
「これなら二人で寝ても平気でしょう?」
「メルト……!」
(!!!??)
またメリュジーヌの思考はバグった。
「ふふっ、もっと喜びなさい。この私がわざわざ手配したんですもの。一晩愛を囁かれても足りないわ」←どや顔のメルトリリス
(全く、ここまでお膳立てしないとレディー一人ベッドに誘えないなんて。本当に困った人なんだから)
「……! ……っ!!」←例の顔のメリュジーヌ
「ありがとうメルト! これで――」
「ま、ますたぁ――!」
メリュジーヌが『待った』をかけようとしたが、その声は止まらず――。
「これで俺は自分のベッドで寝られるね!」
時が凍った。
「……ん? ……マスター。このベッドで、(私とあなたの)二人で寝るのよ?」
「え? (メルトリリスとメリュジーヌの)二人で寝るんだよね?」
「「「???」」」
さすがはフジマルの名を持つ者。オレンジ色の髪をした父親譲りのフラグ管理と主人公ムーブは完璧だった。
「俺のベッドじゃ狭かったよね、ごめんね気が利かなくて。女の子二人だしこの大きさなら広く寝られるよね。さすがメルト、俺じゃこんなの買えないし……本当にありがとう! じゃあ俺は自分の部屋で寝るから、ゆっくりお休みー。また明日」
すたこらさっさと自室に戻っていった立花。ここで誤解を解きに行けばいいのだろうが、そんなことができるほど乙女心は安くないうえドラゴンのプライドは小さくない。
残された二人は顔を見合わせる。
「…………」←真っ赤な顔のメルトリリス
「…………」←初めて空気を読むことに成功したメリュジーヌ
無言のまま、ベッドに収まったドラ娘二人だった。
ちなみに最高級の名は伊達ではなく、二人は五秒で
┌――――――――――――――――――┐
| 本日の勝敗(改訂版):引き分け |
└――――――――――――――――――┘
――その晩。午前二時。首都高を時速200キロで駆ける、漆黒の鉄の馬がいた。
馬を駆るは――黒い、王。
きゅるるるる……
「……腹が減ったな」
――ウェールズの赤い竜、襲来。
最後のは一体、何トリア・オルほにゃららなんだ……!?
「追記」
タグ変えました。
それとなんか気になってる人多そうなので一応宣言しておくと、メイドラゴンキャラは出ます。ぽっと出とかカメラ端でもなくいずれきちんと絡むから待ってて。具体的には作中が夏になるくらいまで。