汝、新橋の皇帝の神威を見よ   作:アあゝ

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掛かり気味です。


気付いたらシンバシ

 神はいる。そう思うと同時に悪魔もいると、そう思った。

 気が付けば、生まれ変わりだとかそういうのを信じていたことを、若いころの恥ずかしい笑える思い出だと考えるような年齢になっていた。

 今思えばなんてことのないような物事で『人生終わった』とか『来世に期待』だとか考えて頭の中がぐちゃぐちゃになって親に迷惑をかけてしまった。

 けれどそんなことがあろうと世界が終わったりすることもなく、人生が終わることもなくそれなりの人生を過ごしてきた。その時々の後悔があろうと今の自分は確実に不幸ではないし、不出来な自分を育ててきてくれた両親には言葉では言い表せないほど感謝している。

 ……なぜそんなことを回顧しているのか、それはそんな人生がいきなり大きく形を変えてしまったからだ。

 

 

「良い勝負にしよう」

「……そうですね、お互い後悔の無いようにしましょう」

 

 

 目の前には栗毛の髪、前髪に白い三日月のあるウマ娘がいる。

 無敗の三冠ウマ娘であり、トレセン学園の生徒会長を務めるウマ娘、シンボリルドルフだ。

 何の因果か私は彼女と勝負をすることになった。この状況は全国のウマ娘が憧れるものなのかもしれないが私にとっては少し違うものになる。

 私と会長とのタイマン勝負は他人の視点からみると奇妙なものに写るだろう。

 私の姿は彼女とほぼ同じ、同じ赤いジャージを着ているのもあって、一瞬でも目を離せばどちらがどっちなのかわからなくなるから。

 

 

 

 

 

 今の私の名前はシンバシルドルフ。

 どこかの神か悪魔のいたずらでウマ娘という不思議生き物になってしまった元一般人であり、何を思ったかとち狂って走ることにドはまりした結果、彼女と同じ領域へと到達してしまったウマ娘。

 

 今回は模擬レースではあるが、酒に溺れでもしない限り彼女にさえも負けるつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの、あのー、大丈夫ですか?」

 

 

 ……声がする、その声に合わせて意識がだんだんと覚醒していく。

 どうやら寝てしまっていたようだ。

 

 

「ここは……?」

 

 

 寝ぼけた意識と眼で声をかけてくれた人に返事をする。

 

 

「あ、起きましたか、良かったです!」

「いやあ申し訳ないです、どうやら寝てたみたいで……」

「……不躾なことをお伺いしたいんですけど、シンボリルドルフさんですよね? 握手してください!!」

「え? ええ」

 

 

 シンボリルドルフ……? 芸名だろうか? 新堀留怒琉夫かもしれない。

 どこかで聞いた覚えのある名前に疑問符を浮かべながらも一応握手をする。

 この人にとっては私がそのシンボリルドルフという人に見えているのだろうから、起こしてくれた手前落胆させてしまうのも忍びない。

 

 

「よかったらサインも って、あれ!!?」

 

 

 感傷に浸っているっぽいのでその隙をついて感謝して颯爽とその場から立ち去る。

 これ以上は不毛だ。

 シンボリルドルフ氏とはいったい何者だろう? 

 たぶんそっくりなのであろう私に対して握手どころかサインまでねだるような、そんな熱心なファンがいるなんて有名な俳優か何かなんだろうか? 

 

 何かまだ言っていたかもしれないけど、申し訳ないがお暇させてもらう。

 記憶を頼りにするならばここは新橋、仕事終わりに気分転換に慣れない酒を飲んだのがいけないのだろうが、夜遅くまで飲んだような記憶はないのに、もう日が高く昇ってしまっている。

 

 先ほどの場所から少し距離をとるために新橋駅沿線を秋葉原駅方面へと歩き始める。

 ……どこかおかしい。まだ頭が働かないからかよく分からないのだが、歩くたび違和感を感じる。

 何かに覆われて耳が遠くなったような感覚や腰のあたりで何かが引っ掛かったような感覚、そして自分の自意識過剰でなければ周りの人から視線を感じる。違和感を感じながらも人が少ない場所を見つけ、そこで荷物の確認を始めた。

 

 

 財布、スマホ、家の鍵、免許証……。

 

 

「……ん?」

 

 

 おかしい、免許証がない。いやそれだけじゃない、待ってほしい。

 

 

「誰??」

 

 

 身分証の写真欄、そこには見慣れぬ顔写真が写っている。

 まず目を引くのは白、前髪のあたりを斜めに例えるならば下弦の三日月のように白髪が流してあり、前髪の他の部分は濃い茶色に、そして後ろ髪は茶髪へと色が変化している。

 現実味を感じない髪の色をした少女の写真だ。

 結構なボリューム感があって耳が見えなかったり、滅茶苦茶寝相が悪かった日の朝みたいな寝癖のような突起が二か所あるが随分と、いやとても美少女だ。

 

 

 写真の横には生まれてから長い間お世話になっている苗字がなぜかカタカナ表記されており、その横には初めて見るがこの短時間で滅茶苦茶聞き覚えのある名前が書いてある。

 

『シンバシルドルフ』

 

 

「……噓でしょ」

 

 

 無意識に声が漏れ出る。それと同時に変な汗がにじみ出てくる。働かなかった頭が急速に覚醒して現実を直視し始める。今この時までは見知らぬ誰かの持ち物を拾って持ち込んでしまったのではないかと考えることができた、声も気づかなかった。しかしいざ自覚してしまうと途端に異常だと理解してしまう。

 私は今どうしようもなく恐ろしい状況に見舞われているのではないか? 

 そう考えると急に異常に胃腸が痛くなってきた。

 

 自然と視線は両手へ向く。華奢だ。自分の手じゃない。

 私のものではないはずの手は、思った通りに自分の顔へと手を伸ばす。

 そして触れた瞬間解ってしまった。この体は写真の少女のものだと、自分の乾燥した不健康な肌の代わりにあるのはなんだかしっとりもっちりした肌だ。なんだかすべすべしている。

 

 

「………………そうはならんやろ」

 

 

 酒の魔力におぼれたら美少女になるなら今頃全世界美少女に埋め尽くされてるわ、という現実逃避めいた考えに厳しい現実が「なっとるやろがい!!!!」と大声で右ストレートを放ってくる。

 思わず髪を搔きまわしたいと思い手を頭部にスライドさせるとなにかある……

 なんだか耳を触っているような感覚が走り鳥肌が立つ、ふと写真の寝癖らしき場所と同じだと気付き、そしてまた気づいてしまった。

 なんかなくなってる……

 側頭部にあるはずの耳がない。耳なし芳一のごとく取られたのか思ったものの、さっきから音は聞こえている。

 なんだか視点よりも高いようなって……! 

 

 

「そうはならんやろ……」

 

 

 気になってた突起物のあたりから音を感知している気がする、これ耳だわ。そんな気がすると途端にピクッと感覚が延長して動くようになった。どこかの建物から「なってるやろがい!」と聞こえてきた気がした。

 この感触はアレだ、犬や猫とかの獣の耳を触ったときのような触感だ。

 すわケモ耳娘にでもなったのかと思いながらも、そういえば腰にも違和感があったことを思い出して錆びたナットのような速度で患部を見る。

 

 尻尾があった。

 

 まあ、そうなるだろうなと何度か深い衝撃を受けたからか冷めた目で尻尾を観察する。

 今の自分の気持ちを表すかのように重力に従っている尻尾の特徴は馬のようだった。多分馬だと思う。

 

 なるほど、どうやら自分の特徴から見てうまっぽいし、ウマ娘とでもいうべき未確認生物になってしまったことが理解できた。ははーんこりゃ夢だな。

 

 

「こうはならんや……ろ……」

 

 

 夢だと認識した瞬間、意識が急速にシャットアウトされていく。環境の変化か、体はストレスでズタボロになっていたようだ。

 

──ーだけど目が覚めたら元通りだ。

 

 そう信じて私の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「担当医です」

は、はは、はあ

 

 自然と口から乾いた笑いが出てくる。

 どうやら現実だったらしい。

 心のどこかでヤケクソのようになってるやろがい!! という叫びが上がった。

 

 




見た目はしょんぼりマシマシしっとり抜き眼鏡カイチョー想定です。
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