普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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闇を導く光と理を壊す少女 再会

帽子を被り、髪型をウェーブがかったミディアムにする。服装も夏の制服ではなく私服だ。肩だしの白いトップスに水色のフレアスカート。伊達メガネもかけ、端から見ても依光成生とは結び付かない外見だ。

 

依光成生を第三者が見つけるのは個性を使えば簡単だが、使わなければ難しい。高校の制服や当時の私服を着ていた依光成生は、帽子も眼鏡もかけていない。髪型もショートボブだし、身体つきも変化超再生で少し変わっている。

 

見た目も体型も変わっている人間を同一人物として探す。それも唐突に現れる人物なのだ、予知でもできない限り見つけることは出来ない。

 

都市近郊までは転送で移動し、そこからはよくいる高校生のように電車で移動し一時間ほど。一度も訪れたことのない、和風な家のインターホンを鳴らした。そこにいる人物と会い、真正面から行くと言ったから行った行動だった。

 

「すみませーん。治崎さんいますか?」

 

そこに住む人を近隣住民は知っている。死穢八斎會という極道、ヴィランの巣窟なのだと。そんなところに「普通」の少女が訪れる訳が無い。知っている者からすれば歪な光景がそこにあった。

 

ガラッと扉を開き、マスクをした人物が成生の目の前に立つ。死穢八斎會の鉄砲玉、活瓶力也(かつかめ りきや)だ。死穢八斎會でも汚れ仕事を行う「八斎衆」の一人だが、門番をするような人選ではない。

 

明らかに、目の前の人物が同等以上の危険性を持つため、何かあった時時間稼ぎできるようにと送られた者だった。

 

「お嬢ちゃん。ウチがどこの組か知って来たのかい」

 

「お世話を頼まれまして」

 

力也は何をバカ言っているのかと言いたかったが、()()()というワードでオーバーホールが言っていた人物と同一人物なのだと悟る。

 

今八斎會を仕切っている若頭であるオーバーホールから言われた言葉だ。新しい世話係が来ると、何かあったら危険が過ぎるからお前にしか対応が任せられないと。来たら俺のところに連れてこいと。

 

「誰のだ」

 

()れちゃうかもしれない者をって頼まれました。()由はそんなとこです」

 

笑顔で話す少女に力也はコクリと頷く。目の前の人物が全てを知っていて来た人物だと分かればやることは一つ。

 

「……こっち来な」

 

オーバーホールの指示通り、家の中へと招き入れるだけだ。「八斎衆」の中でも力也だけは例外、オーバーホールの弟分なのだ。兄貴分に従うのは当然のことだった。

 

案内され、客間に居たのはオーバーホール。死穢八斎會の若頭であり、実権を持ち、組を仕切っているヴィランだ。ヴィラン同士なら隠れて行動する必要があるため地下の隠れ家で対応するが、真正面から現れた人であれば地下に隠れる必要も無い。組に客人が訪れたと同じ扱いだった。

 

「よく来たな、依光成生」

 

「どうも……どっちで呼べば?」

 

「オーバーホールで頼む」

 

ソファに座りながら軽く話す。よく見て見ればオーバーホールの横に小さなマスコットみたいな人(?)が座ってる。知覚発光からも、背後に襲えるよう人員配置しているのが分かる。襲うつもりはないだろうに、後で警戒を解かせよう。

 

さて、そんなことより会話を続けよう。私を知ってたのはヴィラン名だけじゃなかったようだし。

 

「私の名前、調べたんですか?」

 

「調べずとも分かる。時々ニュースに上がってる。……俺はなんと呼べば?」

 

「あー……ド派手にやりましたからね、成生でいいですよ。目の色が変わってるか、服装が黒基調になってればMs.ダークライです」

 

ニュースに時々上がるなら十分かな。少しずつ私が社会に浸透してきてる証拠だ。ポッと出たヴィランがそれだけの脅威になるというのは、ヴィランにとっては勢いづかせ、ヒーローにとっては警戒対象が増えることになる。これで第二の私が生まれても問題ない土壌ができたわけだ。

 

あとヴィランとして行動してるときはMs.ダークライであり、分かりやすくするために服や目の色を変えたりしている。明確な姿がある脅威の方が(ヴィラン)として現れた時に恐ろしいのだ。明確な姿の無い脅威はただ恐ろしいだけであり、畏怖といった感情は起きない。強盗か幽霊か、みたいなものだろうか。

 

「あと部屋の外にいる人と、オーバーホールの横にいるマスコットみたいな人、争う気は無いので警戒しなくて構いませんよ」

 

ついでだ。警戒しても無駄だから一言言っておいた方がいいだろう。争う気は無いし、仮に有ればただ蹴散らされるだけだ。どっちに転んでも無駄なことだ。

 

「気づいてたのか。舐められてるなら少し脅すつもりだったが……どうも調子が狂う。まるで普通の高校生みたいだからか?」

「ええ、それなのに私にも気づいている。しかも、実力行使しても失敗するヴィジョンしか見えない。こんなこと初めてです」

 

部屋の外から一人、扉を開けて中に入ってきた。ペストマスクをしてるところを見るに、側近だとかそんなところだろうか?

 

「オーバーホールがいいなら横にいてもいいですよ」

 

「分かった。音本、横に居てくれ。成生、壊理の世話って約束なんだが……」

 

オーバーホールは話が早くて助かる。それならこちらもさっさと話を進めよう。壊理ちゃんという存在の、希少性について。

 

「彼女の身体を素材にした『何か』でもあるんでしょ?」

 

「……知ってたのか」

 

表情は変わらずに答えるオーバーホール。動揺を隠せるのは流石としか言いようがない。核心を突かれたらだいたいの人は狼狽えるものなのだが、大物であればあるほどそれを呑み込む能力が高い。オールフォーワンなんて、さも当然のことだと言うように笑うくらいだ。

 

『何か』とは言ったが、予想はしている。何せ極道なのだ、作るモノと言えば候補は真っ先に二つ挙がるだろう。武器か、薬物だ。

 

「銃弾あたりかなと予想しました。そもそもあんな場所に閉じ込めておく時点で予想はつきますから」

 

「それもそうか」

 

一息吐き、要求の予想とそれに対する返答もセットで送りつけた。成生は勘の良さだけは突出してるほどに良い、程々に賢しい者からすれば未知の恐怖にしか思えない程に。

 

「そして素材として使わせろという要求だと見ました。私の答えは、『構いません』」

 

「っ!……いいのか?」

 

オーバーホールは壊理について一言も話していない。だと言うのに作っているモノが完全にバレるという異常事態だ。そこまではまだ耐えられた。

 

だが成生の答えが予想とは()()だったことには、動揺を隠し切ることはできなかった。

 

それでも、計画まではバレていないことがオーバーホールの動揺をギリギリで止めていた。情報がほぼ皆無な状況からここまで暴かれた以上、目の前の人物への警戒心が否応なしに上がってしまう。

 

「出来ることなら一回くらいで終わってほしいですけどね。私も協力しますよ」

 

そんな心境だったからか、オーバーホールには協力という言葉が意外だった。

いつの間にか、オーバーホールの目は見開いていた。依光成生という、Ms.ダークライを作り出した存在の異様さに呑まれかけていたのだった。

 

「協力?」

 

「私の光は催眠できます。痛覚を遮断することもできますよ。嫌々なんて問題になりません」

 

人差し指を天井へ向け、ポワッと小さな光を灯す成生。そのままフリフリと指を振る。まるで催眠術をかけるかのような動作にオーバーホールも納得する。

 

何より、神野の戦いをオーバーホールや横に座っている入中といった面々も見ていたのだ。催眠と言われ、生放送で示した光という心当たりはあった。

 

「そういうことか。お願いしたいところだ」

 

「話はこんなところでしょうか。必要が出来たら呼んでください。それじゃあ……壊理ちゃんはどこです?」

 

「知っているだろう?」

 

先日訪れたのは転送を用いて直接部屋へという形だった。歩いていくような真似はしていないのだから行き方なんて見当もつかない。

 

もっとも、これはオーバーホールが少しでも情報を得ようという口舌だった。成生は気にも止めず口に出した。

 

「直接乗り込んだ道順なんて知りませんよ。あの時は壊理ちゃんの場所の目の前に出るように移動したんですし」

 

「……仕方ない。案内しよう」

 

「その前に一つだけ質問させてください」

 

音本とか言ったか、さっき後ろにいた人が話しかけてきた。声をかけられたと同時に違和感を感じたところから察するに、会話で効果を発揮する個性だろう。

 

……洗脳系ではないはずだ。直感的にはそんな個性ではなさそうと感じる。

 

「音本?」

 

「私たちに危害を加えるつもりはありますか?」

 

そんなつもりは無い。そう言おうとしたが……なんか勝手に声が出た。

 

「壊理ちゃんと私の機嫌次第かな。……本音を言わせる個性ね。心配だったのは分かるし、私の気分は悪くは無いからいいけど、次やったら指でも貰おうかなぁ」

 

「っ!申し訳ございません!」

 

「俺の部下がすまない。壊理にはあれから手を出してない、それでいいだろうか?」

 

「今回はいいですよ。()()()()()()()案内してください」

 

オーバーホール達の安全保証なんぞよりも壊理の安全の方が大事だと言い放つ成生に、彼らは歯を食いしばりながらも睨みつけていた。

 

マスクによって、成生に口元が見られてないことが幸いだった。

 

■■■

 

「成生お姉ちゃん!」

 

「待たせたかな。ごめんね」

 

オーバーホールに案内され、先日来た壊理の部屋へと到着した成生に壊理は飛びついてくる。成生は何の警戒もせずに抱き留める。

 

包帯も付いたままだが、変わりはない様子だ。それどころか少し元気になったようにも見える。

 

「ううん、成生お姉ちゃんが来てから痛いこと一回も無かったよ」

 

なるほど。オーバーホールは忠告を守ってくれていたらしい。話が通じるからこその判断だが、今回は間違っていない。

 

何故ならMs.ダークライとして活動できていた私が嬉しいから!

 

「うんうん、ヒーローじゃないけど来た甲斐があったってものだね」

 

むふーと喜悦の顔を浮かべる成生に、疑問符を浮かべる壊理。オーバーホールはその様子に溜息を吐いていた。

 

成生が感情的にやりたいことをやっただけがこの結果なのだ。付き合わせさせられた方は溜息の一つも吐きたくなるのは当然のことだ。

 

「成生お姉ちゃん、ヒーローじゃないの?」

 

「あはは、それは違うかな」

 

私がヒーローだなんて今や天地がひっくり返らないとあり得ないことだ。ましてやここはヴィランのアジト。ヒーローなんて一人も居てはいけない。

 

「私にとっては、ヒーロー。ダメ?」

 

「ありがとね。ここから出してあげられないから……ヒーローだなんて呼んじゃダメだよ」

 

呼ばれたらヒーローへの内通者のようにも取られかねない。オーバーホールとは今は関係を崩すつもりは毛頭ないのだ。

 

粘られても困る。さっさとやりたいことを進めよう。

 

「あ、そうだ。私の子供……友達を呼んであげる」

 

転送を使いアジトで眠っている電花を呼び出す。目の前に現れたのはくかーと眠っている電花の姿だった。

 

「くぅ……むにゃ……っは!おかーさん!?ここどこ!?」

 

「ちょっと他所に出て来てるだけ、落ち着いて聞きなさい」

 

「うん!」

 

元気のいい返事。壊理ちゃんと遊ばせるには十分。……むしろ壊理ちゃんの方が壊れないか心配だ。

 

「誰?」

 

「電花、自己紹介しなさい」

 

「僕は依光電花!おかーさんの子供だよ!…って君は?」

 

「え、えと……壊理」

 

たどたどしく答える壊理。外で走り回っている電花に対して中でマトモに遊ぶことも出来ない壊理ちゃん。相性は悪くないはずだけど、最初は注意しながらじゃないとダメそうだ。

 

「壊理ちゃん?」

 

言葉をそのまま返す電花と目線を合わせてしゃがみ、大事なことですと前置きして話し掛ける。

 

「いいこと?壊理ちゃんは電花に比べたらものすごーく身体が弱いの。つまんだら千切れちゃうくらいに」

 

「……え?えええ……どうするの?」

 

「だから、電花は加減というのを覚えなさい。壊理ちゃん、電花の頬をペチペチ叩いてみて」

 

困惑する壊理だったが、成生に言われた通り電花へと近づいて頬をペチペチと叩く。

年齢に合った子供の喧嘩であればこんな行為をするであろう、そういう行為が行われていた。

 

「え……?こ、こんな感じ?」

 

「おかーさん、何これ?当たった感触はあるのに全然分かんない」

 

もちろん電花の身体スペックからすればそんなもの風が吹いたようなもの。熊とタイマンして勝てるような電花からすればどこ吹く風もいいところだ。

 

が、手加減をマトモにしたことのない電花には必要なものだ。何せ成生が人の前に出さないようにしているため、組手だのといった訓練相手が回避能力だけは電花を遥かに超える成生と耐久お化けのマキアくらいだ。

 

それ以外は地上の動物相手になるため、人相手の手加減など一度もさせたことがなかった。

 

「それが壊理ちゃんの感覚。それくらい壊理ちゃんはか弱いの」

 

「え、じゃあちょっと山四つ走り回るなんてことできない?」

 

「出来ません。壊理ちゃんの感覚に合わせて動きなさい」

 

ちょっとの感覚ですらこれだ。困惑する電花に答え、力加減を壊理ちゃんベースにするよう諭す。

 

そんな様子を見ながらも、壊理は同年代の少女に目がいっていた。同年代など一度も見たことが無いのだ、興味が湧くのも仕方のないことだった。

 

「えと、電花……ちゃん?」

 

「ええ、良かったら、一緒に遊んでくれると嬉しっ!?」

 

成生が勧めるするよりも早く、電花が壊理へと飛びつく。

 

だがそこには既に力加減が壊理に合わせたものとなっており、ただ6歳程度の少女が二人いるだけだった。

 

「えっと……これくらいかな?壊理ちゃん!よろしくね!」

 

「わわっ!?」

 

「抱きつけるなら大丈夫かな。流石子供の学習力……私の個性も混じってたら早熟も当然か」

 

ふむと思考に耽る成生。まさか一瞬で力加減を覚えるとは流石に思ってもいなかったのだ。

 

何せこういうのは時間がかかるものだ。成生自身でさえ力加減、手加減、どちらも時間がかかった。2、3日でできる程度ではあったが、一瞬ではなかったことだけは覚えている。

 

考えられることとすれば、最適化が発現した後の卵子を使っているからだろうか?電花自身の身体が最適化が行える身体能力になっているとすれば、あり得る。

 

私からダウングレードしたような、毛色の違う形で最適化が行われているならこういう形が正しいとは言えるだろう。

 

そう結論付けた成生の思考に邪魔するように、オーバーホールは声をかけてきた。至極まっとうな指摘のために。

 

「おい、ガキ呼んで遊ぶのはいいが……外出るなら俺に一言言え」

 

「もちろんです、オーバーホール。明後日辺りにでも出ましょうかね。服を何着か買おうかと思ってますが、お金あります?」

 

「ふん」

 

オーバーホールがポイッと投げた財布を受け取り中身を見ると、それなりの額が入っていた。これだけあれば何着か服を買って遊ぶくらいは簡単にできる。

 

「十分です。それじゃあ壊理ちゃんと遊びましょうか」

 

成生の言葉に壊理はハッと何かに気づき、数歩後ずさる。まるで何かに怯えるような表情に突如として変わったことに、成生も疑問符を頭に浮かべていた。

 

「……でも、個性が……」

 

そういえばと、壊理がそもそも何故助けを呼んだのかということを思い出す。希少性がある個性であれば、デメリットも相応にあるのだろう。

 

「オーバーホール、壊理ちゃんの個性って何です?」

 

「『巻き戻す』個性だ。何でもかんでも巻き戻す」

 

巻き戻す、確かに破格もいいところの個性だ。おそらく私と同様に突然変異だろう、そんな個性が血で繋がってたらどこかで途絶するのが妥当なのだから。

 

そして訓練もしてないなら対象となるのは対人だけだろう。壊理ちゃんの周りの物には影響してなさそうだし。

 

「ああ、それなら納得。希少もいいとこだし、私でも立場が同じならオーバーホールと似たことするでしょうね」

 

壊理ちゃんに聞こえないように小声で呟く。オーバーホールは耳聡いようで聞こえていたようだが、壊理ちゃんはボケッとした顔をしたまんまだ。

 

ニタリとした目をするオーバーホールはを放っておいて、壊理ちゃんへと人差し指を向ける。数歩下がったなら丁度いい位置だ。

 

「壊理ちゃん、こっち見て」

 

「え?」

 

「『壊理ちゃんは個性が暴走しなくなる。暴走しそうになったら気絶する』」

 

ポワァと光る指に注視していた壊理はそのまま目をぐるぐると回していき、倒れた。

 

「きゅぅ……」

 

「最初だから気絶しちゃいましたか。突然でしたし、そうなってもおかしくはないですか」

 

■■■

 

「おい、今のは何だ」

 

倒れた壊理ちゃんを抱き、ベッドに移動させオーバーホールが問いかける。突然の行為だった、聞かないという選択肢は無い。

 

「言ったでしょう?催眠です。この子の個性が暴走したら私だって死にかねない。安全の保障は当然でしょう?」

 

「そんなことまで出来たなら操り人形も簡単じゃないのか」

 

ある意味ではオーバーホールが最も求めている能力だ。壊理の性格さえ変えて自由自在に操れる人形にできるならこれ以上の物は無い。

 

だが成生は首を横に振った。

 

「個人によって効果が変わる。個性関係だとせいぜい一か月持てばいい方かな、成長するものだし」

 

今回の催眠は個性に向けたものだ。そして個性とは身体能力とすら言えるものであり、成長すれば小細工なぞ振り切って伸びる。子供ともなれば成長具合もでかく、催眠もたいして効かないのだ。

 

オーバーホールは説明を聞いても熱が冷めていなかった。何せ理想が目の前にあるのだ。手を伸ばせば届く距離にそれがあって、伸ばさないヴィランは存在しない。

 

「成長に合わせてやれば」

 

「言っておくけど催眠は本人にメンタルに影響を及ぼしやすい。壊れた理由になってもおかしくない」

 

「修復なら俺が……いや、影響を考えると多用はできないか」

 

落ち着いてきたのか、説明をようやく呑み込むオーバーホール。成生もオーバーホールも壊理が壊れることは望んでいないのだ。

 

オーバーホールは個性が使える状態での現存を望み、成生は壊理が傷つかないことを望む。成生の望みはヒーローが挟めば解決するのかもしれないが、壊理が表に出て精神的に傷つかないとは言えないのだ。

 

むしろ個性が暴走すれば即殺人犯として扱われる可能性もある。個性を聞き、現状維持と個性慣れへと進めたのは、成生も今すぐにどうこうという話ではないと諦めた部分もあった。

 

「壊理ちゃんが壊れないギリギリで残りの催眠は『オーバーホールの実験時痛覚遮断』と『オーバーホールの実験嫌悪緩和』くらい。子供だからそこまで多くはできない」

 

はぁと溜息を吐いてオーバーホールにできる範囲の協力を伝える。オーバーホールはコクリと頷き、助かると一言告げる。

 

「そうか、いや、十分だ。ここまでしてくれるんなら組に入れてもいいんだが」

 

「私はどこにも所属しない。自由気ままに好き勝手やるだけ」

 

成生のヴィランとしての象徴は支配ではなく自由だ。個性をのびのび使って好き勝手生きられる社会の方がいいという方向なのだ。

ならばそのトップとなる成生はどこにも所属などしないのは必然。

 

「……分かった。だがアンタが変な動きはしないように俺も監視にはつく」

 

「ここにいる間は遊ぶだけだから監視なんてしなくていいのに。壊理ちゃんに自己紹介はできたし、電花の紹介もした。あと真正面からも入ってきたから……真正面から帰れば疑いもない」

 

壊理ちゃんが倒れた今、残りの用事をこなすとしよう。まずは私はここにきた一般人だというように状況証拠を固める必要がある。

 

トップクラスの捜索能力を持つヒーローならば致し方無いが、そんじょそこらのヒーローや公安ならその程度で仕込みだけで疑われることも無くなる。

 

そのための今回のシナリオは、「お手伝いとしてアルバイトにでも来た人が住み込みで作業を行う」ことだ。今回が面接とするなら、極道の中に私服の女性が混じるのは違和感はあるが、子供の世話の面接ならそこまでおかしくも無い。

 

住み込みなら一度面接に来て、その後は外から見えない場所で転送による移動か壊理ちゃんと一緒にに外に出ればいい。それだけで社会の目は誤魔化せる。

 

「一応俺が外まで送ろう。それで監視カメラには問題ないようになる。そこのガキはどうにかしてくれ」

 

「電花、壊理ちゃんは都合悪くなったので今日はおしまいです」

 

「えー……うん、分かった」

 

「先に帰っててね」

 

電花を転送でアジトに帰し、オーバーホールへと残りの用件を口に出す。

 

「これでよし、もう一回真正面から来た後は転送で来れば大丈夫かな。外からはここに住んだって扱いにすれば問題は無い」

 

「そうだな。それで頼む。帰り道は今回は同じだ」

 

帰り道は来た道を辿ればいいなら問題ない。来るときによく分かったがかなり入り組んだ地下に入っており、ここに来るのにも一苦労するレベルだ。

 

とはいえ私は問題にならない。土流や知覚発光やらで三次元知覚能力は随分と訓練されている。地下空間を覚えろと言われても容易なことだ。

 

壊理ちゃんの部屋を離れ、帰り道を行く。当分は使うことになる道だ、遊び半分の装飾くらいはしてもいいかもしれない。

 

……遊び半分?

 

「オーバーホール、一ついい?」

 

スタスタと迷わず進む成生は、一定の距離を保ち後ろを歩くオーバーホールに忘れてたと言うように声をかけた。

 

「何だ」

 

「ヴィラン連合を利用する気はある?」

 

兄弟子扱いにされている弔の率いるヴィラン連合は成生からすれば遊び半分で向かう場所だ。今は面子をバラしているだが、トゥワイスがかなり近くにいるのは分かってる。

 

遭遇する可能性は十分にある。聞くだけ聞いておこう。私と弔は別に争わないという選択肢をずっととっている訳ではないのだから。

 

「一応な。釘でも刺そうってか?」

 

「ううん、私と弔は仲は良いけど同志じゃない。だから……私に配慮して、なんて真似はいらないから」

 

世間一般では妹弟子なんていう扱いだから勘違いされがちだ。協力すればヴィラン連合に強力なヴィランを送ることだってできるが、していない。

 

理由は二つ、一つはそもそも私がヴィランに堕とす人はだいたいの場合、ヴィラン連合入りできるような精神性を持っていないことがある。

私がヴィランに堕とす者は「ヴィランに堕ちるか悩む者」だ。やりたいけど一歩踏み出せない、そんな人に大丈夫だと背中を押すのが私のやり方だ。

 

要するに初犯の人が多いのだ。それなのにスピナー除くと凶悪な面子が揃うヴィラン連合に薦められるはずもない。

 

もう一つは単純に私がしたくないから。弔が勝手に同志集めてよって話だ。

 

「そいつは助かる。俺の計画にはヴィラン連合程度のネームバリューが欲しいんだ。アンタが表に出ると、アンタに手柄を取られちまうからな」

 

「私だとネームバリューがでか過ぎるからねー……。オーバーホールが活躍しても私が横にいるだけで私のせいになる。誰も求めてない結果になるね」

 

想像以上に「オールマイトを倒したこと」と「どこにでも現れるヴィラン」というのはインパクトが強かった。

精力的に活動したことも相まって、今ではオールフォーワンの全盛期を知らない人からはヴィランとしてトップクラスの畏怖をされるようなことになっていた。

 

社会からは、現在のMs.ダークライを超えるヴィランと確実に言えるのは全盛期のオールフォーワンくらいと認識されていた。それも、オールフォーワンの全盛期を知らない人も多い以上、最も畏怖するヴィランとはMs.ダークライと言っても過言ではなかった。

 

そんな私が表に出て事件を起こせば全部私のせいになる。表社会でも裏社会でもだ。

 

「支配者になるつもりは無いんだろう?」

 

「弔はなる気だろうけど、私にその気はないよ。自由人に支配は向かないから」

 

支配なんてどうでもいい。闇へ導く光り(Ms.ダークライ)として動きつつ、電花たち……私の子供たちや知り合いと好き勝手生きられればそれでいいのだ。

 

利用したいなら好きにすればいい。機嫌を損ねたらはらわた食い千切る化け物を、懐に入れる器量があるならだけど。

 

「そうか、それなら利用できるだけ利用してやる」

 

「好きにすれば。私の邪魔したら殺すかもしれないから気をつけてね」

 

それが脅しでも何でもないことをオーバーホールは分かっていた。チラリと見えた少女の横目が、深淵色に変わっていたのだ。

 

 

世界で最も自由に危険なヴィランが、そこにいた。

 

 

「気を付けておこう」

 

ならばオーバーホールにできることは一つだけ。機嫌を損ねないように……自由にさせるだけだった。

 




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