オールフォーワン「じゃあプレゼントをしないとね、弔との出会いなんてどうだろう?」
成生「やったぁ♪」
「場所の提供は喜んでしてあげよう。個性を伸ばすのは深夜になるだろうから、早く寝るようにしておくといい」
「助かります。お礼は出世払いでお願いしますね」
「ハハハ!出世払いか!もちろんいいとも!」
最初の会話の後に軽くこんな会話をし、オールフォーワンは週一のペースで成生の自室を訪れるようになっていた。いや、訪れるというより呼んでいると言うのが正しい。
両親も眠りについた深夜0時になると成生の寝ているベッドごと黒い霧に包み、広い訓練場のような場所へとワープさせるのだ。帰りも同じ形で返していた。
そして成生は驚いていた。オールフォーワンが連れてきた場所が余りにも個性を伸ばすのに適していたからだ。
最初に連れてこられた時、周囲の光景に成生は目を丸くしていた。そこにあったのは夜空さえも呑み込むような黒い空であり、十数メートル先で壁がある体育館のような場所だった。
指先を翳し全力の半分ほどで発光させる。それだけで本来なら1kmは先を照らすことが可能な程の光なのだ。だというのに目の前の光景はまるで違う。
「半分発光で照らし切れないって……」
「もちろんこれは特殊な個性を使っている。ブラックホールという個性を知っているかい?」
成生はオールフォーワンへ顔を向けコクリと頷く。明らかに特別な部屋を準備してもらっている以上、礼を尽くさない選択は成生にはない。
軽く一礼し、感謝を告げてオールフォーワンへと答える。
「特別な部屋、ありがとうございます。ブラックホールというと……光を呑み込む個性でしょうか?」
「それと似たようなものだ。これを打ち破れる個性まで伸ばせれば理想だろう?そして準備した対価として君にお願いしたいことが一つあってね」
成生が依頼した形である以上、成生が対価を支払うのは当然の話だ。成生も理解していたが、オールフォーワンの望みに今の成生が応えられるとは到底思えなかった。
「お願い?今の私にできることなんて無きに等しいはず」
「いや、大丈夫だよ。僕が行っている人体実験に君の一部を使いたい」
その言葉に思わず頬が引きつっていた。人体実験に成生を使いたい、そんな死ぬよりも酷い目に遭うのだけはごめんだ。目標が達成できた後ならまだしも、何もできていない今だと話が全く違う。
「え……腕とか大事なところとか嫌ですよ?」
「当然だとも。髪とか爪レベルでいいんだ。それだけで十分過ぎる」
ホッと表情に思いっきり出し安堵する成生。オールフォーワンも揶揄ったのが成功したからかフフフと笑っていた。
そんなオールフォーワンを目の前に、スッと成生の目つきが不敵なモノへと変わる。さっきまでとは違い、まるで自らの信念に従った思想犯のような瞳をしていた。
「構いませんよ。それならこちらからも一つ追加したいですね。体術の相手になってくれる相手って誰かいます?」
オールフォーワンも雰囲気が変わったのが即座に理解できた。
ちょうど先日の、初対面で話したとき、良心が無くなった時と同じ瞳だったのだ。歴戦の猛者、巨悪オールフォーワンが分からないはずがなかった。
「……丁度いい。彼を紹介しておこう。組手は少し難しい形になるが出来なくはないはずだ」
黒い霧が周囲に染まり、黒い空間から一人の男子が姿を現した。
まともな人間ならまず間違いなく驚き、悲鳴を上げて逃げ出す姿だ。病的なまでに細身であり、最大の特徴は上半身に取り付けられた「手」。顔を鷲掴みにするように取り付けられている一個を初め、肩や腕の関節など各所に着けられており、……何よりそれらの「手」が本物であることだろう。
成生も予想以上の姿形の少年に一瞬だけ硬直した。だが即座にオールフォーワンの重圧ほどでもないと、身体の強張りは解けていっていた。
「
「依光成生。貴方はオールフォーワンが直々に鍛えてるとかですか?」
おどろおどろしさを纏った声にも、平然と成生は答える。
弔は何もかもを壊したがる破壊者と呼ぶべき人種だ。対して成生は何もかもを犠牲にしてでも目標を手に入れる愚者だ。
価値観は全く違うものの、そのエネルギー量だけは同じであり、目的も相反するものではないため争う必要もない。
「いや、彼は独学だよ。黒霧が相手になってることが多いかな」
成生の疑問にオールフォーワンの声が答えを告げる。そしてそのまま弔への言葉へと切り替わる。
「弔、成生は一般人だ」
「はぁ?じゃあ何でここに」
「体術は君が鍛えなさい」
数秒の沈黙。弔が首を縦に振っていないことが納得してない証拠だった。
はぁと溜息を一つ吐き、弔は仕方ないと口を開く。
「……先生が言うことだ。従うけど……意味はあるのか?」
「もちろんだ。意味は……いや、そうだね、君が考えなさい。ただこれは君のためにもなるとだけ言っておこう」
「……分かった」
次の瞬間、弔の足が成生の目の前にあった。
「おわっ!?」
ギリギリで反応し身体を反らせて蹴りを避ける。突如向けられた敵意に、体術は一般人レベルである成生が避けられたのは運が良かったとしか言えない。
「一つ言っておく。俺の両手には触れるな」
弔が警告の言葉を一つすると、軽く拳を振るい成生へと襲い掛かる。
しかし成生は体力だけは化け物だ。ヴィランやプロヒーローと比べても同等以上という歪さを持っており、瞬発的な行動も軽い武術レベルなら対応できる。
唯一体格差だけは無視できないが、成生を素手で捕まえるということは指を向けられる至近距離に居るということに他ならない。熱量だけでも溶ける領域に達している成生の熱量を真正面から受ければプロヒーローだろうと死傷は必至だ。
しかし目の前の弔は武術レベルで言えば対応不可の領域にいた。さらに体術と組み合わせる個性も持っており、成生からすれば個性を使わなければ最も対処困難な相手とも言えた。
「個性の条件ですね?実戦形式とは一般人に酷い真似を」
「今のを避けた時点で一般人でも動けるレベルなのは分かった。ならあとは実践だ」
弔が一方的に攻勢を仕掛ける。成生はギリギリのところで避けられてこそいるものの、全てがギリギリでの反応だった。
深夜で身体のパフォーマンスが落ちている成生にはきついものだが、当たれば吹き飛ばされそのまま意識も飛ばされると察していた。
「あ、10分程度でお願いしますね。個性伸ばしの時間もありますし、成生さんも時間が無いので」
言い忘れていたと黒霧が口に出すと、弔は渋々と一度手を引く。攻勢が無くなったことで成生は距離をとり、弔の身体全体を注視していた。
「黒霧……はぁ、先生が言うことだ。信じるとするか」
成生の瞬きを突き、弔は一足飛びに膝蹴りを放つ。
「わっ!?」
これもまたギリギリで反応され、身体を横にひねって回避していた。
全てがギリギリの攻防。弔との訓練はまだ始まったばかりだった。個性を駆使し視覚を攪乱し弔の攻勢から避け続ける訓練がこの日から始まった。
この後めちゃくちゃ体術訓練と個性伸ばしした。
成生の身体能力はこの話時点では一般レベルよりちょい上レベルです。
……何でイレイザーヘッドとギリ対等でないレベルで体術戦闘できる弔に初見で反応できてるんですかねぇ?