普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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監獄タルタロス オールフォーワンの惚気

トガと成生が暗躍しA組が仮免試験に挑む頃、オールマイトは監獄タルタロスを訪れていた。オールフォーワンの投獄先だ。ケジメを付けに来たことと、何か依光成生について情報は無いか聞き出そうとやってきたのだった。

 

そして面会の手前、話す時間といった制限について説明を聞いていた。何せオールフォーワンとオールマイトは因縁深い。二人に話させるのもそう時間を取らせてはいけないと看守達も分かっていた。

 

「オールマイト、三十分以上話しても構わない」

 

だがそれを差し引いてなお、それなりに長い時間話しても問題ないと判断されていた。オールフォーワンに情報を渡すよりも、オールフォーワンだけが知っている情報が今は何よりも大事だったからだ。

 

今やオールフォーワンと同格とすら言えるヴィラン、Ms.ダークライについての情報だ。情報戦で言えばほぼ秘匿されきったところから襲撃されたのだ、最も知っている者から情報を搾り取るのは当然のことだった。

 

「いいのかい?オールフォーワン相手にそんなに長くなど。それにやつから情報を得ようとしても碌なモノは出てこない……どころか偽情報も多いのでは?」

 

「いや、一点だけ間違いない」

 

「……それは?」

 

とはいえ既に尋問官といった面々が話させていることでもある。数分も無い程度の極々短時間ではあったが、話した情報もあったのだ。

 

驚きだったのは、それらの情報が悉く正しいものだったことだった。軽く質問するだけで正しい情報を答えるくらいであり、聞いた側が本当に尋問と言えるものなのか分からないとすら感じ取った程だ。

 

そして特筆すべきことにそれらは全て、Ms.ダークライに関係する情報だった。

 

「Ms.ダークライ……依光成生についてはベラベラと喋るんだ。それもほぼ真実ばかりだった」

 

「分かった」

 

Ms.ダークライについては真実を話す。それだけでオールマイトはどこか不穏な雰囲気を感じ取る。

まるで「既に取り返しがつかない段階に行っているのではないか?」という疑念を振り払い、オールフォーワンへの面会室へと歩いて行った。

 

■■■

 

十分とせずにオールマイトは死柄木がどこにいるのか、オールフォーワンは何がしたかったのかを聞き出した。が、やはり特に情報は得られなかったと少しだけ落胆したところで……オールフォーワンから口を開き始めた。

 

「世間は君の引退とMs.ダークライのデビュタント、それに僕の失墜でかなり揺れたと思うんだが、様子はどうだ?」

 

「外の情報は遮断しています。軽率な発言はお控え願います」

 

「……だそうだ」

 

「残念だなぁ……たぶん、こうかなぁ……」

 

オールフォーワンはオールマイトに気軽な世間話を話し始めた。何でもない予想なのだというように。

 

「Ms.ダークライはデビュタント後におそらく日本各地で暗躍。各地でヴィラン被害が最低でも二倍にはなったかな。そこからヒーローはとにかく働きづめになりつつあり、君がいなくなったことと次のNo.1であるエンデヴァー達もMs.ダークライに負けていることから、ヒーロー社会全体の団結力を高めようとしている」

 

「社会が不安定になったことを察し、ヒーローを支持しない……所謂日陰者が行動を起こし始める。組織的に行う者も、単独で行う者もいるんじゃないかな」

 

「Ms.ダークライはどこにでも現れるから日陰者はより活発な行動をとるようになる。しかもMs.ダークライはヒーロー・ヴィランのどちらになるかを迷うような人の背中を押すような真似が好き。そしてヴィラン側が多いはずだから、全体として見た数はかなり多いはずだ」

 

「ただMs.ダークライが弔たちにヴィランに堕とした人を送るとは思えないなぁ……。弔たちは潜伏するだろうし、Ms.ダークライは弔には自主性を重んじるようになっていたし」

 

「少し脱線したね。Ms.ダークライが活発化させた日陰者はかなり木っ端寄りの者ばかり、Ms.ダークライという脅威だけを借り物にした者が大半だろうね。なんならヒーローみたいに救われた者すらいるんじゃないかな?だからヒーローや公安はMs.ダークライの本質的な動きが全く読めずにいる」

 

「メディアはMs.ダークライの身辺調査でもしたんじゃないかな。もう隠すつもりもないしね。そして恐ろしさ()()を強調している。ヒーローみたいな行動もたまにするヴィランなんて言えるはずもない、『もしMs.ダークライがヒーローだったら?』なんて想像されちゃメディアもヒーローもたまったものじゃないからね」

 

「そしてヒーローとして期待を背負うのは次のNo.1であるエンデヴァーだけど、Ms.ダークライに負けたことから、ある意味いい方向に期待が分散されてる……ヒーローという肩書を持つ者全体へ期待が寄せられつつあるんじゃないか?」

 

オールマイトのたらりと冷や汗が流れる。社会情勢を大方把握していることも恐るべきことだが、特にMs.ダークライのことをを完全に理解していなければできない分析を行えているのだ。それだけでどれだけ執着しているのかがよく分かる。

 

そして既に死柄木弔について聞き終えた以上、次に出る質問はこれしかない。

 

「依光成生について教えろ」

 

「Ms.ダークライについてかい?彼女については色んなことを知ってる……というか、知らざるを得なかったというべきか。どこから話そうか」

 

少し間を置き、オールフォーワンから出てきた言葉は想像もしないものだった。

 

「そうだね、じゃあまずはこれからかな。彼女は僕だけが生まれた世界線(ユニバース)に対するカウンター、個性社会から見た緊急装置とでも言うべき存在さ」

 

■■■

 

「……何を言っている?」

 

あまりにも突拍子もないアンサー。オールフォーワンが目の前に居ると分かっていながら、オールマイトが目に見えて疑問符を頭に浮かべるものだった。

 

「まぁ君はそう言うだろうね、何せ君は僕と言う『個人』から生まれたカウンター的存在。最も因縁が深い故に対立しなければならない存在だ」

 

「対して彼女は僕が作り出した『社会』から生まれたカウンターだ。『社会』が僕だけになってはならないと思っていたから生まれた存在さ。王国があるならクーデターは有って然るべき、とでも言うべきかな。片方が一人でもう片方が社会という馬鹿みたいな天秤を作ってはならない、そう生まれ出た人だ」

 

「そして君と彼女の違いは現れるかが分からないという一点だ。君は現れない可能性もあったが、彼女は必ず現れる。『社会』が求めたがために、現れなければならない」

 

「要するに君が居なくても僕はそのうち現れた彼女に殺されていたはずさ。ここで生きてるから儲けものだとすら言える」

 

笑みを浮かべるオールフォーワン。オールマイトも言っている意味が少しずつ理解できてきていた。

 

つまりは個性社会という社会が発生した時点で生まれるはずだった人であり、自分がいなければ代わりにオールフォーワンを討伐してくれた人だ。

ならば恐れる人ではない。好き勝手行動しているが、言葉を交わせば投降してくれる可能性もある。

 

その思考を分かっているようにオールフォーワンは次の口を開く。まるで眉を顰めるような表情をしながら。

 

 

「だが哀しいことに、それだけの存在という意味でもある」

 

 

 

「貴様が、哀しいことに、だと」

 

 

オールマイトの感情が驚愕へと変わる。オールフォーワンの言葉をそのまま受け取ることも、言葉の内容を信じようとすることも、オールマイトからすればあり得ないことのはずだった。

だがオールフォーワンの声色も、感情も本物だった。愉しむように悲しんでいるのではなく、ただ裏もなく悲しいと思っているのだと直感できるものがそこにあった。

 

「ああ、哀しいことさ。何せ彼女の存在は僕を殺すことにあったはずだ。それだけの個性()を持たされていた」

 

「だがね、僕の力は社会を形成する程のものだった。それを壊すということは社会を壊す程の力を有しているということであり……『社会』から生まれた彼女自身がそれだけの力を持つことを許さない。親を自らの手で直接殺せるか?という疑問の答えにも近いだろう」

 

 

「できたとしても、その行き着く先は──自死だ」

 

 

親を自らの手で直接殺せるか?汚れ切ったヴィランへと堕ちたならば可能と答える。事実として、Ms.ダークライは親を殺していた。デビュタント後に流した涙は、普通の精神性ならば自死への道を歩んでいたとしてもおかしくないと思わせるには十分だった。

 

「……そうか」

 

警察の調査の結果、依光成生がそうしたことをオールマイトは知っていた。懺悔の涙を知っている……オールフォーワンの言う通りだとするなら、放っておけばMs.ダークライは自殺するのだろう。

 

そこで思考を誘導されたことにハッと気づく。オールフォーワンの口元を注視していたからこそ、反応できたことだった。

 

 

 

「オールマイト、何も思わないのかい?いくら僕達が早過ぎたとはいえ、絶望に死ぬ人がいる。救けに行かないのか?」

 

 

 

ヒーローとしての信念を抉るような言葉。困っている人がいれば助ける、余計なお世話はヒーローの本質だ。もちろんMs.ダークライもお世話される側にあてはまる。

 

が、余りにもオールフォーワンの言い草は煽るものだった。オールマイトへの嫌がらせといっても間違いないものと言い切れるほどに。

 

オールマイトには、そんな嫌がらせよりも引っかかる言葉があった。

 

「それが言いたかったからその話から始めた訳か、やはり変わらない。……()()()()だと?」

 

「ああ、彼女の個性は余りにも強過ぎる。原点(オリジン)さえしっかりしていれば10歳程度で僕は殺されていたことだろう。それ程だからこそ、色々と調べたのさ」

 

「複合個性ではなく、複数の個性の所持を前提とした……もしくは可能とする個性。そんな個性は僕らか彼女しかいなかった。つまり彼女は僕に対する社会のカウンターなぞではなく、本来ならば僕たちの先輩となる存在だったんだ。個性が混じり、到達する極致……自然に現れるはずだった人が彼女だ」

 

「であればそこからできる想像は容易い」

 

「僕や君のいない世界で、混乱する世の中で君ほど固い決意を持ち、僕ほどに敵対する人を絶望させる才覚を持つ人物。暴力という一点における神……武神や救世主とでも言うべき人が彼女だったはずだった。そこから善悪だの支配だので、始めから対等な力を持つ僕と君が現れる。その歴史が社会から見れば正しかったんだろうね」

 

「だからこそ僕だけが生まれた世界線(ユニバース)に対するカウンター、個性社会から見た緊急装置になる。社会がヴィランだけに染まりかけた時、それ以上の暴力で全てを蹂躙する機構こそが彼女だ」

 

オールマイトはゴクリと息を呑む。「社会を形成出来るほどに突出し過ぎた個」への撃滅するための人、それが彼女の正体だとすればオールマイトへと敵意を向けてきたのも理解できてしまう。

 

何せオールマイトは「オールマイト」という時代を形成した人物だ。それを社会が「オールマイトという個人に染まった社会」と呼ぶなら、オールマイトを撃滅するべき人間として認識してしまうことだろう。

であれば、オールフォーワンが生きていて助かったと言わざるを得ない。

 

オールマイトのそんな思考を他所にオールフォーワンは話を続けた。ここからが大事なことだと口調を強めて。

 

()()()()()()()()()()()。特異な個性によって先んじて個性の極致に到達できてしまった僕達がいてしまった」

 

「社会の善悪を象徴する二人だ。そんなものがいるなら天秤の動きはどちらにも傾かない」

 

「結果、彼女の原点は明確に善悪どっちだとは言えない……どっちつかずの儚いものになってしまった。そして戦闘能力も決意相応に突出してこそいるが、明確に落ちてしまった」

 

「悪を人でなしと人々は呼ぶだろう?「儚い悪」である「人でなし」……彼女はまさに、悪夢と呼ばれるにふさわしい存在なのさ」

 

文字に起こせばその通り、儚さから人の感情が無くなれば夢のような存在となる。天秤の特性がありながら、偏りがなければ本人は淡く消え失せてしまう存在となる。まさに夢のような人とすら言えた。

 

だが現実には悪夢を引き起こしている。それは彼女が夢のような人ではないことを意味している、つまりはオールフォーワンの言葉は戯れ言ということだ。

 

「何故それが分かる、彼女は何を考えている」

 

「調べたって言っただろ?彼女は個性からして異質だった、そりゃ研究するさ」

 

「彼女の考えね……彼女には「誰の目にも留まりたい」という目的はある。けれど、そんなものはデビュタントとこれまでの暗躍でほとんど終わっていると見ていいんじゃないかな。だから……分からないな」

 

オールマイトの拳に力が籠る。さっきまでの明確な答えは消え、急にはぐらかすような言い方になったのだ。オールマイトを煽っているとしか思えなかった。

 

「ああ、勘違いしないでくれ、本当に分からないんだ。勘違いされがちだが彼女は個性を使って犯罪を犯すタイプじゃない」

 

「?」

 

はぁ?と言わんばかりに口を開けて疑問を表情に出すオールマイト。話す前であればまず出さない表情を見せる、それ程に可笑しい情報だった。

 

「僕の教えが良かったのか、黒幕(フィクサー)のヴィランとしてそれなりにはなった。だが彼女の場合は『勘』が余りにも良過ぎるだけさ。本質はそこじゃない」

 

「ヴィランになるのは個性を使って何か事を起こしたいタイプか、個性をのびのび使ったり、個性に振り回されて事が起きるタイプだ。前者が僕とすれば……弔や、分かりやすいところではマスキュラ―あたりが後者に該当する」

 

「そして彼女は……後者だよ。本人は黒幕(フィクサー)を気取っていたけど、頭ではそう考えないとやってられないんだろうね。だから僕に彼女の考えは分からないんだ。個性に振り回され続ける彼女の思考なんて読める訳ないだろう?僕に彼女の個性は奪えないんだから」

 

「事実、デビュタントで裏をかかれてしまったしね。あれだけは僕にも予想外だった」

 

「まぁ、それ以外は僕の予想通り順調みたいだ。何せ僕を助けに来ないんだから」

 

そこまで聞き、ようやくオールマイトは表情を引き締めた。

 

話からするとよくいるヴィラン同様に、彼女も何も考えていないのだろう。好き勝手行動しているのが証拠だ、と。

 

それはそれとして、オールフォーワンの言い方は助けにいつでも来れるというものだった。大監獄タルタロスであっても容易に食い破れるというのは、流石のオールマイトでも見逃せない言葉だ。単独でそんなことをされてはヒーローどころか治安組織の面目が丸つぶれになる。

 

「ここに助けに来れるとでも?」

 

「できるさ。彼女にはそれだけの力がある……ああ、そうだ。一つ君にお願いしたいことがあったんだ」

 

「貴様が私にお願いだと?」

 

まずあり得ない選択肢。オールフォーワンが宿敵オールマイトに頼みがあるなど、まず信じられないことだ。

 

そこで気づく、オールフォーワンが嵌めようとしているのだと。オールフォーワンが行う行為は基本的にオールマイトへの嫌がらせだ。対面している状況なら尚更その可能性が高い。

 

とはいえ、その口を掴んで閉じさせることはできない。オールマイトは聞くしかなかった。

 

「ああ。成生に君の「普通」ってどんな意味だい?って聞いてくれないか?」

 

「……「普通」が何か?そんなもの分かっているだろう」

 

「おそらく彼女の普通と僕達の普通の概念は似て非なるものさ。ただ、それが何か聞きそびれてしまってね」

 

「ずっと「自分は普通の少女だ」って言ってるから、そんな仮面を張り付けているのかと思ってたんだ。それでここに入れられてからも考えてたんだが、どこか違う気がしたんだ」

 

「だってそうだろ?僕をここに入れた件で、彼女はデビュタントして「普通」なんかじゃなくなったんだから」

 

「でも僕を助けに来ないことを考えると、まだ「普通」にこだわってると思ったんだ。天秤的な特性を持っているとはいえ、何でそこまで「普通」に執着するのか分からないんだよ。とっくの昔に「普通」なんかじゃなくなっているってのに」

 

「普通」にこだわる少女。オールフォーワンの言い分に理解できないこともない。

 

USJで対峙したとき時に見た姿、横取りしてしまい謝る姿、個性を好きに振るう姿、涙を流す姿。オールマイトはそれらの姿しか見ていないが、ヴィランが自ら好んで個性を振るったなら……もっと喜ぶはずだ。罪悪感を感じるなど、まず無いことのはずだ。

 

考えられるなら、誰かに背を押されたように個性を振るった?善悪どっちかに寄りかかるものの背を推す……Ms.ダークライに押されたように。

 

首を横に振り、オールマイトは自らの考えに蓋をする。今はそんなことを考える時間は無いのだ。目の前にいる存在に集中するべきだ。

 

「彼女を捕まえた後に聞いてやるさ、話を戻すぞ。彼女の個性は何だ」

 

「彼女に聞くといい、きっといつか会えるはずだ。戦いの場でなければ会話に応じてくれるさ。彼女は何だかんだ理由を付けることが多いけど、会話をするのは大好きだからね。()()()()()、複数の個性を持てるものだとは言っておこう」

 

複数の個性を所持できる。それだけで十分に危険な個性だ。ヴィランに捕まって研究されていてもおかしくない……むしろ、オールフォーワンが研究していなかったのかと問いただしてもいいくらいだ。

 

だが、彼女はオールフォーワンと気軽に話していたのをオールマイトは見ていた。であれば、そういったことは行われていなかったと見るべきだろう。二人の信頼関係は存外良好だったのかもしれない。

 

「彼女に与えた個性は何だ」

 

「成生にあげた個性は瞬発力、転送、エアウォークだね」

 

「それ以外にもあるだろう」

 

「個人的にあげたのはそれだけさ。彼女、僕が惚れてることを薄々察していたからか……離れるのが早かったからね」

 

「……惚れてるのか」

 

なるほどと、オールマイトは自らの思考内で理解を進める。いくらオールフォーワンでも、惚れている女を研究材料にはできなかったらしい。

 

「あんなにいい女はいないぜ?無理に掴もうとしたら夢のように消えかねないが、優しく掴めば夢のような力を得られる。僕を魔王と呼ぶなら彼女は魔の王妃さ。僕が対等と認めた女だよ」

 

「そんな彼女は本来、個性をいくらでも持てる。だが儚い彼女は元々持っている個性すら伸ばし切れていない。原点(オリジン)が善悪どっちつかずだから伸び辛いのさ」

 

「実際。光による斬撃も13kmなんていうちんけな距離しか出せてなかったからね。本来なら100kmを優に超える切断ができただろうに」

 

「転送だって本州を覆える程度。本来ならアメリカ大陸を横断できる程のはずなのに……全然だね」

 

誇張が過ぎると聞き流すも、理解できることもあり判断に迷う。

 

個性は原点(オリジン)を意識して伸ばすものだ。原点(オリジン)がしっかりしており、伸ばせる人が一番伸びやすい。

 

言い換えると原点(オリジン)が曖昧な者は伸びにくいのだ。目的地が分からないのに歩くようなものであり、それでもなおNo.1ヒーロー・ヴィランを倒せる戦力になっているというのは規格外極まりない。

 

それだけの個性だとしても、秩序の象徴とも言えるオールマイトが言えることは一つだけだ。

 

「それほどの力を有していようと、彼女を救い捕まえるのがヒーローだ」

 

「救う?もし彼女を救えることがあるとするなら……できるのは彼女だけさ。頂点に君臨する武力を持つなら、自らの意志以外の他人の意志などどうでもいいだろう。自由に好き勝手やるだけさ」

 

そこでオールフォーワンの言葉が止まる。気分よく話していた口元が、どこかあくどいものへと変わっていく。

 

オールマイトに嫌がらせをする時に笑うような笑みではない。もっと邪悪で、深みがあるようなものだった。

 

「……ああ、彼女は早熟だった。けど、早熟というのは良くも悪くも働くものだ」

 

「毒を仕込めば、すぐに回るようにね」

 

「何?」

 

ある意味で予想外の言葉。惚れている女だと言ったにも関わらず、毒を飲ませるなど信じられない。……熟したら危険だから、殺す気だったということだろうか?

 

いや、違う。そんな簡単なことをこの男はしない。おそらく毒とは肉体的なものではなく、精神的なものだ。彼女の感情にできた隙に、オールフォーワンはつけ込んでいるのだろう。

 

「彼女がデビュタントしたんだ。それなら間違いなく……僕の想いは届いてるはずだぜ?」

 

「何を」

 

「デビュタント前の彼女は(ヴィラン)としては信念が強かった。原点(オリジン)がそうだったからね。

でも良心という意味では弔と真逆とすら言える。殺しすら躊躇っていたくらいだ。だからこそ……長く生きる(ヴィラン)である僕には、デビュタント後に彼女がどう堕ちるのかが分かる。節目で少しずつ僕を見せたり、感情に飢えさせたり……依存させる。簡単な事さ」

 

「……仲間じゃないのか?」

 

オールマイトの疑問はもっともだ。オールマイトから見れば、オールフォーワンとMs.ダークライは先生と生徒の関係ながらも同格の協力者であり、仲間と呼ぶ関係性と呼ぶに値するものだった。

 

だがオールフォーワンからすればそれは正解であり間違いでもある。オールフォーワンが仲間と呼ぶのは側近や自ら率先してオールフォーワンに協力してくれる者たち、ドクターやギガントマキアといった者や信奉者たちだ。

 

そしてMs.ダークライはそこに()()()()。オールフォーワンに協力こそしてくれるものの、信奉者と呼ぶような者ではないからだ。協力者や弟子というのは間違いではないが、同志や仲間と呼ぶ者ではないのだ。

 

言葉にするなら最も近いのは、パートナーという関係性だった。

 

「彼女は僕の隣に立つべき存在さ。だからこそ、自死などという選択へ辿り着かないように入念に仕込んだ。彼女の原点(オリジン)を捻じ曲げるなんていうあり得ないことが無い限り、必ず僕のモノになる」

 

「そして君たちが彼女を止められない以上、僕は彼女へ向けた計画や彼女に向けた感情をベラベラ喋ってもいいのさ。君たちに止められないし、彼女に君たちの言葉は届かないのだから」

 

「その前に捕らえればいいだけの話だ」

 

「無理だって分かってるだろう?彼女を捕まえられなくするために転送の個性をあげたんだ」

 

オールマイトはギリッと歯を噛み締める。オールフォーワンの言うことはその通りだからだ。

 

彼女の転送は余りにも範囲が広い上に一瞬だ、タルタロスの脳波感知からの銃による攻撃すら間に合わない。複数人の転送はできないみたいだが、単独行動という意味では最強の個性と言っていい。捕まえたとしても、気絶したとしても、動けるようになった瞬間逃げられるのは間違いない。

 

「何よりデビュタントした今、彼女は二度と元の彼女には戻れない」

 

「個性ってのは使役して使うようなものじゃない、自らの身体の一部だ。身体を自由自在に変化できる彼女でも、身体変化する個性を複数持てば元の姿から歪になっていく。僕と居た時でさえ、個性を新たに持つにつれて……個性を伸ばしていくにつれて原点(オリジン)に随分と振り回されていたしね」

 

「彼女の象徴足る深淵色の瞳なんて、僕と会った当初は無かったんだぜ?」

 

「見た目が異様になれば精神にも影響がでるのは必然、精神が恐ろしく強いなら関係ないけどね。デビュタントという精神を病む行為をしたんだ、逆説的に身体はどうなってることやら。揺れに揺れてそうなってるなら……原点(オリジン)以外の精神はギシギシと音を立ててひび割れていっているはずさ」

 

「今の彼女なら非道な行為ですら呵責も無しに行えるはずさ。きっと彼女自身では分かってないだろうけどね……つけ入る隙がようやくできたって訳だ」

 

「貴様……!」

 

毒の正体、「デビュタントとそれに付随する個性の成長」を明かしたオールフォーワン。

オールマイトもデビュタントで戦っていたから分かる。彼女の戦闘や戦略にはエアウォークと転送といった、複数持つ個性の中でよく使う個性はオールフォーワンから貰ったものだと。そこに何かしらの変化要素があるのなら、彼女はオールフォーワンの予定通りに()()()()()()()()()

 

だがそれを神出鬼没の彼女に伝える方法は無いし、ヒーローの言葉で納得させられることもできない。かといって戦力で叩きのめすこともできず、捕まえたとしても逃げられる。

 

まさしく、詰みだった。

 

「僕が動けば彼女は離れる、勘の鋭い彼女なら僕の考えを読んだ可能性すらあったんだ。だからこそ一度卒業という形で突き放し、デビュタントのタイミングをずらし、彼女自身が僕に寄ってくるように仕向ける必要があったのさ」

 

「今はまだ、毒が回っていることに気づきもしないで自由に行動しているだけだろうさ。ヴィランともヒーローともどっちつかずの動きでもしてるんだろう?」

 

「……さぁな」

 

外の情報を出すわけにはいかない。オールマイトは曖昧に口をだすだけだ。

 

Ms.ダークライについてはこれほどに的確な情報を出せるオールフォーワンはまさしく……彼女のパートナーと呼ぶに相応しい者だ。相応しくないのはただ一点、Ms.ダークライを所有・支配しようと動いていることだけだった。

 

それが致命的なまでの相性問題とは気づかず、ヴィラン(オールフォーワン)は笑う。

 

「儚さ故に逆に固かった良心はヴィランになり脆く壊れていくだけ……その歪になった成生の心に溶け込むのは僕だ。あの子の心は僕だけのものだ」

 

「先に助けるのが私達(ヒーロー)だ」

 

「君たちにはできないさ。彼女を助ける……彼女が欲しいものを手に入れることなどできはしない」

 

オールフォーワンの確信を持った言葉。その自信は余りにも明確なところから来ているものだ。

 

ある意味オールフォーワンが最も信用しているところ、オールマイト達ヒーローが作り上げた平和そのもの。それを悪い方向から見た視点。

 

「──君たちが助ける人々が、主体性のない善良な市民である限りね」

 

そう言い放つオールフォーワン。オールマイトは何を言っているのかいまいち掴めていなかった。

 

 

 

 

だが、彼らも気づくことはなかった。

 

成生が両親を直接、自らの手で殺してはいなかったことに。自殺という選択を選ぶ未来から少しずつズレていることに。

 

成生という人間が天秤の特性を持ちながらもMs.ダークライというヴィランになりながら、自由を歩み始めていることに。

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