普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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公募終わってコミケ行ってきたので、書きかけを終わらせて投稿




悪夢の堕とし子 始動

「ねぇねぇ、この子が私の妹?」

「そうじゃ。まぁお主よりも年上になってしまうが……些細な問題じゃな」

 

 時間は少しだけ巻き戻る。成生がトガと共に仮免試験に参加していた頃、電花はドクターの下にいた。

 

 電花の目の間には一人の女の子が試験管に入っていた。腰ほどにも伸びている長い白髪、身長は150cm程であり体型は14歳程のそれだ。ただ発達が早いのか、胸や腰といった女性的特徴は随分と良いものだ。成生がいたら少しだけムッとして自らの身体を変化させるくらいだった。Eはある胸に、身体つきは曲線美を描く。身長がもう少しあれば男から見た理想的な身体つきとも言えるものだった。

 

 試験管の中でコポコポと空気の泡が時々漏れ、生きているのだと証明していた。

 

「ハイエンドでも起動から安定するのに10時間かかる。その前のテスト段階を考えれば本来なら数年の時間がかかるものじゃが……流石はMs.ダークライの堕とし子。まさか全個体がテスト段階を超え、起動できる状態になりつつあるとはの」

 

 ドクターからすれば驚きもいいところだった。目の前の少女は電花という試験個体を除けば正式な計画一人目。だが、だからこそ失敗するか何かおかしなところがあると思っていた。一回目は失敗して当たり前、二回目は上手くいかないが失敗でもない、三回目は成功する可能性がある。研究とはそういうものだからだ。

 

 しかし目の前の少女は明らかに成功していた。電花は例外とすれば一回目だというのにだ。理由はすぐ横に立つ幼女のおかげだと察していた。

 

「電花のお陰でもあるのう」

「そうなの?やったー!」

 

 無邪気に喜ぶ電花の姿に頬が綻ぶドクター。寿命があと半年も無いと思うと残念に思うが、オールフォーワンのため故仕方ない。

 そのオールフォーワンは捕まってしまったと言えど、Ms.ダークライに力を貸すのはオールフォーワンと協力体制にあるがため。Ms.ダークライも裏切った訳ではないのだ、ならば協力は続けるだけだった。

 

 何より──脳無のため依光成生という最高の実験材料が使えるのだ。協力体制を手離す訳も無かった。

 

「本来なら先生がいての起動だったはずじゃが……事前に起動テストはしなければならん」

 

 致し方無しとドクターは呟く。既に成長が終わっている段階のため起動に入っているのだ。脳無とは違い胎児脳無計画は成長という段階があるため保存は難しい。

 今回作ったのは三人だが、成長自体はそれぞれ遅らせていた。それもまた実験だったからだ。成長が最適なのはどの速度がいいのか、その確認のためだった。他個体も起動できるが成長はまだ5歳児程度、いつでも起こせるという……戦力という意味では十分な価値だった。

 

 ただ今回ドクターが驚いていたのは三人全員が起動できる段階に至ったことだ。一人目は、目の前の試験管に沈んでいる少女は既に起動できると分かっていた。

 

「おかーさんがたまに話しかけてたよ?返事してた」

「既に起きているか確認じゃな、お主のお陰で知能レベルが測れたのも幸い。あれのお陰で十分に知能があるのが分かったのは大きかったのう」

 

 起動しなくても生きているのだから身体に電気信号は走っている。そして電波を受信できる電花が居れば会話することすらできていた。故に起動段階に至る前から既に起動できるという確信を抱いていたのだった。

 

「では起動じゃ」

 

 ドクターはスマホのような端末からスイッチを押す。装置が起動し、試験管が上下に開き、内部を埋めていた溶液は周囲に溢れ出した。

 同時にべちゃという音と共に試験管に入っていた少女が倒れ込む。だが試験管の中に生まれたことすら何でもないかのようにスッと立ち上がり、髪を背中へと回し顔を二人へと向けた。

 ドクターからすれば異常極まりないことだ。試験管で生まれた子なら筋肉の動かし方が分からなくて当然、故に学習させなければならないのだがそれを無視していた。

 

 しかしそれもドクターには感極まりないことだった。何故なら目の前の少女は特別極まりない少女、崇拝するかの方の遺伝子を持っているのだから。

 

「おはよー。私のことが分かる?」

「お、ねー、ちゃん」

 

 流石に声を出すのは少女といえど流暢ではなかった。いや、声を出せるというだけで本来なら数日かかるようなものだ。ただ成長が異常極まりないというのは成生の子だと言えば納得できてしまう。

 

 二人の様子を見て知能レベルも十分だと判断し、ドクターも口を開いた。

 

「わしが分かるかの?」

「ドク、ター。はな、し、て、た」

 

 ドクターの予想通り、人の判別も可能であり記憶も十分にある。数日もあれば人として扱える完成度に舌を巻きたくもなる。

 が、それはまだだ。聞かなければならないことを聞き、身体が動かせるようになってからだ。だからこそまず、一番先に聞かなければならないことを声に出す。

 

「お主の名前は?」

 

 三秒ほど間が空きながら、少女はその名を口にした。

 

「だ、つ、き」

 

 悪夢の堕とし子にして次姉、奪姫──依光奪姫と呼ばれた少女が産声を上げた。

 

■■■

 

「あ、あー……声、出るように、なってきた」

「早いのう。個性がもう動いておるのか?」

 

 ドクターも驚く程の成長速度。ただこれは常時起きている成長ではなかった。

 身体の動かし方という意味では赤子から成長というステップを飛ばしている奪姫だが、赤子の如き学習能力は残っているのだ。今は赤子のように目に見えるものから、聞こえるものから真似したりと覚えているだけに過ぎない。それでも異様な速度だったが。

 

 期間に直せば数時間しか保てない成長速度であり、その後は電花と同等レベルまで落ちていく。もっともそれでも十分過ぎる成長速度なのだが。

 

「電花、おねーちゃん。おかーさん、は?」

「今はトガおねぇちゃんと遊んでるところ」

 

 とはいえ奪姫もまだ子供。母親である成生はどこかと周囲をキョロキョロと見回し、いないことを聞いて肩を落としていた。

 

 ぐっぱっと手を握ったり屈伸したりと身体の動きを確かめていく奪姫をニコニコしながら電花は眺め、ドクターはウキウキしながら最も聞きたかった疑問を口にした。

 

「奪姫、お主の個性は分かるかの?」

 

 弾むような声に奪姫は首を傾げる。個性の使い方もまた身体の使い方なのだ、ならば今学習している最中であれば使い方も分かるはずだった。

 

 そして無個性ではないこともドクターは分かっている。五歳になる頃には既に個性がある身体を示していたのだ。

 

「個性?……多分、こう、かな?」

 

 奪姫は首を傾げながら軽い声でえいっと口にする。周囲には何も起きず、物理現象は何も起きていなかった。

 しかし発動したことは電花とドクターには分かった。いや、二人にしか分からなかったと言える。

 

「わわっ!?」

「ぬぅ!?」

 

 二人の身体の調子が一気に良くなったのだ。身体に力が漲り、若返ったようにも思える程活力が増す。

 ドクターはこの個性を知っている……いや、似た個性を知っていた。死穢八斎會というヴィランのメンバー、活瓶力也という男の個性だ。

 

「活力が増した……。言うなれば「活力吸収・譲渡」といったところか」

 

 レアな個性だ……が、それだけだ。オールフォーワンやMs.ダークライ程ではない。

 強力ではあるため落ち込む必要はないが、ドクターはもしかしたらと期待はしていた。オールフォーワンすら越える個性の持ち主になるやもしれないという、個性終末論に確実に近づいた個体の可能性を。

 

 何せ天然のマスターピースという女神と崇拝する魔王を親に持っているのだ。

 

「私自身にも、できる」

「今度はぁー……はふぅ……」

 

 奪姫が個性を使って電花の活力を奪ったり渡したりと遊ぶ。端から見れば姉妹のじゃれ合いだが、間に割り込むのは相応の体力が無ければ不可能だ。

 何せ彼女らの活力は一般人など吹けば飛ぶほど。オールフォーワン並みを基準に作られたのだ、割り込むのにもプロヒーローでもなければ難しい。

 

「先生とMs.ダークライの堕とし子ともなれば規格外かと思うたが……。強いは強い、じゃがそこまでじゃな」

 

 ドクターの落ち込むような声に身体を向ける奪姫。先程渡された活力を奪われ元の活力へと戻されるドクターへ、にへらと笑い奪姫は問題ないと口にする。

 

「十分、強い。見れば、感じれば、全部()れる」

 

 その言葉でドクターは自らの認識間違いを正す。活瓶力也とは範囲と応用が桁違いなのだ。彼は触らなければいけないし吸収しか出来ない。

 

 しかし奪姫は五感で相対者を感じればいいだけ。汎用性が別物だった。となれば心配すべきは一点のみ。

 

「時間さえあれば触れずとも殺し切れる個性。確かにプロヒーローすら容易に殺せる個性じゃな。あとは吸収・譲渡の速度と容量か」

 

 所謂個性伸ばしで伸ばせるところだ。これさえ解決出来れば奪姫は知覚されれば死ぬという絶望の権化となる。

 

 そんなドクターの心配を微笑み返す奪姫……それも当然。個性伸ばしは彼女達が共通で持っている得意分野だ。

 

「ふふ、ふ……。私の、おかーさん、忘れた?」

「杞憂じゃったな」

 

 一言でドクターは納得した。Ms.ダークライの堕とし子には必要のないことだった。

 

 奪姫の個性も認識も問題ないと嬉しそうな顔で見ていたドクターだが、電花の一言が表情を歪ませる。

 

「だっきー、じゃあ身体動かそー?」

 

 慌てさせるという意味で。

 

「訓練場まで飛ばすからそこでやりなさい」

 

 二人が動き出すよりも早く声に出し、即座に足元の脳無に転送の個性を使わせる。

 

 ポケッとした顔をしながら転送されていく二人。ドクターがサラッと流したが、研究所が壊滅する危機だった。

 

■■■

 

 転送された二人はかつてMs.ダークライが訓練していた場所にいた。ここならばまだ全力は出せない奪姫と電花の激突にも耐えられると踏んだのだ。

 

 間違いではない。が、電花にとっての目的はそこに無かった。

 

「電花、おねーちゃん。二人きり」

 

 走ったり跳んだり軽く身体を動かし、調子を整えていく奪姫は……察したのか、それとも電花の個性が無意識に発動し奪姫が知ったのか分からない。

 

 けれど何も言おうとしない電花を見、奪姫は感じ取った。言いたいことがあるのだと。

 

「何か、お願い?」

「うん。私にはできないから。だっきにお願いしたいの」

 

 既に成生の横にいる命の残り時間もない電花だ。彼女自身それを分かっており、だからこそ早く弟妹に会いたかった。

 

 家族の未来のため、長姉は弟妹を助けるのが当たり前なのだから。

 

 そしてもう一つ、自分たちが産まれた意味を教えなければならないのだから。

 

「おかーさんが助けた人、バラバラになってて可哀そう。だから、まとめてあげたいなって」

「……でも、私達、移動、できない」

 

 ドクターに囚われ、動こうにも自由には動けない奪姫と成生の近くにいたい電花。動こうにも難しいまのがある。

 しかし……ならばこそ彼女達は声を上げる。自ら達の思想に近しい人の下へと、

 

「うん、だから頼ろうかなって」

「誰を?」

 

 当たり前の疑問に電花は微笑みながら声に出す。外の世界には、色んな人がいると知っていた。広範囲を受信できる電花には、処理落ちしかけることはあるが落ちることは無い。

 だからこそ分かる──思想が似ている人の波長が。

 

「おかーさんの考えに少しだけ似てる人に……確か、なんとかネット社ってところの人」

「そこに、お願いして、おかーさんに、助けられた、人の、会。みたいなのを、作る?」

 

 遺伝のせいか、頭の回転が早い奪姫に電花はコクリと頷く。

 

「うん。きっと助けてくれると思う」

 

 何の根拠もない自信。けれど妙に説得力のあるものだった。

 

「何で、分かる、の?」

「なんとなく」

「……勘?」

 

 再び電花は頷く。勘ではあるのだが、そこらの人とは比べられない。

 何故なら母である成生は第六感とすら言える勘を持っている。個性ではなく、彼女自身の力で持っているのだ。

 劣化こそしているが堕とし子達は似たものを持っていた。第六感とは言えないまでも、根拠と呼ぶには十分なものだ。

 

「私たちは、おかーさんに作られた。

 だから、なんとなく分かるんだ。おかーさんが本当は何が欲しいのか」

 

 言の葉にすればそれだけ。しかしそれだけで奪姫には電花が大きく見えた。依光成生の長姉という、奪姫からすれば尊敬できる人の姿を体現していた。

 

 嬉しそうな顔をして電花に疑問をぶつける奪姫。無邪気な視線には、妹が姉を慕う色が混じっていた。

 

「それが、助けた人の、集まり?」

「それかなぁ?って。なんとなくだから、ちゃんとそれだってのは分かんない」

 

 クスクスと微笑み会う姉妹。勘が根拠の行動など……まるで母親のようですらあった。

 

「だっきも、おかーさんに会えば分かるよ」

「おねーちゃん、おかーさんはどんな人?」

 

 まだ会ったことの無い母親、見たことはなく、声を聞いたことがあるだけ。優しく、包み込むような声をしていたことを奪姫は覚えていた。

 

 頼もしくもあると予想していた奪姫だが、電花から聞こえたのは違う印象だった。

 

「優しい、頼れる、でもよく泣くのを見るかなぁ」

 

 思い返すように成生のことを話す電花。奪姫は電花の印象は意外なものだった。

 強く美しく気高く優しいと思っていたが違い、繊細であり弱々しいところもある。

 

 奪姫の知らない成生の姿、知るのは電花だけであり……だからこそ、電花にしか言えない言葉があった。

 

 

 

「だからきっと、私達はおかーさんを泣かせないために作られたんだよ」

 

 

 

 ニコリと笑う電花に、衝撃を受けたように目を見開く奪姫。

 産まれた意味など考えもしない情緒の段階だというのに、姉がほぼ分かっている言い方をしたこと。そしてその言葉が何よりもしっくり来たことは、奪姫の性格をどんな方向へ進めるか決めていた。

 

「分かったよ、おねーちゃん」

 

 無邪気に嬉しそうな顔を、妹の顔をして返事を返す。電花も幼いながら、姉の微笑みを浮かべていた。

 

「私、勇也(ゆうや)艶羽(あでは)、皆もおかーさんのためなら、頑張る。ね、おねーちゃん」

 

 全てを支配する魔王、魔王を倒せし使命を帯びた英雄、空を自由に羽ばたく鷹。父親の力を継ぎ母により力を昇華させた堕とし子達、その一人目が立ち上がる。母を泣かせる何もかもから守る、たったそれだけのために。

 

「おかーさんの研究所にいる私達の弟妹……(だい)灯火(とうか)崩華(ほうか)散血(ちげつ)消一(しょういち)闇子(あんず)、……(じん)。いつか、私が居なくなる時が来る。何とかしようとすっごく頑張るけど、その時は……おかーさんをお願い」

 

 歩く災害、燃やし尽くす獄炎、全てを崩し壊す指、英雄を殺し固める血、抹消させる瞳、闇に生きる烏、あらゆる存在を増やす者。一人一人が並の個性ではなく、成生の子ともなれば脅威は尋常ではないレベルに跳ね上がる。

 ドクターやオールフォーワンは知らないが、奪姫が作られ始めると同時、成生が研究所で真似て既に準備していた施設だ。そこに彼らはおり、施設は既に全て稼働していた。

 ドクターと違うのは失敗する可能性など成生は考えなかったことだ。何故なら第六感染みた勘があるのだ、心配する必要もなかった。

 

「……うん、ありがとう、おねーちゃん」

 

 彼らが起動するだけでプロヒーローが壊滅できるであろう戦力であるが、一人目でありリーダーとなる奪姫は純粋に辛かった。

 どこか儚げな姉の姿。それが会ったばかりだというのに別れが近いことを奪姫は察せてしまうからだ。弟妹が増えても、奪姫に姉は一人しかおらず……そして年下の姉より精神はまだ幼いのに母親を任される。それも尊敬する姉の代わりと言わんばかりに。

 

 辛かった──だからこそ奪姫は今を生きる。

 

「ねぇおねーちゃん」

「何?」

「ぎゅってして?」

 

 今しかできないからと奪姫は甘える。電花も分かっているからか、微笑んでいた。

 

「だっきは甘えん坊さん」

 

 二人だけの姉妹は強く抱きしめ合う。まるで自分たちの決意を強く、強く固めていくように。

 




次回は未定、投稿はするよ。ヒロアカ読み返したりコミケ戦利品見たりとあるからね

奪姫はヴィラン連合と死穢八斎會が初接触してる時はまだ身体調査中。父にも母にも似てない……かも
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