デクがMs.ダークライと遭遇し、見逃された頃。ナイトアイとバブルガールは死穢八斎會の本拠地を監視していた。
「しっかしまー、弱小とはいえさすが生き残った極道ですね。塀は高くて窓は少なくて……いい家住んでますわ」
「マークから一週間半……。いつもより人の出入りが無い」
「でんわ」
バブルガールが軽口を叩きナイトアイが情報を整理したタイミングで、バブルガールに電話がかかってきた。かけてきた先は……ルミリオン。
「え!?」
バブルガールの驚愕にナイトアイも顔を向ける。バブルガールの表情は驚きから変わっていなかった。
「ルミリオン……治崎と接触したらしいです」
数分後、ナイトアイとバブルガール、ルミリオンとデクの四人は合流していた。緊急もいいところの出来事に二人だけでは解決できないことであり、当然の行動だった。
「すみません!事故りました!まさかあんな転校生と四つ角でバッタリみたいな感じになるとは……」
「いやこれは私の失態。事前にお前たちを”見て”いれば防げた」
「とりあえず無事でよかったよ!下手に動いて怪しまれたら危なかったかも」
ルミリオンの言葉に、ナイトアイの失態をバブルガールは心配を告げる。
危なかった、その言葉にルミリオンは先ほどまであった究極レベルの危険を口にする。こればっかりは絶対に共有しなければならない情報だ。
「それなんですが……」
治崎だけでなくその横にはMs.ダークライがいたこと。突如として雰囲気を変えて目の前に姿を現したことをルミリオンとデクで口にする。どちらも見逃されたことだけが救いだった。
「奴が……いや、それは事務所で話そう。それ以外には?」
「治崎には娘がいます!」
「娘……?」
ナイトアイのデータに情報は無い。怪訝な顔をしていたところに、デクが少女の印象を語る。
「エリちゃんと呼ばれてました。手足に包帯を巻かれてましたが……とても怯えていた。何も分からないけど、助けを求めてた。
どうにか保護してあげられたなら……」
「傲慢な考えをするんじゃあない」
冷たい瞳、デクへ向けられた視線も凍っているようなものだった。
ナイトアイはオールマイトの後継としてデクを認めていない。それ故の冷たさもあるが、何より今のデクはナイトアイにさえ弄ばれる程度の実力しかないからだ。
力が無ければどれだけの意志を貫こうと散るだけ。それをよく知っているからの言葉だった。
「奴の言うことを信じるなら保護をするにも間違いなく混乱する。急いては事を仕損じる、どう転んでも対策は必須だろう。
焦って追えば奴は無関係の市民を攻撃する。救けたいときに救けられるほど貴様は特別じゃない……ましてや相対したのが奴ならば尚更だ。緑谷、貴様なら私の気持ちもよく分かると思っていたのだがな」
「……っ!」
デクとナイトアイに共通するのはオールマイトの大ファンであること。だからこそ奴、オールマイトを倒した
だが、だからこそ強大さも分かっているとナイトアイは思っていた。オールマイトが真正面からではないとはいえ、負けたことは事実なのだから。
「まず相手が何をしたいのか予測し、分析を重ねた上で万全の準備を整えなければならない。
志だけで救けられる程世の中甘くはない」
まるで自分自身に言い聞かせるようにナイトアイは呟く。デクもうっと息を呑んでいた。
デクもまたMs.ダークライに苦渋を飲まされた。志だけではどうしようもない力、目的を以て放たれた悪意には足掻くことすらできないのだ。
「緑谷、奴のデビュー前を思い出せ。真の賢しい
Ms.ダークライのデビュタント前、林間合宿でかっちゃんを奪われた思い出がデクの頭をよぎる。表に出なくとも簡単に事を為し、姿を現しても先生に手を出すなと言われた。
潜むという表現が的確過ぎるものだった。
「さて、一度事務所に戻るぞ。奴……Ms.ダークライの話をしなければならない」
言葉を濁してMs.ダークライのことを口にしなかったナイトアイ。外ではどこから情報が洩れるか分からないからだ。
時間は少し経ち、四人はナイトアイの事務所に戻ってきていた。今日の調査は打ち切りという形だった。
バブルガールは事務作業に戻り、残った三人は別室でエリについての情報やMs.ダークライや治崎との会話を一言一句そのままに情報を整理する。
ナイトアイの予測は、それだけで十分なものがあった。
「触れれば殺せる個性か……そして
「どうしてです?」
考えもせずに発言するデクにナイトアイは眼鏡をクイッと持ち上げる。明らかに苛立った様子だった。
「予測くらいしてみろ。奴の行動から目的を、目的から性格を、性格から人間性を」
ここはプロの事務所。仮ではあってもプロとして扱うのだ、何にも考えずに疑問を口に出せる学生気分でいい場所ではない。
しまったと思いつつ、次の瞬間にはデクは思考にふけていた。ぶつぶつとナードらしい独り言を口にする。
「ヴィランを増やす……ヒーローも増えてる……背中を押す……どっちつかず?」
「目立ちたがりってことですか?」
埒が明かないとルミリオンが答えを告げる。会話は急いでいないのだが、今日のパトロールが中止になったことでルミリオンも重く見ていた。
可能な限り早く情報を整理し、真実へ辿り着きたかったのだ。ナイトアイにも伝わったのか、コクリと頷いていた。
「そうだ。そして目立ちたがりだが半端な真似はしない。つまりエリを助け背を押したはいいものの、そこからヴィランにならないならヒーローに渡さねばならない。
だが奴程のビッグネームがヒーロー事務所に来ると思うか?ユーモアという意味なら百点だがな」
「気分屋っぽかったから来るかもしれないような……」
USJで一度会っているデクは思わず口に出していた。デクの印象だけだったが、実は的を得ていた。
デクの言葉にムッとするナイトアイ。彼自身、別の件からMs.ダークライには思うところがあったのだった。
「……そうだったな。貴様は奴と接触したことがあったな。本当に予知通りで嫌になる」
「Ms.ダークライを予知で見たことが!?」
デクが声を荒げるが、ナイトアイは落ち着けと一言告げるだけ。
そもそもMs.ダークライ程強大なヴィランが予知で出てこない訳が無いのだ。それでも予知にあまり出てこないのには簡単な理由があった。やってることが犯罪を犯しそうな人の背を押すといったり、逆にヒーローになりたいと悩んでいる人の背を押したりと、現実に影響される人はあくまで「怪しそうな人」であることだ。「既にヒーローが怪しんでいる人」やヴィランにはそもそも関わることすらしないのだ。
「昔の話だ、話を脱線させるな」
「あ、はい」
それでも数撃てば当たる。ナイトアイには心当たりは多くあった。何より、最も大きな変革の予知は間違いなく彼女だという確信すらあった。
しかし今話すことではないと、話を続ける。
「ヒーローに渡したいがヴィランのビッグネームが邪魔をする。秘密裏に渡すとかですかね?」
「それができれば苦労はしない。秘密裏に動こうとしても必ずどこかで情報は漏れる、奴はそれを嫌ったのだろう。故にエリのボディーガードに付いている」
エリのボディーガードにMs.ダークライ。そこからエリを救けるとなれば絶望的なまでの戦力差だ。が、ここまでの予測で分かる事実もあった。
「だが逆に言えることもある。奴は渋々動いているということだ」
「……ああ、ということは」
「通形先輩?」
まったく見当もつかないデクに思わずいつも通りの呼び方をしてしまうデク。
戦いの予測はできても性格や目的といった予測はまた別物だ。例えば、もしこいつがクズのヴィランならどういう行動をとるか?そういう予測がデクにはまだ出来ず、ルミリオンには出来ていた。
ナイトアイが溜息を一つ吐き、ルミリオンへと話を促す。
「貴様は人柄の予測はまだまだだな。ミリオ、答えてみろ」
「ボディーガードだけど治崎達を捕まえる分には手を出してこないってことさ!要するに彼女と戦う必要はない!」
ルミリオンの回答にナイトアイは頷く。間違いなくそうなると予測できる、何せ目立ちたがりならこんなところで油売ってる暇は無い。暴れるだけで人を魅せるカリスマは出来ない、暴れ方というものがあるのだ。
故に治崎との戦いまでは手は出さない。が、その先はまた別の話だ。
「正解だ。おそらくこちらが捕まえようと動いたら察してのらりくらりと逃げ……治崎を捕まえた後、我々とエリの間に立ち塞がる。見物人が誰も居なくなれば自由にできる、そう来るはずだ」
「それじゃあ」
ダメなんじゃないか、デクが口にするより早くナイトアイは自らの予測を言葉にした。正確には、そうするしかないという対策を。
「そして目立ちたがりということは会話が通じない獣じゃないということだ」
個性で暴れる者はよくケダモノと呼ばれる、暴れるしか能が無いからだ。
しかし彼女はそうではない……であれば、交渉という余地はあるのだ。
「奴は実力行使はしてこない。出来る限り引き分けに近い形か、エリの意志で逃げたという形か、そういった形をとるだろう」
狡猾で慎重・強大なヴィラン、そう評価されたが故に通じる可能性。成生からすれば皮肉だが、強大なヴィランと成ったからこそできる対策だった。
□□□
週が明けた月曜。緑谷は職員室に訪れていた。オールマイトから全て聞き出したかったのだ。
しかし中に入ってもオールマイトはおらず、いるのは他の先生たちのみ。ミッドナイトが近くにいたため所在を聞くことにした。
「オールマイトならジョギングよ」
「ジョギング?」
「知らなかった?家庭訪問終わってから何故か鍛え始めたの。引退したならゆっくりすればいいのにね」
全部教えてくれオールマイト。今の緑谷の気持ちはそれだけだった。
既に放課後になっていたためフルカウルを使い、ミッドナイトがこのコースを走っているのを見かけると言っていた場所を走って探す。オールマイトは、すぐに見つかった。
「緑谷少年が来た!ゴホッ
何故私がここにいると!?」
勢いよく走ってきた緑谷に、ここにいると分かっていたことにオールマイトは驚く。
が、緑谷はオールマイトに会えたというのに黙っていた。走ってきて息が上がっているというのもあるが、何から聞けばいいのか分からなかったのだった。
「……………………全部知ってたんですか?」
意を決して口を開く。何から聞けばいいのか分からない、だから緑谷は疑問を全部口にした。
「ナイトアイがワンフォーオールを知っていて、通形先輩が後継の候補だったって……。それにMs.ダークライのこともオールフォーワンに聞いたって……。全部知ってたんですよね……?何で言ってくれなかったんですか?」
オールマイトはジョギングしたまま緑谷の方へ立ち向かない。まるで真正面を見て話せないことだと言うようだ。立ち止まらないのも、逃げ出しているようにすら思えた。
「言う必要……あったかな」
「あるでしょ!!!」
オールマイトに緑谷が怒って大声を出す、非常に珍しいことだ。
返答を待つよりも早く、緑谷は思ったことを全部声に出す。分からないことばかりであり、答えを知らなければいけないのだ。
何より、オールマイトの考え方という本来なら緑谷にも分かるはずのことが分からないことが大きかった。
「新事実ばっかりでなんかよく分かんないまま否定されて!何よりオールマイトの意図が分からなくて!
Ms.ダークライのことなんて皆で共有すべきことでしょ!?」
「秘密にする意図が分からないからモヤモヤする!何で教えてくれないんですか!?
あなたのファンとしてじゃなくて、後継者として全部知りたい!」
後継者として知りたい。その言葉に一瞬だけ横目で緑谷を見るオールマイト。
誤魔化すこともできないと判断するには十分であり、緑谷の覚悟をみるにも十分だった。
「……この話は君の為に、社会の為にならないと思った。本当に聞きたいのか?」
「このまま秘密にされるよりいいです」
「後悔するなよ」
「……はい」
緑谷の言葉を聞き、オールマイトは話したくない過去を呟き始める。オールマイトの関係者しか知らない過去の話を。
「ナイトアイは元々私の大ファンでね、サイドキックは取らない主義だった私だが……根負けする形で彼を迎え入れたんだ。ともに活動してたのは五年程。時期で言えば君たちが中学生にもなってない頃だ。
身体能力はそれほど高くないが、ブレーンとして私の活動を支えてくれた」
「知ってます……前線で活躍するオールマイトのサポート役です。仲も良かったハズです」
デクはオールマイトの大ファンだ。サイドキックも当然知っていた。そして同時に、今はサイドキックではないことも。
コンビを解消している事実、その別れの原因こそが話したくない理由だった。
「ああ……だが6年前、私の怪我によってコンビを解消した。価値観の違いだった」
オールマイトはナイトアイのことを思い返しながら話し始めた。今思えばナイトアイの言葉通りにした方が良かったかもしれない、そう思わせる過去だった。
□□□
6年前、オールマイトとナイトアイの間に亀裂が入るほんの少しだけ前のことだった。オールマイトはオールフォーワンとの戦いにより内臓をやられており、病院の壁にもたれながらヨロヨロと歩いていた。
歩く理由は単純明快、オールマイトはヒーローだからだ。
「無茶だオールマイト。もう引退すべきだ」
だがナイトアイは止める。身体が傷つき、行動もマトモにできないともなれば必然だ。まして、それが大ファンであるオールマイトともなれば当たり前の言葉だった。
「ニュース……見てないのか……?皆が私を……探している。待っているなら……行かなきゃあな……」
しかしオールマイトは止まらない。オールマイトはヒーローなのだ、市民が求めているならば動かなければならない。彼自身の原点がそうさせるのだった。
「その体でヒーローを続けても皆が辛くなるだけだ。呼吸器官がやられたんだ、以前のようにはいかない。あなたの願う平和のためにも……伝説のまま引退すべきだ」
「ワンフォーオールの後継ならウチでいくらでも探すといい。君は十分に頑張ったさ」
ナイトアイの冷静な声に、根津のフォローが入る。平和は一人で作れるものではない、それにワンフォーオールは紡がれてきた灯であり、ここで絶やす訳にはいかない。
動けなくなったら次の人に託す、それができるのがワンフォーオールなのだ。分かっているからこそナイトアイは止め……そしてオールマイトは歩いていた。
「もうフカフカのベッドで安眠をとっていいんだ。明るく強く親しみのある人間、あなたのような人間を見つけ……託そう」
「その人間が見つかるまでの象徴は?オールフォーワンがいなくなっても……超人社会……すぐ次の
オールマイトはワンフォーオールを託され、そしてオールフォーワンを討った者だ。それ故に、次のオールフォーワンが現れることを最も恐れる。自分が行ったことで終止符を打ったことなのだ。それが再び訪れることを最も嫌う者とも言えた。
ヒーローの、平和の象徴。オールマイトが必要だからと作り上げたものであり壊されてはいけないものだ。しかし……今の本人を見る者は、そう呼べなかった。
「象徴論は分かる!敬服している!けれど……なぁ──全然笑えてないじゃないか……!」
ふらつくオールマイトをナイトアイが支える。苦悶にも近しい顔をしたオールマイトだ、いつも通りの笑って危険を吹き飛ばす表情はどこにもなかった。
「これ以上ヒーロー活動を続けるなら私はサポートできない……!したくない……!」
ナイトアイの言葉はそんな雰囲気を感じ取ったから──だけではない。長年の付き合いだ、辛い表情を浮かべているオールマイトでもすぐに分かった。
「”見た”のか。私の事は見なくていいって、言ったハズだろナイトアイ」
ナイトアイの予知。後継がどうなるのか、オールマイトの未来はどうなるのか予測すべきだからと個性を使った結果、ナイトアイはオールマイトを止めていたのだった。
そして予知は余りにも不確定だった。見えた未来は……一つではなかった。本来なら誰しもの意志と力が大きく変わらなければ変わらないはずの予知が、容易に変わっていたのだ。
「あなたが引退すれば次のNo.1は現れる!少しの間荒れるが──間違いなく避けられるんだ!」
「その少しの間にどれだけの人々が脅えなければならない?」
「オールマイト!」
少しの間が一日や二日といってもオールマイトは動く。ヒーローだから、市民から求められているから。
例えオールマイトを超えるヒーローが一年後にでも現れると言っても聞かない。間違いなく現れると言われても、オールマイトには許せないことだった。
「それに……君の”予知”が外れたことは無いだろう」
オールマイトからすれば一番大きいのはこれだ。予知で荒れることが分かっている、ならばオールマイトは許せなかった。
だが、ナイトアイにとっても一番大きいのもこれだった。これまで起きなかった予知、それが明確に現れたのだ。前例のないことに動揺を隠せておらず……ましてオールマイトも関わるともなれば声を荒げるのも仕方のないことだった。
「違うんだオールマイト!」
「今回の予知は変わる!大きく変わるんだ!
このままじゃ変わった後に近づいてしまう!それは駄目なんだ!」
ナイトアイからすれば前例のない予知だと言っているのだが、オールマイトからすればナイトアイが止めようとする言い訳にしか聞こえない。
予知が変わったことを真実だと分かるのも数年後のことであり、当時では知る由も無かった。
「私はあなたの為になりたくて、ここにいるんだオールマイト!」
「私は世の中の為に……ここにいるべきじゃないんだナイトアイ」
オールマイトを心配するナイトアイと、振り切ろうとするオールマイト。話は平行線であり、オールマイトが折れない限り結論はつかない。
そしてオールマイトが折れることはあり得ない以上、未来は決まっていたようなものだった。
「このままいけば……あなたは
□□□
「私の未来を巡り対立……そのまま喧嘩別れした。根津校長は通形少年を私に薦めたが、彼と出会う前に私は君と出会ってしまった」
ジョギングを止めないオールマイトは、今でも歩み続けていることを教えているようだった。ナイトアイの人柄を知っているからこその予測が今だった。
予知を知り足を止めた緑谷とは、まるで違っていた。
「言いたくなかったんだ、ごめんな。君は私のファンだから」
「オールマイトが……死んじゃう……?」
「きっとな」
そこでようやく足を止めたオールマイト。死を見据えてようやく止まりかける姿は、現実のオールマイトに相応しいとも言えた。
「オールマイトが……死」
予知された事実を受け入れられないのか、緑谷は何度も口ごちる。
「死ぬ……」
「Ms.ダークライのことは……いや、先にこっちが話し終わってからだな」
Ms.ダークライが予知にも関わっていること。ナイトアイの態度から緑谷にも分かっていたが、オールマイトは後回しにしていた。
というのも予知以外にも現実に知ったことで繋がる面が見えてきたからだ。脅威の力だけでなく性格も見えてきたからこそ、予測できるものがあった。
「君と出会い力の譲渡を決めたこと、ナイトアイにも報告したんだ。けれどそこでも対立し、彼との溝は益々深まる結果になった。
馬鹿げていると一蹴し彼は……真にふさわしいと思う後継候補を……通形少年を育成し始めたんだ」
何を考えている、他に相応しい人間ならいくらでもいる、志だけでは務まらない。ナイトアイはそう言ってオールマイトを批判した。
相応しい人間に無個性の少年だっているはずだと返し、オールマイトは同じ志をもつ少年を擁護する。そして今に繋がるのだった。
オールマイトの話は聞いていた、が、緑谷にはそれ以上にその前の話が頭から離れてなかった。
「待ってください!それより……待ってオールマイト!ナイトアイの予知はいつの話なんですか!?予知はもう変えられないんですか!?」
少しずつ足を止めたオールマイトは予知が6~7年後であること、遠い未来程誤差が大きくなること、そして……予知を変えられたことは無いことを告げる。
6年前から6~7年後ということは既にいつ予知のタイミングが訪れてもおかしくない。緑谷も言ってることは理解できるからこそ受け入れられなかった。
「6~7年って……じゃあ今年か来年じゃないか。噓でしょ……?そんな……何で、嫌だよオールマイト。生きててよ。
体育祭で……覚えてますか約束……!僕は果たせなかったんだ、果たせるまで生きててよ……」
君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい。体育祭の時オールマイトはそう言い……そして果たせなかった約束。オールマイトも当然ながら覚えている。
「『僕が来た』って言うところ、生きて見ててよオールマイト!」
その言葉にオールマイトは足を止める。いくら平和の象徴といえど、次と指差した者にそこまで言われては止まらない訳は無かった。
「緑谷少年、私ね。予知を聞いて割とすんなりと受け入れたんだ。
「そんな……」
「神野でオールフォーワンと戦った時、ここがゴールだと思った。Ms.ダークライという悲劇を起こした者が現れたんだ、予知はここだと思ってた。
それでもオールフォーワンを倒せたのだから十分だ、そう思った」
そこまでは、ワンフォーオールを継いだ者の使命だ。前を向いて走らなければならなかった。
そこから先は違うと言うように、オールマイトは振り返る。既に渡した自分には、もう何もないと思っていたが……違ったのだと。
「でも君がいた」
たかだが数か月しか過ごしていないが、時間などで絆の大きさは変化しない。変化は互いの想いで変わるのだ。
一般的なら互いの想いが時間を経て大切にするから断ち切れない絆と変わるが、二人の絆は同じ志とその大きさだけでも十分だった。
「君が……小心者で無個性だった君が私に……応えてくれる日々が!その日々が私に生きろと囁いてくれた!」
それを前提にし、成長を求め合い応える日々。オールマイトには振り向けばいくらでも断ち切れない絆はあったのだ。
ただ、視野がワンフォーオールという使命と自らの原点によって視野狭窄に陥っていただけだった。それらから解き放たれた今、身近に見える大切は自らだと気づけていた。
「そして君のお母さんに生きて守り育てろと仰って頂いた!今更足掻くよ!君が変えてくれた!私は生きる!
運命などこの腕で好きな形に捻じ曲げてやるさ!」
「──!」
マッスルフォームに一瞬だけ変化し想いの大きさをオールマイトは後継へと魅せる。オールフォーワンへ告げたケジメはこういうことだった。
緑谷も決意に涙ぐむ。身体は萎みトゥルーフォームに戻るオールマイト、声色はどこか罪悪感があるものだった。
「しかし巡り巡って辿り着けた結論、結局ナイトアイの言った通りになっている。今更合わせる顔が無い……というわけさ……。
おそらく彼の言っていたことは間違いでも何でもなく、あの時引退していれば私がMs.ダークライへ与える影響が少なかった未来へ変わっていたというものだろう……聞き入れなかった未来が今さ」
ナイトアイへとは喧嘩別れし、どんな顔をして会えばいいのかも分からない。ナイトアイからすればオールマイトがもう一度求めてくれば喧嘩したことは呑み込み喜んで応えるだろうが、オールマイトからすれば立つ瀬がない。喧嘩を起こしたのはオールマイトの方なのだから。
「そして話さなかったのは強くなろうとひた走る君の枷になりたくなかった。まぁひょっとしたらもうねじ曲がった後なのかもしれないけどな」
市民の死も、悲劇を避けられてはいない。が、オールマイトは死んでいない。ならばナイトアイが言っていた予知が終わった後か、それとも誰かの手で曲げられて消え去った後なのかもしれない。
だがどれなのか分からない以上、緑谷が……いや、デクが言える言葉はこれだけだった。
「……まだ予知が変わったかなんて分からない。やだよ、オールマイト、絶対に。
僕……っ!あなたに何があっても、僕も一緒に捻じ曲げます!」
「手を煩わせないように頑張るよ」
デクの決意にニコリとオールマイトは笑う。そしてデクから向けられた拳にゴチンと拳をぶつけ、約束だと言わずに伝える。
そこまではオールマイトとナイトアイの確執であり、原因についてだ。が、ナイトアイやオールマイトが言い含んでいたことはまだ話していなかった。
「あとMs.ダークライのことか……ナイトアイが何か言ってたのかい?」
オールマイトはデクに向き合い話す。ナイトアイと確執があるとはいえ、情報を集めるスペシャリストという意味では変わりはないのだ。まして予知にいた可能性があるともなれば知りたくなるのも当然だった。
「……本人と会いまして。オールフォーワンから何か教えてもらったんじゃないか?って。あとナイトアイは予知通りで嫌になるって」
「本人と!?」
まさかの事実に元No.1ヒーローといえど驚く。神出鬼没なのは知っていたが、デクはインターン先で出会ったのだ。そこら中で現れていることもありマークしているとも思い難いタイミングだ。
完全な偶然だったのだが、オールマイトも偶然だと予想した。偶然の思考の一致だった。
「勘が鋭いね……オールフォーワンの行ってた通りに。それにナイトアイは……そうか、そういうことか」
そこでオールマイトは気づく。あの時言っていた変わっていた予知、あれは正しく彼女のことだったのだと。
「きっと私が引退していたら成生少女が次のNo.1になっていたんだろうね。あの時の予知は次のNo.1は確実に現れると言っていた」
「Ms.ダークライがヒーロー側に!?」
オールマイトがあの時引退すれば現れるとはそういうことだ。ヒーローはオールマイトが引退し戦力がガタ落ちするのにヴィランはオールフォーワンは生きている。ヴィランが優勢な時代になるのだ。
そうなれば成生はヒーローになる。社会が求める彼女はその姿なのだから。
「オールフォーワンが言っていたのも裏付けるものだった。成生少女を言うなれば、天秤のような少女だと。ヒーロー側が社会に強くなればヴィラン側に、ヴィラン側が強くなればヒーロー側に行く少女なのだと」
「ってことはNo.1がいなくなればヴィラン側が強くなるから……」
コクリとオールマイトは頷く。デクは単純に気さくな性格をしているヴィランだとしか思っていなかったが、オールマイトの言葉で考え方が変わる。
何せ別の世界ではヒーローのNo.1になっていたと予想される人物だ。難儀な特性を持っており、その揺れ方はヒーローにもヴィランにも傾き得るのだ。
No.1から力を継いだデクだからこそ、ライバル視しなければならない。
「嫌になるというのもきっと相応の性格だったからじゃないか?爆豪少年から彼女は救けることを考えていたと聞いてるよ……自分以上かもってさ」
「かっちゃんが!?」
爆豪が人質になっていた時の状況は警察を経由してオールマイトにも知らされている。どんな会話をしていたのかも知らわれていた。
爆豪がヒーローに向いてないと言ったこと、
そしてオールマイトとは違うと言い切り、その後に自らは力を示したこと。ヒーローの視点を持っているならもっと市民に被害を及ぼすこともできたはずなのに、しなかったこと。
それらが示すことは一つ、被害は出したいが目的以上の被害を齎すことは望んでいない……むしろ忌避するということだ。被害をおおよそ分かる程のヴィランなら、ヒーロー側が助けられるかも分かるはずなのだ。
しかも警察が示した資料はそれを裏付けるもの。被害は出たがMs.ダークライの近くには被害は出ておらず、オールフォーワンレベルのヴィランが暴れたにしてはかなりマシという結論だった。
「違う未来におけるナイトアイが見た納得するNo.1ヒーロー。成生少女がそうだとすれば……今なら理解できるものがある。
何せあれだけの力を持つ少女だ、しかもヒーローに理解があるのであればヒーローになった未来の笑顔や行動も素晴らしいものだろう」
何の憂いもなく行動し人を助け魅了する笑顔を見せるヒーロー。どこにでも現れ、光を示し、力でねじ伏せる姿。No.1ヒーローと呼ぶに相応しいものというイメージは簡単だった。
「でも!あいつは皆を傷つけて!」
「分かってる、今はヴィランだ。……成生少女と話したんだろう?」
今はヒーローの未来は捨てられ、ヴィランとなった。故に消えた未来を考える必要はない。
しかし、消えた未来でもMs.ダークライというヴィランを知るには有用なのだ。例えば……そう、性根はヴィランではないという事実を知れたことだ。
「エリって呼ばれた子を連れてました。触れれば殺されるって」
「やはり本質は優しい側か。警告してくれたんだね?」
「え?あれはたしか忠告って……いや、まさか……」
雰囲気が完全に
深読みするならばそれほど大事な存在だから近づくなよ?という意味にもとれるが、Ms.ダークライが言った意味には含まれていなかった。依光成生には壊理は大事な存在になっているのだが、Ms.ダークライにはそうではないのだ。
「私から成生少女に言えることはそう多くない。だが、戦わなくていいなら避けなさい。話が好きだとも聞いているから……説得が通じる相手のはずだ」
オールマイトもまた戦いは避けるように声に出す。説得が通じるはずだ、それもまたデクがインターン先で聞いた言葉だった。
「ナイトアイじゃないが、彼女についてはまず情報を集め分析するんだ。闇雲に戦ったところで神野の二の舞になるだけ、勝ち目が無い戦いは無謀としか言えない」
皮肉だが、Ms.ダークライにはオールマイトもナイトアイと同じ行動をしていた。力押しが通用せず、話が通じる相手なのだから交渉するという形も同じだった。
次回からはまた不定期(目標としてる目安は2週に1回)に変わります
年内に超常解放戦線まで行きたいけど無理かなぁ……