普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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AIイラストで遊んでたら時間くった。あと普通にちょっと長い

イラストはところどころで使っていく予定


ヒーロー&ヴィランサイド 死穢八斎會突撃まで

 烈怒頼雄斗デビューから数日後、ナイトアイ事務所に2~30人近い人が集まっていた。彼ら全員がプロヒーロー、もしくは雄英生徒であり明らかに大ごとなヴィランへ向けられた対策の集まりだ。

 

「順を追ってお話します」

 

 ゆっくりとナイトアイは話を始める。プロヒーローは既に話を進めていたが、学生達はプロヒーローに話を聞くべくワイワイと話していた。

 今回は(ヴィラン)連合も話に入っており、イレイザーヘッドやグラントリノもこの場にいた。

 

「協力を頼まれたから来たんだ。ざっくりとだが事情も聞いてる……言わなきゃならんこともあるしな」

 

 緑谷と切島を一瞥するイレイザーヘッド。緑谷は心当たりがありグッと息を呑んだが、切島はポカンとしていた。

 何が言いたいのか分からない上に話す様子もない相澤先生に切島はキョロキョロと周りを見渡し、インターン先であるファットガムへ声をかける。

 

「俺置いてけぼりなんすけど……八歳?なんすか?」

「悪いこと考えとるかもしれんから、みんなで煮詰めましょうのお時間や。お前らも十分関係してくるで。烈怒頼雄斗は特にな」

 

 特に関係している。心当たりが無い切島だが、聞こうとするよりも前に全体に通るナイトアイの声が会議室に響いた。

 

「それでは始めて参ります 」

 

 全員が用意された椅子に座る。人数が人数であり、時間をとらせるわけにもいかないと端的にナイトアイは説明していく。

 

「ナイトアイ事務所が指定ヴィラン団体、死穢八斎會を独自に調査開始していました。そして死穢八斎會の調査開始からすぐにヴィラン連合の一人、分倍河原仁……ヴィラン名 トゥワイス との接触。

 尾行を警戒され追跡は叶いませんでしたが。警察に調査協力していただき組織間で何らかの争いがあったことを確認 」

「連合が関わる話ならということで俺や塚内にも声がかかったんだ 」

「それでここに」

 

 グラントリノと緑谷が口を挟み、さらにヴィラン連合の話へ少し脱線する。ヴィラン連合はMs.ダークライの兄弟弟子が筆頭にいる組織だ、無視できるわけもない。死穢八斎會と何かしら組まれたら厄介どころの騒ぎではない。

 ただ今の会議ではさほど重要なことではなかった。

 

「学生がいると話が進まねぇ。本題の”企み”に辿り着く前に日が暮れちまうぜ」

 

 今回の会議では死穢八斎會が企んでいることが本題だ。障害となるヴィランは組織的な動きか悪夢の一人を除いて会議にあげる必要は薄い。

 

「続けて。八斎戒は以前認可されていない薬物の捌きをシノギの一つにしていた疑いがあります。そこでその道に詳しいヒーローに協力を要請しました」

「昔はゴリゴリにそういうのぶっ潰しとりました。そんで先日のレッドライオットデビュー戦までに見たことない種類のものが環に打ち込まれた。

 

 ……個性を壊すクスリ」

 

 部屋がざわつく。ただの一介のヤクザ組織を潰す程度と思っていた者もいたが、ファットガムから齎されたモノは予想以上の劇薬だ。仕方のないことだった。

 

「切島くんが弾いてくれた一発でその中に入っとったもんが分かった。……気色悪いもんやったで

 

 人の血ぃや細胞が入っとった」

「……個性由来ってこと?個性を破壊する個性……」

 

 切島は名指しされたことで照れ隠ししながら笑う。会議はその快活な様子とは真逆とすら言えるほどの重苦しい雰囲気になっていたが。

 

「……検討ついてるんだろ?」

 

 切島以外が眉をひそめるような雰囲気の中、プロヒーローロックロックがナイトアイへ口を開いた。

 数秒の逡巡があった。溜息が一つあった。言いたく無さそうな雰囲気だった。そう示した後、ナイトアイは話さなければならないことを口にした。

 

「治崎には娘がいる。出生届は出ていませんが……先日、接触し偽情報ではないことも確認しています。

 

 そして治崎の個性は「オーバーホール」、物体の分解と修復を可能とする個性です」

 

 追加された簡潔な事実は三つだけ。だがそれだけでプロヒーローは何が行われているか悟れてしまう。これまで起きた事件、使われた弾丸、材料。そして……生成方法。

 考えられる過程が余りにも非人道的であるが故に信じたくないヒーローもいた。が、既に事件が発生している以上認めない訳にもいかない。

 

「まさか……そんな……」

「個性社会だ、あり得ない話じゃない」

「ずいぶんと悍ましいことをやってるな」

 

 沈痛な表情をするプロヒーローと……デクとルミリオン。何が起きているのか分かってしまうがために、Ms.ダークライと遭遇したあの日にしなければならなかったと後悔していた。

 

「えっと……どういう?」

「……学生には早かったんじゃねぇのか?」

 

 ここには切島や麗日もいた。連ねられた事実から察せるほどの能力を持っていない彼らに、ロックロックは会議の面子を一瞥する。

 そして誰も口にしなかった……からこそ、ロックロックは自らそれを言葉にする。

 

「娘の身体を分解して、弾丸の材料にしてるんじゃねぇのか?って話だ」

「「「──!!!」」」

 

 人体実験から始まったであろう武器の売買。それも娘を素材としているという触れたくない悪意と呼ぶべき意志があるヴィランの所業。学生が視るには早すぎる社会の闇だった。だが、早すぎるからこそ宿る感情もあった。

 一足早くそれを見た二人──デクとルミリオンは自らに怒っていた。悪意を目の前にして、助けられなかった事実。誰よりも救けたいと願う二人だからこそ猛烈な怒りを抱いていたのだった。

 

「こいつらが娘を保護していれば解決だったんじゃねーか?」

「責任は全て私に在ります。知らなかったこととはいえ……二人ともその娘を助けようと行動したのです。

 デクはリスクを背負いその場で保護しようとし、ルミリオンは先を考え……確実に保護できるように。今この場で一番悔しいのは、この二人です」

 

 憤慨する二人は立ち上がる。人を救けることに最も高い価値を持つ彼らは、目の前で救けられなかった事実は捨て置けるものではない。

 

「「今度こそ必ずエリちゃんを保護する!!」」

 会議室全体に響く声。ナイトアイはほんの一瞬だけ間を置き、集まった面々にやるべきことを告げた。

 

「これが私たちの目的になります」

 

 単純明快極まりない目標。だが障害が多過ぎるからこそヒーローは数を集めて打倒する。まさしくヒーローとヴィランの組織同士の戦いだった。

 

■■■

 

「推測通りだとしてそのガキは若頭が隠しておきたかった核なんだろ?それが何らかのトラブルで外に出ちまった!あまつさえヒーローに見られた!

 素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない……どこにいるか特定できんのか?」

 

 目的を告げたナイトアイだが当然疑問が大量に残っている。これから先何をするのか、どうやって解決するのか、障害はどういったヴィランがいると分かっているのか。確認すべき項目は多い。

 

 だがそれら全てを差し置いても話さなければならないことがあった。たった一人の障害のことを。

 

「問題はそこであり……そしてそこに最大の障害があることこそが課題になります」

「……見つからないってこと?」

 

 最大の課題と問われ疑問をリューキュウが零すも、ナイトアイは首を横に振った。特定ができない訳ではない、だというのに最大の障害がある。何かがあると理解するのにプロヒーローには1秒もいらなかった。

 

「エリと呼ばれる少女の傍らには一人、ボディーガードがいます」

 

 しかしナイトアイの言葉は要領を得ないものだった。まるでたった一人に誰も敵わないとでも判断しているようであり、その一人が誰なのか知らないヒーローからすれば滑稽にすら思えたことだろう。

 もっとも、回答を聞いたら判断は正常だと誰もが納得するものだった。

 

「こちとらプロヒーローだぜ?数も集めてるのに一人で何とかなるってのか?」

「……それがあの強大なヴィラン、Ms.ダークライなのです」

 

 会議に参加していた全員の目が見開く。ナイトアイが集めた面子ではあるが、戦闘力という意味であればオールマイトやエンデヴァー達トップヒーロークラスではない。情報収集と一介のヴィラン組織と相対できる程度のものでしかないのだ。

 だというのに神野で伝説のヴィランとヒーローを一蹴した新星ヴィランが警護に付いているともなれば、勝ち目など無きに等しい。

 

「……本当なの、それ」

「間違いありません。それは実際に対峙した二人が証明してくれています。だからこそその場で保護が難しかったということもあるのです」

 

 デクとルミリオンに向けられていた視線がさっきまでのものとは180度違うものに変わる。彼女と敵対しながらも情報を集め、帰ってこれているのだ。賞賛こそあれどイキがっているガキと見る人はいなくなっていた。

 そして同時に最大の障害というのにも納得がいっていた。最強のヴィランの名を欲しいままにし、どこにでも現れる個性すら持っている。戦いと逃走という意味であればこれ以上ないボディーガードだった。

 

「が、彼女であるがゆえにエリが本拠地にいる可能性が最も高い。各地にワープし現れる彼女なら連れて逃げる事さえ容易。ですが念のため他の拠点が確実に彼らのアジトであるかの確認を含め、探ってほしいのです」

「この場所……土地勘のある俺達が呼ばれたのも納得。だが……相手がMs.ダークライとなれば話は変わってくるぞ」

 

 集められたヒーローは拠点を探るための要員。そこまでは分かるものの突如として現れるMs.ダークライであれば逆に襲撃される可能性も出てくる。返り討ちなど容易に想像がつく。

 しかし戦力差があると分かっていながらもナイトアイはプロヒーローをこれだけしか集めなかった。その意図が読み切れず困惑の色が会議室に蔓延し始めていた。

 

「こうしてる間にエリちゃん泣いてるのかもしれんのやぞ?」

 

 ファットガムならもっと怒っていてもおかしくない話だというのに、時間がないと冷静に口にしていた。相手が相手なのだ、武闘派な彼であれど完全な戦闘状態になればどう足掻いても負けるのは必至。

 集めた面々と言い、ナイトアイの対策が話されていないのだ。早くMs.ダークライの対策ともなるそれを話して欲しかった。

 

「我々はオールマイトにはなれない、ましてや今回はそのオールマイトさえ破ったヴィランと相対しなければならない!」

 

 オールマイトであればMs.ダークライのいないタイミングを図って即座に救出といった真似ができたのは間違いない。いくらボディーガードでも先日のように離れることがあるのだ、可能性は十分にある。

 ただここにいるのは物理的にオールマイトよりも動きが遅いものばかりだ。どうしようもないのは事実だった。

 

 空気が重くなりかけるところで、イレイザーヘッドが手を挙げた。表情は他の面子と比べればいつも通りなものだ。

 

「予知はどうなんですか?」

「それは……極一部を除き期待できない」

 

 ナイトアイの個性は知られている。情報アドバンテージは他のプロヒーローと比べても頭がいくつか抜けており頼るのも悪く無い判断だ。

 が、ナイトアイはその個性でさえほぼ使い物にならないと告げる……その理由も。

 

「というのもMs.ダークライというヴィラン、彼女だけは私の予知でも追い切れない存在なのです」

 

 本来ならあり得ない個性の挙動。ナイトアイが苦心している理由そのものだった。

 予知が真っ黒になって見えないなら分かるのだ、それは予知した人が死んだということだ。しかしMs.ダークライに限っては違う。

 彼女に関わるものの予知を見ると毎回変わっているのだ。まるで好き勝手に未来を変えられているかのように。

 

 そしてそれは……皮肉ながらもナイトアイに自らの個性について理解させるのに一役買っていた。

 

「彼女は行動が不明……つまり気まぐれに行動していると言える」

「そんなんで予知って破れるもんなんか?」

「もちろん不可能です。あのオールマイトですら不可能でした」

 

 ファットガムの疑問も当然だ。何より、これまで前例がいなかった。

 予知は変えられない……はずだった。ナイトアイが最も信頼しているNo.1ヒーローですらできなかった。

 

 だがそうではない。予知は変えられる、形がどんなものになるかは別だが変えられるのだ。

 

「予知を変える事、ですか。それがオールマイトにはできなかった」

「条件は確定できていませんがおそらくの予想だけはあります」

 

 もちろん例外中の例外が相手だ。だからこそMs.ダークライの情報を集めなければならなかった。ヒーロー業務すら3割近く放り投げる程にMs.ダークライの調査をしていたのだ。

 そしてナイトアイは理解したのだ、Ms.ダークライはヴィランではない──否、ヴィランと呼ぶしかない社会に発達しているのだと。

 

 故にヴィランと呼ぶしかないが、本質はヴィランではない。そしてもう一つ……行動がフラフラしていることだ。正確には神野以後の話であり、神野までは明らかに目立つための下準備といった様子だった。

 しかし神野以後のフラつきぶりはヒーローでも、ヴィランでもそうそうあり得ない行動なのだが、長年の経験から心当たりが無い訳ではなかった。

 

 そして調査して数日していた夜、ナイトアイは心当たりにハッと気づいた。もしや原点が分かっていないか、ないのか、無くなったのか。であれば納得がいくのだ。原点を見失ったヒーローなら、まさしくあんなふらつきを見せてもおかしくない。

 

「……それは?」

「社会を個人で変える程の力を有していること。そして……自らの原点が不明瞭であること」

「……なるほど」

 

 イレイザーヘッドや他のプロヒーローもなるほどと頷く。ある意味で分かりやすい結論だった。

 

「揺さぶられやすい人間性でありながら、武力だけは突出し過ぎている。そういうことですか」

 

 イレイザーヘッドが性格や能力を声に出し、ナイトアイもコクリと頷く。

 そんな中、ファットガムは首を傾げていた。出された言葉が理解できない訳ではなかったが、腑に落ちないものがあったのだ。

 

「……烈怒頼雄斗のファンや言うてたで?」

「「「え?」」」

 

 ヒーローのファンが憧れてヒーローになるというのはよくある話だ。ナイトアイ自身がそれを証明するだろうし、緑谷や……なんなら切島だってそうだ。

 憧れはブレない軸を構成する一端になる。ファットガムにはMs.ダークライが揺さぶられやすいというのもどこか違う気がしていた。

 

「成生は、前に会った時からそう言ってた……あ、言ってました」

 

 切島も目を伏せながら真面目な表情で口に出す。他の面々とは違い名前で呼んでいたが、Ms.ダークライの本名を知らないプロヒーローはいない。

 A組関係で察しのいい相澤や蛙吹だけは珍しい切島の様子に何かを勘づいてはいた。同時に今ここで口に出すことでは無いと合理的判断を下していた。

 

「まぁいつ会ったかは聞かんとく。……向こうにMs.ダークライがおるから呼んだんか?」

「その情報がHN(ヒーローネットワーク)に流れたからです。なので必要であると判断し呼びました」

 

 烈怒頼雄斗デビュー戦で得られた情報は既にHNにあげられている。確実な情報だけがあげられていたため、Ms.ダークライと名乗る者が現れたことと、相応の圧力を持っていたこと、そして彼女が烈怒頼雄斗のファンだと言っていたことくらいだった。

 神出鬼没のため情報が怪しく、今回も怪しいものだと思う者も多かった。そう思わなかったのは実際に会ったことのない者達だけだったが。A組の面子は会ったこともあり、あり得る話だと思っていた。

 

「予知をほいほい変えられていますが、緑谷の予知を行った時、かなり鮮明に近くなっていました。変えられない訳ではないが、変えたくないというように」

「切島くんに近いから、言うことか。ってことは極一部の人間言うのは」

「彼と彼に親しい者、と考えています」

 

 Ms.ダークライと相対する場合は必ず烈怒頼雄斗の予知をしなければならない。プロヒーローには言いたいことが分かっていたが、A組の面々には分かっていなかった。

 それだけの重要人物になっているのだが、切島も緑谷も目的は違えど成生と話さないといけないという考えでありそれ以上の考えはなかった。

 

「なら切島くんの予知すればええんやないか?」

「先に話を少し進めてからでお願いします」

 

 ファットガムも分かっていたが、ナイトアイはまだ話すべきことがあると零す。何も脅威はMs.ダークライだけではないのだ。Ms.ダークライはボディーガードであり、雇い主がいる。

 

「しかしそれで全て解決できるとは思えない。何より、Ms.ダークライだけが矢面に出て来るとは到底思えない。

 Ms.ダークライがもし出てこない場合、死穢八斎會と相対しなければならない」

「ボディーガード言うとるのにか?」

「Ms.ダークライと相対した二人の証言では、エリを直接奪うなら敵対するというものでした。そして……奪われること自体は別に気にしてはいない様子だとも」

 

 Ms.ダークライと死穢八斎會で繋がりがあるのは間違いない。だがその繋がりが何かがまるで分からない。エリによって繋がっていると言えばそうなのだが、それ以外がまるで見えないのだ。

 そこさえ断ち切られてしまえばMs.ダークライと戦う理由は無い。そしてMs.ダークライは目的さえ果たせればヒーローと戦う性格ではないことは分かっている。

 

 だからこそナイトアイは逆に戦力を抑えたのだ。戦力を揃えれば戦う気を示してしまう、そうなれば向こうも戦闘態勢に入ってしまい、その先は敗北だ。

 ならば戦力を抑えMs.ダークライと敵対する意思は無いと示し、死穢八斎會とMs.ダークライの繋がりを断つ。それこそが狙いだった。

 

「……死穢八斎會がエリを利用している中心であり彼らを捕まえると?」

「実際に調査した限り、Ms.ダークライと思われる少女はエリを時折外出させているようです。本来なら大事極まりない少女であるのにそんな真似をさせるとは思えない」

「Ms.ダークライの実力だからじゃねぇのか?」

「それもあると思います。が、Ms.ダークライからすればエリは逃げても問題ない相手。そう考えるのが無難かと」

「じゃあ何で逃がしてない?」

「二人の証言ですが、保護するなら別に渡しても構わない。そんな様子だったらしいです」

「……死穢八斎會から逃がすのがMs.ダークライ(ヒーロー)ってか。笑えない冗談だぜ」

 

 プロヒーローがようやくナイトアイの狙いを察し疑問をぶつけていく。必要となる情報はMs.ダークライの性格と死穢八斎會、そしてエリの繋がりだ。

 死穢八斎會とエリの繋がりはだいたい予想がつく。希少な個性だから捕まった一般人の子供とヴィラン組織だ。あとはMs.ダークライとそれぞれの関係を把握できればこちらの行動も自ずと決まる。

 

「ただMs.ダークライのこれまでの行動と一貫してはいます。彼女の行動は善ではないが善に近い人物を善へ蹴り落とす」

「真逆が大半だがな」

 

 Ms.ダークライの動きに変わりはない。結論はそれだと言いながら、やはり信用が薄いとリューキュウは声を出した。

 

 

「……かなり願望的予測じゃない?Ms.ダークライがいるのに戦わないことを前提にした作戦なんて」

 

 

 当然の疑問だった。戦えば即敗北のスイッチが常にあるようなものであり、押されないように戦うといっても限度がある。

 ナイトアイはふぅと一つ息を吐き、切島の方へと顔を向けた。

 

「仕方ない……切島くん、こちらを向いてくれるか?」

「あ、はい」

 

 後でやるといっていた予知、切島へ視線を合わせ個性を発動する。一秒とかからない個性の発動だったが、それだけで十分な程に未来の時間を見ていた。

 

「……そうだったな。最近見えなかったことが多いが、こんな風に見えるものだった」

 

 ふぅーと長く息を吐き、未来が見えたのだと周囲に言葉を漏らす。

 

「Ms.ダークライと死穢八斎會は()()()別です。エリはMs.ダークライの傍にいますが、直接手を出さない限り手を出してきません」

 

 繋がりはエリ。そこさえ何とか出来れば死穢八斎會とMs.ダークライは別たれ、Ms.ダークライとは敵対しなくなる。そしてエリはボディーガードがMs.ダークライとはいえ死穢八斎會の監視下にもある。

 すなわち、死穢八斎會を逮捕できればいい。Ms.ダークライからエリを確保するのはその後でいい。

 

 そこまで分かったところでようやく会議室の雰囲気が明るくなり始める。希望が皆無だったのを理屈をこねくり回して希望に見せかけていたのが、正しく成立したのだ。文字通り光明が見えたと言ってよかった。

 

「なら最終目標はMs.ダークライから保護することか?」

「そこから先は見えませんでした。最終目標はそうなりますが……彼女の行動からして神野のようなことは無いかと」

「何故言い切れる?」

「完全に別なら、まず確実に死穢八斎會のメンバー全員を我々にぶつける筈です。搦め手を使える彼女なら間違いなくそうする。

 そして死穢八斎會が確保できたならエリも必要ない」

「奴のプライドが許すと思うか?」

 

 ナイトアイは黙る。予知で分からなかった範囲であり、本人の行動から測れる性格からも分からない範囲の箇所だ。分かれば対策を打つのが非常に簡単になるのだが、今は分からない。

 けれど分かることもある。プライドが高いなら予知も反応するはずなのだ。それが無いとなれば、Ms.ダークライ自身分かっていない可能性が高い。

 

「……おそらくそれが分からないから、予知が反応しないのでしょう」

「出たとこ勝負って訳か」

 

 死穢八斎會の監視を破壊した後、Ms.ダークライと対峙する時から先は分からない。Ms.ダークライの性格で全てが決まる。

 けれどそこまで行けばエリの身柄確保ができていることも意味している。目標は達成できるとも言えるのだった。何せ彼女がエリを傷つけることは無いと行動から分かっているのだから。

 

「幸い直接手を出さなければ向こうも手を出さないとは分かっています。なので最終目標はそこに置きます」

「Ms.ダークライがエリを奪う可能性は?」

「それは二人の証言からしてあり得ません。どうやら彼女が行っていたのはエリの個性の習熟だったようです」

 

 リューキュウの目つきが鋭くなる。あのMs.ダークライがそんなことを行っているとなれば想像以上にエリの身柄確保が難しい可能性あると見れる。疑問に思うのも当然だ。

 

「……どういうこと?」

「エリの個性は人を容易に殺せる個性のようです。それをMs.ダークライが制御させようとしている」

「ホント、敵か味方か分からないって厄介ね」

 

 敵なのは分かっているが、味方する行為も行っている。エリを確保してもエリにヒーローが殺されたら意味が無いのだ。

 それを考えれば、Ms.ダークライはエリにヒーローを殺させないように動いている。そこだけを切り取れば潜り込んでいる味方と思ってもおかしくない。

 

「だからこそ予知も反応しない。そしてMs.ダークライが行っている行動からして最後は捨てる可能性が高い。

 何せ彼女が行っているのは基本的に『明確にヴィランかそうでないのか誘惑して示させる行為』でありそれ以上は何もしない」

 

 結局のところこれだ。彼女は善寄りの人にはヒーローと大差ない行為をする。そして逆に悪寄りの人にはヴィランに寄せるという大物ヴィランの行為をする。

 今回は前者だからヒーローに近いのだが、どのタイミングでヴィラン側になるのか分からない。今回の関係性はその線引きが最も重要なのだ、一歩間違えれば全滅すると確信すらある、故に判断が途轍もなく重要になる。線引きで撤退するために。

 

「だから逆に行動を止めて捨てさせるのを待つ訳か」

「ご名答です」

 

 ヒーローでもヴィランでもないタイミング、そこに辿り着ければ敵対しない。切島がいれば話はまた変わるかもしれないが、狙いはそこにある。

 

「それでもまずは確実にエリの居場所とワープする可能性のある場所を確定させなければなりません。ご協力を、お願いします」

 

 狙う場所に辿り着くため、ヒーロー達は動き出す。予知を好き勝手に変える悪夢から、未来を勝ち取るために。

 

 ■■■

 

 数日後、デパートにある玩具売り場に二人の姿があった。一人はスーツ姿のヒーロー、ナイトアイ。そしてもう一人は……依光成生だった。

 

「おや、こんなところで奇遇ですね。予知ですか?」

「……冗談だろうと驚きたいところだ、今さっき変わった予知であり事実上の偶然。私が予知した時は死穢八斎會の誰かが来るはずだった」

 

 予知を利用し死穢八斎會のメンバーまで辿り着き、そこから予知を行うことでえりの居場所を特定しようと試みたナイトアイ。その方法は間違っておらず……ただ、予知の外からやってくる気まぐれがいただけだった。

 警戒するナイトアイにクスクスと笑う成生。成生からすればただなんとなくで直感し行動する時が多く、その大概が本人の希望以上の結果が出るため動いているだけだ。もちろん直感に従わずに行動する時もあり、予知が外れるのはこれを好き勝手に決めるからだ。

 プロヒーローの原点すら軽く凌駕し社会を簡単に動かせる存在がライブ感で生きている、予知が当たるはずもない。

 

「残念でしたね……まぁでも私もあなたには聞きたいことがありましたし、お茶でもしましょうか」

「断りたいが?」

「レディのお誘いを断る男は嫌われますよ?」

 

 ユーモアの気配を感じ取るナイトアイ。話してみたかったこともあり、自分自身に利敵行為ではないと言い聞かせる。

 

「……仕方ないか」

「あ、盗聴は無しでお願いしますね。今は切島くんには会うのは尚早ですし……プロヒーローなら呼んでもいいですよ」

「そんなに気に入っているのか?」

「ファンですから」

 

 今度は年頃の少女のように可愛らしい笑顔を見せる。Ms.ダークライではないが、さっきまでのどこかヴィランのような雰囲気をしているようにも見える少女から一瞬で切り替わっていた。

 もしこの表情をしていればヴィランには思えないだろう。熟練のプロヒーローであるナイトアイでさえそう思えた。同い年のヒーローの卵なら迷うのも当然と、ナイトアイは烈怒頼雄斗に同情する。

 

 場所を移し、近くにあったカフェへと移動する。ナイトアイはブラックコーヒーを、成生はカフェオレを頼み、届き一口飲んだ後に話は始まった。

 

「さて、聞きたいこととは?」

「あなたがデクのインターン先ですよね?」

「調べれば分かることを聞くか?」

「確認は大事です」

 

 ユーモアだけでなくきちんとした対応もする。もしこれがヒーロー側であったらどれだけ助かる人材だっただろうと逡巡する。

 しかしナイトアイは目の前の少女がヴィランであると知っている。それも狡猾なヴィランなのだと。

 

「その通りだ。お前との話も聞いている」

「なら話は早いですね。あなた達の目標とする少女、壊理は私が確保しています」

 

 ピリ……と緊張の糸が張られた。確保しなければならない少女を奪われたヒーローという構図ともなれば、一触即発にもなる。

 

「……どうにかする気か?」

「いや?むしろ助かっているのですよ。私の子供と友達になって仲良くしてるものですから」

 

 コップに一口つけ、成生は特に何ということでもないと話を続ける。成生からすれば保護しているがそれだけなのだ。成生に隠されていた個性と特性は壊理以上の価値であり、境遇という意味では理解できるものはある。情も移っている……が、正しい道に戻るのは目に見えている。ならばそこから先に口を出すつもりは毛頭なかった。

 

 逆に情が完全に移り、壊理を離したくないのはこの場にいない電花だった。初めてできた友達なのだ、離れたくないのは誰であっても同じことだ。

 

「電花と奪姫と呼ばれていた子供たちか」

「ええ、ただ……友達だから引き離されたくないのは当然ですよね」

「親ならそういうこともあると教えるべきだろう」

「ヒーロー()()そうですね」

 

 ヒーローなら。そこに引っ掛かった言い方にナイトアイは憤りを持つも、コーヒーを一口飲み、感情諸共吞み込む。

 揺さぶられ合いなのだ。ここで先に用件も話し終わらず立ち上がるのは自らが格下と認めることに等しい。オールマイトの元サイドキックであるナイトアイがその選択をとれるはずもなかった。

 

「私はあの子をこれ以上どうにかする気はないですが……私の子供たちはそれを許しません」

「敵対するなら子供たちだと言いたいのか?」

「ええ。私からすれば切島くんの方へ応援しに行きたいくらいですよ。もうあそこに用事はないのです」

 

 死穢八斎會など最早どうでもいいという言い方にナイトアイは少しだけ遠い目をする。

 オールマイトから見たプロヒーローは置いてけぼりにされることが多い。教師になった後も通り道にヴィランが出たらプロヒーローよりも圧倒的な速度で鎮圧するということは起きており、ナイトアイと組んでいた時などさらに多かった。

 そしてその時、オールマイトは振り向かなかった。どんな表情をしていたのかは分かっているが……もしヴィラン側に似た存在がいたのなら、こんな顔をしていたのかもしれない。

 

 コーヒーを一口飲み、自らが作った数秒の沈黙をナイトアイは破る。屈辱だと分かっていても、個人的にやらねばならないことがあった。

 

「……一つ願いたい」

「ヒーローがヴィランにお願いですか、正気です?」

「お前が私の予知を悉く邪魔しているものでな」

 

 ケチをつけるナイトアイに成生は苦笑する。ヒーローの邪魔をするのがヴィランだ。ナイトアイという情報系の個性ではトップクラスに厄介なヒーローをこれでもかと邪魔しているのは痛快ですらある。

 が、ヒーローを追うファンという意味では成生にも理解できるものがあるのだ。高笑いすることはできなかった。

 

 そしてできればと、予知を使えれば知りたいこともあった。

 

「……まぁオールマイトを引退させたのは私ですし、ファンに申し訳ないという罪悪感があるのも事実。あなたの個性も分かっていますし、構いませんよ。

 何より私の目的もそれでしたし」

「何か知りたいことでもあるのか?」

「ええ。機会ができたらと思っていたのですが、私の未来は私にも分からないということを知りたいので」

 

 成生本人の原点はほぼ達成されている。今やMs.ダークライとしての行動もルーティンという訳でもなく、面白そうな状況かどうかと気分次第だ。個人能力は十分であり、子供たちという数の戦力も十分以上に持っている。

 しかし成生は自分自身の未来など考えもしなかった。デビュタントまでは色々考えていたのだが、能力が想像以上に強くなっており考える必要も無くなってきたのだ。

 だから知りたかった、考えたことも無い未来が自分には存在するのかと。

 

 差し出された左手をナイトアイはそっと右手で──触れる必要はないのだが雰囲気に呑まれて触れる。予知が発動し……ナイトアイの表情は暗くなった。

 

「……これは、どういうことだ?」

「何か分かりましたか?」

 

 興味はあるがそこまでももないという表情で淡々と口にする成生。ナイトアイの暗くなった顔にも半ば興味は無さそうですらあった。

 

「お前の言う通り、少し先……我々とお前の子供たちがぶつかる未来までしか見えない。それ以上先は、分からない」

「でしょうね、おおよそ予想通りなことです」

 

 ふぅと息を吐く成生の姿はどこか諦めすら持っていた。

 ナイトアイは感情を読める訳ではないが、長年のヒーローの経験はある。それが察させる感情は──諦めが4割程と、変わらず進み続ける決意が6割だった。

 

「なぜそう思った?」

「未来などその時に生きる自らの手で変えるものですよ。それが後悔することになろうとも、振り返ってはいけない」

「なるほどな、お前でも親殺しには後悔しているということか」

 

 ナイトアイの体感で一瞬だけ、成生の瞳が泳いだように見えた。既に成生が増強系の個性を使っていることはヒーローには解析されている……それが非常に強力なことと、速度に特化したものであることも。

 神野の一件で分かったことだった。何せオールフォーワンに速度でついていっていたのだ、言い換えればオールマイトの速度にも追いつけることを意味する。惑わされず理解しようとすれば自然と分かることだった。

 

 だというのに増強系でも何でもないナイトアイに動揺が見えた。成生の精神が揺れたことの分かりやすい証左だった。

 

「流石にバレますか。オールマイトのサイドキックであれば諜報能力も素晴らしい」

「お前に褒められても嬉しくもない」

 

 とはいえMs.ダークライだ。動揺も一瞬であり、余裕を見せた表情に変わりコップに口をつけていた。

 

「私からはそれだけですね。あなたは?」

「聞きたいことはいくつもあるが……お前の目的は何だ。目立ちたがりなのは分かっている、だがそれもオールマイトを倒したことで実質的に果たされたはずだろう。

 やってることも巨悪らしからぬ行為。それにヴィラン連合との連携も怪しいときた。何がしたいのかさっぱり分からない」

 

 何がしたいのか、成生はその言葉にコップを置いて窓の外を見上げる。晴れた空は、既にやることは終わった後の未来のようにも見えていた。

 

 成生が成し遂げたかったのは誰よりも目立つこと。そしてそれはオールマイトとオールフォーワンをほぼ同時に倒したこと、どこにでも現れる個性を示したことでほぼ達成されたと言っていい。

 何せ伝説のヒーローとヴィランですら勝てなかった新星ヴィランだ。話題性も力も十分に示され被害は増加の一途。一般市民がヒーロー(オールマイト)がいれば、などという言葉で誤魔化すことさえ許さない。

 

 Ms.ダークライという名前が時代を作れるとさえ言っても過言ではないのだ。もっとも肝心の成生はそんなことやる気はなかったが。

 

 目的を終えたヴィラン、今の成生はそんな状況なのだ。暴れたりオールフォーワンみたいに支配したりするのがヴィランとして正しい姿なのだろう。しかし成生には烈怒頼雄斗という応援したいヒーローがいるのだ、好き放題暴れたら殺しかねない。

 故に、それらの目的を排除した後に残ったものから漏れ出る感情に従うだけだった。

 

「何がしたいのか……ですか。立てていた計画も私の能力が想像以上だったために必要もなくなった。最も目立つ存在になるというのも事実上達成されたと言っていい。

 だから……残っているのは第二の私を作らないこと、ですかね」

「第二の、お前?」

「ヴィランになるのは簡単だよ、そう言いたいだけです。思い詰めたもの、追い詰められた者程強大なヴィランになります」

「ならばヒーローが救うのが正道だろう」

「私はなれなかったですね。目立ちたいという目的のためにオールマイトを倒さなければならなかったからというのもありますが、個性がヒーローに向いていなかったからというのもありますよ」

「だからヴィランになれというのか?」

 

 かつて爆豪に言った言葉の逆。性格がヒーローになれるものであっても、個性がヒーローに向いていない。だからこそ真逆の爆豪を気に入らなかった。個性がヒーローになれるものであっても、性格がヒーローに向いてない者だったから。

 

 

「個性とはその人そのもの。個性がヒーローに向いていないのにヒーロー社会を生きろなど、随分と酷なことを言うのね」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 諦めにも近い哀しい瞳をした成生が、ナイトアイへ向けられていた。

 ナイトアイはまるで別次元にいる堕ちたオールマイトのようにも感じ取っていた。常に人助けに走り続けてきた、個性も持たなかった人……オールマイト。どれにも属せる性格であり人助けといった方向も嫌いではないにもかかわらず、個性がそれを許さないMs.ダークライ。まるで個性の強力さが自らの信念と反比例しているようだ。

 言うなれば何もかも諦めたオールマイト、今の彼女から感じ取った印象はそんなものだった。

 

「それが、社会というのものだ」

「だから私はヴィランになった」

 

 見ていられない、目を逸らしたナイトアイは誤魔化すように口にする。だが成生の視線は変わらず向けられていた。

 

「ヒーロー社会でヒーローになりたいと思うのは普通でしょう。けれどヒーロー向きじゃないどころか使えば真逆の方向の結果をもたらす個性を持つならヒーローになれない。憧れと意志だけでは到達できない境遇がある」

「だが力だけはある、と。ヴィジランテではダメだったのか?」

「結果が真逆といったでしょう。助けようとして人を殺すなら最初から何もするなと言います。ただ個性があるのに使わず何もできないのは苦しい者も多い、そんな人には手を差し伸べるだけですよ」

 

 根本がヒーローに向いている。ナイトアイ自身そう評したが、まさかそんな形で手を差し伸べるとは考えもしていなかった。

 個性とは人そのものと彼女は言った。ヒーロー社会に向いてない(個性)は辛い、言いたいことは分かる。そして個性と行動が合ってないものには救いを……これも分かる。

 だからこそヒーロー社会に向いてない者…つまりはヴィランの見込みがある者はヴィランへ。そして個性が合ってないものには向くべき方向を……すなわちヒーローの方向へ向かわせようとする。Ms.ダークライが行ってきた行動原理としては分かりやすいことこの上ない。

 

 根本がヒーローなのに、ヴィランになったからこそ行っている行為。ナイトアイにはそう言う他なかった。

 

「憧れも意志も置き去りにしてきた、力だけの存在に向かってきなさい。私は都合上ヒーローになれなかったからヴィランになっただけ。その研鑽も向上心もヒーローと変わらない。ヒーローと違うのはヒーロー側に救けることではなくヴィラン側に救けることだけ。

 ヴィラン寄りの者にとってのヴィランに救うもの(ヒーロー)、それが今の(Ms.ダークライ)よ」

 

 ヴィランにはヴィランらしい救い方がある。それはヒーローは受けいれてはならないものであり……理解できるものだった。

 

「なるほど、よく分かった。……相容れない存在だということがな」

 

 そして同時に──哀しい現実であることも。

 

「ヴィランとヒーローなのだから当たり前でしょうに。では失礼」

「待て、最後に一つ聞かせろ」

 

 俯き暗い表情をするナイトアイを横目に立ち上がり、微笑んで立ち去ろうとする成生。二人の会話が終わった跡だけ見れば、負けたのはどちらか明白だった。

 

「お前にとっての、悪は誰だ」

「言ったでしょう、私は力だけの存在だと。そこに善も悪もない。行動の善悪を決めるのはあなた達社会側、そして突出し過ぎた力を持つ個人は悪扱い。……私個人から見た悪なら私しかいないでしょう、そうあれと行動しているのですから」

 

 立ち去っていく成生。ナイトアイが俯き伏せていた顔の下は、沈痛なものが隠れていた。

 

「予知した別の世界ではNo.1のヒーロー、か……心根が優しいというのも間違ってなかった。力は十分過ぎ、ユーモアも少し磨くだけで十分あるのは目に見える。

 ただ……何が悪かったのだろうな、オールマイト」

 

 あの時オールマイトが引退していれば間違いなくヒーローになった、それもNo.1になったであろう少女。しかも素養だけはそのままに持っている少女だ。

 だからこそMs.ダークライになったのも分かってしまう。ヒーローとして救う者としてNo.1がおり、影響力も十分にあるオールマイトがいればヒーロー側から救う者はいらない……そして逆側はいない。まさしくオールフォーワンが言った通り、オールマイトがいるからヴィランになったとしか言いようがない。

 

 成生の言葉の意味が全て理解できたからこそ、ナイトアイはただ哀しむことしかできなかった。

 

■■■

 

 ナイトアイが成生と話した二日後、情報を共有するためメンバーは再びナイトアイ事務所に集められていた。告げられた事実が、予想通りだったからこそ困る反応でもあった。

 

「本拠地にいるうぅ!?」

 

 ナイトアイから告げられたエリの居場所は本拠地。ボディーガードにMs.ダークライがいるのだから戦力という意味であれば予想通りの場所だった。

 しかしナイトアイがなぜその情報を得られたのか、そちらは集まった面々からすれば予想を超えたものだった。

 

「Ms.ダークライと接触、予知しました」

「「「!!??」」」

 

 まさかの当人から聞いた情報であり、それも予知が終わっているというものだ。本人情報でも嘘の可能性があり得るが、予知をしたとなればそれも無い。確実性は十分なものだ。そしてついでに他の情報も得て来ていた。

 

「本来なら死穢八斎會の別のメンバーに遭遇し予知する予定でしたが、奴が割り込んできました」

「その結果が本拠地にいると?」

「ついでに奴自身は敵対する気はないとも……代わりに奴の子供たちが相手にするとも言ってました」

「子供たち?」

 

 Ms.ダークライの子供たち。戦闘能力までは聞いてないが、わざわざMs.ダークライが口にしたのだ。プロヒーローすら凌駕する戦闘力を持つ程度はあると見るべきとナイトアイは見ていた。

 が、ここには一度会った者もいた。力の片鱗だけ見たこともある、ファットガム事務所の者達が。

 

「電花と奪姫言う子や。小学生と中学生くらいやったな、エリいう子と友達なんか?」

「そう言ってました。友達だから奪われるくらいなら戦う、敵対するのは子供たちだと」

「……やりづらいな」

 

 イレイザーヘッドの言葉にA組の面子は頷く。無理やり友達を引き離すような真似だ、ヒーローがやるような行為とはかけ離れてすらいる。相手がヴィランでなければ、戦いすら拒否しかねなかっただろう。

 だが躊躇いは自らの危険を呼び込むことになる。ナイトアイはそれを示すためにPCの動画をプロジェクターに示した。

 

「身体能力が尋常ではなく高いことは確認されています。これを」

 

 民間で流れていた動画だった。二人の子供が大阪の100mは超えるタワーから跳び、空を駆けていく姿を収めていた。驚くべくは何も無い宙を踏み込んで飛び跳ねているところだ。

 まるでオールマイトのようなそれであり、プロヒーローでもできるものは探さなければいない力だった。

 

「子供が……!これを!?」

 

 真っ先に驚いたのは緑谷。オールマイトの後継であり、空気砲を使うことで空を駆ける可能性には頭の中では到達していた。だがまだ到達できていない領域であり、動画の子供が可能にしているのは成長性が恐ろしくずば抜けているのだと分かってしまう。

 

「増強系の個性だな。しかも自在に方向転換とはセンスも飛びぬけてる」

「……いや、多分それだけちゃうで」

 

 ロックロックの言葉にファットガムが一部否定をする。一度会ったからこそ、ここに載っていないことを知っていた。

 

「小学生くらいの子、降りてきてすぐに透明になっとったMs.ダークライを見つけてんのやけど……あれは勘とかじゃなかったわ」

「素の身体能力でこれ、もしくは複数の個性を持っているってこと!?」

 

 冷静なリューキュウですら驚愕する事実。ファットガムの予想が本当であれば二人だけでも無視できない……どころか最も危険視しなければならない相手になる。

 

「少なくともこれが二人、向こうの戦力に加わる。予定外の戦力ですがMs.ダークライ本人が来るよりかは遥かにマシです。なんなら本人が戦わないと半ば明言してくれており、予知も示している」

 

 Ms.ダークライの参戦という最も絶望的な状況は回避できたものの、新たに強大な相手が二人増えたとなると話は少し変わる。

 戦力が足りない可能性が出てくる。プロヒーローの数があるとはいえ増えた二人分は対策できる戦力を超過しかねないのだ。だがこれ以上戦力を増やすとMs.ダークライの気分が変わり参戦されてもおかしくない。

 何より、予知ではそこまで含めて人数的に問題は無かった。予知を変えられると分かってしまったからこそ、判断に難しいところだった。

 

「Ms.ダークライの最も危険な攻撃は超広範囲攻撃。二次被害、三次被害を考える必要が薄れたと考えればマシですね。少なくとも周囲への被害を抑えられる」

 

 イレイザーヘッドの合理的な言葉にナイトアイの思考も冷静に戻る。

 これはまだマシな未来なのだ。予知は変えられる、だが今ある未来は死穢八斎會の打倒までは既に決められているのだ。Ms.ダークライの参戦もない。

 そして……イレイザーヘッドの言う通り、周囲への被害は問題になる程は無かった。ならば、今は予知に従うのも悪くはない選択だ。

 

「令状も出ました。家にいる日時も分かっています。皆さん、日時になったらお願いします」

 

 全員の顔が凛とした顔に変わる。そこにあるのは力を意志で補うヒーローの姿だった。

 

 ■■■

 

 決行当日、死穢八斎會のアジト目の前に警察とヒーローは陣取っていた。警察はともかく、ヒーローの顔は臨戦態勢そのものだ。

 警察側は戦力の共有はできていたものの、相手が子供であると聞き舐めた態度になっていた。子供相手ならヒーローじゃなくても大丈夫だ、と言うように。

 

「じゃあ令状を伝えたら突撃で」

 

 しん……と声が静かになる。ヒーローはこれから起きることに全力を賭さなければならないと分かっていた。そして警察もそんなヒーローの雰囲気に呑まれていた。

 

「突撃っ……っ!?」

 

 が、Ms.ダークライという存在は子どもだろうがヒーロー達を嘲笑う。

 警察とヒーローが死穢八斎會のアジトに踏み込んだ瞬間、見せられた光景は想像の埒外にあるものだった。

 

 

「「ジャンケンポイッ!あいこでしょっ!」」

 

 

 そこにあったのは2m以上はある巨漢と、中学生くらいの少女が高速でジャンケンをしている現場だった。

 巨漢は死穢八斎會のメンバー、それも片腕とすら言える程の戦力である活瓶力也だ。彼を抑えられれば明確に戦力が削れると言っていい。そして少女は……見つけたらヒーローが即受け持つと言っていた程の者、奪姫だった。

 

「な、何だぁ!?」

「俺が視る」

 

 同様に足を止めた警察にイレイザーヘッドが横を走り二人を視る。消失の個性は二人から個性の使用を禁止し──そこでようやく二人は警察とヒーローに気づいた。

 

「「あ」」

「捕まえろぉ!」

 

 個性が使えなければ、いくら凶悪なヴィランと言えど個性を使える相手には勝てない。プロヒーローと身体が強靭なだけの人との戦いになるのだ、活瓶力也には勝ち目は無く即座に捕縛されてしまっていた。

 しかし、奪姫は個性を奪われたとは思えない跳躍力で家の屋根に上がっていた。明らかに増強系の個性を使ったとしか思えない力に、聞いていたとはいえ警察とヒーローの足が止まる。

 

「りきやお兄ちゃん……タイミング悪かったね、ごめんなさい」

 

 力也と奪姫の力は似通っている。個性の習熟という意味で、話を聞いたり個性を使ったりするのは奪姫にとって助かることだった。

 おかげで個性の習熟も十分なものになっていた……のだが、力也からすれば尋常ではない速度で成長していた。力也も奪姫を殺す気で個性を使っていたが、それでも奪姫の活力を吸収しきれなかった。

 

 そして個性の使い過ぎはどうあっても体力を消耗する。力也がちょうど体力を使い切ったタイミングが今だった。

 

「じゃあ私がやらないと……そういう約束だから」

 

 奪姫は成生と約束を一つしていた。もしもタイミング悪く力也が動けなかったら、代わりになる程度にここの足止めをするようにと。壊理を奪われたくないなら全力でやってもいいが、そうではないならその程度でいいと。

 

「来るぞ!」

 

 少女は胸の前でパンと両の掌を思い切り合わせて音を鳴らす。それだけでこの場にいる全員が崩れ落ちる。

 気絶した者や息すらできなくなっている者もおり、一瞬で鎮圧されるという異常事態だ。プロヒーローすら息を多少荒くしており、憔悴しきっている者さえいた。

 

「あ、ちょっと強過ぎた」

 

 もう一度パンと音を鳴らすように手を合わせる。一瞬で全員に活力が戻り、気絶した者も目を覚ます。不幸中の幸い、死人は出ていなかった。

 しかしこの十数秒だけでこの場にいる全員は理解した。目の前の少女──奪姫は、プロヒーローの力を優に超えている能力を持っているのだと。かの、Ms.ダークライの子供なのだと。

 

「ごめんなさい、まだ練習が足りてなくて。りきやお兄ちゃんと練習してたんだけど、突然やってきたから……」

「これが、奪姫の個性……!」

 

 門の上まで跳び、警察とプロヒーロー全員を見回して奪姫は口にする。

 

「殺しちゃダメ、おかーさんが言ってた。あとは……お姉ちゃんの友達だから、邪魔しないで」

「……戦力差がここまでとは。でも、ここに人数を割いてはダメでしょう。皆さん早く、奪姫はリューキュウ事務所が受けます」

 

 膝をついていたリューキュウが立ち上がり門の上にいる奪姫を睨み付ける。同時に膝をついていた警察やヒーローは家の中へ走り出す。

 

「お姉さんが私の相手?私は誰でもいいけど」

あんまり年上を舐めないことね

 

 全てを奪う魔王と、悪夢の堕とし子が牙を向く。生まれて半年も経っていない子供と、十数年以上を生きるプロヒーローの戦いが始まろうとしていた。

 

 ■■■

 

 警察たちの突撃の号令と同時、地下では成生とオーバーホールが壊理を連れて歩いていた。

 成生は何もしていないが、オーバーホールの勘が鋭く警察が来たと察して早めに逃げ出していたのだ。但し成生も転送を使っていなかった。

 

「ヒーローがやってきたみたいですね。……電花がいれば十分でしょう」

「随分と舐めた真似をするな?壊理が捕まってもいいと?お前と壊理だけなら逃げだすのも容易だろう」

「あなたがいるじゃないですか」

 

 オーバーホールの目が鋭く光る。力を見せろと言われてるのは分かっていても、無為に力を振るう主義ではない。

 何よりオーバーホールには成生の意図が分からなかった。駒扱いするにしてもこんな無駄な使い方をするのは明らかに間違いだ。オールフォーワンを下した戦略眼がありながらそんな間違いをするとは思えなかった。

 

 その様子に成生ははぁと一つ溜息を吐いて言葉を渡した。

 

「この程度の戦力相手に時間稼ぎもできないならこれ以上契約は続けられませんよ」

「……これを試練だと?」

 

 元々オーバーホールが下手に出ていた側なのだ。だというのに要求ばかりしており、Ms.ダークライ側からは大した要求はしていなかった。

 成生に不備があったのは間違いないが、オーバーホールはそれ以上の成果は得られたのだ。ならばそれなりの対価を示すべきというのが成生の考えだった。

 

 その対価こそが試練。下に付くならそれなり以上の力か、情を惹く意志を示せ。たったそれだけのことだった。

 

「私の下に野心を持った上で直接付くなら力を示しなさい。子供たちのように私の情を引いて付くのは構いませんが、そんな人は野心を持ちませんし」

「利用価値を示せってことか。なぜこんなタイミングで契約更新を?」

「こんなタイミングだからですよ」

 

 ヒーローがやってくるタイミングだからこそ契約更新という名の試練を、次の更新するかどうかの査定扱いにする。

 ヒーローがやってくれば壊理を渡せるため、どう転んでも成生からすれば問題はない。撃退できたならそれはそれで次にヒーローがやってきた時にするだけだ。

 

「……Ms.ダークライは狡猾。知っていたはずなんだがな」

「油断するからですよ。利用できるものは利用するのがヴィランです」

 

 成生はMs.ダークライとなり目的を果たしたからといってもヴィランとしての経験や戦略眼を失ったわけではない。使うべき時には使うし、使う必要も無いなら使わないだけだ。

 ただそれさえも第六感染みた直感による判断で分かってしまうだけだ。傍から見れば気まぐれにしか見えないが、成生本人は本人からして最適な行動をとっているのだった。

 

「逃げてもいいですし、とにかく壊理ちゃんを奪われないこと、条件はそれだけです。私は見学でもしましょうか」

「はっ、お前のお気に入りのヒーローを見たいだけだろうが」

 

 ふふふと成生は微笑む。成生には壊理の安全確保と切島の活躍なら後者の方が大事なのだ。なんなら今回の騒動での一番の価値は烈怒頼雄斗のデビューとすら見ている節さえあった。

 壊理はもう個性が十分に使えるのだ、ならばもう問題にはならないと言える。Ms.ダークライとしてもあとはヒーローに何らかの形で渡すだけであり、重要性は明確に落ちていた。

 

 もっともそれは成生からすれば、の話だが。

 

「私にとっては今はそちらの方が大事ですし」

「今は、か。なら利用価値を示すことにしよう」

 

 オーバーホールがくるりと振り返り引き返していく……壊理も連れて。

 まるで決別のように見える雰囲気だったが、そういう訳でもない。オーバーホールはただ価値を示しに行くのだ、一つの死穢八斎會というヴィラン組織の価値を。

 

「電花、壊理ちゃんと手を繋いでいるのよ?守ってあげて」

「うん!」

 

 壊理を連れていく都合上電花も傍に寄り添う。友達なのだから当然のことだ。

 成生が電花にそう声をかけたところでオーバーホールは少しだけ立ち止まる。一つだけ疑問が湧いて出たのだ、自らの邪魔になる可能性を排除する必要があった。

 

「お前はどうするんだ?」

 

君如きが私に口を利くか

 

 返ってきた口調と言葉に思わず目を見開く。明らかにMs.ダークライとも成生とも違う言葉に、オーバーホールの思考は固まる。

 

 邪悪な瞳をした成生の姿をした少女は、頭をブンブンと振ってオーバーホールから隠すように背を向けた。

 

「……ごめんなさい、好きにさせてもらうわ」

 

 本心から出たと思わせる言葉は間違いなく成生のもの。オーバーホールにも、電花にもそれは分かった。

 しかしそれは逆に、一つ前に出た言葉は別人のものと思わせるには十分な行動だった。

 

 

「お前は……誰だ?」

 

 

 既に転送で姿を消した成生に言葉は届かない。暗闇に消えていく言葉は、Ms.ダークライという悪夢が暗闇に消えていく様子を示しているかのようですらあった。

 

 




まぁ要するにMs.ダークライは舐めプで基本動かないから、動かないままの程度の戦力で壊理ちゃん救おうぜって話です

あと予知云々は本編だと皆の意志と力が同じ方向に向いてデクが使ったからみたいなノリだったので、一人だけで軽く意志も力も超えるからってノリで効かないことにしました

次回予定は未定



作中のイラスト

【挿絵表示】

ですがこれはAIで作成したイラストになります
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