普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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今年中にヤクザ編終わらせたかったけど無理そう



死穢八斎會&堕とし子vsヒーロー その1

リューキュウが個性を解放し竜の姿に変わっていく。本来なら姿を変えるのも躊躇う個性なのだが、目の前の敵に出し惜しみできる余裕など無かった。

 

「おっきい……竜?」

「子供だから知らないのかしら?これでもプロヒーローのビルボードにだって乗ってるの」

 

 ジーっとリューキュウを見つめる奪姫。初めて見る竜という存在へ観察する瞳を向けていた。

 そんな分かりやすい隙を見逃すのはプロどころかインターン生ですらあり得ないことだった。重力を軽くし音もしない動作で背後に近づき、麗日──ウラビティは蹴りを、ねじれ──ネジレチャンは波動を放つ。

 

「竜と他に二人……ううん、三人?」

 

 が、振り返ることすらせずに奪姫は避けた。それどころかウラビティが背中に隠していた蛙吹──フロッピーまで見抜かれていた。

 

「背中に隠してたのに!?」

「んっ!」

 

 せめてもとフロッピーは舌を伸ばして顔を殴りつけるも、空に跳び奪姫は避ける。

 空に跳ぶ。明確な隙であり後は自由落下するだけの好機だ。リューキュウもネジレチャンもここだと狙いを定める。

 

「そこ!」「えいっ!」

「ほっ」

 

 一瞬だけ飛び尻尾を叩きつける、波動を放つ、そのどちらもが何もない空間を蹴り地上に降りてきた奪姫には当たらなかった。

 電花ができていた『空を蹴り跳ぶ』身体能力の操作技術まで到達しつつあったのだ。集中できていれば空でさえも自由に走れる奪姫からすれば落下は隙ではなかった。

 

「竜になる、重さが変わる、舌が伸びる、エネルギーを扱う……で合ってる?」

「さぁ?答え合わせは自分でしなさい」

 

 地上に降りてきたリューキュウとその横に立ったネジレチャンにニコリと奪姫は笑う。戦う意志があるのかすらよく分からない笑みだが、二人が戦闘態勢を解く訳も無い。

 

 奪姫の笑みに狙いなどない。子供である奪姫はただ感情のままに行動してるだけに過ぎなかった。

 

「ん、おかーさんもきっとそう言うと思う」

 

 口に出す言葉も感情のまま、素直なものだ。そして素直というのは、焦りといった感情も分かりやすく表情に出ることも意味する。見えていないものには、驚くように。

 

「油断し過ぎよ」

「え!?」

 

 見えないフロッピーの舌が空から振り下ろされていた。カエルの個性で保護色のように空の色と同じになっていたのだ。いくら奪姫といえど反射速度はまだ身体能力任せであり扱いきれておらず、不意打ちが成立していた。

 咄嗟に身体を捻り躱した奪姫だが、代わりに焦りから動きの繊細さが一瞬で無くなる。

 

「ナイス!」

「わわっ!?」

 

 態勢を崩した奪姫へネジレチャンが隙の間に溜め込んだ波動を範囲を広げて放つ。威力は減衰するが、狙いは当てる事には無い。

 予想通り、範囲外に逃げようと上に跳ぶ、そこを狙ってくれる……リューキュウへのサポートが狙いだった。

 

「はぁっ!」

「っ!?」

 

 両手を合わせ、振り下ろして吹き飛ばし勢いのままに地面に叩きつける。地面に埋め込まれる程の勢いで奪姫は叩きつけられ土煙がまう。

 完全に動きを誘導して当てた一撃。だからこそ確実に狙い、間違いなくダメージを負わせる威力を込めた拳を振り下ろした。コンビネーションが上手くハマった流れだった。

 

「いいのが入ったはず──嘘でしょ?」

 

 それなりに渾身の威力ではあった。全力の7割は間違いなくあると言い切れる拳だった。個性で質量が増加した破壊力もあった。鱗で刻まれる傷もあった。

 

「おねーちゃんと遊ぶ時の方が痛いけど勢いはこっちの方が上、かな?」

 

 土煙から出てきた奪姫の姿は無傷。腕が少しだけ傷ついていたが、それも目視している間に再生していた。

 活力吸収で警察もヒーローも一度吸っている。そして全部返したわけではなく……一部は奪姫が奪ったままだった。活力があり超再生が働けば負傷は問題にならない。

 

 超再生の個性を持ちながら活力吸収を使えば、敵対者が死ぬまで戦い続けられる。奪姫の最も恐ろしい戦い方だった。

 

「……よし、練習の成果を見せてあげる」

 

 そしてそれは個性を覚えたての頃からできたことであり、使い方を熟知した今のことではない。

 

 奪姫はくるりと振り返り視線をウラビティに向け、拍手を一つした。

 

「え」

「離れて!」

 

 リューキュウが突き飛ばそうとするも位置が悪かった上にリューキュウの動きは音よりも遅い。間に合う筈もなかった。

 手を叩き音を鳴らす。それだけでウラビティの身体に衝撃が走ったようであり……全身から力を奪うような暴力がウラビティを襲っていた。

 

 活力吸収は何も全身から奪うだけにとどまらない。細胞の一つ一つ働きかけ、内臓の一部の細胞の活力だけ一気に奪うことすら可能にする。その結果はどうなるか?

 答えがこれだ。細胞が活力を失うとは動きを止めることに等しい。そして脳は、一気に力を失う細胞を見れば錯覚を引き起こす──身体の内部が傷つけられたと錯覚したのだ。

 

 かのオールマイトですら身体の内部にダメージを受ければ致命傷になる。インターン生ともなれば戦線復帰は困難になる致命傷だった。

 

「ウラビティ!」

 

 がふっと口から血を流し、膝をつく。フロッピーが助けに近寄ろうとするも、視線がそれを許さなかった。

 

「まず一人、次はあなた」

 

 蛇に睨まれた蛙のように動けないフロッピー。リューキュウとネジレチャンが盾になるように間に割り込むも、視線の色は変わっていなかった。

 

 既に奪姫の視界から消え失せたウラビティ──だが、瞳にはまだ強い光が灯っていた。

 

■■■

 

 ヒーローと警察が死穢八斎會の拠点に雪崩れ込む。組員たちは抵抗するものが大半であり、個性を使った者から次々と捕らえられていく。

 

「暴れないでください!」

「道を空けて!後先考えずに暴れると後悔するよ!」

 

 警察やヒーローの警告が叫ばれながらも組員たちは各々の個性を使って抵抗する。とはいえ多勢に無勢、外にいた奪姫のように突出した武力がいなければ一気に無力化されていくだけだ。

 

 だがそれも進行方向にプロヒーローすら止める突出した武力が無ければの話だ。仮に相当する人物が居たのなら考えなければならない危険があった。

 

「組総出で時間稼ぎ……!いや、外にはあいつがいる。大丈夫なのか!?」

「怪しいそぶりどころやない!けど下手すれば挟み撃ちや!ナイトアイ!」

 

 最も危ないのは正面と背後からの挟み撃ち。リューキュウ事務所が止めているとはいえ、奪姫も注意をリューキュウ事務所に向けているから出来ていることだ。

 仮に奪姫が挟み撃ちを理解していた場合は詰みになりかねない。

 

「このまま進みます!」

 

 だがナイトアイは進む選択をとる。予知した未来はまだ先にあるのだから。

 

「どこから情報が漏れてたのか?……いやに一丸になってる。……いや相手が相手。個性で分かっててもおかしくない」

「もっとスマートな方法ができるだろう。これは昔ながらの結束に従ってるだけだ」

 

 サンイーターの質問に警察の率いているリーダーが返答する。警察にも死穢八斎會の情報は伝わっている。Ms.ダークライという苦渋を舐めさせられた相手がいることも。

 

 今回は敵対しないという話だったため警察も参加することになったが、もし戦うことになれば即逃げるように指示されていた。そうでないと参加を拒否する者すらいるのだ。死穢八斎會のメンバーだけ取り押さえる、今回の警察の仕事はそれだけだった。

 

「この騒ぎなのに治崎や部下が姿を現さない。今頃地下で逃走準備といったところか」

 

 ただ警察は馬鹿にはできない職業だ。情報を分析する能力ならプロヒーローでも専門でなければ敵わず、数という暴力を持っている。Ms.ダークライというエラーが無ければ優秀さは十二分に発揮できていた。

 

「忠義じゃねぇやそんなもん!子分に責任押し付けて逃げ出そうなんて漢らしくねぇ!」

「んん!」

 

 烈怒頼雄斗の憤慨にファットガムも応える。友情や漢らしさを大切にする切島には許せない行為であり、近しい性格であるファットガムも同じ気持ちだった。

 

 猛る感情を持つ面子を一目見、ナイトアイは廊下の先にあった生け花の前で止まる。

 

「ここだ」

 

 予知で隠し扉の仕掛けを既に知っているナイトアイは手早く仕掛けを解いていく。数秒とかからずに扉は開いていき──

 

「っ!バブルガール!」

「はいっ!」

 

 ──同時に組員が数人出てきた。しかし既にナイトアイのサイドキック、センチピードとバブルガールは予測できており、即座に対処へと移っていた。

 

「一人頼む!」

「はい!」

 

 センチピードはムカデの個性で捕らえ、バブルガールは個性の泡で目を潰して無力化する。だが暴れる組員に二人は十数秒以上は残らざるを得ない判断を下す。

 

 視線だけでそれを受け取ったナイトアイは即座に前進の判断を口にした。

 

「ここから地下だ!もうすぐだ急ぐぞ!」

 

 地下への階段を下りていく警察とプロヒーロー、そしてデク、烈怒頼雄斗、サンイーター、ルミリオンの四人の学生。

 

 走る彼らの前に現れたのは壁だった。分かりやすく行き止まりだと示すような……しかし灯りを照らしてみれば歪な形状であると分かる壁だ。

 

「行き止まり!?」

「俺が視てきます」

 

 ここには壁を透過できるルミリオンがいる。迷わずに進む選択肢を選べるのだ。

 透過ですり抜け先の通路がさっきまで走って来た道と同じ様子であることを確認するとルミリオンは再び壁をすり抜けてナイトアイ達と合流する。

 

「壁で塞いであるだけです!ただかなり厚めです!」

 

 ルミリオンの報告に、ならばとファットガム達プロヒーローが壁を壊す構えをとる──よりも早く、行動に移っている二人がいた。

 

「来られたら困るって言ってるようなもんだ!」

「そだな!」

 

 デクと烈怒頼雄斗が蹴りと拳を同時に放つ。学生といえどインターンで十分に戦えることを示している二人だ、戦闘能力だけで言えばプロヒーローの足元に間違いなく届いている。

 

『ワンフォーオールフルカウル!シュートスタイル!』

烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)!」

 

 

 合わせられた一撃は壁を壊すには十分な威力。ガラガラと崩れ落ちる壁に、プロヒーロー達は満足気な顔をしていた。

 

「ちったぁやるじゃねぇか」

「先越されたわ」

 

 学生だからとお荷物扱いしていたプロヒーローもいたのだ、認めさせるには良いアクションだった。

 

 しかし、今の壁はあくまで物理的な壁なだけだ。そしてその壁は……作られたものだ。

 

 再びヒーローと警察達が移動を始めようとした矢先、地下への階段は地下を形成するコンクリが粘土のようにうねり、閉じられる。さらには進むべき道さえも形を変え、道を道で無くしていく。

 

「道が……!これは……!?」

 

 もはや彼らが居る場所は地下通路ではなく、地下迷宮となりつつあった。

 

「治崎じゃねぇ……逸脱してる!できるとすれば……本部長「入中」!」

 

 それを可能とする個性「擬態」。物体に入り込み操ることができる個性だ。

 本来なら冷蔵庫程度のサイズまでしかできないのだが、個性をブーストさせる薬を使用することで強化していた。

 

「何に化けてるかと思ったらまさかの「地下」。こんなん相当身体に負担かかるはずやで。イレイザー、消せへんのか?」

「本体が見えないとどうにも……」

 

 操る、発動するタイプの個性であるためイレイザーヘッドが視れば解除される。入中は身を守るために姿を見せてないだけだったが、そのお陰で幸運にも個性を即時解除されて鎮圧されるという最悪を免れていた。

 

 そしてヒーロー側にとっての最悪を予想できてしまう者もこの場にはいた。

 

「道を作り変え続けられたら辿り着けない……時間稼がれたら逃げられる……いやそれどころか俺達も」

「環!」

 

 サンイーターが最悪の予想に身を縮めていた。が、ルミリオンがその背を叩いて鼓舞させる。長い付き合いだからできることだった。

 

「そうはならないし!おまえは!サンイーターだ!

 そしてこんなのはその場しのぎ!俺は行ける!」

 

 透過して一人先へと走るルミリオン。透過の個性ならどんな壁であろうと関係ない、ただ先へと進むことができるのだ。

 

「先に向かってます!」

 

 実力を知っているナイトアイは止めない。そしてナイトアイが止めなかったことから他のヒーローや警察達も相応の実力を持っているのだと判断する。

 

 ルミリオンの姿が壁の先へ消えたとほぼ同時、地下がさらにうねり──地面に大穴が開いた。

 

「「「!!!」」」

 

 空を飛べる個性もいない上に密集していた。しかも飛べたとしても地下の形状を弄り回せる相手だ、大人しく落ちる以外に選択肢は無かった。

 

 不意打ちにも近い落とし穴へ先頭を走っていた面子全員が落ちていく。しかし半数以上がプロヒーローであり、着地失敗しそうになる警察をフォローする人数は足りていた。

 

 しかしただの落とし穴でなかった。負傷者が出れば儲けものであり、本当の狙いはそこではない。

 

「空から国家権力が……」

「不思議なこともあるもんだ」 

「……」

 

 待ち構えていたのは三人のマスクをしたヴィラン。地上で足止めしていた組員とは明らかに違う雰囲気を纏った者達だった。

 違うのは目つきといったものだけではない。向けてくるのは明確な殺意であり、確実に殺人経験がある者の視線だった。

 

「よっぽど全面戦争したいみたいやな……」

 

 武闘派であるファットガムからすれば望むところだ。そう口にし、一触即発となったところに……太い縄すら超える大きさの蛸足が数本伸び、三人のヴィランの上半身を拘束した。

 

「こんな時間稼ぎ要員、俺だけで十分だ」

 

 天喰環──サンイーターだ。ルミリオンという太陽に照らされたヒーローは、太陽さえも喰らう程に実力を持ち……そして今だけは、太陽へと心が追い付く。

 

■■■

 一瞬で三人を拘束したサンイーターだが、油断していなかった。三人の情報を既に知っており、この程度では止まらないと分かっているからだ。

 

「何言ってんすか!?協力しましょう!」

「そうだな、協力してもいいぞ。一人二人残ってくれればそれでいいからな」

 

 烈怒頼雄斗も学生とはいえ雰囲気からこれで終わらないと悟り、先輩であるサンイーターに助力を告げる。

 そして三人の内の一人、金髪のヴィラン──窃野が余裕を持った口調で煽っていた。こんなものいつでも外せると言わんばかりの態度で。

 

 その態度に、言葉に、ナイトアイは疑問を持った。

 

「──?」

 

 拘束されてるにもかかわらず余裕があることではない。力を持つヴィランなら『慌てない』ことの重要さを知っているからだ。

 しかし目の前の三人はいつ無力化されてもおかしくないのに、余裕があり過ぎた。捨て駒の死兵ならもっと熱くなるがそうでもない。そして言葉からして捨てられた訳でもなく明らかに駒として扱われている。

 

 ナイトアイの疑問の答えを待たず、サンイーターは宣言を声に出していた。

 

「”窃盗” 窃野

 ”結晶” 宝生

 ”食”  多部

 

 俺が相手します」

 

 この場に残り、三人を倒すのは自分だという宣言を。

 

「こいつらは相手するだけ無駄だ。何人ものプロがここに留まらされてる状況がもう、思うツボだ」

「でも」

 

 烈怒頼雄斗の声を遮り、サンイーターは叫ぶ。先輩である意地、ヒーローとして烈怒頼雄斗より長い経験……そして、ルミリオンの横に立つ者である誇りを持った声で。

 

「俺なら一人で完封できる!」

 

 ヒュゥという口笛が三人の方から届く。上半身だけ拘束されても口や足は動く。挑発にも近い言葉であるというのに、やれるなら受けて立つと言っているようだった。

 

「お前が残るなら他のやつらは行っていいぜ」

 

 明らかな不穏な言葉。まるで狙いがズレておりヒーロー側が何か動かされていると思わせられる……が、ファットガムとナイトアイの声はほぼ同時だった。

 

「行くで!」

「……行きましょう」

 

 サンイーター一人を残し全員が部屋から走って出ていく。迷っていた烈怒頼雄斗もファットガムに背中を押され仕方なしに連られ出ていく。

 

「ファット!ナイトアイさん!先輩一人残すなんて何考えてんすか!?」

 

 烈怒頼雄斗に問われた二人の表情は凛としたものだった。それだけで烈怒頼雄斗と彼らの違いが、分かりやすく明確に表れていた。

 

 即ち──プロであることだ。

 

「あいつの実力はこの場にいる誰よりも上や。ただ心が弱かった……そんな人間が「完封できる」断言したんや。ほんなら任せるしかないやろ」

「やつらの目的が切り替わっていることの確認です。指示が出てるなら私達を逃がす可能性が高かった」

 

 プロはプロ同士を信じる。裏打ちされている実力、専門とする能力。各々が得意とする分野においてプロと呼ばれる程に高められている力があるのだ。彼らはそこだけには無条件の信頼を寄せる。

 ならばプロが信じ託す人間に、信頼を寄せないことなどあり得るはずもない。

 

「時間稼ぎじゃ……」

「ならあんな言葉は出ない。ほぼ間違いない、治崎は戦うために戦力を割り振り始めている」

 

 三人から得た情報からナイトアイは既に戦略分析を始めていた。地上の様子からしてただの逃亡ではないことは分かっており、次の手がこれだったのだ。未来予知で見えていたのはあくまでキーとなる場面だけ。見えていない部分もあり、ここもその一つだった。

 

「三人は時間稼ぎのフリをしただけ。実際の目的は我々の分断です」

「にしちゃ上の連中が明確な攻撃してこなかった。よくて足止めレベルだったぞ?」

 

 ロックロックが当然の疑問を口にする。地下に入ってからと地上とで動き方が違うのは間違いないが、違い過ぎるというのが問題なのだ。

 同時に、ナイトアイの分析が行き過ぎており間違っていないかの確認でもあった。

 

「ええ……つまり、命令がそこまで行き届いていなかったと考えられます」

「急に方針転換したんか?」

 

 流石にそれは考え辛いとファットガムの顔に出ていた。

 ヴィランは一つの目的のために突き進む。道を変えようと最終的に辿り着く場所は同じ。だがこの方針転換は目的すら捻じ曲げかねない方向ですらあった。

 何せ正面衝突だ。オールオアナッシングの戦いになるともなればヴィラン側からすれば最終目標にたどり着く手前の手段なのだ。

 

 最終手段とも言えるが、使うのは間違いなく今ではなかった。しかし決断させる要素は──ある。

 

「治崎がそんな簡単に考えを変えるとは思えない。エリをあれだけ上手く監禁していたならば慎重な男だと分かります。だとすれば答えは一つ、Ms.ダークライが変えさせた」

 

 Ms.ダークライというヴィランの頂点、組織一つ犠牲にすることなど容易にできよう存在だ。ヒーローにもヴィランにも傾く天秤は、同じだけの戦力がぶつかるなら本来何もしない。

 

 だが劣勢ならば、どちらかに肩入れするのだ。直接的か間接的かは問わず、形を変化させて必ず介入する。

 

「奪還されるくらいなら迎撃しろいうことか」

「おそらく」

 

 電花と奪姫のお遊びを足し、オーバーホールが全力で当たればヒーローが不利ではあれどほぼ互角になる戦いだ。ここに壊理の奪還が勝利条件となればヒーローが有利になる。故にどちらかが逃亡さえしなければ天秤は傾かない。

 だからこそ傾いた天秤は劣勢と誤魔化すオーバーホールを戦わせようと働いたのだった。

 

 ナイトアイは見抜いたわけでも予知したわけでもない。予測から仮説を立て、危険要素(依光成生)を加えてさらなる予測を立てただけだ。

 そして証拠が、先ほどの三人だった。

 

「サンイーターを置いたのは狙いを明確にし、かつファットの言葉を信じたままです」

 

 サンイーターを置き三人が抜けていく者達に何もしてこないならナイトアイの予測が正解であり、逆に不意打ちしてくるようなら予測は間違いだったと言えた。

 

 分断して迎撃する。戦力配分の手の打ち方としてはこれ以上ない正解だ。三対一なら勝ち目があり、一人でも分断できればいいならああいった行動になる。まず分断だけを考え、そこから戦う。

 

 さらにサンイーターとの勝負に勝てば挟み撃ちにもなる。将棋の一手のように、次へ繋げるための駒でもあった。

 

 デクも分かったのか、ギリと歯を鳴らしナイトアイへ言葉を飛ばす。

 

「狙いが分断なら固まって動くべきでは?」

「逆だ。あえて半分だけ狙いに乗る」

 

 返ってきた言葉は、もはや司令塔と呼んでも間違いではないナイトアイの次の手だった。分析が終わったのなら対策を打つ、当然のことだ。

 

「命令が行き届いているのは間違いなく数少ない。さっきの三人からして十人もいないはずだ……なら命令を受けている面子さえ捕えればいい。彼らは死兵のようだがそうではない様子だった……Ms.ダークライの魅了か?まぁそれはいい。

 命令を受けた面子さえ捕らえた後なら警察の物量で片付けられる」

「エリちゃんはどうするんや!?スピードが肝心とちゃうんか!?」

 

 ファットガムの言葉にナイトアイはギリっと歯を鳴らし、頷く。

 先んじて決めていたことであり目的、そしてそのための戦略だ。が、前提が崩れたとなれば変えなければならない部分もある。

 

「もちろん大事です。ただ向こうが逃げる気が無いのなら……もはやこれは奪還のための戦闘じゃない、全面衝突に近い。ただ私達が入り込み連絡が上手く出来なくなったからこそ、小規模な全面衝突に出来たとも言える。

 

 ならあとは一人ずつ確実に捕まえる。なので……分断されそうになったら二人組以上での行動をお願いします

 

 各個撃破が怖いのは間違いない。けれどそれは相手も同じこと」

「……バディか」

 

 ロックロックの声に頷くナイトアイ。一人で十分な実力者ならばヴィランの2~3人を相手にしても問題ない。

 だがファットガムのような武闘派はヒーロー側の面子にはあまりいない。故に最も恐ろしいのは戦闘が得意でない者が()()()孤立することだ。

 

「全員で待ち構えている可能性は先程の三人で消えた。ならあとは罠のようにいくつかの場所に忍ばせていると考えられます」

 

 複数には複数をぶつける。それが例え戦力的に負けていても、時間稼ぎ・足止めにはなる。最も恐ろしいのは即鎮圧されることだ。

 

 そしてここまでの理論は死穢八斎會にも適用される。実力者は単独でも問題なく、そうではないものは複数で戦う。ヒーローから見たら恐らく最も強いと予想できる実力を持つヴィランはオーバーホール、彼一人だけは自由にさせられない──が、ヒーロー側からは一番の実力者が既に向けられていた。

 

「二人組なら相手がどれだけ数がいても即鎮圧されることはない。そして全面衝突でもっとも厄介となる治崎は……

 迎撃するなら間違いなく治崎は待ち構えている。そして真っ先に向かったのはミリオだ。例え一人であっても我々が追い付くまで十分に時間を稼いでくれる」

 

 ナイトアイの話はそこで終わる。戦略として間違いのないものであり、作戦の方向を決めるには十分だった。

 

 警察のリーダーがふっと笑い、ナイトアイに一言だけ零す。

 

「信じてるんだな」

「もちろん」

 

 ナイトアイの即答。ファットガムがサンイーターに向けたように、ナイトアイがルミリオンに多大な信頼を置いている証拠だった。

 

 (頼んだぞルミリオン……!)

 

 治崎の横にMs.ダークライがいると分かっていても、ナイトアイにはルミリオンを信じるしかなかった。予知では間違いなくMs.ダークライが手を出さないと分かっていても、変えることが可能な相手だ。

 

 弟子を、予知を、信じて走る以外に今ナイトアイにできることは何もなかった。

 

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