ナイトアイ達ヒーロー主戦力がいる場所よりも深い階層の地下、そこに二人のヒーローと二人のヴィランが相対していた。
ヒーローは烈怒頼雄斗とファットガム。ヴィランは乱波肩動&天蓋壁慈、ナイトアイとオーバーホールの戦略通りに配置された戦いだ。
「デブに、赤い髪か」
「乱波、落ち着いて戦え」
「二人…!」
「ええ度胸や!」
乱波がズンズンと歩き二人の前に立つ。そしてそのまま拳を繰り出す構えをとった。
「砕けても知らねぇぞ!
「おまえ、いいな」
ボボボボと風を切り、弾丸のように速く、重いラッシュが二人を襲う。硬化の個性と吸着の個性、どちらも防御寄りの個性であり攻撃向きではない。
ゆえにヴィランの攻撃を
「けほ……」
(破られた……!俺の最大硬度を……!)
二人ともダメージはあったもののラッシュをしのぎきり、踏みとどまる。胸中だけは二人で真逆にも近いものになっていた。
ファットガムは経験豊富だった。いくら防御能力が高くても破られることはある。故にダメージがあっても戦意喪失することは決してない。
対して烈怒頼雄斗はダメージは軽減でき倒れてないが
その心情が、敵対しているヴィランにも見える程に。
「あの少年は……ダメだろうな」
「らぁ!」
その瞳は弱弱しく、恐怖に染まりかけていた。天蓋の声にファットガムが拳を振るうも、バリアの個性により届くことは無かった。
即座に距離をとり烈怒頼雄斗の近くまで移動するファットガム。距離をとりたいのもあったが、烈怒頼雄斗はファットガムのインターン生なのだ。教えられることはまだまだある。
「その状態解くな!心まで折れたらこっちの負けや!」
「ファット……」
ファットの声に反応する烈怒頼雄斗。分かってはいたが精神的ショックは大きい。何せ破られたのは初めてであり、即座に立ち直れる程の経験が無かった。
「二人とも防御が得意な個性だ」
「防御が得意?受けきれてないぞ」
既にダメージが溜まっているヒーロー側に対してヴィラン側は軽い情報共有をしていた。乱波のモチベーションに関わるため意外と重要なことなのだ。
「我々が矛と盾、向こうは盾と盾といったところか」
天蓋はバリア、乱波は強肩の個性であり盾と矛と呼べるものだ。矛と盾を持った者と盾しか持ってない者では勝敗は決まっているようなものだった。
「
ファットガムの声にヴィランの二人は感心する。天蓋は勝ち目が無いはずなのに戦おうとする意志に、乱波はまだ戦えることに。
「我々に勝つつもりだ、やったな乱波」
「わかってくれたか、いいデブだ!」
そしてファットガムは決断を下す。脂肪吸着の個性は何も脂肪を纏い防御壁にするだけが使い方ではない。
更なる応用がその先に在るのだ。しかしてこれは諸刃の剣、失敗すれば負けは必至。加えて
「おい楽しくなってきたんだこれ外せ」
「相性は良好。コンビネーションで確実に倒せばいい」
未だバリアを張る天蓋に喧嘩ができないと乱破は殴りつける。喧嘩という過程こそ望みである乱破と確実に倒すという結果を望む天蓋では意見の相違があるのも当然だった。
「……喧嘩狂いめ」
「わかってくれたか、良いひきこもりだ」
二人の様子を見てファットガムは勝機を見出す。相性が良い相手がいたからだ。
「乱波くん言うたな……打撃が効いたんは久方振りや」
ファットガムの切り札は一定以上の
切り札にはもう一つ必要なものがあったが……このまま戦えばジリ貧、賭けに出るしかなかった。
「俺も昔はゴリゴリの武闘派やってん。お前の腕が上がらんくなるのと俺が耐え切れんくなるのどっちが先か。矛と盾どっちが強いか……
勝負してみようや!乱破くん!」
「やっぱりお前はいいデブだ!」
二人が前に出る。殴り合うという純粋な喧嘩が始まる。残された天蓋と烈怒頼雄斗も止めなかった、理由は簡単だ。
「天蓋!バリアは!」
「出さない」
「そうか!良い人ばっかじゃねぇか!」
横槍を入れるであろう天蓋は何を言っても聞かないと諦めており、烈怒頼雄斗はまだ精神的ショックから帰ってこれてなかったからだ。
「がっぐっっ!」
ファットガムは殴られ続ける。乱破もそれだけ殴ればラッシュの速度が遅く……なるどころか、速くなってきていた。
「がっかりさせんなよデブ、まだ倒れねぇでくれよ
ようやく肩があったまってきたとこなんだ!」
乱破の全力はここからだった。流石にファットガムも吐血し、全身に痣が残り、動きも鈍くなっていっていた。
「嘘だろ?まだいけるよな!」
まだラッシュを続ける乱破。ファットガムはまだ立っているのだ、乱破からすればまだ喧嘩の途中だった。
圧倒的に劣勢なファットガムだが、その瞳に光がまだまだ残っていることに天蓋が気づく。
「乱破!そいつ何か企んでる!早く仕留めろ!」
「気になる!生きていたら披露してくれ!」
さらに速くなり、遂に全力の速度に到達した乱破。さらに加速するラッシュに、流石にヤバいとファットガムが思った瞬間だった。
「うおああああああああ!」
烈怒頼雄斗が、ファットガムの前にいた。それはまさに盾、矛と矛になり得る盾の戦いではなく盾と矛がぶつかり合う戦いへシフトする。
「無力……なんざ、あの時投げて捨てたんだよ!」
「なっ」
破られた硬化、だがそんなことよりもショックだったことが烈怒頼雄斗には……切島鋭児郎にはある。
殴られ続けても一歩も引かない。ガードを硬めながらも効いてないと言うようだった。
(最大硬度がどうした!破られるがどうした!全部全部硬くして無視しろ!)
「いいぞ!赤いの!お前は最高だ!」
硬くする、破れる、硬くする、破れる、硬くする、破れる、硬くする、破れる、硬くする、破れる、硬くする、破れる、硬くする、破れる
繰り返し続ける矛と盾の戦い。だが烈怒頼雄斗は諦めない、
それでも、彼の個性の強みと、精神的ショックにより思い出した後悔。二つが彼の漢気を最高潮に高めさせる。
(成生に会って話すまで!俺は絶対!)
「倒れねぇんだよ!!!」
爆豪に言われた「倒れないことは強い」こと、成生に手を伸ばせなかった「救えなかった」後悔。それらが相まって「誰よりも倒れない盾」と化す。
烈怒頼雄斗が踏ん張りラッシュを耐える。限界を超えてさらに強度を高め、割れたら即座に硬めて守る。不屈と呼ぶべき戦いだった。もし依光成生がここにいれば目を輝かせたであろうものだった。
──だからかもしれない。ラッシュのせいで誰も気づかない位置、烈怒頼雄斗の足元……一呼吸にも満たない程の極微小の赤い蒸気が触れていた。
「おおおおお!!!」
烈怒頼雄斗は原点を想い限界を超える。本来なら硬化の最大である
少しずつ歩んでくる烈怒頼雄斗と、突如として痛み始めた拳に乱波は笑った。
「ははははは!!!最高だ!おまえは最高だ!」
更に速くなった拳が烈怒頼雄斗を襲う。ファットガムにも流れ拳が飛んでいくが力の込め方が弱かった。
そして……遂に烈怒頼雄斗は乱波まで到達した。ガンガンと数発殴るもバリアに受け止められてしまう。
そこまでが、烈怒頼雄斗の限界だった。白目を向き意識が朦朧とし、無意識的に反応はするものの……もう気絶していた。
「おい!」
「馬鹿!気づいてないのかそいつは」
しかし、烈怒頼雄斗の働きは十分だった。十分過ぎたとすら言える。
「ようやったきりしまくん」
ファットガムの切り札。それは受けたダメージを吸着し、沈みこませ、蓄積させる。そしてそれを腕に溜め込み一撃にして放つ最大のカウンター技。
相対する
時間を稼げるかは賭けだった。それも分が悪いものだ。
乱破から受けたダメージは十分。だが乱破のラッシュが速過ぎたせいで腕に溜め込む時間がなかったのだ。それを烈怒頼雄斗は補い切ったのだった。
「敗因一つや!甘く見とった!俺も!おまえらも!
烈怒頼雄斗っちゅう!!ヒーローの漢気を!!!」
溜め込んだ衝撃を拳に込め、ファットガムの渾身の一撃が炸裂する。バリアを張る時間すら与えず、放たれた衝撃は二人のヴィランを気絶させた。もうこの地下での戦局には関われないほどのダメージだ。
「ギリギリ……やった……きりしまくんの、おかげや」
がくりと膝を下ろすファットガム。意識があるのは彼だけだった。
「ワイも……かなり限界やったけどな」
しかしそれも限界。乱破のラッシュを喰らい続けたのだ。さらに最後の一撃は脂肪を燃やして衝撃に変える技だ。タイミングが遅ければ自らの脂肪を燃やし過ぎることになる。
今回は、ギリギリで燃やし過ぎたのだ。烈怒頼雄斗が時間を稼いだのは良かったが、如何せん位置が悪かった。タイミングを調整するため時間をかけ過ぎていた。
ドサリと地に伏すファットガム。意識は引き止めれば繋ぐ程度にはあるものの、気を抜けば即倒れる程のものだ。ヴィランが起き上がる前に回復しなければマズいのはヒーローの方だ。
掠れるファットガムの瞳に映ったのは軽やかに歩く一人の姿。
「あん……た…………」
足元から赤い蒸気が上がっているという見たことのない姿だが、ファットガムには彼女の声を聞いたことがあった。
「安心していいよ」
安心させるような声色。それだけでヴィラン側であろう彼女が戦う気が無いのは分かるのだった。
「より……みつ……せ………」
こいつなら安心していい。ファットガムは確信があった。
烈怒頼雄斗のファンと言ったからか、見た目は普通の少女にしか見えないからか、理由は分からない。
だがファットガムは直感的にそう感じ取り──倒れた。守るべきインターン生を、任せられる少女が抱きしめたのを瞳に移したと同時に。
「身体が冷えちゃダメだから」
優しく切島鋭児郎を抱きしめる依光成生の姿がそこにあった。
次回の話が投稿したくて書いてきた節はある