普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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これで今年の更新は終わりかな

一年以上書いてるか……遠いところに来たもんだ

書きたかったところまで来れたから満足の一つくらいはした


夢のような時間

 少し時間が経ち……医療室、そこには四人の姿があった。寝ている者が三人、一人はファットガム、一人は乱破、一人は烈怒頼雄斗。

 そして最後の一人は、依光成生。烈怒頼雄斗──切島を膝枕して寝顔を見ていた。

 

 成生の赤い蒸気は三人を介抱し切島を膝枕している途中で完全に治まっていた。四人の戦いの後に切島を介抱しにきた時、成生には見えない位置でまだ発生していたがもはやそれもない。

 

 もっとも、そんな位置で発生していたせいで成生本人はとっくに治まっていると勘違いしていたが。

 

 体に指を向けスキャンするように光を向ける。傷は多いが、後遺症になるようなものは無かった。

 

 ホッと安心すると、いたずら心から一言呟く。

 

「切島くん、起きてる?」

「……寝てるって言ったら……どうする……?」

 

 帰ってきた返事に成生は目を見開く。動揺を隠さない成生だが、すぐに落ち着きクスリと笑って声をかける。

 

「起きてーって声をかけよっかな、もう起きる時間だよって」

「寝坊しちまうって?」

 

 起きようとしない切島に、いたずら心がまた反応する。

 

 目をつむったままの切島に吐息がかかりそうな程に顔を近づけ、ねだるような声で切島の耳にささやいた。

 

「それとも──キスの一つでもしないと起きてくれない?」

「っ!」

 

 バチっと目を覚ました切島だが、身体は起こさなかった──否、起こせなかった。

 

 起き上がろうとする体を起こさないよう優しく抱きしめられていたからだ。随分と力の強い少女に。

 

「ダメだよ、まだ身体は傷だらけ。マトモに動くのもきついでしょ?」

「いっ!?……成生?」

「力を抜いて、もたれかかって?」

 

 痛みが走る身体だ。起き上がるのもつらいのはその通りだった。言われたとおりに身体をもたれかからせ、再び膝枕の姿勢に戻る。

 

 そして見下ろされながら、ニコリと微笑みかけられた。

 

「来ちゃった」

「……どうして?」

「苦しんでるヒーローに、介抱するファン。分かりやすいでしょ?つい起こしちゃったけど」

「そっか、そうだな」

 

 ついつい起こされたというのもヒーローからすれば助かることだ。止められ動けない以上どうしようもないが、目の前の女の子と話すことくらいはできる。

 

 そして今は、ため込んできた疑問をいくらでもぶつけられる貴重な時間だった。

 

「なぁ成生……どうして俺なんだ?いや、あの、嬉しいんだけどな」

「切島君が普通の個性だったから」

 

 切島が照れながら口にした疑問は、伏せた瞳をした表情から答えが返ってきた。言いづらそうな顔だったのは、口にした言葉が半ば答えだった。

 

 普通の個性……それ自体は蔑称でも何でもない。ありふれている個性だという言い方でもあり、特別でない個性という意味合いでもある。指先が光る人も、身体が硬くなる人も、よくいる普通の人だと言える。

 

 だがそれは裏を返せば、普通の個性を持つものは社会から見て特別な人にはなれないとも言えた。

 

「私の個性知ってる?」

「指先が光るとかって聞いてる」

 

 Ms.ダークライの情報は既に世の中に知れ渡っている。依光成生という少女の個性も。

 神野の戦いからして明らかに詐称している個性登録だが、戦いで指先が光る個性は使われていた。常軌を逸したどころか規格外の使い方ではあったが、確実に指先が光る個性ではあった。

 

 当然、切島も知っている。同時に──個性が特別でない(普通である)ことも、それだけ成長させてきたであろうことも。

 自らが社会的に見れば似た境遇の個性だからこそ、切島が成生の個性の在り方に思うのは純粋な尊敬だけだった。

 

「そう、私の個性は指先が光るだけ。それだけだった……どこにでもあるような個性だった」

「優しい個性だな。導く光ってこんな感じかって」

 

 余りにも予想外過ぎる言葉に成生はパチクリと目を瞬かせる。

 かつて自らに記した名前──闇を導く光(Ms.ダークライ)。しかして今はMs.ダークライ(ヴィラン)としてここにいるのではなく依光成生としてここにいるのだ。

 

 素のままの成生を、導く光だと本人に伝えた者は一人としていなかった。……本人のいない所で言っている者は多かったが。

 

「そんなこと言ってくれた人は初めて」

「俺も普通の個性だからな。最近なんだぜ?倒れねぇってのはつえぇってことに気づけたの」

 

 普通の個性にも強い特徴はある。ただそれに気づけるか、そこまで辿り着けるかはまた別の話だ。

 切島であれば倒れないこと、成生であれば自らがここにいると示せることだ。成生は自らの個性の強みに気づいてはいなかったが、辿り着いて利用はしていた。

 

 そしてそれに気づいたのは──今。切島が言ったからだった。

 

「そっか……強いね」

「へへ……」

 

 気づけたことを心にしまい、純粋な誉め言葉を口にする成生。切島も素直に受け取っていた。

 

 切島の声が落ち着き、数秒の間が空く。迷う瞳を見せた成生を、切島は待って見ていた。そして成生は逡巡した口を開く。

 

「……私にはね、普通の個性なのにヒーローを目指す人が輝いて見えたんだ」

「ヴィランになったのはそれが」

 

 原因か。そう口にする前に成生は人差し指で切島の口を止める。そして、首を横に振り……上を見上げて成生は呟く。

 

「私はね、特別になりたかった。普通でいたくなかった。誰よりも特別な存在になりたかった。オールマイトより……オールフォーワンよりも、ヒーロー社会の中でも特別な存在になりたかった。

 

 だから、これしか方法は無かったんだ。オールマイトと呼ばれる社会だから、私にはこれ(社会を壊す)しか選択肢が無かった」

 

 見上げているせいで顔は見えない。だからこそ、切島は自らが感じた素直な言葉を声に出していた。

 

「すげぇな」

「えっ?」

 

 涙を目に浮かべ、そのまま泣きそうな顔の成生は顔を向ける。そこには感心する切島がいた。

 

「俺には出来ねぇよ。オールマイトどころか社会全部敵に回して、自分自身を証明するなんて真似。すげぇって言わずしてなんて言えばいいんだ」

 

 善悪を抜きにして達成したことだけで言えばとんでもないことだ。オールマイトやオールフォーワンほどの者でなければ成しえないことであり、彼らに並んだと言って間違いはない。

 

 さらに形はどうあれその二人を倒した上で社会に自分自身を示したのだ。純粋に達成したことだけで言えばこれ以上はいない。

 

 ただそれを評価してくれた人はいなかった。メディアがこれでもかと叩いていたくらいだ。

 

「嬉しい、誰もできないってしか言わないんだもん」

 

 成生の口角が上がる。自分でやると決め、実行し達成したことだ。まだ両親が健在だった頃に例え話で話したことはあるが、達成できるはずもないとしか言わなかった。

 

 オールフォーワンは全部話せばできるだろうと言っただろうが、話さずに倒してしまっていた。

 

「そりゃ俺だって被害見た後ならそう言うよ。でもよ……その……成生だから」

「?」

 

 照れくさくて言いづらく、見下ろす成生の視線から逃れようと切島は顔を左右に動かす。が、微笑む成生は追いかけて視線を逃さない。

 

 逃がしてくれないと察し、ふぅと一息ついて切島は視線を合わせ口を開いた。

 

 

 

 

「成生だからそんな言葉が真っ先に出てきたんだ」

「──」

 

 

 

 

 涙が一筋、両目から零れる。成生という少女が、他人の言葉で初めて流した涙だった。

 

 

「普通の個性なのに、そこまでいったんだろ?

 俺たちみたいに、先生みたいな先導もいなくてそうなったんだろ?」

 

 ほんの一瞬だけ間を置き、切島は言葉をつづける。自分の本心から出る言葉を。

 

「ずっと、みんなを見てきたからそうなれたんだろ?」

 

 成生は声が出ない。思考加速もできないまま完全に固まり、言葉をそのまま受け取ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「どれも成生がやったことだ。ヴィランになってやらかしたことは許されちゃいけないけど……

 

 

 俺は──成生を嫌いになれないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 切島の素直な言葉が突き刺さる。Ms.ダークライ(ヴィラン)ではなく、依光成生という少女に向けられた言葉。どんなものよりも心も顔も赤くさせるものだった。

 

「もう……ばか……」

「え?わりぃ?」

 

 小声でつぶやく成生。が、膝枕している位置関係すら忘れていたのか切島に届いてしまっていた。さらに顔を赤くする成生だったが、ふぅと一つ息を吐いて自分を鎮める。

 

 ただ切島の素直さに釣られたのか、本音がついつい言葉は出てしまっていた。

 

 

「直球ばっかり」

「それが俺だからな」

「ほめ殺し馬鹿」

「わりぃか?」

「硬い」

「悪口ですら無くなってねぇか?」

 

 

 クスクスと笑いあう二人。世間の評判ややったことを度外視すれば仲睦まじい様子としか表現の仕様が無かった。

 

 

「でも、それが切島君なんだ」

「……ああ」

「私が好きな、切島君なんだ」

「……ああ。………………好き!?」

 

 唐突に好意を向けられた切島の頬が赤くなる。

 成生の好意は人としても……異性としても好きであるというものだ。前者だけならともかく後者まで含まれており初心な切島には刺激が強かった。

 

「ありがとう」

「ああ……っ!?」

 

 成生の顔が切島に近づいていく。唇が近付き顔を赤くし顔を背けようとした切島だが、がっしりと掴まれており動かせなかった。

 

「これは、お礼だから」

 

 切島に落ちてくる唇は少しだけ目の上にズレ、額に落ちた。時が止まるかのような時間が数秒続き、成生は唇を放す。

 

 完全にフリーズした切島だが、それ以上に成生は思考が混乱していた。自分が思わずこんなことをしてしまったことに恥ずかしくなり、しかも思考加速ができてしまうからこそ尚更悪化していた。

 そして悪化しきった結果、素のままの部分だけが表面化して出ていた。

 

 手を放し、ニコリと微笑む成生。そこあったのは綺麗な青色の瞳と朗らかな少女の姿。

 

「おやすみなさい、切島君。また会おうね」

「あっ!おい!」

 

 切島は体が動かせなかったわけではない。動かすのが辛かっただけだ。

 そして今目の前にあるのは奮い立たせる人の姿。烈怒頼雄斗(切島鋭児郎)が手を伸ばせない訳が無かった。

 

「あの時は掴めなかったからな」

 

 離れようとする手を掴み、引き留める。たったそれだけのことだが──成生がヴィランだと示した時に、できなかったことだった。

 成生はまだ座った姿勢だが立ち上がろうとしていた。驚きながらも、掴まれた手に視線を向ける。引き留めること、それが何故か心臓の鼓動が早まるくらいには嬉しかった。

 

 優しい表情になった成生は姿勢を戻し切島の頭を膝に優しく置き直す。さっきまでと同じだが、成生の雰囲気だけが変わっていた。

 

「……そっか。うん、じゃあ少しだけここにいるね」

「よかっ……あー……安心したら……眠気……が……」

 

 激戦の後、成生が無理やり起こしたような形だ。再び疲労を感じ取り、身体は無理やりに休眠をとろうとしていた。

 

 

「私はここにいるよ」

「せ……い…………」

 

 安心した顔で切島は眠りにつく。嫌いにならない(特別だ)と口にした少年に向けられた瞳は相応に特別なものだった。

 

 

 

「……切島君(ヒーロー)。私が特別だって……嬉しかったよ」

 

 

 

 少女は笑う。瞳の奥に深淵の色や邪悪が入り込んでいると分かっていても、流れる嬉し涙は当人のもの。依光成生という人間のものだ。 

 ヴィラン(Ms.ダークライ)であって未だヴィランではない(依光成生である)恋する少女は数分の間、切島(ヒーロー)の傍にいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これがヒーローの少年とヴィランではない少女が交わした最後の笑顔とは……誰も考えはしなかった。

 

 




ちなみに赤い蒸気は特定の条件を満たしてない限り触れたらヤバい代物です。壊理ちゃんの個性並かそれ以上

でも条件を満たすのは簡単だったりする。一般人はダメ

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