「八斎衆」
「先手必勝」
さらにそこへ「消失」の個性の優位性が上乗せされる。一瞬で電花と泥泥、二人の個性が「消」され、即接近したロックロックにより二人の服が「締」められる。
一瞬で個性が使えなくなり、身体が動かせなくなったのだ。
「ちょっ!待て!お前何とかでき」
「わ」
ロックロックの個性に電花は驚き、戦闘経験豊富な泥泥は即座に脱出を行おうとするも──捕縛布で顎を打ち抜かれる。
「寝てろ」
ロックロックの個性に驚いている間に泥泥の意識は刈り取られ、ガクンと身体から力が抜ける。
イレイザーヘッドとロックロック、どちらも個性をまともに使わせずに捕まえる技能に特化した者だ。不意打ち気味なら実力者であってもご覧の通りだった。
「あー……えいっ!」
泥泥が倒れたとほぼ同時、バキッという音と共に電花の
「わたしだけになっちゃった……服も着替えないと」
「油断するな。こいつがおそらく最も危険だ」
「分かってる」
服を破り、繋ぎ局部を視えなくしていく電花。これが遊びなら間違ってない行動だが、戦闘なのだ。
ヒーローはそんな悠長な時間待ってはくれなかった。
「常に先手をとる」
走り近づき、同時に捕縛布を伸ばす。消失の個性と合わされば余程の素の身体能力に差が無い限りは決着がつく、合理的な行動だった。
瞬き一つせず──個性を使わせず、鎮圧する。イレイザーヘッド、最善の行動だった。
次の瞬間……電花の姿が消えた。
「なっ!?」
瞬き一つしてなかったおかげで電花の予備動作をイレイザーヘッドは垣間見えていた。ほんの一瞬足先が地面にめり込むところだったが……跳んだことだけ分かっていた。
背後を振り返るとさっきまでと変わらない電花の姿があった。壁に当たるギリギリであり、力の調整が完璧なのだと言っていた。
「こせいを……つかえなくする?ならこう!」
電花は思い切り拳を地面に振るい、ドォン!という音と共に粉塵が閉じられた部屋全体を覆わせる。
全員の視界は狭まり、身長が1m程度しかない電花は一瞬で姿を隠していた。瞬きすらしてないイレイザーヘッドがほぼ見えなかった身体能力を持つヴィランが姿を完全に隠す。
十分過ぎる脅威だった。
「やられたっ……!」
「イレイザー!俺の近くへ!」
ロックロックが前面に出てイレイザーヘッドをかばう。ただでさえ身体能力で圧倒的な差があるのに個性まで使われたら勝ち目は無い。
ロックロックが「締」めたとしても服はほぼ無いため効果は薄く、次の戦闘があるかも怪しい。盾となるのは合理的な判断だった。
だが、電花は
「あなたたち二人は、こわいからあとで」
「しまっ」
怖いから。たったそれだけで相手がプロヒーローであっても戦う優先度を下げる。凶悪なヴィランを後回しにすることが難しいヒーローとは考えが違うのだ。
二人とすれ違った電花が跳んだ先には、ヒーローと共にいた警察たちがいた。
「がぁ!」「ぐぅ!」
電花が拳を振るい、粉塵が舞う中で倒れる音と声だけが響く。イレイザーヘッドとロックロックは声が聞こえてしまうからこそ動けなかった。
戦力で言えば警察一人とプロヒーロー一人では圧倒的にプロヒーローが上回る。今ここにいる警察全員とプロヒーローを天秤にかけても良くて等価とすら言えるのだ。ここにいるプロヒーロー二人は合理的であるからこそ……失ってはいけない戦力であるかどうかの判断で迷う。
さらに加え、警察たちが多少バラけているにもかかわらず次から次へと悲鳴が聞こえるのが問題だった。
次から次へと声が響くということは、電花が五感で警察の位置を認識できているのだ。電花も見えていないにも関わらずそれができるということは、今にも二人に跳んできたとしてもなんらおかしくない。
闇雲に動いても無駄であり危険。合理的だからこそ動けないのだった。
「保つか?」
「……ダメですね。もうじき解けます」
悪いことは続く。もっとも気にしなければならない事象のリミットがすぐそこだった。
すなわち──
(戻った)
──個性『消失』のタイムリミットだ。
「頭に直接……!?」
個性を使えなくても翻弄される。なら戦闘用であろうとなかろうと個性を使える状態ならさらに翻弄されるのは分かっていた。
未だ粉塵で見えない姿。しかし声だけは確実に聞こえる。五感を翻弄するには十分過ぎた。
(面倒だったよ!)
子供足らずの声ではなくきっちりとした声が頭に直接届く。電花の個性『広範囲電波』は何も広範囲に届けるだけではない。応用すれば一人だけに送ることも簡単であり、頭で考えた話し方で話すことすらできるのだ。
少しずつ粉塵が収まり、二人の視界が鮮明になっていく。そうしてようやく電花が行っていたことが判明する。
上下左右、明らかに壁を蹴っているとしか思えない足跡がそこにあった。
「超高速で常に動き続けているのか……!まるで緑谷の全身身体強化みたいに……!」
「着地点なら速度は落ちる。そこなら」
ロックロックのアドバイスもイレイザーヘッドは舌打ちを一つしただけだった。
(分かってるでしょ)
「ダメだ、暗すぎる」
そもそも地下であり明かりはそこまでない場所なのだ、遠ざかれば暗くなり視え辛くなる。そこに高速で移動しているという要素を加えれば、見れるのは運が良くて一瞬だけだ。
(動き回るのは慣れっこだからね!)
「ガキだな」
「見た目通りだな」
警察の大半が崩れ落ち動くのが精一杯程度にダメージを負った時──電花の動きが止まった。まだ戦いは終わっておらず、誰もかれもが立ち上がることはできるのにも関わらずだ。
その原因は、
「……っ?なにこのけはい」
まだ遠くにあると電花も分かっている。けれど無視できない気配が向かってきているとも分かっていた。
電花にとっての優先度で言えば、目の前のヒーロー達よりも遥かに脅威の存在だった。
「止まった?」
「締めるぞ!数秒だけだが十分だ!」
動かなくなり独り言を呟く電花に捕縛布が伸び、消失の瞳に囚われる。
だが電花にとってはそんなことよりも向かってきている者の方が集中するべき存在だった。
「あ、使えなくなっちゃった。……おかーさん、じゃ、ないよね。誰?」
捕縛布が電花を巻き、見た目上は捕まえることに成功する。
既に電花の顔はヒーロー達を向いておらず上を向いているのだが、イレイザーヘッドとロックロックは注意が他所に向かれているとしか考えていなかった。
何せ電花は強い。二人は電花が油断していることや注意が他所に引かれていることまでは考えても、何故他所に引かれているかまでは理解しなかったのだ。
「だっきでもない、あではでもない……こせいのあるだれかがたべた?」
「捕まえた!他の面子の救助を」
ロックロックがイレイザーヘッドの捕縛布を『締』める。『消失』され、捕縛布に巻かれ、その捕縛布も『デッドボルト』で強化されている。
タルタロスにいるようなヴィランでさえ動くこともできなくなる──はずだった。
「それじゃあそぶのはこれでおしまい」
ブチブチという音と共に電花は布を千切っていく。凍らせたり燃やしたりした訳ではない、ただ単純な力だけのものだった。
「あり得ん……!破れるとすればオールマイトと同じレベルだぞ……!」
「しらなかった?わたしたちはおーるまいとがきじゅんなんだよ」
捕縛布を引き千切り自由になった電花はパンパンと埃を払い……何かを察したのか後ろの壁を振り向く。
「──っ!なに!?」
ドガァァァン!
咄嗟に横に跳んだ電花が見ていた壁が壊される。そこにはデクとナイトアイの姿があった。
■■■
「緑谷!?作戦はどうした!?」
「先生!?」
デクとナイトアイが壁を壊し合流しようとしたことはイレイザーヘッドにも分かる。
問題はそこではなく、分かれる前には各個撃破の情報が伝わっていたにも関わらず合流したことだ。
更に疑問を告げようとしたイレイザーヘッドの思考を、ヨロヨロと動くナイトアイの言葉が晴れさせる。
「作戦は変更だ。今すぐルミリオンの後を追う!逃げれる者は撤退を!」
警察もヒーローもその言葉に迎合する。幸い逃走用の通路自体は塞がれておらず崩壊もしていない。逃げることは出来る状況だった。
そして追う方向もナイトアイなら予知で分かる。正確には、追うべき者がいるという事実を知っている。
「待て、まだそいつがいる」
「っ!?Ms.ダークライの!」
デクが電花を認識し、即座に構える。のほほんとアホ面をしていた電花はそこでようやく「向かってきている何か」を察した。
「あー……そーいう。じゃあかえるね」
「……え?」
ばいばいと手を振りMs.ダークライがいるであろう方向の壁へ拳を振るう。それだけでデクが破った穴どころではない厚さを貫通し、道を作っていた。
タッタッと作った道を走っていく電花を見、デクは10%フルカウルを維持しながらも警戒を解いた。
「逃げた?向こうの作戦ではないのか……ロックロックと無事な面子は即時撤退を!」
イレイザーヘッドはナイトアイの言う通りに指示を出す。警察の大半が負傷している以上、撤退にも護衛が必要になる。イレイザーヘッドは戦力として外せない以上、ロックロックが行くしかない。
そしてナイトアイはデクとイレイザーヘッドに進行方向を告げる。
「ルミリオンがいる方向は、やつが逃げた先だ。行くぞ」
ナイトアイは電花と壊理が友達であることを知っていた。そして今回Ms.ダークライから直接、自分よりも電花を気にしろとも言われている。
となれば電花が何かしらの危険を察知したなら真っ先に向かうのは壊理の下だ。予知などせずとも十分予測できる範囲のことだった。
「一体何が起きて」
「何かがこちらに向かってます。おそらくMs.ダークライの仕業の何かが」
「了解した」
即反応したイレイザーヘッド。それも当然であり、既に聞こえてきているからだ。
ズズン……ズズン……ズズン……
進撃している何かがいる音が。
「この地鳴りか」
「近づいてきてる……!急いで!」
ロックロックと警察は撤退へ。デク・ナイトアイ・イレイザーヘッドは追撃へ走る。
唯一負傷しているナイトアイは走るのもきついため、仕方ないとデクへ一言告げた。
「デク、私を担いで走れ。イレイザーと並走しろ」
「サー・ナイトアイ。そこまでの傷なら撤退を」
「大丈夫だ。私は死なん」
「……分かりました」
ナイトアイは予知がある。死なないと断言されたということはナイトアイが死なない予知がされているということだ。
ただ一つだけイレイザーヘッドには気がかりなこともあった。進撃してきている存在、それが個性によるものならば消失で消せる。その事実を、逆手に取る。
「私が視れば大丈夫なのでは?」
「……異形系の個性の可能性がある」
「現段階での一か八かは辞めておきたいところですね」
ナイトアイの返答からイレイザーヘッドは珍しくも舌打ちを一つした。撤退の判断をするほどの存在の可能性を予知できていない事実、それが分かったのだから。
「……予知も万能って訳ではないんですね」
「ふっ、未来は変えられるものだ」
イレイザーヘッドの言葉にナイトアイは微笑む。その表情はこれが悪いことではないと言っていた。
「ただそれは悪い方向にも……良い方向にも、だ」
ナイトアイは既にこの戦いを予知していた。ナイトアイの予知はMs.ダークライの干渉込みで言うと十分先程度の未来ならまるで分からないものだが、数分にも満たない未来くらいまでなら大まかに分かるのだ。
しかしその予知はナイトアイ自身想像だにしないものであり……同時にそうなる予測も考えられる余地があるものでもあった。
「それはどういう」
「敵の敵は味方、ということだ」
ヴィランはどこまでいってもヴィランであり、ヒーローもまた同じ。予知に見えた二人の男の姿は分かりやすくそれを示していた。