普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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いつも誤字脱字助かってます


マッチアップ オーバーホール&根本&クロノスタシスVSルミリオン

 地下通路の奥の奥。待ち構えているようにも……逃げるための準備をしているようにも見える様子のオーバーホールがそこにいた。

 左右に根本、クロノスタシスの二人を連れ壊理を守るように立ち、背後からの気配に反応する。

 

「すいませんね……少し話聞かせてもらっていいですか」

 

 振り返ったオーバーホールの視界には、ハァハァと息切れしながらも傷一つない姿のルミリオンが立っていた。

 オーバーホールが特に驚くことは無い。ヒーローの個性を全て知っているわけではないからだ。地下にすぐ来れる個性の者だったいるはず……その程度の認識だった。

 

「あの時の……すぐ来れるような道ではなかったはずだが」

「近道したんで……その子保護しにきました」

「……事情が分かったらヒーロー面か、学生さん」

 

 オーバーホールはルミリオンへ侮蔑の視線を向ける。

 事情が分からないから踏み込まない。ヒーローとしてその選択は間違いではない。

 

 しかしあの時のMs.ダークライには踏み込んだ。だというのに壊理には踏み込まなかった。その違いがステインが求めるような純粋なヒーローから遠ざかったと言えるのだ。

 

 なぜなら、救うべき存在がいたのに見捨てたと言えるのだから。そしてそれを最も感じるのは──被害者だ。

 

「あの時見て見ぬ振りをしたよな。お前に保護されることをこの子は望んじゃいない……

 

 この子にとってお前はヒーローじゃない

 

 オーバーホールは分かっていた。直接的な言葉を使うのもそのためだ。

 そんなヒーローに向ける感情は一つだけ。

 

「……だから来た」

「伝わらないな。分かりやすく言ってやろう」

 

 殺意が三人から放たれる。雰囲気だけでルミリオンに重くのしかかる圧力は、ただのヴィランどころではないことを分かりやすく示していた。

 

「死ぬってことだよ……俺達の手でな」

「っ!」

 

 オーバーホールが手を床に当てる……と同時に床が分解されていく。

 

 床が岩に分かれ、石に分かれ、小石に、指先程の小ささまで分解され、次の瞬間に修復される。棘の形へ形を変えて。

 

 個性『オーバーホール』。特徴は分解と修復。鍛えられた個性は、目に見える床全てが変わっていくことを容易に可能にする強力なものだった。

 

 (修復ってレベルじゃない!?)

 

 両脇から串刺しにされるも透過の個性でルミリオンはすり抜ける。個性の相性が良くなければ死んでいた。

 

 しかし相性というのは特定条件下で最大限に発揮されるもの。オーバーホールの個性との相性は良かったが、ここにはまだ二人のヴィランがいる。一人の個性との相性は……既に測るところだった。

 

 オーバーホールの個性で修復が終わったちょうど同じタイミング。根元が口を開いていた。

 ルミリオンへ、疑問を届けるために。

 

「どういう個性だ?」

「『透過』!あらゆるものをすり抜ける!」

 

 意志とは無関係に答える言葉。声に出してからハッと気づく自分自身の意識に、ルミリオンは個性を使われたのだと予測する。

 

 予測は正解だった。根元の個性は『真実吐き』、本音を話すことを強制する個性だ。根本に疑問をかけられれば、答えなければならない。身体が勝手にそうしてしまうのだ。

 

 身体を完全に操作できるような化け物(Ms.ダークライ)以外には確実に効く個性だった。

 

「厄介な個性だな」

「本音を喋らせる個性……!」

 

 とはいえ一度くらえば分かりやすい個性だ。ルミリオンも一瞬で個性を見抜き、厄介な個性と即座に判断する。

 ルミリオンからすれば放っておいても戦闘力は無い。ただ自らの言葉に、本音に、惑わされる可能性は十分にある。壊理を一度見捨てたと言われれば、動揺の一つくらいはする自信はあった。

 

 (玄野の個性は分かってる『クロノスタシス』……直撃すれば終わり。全員厄介だな)

「玄野は隙を見て刺せ。根本……二つだ、使っていい」

「了解」「……っ!分かりました」

 

 オーバーホールの言葉に二人が頷き、二歩ほど離れる。戦闘力は無いが殴る蹴るといった戦闘のフォローができる距離だった。銃器なら即直撃できるだろう距離でもある。

 

 明らかな戦闘へ向けられた様子に、ルミリオンは表情には見せず……困惑していた。奪われたくない者がいるヴィランの動きではなかったからだ。

 

「逃げないのか?」

「山々だがな。理由があるのさ……ヒーローには分からない理由が」

 

 エリが奪われるかもしれない可能性を賭けてなお譲れない理由。ルミリオンには一つだけ見当がついた。一つだけという特定が、思わず口を開かせていた。

 

「……Ms.ダークライか」

「察しが良過ぎるのはよろしくないな」

 

 図星を指されたのか、再び地面に手をつき床を分解、さらに鋭い棘へと修復する。さっきよりも速いスピードで。

 さらに壁を作り逃がす気はさらさら無いと意志を示していた。

 

(早い!経験で培った透過ですら反応が一部遅れてる!?)

 

 透過の個性は強力だがオートでは発動しない。全範囲攻撃だと狙われている・当たる場所の予測しかなり大きく透過させなければならない。腹に直撃するなら足と顔以外全て、顔に直撃するなら上半身全体といったように。

 上手くいかなければ壁に埋まる。透過を解除すれば高速で壁の外へ射出されるため死ぬことは無いが、自らの狙った動きは出来なくなる。

 

 強い個性だが、使うのが難しいのだ。今のルミリオンのように、使いこなしているのは経験・鍛錬の成果に他ならない。

 今の攻勢一つとっても、ルミリオンが無傷なのはひとえにナイトアイの下で『予測する力』を鍛えていたからだ。

 

 だが鍛えていたのはそれだけではない。それだけなら雄英高校でビッグ3と呼ばれる程の実力者にはなっていない。予測・判断・分析できる能力も兼ね揃えるように鍛えていた。

 

「くそ……いや、違う」

 

 これでは勝てるか危うい。そんな思考を一度ルミリオンは止めた。

 分析すればするほど千日手であり倒せないしエリの身に危険が及び可能性が高かった。エリを保護できればヒーロー(ルミリオン)の勝ちであり、敗北とエリに危険が及ぶことだけが負けなのだ。

 

 ルミリオンは知っている、信頼している。サーナイトアイの戦略眼を。

 

 ならばここでやるべきことは決まっている。大前提を足止めとし、可能な限り打倒へ戦いを進める。もちろんエリちゃんを保護しつつだ。

 

「捕まえるかどうかは二の次だな」

「随分と舐め腐った言い草だ」

 

 まるで自分を生殺与奪を考えるような言い方に、オーバーホールは静かに怒る。

 

 怒り、その感情は隙を晒しやすくする。

 そして先ほどよりも鋭くなった棘は、ルミリオンにとって壁のように扱える。

 

 オーバーホールが再び攻勢に出ようとした一瞬、ルミリオンは一歩だけ下がり、棘にぶつかり後ろ半身をすり抜けさせる。

 

 半身だけ身体を壁に埋める。それがルミリオンの必殺技のための予備動作。

 

「必殺──ファントムメナス!」

 

「っ!」「マズい!」「若!」

 

 ファントムメナスは個性による物理的反発──要するに線の動きになるが一瞬だけ超高速で行動できる必殺技だ。両の拳が根本とクロノスタシスの二人に突き刺さり、そのまま吹き飛ばされる。

 

 通ったのは一撃だがヒーローの必殺技の一撃というのは並大抵の威力ではない。必ずこれをすれば優位に立てると明言できるアクションなのだ。

 

 事実、一撃で二人の意識を吹き飛ばしていた。オーバーホールが触れることも出来ずに後方へ吹き飛ばされ、修復も届かない。

 

「すり抜け……面倒な動きだ」

「俺の方が!強い!」

 

 自らを鼓舞するようにルミリオンは宣言する。

 

 オーバーホールは強い、一撃ではルミリオンは倒し切れず、一撃与えては修復される。

 だがオーバーホールの攻撃はルミリオンに届かない。油断するような隙さえあれば致命傷を与えられるが、隙を見せない。

 

 10分強程の時間、油断一つ無い均衡の取れた戦いは続く。そしてズズン……ズズン……という音が随分と遠くから聞こえ始めた時、均衡は崩れた。

 

 意識を取り戻した一人の男によって。

 

「若!」

 

 オーバーホールが修復できればそれが理想だった。だがルミリオンの攻勢はオーバーホールが後退し二人の下へ行かせることさえ許しはしなかった。

 

 壊理を守らなければならないという条件も相まって、二人が自然に意識を復活させるしかオーバーホールには手がなかった。ギリギリで間に合ったのだ。

 

「根本!撃て!」

 

 銃に込められた弾は二発。そのどちらもが個性破壊弾であり、使っていいからルミリオンへ隙を見せろという指示だった。

 

 オーバーホールが撃てという指示を出すということ。そして指示されたアクションは銃弾を放つこと。ルミリオンは持っている情報から即座にそれが個性破壊弾を放つのだと理解する。

 

「っ!」

 

 当たればマズい。だが同時に襲ってくるオーバーホールの攻撃が視界を覆っていた。全身透過すれば問題ないが、射出する方向を定められない。

 

 下手すれば壊理に直撃する可能性だってあるのだ。仕方なしと全身を透過させルミリオンが地面に埋まり始めたその時──

 

 

「無駄撃ちはダメでしょ」

 

 

 ──聞こえてはならない声がルミリオンの耳に届いた。

 

 埋まるギリギリで見えた視界に映ったのは銃弾をつまむように止める成生の姿。最も恐れていた事態がルミリオンのマッチアップで起きていた。

 

「オーバーホール。まだやってたの?」

 

 すなわち、依光成生(Ms.ダークライ)の参戦。戦う気は無いと言ってもここは戦場、居るのなら戦うのがヴィランとヒーローなのだ。

 

 ■■■

 

 力を満ち足りた姿で現れた成生。表情は微笑みながらも、自信満々といった顔つきになっていた。

 

「依光成生!」

「遅かったな」

「成生おねえ……ちゃん」

 

 三者三様の反応。対する成生は頬を赤らめてニヤニヤとした笑いになっていた。

 もし戦闘の場でなければ身体をくねくねとさせて興奮を抑えていなかったことだろう。

 

「しょうがないよね……身体が火照るくらいには熱くなったことがあったんだぁ」

 

 恋する乙女が想い人のところに行っていたのだ。そして嬉しい言葉や行動を貰えた。恋愛のボルテージという意味では最高潮を経験したばかりなのだ。

 

 テンションが上がって仕方なかった。

 

「気分がいいんだよね……オーバーホール、私にしてもらいたいことでもある?」

「それならさっさとあいつを排除してくれ。面倒でな」

「三対一で負けるの?二人倒れてるし……あ、一人は復活してるね」

 

 冷静に場を見渡して状況を確認しただけ。成生にとってはそれだけだがオーバーホールにとっては失態にも近い。挑発的な言い方であるとも言える。

 

「……随分とイラつくところを突いてくるな。本当に気分がいいらしい」

「私は嘘は吐かないけど。受け取った人が嘘を吐いたと思うことはあるかもしれないね」

 

 更なる挑発。成生にとっては最早区切りをつけた組織であり、オーバーホールは捨てていい存在なのだ。

 遊べる玩具程度の認識であり、挑発に意味など無かった。

 

 ただそう思ってるのは成生だけだ、言葉の受け取り方は各人によって異なる。ここにはそれ以外の人の数の方が多い。

 

「Ms.ダークライ……でいいのかな?」

 

 対峙しているルミリオンが口を開く。その声が聞こえると同時に、成生の瞳は一瞬で混沌に濁った。

 

 雰囲気や威圧感も烈怒頼雄斗と居た時のそれとは別物。乙女などではない、頂点に位置するヴィランがそこにいた。

 

「ええ。変装してるから気づきませんでした?」

「残念ながらね」

「ふふっ」

 

 ゆったりと一指し指をルミリオンへ向ける。いつでも殺せるとも、お前に言いたいことがあるともとれるものだ。

 

「──嘘は良くないですよ?」

 

 Ms.ダークライの言葉にゴクリとルミリオンの喉が鳴る。冷や汗も流れ落ちており、嫌な予感を五感で感じ取っていた。ジリジリと後退する程の威圧だった。

 

「私のことは知っていたでしょう、ナイトアイのサイドキックさん?」

 

 嘘は良くない、ナイトアイのサイドキック。たった二つの情報だけだがそれだけでMs.ダークライは結論まで届く。

 直感が第六感と成り、思考も加速できる。最上の情報処理能力がそこにあった。

 

「壊理を傷つけたくない、電花が一番止めるであろうこと、ナイトアイに伝えた情報はそれだけ。感じ取った情報は別……例えば、服装や雰囲気」

「っ!」

「私があなたに感じ取ったという意味でもある。あなた……いえ、ルミリオン、雰囲気が会ったあの時と対して変わってない。つまり、戦おうとしていない。

 

 それが意味する結論は一つ。あなた達ヒーローの狙いは、私を戦いの土俵に持ち込ませないことね?」

「何?だが俺と戦っていたぞ」

「私が介入することに条件があるとでも思っていたのでしょう。だけど忘れてないかしら?

 

 私は──目立ちたがりの気まぐれなヴィラン(Ms.ダークライ)なのよ?」

 

 Ms.ダークライの言葉を皮切りにルミリオンはファントムメナスを発動する。気圧されて後退していたのは間違いなかったが、壁にぶつかるためでもあったのだ。

 

 

 レーザーが放たれるよりも早く全身透過を発動、一瞬で二人をすり抜け──エリを抱きしめる。

 

 

「な!?」

 

 オーバーホールの驚きも無理はない。ここまでの戦闘で壊理を奪おうとしなかったのだから。

 

 もちろんオーバーホールが阻止していたということもある。油断しないオーバーホール相手に隙を突くことはできなかった。

 しかし、Ms.ダークライという存在が現れたことで精神的に余裕ができてしまったのだ。Ms.ダークライが守るだろうという安心感、そこを突いたのだった。

 

 ただそれが……正しい選択だったのかはまた別の話だ。何せMs.ダークライの反応速度は頂点、反応出来ない訳がないのだから。

 

「壊理ちゃんが奪われている……それが私を止められる理由になるとでも?」

「……違うのかい?」

 

 ニタリと笑うMs.ダークライ。邪悪にも見えるその笑顔は明らかな害意を持っていた。

 

()()()()()

 

 否定の言葉に、壊理の目に陰が落ちる。ずっと信じてきた人が、信じたことが間違っていたと思わせる言葉を吐いたのだ。幼子の壊理には、トラウマになりかねないほどの傷だ。

 

 そして反応したのは壊理だけではなかった。Ms.ダークライへ──地面から棘が突き刺さる。

 

「治崎!?」

「事情が変わった。手伝え、ヒーロー」

 

 突き刺さったはずの棘は服に届くギリギリで粉砕されていた。棘が刺さる前に両手でビンタするようにはたくだけ、たったそれだけだがMs.ダークライの今の身体能力ならそれだけで十分対処できていた。

 

「まさか私に向かってくるとはね。ルミリオンも巻き込もうとしているのは……オーバーホール、あなたの策略?」

 

 距離をとったオーバーホールに疑問を口に微笑みかける。その声色は普段通りにも見えたが、それなりの付き合いであるオーバーホールには分かる。

 

 意外にも、驚いている声色だった。

 

 

「いいや違う。お前の策略だ……分かっているんだろう?」

 

 

 真剣な目つきのオーバーホールに対しMs.ダークライは不敵な笑みを零すだけ。今のMs.ダークライとそれ以外(ヒーローとヴィラン)という形で戦力の天秤は釣り合う──潜在能力が全て使える(デクがOFA100%で戦える)ならば。プラスウルトラ、限界を超えて到達すれば届くギリギリなのだ。

 

 

 ただ策略とは言われればノーであり、偶然かと問われればその通りだった。

 

 

 依光せい(Ms.ダークライ)は、自らの直感を信じて行動していただけ。そこに策略など無く、我儘な行動が結果的に策略となっただけなのだった。

 




もう少しで成生の個性の全力が発揮できる……何でこんな個性にしたんですか
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