普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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個性破壊弾

 壊理の個性「巻き戻し」、貴重で特別な個性だ。オーバーホールが壊理の個性を利用し作製した、個性破壊弾と呼ばれる弾丸にはその個性から派生した特性が込められ、個性だけを狙い「巻き戻す」。そして生まれる前まで戻して消し去り……結果として破壊される、そういう力だ。

 

 「個性だけ」を狙うため、撃たれた後に壊理が別個に個性を利用し「身体全体」を巻き戻せば、個性もろとも破壊される前に戻るといった抜け道もあるにはある。

 

 しかしその基本的仕様は、弾丸は直撃すれば個性だけが「巻き戻る」。

 

 

 

 

 だからこそ、依光成生には効果的だった──()()()()()

 

 

 

 

「あ」

 

 

 ヴィランとしての覇気がどんどんしぼんでいく。それはMs.ダークライという存在が消滅し、邪悪な欠片も全て消し去っていくようですらあった。

 

 深淵色の瞳は邪魔な色を取り除くようにして碧色の瞳に変わっていき、色がどんどん透明な綺麗さを帯びていく。

 

 

 

 

「わ、たし……は」

 

 

 

 

 力は萎み圧力も薄れていく──はずだった。

 

 

 

 

 とある一瞬から逆に純粋な力が暴発するように極大化していく。地下にて抑え込んでいた、ほんの少しだけ纏っていた赤い蒸気が噴出し、戦っている面子……デクやオーバーホールたちを吹き飛ばしていく。

 

「がっ!?」

「ぐぅ!?」

「何、が!?」

 

 瞳からは輝きが消え、ただ澄んだ色をした透明な碧色だけが残る。どこを見つめてるのか分からない視線はただ純粋さだけが残りながらも彼女自身は残っており、力だけがそこにある。

 

「いったい何が!?」

「銃弾は当たったよ!?」

「……まさか、ここからが本番か」

「個性は破壊したはずだ、なぜこんな」

 

 デク、ルミリオン、ナイトアイ、オーバーホール。戦っていた面子は同じ場所に固まり赤色の嵐からひたすらに耐える。踏ん張るだけでは耐えられないためオーバーホールが床を分解して壁を作って耐えていた。

 

 対して引き起こした張本人は、ただ宙を見上げて棒立ちしていた。

 

「私が……な…………も……」

 

 嵐の中心にいるせいには何も見えていなかった。目に映るのは……かつての自分の姿。思い出せない程昔の、子供の姿だった。

 

 ■■■

 

 夢、もしくは精神的な世界、現実ではない別の場所。せいの意識はそこにあった。

 

 

 「ここは……?」

 

 

 瞳に映るのは五歳にも満たない頃の自分自身の姿。かつて住んでいた家のリビングの椅子に座り、足をぶらぶらさせながら、誰もいないテーブルの先へ顔を向けていた。

 

 

「昔の……私の姿。個性も持ってない頃」

 

 

 ぽけっとした顔で屈託もない笑顔をし、どこにでもいる普通の幼女だ。何にも染まっていない瞳は碧色に染まっており、それ以外の色は何もない。

 

 

「ふふ、こんな子だったんだ」

 

 

 思わず微笑んでしまうくらいに、普通の女の子だ。これが今に繋がるとはまるで思えない姿だった。

 

 ……そう、今に繋がるとは思えない姿なのだ。

 

 

「■■■■わたしー?」

 

 

 五歳の子供が口にしたのは自問自答するような独り言。誰もいないリビングで、だ。

 

 そこで気づく、目の前の子供は何を見ているのかと。間違いなく何かが見えている、意思疎通を行っている。それが何か思い出すよりも前に、目の前の子供は口を開いた。

 

 

「うーん……

 わたしはおとーさんとおかーさんのこどもだよー!」

 

 純粋無垢な言葉。頭の中で何かが、カチリとハマる音がした。

 

 同時に、目の前の光景は少しずつ霧がかかり視界自体が薄れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで今、こんな昔を思い出してるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなタイミングで起こされたのだ、大事な記憶だったのだろう。

 

 

 しかし思い出したところで特に大して思いつくこともない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものの、まるで考え付かない。

 

 

 考え付かないからこそ──成生は解決しようと思考を加速してしまう。

 

 

「なんでまた……。……違う」

 

 

 五歳の頃の自分自身が独り言をした事実。概要はそれだけだが、内容は違う。

 

 

 聞こえるようで聞こえない疑問と疑問の欠片、回答が両親の子供であるというもの。

 

 

 そこから先の未来に自分自身がいるという事実。それらだけで、成生は結論が出せてしまう。

 

 

 

 

 ()()()()()()、のだ。

 

 

 

 

「■■■■わ■しを……知って、わたし……は……」

 

 

 

 結論を出すギリギリで思考を限りなく遅くさせる。結論など出させない、これは夢だと言い聞かせた方が遥かにマシだ。

 

 

 

 そんなことが事実であってたまるか

 

 

 

 事実な訳が無い

 

 

 

 だってそんなことが

 

 

 

 そんなことが

 

 

 

 私が

 

 

 

 

 一歩ずつ

 

 

 

 

 

 選んで

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「まさ……か……嘘、……だよ……ね…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 許される訳が無い

 

 

 

 許されていい訳が無い!

 

 

 

 

 事実がこれであってたまるか!

 

 

 

 

 

 じゃないと私は……私が……

 

 

 

 

 

 

 

「私……の……個……性は……」

 

 

 

 

 

 

 

 気づいてしまえば、終わってしまう。依光成生という人は終わる。直感で結論に辿り着く寸前に成生は、頭の中を何も考えなくさせていた。

 

 

 頭は空っぽのまま、子供の姿の成生(よりみつせい)は遊びだす。

 

 

■■■

 

 

「超再生」や「土流」といった最適化されてきた個性が巻き戻しされ破壊されていく。発芽するはずだった……オールフォーワンに渡された、精神を侵食するよう改造された個性さえも巻き戻し消されていく。

 

 

 個性破壊弾は確かに個性を巻き戻し破壊した。Ms.ダークライを構成していた個性『最適化』すら破壊しており、普通ならばそのまますべての個性を破壊するはずだった。

 

 

 しかし本来なら生まれる前まで戻し破壊するはずの個性は、マスターピースという彼女自身の特性が邪魔したことで個性を初めて使った時までしか戻せなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 彼女自身の本来の個性だけは消されない。それは彼女自身と呼んでもいいものだから

 

 

 

 

 

 

 それも当然、成生にとってマスターピースとは生まれた時からの身体的特性だ。個性と繋がっているのであり、個性を無くすとはすなわち彼女を殺すことを意味する。

 

 だが個性破壊弾が彼女の体を塵程の粉々にした訳ではなく、ただ胸を撃っただけであり死んでいない。故に身体は鍛えられたそのままに、個性は初めて使われた時へ戻ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

──最も使いこなせたその時へ

 

 

 

 

 

 

 

「……わた……し」

 

 

 赤い蒸気が衝撃を発するほどに依光成生の全身から噴出され渦巻き、エネルギーの奔流とも呼ぶべきそれは誰をも彼女へ等しく近づけさせない。

 

 噴出する赤い蒸気はオーバーホールと言い争った後に地下の部屋で抑えていた規模ではない。竜巻や嵐とすら呼べるものであり今にも地下を吹き飛ばそうとしていた。

 

 

「やらせ」

 

 

 オーバーホールが手を出そうとした瞬間、竜巻の中から視線が向けられる。向けられただけでオーバーホールは目に見えない何かに勢いよく吹き飛ばされ、背後に作っていた吹き飛ばされないよう作っていた壁に激突、ガンっと頭を打ち気絶する。

 

 不意打ちだったため気を失わない覚悟ごと、意識すら刈り取っていた。

 

 

「瞳を向けただけで」

 

 

 そしてその視線は何も起こさないままに……彼女を止められる可能性のある()()組へ向けられていた。

 

 

 デクと合わせた二人組──壁一枚で隔てていたところにいた彼女が、そこにいた。

 

 

 

 

「デク、は、誰?」

 

 

 

 

 震える声を出すヒーローが保護すべき少女、エリ。たった壁一枚は壊されており、しかし四人がいる背後だったために嵐の影響は受けていなかったのだった。

 

 

 背後に壁一枚隔てていたのなら、壁が無くなれば目の前にいるのも当然。そして求められた言葉は、意外なものだった

 

 

「エリちゃん、でいいのかな」

「せいお姉ちゃんを、止めて」

 

 

 目を見開くデク達三人。既に満身創痍に近い三人では暴走を始めている彼女に届く筈もない。

 

 できる可能性があるのは、エリを連れて逃げるくらいだ。

 

 

 何より、デクは目の前の暴走している存在がどれほどの力を有しているのか欠片だけだが分かるのだ。そもそもがOFA25%で負けた上、受けていた圧力からオールフォーワンと同等なのは明白。

 

 それが暴走している。オールマイトと同等以上なのは分かってしまうのだ。

 

 

 ナイトアイも横に並び立った経験から、察していた。この場にいる戦力では、彼女を止めることはできないと。

 

 

「僕には……できない。あんな力は、僕には」

 

 

 俯くデクに届いた言葉は、確信のある言葉だった。口を開いたエリはまるで、依光せいが確信のある時に話す雰囲気をしていた。

 

 

 

 

「ううん、できる」

 

 

 

 

 ガバッと顔を上げエリの方を向くデク。エリの額には角が生え、ほんの少しだけ光を放っていた。巻き戻す個性を使う際の光だ。

 

 

「お姉ちゃんが言ってた。怖いのはデクってヒーローだけだって」

「でも、それは」

 

 

 依光成生なら警戒するだろう、何せオールマイトの力だ。倒したことのある力とは言え衰えたものであり、全盛期とは程遠い。

 

 もしも100%で使えるなら、オールマイトの全盛期と同等以上の力を使えるなら、ヴィランにとっては恐るべき力となる。

 

 

 ただ「もしも」の話なのだ。今のデクには到底制御できない力だった。

 

 

 だからこそ──()()()()()()()()()()()()()()を、暴走している成生は警戒しているのだ。

 

 

 

 

「私が個性を使えば、きっと、()()()使()()()

 

 

 

 

 今のデクに100%の力は制御できない。制御すれば身体が壊れてしまう。壊れた身体は二度と元には戻らない可能性もある。

 

 しかしエリの個性は元に戻す、『巻き戻す』個性だ。壊れてしまう時の痛みにさえ耐えられるのなら、100%の力を思う存分に使うことができる。

 

 

「……っ!それは、でも……エリちゃんは!?」

 

 

 エリが拷問を受けていた事実をデクは知っている。理由が個性由来であることも。

 

 個性を使うことがどれだけ辛いことなのか、デクには分からないが心配の一つくらいはできる。

 

 そんなデクの心配は、強い光を灯した瞳に打ち抜かれる。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ハッキリとした、決意を持っているとも呼べる声色。目の前のことが分からない子供の言葉ではない、きちんと前を認識して歩む人の言葉だった。

 

 Ms.ダークライの雰囲気のように、見蕩れてしまう程の心意気。見てしまったからには、分かってしまったからにはデク(ヒーロー)は止まらない。

 

 デクはエリをおんぶし、常に個性が届くようにする。その上で、目の前の子供(よりみつせい)に宣言する。

 

 

 

 

 

「余計なお世話かもしれない。

 

──でも、それがヒーローの本質だ。依光成生、お前を助ける!

 

 

 

 

 

 デクはワンフォーオール・フルカウルの出力を上げていく。稲妻のように力は走り始め、徐々に髪の毛が立っていく。

 

 制御しきれない力だ、暴走しかねない力だ。しかし後ろには制御してくれる人がいる。

 

 

 

 

 

「…………あは…………あはは……………………あはははははははははははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 デクの言葉に呼応したかのように暴れていた赤い竜巻は縮小し、彼女自身の胸の中に入っていく。

 

 同時に、子供のような笑い声をあげる依光成生。制御できない、暴走した力を振るい、自らだけしか見えていない姿。

 

 

 明らかに異常をきたした姿に、二人が立ち向かう。

 

 

 

 

 

「ワンフォーオール・フルカウル

 

100%!!!」

 

 

 

 

 

 

 激突する力に──空が、見えた。

 

 




オールフォーワン涙目
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