「ワンフォーオール・フルカウル100%!!!」
「あはははははははははははははははは!!!」
ただ笑い声をあげるよりみつせいへ、デクはエリをおんぶしながら全力で蹴り上げた。100%の力は地下を吹き飛ばし貫通させ、地上へよりみつせいを吹き飛ばす。
100%の一撃だ。デクからすれば並大抵の敵ならこれで終わっていた威力であり、耐えた敵は片手で数えられるほどしかいない。その片手で数えられる敵たちでも、腹に直撃したら苦悶の表情の一つくらいはしていた。
では目の前の存在はどうだったのかというと──
「いまの……オール……マイト…………ごっこ!」
──無邪気に笑っていた。まるで子供同士のごっこ遊びでちょっとした怪我をした程度の認識だった。
空中を蹴り、よりみつせいは今のデクやオールマイトのように跳ねて一瞬で至近距離へ近づく。弾丸よりも早く着くほどの身体能力であり、ワンフォーオール100%フルカウルにも全く劣らない身体能力だ。
「デトロイトスマッシュ!」
デクは読んでいた。不意を突こうと一撃で倒れる敵ではない、油断などできないと警戒し、念のためと追撃のために準備しておいた一撃を放つ。
読みを得意とするデクだが、そこから先は読めなかった。
「すまっ……しゅ!」
よりみつせいが、まったく同じ威力の拳をまったく同じアクションで放ったのだ。まるで鏡写しに放たれる拳に、オールマイトのファンだからこそデクは動揺する。
「なっ!?」
無邪気な一撃だが綺麗に相殺され、周囲に衝撃が拡散すらしない。それがどれだけ異常なことなのか、これもまたデクだけに理解できた。
デクの100%はオールマイトのように威力が他のところに逃げないように調整されたものではない。あくまで100%の力を振り回しているだけだ。
フルカウルという「使い方」を覚えたことで少しだけ制御はできているがそれでもせいぜい30%。70%は力が正しく使われていない。それでも身体能力は100%あるため威力も相応になる。
言うなればプロボクサーが正しいフォームで殴るのと、プロボクサーと全く同じ身体能力を持つ者が適当なフォームで殴る違いだ。そんな攻撃を相殺する難易度は……後者の方が難しい。前者は正しいフォームだからこそ逆に分かりやすいのだ。
後者であるデクの一撃を綺麗に合わせて相殺した。よりみつせいが力を調整して合わせた威力にしたとしか考えられない。デクがまだ制御できてない力に合わせたのだ。
「おそらーきれいー」
「がっ!?」
デクの動揺を逃さずに反射したように掴み、よりみつせいは思い切り空へ放り投げる。ただ投げられるだけでも加速度でGを身体に受け、不意を突かれれば身体能力が高くても影響を受ける。デクはエリを離さないように支えるのに必死だった。
身体能力が同等まで近づいても反応速度で圧倒的に負けていた。成生の鍛えたフィジカルだけは残っており、思考は加速していないが、反射速度はそこまで変わっていないのだ。
「あーそびーましょー?」
放り投げられた200m以上の上空までよりみつせいもまた追ってくる。苦も無く空を跳ねる姿は、まるで空を地面のように扱っているようですらあった。
「これが、本当のよりみつせい……?」
デクは気づいていなかったが、ワンフォーオールに内臓する個性『浮遊』が発動していた。余りの危機に本能的に発動しており、発動にかかる負荷も『巻き戻され』ていた。
本来なら発動すること自体知らず、使えるのも未来の話。しかし
「真正面はマズい」
空を走るように駆けるよりみつせいに対し、直感的にホバー移動するように空を飛ぶデク。空中でありながら移動方法の違いは、自在に飛ぶ戦闘機と高速で走る地上の戦車のようだった。
そうなれば必然、戦車の方が二次元的な動きになり翻弄されることになる。
「むぅ~えいっ!」
「ぐぅっ!?」
捉えられないデクに業を煮やしたせいは空の何かを掴み投げる。デクには視認できないが、ワンフォーオールに内臓する個性『危機感知』が働き咄嗟に躱す。本来なら耐えられない負荷も浮遊同様に『巻き戻され』る。
こちらもまた本来使えるのは未来。だが今だけは、
デクの悲痛な声は危機感知──自らの個性によるもの。直撃はしておらずただ自らの個性に耐え切れない自傷だった。
目の前の
「あはは!えいっ!やぁっ!」
「くっ!」
デクの100%の力ならば遠くからでも拳を振るえば空気砲のように威力を持った風圧を放てる。相殺を試みようとするも『危機感知』がダメだと悟らせ回避行動へ移る。
もしも相殺を狙っていたならデクはエリもろとも吹き飛ばされていた。なぜなら今のせいが掴む空の何かは岩を投げているようなものなのだ。それも大砲やミサイルが当たろうと壊れない密度がある岩だ。収束もできていない空気砲等、無意味もいいところだっただろう。
空にそんな岩は存在しない。これもまた、成生の個性によるものだった。
投擲によって回避しかできないデクに、ようやく隙が見えたとせいは一歩でデクの目の前へ跳ぶ。
そして思い切り腕を引き、パンチを振るう。全力の一撃を。
「ぜーんりょーくっぱーんち!」
「ヤバい!」
デクのスマッシュのようにただ全力で拳を振るうだけ。やったことはそれだけ。特筆すべきはその威力。
あまりの威力に空が割れ雲は全て散り、拳を突き出した先は真空と化し周囲から風を呑み込み竜巻を引き起こす。地上で放たれれば間違いなく災害と呼ぶ威力であり、人に向けて放っていいものではない。
しかしそれだけの威力を持った拳は外れた。よりみつせいに隙ができたとも言える。
今のデクは見逃さない。両手を組み振り上げ、ハンマーのように両手を全力で振り下ろす。
「ワイオミングスマッシュ!」
「や!」
両腕で放たれたデクの全身全霊の一撃。強敵であろうと当たれば地面に叩きつけられクレーターを起こせる程の威力を、よりみつせいは地上に近づく程に吹き飛ばされながらも両手で掴むように受け止めていた。
「100%の……オールマイトのっ……力だぞっ……!?」
「じゃあわたしはもっとうえだー!」
懐に入り込まれ吹き飛ばさないようにデクは膝蹴りを叩き込まれる。大きすぎる破壊力だがエリへ貫通せず、デクの身体全体に響くように放たれていた。
「がぁっ!?」
オールマイト以上の力でそんなことをされれば全身が粉砕される。しかしこのダメージも『巻き戻され』無かったことになる。
ただデクにとって今のダメージは肉体的なものよりも精神的なものの方が大きかった。何せ止められたのは自分自身の全身全霊、すなわち……オールマイトの全力と同等なのだ。
100%の力を受け止められたことに動揺を隠せない。さらに叩き込まれた膝蹴りは同じ以上の威力なのだと分かってしまう。
最大威力は受け止められ、よりみつせいの攻撃は止められず……さらに強大になっているようにも感じていた。
どんどん力を増していくよりみつせい。対照的にデクは既に限界を超えた力を使っていた。これ以上は、今は届かない。
一方地上では、余りにも影響力が大きすぎる存在に対抗すべく、
「あれが……別の世界のNo.1。確かに力だけならオールマイトと比べても何ら遜色ない。
しかもあの様子……言っていたな。子供の頃から相当する力があると。つまりあれは基礎能力……!
おそらくだがまだ彼女は個性を使ってない状態だ。デクに勝ち目がない」
「俺が行きます。一瞬の目くらましくらいだけどデクならそれで十分」
ナイトアイとルミリオン。残された二人は頂上に位置するヒーローとヴィランの戦いを見上げていた。
届かない高みにいる二人。だがオールマイトという同じ高さを知っている
「だがどうやって?先ほどの上空よりも近づいているとはいえ届くのは一瞬だけだ。予測するにも限界がある」
できることは全部やる。ナイトアイがオールマイトと学んできた経験だ。オールマイト程物理的に範囲は広くないのだから、別の角度から人を救ける。分業とはそういうものだ。
既に予知の時間はほぼ無い。できて数秒、ここで札を切るのは難しい。敵対しているのはMs.ダークライなのだから。
「でも……止めないと。あの高さじゃ被害が神野と同じに」
「分かっている」
既に高さは神野でオールマイトとオールフォーワンが戦っていた時未満、地上から十mもない程度まで落ちていた。しかも今回はオールフォーワン以上の広範囲攻撃を持つMs.ダークライが相手だ。
手を出さなければ、神野以上の被害が出るのは明白。しかし打つ手が無く──助けとなる声は意外なところから届いたのだった。
「あーっ!壊理ちゃんとおかーさんあそんでるー!?」
地下に響くのはたった一人の子供の声。しかしここにいる以上はただの子供ではなく、さらに「おかーさん」と呼ぶに値する女性は一人しかいない。
「だっきー!きてー!とめるよー!あではよぶよー!」
二人のヒーローの視線が声の主へと向けられる。瞳を向けられた先にいるのは子供──依光電花。依光成生の子供であり、空にいる二人に対抗できる札の一つ。
そして依光成生の子供は一人ではない。よりみつせいが地上へ吹き飛ばされた際に空いた穴からひょいと降りてきた者がいた。
「二人じゃ……まだあれには届かないかなぁ。艶羽いてようやくくらい?」
そこには服は破け殴られたような跡や撃たれた跡はあるものの、まったく意に介していない様子の奪姫の姿があった。
リューキュウ事務所や警察が行ったのは足止めだけ。体力を削る程度しかできなかったのだった。
単体でもここにいるヒーロー全員を屠れる子供が二人。その純粋さにナイトアイが二人を『視』、ヒーローは賭けに出る。
「ルミリオン、分かってるな?……後は頼む」
「分かりました」
戦えるのはルミリオンだけだ。ナイトアイは立つことが精一杯であり、空の戦いに混ざることなどできる筈もない。
代わりに自らのできる最大限の助力、情報や指針だけを伝える。ルミリオンとは察せる程には信頼関係を築けていた。
子供二人が跳び立とうとする手前、ルミリオンは彼らの前に立ち、いつもヒーローとして子供たちに笑うように笑顔になって問いかける。
「……君たちも来るのかい!?じゃあ止める競争だ!連れて行ってくれると嬉しいな!」
まるで自分も同じようなことができると言いながら子供扱い。学生や大人なら何言ってるんだと反応するだろうが、目の前にいるのは実際に子供だ。
反応は顕著だった。
「「わかったー!」」
目を輝かせながら、電花と奪姫はルミリオンの両脇を引っ張り──空へ跳んだ。
ナイトアイの目は曇ってんなぁ
ただ身体強化しか見えないから分からないだけだったりする