普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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よりみつせいVSヒーロー&壊理&悪夢の堕とし子

 時間は少しだけ巻き戻る。地下へヒーローが突撃した時、地上では奪姫とリューキュウ事務所がぶつかっていた。

 

「まず一人、次はあなた」

 

 内臓へダメージを与える奪姫の個性にウラビティは倒れ、次だと指を指されたのはネジレチャン。今の奪姫には視認し拍手しただけで内臓にダメージを負わせられる。

 

 しかし使い方としては活力を吸収する形で、だ。波動という活力に近いエネルギーを扱うネジレチャンには、微かにだが奪姫が何をしているのかが視えていた。

 

 ──拍手はあくまで相手に何か、レーザーのような活力の線を向けるだけの行為。そこからスキャンして相手にダメージを与えている。

 

「ネジレチャン」

「大丈夫」

 

 リューキュウの心配そうな視線にネジレチャンは声だけを返す。奪姫から目を逸らすわけにはいかない、拍手するモーション……は視えなくとも、音に集中するために。

 

 

 パンっと音が鳴った。

 

 

「わっ!」

「……避けた?」

 

 咄嗟に飛んで、感じていた活力吸収のレーザーから避ける。ネジレチャンの予想通りだった。

 

「線が当たって、私の活力を操作するにはタイムラグがある、かな?」

 

 目を見開く奪姫。図星です、と顔に書かれていた。

 

 奪姫の活力操作は発達してきてはいるものの、まだまだ未熟だった。「浸透活力(いたいの)」と名付けたそれも操作に慣れていないのだ。

 

 ものによっては一瞬どころか当たれば確殺とすらなり得るヒーロー達の必殺技、ヴィランもまた似たものを持っている。

 例えばMs.ダークライがレーザーを放つ・レーザーソードを振り回すように、未来の話ならば弔が五指を地面に触れさせるように、荼毘が赫灼熱拳を使うように、トゥワイスが一定量以上の増殖を行うように。

 

 極めているヴィランが使えば確殺の威力。だが奪姫はまだウラビティすら殺せていないし、ネジレチャンには避けられる程度だった。

 

「どうやって分かったの?」

「教えてあげない!」

 

 べーっと舌を出して馬鹿にするネジレチャンに、ムッとする奪姫。ようやくマトモな手が打てるとリューキュウやネジレチャンが口角を上げる。

 

 それが、奪姫には気に食わなかった。

 

「走り回ればさっきのは大丈夫!止まったらダメ!」

「じゃあこっち」

「え」

 

 集中していた、視えていた、回避が間に合わず防御した。ネジレチャンは全て間違った行動はしていなかった。

 

 唯一見抜けなかったこと──それは何も、さっきの技は拍手するまでもなく、直接触れれば問題ないことだった。

 

 奪姫がやったことは単純明快。吸収した活力で自らの身体能力を強化、全力で近づいてビンタし、ついでに浸透活力(いたいの)を使っただけ。傍目から見れば、「ただ近づいてビンタしただけ」だ。ただ奪姫の身体能力を考慮すれば確殺にすら到達する威力になる。

 

「ネジレチャン!」

 

 ビンタされ吹き飛ばされるネジレチャンをリューキュウが受け止める。攻撃を受けた外見にそぐわない、息すら困難な程にダメージを受けた姿。明らかに先ほどの一撃がただのビンタではなかったことが分かる。

 

「これで脱落だね」

 

 相手がたいしたヴィランでなければ回復のために一度ネジレチャンを撤退させるが、リューキュウは相手が見逃してくれるとは到底思えなかった。

 

 何せネジレチャンは浸透活力(いたいの)の原理を見破った。一番に狙われるのは分かっている。

 

「ただまだ手加減が難しいなぁ……特にこれは」

「撃て!」

「ん?」

 

 ゆえにリューキュウは、警察の援護と共に跳んで前に出る。弾丸をパシパシと受け止める奪姫だが、逆に受け止めることに集中していたため人型になり警察に紛れ、視界から消えたリューキュウに気づいていなかった。

 

「邪魔だなぁ」

「そこね」

 

 真上から竜の形態になったリューキュウが尻尾を叩きつける。全体重の籠った破壊力に、遠心力まで加わった一撃であり相当な実力を持つ(ヴィラン)でも失神させられるものだ。

 

 地面にめり込み沈み込めるほどの破壊力。しかしこれで終わらないとリューキュウは聞こえた声から察する。

 

「あだっ」

 

 まるで頭を軽くはたかれたかのような声。いくら活力を吸収していようが耐久力が頭抜けていなければ出ない声色だった。

 

「まだ全然ね」

 

 叩きつけ地面にめり込ませたがリューキュウは奪姫から即離れる。耐久力は恐ろしく高く、個性も気を抜けば一撃必殺。距離がとれてなければ対応することすらできない。

 

 自らだけでは打倒し得ない程の強大な(ヴィラン)。リューキュウは奪姫のことをそれ程の脅威と認識していた。

 

 もっとも、奪姫がリューキュウを面倒な相手と思うかは別の話だ。そして何より奪姫は──まだ子供だった。

 

「もう、限界!おかーさん!ごめんなさい!!!」

「な」

 

 駄々をこねるように大声をあげる奪姫。両腕を空に挙げて発動した個性は、リューキュウすら膝をつかせる。

 

「少しずつ嬲り奪って……最後には全部()ってあげる!」

 

 広範囲に探知する活力吸収。無差別ではなく明確に攻撃をしてきた者達へ放つ最終手段。現状の最大なら2km程度の範囲をカバーできる吸収範囲と広い上に熟れてないとはいえ、視界内の相手だけに強く吸収させることなど容易い。

 

「さーて、何分保つかなー?」

 

 子供の無邪気な笑顔を見せる奪姫。震えるようにリューキュウの瞳は向けられる……その足元へ。

 

「冗談でしょ!?──ウラビティ!」

「え」

 

 バシッと空へ飛ばすように奪姫の腹へアッパーを放つウラビティ。ダメージは皆無だが、狙いはそこではない。

 『ゼログラビティ』、浮かせる個性だが触れるだけならふよふよ浮くだけ。重力がなくなったかのように浮くなら、殴るなりして相応のベクトルを向けてやれば勢いがそのまま反映される。

 

 ただベクトルを与えられるのはウラビティだけではない。何よりほぼ同じ使い方で一度破られている。

 

「勢いよく浮かばせられれば……あとは」

「さっきと同じだけ」

 

 空を蹴れば跳べる奪姫には関係ないのだ。同じように空を蹴ろうとし──

 

 

「違うわ」

 

 

 ──両足が舌で巻き取られ動かせないことに気づく。

 

「ぁっ!?足を!?」

 

 奪姫の動きを阻害する。フロッピーと奪姫のパワー差を考えれば本来不可能なことだ。

 

 しかし意識を逸らしているタイミングならほんの一瞬だけは可能。そして一瞬あれば十分だった。

 

 

「地中までめり込ませればいいのでしょう?」

 

 

 信頼できるヒーローがいるのだ。倒すことができないなら、違う手段がヒーローにはとれる。

 

 そして、信頼できる先輩もいるのだ。

 

「解け……何で!?」

「波動の……纏わせ……やっと、できた」

 

 フロッピーの舌に波動の力が纏わせられていた。ネジレチャンは波動を攻撃的エネルギーで扱うが、他者の身体に纏わせて他者の攻撃と同時に波動をぶつけるという使い方もできる。

 

 そして他者の身体が波動をぶつけるまでの道であるタイミングならば、一時的な身体強化になるのだ。

 

 勢いよく空へ飛ばされた奪姫へ、上空へ飛んでいたリューキュウの拳が激突する。

 

「ちぇっ、仕方ないなぁ」

「堕ちなさい!」

 

ゼログラビティの個性がかかったまま、恐ろしいまでのベクトルがぶつけられる。そうなれば当然、地面に深く……非常に深く埋め込む程の勢いへと変貌する。

 

 

 

 ドォォォォォォォン!!!

 

 

 

 地面へ貫通するように、直径1mもないが深い穴が空いた。

 

 穴の近くにリューキュウ、ネジレチャン、ウラビティ、フロッピーが集まる。耳に集中しても、音は聞こえない。

 倒した……訳ではないとプロが判断する。

 

「これで、少しは保つでしょう」

 

 両膝を突く程に疲れているリューキュウの言葉にウラビティとフロッピーは思わず顔を向ける。ヒーロー側は既に満身創痍、限界を超えているとすら言ってもいいのだ。

 

「倒せてないんですか?」「嘘」

「あれじゃ、倒せないよ」

 

 ネジレチャンはもっともダメージを負っているからこそ相手の力量が分かる。受けたのがただのビンタと個性だけであり、奪姫の最大威力ではない。それでもほぼ動けない程のダメージを負っているのだ。

 

 耐久力もリューキュウが戦い理解した。奪姫の鉾をネジレチャンが、盾をリューキュウが知っているのだ。この程度で倒せる相手ではないと誰よりも分かっていた。

 

 戦力が分かってもヒーロー側が満身創痍なのは事実。故にもっとも軽傷であるフロッピーだけは気づいていた。

 

「……今にも皆倒れそう」

 

 味方の戦力は今にも潰えること、そして……

 

 

「吸収が……終わってないわ」

 

 

 奪姫の、敵対する意志はまだ残っていることに。

 

 

 しかし深く地中に埋めたことでヒーロー側に打てる手は無い。奪姫が地中から出てくることに注視しながら、個性で活力を奪われるしかないのだ。

 

 一気に活力が奪われることはなかった。だが継続して奪われ続ければ、まともに動くことも出来なくなっていく。

 

 

 

 「そろそろたおれた?」

 

 

 

 数分後、地下から風穴が空きよりみつせいが空中へ吹き飛ばされたと同時、ケロッとした顔で奪姫は地中から戻ってきた。

 

 

 

 ──と、同時に別の声が周囲に響いていた。

 

 

 

 (だっきー!きてー!とめるよー!あではよぶよー!)

 

 

 

 

 声ではなく電波、頭に響く声。ヒーロー側は活力を奪いきられまともな思考も危うい。声と誤認するのも仕方のないことだった。

 

「でんか姉?分かった!」

 

 快活な声を出して走っていく奪姫。奪姫の敵対意志が大きくなかったために足止めにだけは成功したものの、ヒーロー達は動くことすら出来なかったのだった。

 

 ■■■

 

 時は現実に戻り、奪姫、電花、ルミリオンは空を跳ぶ。デクの近くまでルミリオンへ投げられ、浮遊の個性で空へ着地する。

 

「ルミリオン!それに二人は!?」

「お母さんが心配だってさ!」

 

 奪姫と電花は、よりみつせいの真正面に立っていた。

 

 

「「おかーさん!」」

 

 

 遺伝子は繋がっている、子供たちの声。暴走する前ならば聞こえるだけで動きを止める程に情を持っている繋がり。ほんの少し前まで、正気なら成生の瞳の奥には必ず在る者。

 

 

 

 

「だれ?」

 

 

 

 

 ──今は、違う。子供に戻っている依光成生(よりみつせい)の中に二人はいない。中学生以降になってから作られた二人は、子供の時代に存在しない。

 

 ショックを受ける二人もまた子供。感情を隠すことなどまだまだ出来ていない。……母を取り戻すために戦う意志を示す感情を。

 

「ぅん?なにかすわれた?」

「これは!?元気が湧いてくる!?」

 

 全力で放たれる活力吸収。たった一人に向けられた威力は本来プロヒーローでさえ一瞬でミイラにするレベルだ。

 が、それですら今のよりみつせいには蚊に刺された程度。吸収した活力は電花どころかデクやルミリオン、壊理にも分けられ、疲労や傷さえも回復していく。

 

 

「じゃまするの?」

 

 

 先制した個性でさえマトモに通じない。しかし個性はあくまで手段の一つ、次の手のために奪姫は声を上げる。

 

 

「止まって!」

「ん!」

 

 

 跳ぼうとしてたよりみつせいはピタっと動きを止める。まるで親から命じられた子供のように。

 

 子供であることを利用する。一時的に止めるためなら非常に有効だが、完全に止めるためには使えない手だ。

 なぜなら、子供は我儘なのだから。

 

 

「何して遊んでるの?」

「んーと……オールマイトごっこ。あっちがはじめたの!」

「止めたら止まってくれる?」

「や!」

 

 

 嫌だと駄々をこねる子供。よりみつせいの行動は分かりやすかった。

 

 

「しょうがない……私たちが相手」

 

 

 奪姫の言葉でよりみつせいの顔が四人の方へ向かれた刹那、何かを感じ取ったよりみつせいは明後日の方向へ掴むように両手を伸ばした。

 同時、勢いよく飛んできた何かが激突し弾かれる。

 

 

 

「近くに居たからってひどくない!?」

 

 

 

 ほぼ不意打ちで飛んできたのは白い翼を生やした少女──Ms.ダークライの堕とし子、艶羽(あでは)だった。近くで個性を使い飛んでいたら電花から電波を飛ばされ、急いで飛んできたのだ。

プロヒーロー、ホークスの遺伝子から生み出された彼女の個性も近しいもの。何より特筆すべきはその速度。

 

「はやい」

 

 無邪気な顔をしていたよりみつせいが、思わずムッとするくらいには速かった。それも当然、翼を持つ艶羽は空こそが独壇場。地上では奪姫一人よりも能力が低いが、空中であれば堕とし子半数を相手取っても互角以上の戦いが可能になる。

 

 捕まえられない程に速過ぎる、たったそれだけの理由で。捉えられる唯一の例外は依光成生(おかーさん)であり、よりみつせいではない。

 

「っ!」

 

 艶羽に気をとられたよりみつせいへ奪姫がとびかかる。よりみつせいと奪姫では身体の大きさにそこまで差は無く、羽交い絞めにして両足も腰に捕まれば振りほどくのは困難になる。

 

 拘束とは力を抑え込むことであり、直接ぶつけられないようにする行動だ。純粋なパワーが頂点にあろうと、ぶつけられなければ意味が無いのだ。

 

「こっちはおそいけどっ!じゃ!ま!」

「ぐっ!どんどん力が増してる……!」

 

 加えて奪姫のパワーも相応に強い。まだ身体の操作に熟れてないとはいえOFAで言えば30%を優に超える。使い慣れれば80%すら超える潜在能力があり、吸収した活力を加算すれば100%とも対等に渡り合える。

 

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でありながら──拘束は今にも振りほどかれかけていた。

 

「皆!」

 

 奪姫の声に真っ先に反応したのは、ヒーローたちだった。デクが浮遊でルミリオンを音を消して飛ばし、デクは別の方向から強襲する。

 

「ぉよ?……あっ、そっち?」

 

 羽交い絞めにしようと、よりみつせいは依光成生だった。光速の反応速度は、正しく扱えるのならどうあっても先手を打てないことを意味する。

 

 接近するのは危険とデクは拳を開き空気砲へ切り替える。

 

「気づかれっ!?デラウェアスマッシュ!」

「たぁっ!ってだれ!?」

 

 頭突きするように空気砲を弾いたよりみつせいが、突如として視界を塞ぎ目の前に現れたヒーロー(ルミリオン)に驚く。

 

 依光成生とよりみつせいが最も異なる点、それこそは周囲の状況を把握し続ける能力の有無。

 

 依光成生なら気づいていた。よりみつせいだから気づけなかった。たった一瞬の隙──見逃す彼らではなかった。

 

「速達便!」「隙だよ!」

「あっ、なにして?」

 

 眼にも映らない速度で艶羽が電花を運び頭に飛びつかせる。ゼロ距離になったのなら、電花は最大出力でたった一人に個性を向けられる。

 

 よりみつせいの中に眠っているであろう、依光成生(おかーさん)へと声を届けるために。

 

 

『起きろー!』

 

 

 広範囲電波の個性がたった一人に収束して放たれる。近くに居るデクやルミリオンにすらキィン!と高音が聞こえる程の波。受信できる依光成生には、これ以上なく心身に、骨身に言葉が響き渡る。

 

 

 

 

「みみいたい……」

 

 

 

 

 それでも、よりみつせいは動きを止めるだけだった。

 

 

 

 だが今までの一連の流れでよりみつせいがどうなるのか……電花・奪姫・艶羽の三人は信じていた。だからこその、最後の一手のために奪姫は叫ぶ。

 

「艶羽!手を!」

「人使い荒いんだから!」

「わっ!?はや」

 

 

 奪姫と電花の腕を艶羽は掴む。電花、奪姫、艶羽が間接的に触れたことで、奪姫の個性が走る。

 

 

 浸透活力(いたいの)、触れれば活力を操れる応用。奪姫と艶羽の活力を電花に走らせ、三人分の想いを依光成生(おかーさん)へ届ける。

 

 

 

 

「「「全力全開!とどけぇっ!!!」」」

 

 

 

 

 活きる力を最大以上に増幅させて、子供たちの想いが電波に乗せられ依光成生(おかーさん)へ走る。

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 精神世界と呼ぶべき場所。そこにいた成生は──ほんの少し、たったほんの少しだけ思考が結論に辿り着いてしまってた。

 

 

 

「私の個性、『■■■■■■になる』だったんだね。分かるわけないなー……はは」

 

 

 

 結論に触れただけ、だというのに自らの身体(精神)が崩れかけているのが分かる。これがこれまで築き上げた心が壊れているのか、軋んでいるのか、それとも幼児にでも戻っているのか、成生には分からない。

 

 

 それでも単純明快なこととして分かっていることはある。

 

 

 

「……もう帰らないと」

 

 

 

 ここにいてはダメだということ。ここにいて思考速度を操作している限り、自らに待っているのは破滅のみ。

 

 

 

「■■■■わたしは見つかったかな……見つかったからかな」

 

 

 

 ()()()()()わたしがここにいれば、崩れて消えるだけだ。

 

 

 

『起きろー!』

 

 

 

 

 天からの声。誰からの声かも分かっている、どうやって届けたのかも分かっている、何故聞こえたのかも分かっている。

 

 

 だというのに、成生の顔は優れない。何故なら個性のせいで分かってしまうから。

 

 

 

「ふふ……ふ……起きたらここのことは忘れてる、忘れさせてるけど……思い出す時はきっと来る」

 

 

 

 第六感と呼べる直感ですらこの個性が及ぼした自身への影響の一つ。全能にすら思える個性。そんな個性だが『個性』なのだ、デメリットがある。

 

 

 それも個性の影響で分かってしまう。自らの未来も、起きうる結末すらも分かってしまうのだ。

 

 

 

「その時に、私が」

『とどいて!起きて!おかーさん!!!』

 

 

 

 身体が薄く透けていく。精神世界でだけ起きていた人格が現実に起きようとしている証拠だ。

 

 見ていた現実(自らの個性)から目を閉じ、何も見なかったと自らの心に封をする。

 

 

「私でいられることを、願ってる」

『『『起きて!依光成生(おかーさん)!』』』

 

 

 

 精神世界から消えていく。たった一つの願いを口にしながら。

 

 

 

 

 

「切島くんみたいな、普通の個性だったら……よかったのに……」

 

 

 

 

 

 

 依光成生の瞳から、一筋の涙が頬を伝う。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 現実では、よりみつせいが地上に墜落し、十数秒の硬直をしていた。()()()()()()()()()()()()()()()なお処理できない膨大な電波を無理やり頭にねじ込まれたことにより、処理しきれずにフリーズしたのだ。

 

 数秒も止まればデク達も動きを止めようと行動できたが、出来なかった。何せ動きを見せれば三人の子供が立ちはだかるのだから。鋭い奪姫の眼光が、分かりやすく示していた。

 

「あれ、私……」

 

 帰ってきた仕草、濁っていない澄んだ瞳。デク達はどちらなのか分からなかったが、彼らには分かる。

 

「おかーさん!」

「おかえりなさい!」

「疲れたぁ……」

 

 立ち上がり子供たち三人へ微笑む依光成生。それはかつて見たことのある表情だった。

 

「眠ってたみたいね。……なるほど、あなたが相手してくれてたのね」

「依光成生……!」

 

 言葉に出されようやくMs.ダークライが復活したのだとヒーロー(デクとルミリオン)は理解する。しかし表情は依光成生含め、皆優し気なものだった。

 

「壊理ちゃんをよろしくね。私たちはここまでで目的は果たした」

「待って!」

 

 壊理が声を上げ、デクはフルカウルを解く。100%フルカウルは指一本動かすこともできないのだ、敵意があれば屠られるだけだが、Ms.ダークライが戦うのであれば勝ち目は無いと言う意味でどちらでも変わりはない。

 

 壊理がデクから降り、口を開く。

 

「……ありがとう」

 

 目を見開く成生。照れくさかったのか顔を背け、すぐに穏やかな表情に戻る。まるで高校生の少女のような仕草に、デクとルミリオンはどこか親近感を覚えていた。

 

 返ってきた言葉も、ヴィランというよりヒーローらしいものだった。

 

「こちらこそ、かな」

 

 どこか安心させる声。依光成生という少女の本来の姿がそこにはあった。

 

「壊理ちゃん、頑張ってね」

「……うん!」

 

 ヴィランの手から離れた者を応援する。それもヴィランには狡猾なものでもない限りあり得ないこと。しかし依光成生は平気で口にする。なぜなら声を届ける相手は敵対する者ではない(一般人である)のだから。

 

 当然、ヒーローやヴィラン(敵対する者)は別だ。デク達へ向けた視線のように。

 

「何をするつもりだ」

「少しだけ籠って……その間は子供たちを自由にさせるってところかな?艶羽まで出てきちゃったから……皆遊びたくなるでしょうし」

「子供……()()?」

「ええ、皆私が作った子供。遊び相手にはなってくれたんでしょう?……面子にはいないか、イレイザーヘッドにでも聞きなさい」

 

 話はそれで終わりと身を翻し、成生は使()()()()()()()()()()()()を使う。本来指定した人を瞬間移動させるように使う筈の個性は、黒霧のようにゲート状に開く転送門とでも呼ぶべき個性へと変わっていた。

 

 成生は首を傾げながらも使い方といった認識は合っており、現実と認識がズレていることに一瞬だけ困惑する。

 

「あれ?随分と使い勝手が変わって……即効性は死んでる。……まぁいいか」

 

 ただ問題にはならない。自らが使ってきた感覚と同じなら結果は同じになるのだから。

 

「電花、奪姫、艶羽、先に行きなさい」

「「「はーい!」」」

 

 三人が転送門をくぐりワープしていく。呑気な三人の様子と真逆の、鋭い視線を成生は感じていた。身体を半身だけ向け、顔を視線の主(デクとルミリオン)へ向ける。

 

「感謝の一つはしておきましょう、デク」

 

 成生の感謝の言葉。普通のヒーローなら戯言であると反応したり、驚いたりとする。が、ここにいるのは並のヒーローではない。

 

 二人は、ただ警戒を解かずに対峙するだけ。ただ、疑問を口にするだけだった。

 

「……何故、銃弾を受けたんだ」

 

 デクはフルカウル100%を使えた。だからこそ分かる、Ms.ダークライは例えほぼゼロ距離だろうと、完全にゼロ距離でない限り避けられる身体能力を持っている。

 

 受ければただで済まないのは関わった当人であるMs.ダークライとオーバーホールが一番知っていることだ。故にデクには解せなかった。

 

 デクの言葉に成生は微笑みながら返答を口にする。

 

 

「そうした方が良いと思ったから、それだけ。こうなるとは思ってもなかったけれど」

 

 

 なんとなくそうした方が良さそうだったから。ふわふわした感覚にイラつきそうになるも、堪えてデクは質問を……デクにとって一番大事な質問をかける。

 

 

「エリちゃんは、お前を助けてって言っていた。僕は、救けられたか?」

 

 

 目を閉じ、一息吐き、再び目を開く。成生の一動作だけだが、それだけで逡巡したのが壊理には分かる。

 

 思考を加速できることを壊理は以前に成生と話している時、聞いていた。ほんの少しの時間稼ぎは成生にとって恐ろしく悩む時であることも。

 

 壊理のために悩んでくれる。壊理にはそれだけで十分だった。さらに、答えもまた壊理だけは正しく受け取る。

 

 

 

「私自身の意志で言うなら答えられない……けれど直感だけでいいなら答えましょう──イエスとノー、どちらでもあると」

 

 

 

 デクとルミリオンの表情は硬く、対照的にエリの顔は綻ぶ。事情を知る者と知らない者の差であり、壊理は気づかずに声を出していた。

 

 

 

「よかった」

 

 

 

 どういうことだと口にしたい気持ちを抑えきれず、デクとルミリオンは一瞬だけ目線を壊理の方へ向ける。

 

 電花という友達を持った壊理は知っている──成生が壊理のために悩んでいたこと、自らの(個性)に苦しんでいたこと。それらを壊理に隠していたことを。

 電花という友達を持った壊理は知っている──成生は()()()()()()()()()()()()()()を是とすることを。例え巻き戻されようと、性格は変わらないことを。

 

 デクの想いと壊理の想いは似ていたがすれ違っていた。目的は同じように聞こえるだけ──即ち、『依光成生を救ける』こと。

 

 デクは逮捕しヴィランから足を洗うことだったが、壊理はそうではなかった。だからこその「よかった」だった。

 

 もちろん、成生にも伝わっていた。照れくさいがために、早くこの場から離れようと声を出す。

 

 

「壊理ちゃんは優しいね……。デク、早くその力を使いこなしてくださいね。私のヒーローに負けてしまいますよ」

「何を」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、他の人から目移りされたくないんです。

 

 他の人はオールマイトの後継者(あなた)だけ見てればいい」

 

 

 デクはグッと口を引き締めながらも、頭の中では言葉の意味を検索していた。ルミリオンもまた同じく……そして、デクよりも早く予測に辿り着く。

 

 しかし口にはしなかった。今は成生を刺激しないことを優先したからこその判断だ。

 

 

 

「要するに……私のヒーローのために強くなってくださいね?ヒーロー」

 

 

 

 依光成生がゲートの中へ消えていく。少しずつ黒く染まっていく後ろ姿に、涙ぐんだ叫びが響く。

 

 

 

「成生お姉ちゃん!忘れないから!」

 

 

 後ろ姿からでも分かる、口角を上げた様子。数舜だけ視えたそれは、黒く染まりゲート事消えていく。

 

 

 

 

「……切島くん?」

 

 

 

 

 残ったのはヒーローの呟きだけ。No.1ヒーローの後継(助けを求める者のヒーロー)が、Only1ヒーロー(依光成生のヒーロー)の名を口に出していた。

 

 

 

 




次回かその次辺り、ナイトアイ(情報系チート)が生き残った上に混沌要素が消し飛んだので成生の個性がバレます

ちなみに未来予知が見えなくなってたのはだいたいオールフォーワンのせい。どっかの設定で書くかも

オールマイトが引退してれば成生がNo.1ヒーローになってましたが、成生とオールフォーワンとの接触がないため未来も固定化。ナイトアイは原作の未来予知対応へ

引退してないので成生とオールフォーワンが接触。未来がふわふわに。ナイトアイの未来予知はなんかよく変わってしまうことに。逆にナイトアイは未来は変えられると元気な対応へ
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