「なんかよく分からないけど退院してきた」
「「「何で!?」」」
死穢八斎會との激突の後、一日程病院に入院した切島は退院して寮へ帰ってきていた。
乱破による全身殴打で全治一週間以上は確定レベルのダメージだったのだが、異常な回復力を示した切島は一日で回復しきっていた。
ファットガムはまだ入院中、サンイーターは傷こそないものの食べたものが食べたものだ。検査が長引いていた。
本来なら切島も異常な回復力のせいで検査が長引く予定だったが、通院するという形で一足先に退院したのだった。
「すっごい重傷だったよ!?身体全部グルグル巻きになって!」
「なんか一日で治った」
「治癒の個性でも使われたのか!」
「いや、自前」
摩訶不思議な現象。当然個性の介在を疑うのだが、それも今回は無い。
ただ切島本人の体調は、分かりやすく変わっていた。
「俺も分かんねぇけどすげぇんだ。身体の底から力が満ち溢れてくるってこういうことなんだな」
まるでよりみつせいとの戦いでデクやルミリオンが奪姫の活力操作で常に絶好調が維持されていた現象だ。が、切島は奪姫とマトモに相対しておらず、奪姫の影響があるというならまだウラビティの方がその可能性は高い。
もっと
「依光成生に何かされた、ってこと?」
「んん?何で成生がそこで出てくんだ?」
ただ切島は倒れた後何も聞いていない。緑谷の疑問、自分自身の体調に依光成生が関わっているのは知らないことだ。
依光成生本人から切島をどう思っているか聞いていた緑谷は、極自然に口に出した。
高校生の思春期には、爆弾の発言を。
「
しん……と音が消えたかのように静かになるA組一同。男子も女子も、
分かりやすく──恋しているのだと。
「それしかないでしょ!」
「え!?もしかして切島くんにぞっこんなん!?」
「ヴィランとヒーローの恋物語……!切島くんなんてことを……!」
一大恋愛ストーリーの映画設定かと思わせる関係性に、思春期真っ盛りの高校生が食いつかない訳が無かった。
そしてその当人はというと──
「え!?いやそれはその……その……」
──満更でもない表情をしていた。分かりやすい反応は燃料となり、恋愛……というより女生徒の関係には特に燃える
「「事実かよお前ぇぇ!!??」」
キャーキャーと沸き立つ女子達と憤りに震える二人。他の男子は納得した表情をしていた。
「ケッあのモブ女のどこがいいんだか」
「といってもあれは惚れたとしてもおかしくない」
「綺麗だなとは思うが」
「茨の道だろうが、クラスメイトとして応援してやるべきだろう」
爆豪、常闇、轟、障子と一度遭遇した男共は口々に想いを零す。なんだかんだ言って、彼らも思春期の男子だった。
もちろんその空気を読めない者もいるのだが。
「切島くんと何があっても彼女はヴィランだ!捕まえなくてはならない!分かってるだろう!」
空気を切るように飯田が真面目な声を上げる。女子達は少しずつピンク色の声が落ち着いていき、飯田の真面目さに応えるように切島も決意を口にする。
「ああ。成生は俺が止める」
……繰り返すが、ここにいるのは思春期真っ盛りの高校生だ。それも
「で、どこに惚れたんだ?」
大恋愛レベルの恋バナを、見逃してくれるわけもなかった。
「眩しいんだ、笑顔が。俺だけしか見てねぇ笑ってるとこ。敵にした時の目は哀しかったから……もうさせたくねぇ
あとぎゅって抱きしめられた時とか膝枕も柔らかかったし……あ」
空気が凍る。思春期でも初心な者も多いA組には、成生と切島の関係性と進み具合は刺激が強過ぎたのだった。
「ちょっとこっち来い」
「今何て言った?膝……何?返答次第では個性を使うことも辞さない」
当然男子には憤怒に至る二人がいる。肩を掴まれながらも「後で」と切島は軽く返していた。
「女友達ってそんなことするのか」
「轟……」
「切島は進んでるな」
他の男子は天然の轟に呆れた視線を向けたり、男として羨む目を向けたりしていた。
そして男子よりも女子に初心なのが多いのがA組の特徴である。
「あわわ……そなに進んでたなんて」
「ヴィランって敵だよ、三奈ちゃん。スゴイ敵だよ、ライバルだよ」
「何で私!?」
「殿方のお誘いとはあのようなことをするのですか?」
「ヤオヨロも憧れる?」
キャーキャーと姦しい様子にたった一人、爆豪だけはくだらないと他所を向いていた。
「……ケッ」
ただ、成生に被害を受けた者として、トラウマを克服するためにも、話を聞かない訳にはいかないのだった。
■■■
時間は少し飛び、数日後の雄英の授業中まで飛ぶ。林間学校でやった個性伸ばしは継続して行われており、イレイザーヘッドが担当して授業していた最中のことだった。
イレイザーヘッドはいつも通り成長具合をデータにし、生徒それぞれに合わせた成長を確認していた。担任であり、誰よりもA組の生徒のことを知っているために
「切島、随分と調子いいな」
「そっすね。何でか分かんないです」
「個性もグングン伸ばせてる。これは中々やる……はぁ、間違いないか」
生徒の成長にイレイザーヘッドは頬を綻ばせ、ため息を一つ吐いて確信を得る。
一日前に呼び出され聞いたこと。その影響が最も反映されている人物は間違いなく目の前の生徒なのだ。良くも悪くもある予想が事実となったなど、ため息の一つも出てしまうものだ。
「切島、放課後にDグラウンドに来い」
担任として、プロヒーローとして、依光成生と相対する者として相澤消太、イレイザーヘッドは口にする。雰囲気に切島は思わず叱られると感じ取っていた。
そして放課後、二人の姿がDグラウンドにあった。切島は困ったような表情を、イレイザーヘッドは真面目な顔をしていた。
「俺何かしたっすか?」
「お前は悪くない。悪いのはあの女だ」
イレイザーヘッドの一言で切島は察する。鈍感気味なところもある切島だが、何故だか今は勘が良かった。
大怪我だったが一日で回復した、調子が良い、個性の伸びが非常に良い。そしてそれらが目に見える程に分かりやすく出たのは─死穢八斎會との戦い、ひいては成生に会った後からだ。
「成生……の影響が俺に?」
「その可能性が非常に高い。お前、硬化できるのは15分だけだっただろ」
「はい」
切島の個性「硬化」はただ硬くなるだけの個性だ。持続時間も15分と長くはないが、それ以外のデメリットは無いとも言える。
逆に言えば、持続時間が延びれば純粋に強くなれるのだ。しかし使用時間は個性そのものの
「それ以上使ってみろ」
「は?え?できないと思いますけど……」
だがイレイザーヘッドは破れと口にした。個性とは身体能力に近いが、これは人の限界値を超えろと言うような指示だ。
相澤自身の個性『抹消』で言うなら目を瞑れば個性が使えなくなることを止めろと言うようなものであり、今相澤自身が言ったことを自らに言うなら「目を瞑るな」ということ。
生物的に不可能なこと、しかし相澤はできると認識しており……故に命令として告げる。
「いいからやれ」
「はい」
15分後、切島の硬化は問題なく続いていた。
「……まだできそうです」
「マジか」
30分後、15分の時の姿と同じ、変わらない様子だった。
「何時までできるか分かるか?」
「多分、一時間くらい?」
「……合理的でないが仕方ない。個性自体に影響してるなんて調べないといけないからな」
「すみません……」
「悪いのはあの女だ、お前じゃない」
1時間後、脂汗をかいている切島の姿があった。以前の切島の、硬化が解ける直前と同じ表情だった。
「……解けるギリギリ、って感じです」
「ってことは個性伸ばせば時間も伸びるか」
「この感じは、そんな感じです」
硬化を解き、相澤はため息をつく。切島は頭がキーンとし息切れしながらも、相澤が呟いた言葉は耳の奥に届いていた。
「はぁ……ふざけた個性をしているな、あの女。個性自体に影響し、強化さえもできるのか。
間違いなく指先が光る個性は副次的なものか。それでいてあの個性の伸びよう……恐ろしいな」
「あの」
相澤の呟きに切島は割り込む。聞き逃せない言葉が紡がれていたのだ、口を挟まない訳にはいかなかった。
「あれは多分副次的じゃないと思います」
「ほう?」
相澤は興味津々であり、切島は目にギラリとした光を灯して息を整える。
「だってあの光に皆惹きつけられてる……てますから」
「なるほどな。言いたいことは分かる。
ヒーローもヴィランも、市民も身近な人ですら惹きつけてる。まるで社会で一番目立てるように。
そしてそれはお前があの女から聞いた目的……社会を壊すのに向いてる個性だ。目立つ者が社会に歯向かい壊す、これ以上ない最適解だろうよ」
丁寧に言い直す切島に、相澤は自身の彼女への感想を口にする。目的に沿ってそうなったと言うべき個性。丁度いいと相澤は機密クラスの情報を切島にだけ伝わる声で伝える。
「今回の件で情報が集まってきた。あの女の個性も少しずつだが予想ができ始めてきている」
「それは?」
「まだ予測段階だがな。自らの個性に影響できる個性であるなら……外部から取り入れれば自らの個性に変容もできるだろう。
指先が光る個性は……例えばあの女の母親の個性が両腕が光る個性だったように」
「……!」
そして強大さは先日に証明されており、デクの100%ですら届かない程だ。だからこそ予想できることもある。
「そしてその変容範囲の拡大もできる可能性があり、今回成されたと予測できる。考えたくなかったが……視ただけで個性の模倣も可能だろう。
オールマイトごっこ、だったんだろ?」
「……聞いた話では」
デクの100%を模倣したのか、元々持っていたのか分かっていない。
ただオールマイトの姿は5歳以前ですら子供なら誰でも目にする。オールマイトの全力とデクの全力は同じであるなら、超えられる個性を持っているなら、デクの全力を超えることは不可能ではない。
そしてもう一つ。個人レベルで見ればオールマイトの全力と近いのはオールフォーワンの全力だ。彼らの個性は『個性に干渉する個性』である以上、ヒーローが彼女も同質の特性を持っていると予想するのは必然だった。
「そこから予想できる個性の一つは……お前にだけは教えておこう。
『個性を創る』個性だ」
「──は?……なんすかそれ?そんな個性……無敵じゃないっすか」
笑えない冗談だという表情をしながら肩を震わせる切島。
そんな個性があってたまるかという現実逃避、そんな個性があったらどうしようもない敵であるという絶望、成生が持っているという理不尽な運命に対する怒り。切島の中にあるのは全部だ。
相澤は淡々と仕事だと言うように言葉を続ける。ただ、どこか言葉は震えているようでもあった。
「強力な個性には大きなデメリットが存在する。忘れたか?
それを克服できてないのはお前も目にしているだろう。
……あの瞳を」
二人が思い出すのは混沌の極致とでも呼ぶべき瞳の色をした姿、Ms.ダークライ。
そして切島は笑った時に見せた綺麗な瞳も同時に思い浮かべる。二つとも彼女が見せた姿であり、片方が片方からかけ離れた姿でもあった。
騙しているのではなく個性による影響で全く違う姿を見せた可能性。提示されれば切島にはどちらが偽物だとは思えず、どちらも本物で個性によってそうなっているとしか思えなかった。
さらに相澤は続ける。個性の影響はそれだけではないことを。
「おそらく個性の影響はそれだけじゃないと俺は思ってる。それだけなら全盛期のオールマイトとオールフォーワン相手にして勝てるなんて言えないからな。
もっと致命的な何かがある。何かは分からんが」
しかし分かっていないと口にしていた。デク達が戦ったよりみつせいは致命的なまでに個性に影響された結果だったが、切島には伝えていなかった。
相澤自身も確信が無いのだ。例え伝えた未来が分かったとしても、生徒の未来である以上簡単に口出し出来なかった。
ただ、彼女の個性は危険なことを切島には伝えなければならないと認識はしていた。昨日聞いたこともあったが、仮に先んじて知れたなら同じことをしただろう……理由は簡単だ。
「……俺に教えてくれたのは」
「あの女──依光成生がお前を
ヴィランを特定の個人をヒーローと呼ぶ。それが意味することは、そのヒーローに重い感情を持つという宣言だ。
もちろん自らが敵対したいから覚えておくという意味があるのも否定はしない。だがそれも、そのヒーローのことを覚えておきたいという意志表示とも言える。
「あの女のヴィランとしての本質も今回の件で見えてきた。
言うなれば……エリ以上の凶悪性とオールマイト以上の強大さを併せ持つ個性を持った、自らのヒーローの素養を理解している我儘で繊細な女の子だ」
「わがままで繊細……ですか」
その通りだなと切島は苦笑する。もしまたショッピングモールで会えたなら振り回されながら付き合うだろうし、あんまり強く言うとショボンとする姿が目に浮かぶ。
的を得ている表現というのがしっくりくるものだった。
「そうだ、ヒーローごっこできるけどできないって癇癪起こしてるガキみたいなもんだ。ただ個性だけはバカでかく……だからこそ個性に呑まれてる」
「そう言うと個性に振り回されてるだけの普通の女の子ですね。あと……エリちゃんに似てるってのはありそうです」
切島が個性に振り回されているというワードから連想した人、頭に浮かんだのは緑谷だったが直近で印象にあるのはエリだった。
男女の違いもあるが、暴走するかどうかの違いが大きい。緑谷は暴走しないが、二人は個性で暴走するのだから。
「……分かったか。あの女はヴィランだが、それは個性を利用されないためにヴィランになってるとも言える。今回で言う、エリが個性も使えてある程度成長していれば同じ道を歩んでいたかもしれないな。成長したエリならオーバーホールすら一瞬で戻し殺せたことだろう。
貴重な個性は誰にだって狙われる……だから、自分自身で全てを捻じ曲げれる程に強くなる。非合理的だが結論は合理的だ。
それが何を意味するか分かるか?」
「えっと……分からないです」
貴重な個性であることは強大であることとほぼイコール。しかし切島の個性は平凡な個性であり強大でもない。貴重な個性を持っている人物が思うことは分からなかった。
だから、相澤の続いた言葉は理解できなかった。
「あの女は成長する以前までのヒーローを見限ってる」
「!」
「プロヒーロー全体を諦めて見ていると言ってもいい。あいつらは私を助けることはできないってな」
社会を見渡しても助けてくれる者がいない。それがどれだけ恐ろしいことなのか切島には分からない。
だからこそ強くなる……気高いと、強い人だと思った。そのために個性を鍛えて……その先にあるのは、
切島には分からない。依光成生がいる場所は普通の感性では到達し得ない場所なのだ。
だが分かることもある。自ら望んでそこに到達はしていない、望んでなどいないということだ。でなければ瞳の色があんな色にはならない。
きっと自らが変わってしまっても、そうせざるを得ないから変わった。そんな、環境によって生まれたヴィランなのだろうと、切島は認識していた。
「……自分が強くなるってそういう」
「舐められたもんだ。だが正解であり誰もあの女を見ていなかった。エリと同じ、ヴィランが活性化されて初めて見つかるタイプの人間だ。事実、普通の学校に潜伏して気づけてなかったしな」
「プロヒーローでは、助けられない?」
「舐めるなよ切島。何度苦汁を舐めされられても最後に勝つのがヒーローだ。
だがそこにお前が居なきゃならん。それだけは覚えておけ」
コクリと頷く切島。その瞳には強い光が宿っていた。相澤も切島の顔を見てほんの少しだけ口角をあげる。
「……エリと同じであるということは対処方法も同じということになる。
厄介なのは個性だけだ、個性さえ何とかなればおそらくだが癇癪も収まる。そしてヒーローみたいになりたかったってのはあるんだろうな……個性の磨き方が尋常じゃない」
本来ならヒーローサイドであり志望している人間、ならば個性を鍛えるのは当然のこと。
警戒すべきであり解決しなければならないことだが、切島は眉をひそめていた。
「それもありますけど……ちょっと違う気がします」
「ん?」
切島が考えていたのはただの直感によるもの。まるで成生の如く答えに一直線に向かう第六感。純粋な成生は個性を疑わないが故に直感を信じて言葉にでき、切島は成生のことを想うからこそ直感をそのまま言葉にできる。
「個性が厄介なのはそうかもしれない。けどそれ以上に……成生のことを知らないと戦えない気がします」
「それは感情か?」
「勘です」
相澤は成生の放った言葉を全ては知らないが、知っていることもある。直感的に行動していることは公言していることであり、目の前の生徒はどこかダブって見えていた。
「ふむ……上に打ち上げておく。お前以上に依光成生のことを理解しているやつはいないからな」
「へへ……」
照れくさそうに笑う切島に相澤は苦笑する。相手が相手とはいえ教え子の恋愛であり、成就してほしいのは感情の一つとして持っていた。
ただ難し過ぎるのは明白であり、先生として・男としては無責任気味に頑張れと言う他ない。
「明日からは個性伸ばしもっときつくするからな」
「ありがとうございます!」
走って教室へ戻っていく切島の後ろ姿を見つめる。相澤は昨日聞いていたことと、今聞いた個人の意見がほぼ一致していたことにため息を吐いていた。
「はぁ……
本当の個性があれだったら……悪夢としか言いようがないな。
こっちも、あの女も」
相澤──イレイザーヘッドは昨日のことを思い返しながら呟く。余りに衝撃的な事実だったが故に話していた者達以外誰にも話せない真実。それが示す未来は変えるべき結果。
「恋心は成就させてやりたいが……今のあの女は無理だろうな」
未来は変えられる。それを示した
アフターはあとナイトアイ編とエリ編があります
次回・ナイトアイ編にて成生の個性が判明します。生き残った
未来を変えられるかどうかは別の話ですが