ナイトアイは目を覚ました。そしてデクやルミリオン、バブルガールといった数人がお見舞いに来ては帰りを繰り返して二日ほど経ち、ルミリオンだけになった際に試しにと個性を使った時だ。ナイトアイはオールマイトと共に歩んでいた時以来の感覚を味わっていた。
「未来が、固定されている」
依光成生が生まれた後には中々無かった風景。未来で見えるテレビの風景が同じであるというものが予知しえていた。
ルミリオンがナイトアイ事務所に来た時には既に視えなくなっていた光景。故にナイトアイもルミリオンに伝えておらず初めて聞いたと驚いていた。
「そんなことが?」
「Ms.ダークライに何かあった……いや、あの戦いの後遺症とでも呼ぶべきか」
あの戦いで未来が決められた。そう考えるのが自然であり、決めたのは確実に依光成生だ。
依光成生に起きた事象を考えればメンタルに多大な影響を与えられたとしてもなんらおかしくない。それが未来を固定化させたとなれば、ナイトアイの予知で視えた未来を変える方法も見えてくる。
それは未来を変えられるほどの力と意志を収束させること。成生のように力が突出していれば気まぐれな意志によって未来は変えられ、意志が強大でも変えられるほどの力が無ければ変えられない。さらに意志は衝突する関係性も持っている。
途轍もない情報だが、ナイトアイはそれ以上に危険な情報を手にしてしまっていた。
「だがおかげで分かった。未来の話だが、奴の本来の個性を知れる機会があった」
「それは!?」
未来が視えるということは未来に個性を話すような機会があれば先んじて知ることができる。ただ未来が固定化されているということは、言いふらしても問題ない程に未来を変えさせない意志が働いているという意味でもある。
さらに知り得た事実は、
「今は、多くの者には話せない。話せるのは……ルミリオン、今から話す面子くらいだ。集めてくれ」
「なぜ……いや、分かりました、サー。日にちを改めて連絡します」
ナイトアイの病室は個室。人払いも難しくないことだった。
数日後──相澤が切島に伝える前日、ナイトアイが集めたのはルミリオン、グラントリノ、イレイザーヘッド、塚本の四人。イレイザーヘッドを除きオールフォーワン対策のために集められる面子と同じだった。
人払いされ盗聴や盗み見といった対策を終え、四人はナイトアイへ視線を向ける。
「やつの個性が分かったというのは本当か」
「はい。ただ情報を伝える人は制限させて頂きたい。ここでの会話も他言無用です」
グラントリノの言葉にナイトアイは真っ先に箝口令を敷く。四人も集まった面子から、あまり話せない内容だと察していた。
すぐに静まり、同時にナイトアイが口を開く。
「理由は……個性が強大なだけではない、彼女の個性は影響力も強大なのです。それこそ、今話していいのかすら悩む程に」
「影響力……?」
コクリと頷くナイトアイ。まだ身体がボロボロだが多少のリアクションくらいはできる。
影響力。他者が他者へ与える能力であり、憧れや嫉妬といった関係性へ与える力だ。成生がヴィランだからではない、成生の個性が影響するのだ。
「やつの本来の個性は他人への影響も大きい。多くの人に注目されるなんて状態になった時点でマズかった。
やつを目にするだけで他人へ影響を及ぼし、自らにも影響を及ぼす個性なのです。……良くも悪くも」
「その影響は」
イレイザーヘッドが食い気味に疑問を口にする。見ただけで影響を与える個性など洒落にならないから当然のこと。ましてやイレイザーヘッド、相澤消太は教師であり生徒に悪影響を及ぼされては困る立場だ。
生徒には、
「ヒーローはよりヒーローとしての能力を高くし、ヴィランはよりヴィランとしての能力を高くする。言わば、自らの理想になりたいようになる。望むのなら
おそらくだが……奴の近くに居ればいる程、もしくは個性が強大であればあるほど影響力は大きくなる。
それだけ多くの人に影響を与える個性ともなれば、未来が読めないのも必然だったのでしょう」
ナイトアイは目頭を抑え、悩ましいと仕草に表しながら成生の個性の影響を言葉にした。
本来の切島なら乱破のラッシュで即割れる。本来のデクならフルカウルを30%も使えない。本来の未来は全て改変されている。
オールフォーワンやオーバーホールといったヴィランがより強大にならなかったのは限界を超えることを躊躇ったからだ。慎重であったり狡猾であったりと自らの限界を既に自ら決めてしまった者達には、性格はともかく個性へ与える影響は皆無に近かった。
しかし自らの理想になりたいように進ませる影響が必ずしも良いものとは限らない。何故なら自らの理想は自らにとって正しい成長とイコールではないこともあるのだから。
「それの……あ」
「悪いところが見当たらねぇが?」
察しがいい者が多いとはいえ流石に分かりづらかった。ルミリオンとグラントリノが会話を遮り合うように疑問を口にする。
「理想に近づくということは一時的に視野が狭まるようになる。事実、我々はやつをMs.ダークライというヴィランとしてしか見られなくなりつつある。
依光成生は、少女ではなくヴィランとしてより強く見えるでしょう?頭に靄がかかる程に」
ナイトアイの答えは明快なもの。自分たちに降りかかっている影響も正しく認識していた。
言葉を受けて全員が依光成生のことを考えようとする。真っ先に見えたのは、指から黒い光を放つ黒いドレスを着た
続けて依光成生が制服姿だった頃を思い返そうとするも、靄がかかったかのように思い出せなくなっていた。
「……確かにな」
全員の表情が険しくなる。影響が明確に自分に降りかかっていると認識できていた。
ただ影響がそれだけなら大したものではない。ヴィランをヴィランとして見れているのだからヒーローとしては正しいとも言える。
しかし未来が視えるナイトアイだけは、それこそが致命的なのだと分かるのだった。
「そして間違いなく、やつをヴィランとして見た者にはやつはヴィランとしての顔を見せる」
「……マズいなそりゃ」
対ヒーローにおいて依光成生は
逆に依光成生であればヒーローのような素養があるのは分かっている。故に感情的にもなったりと気まぐれになったりと弱点だらけにも近い。
結論は、ナイトアイの口から語られた。
「予知で視れた最大の影響力がそれです。やつが注目を集めれば集める程にやつはヴィランとして完成されていく。
そしてMs.ダークライというヴィランに勝てる存在は、いない」
Ms.ダークライに戦闘において勝てる者はいない。複数人でかかろうが同じこと。それはここにいる面々はよく分かる。
神野で
「行きつく先は……もう示されている、か」
塚本が口にし、頭に浮かんだのはオールマイトとオールフォーワンが負けて倒れた姿。神野でひれ伏した、悪夢の如き光景。未来に再び起き得る光景であるならば、ヒーローとして絶対に避けなければならないものだ。
だがナイトアイが知り得たことは影響力という一点だけに留まらない、むしろここからが本番。
ナイトアイが知ってしまったことは依光成生という人間の個性だけではない、特性もまた視えていたのだ。
「さらに悪いことは個性以外にもう一つ……やつの身体。あれは危険です」
「……危険?」
「やつの身体は……例えば髪の毛を口にするなりして身に宿せば自らの限界を優に超えられる。雄英のプラスウルトラという教えじゃない、個性の限界すら打ち破れる。
何せ彼女は……その気になれば個性を複数持てる上に、上限は無いのです」
全員の顔が驚愕に染まる。危険どころではない情報に、理解へ時間がかかっていた。
オールフォーワンやドクターがマスターピースと呼ぶ特性。さらにはそれが制限があるとはいえ譲渡も可能になるとなれば危険という言葉ですら生温い。
捕まえてモルモットにするなり……少なくともタルタロスに送るべき人物だ。死亡したとしても特性が残るならさらに面倒であり、ヴィランにとってみれば貴重どころではない。利用可能な聖遺物となる。
グラントリノと塚本はタルタロスでオールマイトとオールフォーワンが話していた内容を知っている。オールフォーワンが依光成生を救世主と呼ぶべき存在と言ったことがようやく理解できつつあった。
「そりゃ誰もが欲しがる訳だ……影響力が極大な上に、自らの身体の一部を報酬に使えるってか。ヴィランなら誰だって喜ぶ」
オールフォーワンはそれはもう喜んだことだろう。研究できれば自らの夢が叶う存在だ。
ただ研究出来なかった。マスターピースは個性込みの特性であったためだ。個性が正しく理解できていなければ特性を研究しようとしても弾かれるのみ。
言い換えると──オールフォーワンですら成生の個性を把握できなかったのだ。だからこそ研究対象の成生を殺す訳にはいかなかった。そしてそのまま影響力を多大に受けてしまい、
ヴィランの女王であるMs.ダークライとして依光成生を見てしまえば、
「打開策は?」
「今は手だし出来ん……が、未来は固定されている。やつが影響力を失っているのか、それとも自らにも影響を及ぼしている個性の影響なのか……」
塚本の疑問に判断できないとナイトアイは告げる。いくら未来が視えるとはいえ処理が追い付かないことだってある。10秒の動画を処理するのに10分必要な場合だってあるのだ、情報量が多いためナイトアイでも整いきれてはいなかった。
本来なら情報を整えてから動くのがナイトアイだ。ただ今回は、早く共有すべきだと感情が叫んでいた。
ナイトアイらしくないとグラントリノと塚本は見るも、昔のナイトアイはこんな時もあったと思い返す。オールマイトのサイドキックだった時代は、先走って情報を得た時はこんな時もあったっけと少しだけ懐かしむ。
懐かしむような空気になりかけたのを切ったのは、イレイザーヘッドの言葉だった。
「見た未来は変えるべきか否か、どちらです?」
「……変えるべきだ。だが変えるべきではないとも言える。
悪くない未来ではある。だが被害が余りにも、余りにも大き過ぎる」
何もしなければ訪れるのは被害が大きくもナイトアイが納得できなくもない未来。だが余りにも大きい被害となればヒーローとして許容できない。
ナイトアイは気づいていなかったがその選択は……皮肉にも、かつてオールマイトへ自分が勧めた選択に近いものだった。
かつてオールマイトが選ばされたのはNo.1ヒーローがいなくなれば被害は一時的に起きるも成生がヒーローとなり救われる未来。それをオールマイトは拒絶したため被害は抑えたものの成生はヴィランとなった。
今回は何もしなければ莫大な被害が出るものの成生について悪くない未来。だがそれを拒絶し被害を軽減しようとすれば間違いなく成生にとって悪い未来になる。
唯一違うのは未来を変えられる程の力をナイトアイが持っていないこと。故に選択肢は限られていた。
「イレイザーヘッド、烈怒頼雄斗には個性が危険であることは教えてください。詳細は、ダメです」
「分かった。丁度雄英の方で個性を予想してるからそっちを教える方向でいく……で、大丈夫です?」
「お願いします。影響が最も大きく表面化しているはず、何せ……彼女のヒーローですから」
成生の影響力に乗っかる。未来を変えるのに最も手っ取り早い方法は成生の力や感情に干渉することだ。何せMs.ダークライは簡単に未来を変えてきたのだから。
そして最も成生に影響を与えられるのは、
ただ、成生に影響を与えられるのは一人だけではない。
「未来へ話を進めましょう、彼女を止める方法はある。我々に風は吹く、その切符がこれだ」
「手紙……?」
一昨日ナイトアイが夜風に当たりたいと夜に窓を開けていた時に入ってきた一封の封筒。そこに入っていた手紙の内容は、未来を変える力に繋がっていた。
「依光成生の本来の個性──『なりたい自分になる』個性。常に身体そのものが変わり続け常に影響を及ぼし続ける個性であり、『なりたい自分になる』ことで他者の視線……つまりは感情や個性にも影響を及ぼす個性だ。
今は
その大元となったであろう力、よりみつせいと戦ったことで真正面から打ち破るのは不可能と見ました。ならば別の角度から攻める。使える手はいくらあっても足りない」
何せ依光成生は恋する乙女であり同時に──
「例え、ヴィランに頼ろうともだ」
手紙の差出人には、艶羽という文字が書かれてた。
ようやく開示されました。成生の個性「なりたい自分になる」
「なりたい自分」という異形系の個性です
これは初期プロットから決まってました