普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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ヒーローサイド 死穢八斎會編アフター エリ編

 相澤と切島が話していた数日後、エリがアライアンスにやってきていた。

 

 エリはよりみつせいとの戦いにおいて全力で個性を使ったが制御できなかった訳ではない。むしろかなり繊細な制御を行っており、知恵熱で一日ほど眠っていたがそれだけだった。

 

 問題はあった。保護者がおらず、なおかつ強大な個性を持っているのは見過ごせないところだ。孤児院にいれても再び同じ悲劇が行われる可能性は十分以上にある。

 

 

 故にとられた措置は、イレイザーヘッドの保護観察下におかれるというもの。

 

 

 エリの個性が暴走しない確証が──依光成生にはあるが──ヒーロー側にはないのだ。ならば選択肢は『抹消』できるイレイザーヘッドの下以外にない。

 

 そして相澤がアライアンスに連れてきた狙いは、保護してすぐに表面化した問題、エリの笑顔が見れないということにあった。

 

 大事な人(依光成生)と離れた影響もあるが、何よりオーバーホールの実験台にされていたのだ。笑い方を忘れていても何ら可笑しくない。

 

 保護したエリと話した相澤は既に暴走しない確証をしており、ならばと連れてきたのだった。緑谷と通形はここにはおり、二人に会わせることで解決できないかと試みていた。

 相澤もヒーローなのだ、笑顔を忘れた子供を笑わせたいのは当たり前だった。

 

「エリちゃん!」

 

 連れてきたエリを真っ先に気づいたのは緑谷。ナイトアイ達の前で決意表明してでも救いたかった者であり、共に戦った戦友でもある。緑谷も戦いが終わった後どうなったのか知りたくて仕方なかったのだった。

 

「お兄ちゃん!」

「久しぶりだね、元気にしてたかな?」

「エリちゃん?、大丈夫になったのかな」

 

 お茶子も気づき和気あいあいとしつつも笑顔だけは見せない様子。エリが人見知りなところもあるが、誰よりもヒーローである緑谷はすぐに気づく。

 相澤に事情を聞こうとするが、エリが何を話しているかを耳に聞き入れながらだ。マルチタスクに近いが、一般人なら誰でも持っている情報処理能力だ。

 聞こうとした瞬間、エリから出てきた言葉は余りにも予想外過ぎる言葉。誰しもが思考どころか身体も止めていた。

 

 

「ばくごーって誰?」

 

 

 意外な第一声。ヒーローが知らなかったのは、エリと成生がどんな関係性なのか、どんな会話をしていたのかだった。

 

「かっちゃん……?」

 

 ただ一般論として、嫌いな奴は誰かなんて話はそれなりの仲ならする。

 成生が爆豪を嫌っているなんてこともエリは知っていた。ついでに会ったらどうしてほしいかも。

 

 しかし爆豪はエリを知らない。成生との関係も。

 

「あ゛?」

「かっちゃん?」

 

 爆豪本人も近くに居たため近寄ってくる。

 エリは子供であり、爆豪は子供が苦手だ。つい先日補欠仮免試験という名の児童教育で合格したとはいえ、それは男児を中心に担当したため。女児など突き放すのが基本だ。

 

 ただ爆豪もヒーローの卵。面倒極まりない児童でもないエリには、会いもせずに突き放すようなことは無かった。

 

「何の用だガキ」

「えーと、デクお兄ちゃんちょっと持ち上げて」

「?、はい」

 

 爆豪から見て面倒極まりない女子(依光成生)の影響を受けた児童、という意味では突き放すべきではあったのだが。

 

 エリは爆豪の頭に手を伸ばし──個性を発動した。

 

「ここ、だ」

「!?何しやがるクソガキ!」

「エリちゃん!?」

 

 髪の毛一本もない程の範囲。極々微小の頭の中、治癒の個性ですら回復できない場所。エリが発動した個性はそこだけを巻き戻す。

 

 ついでに、慕っている姉の言葉も伝えることを忘れていなかった。

 

「成生お姉ちゃんからのお願い。「そろそろ悪夢から起きたら?」って」

「あのモブがぁぁ……!」

 

 アクションの全てが爆豪の感情を逆撫でする。それら全てが成生の指示ともなれば、爆豪の頭の中では爆豪を指指して爆笑する成生の姿が完璧なまでにイメージされていた。

 

 頭が爆発したかと思うくらいに激怒する爆豪。ただ周りからは心配が向けられていた。爆豪に何かされていたことなど、誰も知らなかったのだから。

 

「かっちゃん何かされてたの?」

「何でもねぇ!」

 

 爆豪は林間学校の後囚われ、成生にトラウマを焼き付けられていた。文字通り、脳内に物理的にだ。その後悪夢に魘されることも多かったが、それを表に出すことは無かった。それだけの精神力を持っていた。

 

 成生はそれすら分かっていた──だからこそ()()()()()。爆豪にとっては屈辱になると知っているから。

 

 しかし悪夢に魘されることが無くなることは純粋にメンタルが安定するということであり、デバフが無くなれば元の実力に戻る。そして爆豪は治してくれた者に礼を言わないような男ではなかった。

 

 ……ただ、忘れられているが、成生はオールフォーワンと比べられるほど狡猾なヴィランとされている。当然、嫌がらせも比べられるくらいにはできる。

 

「礼は言わねぇぞ」

「うん、成生お姉ちゃんもそう言うだろうって言ってた」

「あんの女ぁぁぁ……!!!」

 

 完全に爆豪は成生の手のひらで弄ばれていた。

 周囲から見れば爆豪が一人憤怒に震えているだけ。ここまでブチギレている爆豪に事情を聞ける仲はA組でも一人だけしかいなかった。

 

 その唯一、緑谷が向けている視線はエリの方だった。爆豪に何かあったとしても自分から教えてくれる人ではないと良く知っているのだ。

 

「……ねぇ、エリちゃん何したの?」

「え?成生お姉ちゃんがばくごーって人壊しちゃったから直しておいてって」

「え!?」

 

 ガバッと爆豪の方へ体ごと振り向く緑谷。憤怒に震えていた表情でありながらばつが悪そうな顔という難しい顔をしている爆豪は身体ごと別の方向へ向けていた。

 その場にいる全員へ話したくないと、全身からオーラが放たれているのが誰の目にも見えていた。

 

 爆豪が話したくなくても話す人物がここにはいることを怒りで一瞬忘れてしまったのが運の尽きではあった。

 

「頭の中をちょっと焼きつけた?とか言ってた」

 

 エリは爆豪など見えていないと言わんばかりに続けて話す。これには流石の爆豪もブチぎれ、エリの口を塞ごうととびかかる。

 

 が、A組男子の全員が拘束した。障子や常闇といった面々はこうなると察していたため警戒し捕まえ、他のA組男子も二人が止めたことで全員で拘束していた。爆豪拘束に参加しなかったのは緑谷と切島、あとは女子のみだ。

 

 そして緑谷はというと、エリの言葉で連想して思考の海に潜っていた。

 爆豪の頭の中を焼き付けるなど大掛かりな仕事だ。依光成生と言えどそう易々と出来ることではない……と思いたい。そうなると必要になるのは時間だ。かっちゃんと依光成生が同じ場所にそれなりの時間一緒にいた時とはいつだろうか。

 考えられるのはたった一つ──ヴィラン連合に捕まっていた神野の事件の時だ。

 

「あの時か……!」

「ちっ」

 

 周囲に分かりやすく聞こえる程に大きな舌打ち。緑谷の声はよく届く爆豪には、誤魔化すようにそうするしかなかった。

 

 頭の中が沸騰したり鎮火したりと忙しい爆豪と思考の海に潜りながら話す緑谷。その隙間を縫うように蛙水の鋭い質問がエリの方へ届いていた。

 

「待って。じゃあなんでエリちゃんにそんなことをさせるの?」

「ばくごーなら個性の練習になるから遊んでいいよって」

「……かっちゃん、遊ばれてるよ……」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 最後の一線として個性だけは使っていないものの、全身の筋肉を暴れさせて拘束を解こうと爆豪は暴れる。成生に弄ばれているのも、緑谷に憐れまれるのも爆豪にとっては耐え難い屈辱。

 

 これもそれも成生のせいだ、そう頭の中が爆発している爆豪を他所に、冷静な意見がこれまた蛙水から出ていた。

 

「意外といい子なのねあの子」

「え?どう考えてもヴィランのやり方と違う?」

「雄英だと直せなかった傷でしょ?それを治しにきてくれたんでしょう。

 後遺症の残る傷なんて許せなかったんじゃないかしら」

 

 強引な結論ではある。しかしエリをヒーローに保護()()()と見れば、エリの個性がどんなものか知っているのなら、最終的にどこに保護されるかは予想がつく。

 なればそこから爆豪に辿り着くのは不自然なことではない。

 

 蛙水の言葉に爆豪と、拘束している男子以外が悩み込む。緑谷も思考に耽っていたが、真っ先に声に出したのは耳郎だった。

 

「ヴィランの美学ってやつ?」

「かもしれないわ。でも方法があれば治しにいかせる、って考えればいい子でしょう?」

 

 蛙水は成生を擁護しているが、理由は簡単だ。

 この場にいる誰よりも冷静でいられること、そして奪姫と戦ったからだ。

 

 所々で奪姫は成生について話していた。蛙水梅雨には彼女が成生に懐いていることも、尊敬しているようにも見えていた。

 それは子供をきちんとあやせる人ということだ。少なくとも、恐怖で支配するような人ではない。

 

「確かに……でも、ならどうしてあんな真似を」

「……彼女、ヒーローとしての素養があるって話だったわ。なら、エリちゃんを表社会に向けたかったんじゃないかしら。

 

 治癒する個性に似てるなら皆欲しがる」

「「!!!」」

 

 梅雨の分析はヒーローに都合のいいものだ。しかしエリが望めば間違いなくその道へ進むことができる。

 

 まさしくMs.ダークライが動いているムーブそのものだった。ヒーローになりたければ表社会へ進むべきと指し示す。もしもそうでなくなったのなら、再び悪夢(Ms.ダークライ)が訪れるだけのこと。

 Ms.ダークライはヒーローや表社会が向いているならそちらへ誘導する。心酔されやすいヴィランとして社会に浸透しつつある原因だ。

 

 それでも、今現在に見える成生の姿はエリを表社会へ向けようとさせている。ヒーローと呼んでもおかしくない行動とすら言えた。

 

「ヒーローが助けようとすれば動く助けてくれるヴィラン……何で敵対しないといけないのかしら」

 

 判断力に優れるが故に梅雨には分からない。善悪で揺れに揺れる成生であるために、梅雨には優しいヒーローにも凶悪なヴィランでもあるように見えていた。

 

 ヒーローとしてもヴィランとしても、どちらの面も見ているのは梅雨だけではない。もっと近くで見ていた者もここにはいる。

 

「……助けてほしいって人はいっぱいいた。その手を握ろうとしないのが依光成生だ。

 だから、それを何とかしないといけないと思う。

 

 ただ捕まえようとするだけじゃ、彼女は捕まえられない」

 

 緑谷も今の成生の状況を認識してはいた。

 表社会へと手を差し出そうと掴んでくれないどころか手を払ってしまう。けれどもその表情は、救けてほしい(表社会へ行きたい)と叫んでいるようにも見える。

 

 ヴィラン(Ms.ダークライ)でありながらヒーロー(依光成生)救けるべき人(依光成生)でありながら救けるべきでない人(Ms.ダークライ)。だからこそ強大であり、だからこそ救けることができないのだ。

 まずはその柵をどうにかしなければ、救けるどころか捕らえることもできない。

 

「敵対したら元も子もないわね」

「それは間違いない……かな。今回使った力は壊れることを覚悟した全力だった。でも超えられた……ってことは敵にしたら勝ち目がない」

 

 オールマイトの力を所有しているという意味で緑谷は個性そのものには絶大の自信を持っている。そしてA組の全員も体育祭の轟との衝突で全力の緑谷のパワーは知っている。

 それでさえ超えられた、全員の目が驚愕に染まるのも仕方のないことだった。

 

「はっ……ってナイトアイが言ってた!」

「オールマイトの元サイドキックが言うなら間違いないわ」

 

 重い空気になりかけたのを誤魔化す緑谷に、梅雨も即反応する。

 ここにいるのはヒーローの卵。最も純真にヒーローになろうとする者達であり、ヴィランとの戦いで最も戦意喪失してはいけない者達だ。

 

 まして、見ているのは歳が近いヴィランなのだ。例え空元気に近いものだろうと、口に出さなければならない。

 

 もちろん、あるのは空元気だけではない。次のための考え方もだ。

 

「戦場に立たせず、敵にせず、捕まえようとしない……説得?」

「今回ナイトアイが立てた計画はそうだった。

 もし……全面戦争になったりして敵にしないといけない状況になったら、絶望的な戦いになるかも」

「考えたくないわ」

「ホントね」

 

 依光成生との全面衝突、イコールで神野の再来だ。プロヒーローでさえ避けている選択肢であり、卵である彼らも考えには入れても選択したくないと言い切れる程度には思考できていた。

 成生が同年代であるが故に、数歩間違えれば同じヒーローを目指すクラスメイトになっていたかもしれないと分かるが故に、どうしても「依光成生を救けられるか」を考えてしまう。

 

 静まりかけた空気に声を出したのは、エリだった。

 

「あと……きりしまってお兄ちゃんはどこ?」

「ん?俺か?」

 

 ここにはA組全員が居る。エリの声が届く範囲に切島はいた。

 

「成生お姉ちゃんを助けて」

「当たり前だ」

「……それ、僕にも言ってたよね?あの時だけじゃなかったの?」

「うん」

 

 切島は当然のように助けを求める声に頷き、緑谷は聞いたことのある言葉に思わず問い直す。

 エリは頷くも表情は暗い。緑谷に助けを求めた時とは違い、悩みを打ち明けるようだった。

 

「お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃなくなってる時があったから。悪い何かがお姉ちゃんの中にいるのかなって……」

 

 子供の感覚は鋭い。特に親しい者の感情の機微は本人すら知らない範囲のことを認識できることさえある。

 

 ……エリが感じ取った悪い何か(オールフォーワンの策)は巻き戻されて消えてしまったのだが、知る由もなかった。

 

「それは……。いや、視えたのか?」

「うん。お姉ちゃんは受け入れてたけどきっと違う。戻ってる時に変なズレ?みたいなのがあったの」

 

 エリは自らの個性で直接成生を巻き戻していない。だが自らの個性を使われているならどんな挙動を起こすかは知っている。

 

 一定の効果を担保する個性破壊弾は常に一定の速度で巻き戻すようになっていた。途中で変速することは無い。

 それが明確に不安定な巻き戻しになっていた。マスターピースという特性など知らない、エリの心当たりはそれしか無かったのだった。

 

 そして、エリが感じ取ったのはもう一つあった。

 

「あと……成生お姉ちゃんはもう戻せない。怖い感じがしたの」

「怖い?」

「うん、黒い光に握り潰されるような……もう一度触れたら冷たい何かに呑まれてしまうような、そんなの」

 

 黒い光、連想させるのはMs.ダークライ。一度喰らった攻撃ならば次からは学んで逆利用すらできるであろう狡猾なヴィラン。

 切島は『個性を創る個性+α』と認識しており、耐性を得るのも自在であり流石と笑い、

 緑谷は『未知だがトップヒーロー&ヴィランを倒せる個性』と認識しており、依光成生の警戒レベルがあげられたと気持ちを引き締める。

 

「安心しろ、俺らが何とかする」

 

 切島はエリの頭をポンポンと撫でる。

 二人は……否、彼女と相対した者ならば、依光成生は泣きたくないのに泣きそうな少女を泣かせる人ではないことを分かっている。

 

 何せ彼女はヴィランとしても、ヒーローとしても、背中を押すのが生業なのだ。望みの方向へ進ませることこそが彼女の行動原理だ。

 

 ヒーローとしてだけの行動ならA組も、なんならB組でさえ彼女が分かる。そして切島は最も分かっているからこそ彼女を止めるために笑うのだ。

 ──戦う意味は無く、止める意味だけが彼女には必要なのだ。その先の姿は、切島だけは……切島とエリだけは知っている。

 

「あいつの笑顔って眩しい光なら俺らが作るんだからな」

「……うん!」

 

 エリは忘れない。近くに居続けてくれた姉のような人の姿を。居続けたからこそ見たことのある笑顔を。

 離れてしまったがヒーロー達は再び見せてくれると約束した。『頼る』ことを覚えたエリに、一切の不安は無かった。

 

「ん、笑えるようなら安心だな」

 

 イレイザーヘッドはその光景に微笑む。

 切島と同じように、エリも笑っていた。本来あるべき未来に、親から捨てられ笑えなくなった少女は、どこにもいなかった。

 

 




エリの文化祭参加フラグが死んだ模様。影響がどんどん出て来てますな

ヒーローサイドの話はこれで終わり。ちょっと閑話挟んだら次に進むよ

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