今回は短め
地下深く、Ms.ダークライのアジトとされる場所。いつもなら非常に煩い……喧しい子供たちが動き回っている場所が、奇妙なまでに静かな雰囲気に包まれていた。
それも一日どころではない。時間をきちんと数え上げればこれで三日目だった。
「おかーさんの様子は?」
「ずっと眠ってる。疲れてたのかな」
艶羽はその場所に近づき疑問を口にする。返事は即座に返ってきていた。
アジトの最も最奥、Ms.ダークライの寝床。そこにMs.ダークライは眠り、身体のスキャンといったことができる電花と、身体に漲っている活力の判断ができる奪姫がいた。
Ms.ダークライはアジトに帰ってきた。身体的には無傷であり、使っている個性は違えど変わらない様子だった。
が、ベッドに倒れ眠りについた後──
異常を起こしたなら医者に診てもらうのが妥当であり、ドクターの存在はMs.ダークライの堕とし子は知っている。ただ居場所は知らず、情報伝達手段もない。ついでに母親の状況を伝えたくないと本能が感じ取っていた。
「……ううん、逆。活力が溢れてるくらいには元気だよ」
「じゃあ、何で起きないの?」
「乱れてるから、かな」
二人へ顔を向けず、電花は声だけで答える。長女である彼女の声はもう、どこか舌っ足らずなものは無くなっていた。
目覚めない母親を前に、姉である自覚が一気に花開いたのだ。狼狽える弟妹達のために、この場において最も図体の小さな姉は最も頼れる姿になっていた。
「おかーさんの脳波?がものすごく乱れてる」
電花は電波の受信もできる。母親に電波を送信したこともあれば、受信したこともある。どうなっているかなど姿を見なくても分かるのだ。
「エリちゃんがいればよかったのに」
「いつ起きそう?」
「私たちは好き勝手していいの?」
「ドクターは呼べないの?」
奪姫、艶羽が次々と疑問をぶつける。無邪気な言葉であり、母親への心配が純粋に表れていた。
俯きながら二人へ電花は口を開く。姉として頼れる姿になった今だからこそ、受信した眠っている母親が抱いている気持ちが分かるものがあった。
「少しずつ治まってるけど、私たちの行動が大事」
「「私たちの?」」
受信したのは自分自身へ向けた不安、疑念、それらの感情と……子供たちの心配。
母親が自分自身に求めているもの。立場を示し何をしているのかが分かればその原点は分かる。
目立ちたい。母親の願いがそれであることくらい電花は分かる。しかしそれだけでないことも分かっていた。
何故ならば自分たちを作ったからだ。一人で派手に暴れた方が目立てるのは間違いない。
だというのに作った。ならそこには必ず別の目的があるはずだ。便利だから、人数が必要だから、それだけでないことくらい容易に想像がつく。
「おかーさんが今治まっていってるのも私たちが何か行動したから。こうやって話すのにも2日くらい慌ててたから……」
母親が賢いことも電花は知っている。目覚めないならどういう行動をするくらい予想も付けられるはずだ。
つまり目覚めないおかーさんは、私たちへの試練だ。
おかーさんは自分自身への疑問を解決しながら、何かを待っている、それが何なのかは分からないけれど、私たちに関係する何かであることは間違いない。
だから私たちが何かすれば回復は早まっている。そうとしか考えられない。
「ってことはつまり」
「好き勝手してれば起きるってこと!?」
艷羽が目を輝かせながら電花に聞き返す。自由を好む艶羽からすれば当然の反応だ。
母親から受信する。肯定している感覚であり、自分たちが何をしなくとも起きる時期すら教えてくれる。
「うん。治まる速度もだいぶ速いから。どれだけ遅くとも3ヶ月以内には起きるよ」
3ヶ月。子供たちからすれば非常に長い時間だが、治療期間という意味なら短くはない時間だ。
何せ電花に母親がどういった状態なのか分かっている。本来なら即死クラスの傷を負っているのだと。
「3ヶ月も!?」
「あのおかーさんが!?」
分かっているのは電花だけ。奪姫も艶羽も分かっていないのだ。どれだけの重症になっているのかも、今がどれだけ異常な状態になっているのかも。
それら全て、時間で解決できると教えてくれる母親が全て解決
「これホントはのーしってやつだから、起きない方が普通なんだよー」
脳死。治癒系の個性があっても治らない場合がある傷であり病。個性は脳で扱うため、個性を扱えない状態になるはずなのだ。
しかし母親は当てはまらない。個性を発動しているのは脳ではないのだと言わんばかりだ。しかしダメージは残っているため眠っている……のだが、二度と脳死を起こさないように最適化されていると電花は受信していた。
「じゃあ私たちは好き勝手動くね」
「あ、私も」
ホッとした奪姫と艶羽の二人は動き出す。母親が望まれているがためにも。元々好奇心旺盛な艶羽、母親のために外に出回りたい奪姫、ここに留まる理由はもう無かった。
「私も。大は借りてくよー…崩華も誘おうかな。とむらおにーさんのとこ行ってくる」
「じゃあ私も。勇也と灯火連れてくね、消一と闇子は二人で楽しんでるけど……誘ってみるかなぁ」
奪姫は
ベッドの横に残ったのは電花だけ。目を瞑り、受信と送信で母親の意識と直接話を繋ぐ。そこで伝えられたのはたった一言だけだが、十分に伝わっていた。
(好きに外を生きてきなさい)
「私は仁と残った子と……うん、好きに動くよ」
ベッドに背を向けて離れ部屋に戻ろうとする電花。しかしその足は重かった。
母親を一人にするのが嫌な訳ではない。巻き戻しの個性を無効化すらできる母親なのだから、一人にした方が良い可能性すらあるのだ。
理由は、電花自身にあった。
「ごめんね皆、嘘ついちゃった。ホントはもう少し短いんだけど……もう私には、全力で動くには、残ってる時間がないから」
電花は寿命がどれだけ短くてもかまわないと作られた試作品。しかし現時点での優秀さで言えば兄弟の中でも最上位。頂点にいるのは奪姫と電花だ。生まれた順を加味すれば、最も個性に長け、最も自らの能力を把握できてしまう。
つまり──誰よりも母親に近い才を持っているのだ。だから、母親と同じように、知りたくないことさえも分かってしまう。
「私の時間、分かるんだ。……いつも通りに動けば、3ヶ月も無い」
ベッドにギリギリ声が届く位置で電花は立ち止まる。受信する電波は聞こえないと言っていた。
電花には分かる。聞こえないふりではない、本当に聞こえていない。電花が告げた言葉は聞いてほしいけれど、聞かせたくないことだったため都合は良かった。
「抑えて、よくて半年……だから、お母さん。私を受け取ってね」
振り返った電花の瞳に映るのはベッドに横たわる依光成生の姿と──一つの、人形の姿だった。
残りの命を、使い切って好きに生きる。決意を示すように……しかし伝えないように、受信の個性でも持っていない限り聞こえない波長の電波でそう呟いていた。
依光成生が最も信頼する子供は花開く。
瞳は強く輝き、ただ一人を救けるためだけに動き出す。
ヒーローのようにではない。自らの破滅が分かっていようと、例え一人を傷つけようとも救けるために動くのだ。
そこにあるのはただの我儘。母親のためだけに捧げる、人生で最初で最後の我儘だった。
当分はMs.ダークライの行動不可がかかりました。
理由は描写予定はどっかに有ると思いますが、良くも悪くも成生が賢過ぎたから……というより『生来のマスターピース』が持つ『第六感染みた直感』が悪さしてます
マスターピース抜いたら成生はこんなに賢くないです。馬鹿寄り、ってかスイーツ脳ですね、だいたい切島がいる時の性格。
追記
時系列ミスってたのでちょい修正