けど更新したい欲に負けた。一話としては文字数多過ぎだもの
ほぼジェントル・クリミナル視点です
時は数か月前に戻る。Ms.ダークライが神野でデビュタントし、暴れに暴れまわっていた時期……が過ぎた頃。新星ヴィランの名が日本の隅から隅まで知れ渡った時期だ。
現代の義賊にして投稿者、ジェントル・クリミナルは紅茶を飲む。
今回の
「あなた……何故投稿者なんてやってるの?」
「……君は?」
いつの間にか横に座っていた少女に声をかけられた。バケットハットで白い髪を隠した、どこにでもいそうな私服の少女だった。
目を瞑って紅茶を飲んでおり、匂いや味に集中している姿。声をかけられなければ邪魔せずにお暇していたことだろう。
「悪いとは言えないけど……らしくない」
「あ、もしかしてリスナーかい?」
続けて告げられた言葉に目の前の少女が誰なのか考え付いたのは
「ううん、でも分かるんだ」
「個性かな?」
「そんなとこ」
否定を返されたとなれば全く別の方向から知ったと察せれる。個性ならば可能性も十分だ。
曖昧な返事と同時に少女がコトンとテーブルに置かれたコップが、肯定しているようだった。
「今回の仕事は止めた方がいいよ」
「何よ!ジェントルの何が分かるって言うの!?」
「代わりがあればいいでしょ?」
女性のリスナーだからか、横にいるラブラバの反応がいつもより酷い。ラブラバは私のファンだがかなり強火なところがある。
新規を歓迎したい気持ちはあるけども、にわかへ反応してしまうのだろう……困るところだ。
「場所を変えましょう。少し、話がしたいの」
立ち上がり、少女は私にだけ聞こえる声で一言だけ呟いた。
「安心して。私も、ヴィランだから」
驚愕にコップを落としそうになってしまうも、空いていた手で支える。そして残った紅茶を一気に飲み喫茶店を後にした。
少しだけ先を歩く少女をラブラバと共に追い、少しずつ人気のない場所へと歩いていく。周囲の目線も少しずつ無くなっていき、辿り着いたのは町はずれの壊れた住居、寂れた廃墟。
野良ヴィランが襲ったことで廃棄される住宅がある。町外れともなれば需要が無くなる場合もあり処分に困りそのままになる……その一つだった。
少女が振り向き、目線を帽子で隠したまま対峙する。圧力は無く、ヴィランとは思えない姿だ。
「あなたが居るべき場所はここじゃないでしょ」
「ほう……?」
「欲しいのは歴史に名を刻む英雄にも等しい名声、違う?」
「!!??」
鋭過ぎる指摘、容赦のない言葉。会って数分も話していない人間から放たれるものではない。
リスナーでもない。だというのにまるで私自身が見透かされているようですらあった。
「何故知っている……?」
「さぁ?何でだろ。今の私には分かっちゃうんだよ」
首を傾け自分自身でも分かってないと言いたげな少女。しかし発言自体に迷いはない様子だ。
ヴィランだという言葉が無ければ、ふわふわした雰囲気をした不思議ちゃんとも思える反応。自らへの自信だけは少女がヴィランである事実を分かりやすく示しているが、そのせいで人物像が掴めない。
雰囲気の歪さ。勘では感じ取り……ヴィランとしてではなく女としての勘の鋭さは私よりも優れた者がここにはいた。
「……いや、まるで違う。でも、そうとしか……」
「ラブラバ?」
ラブラバが後ずさる。心当たりが無ければそんな反応はしない彼女だ。
私がいれば強気にも出る。まして相手はにわかで、強火な彼女だ。そんな彼女が……おそるおそる口に出した。
「依光成生?」
「へぇ?……知ってるんだ」
目を見開く、という感覚が自分でも分かる。
目の前の少女が少女の皮を被った悪夢に変質したような、雰囲気が異様なものに変わる。
圧力ではない。大物ヴィランが持つ、心臓を掴まれるような殺気ではないのだ。ただ異様な雰囲気、まるで頭の中に夢のような霧がかかる感覚だ。
「自己紹介が遅れたね、現代の義賊にして投稿者、ジェントル・クリミナル。そしてそのパートナー、ラブラバ。
私の名前は依光成生、ヴィラン名は──Ms.ダークライ」
帽子を脱いだ顔はいつぞやのテレビで見た姿とほぼ同じ。違うのは服装と体型、そして髪の色が黒ではなく白ということだ。
「なんと……!」
「随分と表側に向いた顔をしたヴィラン……ヴィラン?がいたものだからね、声をかけちゃった」
成生少女の声色はさっきまでと変わらない。雰囲気は異様に変わっているが、威圧する気はないと言いたげだ。
表情はさっきまでの隠していた様相とは違い嬉々としている。動かしてなかった表情筋が仕事を始めたようだった。
「あなたが義賊だというなら答えは簡単。私が暴れている間に現れる木っ端ヴィランを抑えればいいよ」
「マッチポンプをやれって言うの!?」
ラブラバの怒りはもっともだ。私とてそんな真似は好まない。
義賊であることを知られていても……目線が逆か。私が義賊と知っているから、
義賊の名声などついでに上がると言っているのだ。だから乗っかれと。私が好む好まないで今の立場にいるのかすら分かっていると考えれば……乗っかる方が正解だろう。
「どうせ今の私が何を言ってもあなたは表側に真っすぐ戻れない。ならそっちの方がいいでしょ。
何より、義賊に変わりはない」
「私にも流儀がある。過激で暴力的な行動はしないと決めていてね」
「素晴らしいわ。けれど無駄ね、ここから先のヴィランの行動は悪化していく一方。流儀に反するからと言っていれば、
「……。……否定はできないか、流儀を曲げる時が来るのもその通りだろう」
「ジェントル!?」
ラブラバの目線から、成生少女の瞳から、目を伏せる。目を逸らすことの意味をこの場にいる者で知らない者はいない。
「それに、ヒーローには何か突き刺さってるものがあるみたいだし」
「全て見透かされている、のか」
私には疵がある。ヒーローになりたかった、助けようとして間違えた、そんな──ヒーロー志望が落伍した過去がある。
そこから何故ジェントル・クリミナルが生まれたのか、ヒーローとなった同級生が名前を忘れたことがきっかけだ。隣にいたはずの者にさえ、忘れ去られ消えていく。貧しく哀れに消えていく。
許せなかった。姿を残したかった、名前を残したかった……名声が欲しかった。
ラブラバにすら話したことは無い。というのに成生少女は勘だけで
「それが何なのか知らない。でも横に支えてくれる人もいるし、止まれる足もある。それなら必ずあなたは進むべき道を進める時が来る」
「まるでカウンセラー……いやフィクサーだな、成生少女」
嬉々として話すだけで人の心を誘導する。カウンセラーと呼ぶべきなのだろう……が、それがヴィランとなれば目的という概念がどうあっても挟まる。そこから繋がる予想は、
……そんなことせずとも十分に悪評が立っているのに?放っておけば彼女の天下が訪れるのに?
「人の心を誘導すればその人はヴィランにもヒーローにもなる。ならヴィランのカウンセラーはフィクサーそのものでしょ?」
──私には、結論のように聞こえた彼女の言葉は、空虚なものにも感じてきていた。
嬉しくて話していた結果が彼女にとってどうでもいいものだ、というなら悪夢だろう。操るだけ操って、使えなくなったら捨てる極悪なヴィランだろう。
だがそうではなく、結果だけが空虚だとしたら?思考や行動の過程は、嬉しくて仕方のないことだとしたら?
「成生少女……君には」
「そこまで」
言葉が詰まる。無理やり口を抑えられたかのような錯覚。威圧されたわけでもないのにそうしなければならないと思わせる
声を出したくても、出せなかった。そうしなければならないと、頭が、身体が反応していた。
「あなたを見つめてみたかっただけ。人生なんてやり直せないものだから尚更かな。
時代を揺らしていくから、クッションよろしくね」
そう呟き、成生少女は背を向けてどこかへ跳んでいく。一瞬で視えなくなった姿が、寂しく見えた背中が、もう会うつもりは無いと言っていた。
「君には、支える人も、止まれる足も無い……のか?」
「ジェントル……」
ジェントル・クリミナルはヒーロー志望の落伍者。それでも救ける者としての矜持を全て忘れた訳ではない。
だからこそ、依光成生という少女の歪さが鮮明に視えてしまうのだった。
■■■
「クソがぁ!」
「はっはっは!荒っぽいのは嫌いだがこういうのは得意なものでね!」
2ヶ月程の時間が過ぎた頃、動画投稿サイトには空気の膜にサンドイッチされ動けなくなったヴィランとジェントル・クリミナルが映っていた。
「ヒーローも到着してしまうのでね!ここらで私も退散するとしよう!
我が名はジェントル!ジェントル・クリミナル!現代に生きる義賊よ!」
ビシィッッ!とカメラに決めポーズを見せつけ動画は終わる。現地ではいつも通りラブラバが興奮していた。
「かっこいいわジェントル!もっと決めポーズが見たいわ!」
撮影に成功したので希望に応え、ビシィッとポーズを決める。ラブラバからはキャー!とピンク色の声があがっていた。
ラブラバの持つ個性「愛」による強化モード、ラバーモードは使っていない。ラバーモードは時間制限があるが超強化される形態であるため退く時に使う時もあるが、今回はただのジェントル・クリミナルの実力だ。故に急ぐ必要も無くゆっくりと歩いて去っていく。
ヒーローの追手を完全に振り払いビルの屋上で今回の撮影の反省会を行う。ここまで順調にことは進んできている。成生少女の言った通りに。
「すぐ消されるがリスナーも増えてきている。あの時に示された道はある意味で間違いなかったというわけか」
「でもでも!あんな女の尻ぬぐいなんてジェントルがやる必要なんてないでしょ!」
ラブラバの言う通りだ。名声を稼ぐなんて真似のためでなければこんなことはしない。ところが困ったことに、名乗っている「義賊」という称号が邪魔している面もあった。
「義賊は大悪が居て成立する面もあるのさラブラバ。そして悪を討つのはヒーローでなくとも良い。
名を刻むには悪を討つ、間違いを正す。そうしていればいい」
「じゃあ依光成生を討つの?」
一番の理想はそれだ。歴史にすら名を残した最大最凶のヴィランAFO、それを超える
成生少女も間違いなく考えたはずだ。考えても実行できないから無駄なことではあったろうが。
私に依光成生を倒せる力はない。彼女は強大だ、強大過ぎると言ってもいい。一度会っただけで頭の中に存在感を確実に残している。口にした言葉が一言一句覚えさせられている。
洗脳……ではないが近いものだ。誰の記憶にも強く印象に残る
一度会っただけでそれが分かる。立ち向かうなど出来ない……出来なくなってしまう。
「しない。彼女は我々にどうこうできる人ではない」
「……ちょっと残念。ジェントルにぼっこぼこにされるあの女は見てみたかったのに」
それは私も見たい。依光成生というか
「ははは、成生少女をぼっこぼこに出来る人はそうそういないさ。居るとすれば……どんな形であれ彼女の横に居る人だろう。
ちょうど私がラブラバにぼこぼこにされるようにね」
「ポコポコの間違いじゃない!」
ポコポコとラブラバが私の太ももを叩く。痛みはない、なんならマッサージ気分で気持ちよくすらある……スキンシップというやつだ。
「さて、次の案件だ。一度拠点に帰ってから話そう。情報も確認しておきたい、頼むよラブラバ」
「ええ!」
ヒーローを撒けたことは確認できた。ならば次の案件へと時を進めよう。
拠点に戻りラブラバにネットに潜ってもらう。突発的な争いでなく、ヴィランが団結して襲撃する情報であれば落ちていたりするのだ。
当然、危険度は突発的なものに比べれば比較にならない。事前情報というメリットはあっても、数を揃われるというデメリットがあるのだ。複数対一人では鎮圧も難しい。
だが、だからこそ映えるのだ。一人が複数のヴィランと戦うことによる再生数は伸びやすい。流儀ではないが、仕方のないことなのだ。
「次の案件は大きい。何せ──雄英にヴィランが迫っている。これを妨害、鎮圧する」
「荒っぽい案件ね!……ジェントル、大丈夫?」
コクリと頷く。事前情報から、能力が突出したレベルのヴィランはいない。成生少女なら木っ端と称するヴィランだけだ。
個性の相性もいい、完封できるのは間違いないと言い切れる。
何より、今回は新たな試みでもある。試みとしての意気込みは、私の髭を賭けてもいいくらいだ。
「雄英文化祭というイベントだ。少しでも侵入できればおしまいの可能性すらあるイベントでね。逆に──成功すれば今のヴィランが勢いを増している状況を抑えられる一手になる。
そして義賊というからには、『守る』というのは悪くはないだろう?この挑戦には私の髭すら賭けても構わない」
「そうね!もっとジェントルの姿を見せられるわ!」
『守る』という行為は基本的に尊いものだ。守られた側が知っていれば理想的であり、知らないならば……私達であれば投稿できる。
何も知らない者が何も知らずに守られた時に理解できないのは危機感が追い付かないからだ。ゆったりと理解させることができれば名声もさらに上がっていく。
「あと……今回は生放送ではなく動画にして上げよう」
「え!?もっとジェントルのこと知ってもらいたいのに!?」
いつも投稿している生放送はリアルタイムだ。突発的な方がいい案件もある。
が、今回はゆったりと理解する動画だ。目的にそぐわない。
それに、私の疵がちょっとした悪戯をしてみたいと囁いているのだ。
案件が終われば次にやりたいことがある。ラブラバがいなければ出来ない作戦、所謂──バレなければ問題ない。
「なぁに、あまりに早い放送だと文化祭が楽しめないじゃないか。私だって行ってみたいんだ。
案件が終わった後にちょっと覗くくらいなら大丈夫だろう。大きな案件の後だ、ラブラバとデートしたいんだ、できるだろう?」
「……!行きたい!ジェントルと行きたいわ!それに頼ってくれるのね!そんなところも好きよジェントル!」
「頼るとも。私が動く理由は最早私のためだけではない。君の想いに応えるためでもあるのだから」
「ジェントルー!」
ラブラバの能力があれば雄英に気づかれずに文化祭に侵入できる。遠目に様子を視れれば十分だが、それくらいなら問題ないだろう。
そんな、軽い気持ちだった。尊ぶべきものには、尊ぶ理由があることを忘れていた。
■■■
文化祭当日の朝。雄英に気づかれずヴィランの襲撃を鎮圧できた私とラブラバはとある喫茶店に向かっていた。
何せこの喫茶店は雄英に近い……などよりも最も特筆すべきことは、最高級の紅茶であるゴールドティップスインペリアルが提供されていることだ。紅茶は大事だ、案件と同じ程度には。
「無事解決だ。さて、一度解決後の紅茶でも飲みに行こう。大きな案件だったからね、事前調査しておいた店にゴールドティップスインペリアルを飲みに行こう」
「あとはこの動画をあげるタイミングね。……文化祭の終わった後でしょ?」
「そうだとも、冷や水を浴びせるのは投稿者としてNGだ、再生数も悪くなる」
義賊であっても手柄だと叫ぶのはTPOを弁えた方が良い。ジェントル・クリミナルは悪を正す義賊だが、善を阻害する賊ではないのだ。
喫茶店でゴールドティップスインペリアルを飲み、その香りに、味に感動する。
感傷的になっていた私は喫茶店から出ても感覚に浸っていた。だからか、彼にぶつかりかかってしまった。
「気を付けたまえよ」
道路に出たタイミングで緑髪の縮れ毛の少年にぶつかる寸前で足を止める。感傷に浸っていた私は思わず口を出していた。
「ゴールドティップスインペリアルの余韻が損なわれるところだったじゃあないか」
すみませんと一礼する少年。礼儀は正しいようで何より、これで紅茶の味が分かるのなら素晴らしいのだが。
だからだろう、続く言葉に反応してしまった。
「へぇ……あの店、喫茶店か何かなのかな……分からないな……」
「知っているのかね少年!」
呟いた言葉に即座に応える。紅茶が分かる者ならば同士だ、言葉を尽くさなければならない。
「ゴールドティップスインペリアルが”何か”なのか知らなければその発想に至らないはずなのだが……君、分かる人間かね!?幼いのに素晴らしい!」
「あの……僕はそんなに……友達が淹れてくれたから知ってただけで……」
「ほう……そんな高貴な友が──」
口にして気づく。目の前の少年が果たしてどこから来たのか、言葉から予測できることに。
高貴な友、近くにあるのはエリート校である雄英。見たところ学生程度の年齢、全ては一つの事実に繋がる。
──目の前の少年は、雄英の生徒だ。
「良い……友人を持っているね」
「はい……人には……恵まれてて……」
まだ大丈夫、気づかれていないのなら、この場を去ればそれで解決だ。
私としたことが思わず昂ってしまった。だがまだなんとかなる、ここでおさらばだ。
「待ってください」
止めてくれるな少年。その先には私の流儀がぶつかってしまう。
……止めようとしているということは、ヒーロー科の少年ということだろう。目を背けた私の流儀は、君のような夢のある若者にはぶつけるものではない。
しかし言葉をかけられたのなら止まらなければならん。その先を知っていなければ──
「──ルーティーンってやつですか?」
手遅れ、か。
(自分を責めないでジェントル!仕方のないことよ!)
ラブラバの視線が退けと言っている。
確かに雄英に侵入することはついでだ、失敗してもなんら問題ない。今退いても今後として何の問題も無いだろう。
しかし自らの心の疵、ラブラバとデートするという約束を破ること、そして成生少女の「必ずあなたは進むべき道を進める時が来る」という言葉。
予言のようなそれが今なのだとすれば、進むべき道が今なのだろう。
これまで案件を何度も行い、それが今なのかと思ってきた。だからこそ培った経験もある。けれど今は何かが違う、案件にかける想いか……それともぶつかる者の想いか。
故に、決めた。
「なんのことかな?」
「動画を見ました」
ぶつかることは最早避けられない。ならば選択は退くか進むかだ。
「やれやれ、動画を取ってない時に。……突発案件だが悪くないか。ラブラバ、カメラを回したまえ」
迷いは目の前にぶつけよう。進むべき道を進むのだ。
「うちに、手を出すな」
瞳に映る少年の目は、掛ける想いは、熱く燃えていた。
■■■
ジェントル・クリミナルは義賊だ。義賊とは元々薄汚れた金持ちから金品を盗んで貧乏人に分け与える盗賊という意味であり、ひいては汚れた力を使うものを倒すものとも言える。
だから少年と戦う必要などない。何か、理由でもない限り──例えば、自らの信念を貫けるのか試すべきと決意したといったものだ。
「察しのいい少年だ」
「この子たしか……緑谷出久?」
「……!知られてるのか」
ラブラバが知っているということは危険分子なのだろう。だが相対した今、できることは無い。
できることはもう、ぶつかることだけだ。
「ラブラバ、予定変更だ。
これより何があろうともカメラを止めるな!」
「勿論よジェントル!
でもでも!戦うの?ここで!?果たして得策なのかしら!?」
「
私は救世たる義賊の紳士、ジェントル・クリミナル!!!」
ポーズを決めると同時、個性を発動し少年との間に空気の膜を張る。『弾性』が付与された空気はトランポリンのように跳ねる膜となる。
「予定がズレた!只今いつもの窮地にて、手短にいこう。今回は──『雄英、入ってみた!』」
「そんな事させない!」
少年が勇んでとびかかるも、ぐにゃぁと空気の膜に阻まれる。ジェントルの個性を知らないのだろう、見えない空気の膜など警戒できなかった。
「なっ!?」
「外套脱衣のさいに”張らせて”もらった
リスナーなら承知のはずだが?私の個性は『
触れたモノに弾性を付与する。たとえそれが空気だろうと!」
ジェントリーリバウンド。ただ空気の膜に『弾性』を付与するだけの、私が誇る盾。打ち破るには切ったり爆破したりと、物理的衝撃以外でなければならない。
相性は私に分があった。
「暴力的解決は好みじゃない」
増強系の個性で突っ込んだ少年だ。跳ね返る壁にぶつかったのなら当然、自分自身の勢いのままに跳ね返る──見たことも経験したこともない増強のままに。
ドフュという音と共に少年は吹き飛ばされていた。あまりの勢いにドン引いてしまう。
「エグイくらいに暴力的よ?」
「私も驚きと困惑の最中だよラブラバ。予想の四つ程上をとんでいったな。
すなわちそれほどのパワーとスピード。見かけによらず恐ろしい!申し訳ない少年、私は
「謝るなら!学校に手を出さないでよ!」
即座に復帰し再び突っ込んでくる少年。直線的な動きならば早くても問題にはならん。
目の前の空気の膜を避けたとて、『弾性』付与できるのは一箇所だけではないのだから。
「それはできぬ相談だ──ジェントリートランポリン!」
足元に仕掛けた空気の膜により上空へ少年は飛ばされた。遠距離攻撃も飛行能力もなければこれで時間は稼げる。
「学生の頃は私も行事に勤しんだよ……君もかける思いがあるんだろうが、私のこの髭と魂に及びはしない。
この案件は伝説への更なる一歩。邪魔はしないでもらいたい!!!」
一瞬だけ少年の方へ視線を向ける。態勢を整えようとしていないことから遠距離攻撃も持ち得ていないということだろう。
「さらば青春のきらめきよ!」
後方確認も済んだ、自分自身とラブラバも弾性付与した空気の膜で跳ぶ。連続して跳んでいけば到着はすぐだ。
「ジェントル!緑谷出久は体育祭で手を壊しながら戦ってたクレイジーボーイよ!」
「狂気! 関わるべきじゃないな、彼が回しを済ませる前に案件を成功させる」
「リスナー諸君、雄英入ってみたはこれより──タイムアタックへ移行する!」
滞空時間を制御できる私達とできない少年。もはや障害はないという確信を得──同時に、何か危険があると勘づく。
「ジェントル・クリミナル!」
身を翻し何かが飛んでくる予感から回避する。何かがマントに当たった衝撃があった。
遠距離攻撃を持っていた?にしては動きがおかしい。慣れていないと見た。
一瞬の迷い、少年は見逃してくれなかった。空を蹴り、地上へ復帰していた。
「懸ける想いは!皆同じだ!」
「それは!失敬!」
何をしたのか考える時間もくれずに即抑えつけに来た。が、どうやら少年に勢いを止める術は無かったらしい。大きく吹き飛ばされるだけで済んだ。
吹き飛ばされたのは工事現場の最上階、空が見えるが足場は鉄骨だ。
ジェントリーリバウンドを受ければ……いや、ここから落ちるだけで時間は稼げる。少年も分かっているからだろう、動かなかった。
「どうして雄英を襲うんだ!」
「どうして、か」
そもそも雄英に侵入する気はあっても襲撃する気は無いのだが……それは無駄な問答か。第一ここで争ってる目的は違う。
「私は世間からはヴィランと見られているだろう?」
「もう通報した。……ヴィランならいいって言うのか!?それと雄英に入ることと何のつながりがある!?」
「勘違いだよ少年。雄英を襲うことが目的ではない……少年が目的だ」
ピタリと動きが止まる。……ほう?こういった会話で止まるというならまだまだ未熟ということだ。速度に差があってもどうにかなる。
「僕、だって?」
「そうだ。雄英に入ってみることは少年の大切な者に関わることだ。すなわちヒーローがヒーロー活動することと同義。
なら、少年は本気を出さざるを得ないだろう?」
苛立ち、焦り、透けて見えるぞ少年。ヴィランが相手なら動揺を見せてはならん!
「隙だよ少年」
一瞬、右腕をほんの少しだけ動かす。たったそれだけで今の私には十分だ。使い方を以前にも増して
さらにここは態勢を崩せば落ちる場所だ、都合がいい。
「がっ!?」
「空気の膜を利用し小さな拳打を弾性で伸ばし態勢を崩す程度の衝撃に変換した
この足場なら『落下時間』という合間ができるだろう?さらに落ちた方向にも膜は張ってある、戻ってくるのすら時間がかかることだろう
敵対した者との会話は動揺を誘うものだ!真実を話そうと何をしようと隙を見せてはならん!」
鉄骨から落ちる少年を横目に雄英へと空気の膜を展開して跳ぶ。当然ラブラバも共にだ。
「予定は狂ったがラブラバ!警戒されてなお侵入を許したなれば!私達はより一層深く世に知れ渡るだろう!」
最早障害はない。あるとすれば先ほど回避した遠距離攻撃だが、ここまで離れれば届かないだろう。さきほどは中距離程度だったが今は倍以上も離れているのだから。
仮に届いたとしても大した足止めにすらならない。マントが吹きすさぶ程度なのだから。
そう、油断したのが悪かった。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!」
「と、届くのか!?」
35%という声と共に背中に衝撃が走る。明らかに足止め以上の威力だった。
ここまでの距離で鎮圧レベルの攻撃を放てる。侮ったつもりは無いが……先ほど撃たなかったから油断した。手加減されていた?……それとも撃たなかったのではなく撃てなかった?
少年の様子からして前者は無さそうだ、ならば後者。条件があるか、はたまた限界レベルだから簡単には放てないといったところだろう。
「しつこいわね……使いましょうか、私の個性」
墜落気味のやり方ではあるが雄英の近くの森までは来れた。が、深刻な顔をしていたからかラブラバに心配されてしまった。
ラバーモードは強力だ、今の少年にも隙を突けば互角以上に戦える。
「いいや、大丈夫さラブラバ。まだ、その札を切るには早い」
気持ちは分かる。しかし私はまだ全力を賭していない。二人の全力は、まだ出したくない。
「でも」
「ラブラバが
「……そうね」
少しの会話しかできない。後ろから少年が追ってきているのは分かっているのだ。時間はない。
「待て!」
「いや早っ!」
ふらつきながらも空を蹴って向かってきている……なるほど、それがさっきの攻撃の正体か。拳打で空気砲のように空気を飛ばしているのだろう、であれば増強系なら不可能ではない。
そして空を蹴れば足場扱いとして跳ぶのも難しくは──いや難しいが不可能ではない。
「だが、まだ私には」
「そこだ!」
何もない空を──否、私が『張った』空を蹴る少年。目の前で不規則に動くのは流石に予想するのは難しい。
「そう、予想が難しいだけだ」
「な」
戦い始めた最初の衝突と同じ、ぐにゃりと空気の膜に衝突する少年。さっきの少年の動きから私の個性を逆利用するのは読めていた、動きは読めないが速度からして直線的な動きしかできないのは分かっている。
あとは不意をつくであろう場所に『張って』おく。それだけだ。
「がっ!」
最初の勢いを遥かに上回る速度で吹き飛ぶ少年。強化レベルを変えた、といったところだろう。最初の遠距離攻撃云々もそれで結論付けられる。
「ラブラバ!」
「ええ!もう少しよ!」
ここからは走るしかない。『張って』跳んでいけば警戒しているヒーローに気づかれてしまう。
致し方なしと数歩走り出した瞬間、背中を抑えつける衝撃が走った。
「──っ!」「う、そ!?」
背後は見えないが、聞こえる息づかいは少年のものだ。
あり得ない。かなりの長距離飛んでいったはずだ。これほどまでの短時間でここまで来るのは不可能だ。空を跳ねようと……まさか
「はぁ……はぁ……捕まえた」
「まさか、その速度で利用したのか──張った膜の全てを!」
強化レベルを上げた状態でトランポリンのように跳ね更なる加速を得る。空を蹴って滞空できるともなればそんな真似も可能なのかもしれない。
しかし、しかしだ。それでも間に合わないはずだ。こちらも移動していたのだ、さきほどと同じ距離でもないのに
「さっきの速度が続いてれば届くかはギリギリだった。
「──!」
──ラブラバに足を合わせたから。私が思考から外していたところを突かれた。
首だけは動く。ラブラバへ向けると泣きそうな顔をしていた。
いかん、ラブラバのせいではない。撤退を決めれたのに決めなかった私のせいだ。真正面から向かおうとした私のせいなのだ。
「ジェントル……私の、せいで」
「違うともラブラバ、私のせいだ」
ああ、でもそんな私にラブラバは応えてくれる。ラブラバがしようとしていることなど言わずとも分かる。
ならば、応えなければならん。例えこれが、
「愛してるわ、ジェントル」
「私もだとも、ラブラバ」
ラブラバの個性『愛』、超強化された能力は増強系の個性が相手だとしても凌駕する。
「何だ!?急に力が!?」
「
ラブラバの個性は伸ばされたことは無かった。個性伸ばしが難しく、偏に運用が難しかったこと、想いを乱されることが無かったからだ。
だが今はラブラバが恋敵として見ている
「さらに、力が増してっ!?」
抑えつけられた状態から少年ごと起き上がる。体重と個性で抑えられていようと、それ以上の力ならば何の問題にもならん。
「悪いな少年、二対一だ」
起き上がると同時、足を払い少年を身体ごと回転させる。
力で勝っていたのだ。それが突然負けたとなれば大きな隙ができる。あとは意識を刈るだけだ。
「しばらく眠っていてくれたまえ」
「必ず最後に愛は勝つのよ」
首筋に手刀を放ち昏倒させる。それで終わりだ。
終わりの、はずだった。
「まだ終わってないぞ!」
放った手刀は首との間に挟まれた腕に阻まれる。衝撃だけでも相当なものだが、少年の意識はしっかりしている。
ラバーモードだぞ?ラブラバの愛だ、超えられることなどあってはならん!
「ジェントル!ごめんなさい!愛が、愛が足りなかった!」
ギリリと歯ぎしりしているのが自分でもよく分かる。愛が足りない?馬鹿を言うな、そんなこと言わせる私自身に憤慨するに決まっている!
「君の想いが足りないなど、誰が証明できよう……!」
ラブラバを進行方向へ優しく投げ、私は少年と相対する。ここから先は私がいても護衛にしかならない、ならばラブラバを先に行かせるのも止む無しだ。
それにラバーモードなら、二人でなら、真正面からのぶつかり合いでさえも勝てる。証明せねばならんのだ。
ただ耐久力だけは少年に分がある。私の戦闘スタイルはダメージを負わない立ち回りが前提だからだ。少年は自傷しながら戦える、となればやることは変わらない。
「がっ!?」
「また防がれた……また、か」
見切られている訳ではない。ギリギリで間に合っている動きだ。
「どうして、想いを踏み躙れる!?
何で雄英の想いを踏みにじる!?夢の為なら人の頑張りも情熱も奪えるって言うのか!?
何より──さっきの言葉は!嘘じゃないだろう!狙いは僕だろう!」
間違いではない。故にこれは本来ならヒーロー対ヴィランの一対一の構図であるだけだ。
あの時と違うのは、今の私の
「見透かされてしまったか、だがやらねばならんことなのだ」
「どうして!?」
それを問うか!知っているのは君も同じだろうに!
「私はジェントル・クリミナル、ラブラバの愛に応える者なのだ!二人の懸ける想いを描く者なのだ!信念のないヒーローなどとは想いが違う!
──しかし!知らねばならんのだ!
「ジェントル!あなたは!」
「ヒーローを落伍した者だ、諦められなかった者だ。ならばせめて、間違えた道を進むと分かっていても!何が違ったのか知らねばならんのだよ!」
想いを背負って進む果てにぶつかるなら、違うのはどんな想いを背負うかだけ。
知りたいのは
「──なら!分かるはずだ!壊されたくないものがある、守りたいものがあるってことくらい!」
「それは、私も同じだ。
ラブラバに応える。夢を叶える。それだけは譲れんのだよ!」
「なら!」
「だから!譲れない戦いを挑むのだ!救けを譲れない者に戦いを挑むのだよ!」
譲れない戦いを避けるような者の背負った想いなどたかが知れている。故に避けない者へ挑むのだ。
「
ジェントリー・サンドウィッチ!」
「がっ!?」
幾層もの空気の膜を張り地面に押し付ける。余りにも暴力的であり、当たればまず間違いなく拘束できる切り札故に多用したくない技だ。
警戒されたら扱い辛くなってしまうからだが、今はそんなこと言っている場合ではない。
「ぐ……」
(ヴィランだけどヴィランじゃない!まるで、Ms.ダークライのように……善のために戦っているけれど悪い行為に手を染めるように)
ジェントリーサンドウィッチで動けなくなった少年だが、暴れ方がおかしい。動きが真上ではなく──下、地面か。
私が地面に弾性付与するよりも速く、地面を蹴り吹き飛ばし私の真正面に着地・相対してきた。
「……あなたのような人を知ってる。目的のためなら雄英の想いも踏み躙れてしまう人だ。懸ける想いのために、自分自身も捨てられる人だ」
一瞬脳裏によぎったのは成生少女の姿。自分を捨てられる者……同じか、私は私とラブラバの想いを背負っている。
だが私自身は半ば捨てている。ヒーローから落伍したあの時に、ヒーローとなった友から名どころか存在を忘れられたあの時に捨てた。
「──切島君が言ってた。あなたのような人に必要なのは、止めることだって。
だから止める。僕達の想いは、負けやしない」
「自分を捨てた私を、笑うか?」
「笑わないよ、ジェントル・クリミナル」
右の拳を握り、思い切り殴りかかる。首を狙うのではない。正中線、真正面を狙い撃つ。
少年もまた、全く同じ狙いだった。拳が激突し、衝撃が周囲に広がる。
「勝って!ジェントル!」
届いた声。愛はさらに強く、想いは靄のような形状と成りながら私の身体に入り込む。
右の拳をぶつけ合いながら、左腕で組み付こうと手を伸ばす。少年もまた狙いだったらしく、手四つのような形になる。
「君は!何のためにヒーローを志す!」
「っ!」
何故かは分からない。だが、声に出ていた。戦いの中でハイになっているのか、それともラブラバの愛に乗せられたのか分からない。
けれど心の底から出た言葉だった。偽りの一つすらない、私自身の言葉だ。
「人を救けたいから?想いは素晴らしいとも、私もそう思う。それだけで進めるならまさしくヒーローだろう!」
「あなたはっ!」
「だが!人の想いを!無視して進むのか!ヒーロー!
止めなければならない想いを!受け止めずに進めると思うのか!」
「!」
「誰かと共に進みたい想いを!覚悟を!懸けた心を!無下にするのかヒーロー!」
少年の顔は、真面目そのもの。出てくる言葉は偽りのないものだと直感的に分かってしまった。
「僕も、同じだ。
僕だけの道じゃない。身の丈に合わない夢を、想いを……心の底で諦めてしまった夢を!笑わないでいてくれた!
認めてくれた皆に!応えたい!
辛い思いをしてきた人に──明るい未来を示せる人間になりたい!」
……明るい未来を示せる人間。私と──なんなら依光成生とも本質は同じではないか。
成生少女が示すのは本人の進むべき未来、そこに本人の後悔はない未来だ。明るい未来が表社会に出る未来と言い換えるなら違うが、本人が後悔して表社会に出れば捕まるだけ。
だが辛い思いをした人間となれば違う。成生少女は表社会に送るべきと考えて動く。本質は皆同じ、道が違えただけなのだ。道が違えたのなら、最早やるべきは一つ。
手四つの態勢から振りほどき、少年を地面に叩きつける。
「ぐっ」
「恥も外聞も!誇りすら捨てて!君を断つ!」
ラバーモードの強化時間は残り少ない。空気を『張り』、線では見えようと速過ぎる程の速度で全力で動き回る。
道を違えたのなら、ぶつかるだけだ。
「ジェントル・クリミナル!」
少年が空気砲を放つ。同時にいくつも放つが動き回る私には当たらん。
貫手の一撃で心の臓をぶち抜く。目の前に手が届くその一瞬、真横から衝撃が走った。
「が」
空気砲を空気の膜に当てて反射させた。理解が追い付いた瞬間、私の視界に少年はいなかった。
「シュートスタイル──セントルイススマッシュ!」
背後から放たれた一撃、地に伏せてしまう威力は十分にあった。
「戦ってきた人の中でも、誰よりも戦いづらい相手だったよ」
背中に乗り、抑えつけられている感触がある。ラバーモードは切れた、この状態で抗う術はない。
もっとも、最早戦う気にもなれない。少年の言葉が、胸のつっかえをとってくれたのだから。
(負けてなどいなかった、か……。……ありがとう、少年)
少年が戦ってきた人は知らないが、何故だか相応の力を持つ者と戦ってきたのは直感的に分かった。彼らと比較して少年が私に向けた想いは、無視できないものだった。
「ジェントル!そこまでヒーローが……」
ラブラバの声が聞こえる。このままではラブラバも片棒を握ってきたと認識されてしまう。
それだけなら問題だがまだマシだ。一番の問題はそこじゃない。
「嫌よ……ジェントル……。……離して!私からジェントルを奪わないで!」
ポカポカとラブラバが抵抗している音が聞こえる。増強系の個性である少年にはその程度蚊に刺された程度だろうが、少年は動かないでいてくれた。
一番の問題は私と離れたことによってもっと大きな被害を齎すこと。
「ジェントルと離れるくらいなら──死ぬ!」
一人で離れればラブラバは私の元に来ようと私どころではないヴィランになる。それだけは、許せない。
(私も……少年も、見せてはいけない戦いだろう。であれば)
であれば、選択肢は一つだけ。
「この戦いは、なかったことに」
『弾性』で少年を遠くへ飛ばす。見えない位置まで飛ばせば多少誤魔化すことはできるはずだ。
「ジェントル!?」
「そのまま失せたまえ少年。君の勝ちだ。
彼女の為に、彼女の明るい未来の為に」
見えなくなったとほぼ同時、ラブラバが来た方からやってきているハウンドドッグの視線が向いた。ああ、分かっていた……だからそうしたのだから。
「自首したい。話を聞いてもらえるだろうか?
一番の罪は──
だから彼女に、恩赦を」
囲んだヒーローに、自らの罪を告げる。せめて、ラブラバの罪を軽くできるように。
それが
■■■
数日後、ジェントル・クリミナル──
「洗脳かどうかなんてテストすりゃすぐに判断つく。馬鹿な嘘はやめとけ、ありゃホントにお前を好いてる。
未遂も多いが罪の数が多いことから考えても」
「私が直接的なものだ。同罪じゃない」
「……相思相愛かい、やだやだ。
退学、元ヒーロー科。ねじれねじれて動画投稿者か」
「夢を思い出してしまった。恐くて走り出してしまった──たとえ間違った道だとしても」
「なら今日止まれたのは正解だったな」
警察官の言葉に飛田は目を見開く。
間違いを正す、分かっていたからこそ止めてくれたことに感謝もあったのだった。
「人生やり直せないなんて言うのはな、やり直す気のない諦めたやつか、結果を急ぐせっかち野郎だけだ」
警察官の言葉に、飛田の脳裏に浮かんだのは一人の少女の姿。
フィクサーを名乗りながらも、瞳の奥を隠すヴィラン。感じたものが間違っていなかったと今なら分かる。
「彼女は……あの時後悔していたように見えた……そうか、結果を急いだのか。いや、急がざるを得なかったのかな」
「あ?」
「依光成生だ」
警察官の目が見開く。何せ依光成生はヴィランとしてビッグネームとなっており、情報はあればあるほど助かる。
ただ信奉者のようになっていることが多く、冷静な観察眼をした人は少なかったのだった。
「彼女には支えてくれる人も、横にいてくれる人も、止まれる足も無い。だから強い。
ずっと止まらない足が誰よりも速く動いてしまっているから……誰もかれもを突き放す。
ああ、ようやく分かったよ」
「何がだ」
「彼女は誰よりも──賢過ぎて優し過ぎる。自らの個性に溺れてしまうと分かっていたから、誰にも頼れない。個性に溺れると知ってるなら、ヴィランになるのは必然。だから関わる人は皆突き飛ばす、私とは関係ないよと言うように。
しかし……誰にも頼れないけれど頼られるなら応えてしまう。まるで、普通の少女が話しかけたら応えるように。だからこそ、誰もが見惚れてしまう。
誰もを肯定してくれるけれど……彼女自身が辛い道を歩むのを誰だって見えてしまうから、誰の目にも留まってしまう。可哀そうという感情……ではないな、止まってほしいという願望だ。
彼女が表裏どちらの社会でも働いている悪事のように、本当は誰にだって頼られてほしいのだろう。だが同時に、誰かに頼ってしまいたいのだろう。誰にも頼れないなら求めるのは……繋がりなのだから」
飛田が話すイメージを受け取る警察官からすれば、ビッグネームのヴィランではなく普通の少女が暴れているだけといった印象だ。
間違いではないのだろう、分かることもある。ゴリラの異形をした警察官だ、本来の姿ならイメージとは違う姿や性格をしているなど知っていることだった。
「繋がり、ね」
「目立つことを最優先にするがゆえに、自分自身には興味が無い。自分自身が行ったことだけにしか興味は無い。
……今の彼女は誰よりも臆病なのだろう。一歩先へと自らの意志で、足で、歩み出せば求めているものは何もかも手に入るというのに」
誰よりも持っているものが多いけれど見えていない。欲しいものだけが視えてしまう。
そう言いたいのだろうと結論付け、ため息を一つして警察官は声に出す。
「……はぁ、本当に依光成生に接触したんだな。事実なら依光成生にはお前らが眩しく見える訳だ。
何せ止まれる足もあれば、相思相愛の相手もいるからな」
警察官の言葉に飛田の目から涙が流れる。誰かに止めてほしかった、そんな願望は最初からあったのだ。
──何せ飛田は元ヒーロー志望。誰かを助けるためにヒーローになりたかったのだから。
「……茶でも飲むか」
「っ……紅茶を」
「粗茶だよ馬鹿」
思い出してしまったかつての想い、止めてくれた
飛田の溢れる涙は、止まらなかった。
当分成生の目線でのストーリーは無いです
代わりに電花奪姫艶羽他オリキャラ共が動きます