普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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本編に刺激されて投稿

急がなきゃ


行進

 トガがキュリオスを倒した十数秒後、解放軍幹部には情報が伝わっていた。

 

 今さらの泥花市は至るところの監視カメラがリデストロ達のタワーにいる者へ状況を知らせている。最高指導者の情報選別も早かった。

 

「皆さん!大変悲しい連絡があります」

 

 解放軍広報担当である花畑が声を上げる。選挙で当選している議員だ、広範囲に声を届けることなど出来て当たり前。

 

「何だ!?選挙カー!?そんなのありかよ!」

 

 技能だけでは届かないこともある、例えば選挙で物理的に声が届かないこと。解決は簡単で別に技能に頼ることだ。選挙カーに乗りスピーカーを使えばいい。

 

 どれだけ通る声を持ってようが限度がある。花畑は知っているからこそ声を上げる。それこそが解決軍における自らの技能と理解しているから。

 

「トガヒミコによってキュリオス氏が倒されました。彼女は解放に身を捧げたのであります」

「そんな……」

「なんてこと」

「指導者は何と!?」

 

 一瞬の沈黙。宗教に近い解放軍はざわつきを抑える速度も宗教のそれとほぼ同じだ。

 

無駄にするな、と」

 

 花畑が最高指導者の言葉を告げる。一言だけだが、解放戦士の戦意を高めるには十分が過ぎた。

 

 

「「「おおおおおおお!!!」」」

 

 

 戦意が高まり過ぎた解放戦士は人の流れを密にし一つの濁流となり、死柄木へと襲い掛かる。

 

 一対一の連続では体術で凌がれ、一人へ崩壊が向けられることで負ける。一人にしか向けられない崩壊なら一体多で向ければいい。濁流の如き人の多さならば崩壊の対処速度を大きく超えられる。

 

「死柄木ぃ!」

 

 スピナーも狙いが分かり、一度離れろと口が出かける。

 

 ただ、そこで口は止まった。死柄木の様子は明らかにおかしく……しかしどこかで見たような覚えがあるものだったからだ。

 

 襲われる死柄木はというと、頭がふらついていた。頭の中で動き回る記憶と感情が身体に影響を及ぼしていた。

 

(ああ……気分が悪い。眠いんじゃない、寝てはいたんだ。そんなことはどうでもいい。ただ──まただ)

『見なよ転狐、これは秘密なんだけどね』

(トガからあのバカが大暴走したって話を聞いてから、時たま頭の中を過ぎる)

『おばあちゃんってヒーローだったんだって』

(記憶に無いのに、感情だけが思い出す。ドクター達と会ってから頻度が増えて)

『大丈夫だよ。私は転狐のこと応援してるから』

(ったく、全部見せてくれよ)

『悪夢には、負けないでね』

 

 あり得ざる記憶すらも混じり、死柄木の気分は悪いなんてものではないレベルになっていた。

 

「最高に気分が悪い」

 

 手を伸ばし一番前の解放戦士へ崩壊が走る。そこからさらに伝播し、一塊になって襲ってきた解放軍の全てが塵となって崩れていく。

 死柄木が直接触れていないのに、崩壊が伝播して広がっていっていた。

 

「死柄木……お前……!」

「まだだな。まだいける」

 

 スピナーの驚愕を他所に笑う死柄木。それはAFOやMs.ダークライの笑みに似てきていた。

 

 ■■■

 

 「ったく、暴れる気マシマシだなリーダー」

 

 死柄木達から少し離れた場所。大通りでもない通りだと暴れられるのは精々二人程度だったためにヴィラン連合は分けて進軍している。

 

 荼毘も別の通りに居たのだが、崩壊で崩れる人の波が見えたことで自らも暴れようとテンションが上がっていた。

 

「なら俺も暴れるとするか──ッ!?」

 

 そう口にしほんの少しだけ掌から炎を出した瞬間、一つの影が頭上から落下してきた。

 咄嗟に離れた荼毘が見た影の正体は、3mはあろう氷でできた二つの手。そして氷の手の上に立つ、手が氷の手と連動するように動く男の姿だった。

 

「氷……氷ね……」

 

 氷、炎と対極に位置する現象の一つ。分かりやすい個性であり、先達が多い個性でもあり──技能を磨きやすい個性でもある。技能を磨きやすければとっつきやすいものとなり、技能を磨きたいと希望する人が増える。

 エンデヴァーという極北が存在しても後追いは山ほどいるのがその証左だ。トップが居ようと諦めなくていい、そういう分野なのだ。

 

 だからこそ、熱という分野を同じとするからこそ、荼毘には目の前の人物が測れていた。

 

「……俺も分かるようになってきたなぁ。

 

 強いだろ、お前」

 

 返事は無く、マトモに会話をする気は無いと行動が示す。氷の手はバキバキと砕けていき無くなり、周囲に氷の礫が舞っていく。

 礫は形状を変え……浮遊する氷の針を大量に作っていた。

 

「何故すぐに炎を出さない」

「……さぁなぁ」

 

 数本の針が空を飛び荼毘に襲来する。応戦する荼毘は熱を抑え気味に、しかし氷は全て溶け切れるように燃やしていく。

 

「意図的……ではないな。異能に問題ありか」

「おいおい勘違いするなよ」

 

 測られた。荼毘は動揺を完全に隠しながら範囲を広げて炎を展開する。最大出力ではないが、十分な威力はある程度に。

 

 荼毘には全力を出さない理由がある。正確には……出せない理由が。出さなくてもいいから全力は出していなかったが、目の前の相手は全力で応じなければ勝てないと察することができる程には実力が近かった。

 

「知らないようだから教えてやるよ。氷は──溶けるだろ」

「そうか、大変だな」

 

 跳び、氷の針を雲のような形状に変化、着地して氷の雲は空を飛ぶ。自在に飛ぶ姿は身体能力で回避するより軽快なものとすら見えた。

 

 それも当たり前。彼──外典の個性の本領はそこにあるのだから。

 

「知らないようだから教えてやる。僕は──氷を操る」

 

 外典が手をグッと力強く握りしめる。ただそれだけで近くのコンビニやスーパーといった店に売られたり置かれている氷が動き出す。店の外へ念動力で動いているかのように動き、外典の周囲まで勢いよく飛んでいく。

 外典の持つ『氷操』の個性。氷は塊となり、まるで龍のように形作られていく。

 

「この町に存在するありとあらゆる氷が僕の味方だ。学校も行かず、ヒーローなんかよりずっと長く、ずっと異能を鍛え続けてきた、最高指導者が僕を強くしてくれた。

 

 かのMs.ダークライも肯定してくれた──半端な炎で溶かせると思うな!

 

「そりゃ素敵な人生歩んでんな──可哀そうに!

 

 物量で押しつぶされる。そう判断し瞬間的に荼毘は最大出力の炎を放出──同時、氷の龍が激突する。その熱量は……均衡を作り戦線を二つに割った。

 

 死柄木とスピナー、トゥワイスとMr.コンプレスの二手に散らされる。しかしてその分割は潜在的な能力を考えれば悪手でもあった。

 

「はは、やってるな」

「荼毘!派手過ぎるぜ!」

 

 片方は離れていたためか被害は無く、その勢いを利用して敵陣へとさらに深く食い込む。

『崩壊』の個性がどんどん成長している死柄木は、もっと広範囲の崩壊ができると確信しながら突き進む。二つに別たれた戦線の一つをどれくらい崩壊させられるかを期待しながら。

 

「荼毘ぃー!後先考えず何やってんだ!」

 

 もう片方は比較的近かったため熱が飛んできていた。一度少し離れなければ危険な程の距離、目標となるタワーから離れる方向へと走る。

 

「トゥワイスもさっき走って行っちまった。トガちゃんと一緒ならいいんだが……」

 

 さらに片方は散らばってもいた。トガが最初に離れ、トゥワイスが探しに向かったのだ。

 トガは成生への変身もあり一対一ならば無類の強さを誇るが基本的に攻撃は一人に向ける。範囲攻撃を持っていない。多数に囲まれた時、対処はできるが時間がかかるのだ。

 

 トゥワイスを含めたヴィラン連合全員が知っていた。トゥワイスが向かったのも気持ちが分かるのだ。

 

 そして今、最も敵陣から遠い場所……トゥワイスはトガを見つけていた。呼吸は安定しながらも、ボロボロの姿をしたトガを。

 

「トガちゃん……!冷てぇけど息はある!返り血が大量に……!拭いてあげなきゃ……覚えてるかい?キミがくれたハンカチだ」

 

 ただ意識は無く、安静にしなければならないのは見ただけで誰でも分かる。トゥワイスも同じ程度には理解できていた。

 

 違うのは、トゥワイスがどれだけ大事に思っているのかという一点。トゥワイスには唯一無二の存在が重傷を負っている。それがどれだけ心にクるのか、トゥワイスはよく知っていた。

 

「ダメだ……君は、連合の皆は、俺の居場所なんだ。あぶれちまった人間を必要としてくれた……唯一の……許せねぇ。宗教被れ達め」

 

 トガにだけ意識を向けていたトゥワイスだが、影に気づく。背後から誰かがやってきたことを示すそれであり気づけたのはトガが無事ではあったからだろう。

 

 振り向いたそこにあったのは、自身のトラウマだった。

 

 

 

「おいおいおい何がどうなってるんだこりゃ!?」

 

 

 

 倒れていたトガを守るように立つトゥワイスの目の前には、顔を晒したトゥワイスが数人立っていた。

 

 ■■■

 

 タワーの最上階、Mr.スケプティックとリ・デストロはパソコンに視線を向けていた。

 

「トゥワイスとトガが合流。丸池さん家の前にいます。

 

 おそらくトガの味方であるアンノウンは池山さん家前にてほぼ同時に撤退。姿が見えなかったことからMs.ダークライの堕とし子の一人かと」

「トガを友と呼ぶのを憚らない彼女だ。護衛の一人くらいは割いていてもおかしくはない」

 

 倒れたトガへ向けられた戦力が全て死亡するなどという異常事態。明らかに突出し過ぎた戦力が隠れていた。

 しかしヴィラン連合にステルスで行動でき、馬鹿げた戦闘能力を持つ者が居るとあればヴィラン連合全体が隠れて行動する必要などない。となれば他所の者だ。トガを友と呼ぶ彼女なら、全く可笑しくないことだった。

 

「トガを殺さないとこちらの計画に支障が」

 

 Mr.スケプティックは不満気な顔で呟く。Mr.スケプティックは突出したIT技能を持つ解放軍幹部の一人だ。

 さらに情報屋ネットワークもそれなりに知っており、『情報を扱う』という分野では解放軍で最も高い能力を持っている。

 

 その分野において高い技能を持つということは、人の心をへし折るような真似も平気で行える人種も理解できる者であるということでもある。

 今はトゥワイスの心をへし折るために、Mr.スケプティックはトガの殺害を視野に入れていた。

 

 

「出ない。だからああしたのだろう?」

 

 

 ──視野に入れていたが、出来なくなった。ならば次のプランに動くだけ。Mr.スケプティックが既に行動したことをリ・デストロの言葉は示していた。

 

分倍河原仁(ぶばいがわらじん)。自らの異能により自らを増やし自らに殺されかけ自らを見失い……心に怪我を負った男。

 

 我々の思想に寄っている側の人間であり支えはヴィラン連合──特にトガ。確かに心を、トガを殺せば与する可能性が高い」

 

 異能解放軍は自らの異能(個性)を好きに使って許される社会を理想とする。

 かつてトゥワイス──分倍河原仁は、自らの孤独や寂しさを埋めるために個性を行使、自らを増やし、増やした自分に殺されかけている。

 

 それは異能解放軍として誇るべき行為。ただそこで自分を見失う心の弱さが問題だった。それさえ無ければ、解放軍に間違いなく入れた人材だった。

 

「しかしトガを殺せないという条件が発生した……ならば、保険が動くだけだ。

 

 そのための君の異能だろう?」

 

 会社、特に優秀なチームやグループは目標を設定した時、計画を実行する時、失敗する可能性を考慮に入れる。そのためのバックアップ用人材を準備したり、予定を早く入れて行動したりする。

 

 ただ今は昨日出来なかったはずの個性の使い方を今日できるようになるなんてこともあり……そんな影響を起こす(Ms.ダークライ)がいるからバックアップできる手は更に増える。

 

 バックアップされていた計画の実行は、既にされていた。

 

 「あの女のおかげで私も個性が伸びたのは否定しませんよ」

 

 Mr.スケプティックの個性『人形』。人型サイズの人形までなら見ていれば操作できる。監視カメラ等を通しても『視』ていれば操作可能。

 本来であれば通信デバイス等の個性を使うのに適した道具を扱わなければ遠隔操作などできないのだが、Ms.ダークライの影響で個性が強化された結果、ここまで至れたのだ。

 

 衛星カメラから見てるだけ。情報としてはそれで十分だった。

 

「分倍河原仁、お前を解放軍に引き入れる」

 

 大量のトゥワイスの人形を操作するMr.スケプティック。

 

 トゥワイスの人形にトゥワイスが立ちはだかる後方、人の形をしただけのトガの頭が、グリンと回った。

 

 

 ■■■

 

 

 トゥワイスの人形がトゥワイスに襲い掛かる。それは嘗てトゥワイスが見た、悪夢の光景そのものだった。

 

「あぁあぁああ!!!やめろぉぉオオ!!!」

 

 何体もの人形によってトゥワイスのマスクが剥ぎ取られる。裂けないように包んでいた布は千切られ、再び裂けてしまえと状況が示しているようですらあった。

 

 トゥワイスは抑えつけられ、守っていたトガも奪われる。人形はトゥワイスを完全に無力化はせずに、トガが殺されていく様子だけを見せるように顔だけは自由にしていた。

 

「あぁ!誰だお前ら!?冷てぇ!俺か!?誰なんだよお前ら!」

 

 困惑するトゥワイスを他所に、人形達は次の行動へ移る。

 トゥワイスを戦闘面で無力化した。ならば後は心をへし折るだけ。人形達はトガへも群がる。

 

「あっあっ!包まねぇとやばいやめろ……やめろ!畜生!やめろ!」

 

 ──トガの人形の首をへし折ることで。二倍で増えたトゥワイスがトガを殺したと誤認させる。計画は着々と進行していく。

 

「トガちゃん!?」

 

 トガの首が人形達によって少しずつねじられていく。基本的に首が180度回る人間はいない……回れば死ぬからだ。

 

「トガちゃん!やめろ!やってるのは……俺か!?俺が殺すのか!?

 ハンカチで包んでくれたあの子を!俺が!?あああ裂ける!

 

 

 俺は本当に俺なのか!?

 

 

 トガの首が曲がっていく。時間は幾ばくも無い。トゥワイスの心はピシリと音を立ててこそいたが、身体が先に動いていた。

 

「あぁあぁああ!!!トガちゃん!」

 

 底力を振り絞り抑えつけられていた腕を振り切る。何人もの人形が抑えていたが、火事場の馬鹿力を不意を突かれるように発揮されれば流石に抑えられなかった。

 

「殴って止め、拘束しろ」

「偽物め」

「がっ!?」

 

 人形が声を出し、暴れたトゥワイスを殴り飛ばす。トガに近付ければ偽物だと分かるかもしれない、遠隔操作しているMr.スケプティックの判断は間違っていなかった。

 

 再び拘束され、今度は五人がかりで手足一本につき一人という大仰な拘束を行う。

 

 Mr.スケプティックが唯一間違っていたのは、トゥワイスの個性への認識だけだった。「二倍」で増える条件、その全容を知らなかった。

 

「腕をへし折れ」

「偽物め」

 

 声を出すのはMr.スケプティックの遠隔操作が届いた合図。ただ効果的な言葉でありトゥワイスの心にも響く。

 

 が──バキッという音と共に、トゥワイスの心は大きく変わった。

 

 腕が折れる。それはすなわち重傷ということだ。そしてトゥワイスの『二倍』で生成された人物は……重傷で身体が崩れて消える。

 

 重傷を負う、それはトゥワイスが最も恐れていた行為だった。自分自身が偽物であれば、生成された者であれば、消えて無くなるから。

 

 

 

「痛ぇのに消えねぇよ俺!」

 

 

 

 同時、トガの首が回る。トガが死んだと見るも、トゥワイスの目に映るのはさっきまでと同じであり……全く違う光景。

 

 さっきまでの裂けるような視界ではない。自らが本物だと分かったが故に開けた──何のフィルターも通さない、クリアな視界。

 

「ん?」

「偽物め」

「……そうか」

 

 Mr.スケプティックの声が届くも、大質量によってかき消される。トゥワイスの個性が発動したのだ。

 個性『二倍』。その最大の特徴は()()()()()()()()()『二倍』を使えること。自らを無限に増やすことが可能なのだ。

 

 増えたのは数十人程度。それでも人形を吹き飛ばすだけの軍勢と化していた。

 

「……冷てぇ。暖かさが無ぇ」

 

 トガに──トガの人形に触れるトゥワイス。トゥワイスにはそれが偽物だと分かっていた。抱きしめようと触った時の感触が、同じだったから。

 

「さっきまでの人形と、同じ」

 

 分かっていた。ただ……分かっていてもトゥワイスには見捨てられなかった。見捨てられるはずも無かった。

 

 自分自身の居場所が、そこにあるのだから。

 

「ああ、ああ……トガちゃん……トガちゃん……こんな、こんな姿に」

 

 トガの人形を抱きしめるトゥワイス。動かない人形だが、愛しい人を抱きしめるような優しさがあった。

 

 死んでいないと分かっていても、偽物だと分かっていても、トゥワイスには仲間を裏切らない、殺さない。自分自身が本物だと分かった今、その想いは殊更に強くなっている。

 

 故に、男は人形を置いて立ち上がる。怒りに震えた顔をして。

 

「よくも俺に偽物を殺させたな」

 

「トガちゃんは成生ちゃんが助けたんだろ。分かるよそれくらい。あの二人はすっごく仲が良いからな」

 

「仲が良くて……暖かいんだよ。熱が無くなるなんてことは無い」

 

 トゥワイスの居場所はヴィラン連合とその仲間にある。トガの仲間の成生もまた当然、その位置に居る。

 トガと行動をよくするから、トゥワイスも同じようにトガと仲良く動くから……自然と信頼を構築していた。Ms.ダークライではない、成生にだ。

 

 だからこそトガが最も頼りにするのは成生だと知っていた。その逆もまた然りであり、誰よりも強い成生が友の危機に何もしない訳が無いとも。

 

「ここにあるのは全部偽物だ。俺もそう──じゃなかった」

 

 トガと成生の信頼関係を知っていても不安だったのは自分の個性のことだった。自分自身が偽物なら、この想いも偽物かもしれない。そうだったら、二人に悪い。

 トゥワイスらしい、そんな感情。

 

 ただそれも──今は無い。本物だと証明された今、何の縛りもない男が解放される。

 

「俺は本物だ。だけどな、俺は仲間を殺さない」

 

 仲間を殺さない。それだけは偽物でも同じ想い。その禁を破った──破らせた者に向ける感情は、軍勢にしても尚足りない。

 

「よくも殺させたな。個性『二倍』、その恐ろしさを思い知れ……解放軍!

 

 

 

 

── 無限増殖 哀れな怒れる行進(サッドマンズ・アングリーパレ―ド) ──

 

 

 

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 無限に増え続ける男が怒りのままに個性を発揮する。相手する側からすれば悪夢もいいところだ。

 

 増える、増える。増える、増える。

 一人が二人に、二人が四人に、たった一人の男が引き起こす増殖は無限に男を増やし続ける。

 

 守るべき者(トガ)は守られている。守るのは自分じゃなくていい、無事なのが分かっていればそれだけで十分。ならばここに用は無い。ただただ増えて、蹂躙すればそれでいい。

 

 人が二つと書いて仁と読む。二人(トガと成生)を見守れる、たったそれだけの想いでトゥワイスの心はこれ以上なく補強されていく。

 

 現実という悪夢を見てきた、だから悪夢(Ms.ダークライ)は見たくない。心の怪我のせいでトゥワイスにはMs.ダークライの影響などない。

 

 

 受けているのは依光成生の影響だけ。友達(トガ)を守る、居場所を失くしたくない。トゥワイスも同じ願いを持っているからこそ、個性を更に輝かせるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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