普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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 無限増殖 哀れな怒れる行進(サッドマンズ・アングリーパレ―ド)。余りにも無法過ぎる数は11万対6という物量差を文字通りひっくり返せるに至るものだ。

 数の総力差は11万対6+∞。∞に至るには時間はかかるものの、逆に言えば時間がかかるだけだ。

 

 時間が味方だった解放軍が逆に、短期決戦を仕掛けなければならなくなっていた。しかしそれは所属している集団同士の戦いの話。今回の戦いにおいてはもう一つ決着をつける条件がある。

 

 数が無限であり対処がほぼ不可能である『トゥワイス以外の全撃破』。もっと言えば、『リーダーが頭を下げた方の負け』だ。解放軍であればリ・デストロが、ヴィラン連合であれば死柄木のどちらかが頭を下げれば勝敗は決する。

 そして死柄木と真正面から戦える戦力はというと、解放軍には外典とリ・デストロがいる。二人いるのだ、片方を止めなければヴィラン連合の負けは確実。さらにリ・デストロへ死柄木を送り出す道を作るには戦力差を考えても時間がかかる。リ・デストロの判断次第では逃げられる可能性すらあった。

 

 それでも今は個性をフルに使えるトゥワイスがいる。『無限に増える人』に対しては、鍛えた個性であっても個人の逃走だろうと余程の事が無い限り話にすらならない──はずだった。問題だったのは外典とトゥワイスとの相性。

 荼毘と争っていた外典は無造作に手を振るう。

 

 

 

 それだけで、辺り一帯を埋め尽くしていたトゥワイスは地面ごと吹き飛んだ。

 

 

 

「俺達ィー!」

「僕は氷の温度も操れる。いくら無限に増えようが、僕の相手じゃない」

「地面……地下の水道管を破裂か」

 

 広域制圧を得意とするトゥワイスに対し、広域殲滅を得意とする外典。相性差が絶対的であり、相対するのは荼毘しかいないのだ。

 

 だが、さっきまで外典と戦っていた荼毘は既に劣勢だった。トゥワイスが来たと同時にそちらに任せようとするくらいに。

 

 理由は二つあった。

 

「厄介だな」

「残念だよ。全力のお前と戦いたかった」

 

 一つ目……荼毘の身体からはプスプスという音が出、皮膚が少しずつ焦げていた。荼毘は炎の規模を大きく、熱を高めようとすればするほど焦げが広がりながら戦っていたのだ。

 最大火力を放つこと自体はできるが、余りにも荼毘自身への反動が酷い。必ず来る父との戦いのために、温存しなければならないのだ。使いたくはなく舐めプ染みたことをしなければならなかった。

 

 ただ、二つ目……荼毘の予想に反しているものがあった困惑。こちらの影響の方が大きい。

 

「全力の個性とお前の身体、合ってないんだろ。焦げ臭いんだよ」

「そうだな……ああ、その通りだ。間違いない……はずなんだがな」

「?」

 

 

 予想よりも焦げていない。荼毘が困惑していた原因だ。

 

 

 荼毘はこれまで自分を燃やしながら相対した者を燃やしてきた。どれだけの炎を放出すれば自らがどれだけ燃えるかも身体でよく知っている。その経験は誰にも負けないという自負すらある程だ。

 

 それが明確にズレていた。一言で言えば──全力を出せる。

 

「Ms.ダークライの影響……ってやつか?それとも灯火か?」

「何の話だ」

「いや?ただ荼毘に付すってのは寿命じゃなければ悪夢だわなって話だ」

 

 荼毘というヴィランネームは荼毘自身が付けている。かつての名を荼毘に付し、執念そのものによって動く身体で父に今の力を見せるため。

 そんな時に灯火という暖かさが横に来た。成生の血を最も濃く引いている灯火が、だ。

 

 荼毘や灯火、果ては成生ですら知らないことだったが、灯火という存在が生まれた時点でこうなることは必然だった。成生が生まれた時からマスターピースであったように……成生の血を最も濃く引くということは、本人が明確に行動しない限りにおいて、運命は決められていることなのだ。

 エンデヴァーという歪みを持ったヒーロー。荼毘という、燈矢と呼ばれた将来No.1にすら成れたヒーロー志望の少年から歪まされ、顕現したヴィラン。一家庭だけで見た時、ヒーローとヴィランのどっちかに寄っているかと言われれば……ヒーローだろう。No.1ヒーローは伊達ではない。

 だから灯火は荼毘に寄り添う。成生が、ヒーローやヴィランの背を押すように。

 

 言わば轟家における依光成生。見るだけでも影響を受け、横に居れば魅了され、話せば力を授ける存在。故に最も横にいた荼毘はこれ以上ない影響を受けていた。

 

 

 ──体質すら、改善する程に。

 

 

「見せてやるよ。これが最強の炎ってやつだ」

 

 現在のNo.1ヒーローが使う溜めて放つという技術を習得して放てる技、高まった熱は獄炎とすら呼べる程の蒼炎、それが押し寄せる壁のように形状を変えたった一人に向けて放たれる。

 

 

 

■■熱拳 ヘルファイヤーウォール

 

 

 

 さっきまでの拡散するように放たれていた、熱量もそこまでなかった炎とは比べるべくもない。外典の判断は早かった。

 

「油断させるためだったか……!ならこっちも最大火力だ」

 

 町中の至る所で地面が吹き飛ぶ。水道管が凍り、内部でできた氷が地面を吹き飛ばし……念動力で操られたかのように外典の下へ集まっていく。先程までより遥かに多く、トゥワイスの大軍が屠られたのも納得がいくほどの規模。

 それらがとぐろを巻く龍のように外典を守り、さらに伸ばされた首が荼毘へ突撃する。

 

 

 

 炎の壁と氷の龍の激突。熱すぎる炎と大規模過ぎる氷が正面から衝突し、周囲に熱量を放出した。

 

 

 

「のわぁぁああ!?」

「荼毘おまっ!?」

「巻き込まれ」「逃げろ!」「外典様の戦いだ!」

 

 スピナーと死柄木だけは先んじてタワーへ近づいていっていたため被害は無かったが、二人以外は全員が被害を受けていた。

 

「殺す気か!?」

「あっぶねぇ!」

 

 かつて『No.2ヒーロー』エンデヴァーが放ち破られ、『悪夢の堕とし子』灯火が見様見真似し逃げられ、そして今回『ヴィラン』荼毘が放つ……熱量のプラスとマイナスにおける真正面の激突。

 

 

 

 

 打ち勝ったのは、プラス側。

 

 

 

 

「ぐ……」

「ギリギリだった。本当にギリギリだったよ」

 

 ただ、荼毘の炎は打ち勝ったが押し切っただけ。外典も目標は達成していた。

 タワーへの道を氷で防いでいたのだ。荼毘も全力を使った反動で上手く動けず、外典も炎によるダメージで動けない。

 

 痛み分けで引き分け。それが勝敗だった。

 

 同時に、戦局は大きく傾く。解放軍においてトゥワイスに対抗できる戦力は外典とリ・デストロだけ。片方が崩れ、もう片方に死柄木が向かっているならば……トゥワイスを止める手段はない。

 

「よくやったぜ!」「もっと増えるぞ俺!」「また増えるぜ!」「大暴れするぞ!」

 

 量による暴力。解放軍が精鋭揃いだろうと相手が無限なら勝ち目は無い。さらに悪いことに……ヴィラン連合における最強の質も動き始めていた。

 

「起きろマキア。後継のところへ向かえ。美味しいところを見逃すぞ?」

「主の後継……」

 

 最強の巨人が、進軍を開始した。

 

 

 ■■■

 

 

 ほぼ同時刻。スピナーと死柄木は徐々にだがタワーに近づいてきていた。

 少しずつ覚醒してきている死柄木だが、数の暴力には疲れを隠せない。スピナーは戦力と見られておらず、そこまでの攻勢を受けていない。体力的には余裕があった。

 

「死柄木……お前、大丈夫か?」

「ああ、気分は最悪なんだが機嫌はいい。それに見ろよスピナー、タワーが近づいてきた」

 

 友人と話す距離で二人の会話は続く。戦い続きの死柄木にとってスピナーの存在は大きい。

 戦力的に背中は任せられないが、一緒に馬鹿やれる友だ。横にいてくれるだけでモチベーションは高まりやすくなる。

 

 そしてモチベーションが高まれば覚醒は早まり、個性も扱いやすくなる。

 

「人もさっきまでと比べてそこまで増えてない。後ろで荼毘がやってくれたみたいだな」

「さっきの馬鹿げた炎か。荼毘のやつあんな規模できたんなら早くやれよ」

「だな」

 

 軽口を叩く二人。タワーの方だけ見……包囲されたことに気づいていなかった。

 背後から流れてくる、黒い人の波も。

 

「しま」

「おいおいおい!」「何っだこれ!」「邪魔だなどかせどかせ!」

 

 包囲を完全に破壊しながらトゥワイスが増えて来ていた。見たことも無い規模の増殖に流石の死柄木も目を丸くする。

 

「おいおい……マジか増えたのか?」

「おぅ!」「頼れよリーダー!」「ようやく力になれるぜ!」

 

 数人のトゥワイスが十数人に、数十に数百に増えていく。個性『二倍』のポテンシャルが完全に解放されていた。

 

 

「うっかり俺たち一人で解放軍を手籠めにしちまうぜ!」

 

 

 トゥワイスがタワーへの道を開いていく。二人もトゥワイスが個性をフルに使えばこうなると知ってはいた。だがそれは机上の空論。こうなる可能性もあるな程度の予想であり、現実には成り得ないはずのものだった。

 それが現実になった今、スピナーが呟いた言葉が心情を全て示していた。

 

「もうトゥワイスだけでいいんじゃねーか?」

「いーやあいつは義欄を好きすぎる。許せねぇな解放軍……人の心を弄びやがって」

 

 死柄木も同じ気持ちを抱いてこそいたが、口にするのはトゥワイスに悪い。死柄木はトゥワイスのボスなのだ、現実だけでなく……何故こうなったのかを考えなければならない。

 

 ボスの器を持つ者、人の心を弄ぶ。死柄木の言葉を横で聞いていたスピナーは一人のヴィランが頭に浮かんだ。

 

「……どこぞの悪夢にも言ってやれよ」

「いつかはな、今は無理だ。力ぁ付けるほどよく分かる……あいつとの距離」

「追いつけよ」

「当たり前だ」

 

 ヴィランとしての格が違う。戦力が違う。だからといって憧れるわけにはいかない。憧れて目を光で灼かれれば、歩くことさえ出来なくなる。

 それが分かったから死柄木はMs.ダークライに向かってヴィランの道を歩く。最強のヴィランであり、後ろに道を作るタイプなのだ。追いつけない訳が無い。

 

 鼓舞しさらに進もうとする二人だが、足止めを喰らった形だ。トゥワイスが崩してくれたとはいえ、追いついた解放軍がいた。

 

「ヴィラン連合!その首魁!ここまで好きにさせてしまった事、誠に遺憾でこざいます!」

 

 選挙カーに乗って追いついた解放軍幹部・花畑。『煽動』の個性を持つ彼の言葉は、ただの兵隊を強化させる。

 

 声を上げる花畑へ体を向け、視界に入れるスピナー。死柄木に背を向ける形だが……背を預けた形とも言えた。

 

「……先行け死柄木。あれ(バフ役)は俺とトゥワイスがやっとく」

「頼んだ」

 

 死柄木が一人でトゥワイスたちと共に走っていく。残ったのはトゥワイスとスピナー。スピナーは戦力で見ればヴィラン連合でも最弱であり、個性を使ったとしても誰にも敵わない。

 しかしスピナーは自信に溢れていた。理由は簡単なことだ。

 

「トゥワイス!政治家を狙え!」

「OK!分かった!」

 

 トゥワイスに指示を出し、自らはナイフを懐から取り出す。くるりと回し動きやすい構えをとる。

 

 かつてスピナーは一人だった。誰にも必要とされない、望まれない者だった。引きこもっていたのもそれが原因だった。

 求められること。頼り頼られること。Ms.ダークライが現れる前に動き出した彼は、誰よりもそれを求めて行動していた者だったとすら言える。

 

 必要とされる。それも引きこもっていた時に遊んでいた遊びも共通している友に。これを悪夢に頼らず自力で現実にできた。悪夢に翳される者達よりも求められているという自負、スピナーが持っていなかった自信を持てるのも必然のことだった。

 

「伊口秀一。異能『イモリ』……異能弱者が何をできますか。何より、キミが何かを為せる人間とは思えません」

「はは!バフ掛けのお偉いさんが前線に立つなよ!ルール知らねー奴ぁ即ブロックされちまうぜ?

 

 為せる人間!?そりゃそうだ!俺はあいつの横にいられりゃそれでいい!あいつの見据える未来を視れるなら十分!

 

 解放軍(あんたら)も一緒だろ!?なぁ政治家さんよぉ!」

 

 啖呵を切るスピナーに一瞬目を奪われる花畑。死柄木を追うことが優先すべきであるのに、リ・デストロのためには先にスピナーを倒さねばならないと頭の中で危険信号が鳴っていた。

 

 リ・デストロへの狂信、スピナーの友愛……ある種の同族嫌悪だった。花畑自身、思考では理解できても感情が納得できないことだ。何せ同じ感情と認めれば、弱者と見ている者と見ている景色が同じ扱いになる。

 

 リ・デストロを信奉しているからこそ、許せないことだった。

 

「……同列に語ってます?」

「変わらねぇだろ?」

 

 花畑へと走り出すスピナー。すぐに解放軍に蹴飛ばされ、トゥワイスに回収されていた。

 

「くだらない」

 

 そう口にしながら死柄木を追おうとしていた花畑はスピナーへと向き直る。死柄木の足止めという考えは思考の中心から弾かれていた。

 

 ■■■

 

 時はほんの少しだけ巻き戻る。まだスピナー達がトゥワイスと合流していない時だ。

 

「よーうてめーか?俺達の居場所をぶっ潰してぇ馬鹿教祖ってのは?」

「……分倍河原」

 

 トゥワイスは死柄木に先んじてタワーへ到達していた。リ・デストロと義欄を前にし、救うために臆さず自らの個性を使う。

 

「ずいぶんハゲてんじゃねーかてめー。ハゲ教祖じゃねーか!」

「捻りがないな。光ってる(目立っている)と言ってほしいところだ」

 

 トゥワイスは自らを増やし、さらに自らだけでリ・デストロを相手にするには皆に悪いとヴィラン連合の面子を一人ずつ増やす。

 

 対してリ・デストロは目の前で増えるトゥワイスを傍観していた。ヴィラン連合の増殖を止めること自体はできた。が、トゥワイス自身が増える速度は相当に速く、止めるのは無駄と判断したのだった。

 

「やっぱ自分のことは自分がよく分かってんだよ。他のモンとは速度が桁違いだ。

 許しを乞えやハゲ教祖!」

「ふむ、素晴らしい異能だ。下にいた兵もそれでやられたのか」

 

 死柄木、荼毘、Mr.コンプレスの増殖が完了する。一人ずつ増えた彼らだが、個性はそのままであり純粋に戦力が『二倍』になったと言える。

 

 脅威的な戦力増。しかしリ・デストロの表情は変わらない、驚く必要もなかった。

 

「いいか!てめーらは!コピーだ!

 よって死んでも存在が消えることは無い!」

「死ぬ前提でリーダー増やすなよ」

「誰だこいつら」

「え?お前自分増やせんの!?」

「増やせるようになったんだよ」

「じゃあお前複製か?」

「複製だろうと何だろうと!皆のために命張れることに変わりはねぇ!」

 

 さらに数体複製されたトゥワイスが義欄へと走り──上半身が消し飛んだ。

 

「脆いな。ところで君……人質の意味を分かっているのか?」

 

 指一本、トゥワイスに手を伸ばし振るっただけだった。それだけで狙った人へ風圧が発生、吹き飛んだのだ。

 トゥワイス本体であればこんなことは無かっただろう。しかしトゥワイスの真骨頂足る『二倍』になったからこそ起きた現象だった。

 

「分倍河原、それ以上増やせば義欄を殺す。部外者故にしたくはないが、致し方ない」

 

 だからこそトゥワイスは動きを止めざるを得なかった。自らを増やしても指一本で対処される。本体であれば話は別だが、複製だから動けない。

 複製されたトゥワイス達は本体がどこにいるか分かっていた。何故なら彼らはトゥワイス(分倍河原仁)だから。トゥワイスなら必ず──動けない仲間(トガヒミコ)を守る。

 

 事実、ここに本体はいなかった。故に戦力は、複製された死柄木・荼毘。Mr.コンプレスの三人のみ。

 

「安心しろ。お前が作ったこの状況……1対たくさんだ」

 

 ポンとトゥワイスの肩を叩き安心させる死柄木。トゥワイスの活躍は文字通り盤面をひっくり返した。

 開戦する前、死柄木は戦力差を考えなかった訳ではない。リーダーとして勝ち目があるかを判断しなければならなかった。勝ち目がありその上で戦いに臨む、リーダーとして当たり前の分析はやっていた。

 

 それでもトゥワイスの増殖は読めなかった。リ・デストロ同様に。だからこそトゥワイスを褒めるのは当然。そして、目的のために動くことも。

 

「俺達に分がある!」

「取り返しゃいいんだな」

 

 複製トゥワイスが義欄へと走ると同時、三人がリ・デストロへと駆ける。荼毘は炎を放出しつつ、Mr.コンプレスは圧縮のために手を伸ばし、死柄木は二人の陰に隠れて。

 

 

 同時、リ・デストロの腕が巨大化し──薙ぎ払う。

 

 

 複製された荼毘とMr.コンプレスは消し飛び、陰に隠れていた死柄木も吹き飛ぶ。腕を振り払うという一動作だけで甚大過ぎる被害が起きていた。

 

 

 だが、トゥワイスは目的に達していた。

 

「義欄……すまねぇ巻き込んだ」

「いいや、俺が突っ込み過ぎたんだ」

 

 トゥワイスはリ・デストロの攻撃を受けながらも、全身が消し飛ぶことは無かった。連続して複製しまくっていたからだ。複製されたトゥワイスが盾となり、一人の上半身だけが残っていた。

 

 それだけ残ればトゥワイスには十分。一人が残れば二人になり、さらに増える。荼毘達がリ・デストロの目を惹きつけ、義欄の下へ辿り着いていた。

 

「右手……指がなくなって……お前、右手でたばこ(アメスピ)吸ってたよなぁ」

「俺ぁ商売人失格だ。俺から情報漏れちまった」

「謝るな。悪ぃことしてねぇやつは謝んなくていいんだよ……!」

 

 義欄に辿り着いたとはいえ残ったのは指一本で消し飛ばされるトゥワイスだけ。トゥワイスも目の前の状況からは義欄を連れて逃亡できるとは思っていなかった。次の数瞬までは。

 

「やはり”ごっこ遊び”程度か。なら我々の前に屈しろ」

「こっちの台詞だな」

 

 トゥワイスに手を伸ばそうとしたリ・デストロの背中から複製された死柄木が手を伸ばして襲っていた。荼毘とMr.コンプレスの肉壁によって死柄木は逃れていたのだ。

 吹き飛ばされはしたものの、反撃は十分にできるダメージ。不意を突いて一撃で崩壊させるつもりだった。

 

「っ」

 

 しかしリ・デストロも身のこなしは強者足るもののそれ。死柄木の不意打ちも軽くいなされる。

 

「随分と高尚なことを考えておいでで」

「高尚か……ふむ、ならば聞こう。……君は異能が何か考えた事はあるかね?」

 

 巨大化した手を振り回し、死柄木を追い詰めながらリ・デストロは語る。凌ぐのに低一杯な死柄木は反応できてはいるものの、ギリギリでしか身体が追い付いていなかった。

 言葉も感情のままに出るのみ。頭では何も考えられていない。

 

「あのMs.ダークライは言ったよ、異能とは自分自身を表すのだと。まさしくその通り!

 

 かつて個性の母と呼ばれた女性は言った『異能はこの子の個性です』『この子が自由に生きられる世の中を!』

 

 だが彼女の声はそこまで、反異能の者に殺されたからだ。

 

 Ms.ダークライのように力があれば話は変わっただろう、目立てれば声を上げられただろう。現世に現れた彼女(Ms.ダークライ)の声は彼女を思い返させる!」

 

「知ってるよ。これでも歴史の勉強くらいはしてる。それに……あいつのことはお前以上に知ってるさ」

 

「……失礼、脱線した。個性の母の声は時を経て掘り返される。『異能は人の”個性”の範疇』、多様性だ、意識改革!

 

 しかしそのどれもが異能の抑圧だった。忌避されたのは異能の行使そのもの。デストロは思った、『母さんの願った未来はこれじゃない』『真の意味で異能を個性と呼べる社会を!』」

 

 自らの語り、自らの歴史。自らを形成するものを口にしリ・デストロは戦意を上げていく。高まった熱は、自らの肉体強度を高めてさせていた。強度が高まれば速度も速くなる。

 

 ──捕まえきれなかった死柄木を、捕まえられるくらいには。

 

「歴史無きチンピラの破壊衝動。私達以上の重みがあるかね?」

依光成生(あいつ)はいいのかよ」

 

 巨大化した片手で握られながら死柄木は口にする。この身体ではどうしようもないことが分かった以上、できるのは言葉による時間稼ぎのみ。

 ほんの少しだけ、会話一つ稼げれば十分、それが分かっていたからの行動だ。

 

「直接会ってはいないが、詳しい者には聞いたとも。彼女はあるべき未来に現れるはずだった少女だと。それが我々の象徴とすら言えるほどに相応しいものだった……これ以上無い社会へのカウンターだろう!?あるべき未来には!我々が望む姿そのものが象徴としてあるのだから!」

「……はっ、所詮はその程度か。目の前が見えちゃいねぇな。眩しい光に目がやられたか」

「何?」

 

 依光成生、Ms.ダークライがどんな者か死柄木はよく知っている。トガと並んで詳しいと言っていい。肉体的特性や個性は詳しくないが、人柄はそれなりの付き合いがある。

 そして死柄木は会った時から手で自らの顔を隠していた。見えていたとは言えるが、最初から全部見ていない。影響力も受けたのは少しずつであり……だからこそ見過ぎてはいけないことが分かっていた。

 

 それでも見たくなるのがMs.ダークライなのだが、死柄木は影響を受けつつも抑えるという真似ができていた。

 

「トゥワイス、義欄助けたいならクッション出しとけ」

 

 残る話は本体に聞けと死柄木はトゥワイスへ声を出す。リ・デストロも意図があると即座に察する。

 

 絶体絶命のこの状況。そんな中でクッション……すなわち大規模攻撃の余波が来ると。状況を分かっているリ・デストロが答えに辿り着くと同時、タワーが傾き始める。

 

「窓際に吹き飛んだ時眼下に見えた、あいつはタワーに触る。

 

 俺ならそうする」

 

 会話一つ分の時間。それが複製された死柄木は欲しかった。その時間が、本体の死柄木をタワーに到達させる。タワーの最上階に上がるなんて真似はしない、する必要が無い。死柄木にとって人質は意味をなさないのだから。

 

 死柄木がピタリと五指をタワーに付け、そこを起点としてタワーが崩壊させた。余波は即座に最上階に到達したのだ。

 

 タワーが崩れ、中にいた者達は地面へと叩きつけられる。普通ならば落下死する高さであり、瓦礫が降り注ぎ物理的な質量攻撃すら同時に喰らう。トゥワイスは増殖し自らをクッションとすることで防ぎ、リ・デストロは自らの個性で防いでいた。

 

 少しずつ砂ぼこりが晴れ、堕ちてきた姿が露わになる。全身が巨大化し、強固な肉体をしたリ・デストロがそこにいた。

 

「高いとこから落ちたなら死ねよ。お前がボスか……CM出てたやつかお前?」

「答えを聞きそびれてしまったな」

 

 

 ヴィラン連合のボスと、解放軍のボスが対峙した。

 

 

 




灯火は轟家に生まれたif成生みたいなもんだったり
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