普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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今回から各堕とし子サイドです


堕とし子の長男 勇也 ーオールマイトと依光成生の長男ー

 時は文化祭が終わった頃に遡る。雄英でいつも通りの日常が少しの間だけ戻っていた頃だ。

 オールマイトがいつも通りランニングしていた時だった。

 

 いつの間にか横を走る男の子が一人現れていた。

 背は高くマッスルフォームのオールマイト程はあり、さらりと流れる金髪の髪の毛は後ろで一つに縛られている。身体つきもマッスルフォーム程ではないが引き締められており、一目で増強系の個性を使ってくると分かる程だ。

 

 そして瞳の色は、暗い碧色。オールマイトは見たことは無いが、よりみつせいにも似た色だった。

 

「何か用かな?」

「あなたがオールマイトですね。初めまして」

 

 タッタッタッと軽やかなペースで走りながら二人は会話を始める。この場所にいるという意味を分かった上で。

 

 オールマイトのいつもと変わらない様子に彼は疑問を口にする。オールマイトが雄英の教師だと分かっているのだ、純粋に……何故追い出さないのかと。

 

「……雄英の生徒ではない、分かっていて言いましたね」

「ああ。生徒ではないが悪い子ではないと分かっているからね」

 

 元No.1ヒーロー、平和の象徴オールマイト。その器の大きさを一度の会話だけで魅せる、見せられる。

 

 彼は驚愕を見せ、そしてその後にどこか誇らしげな表情になる。

 

「横を並行して走ってくれる配慮ができるんだ、十分だろう?」

「そうやって懐に入ろうとしているのかもしれませんよ?」

 

 それはヴィランの考え……というよりも、オールマイトという英雄相手ならば至極当然の思考回路。

 

 オールマイトは平和の象徴。神話は崩されたとはいえ、歴史は否定されるものではない。オールマイトの影響を受けていない人物は存在しないとすら言われる程なのだ。依光成生も、死柄木でさえそうなのだ。

 影響力を持つ人間に取り入る、実行できれば影響力を自らのモノに近付けることができる。警戒されるべきことだ。

 

 オールマイトはその言葉を一笑に付する。

 

 

 

「そうなったらそうなっただ。ヒーローってのは懐が深いんだよ」

 

 

 

 正しくオールマイトの言葉。オールマイトならばそう答えるというアンサー。その言葉に彼は微笑みを浮かべる。

 

 何せ……思い描いていた理想と、全く同じだった事実を目にしたのだから。

 

 

 

「やはりあなたは尊敬できるヒーローだ、お父さん」

「おとっ!?」

 

 

 

 想像の外にあった言葉に流石のオールマイトも驚き、顔を向ける。彼は続けて事実を口にした。

 

 

「改めまして、オールマイト。私は依光勇也、依光成生の子供……悪夢の堕とし子が長男で

 

 ──あなたと依光成生の遺伝子を継いでいる者です

 

 

 彼──依光勇也は画風が変わったような顔をして、オールマイトに笑いかけた。

 

 

■■■

 

 

 ランニングを一旦中止し、近くのベンチに二人は座っていた。近くで買ってきたジュースを二人で飲みながらであり、何も知らずに見れば怪しい骸骨のような人と快活な青年といった様子だった。

 

「私と、依光成生の子、ということかい?」

「作られたのは試験管ですが」

 

 隠されていた事実を軽い口調で暴く勇也。オールマイトは額に手を当て、依光成生にも目の前の青年にも呆れていた。

 

「……そういうことか。彼女は、自分を実験台に使っているのか」

「否定はできないですね。ただ実験台にしては随分荒いですけど」

 

 依光成生の身体は実験に使われている……訳ではない。正しくは依光成生の卵子が使われているだけだ。

 

 そして取り出し方は、奪姫の際だけは手術を行い取り出した。だがそれ以降は、こんな非効率な方法は無いなと、成生は個性と体質により抜き出していた。

 一言で言えば、依光成生が自らの手で抜いていたのだ。荒っぽいという言葉すら生温いやり方だった。

 

 オールマイトはそれを聞き溜息を一つし、勇也に顔を向ける。

 

「それで私に、何を聞きに?」

「?」

 

 ただ勇也から向けられたのはポケッとした抜けた顔。正しく言うなら、無垢な顔だった。

 

 

 

「お父さんに会いに来るのに理由が必要ですか?」

「──!」

 

 

 

 たった一言で目の前の少年がヴィランなどではないと言い切れると思わせる。

 仮定の話だが、依光成生が少年でありヒーローを目指しオールマイトの近くに来たらこうなったのかもしれないと、そんなイメージをオールマイトは抱く。

 

 驚いた表情のオールマイトを他所に、勇也は自信たっぷりの声色で目的を話し始める。

 

「まぁ強いて言うのなら、兄弟姉妹の自慢ですかね」

「姉妹……確か奪姫という名前を聞いている。灯火というのも?」

「奪姫は次女、灯火は四女です。……一番上の姉は神野にいたあのちっさいのです」

「あれが長姉!?」

 

 オールマイトは現場に居た上に後から映像を見てもいるので知っている。一番上の姉が最も体格が小さい……というか幼女だ。目の前の人物の方が明らかに年齢が上だと思える。

 個性で見た目を判断してはいけないと分かっていても、こうあからさまなレベルで違うと脳がバグった感覚に陥りそうになる。

 

「少しずつ表に出ているのは次女の奪姫、三女の艶羽、四女の灯火。男子は私だけですかね」

「その言い方だと、他にも?」

 

 放っておいても情報を漏らしてくれそうだなとオールマイトは思いつつ、話を聞きたいという姿勢を示す。

 話したがりの彼女の子ならばというオールマイトの予想は綺麗にハマり、勇也は口がどんどん軽くなっていっていた。

 

「崩華、闇子、散月、大、仁。言い切れますが、誰もかれもがとんでもない力を持ってます」

「それは、君と同じくらいかい?」

「流石元No.1ヒーロー、分かりますか」

「少なくとも君の内包しているエネルギーが巨大なことくらいはね」

 

 オールマイトはマッスルフォームになれない訳ではない。ほんの一瞬、一秒すら満たない瞬き一つ分程になるかも分からない時間だが変身できる。

 その時にエネルギーがどれだけ必要なのかも肌感覚で分かっている。それと同等以上のものを勇也からは感じ取っていた。

 

「私はあなたの全盛期と戦えるレベルを想定した、らしいです。兄弟姉妹は相性もありますけど……似たようなレベルですね」

「要するにトップヒーロークラスが10人いる、と」

「経験がまるで足りてない、というのが兄弟姉妹の結論ですけどね」

「それが分かっているというのが恐ろしいな。まして一勢力に全員が属しているというのも」

「──それは違います」

 

 突如勇也の雰囲気が変わる。オールマイトは何か地雷でも踏んだかと思ったが、続いた言葉から……()()()()地雷だと察する。

 

「堕とし子は全員おかーさんのことが好きですよ。でも必ず従うというわけではないです。親に子が反抗するように、間違っていると思うのなら声を上げますよ」

「なるほど、それが君か」

 

 ここまでの会話、オールマイトにとっては十分すぎる内容だった。勇也の、人柄を視るという意味では。

 

 

 

「君は、ヒーローになりたいんだな」

「──」

 

 

 

 勇也の軽くなっていた口が一気に重くなる。表情も大きく変わり……図星を指され、何を言えばいいのか分からない少年がそこにいた。

 

 

「なんで、そう」

「止めて欲しいんだろう?母親を、そして兄弟姉妹を。そうでなければこんな情報提供しないだろう」

 

 

 自らの本心すら正しく理解できていない少年。世間にはありふれた光景であり、勇也もまたその一人。

 違いはヴィランの子に生まれたヒーロー志望というだけ。それもまた、ありふれたことではある。

 

「身内を外から見るのは難しいが……君たちのところはエンデヴァーのところが近いのかな、気難しい父を止める、超える息子」

「……」

 

 偉大な母という意味では否定できないが故に勇也は黙る。

 

 しかし、この場の沈黙は肯定でしかない。勇也はまだそんなことも分からない、少年だった。

 

「ナイトアイに話してもいいかい?」

「……ええ。予知出来るならきっと、私のことも知ってるんでしょうね」

 

 はぁと一つ溜息をし、もっと何か無かったのかなとぼやく勇也の姿がそこにあった。

 

■■■

 

 場所は変わりナイトアイの事務所。応接室でソファに座るナイトアイ、そしてその横にオールマイト。対面に勇也はいた。

 

 緊張している様子は全く無く、ナイトアイを観察するような目つきだった。

 

「君が勇也か」

「はじめまして、でいいのかな?あなたは予知で何度も会ってるとか何でしょ?」

 

 勇也は成生の長男だ。であれば世界に影響を及ぼす者の下にいる者として、予知なんてあれば必ず見られていると考えていた。

 

 ナイトアイはコクリと頷き、勇也をジッと見ながら口を開く。

 

「……そうだな。君がここに来ることは依光成生が未来を固定した時よりも前から決まっていた。

 

 意志力とでも言うべきか、未来を固定、変更するときに見る力だが……どれだけ強い意志を持っていれば何が起きても変わらない未来に出来るのやら」

「えっと……?」

「君はオールマイトの息子だと疑いようが無いということだ」

 

 眼鏡の位置ををクイッと直し、ナイトアイは勇也への視線を厳しくする。

 何せあのオールマイトの子だ。ナイトアイが大ファンであるオールマイトの子だ。力を継いだデクも継いでいるモノが重いが、勇也はある意味それ以上に重い。

 

 意志は別として、遺伝的にオールマイトを継いでいる。ならばかける期待も相応の重さがかかる。

 

 

 すなわち──オールマイトの再来。悪夢を駆逐する英雄の帰還。

 

 

 ()()()()()()()と分かっていても、ナイトアイはファンであるが故に夢想してしまうのだった。

 

「……ありがとうございます」

「まぁユーモアを受け継いでくれなかったのは残念だが」

「生まれてまもない子供に無茶言わないでくれます?」

 

 軽い言葉と笑み。それだけでもオールマイトの面影を見せる。

 ナイトアイはフッと笑みを浮かべ……予知で聞かなければならないと決めた内容を声に出す。

 

「いつ生まれだ?」

「つい最近ですよ。一年も無い」

 

 軽い口調は変わらず。しかし反応を返されたナイトアイは額に手を当て上を向く。

 どうしたものか悩ましいと、分かりやすく身体で示していた。

 

「その反応……何か分かったのかい?」

「予測、ですが」

 

 溜息を一つし、ナイトアイは自らの立てた予測を口にする。

 それは成生を止める上で見つけなければならないもの。だが、見つけた事実は嘘であってほしいと願ったものだ。

 

「本当に嫌になる。彼女の罪は莫大なのに動機……いや、本質は一つだけ。情状酌量も余地ありとは」

「おかーさんのことですか?」

 

 ナイトアイはコクリと頷く。続けて見つけた本質も、二人へ話す。

 

「ああ、彼女はヴィランだが……いや、ヴィランになったのも結果論だな。

 

 本質はたった一つ、『子供の頃から個性の制御が出来てない』だけだ」

「……子供の頃ならそう大きくならないはずだが」

「彼女の体質が悪さしているのでしょう。制御出来ずずっと暴走しっぱなし、だから未来が見えなかった」

 

 オールマイトの指摘もあり得る話ではあった。

 

 実際、依光成生がマスターピースでなければ『なりたい自分になる』個性と言えど制限がかかる。現行のプロヒーローの頂点、すなわちエンデヴァーと同等以上には辿り着けるが、オールマイトには届かない。そのレベルに落ち着く。制御は難しくとも、()()()()()()()のだ。

 

 しかしマスターピースという限界を超越する体質に、『なりたい自分になる』いう個性は異常なレベルに噛み合う。子供では、どうしようもない程に。

 

 

 その事実をナイトアイは分かっていない。しかし、目の前の現実(勇也)は答えとなり得るものだった。

 

 

 

 

「しかし彼女は制御出来てない現実に気づいていた。その証拠が、君だ」

 

 

 

 

 情状酌量の余地ありとはここに起因する。制御出来ない、そのままではどうしようもない、何とかしなければならず、行動した。その意志の答えが目の前の少年だった。

 

「……なんとなく、分かってました。おかーさんは何かに苦しんでいて、解決するために僕達を作ったんだって」

「僕呼びの方が年相応でいいねぇ」

 

 オールマイトの茶化しにナイトアイはフフフと笑う。勇也は悩まし気な表情になっていた。

 

「ふふ、彼はまだまだ子供ですよ。長男なら格好つけるのも、らしくていい。

 

 制御出来てない事実、解決するには彼女一人では不可能で……親どころかヒーローの手も、ヴィランの手も借りれなかった。

 

 何故なら制御出来てないならヒーローにはなってはいけない、ならない方が良いから。成れるとしたらヴィランだから。

 

 ヴィランなら個性を制御しなくてもいい扱いにでき……しかし彼女は拒んだ」

「自分のことと、社会の現実を慮った故に……か」

 

 依光成生はヴィランである前は普通の少女だった。隠していたとはいえ、それが『なりたい自分』だった。

 

 だからこそ制御できない現実を感じ取り、解決するための策を講じていた。例えその手段が普通の少女ではなくとも、『なりたい自分になる』には既にそれしか選択肢は無くなっていた。

 

 

 

 『普通の少女』なら出来ないことだが、『なりたい自分』には出来ることでありしなければならないこと。であれば、依光成生には出来ることだった。

 

 

 

 そしてこの、『依光成生は自身の選択と考えているがその実態は個性による選択肢の強制であること』は……今回だけに留まっていない。

 

 最も分かりやすい例が、両親を殺したこと。普通の少女では出来ないことだが、『なりたい自分』には出来ること。だから実行できたのだ。

 

 

「おそらくは。だから君たちを作った。

 

 ただ自分のことを信じてくれ、彼女の個性の影響を受けることも受けないことも選べる人間を。

 

 個性制御の為に、自分の為に死んでくれる人間を。

 

 その全ては、彼女が人間で在りたいから。怪物として話すこともできずに駆除されたくないから。

 

 

 ……そうだな、きっと彼女ならこう言うだろう。

 

 

『普通の少女になりたい』から」

 

 

 ナイトアイは『なりたい自分になる』個性をどんな個性か予知で知っている。だからこそ成生が望んだ自分という答えが出せるのだが、そうでなければ絶対に分からなかったとも考えていた。

 

 理由がここだ。なりたい自分の定義。これこそが肝心要であり、これを把握していない限り依光成生を止めることは出来ない。何故ならどんな個性なのかを理解することが出来ないからだ。

 

 『なりたい自分』によって個性の動き方が変わるのだ。オールマイトのような増強系にもなれば、エンデヴァーのように炎を出すこともできる。変幻自在もいいところであり、原理を知らなければ太刀打ちできない。

 

 そして答えを知ったが故に……行動した理由も、人格も予想出来てしまう。

 

「普通の少女はそんなこと考えないですよ」

「普通では無かったか……普通で居たくなかったと個性に願ったのだろうな。

 

 子供ならよくあることだろう?オールマイトみたいなヒーローになりたい!とオールマイトごっこする。よく見た光景だ。

 

 

 それが個性によってこんなことになって後悔して、初めて自分を理解したといったところか。

 

 だからなんとかしようと動き……今に至る訳だ」

 

 最初に決めた結果(なりたい自分)は変えられないから、その上で結果を決めるプロセスを変えよう(利用して個性を制御しよう)と藻掻いている。ナイトアイはそう結論付けた。

 

 しかしこの思考はヴィランではない。純粋なヴィランならばそう考えない。

 そしてそれこそが依光成生に背を押された者達が依光成生を望み、慕う理由。同時に目の前で会い、話した時に彼女が与える印象ともなる。

 

 

 ──『自分(個性)を何とかしようと藻掻いている、ヴィランではない健気な少女が応援してくれる』というもの。

 

 

 純粋なヴィランならば輝いて見えるだろう。純粋な一般市民ならばやる気を出すだろう。純粋なヒーローならば奮起するだろう。

 ヒーロー寄りのヴィランならば声を受ける。ヴィラン寄りのヒーローならば自らを反省する。

 

 そして本質を知れば……自ら「個性とは自分自身」と呼ぶ彼女なのだ。ヒーローならば余りの痛ましさに止めなければならないと手を伸ばしてしまう。ヴィランならば絶対に放さないと手元に置きたくなる。

 

 普通の少女を望んだから起きてしまっているヴィラン。それこそが今までの依光成生だった。

 

「……今、おかーさんは動けない状態です」

 

 母親の個性が余りにも自分勝手であり母親は悪く無いと言われても、個性とは自分自身と呼ぶ母なのだ。

 勇也には分からなく……同時に、()()()()()()()()()()()。一度思考を止め、情報を渡すことへ頭を移行する。

 

「動けないと言うと、疲れているような感じかい?」

「姉が言うに……脳死、というものだと」

「「!!!」」

 

 ガタッとオールマイトが立ち上がる。ナイトアイの方を向き、拳に力を込め『今が行動すべきだ』とジェスチャーしていた。

 

「ただ時間が解決するとも聞いてて」

「ナイトアイ」

「ダメです。彼の言葉を聞いたでしょう?

 

 彼女を守っているのは少なくとも数人のトップヒーロークラス。それも成長途上だ。

 比喩すら生温い進化をしますよ。生徒の成長がどれだけ早いか知ってるでしょう?

 

 まして、相手は『依光成生の子供』ですよ?」

 

 電花、奪姫、艶羽(よりみつせいと戦った三人)灯火(ミルコとタイマン張った)、そして目の前にいる勇也。誰もが既にプロヒーローでもそう簡単に手が出せない存在になっている。

 

 今でさえそれであり、成長するきっかけを渡せば爆発的に成長するのが保証されているまであるのだ。刺激一つすら渡したくないというのがナイトアイの本音だった。

 

「捕まえられないと。……予知かい?」

「確信ですよ。

 

 勇也くん、一つ聞きたい。君たち兄弟姉妹は……母の為に命を投げ捨てられるかい?」

「僕は嫌ですが……ほぼ全員がそうですね」

 

 ヒーローからすれば最悪の答え。死兵が成立するとなれば手を出すにも一気に制圧する以外に選択肢は無い。だが一気に制圧するのが難しい戦力だ。

 

「なるほど、死兵足り得る訳か」

「トップヒーロークラスが平気で自爆する。ヴィラン連合もいるのに相手してられないですよ」

 

 ナイトアイが手をひらひらと振る。やってられないと口に出さなくとも分かる。

 

 そんなナイトアイをオールマイトはちらりと見、話題を上げる。ずっと気になっていた疑問であり、ナイトアイとの会話で確信に至った問いを。

 

「……ふむ、話を聞いて確信した。君は、兄弟姉妹を自慢しに来たわけではないな」

「何故、そうだと?」

「今言っただろう、母親のために命はかけられないと。しかし母親を止めたい、は間違いないとすれば」

 

 一拍置き、オールマイトは勇也の瞳に視線をしっかりと合わせて指摘した。

 

 

 

 

 

「君の望みは、依光成生を殺したい、ではないかな?」

 

 

 

 

 

 依光勇也の、最大の望みを。

 

「…………流石、ヒーローですね」

 

 隠していた刃を視られたと言うように、勇也の雰囲気が変わった。

 

 

■■■

 

 さっきまでの純朴な青年といった様子は消え、瞳は冷酷なものに変わる。父から受け継いだ行き過ぎた善性はある意味で母親と同じ領域……やらなければならないからやる、そのためなら何を犠牲にしても構わない。そこまで辿り着いていた。

 

「あの女を捕まえるなんて生温いことは考えてませんしそもそも出来ない。塵一つ残さず消し去るべきです。それ程の罪も犯してる」

「……彼女の体質を考えれば、きっとそれが正しいのだろうな」

「ナイトアイ!?」

 

 目を閉じ上を向きながらナイトアイは同調する。ヒーローならば逮捕が最優先であり、殺害はとんでもない危険性がある場合だ。それも人格に、という場合が大半だ。

 成生はそれに当てはまらない。人格に問題は無く、問題があるのは個性だけ。影響力も考えれば逮捕できるのが最善なのだ。

 

「死体になろうが使い道が山程ある。悪用されないことを考えれば歴史そのものから消し去りたいとすら考えるだろう」

「だがっ……彼女は望んであの体質になった訳じゃないだろう」

「それすら怪しいですがね」

 

 吐き捨てるように勇也は声に出す。母親をよく知っているからこそ、分からない疑問というものもある。しかして離れてみれば答えが見つかったりするものだ。

 この場で答えを知らないのは勇也だけだった。

 

「どういうことだい?」

「あの女の個性。『最適化』と本人言ってましたけど嘘でしょうあれ。

 

 実態は恐らく『自身の理想になる』とかじゃないですかね。それで体質も変えた」

 

 ナイトアイだけは成生の個性を知っている。故に母親の個性をほぼ正解に当てられ、押し黙ってしまう。望んでそうなった、というのが間違いであることを知っているがそちらに反応していた。

 

 勇也の疑問に答えたのは、オールマイトだった。

 

「それは無いね」

「何故?」

「あのオールフォーワンが体質と明言してる。個性云々においては信頼出来てしまう男だ」

 

 オールマイトはオールフォーワンと長年戦ってきた。騙し騙されの関係ではあったが、信用できる部分があるのも事実。

 

 特に個性関係においては信用を置いてすらいた。個性を奪う個性である以上、誰よりも個性について詳しいのだ。新しい個性を手に入れたりとすれば自分からベラベラ話すくらいには饒舌になる。

 

 そのオールフォーワンが体質だと言い切ったのだ。成生の個性をモロに受けていたこともあり、オールマイトとナイトアイは間違いないと判断していた。

 

「オールフォーワン。ああ、奪姫の父親ですか」

「もう驚きもしないよ……何してるのさあの子は……」

 

 成生の所業にオールマイトは俯いて溜息を吐く。遺伝的な意味でオールフォーワンの後継者がいるとなればヴィランの活性化は間違いない。勇也という対比がいても戦いの火種にしかならない。

 呆れるのも無理はないことだった。

 

「まぁ理解はしました。ただ違うとなれば……僕の手で、消し去る。出来るはずだ……いや、オールマイトの全盛期であり全力ならば可能でしょう」

「不可能ではない、とだけ」

 

 オールマイトの全盛期の全力を知る人は今や数少ない。何故なら基本的にオールマイトは全力を出さなくていいからだ。全力で放てば天候すら容易に変えられる力を奮うなど平和の象徴としてあり得ない。

 実のところ依光成生も知ってはいないのだ。ただ『オールマイトなら出来るだろう』という考えの下で動いているだけだった。

 

「しかし」

「僕はあの女の子どもであり罪そのものだ。物理的にも社会を壊せる力などあってはならないでしょう。

 

 ……いや、あったとしてもそれはあなたのような精神性を持たなければならない」

 

 ナイトアイが止めようとした声を遮り、勇也は話を続けた。

 止めなければならない。分かっていても人並みの言葉では止まらないのは二人共分かっている。何せオールマイトの血を引いているのだ、二人は一度別たれた時のことを思い返していた。

 

 だからこそ、今度は間違えない。

 

「君の言いたいことは分かる。だが、それは」

「ダメだ。君一人にさせる訳にはいかない」

 

 ナイトアイとほぼ同時。オールマイトが口にしたのは、これ以上ない程に効く言葉だった。

 

 

 

 

 

「それは、君の母親が辿った道だ」

 

 

 

 

 

 勇也は何も言えずに黙り込む。母親と違うと言い、行動している勇也にとっては突き刺さるワード。

 成生の存在を許さないために動いているというのに、やることが成生と同じ。尊敬できる父親が続けた話で少しずつ理解に落としていく。

 

「……」

「生まれただけの者に罪があってはならない。罪人の息子であっても、同じことだ。

 

 彼女が犯した罪……肉親関係のもの。その結末を私達は知っている。

 

 君は私の性格も近いが、間違いなく彼女の性格も継いでいる。第二の依光成生を生むだけだ」

「そんなことは!」

「ある。だって君はその身だけでここにいる。私だけに似たなら……そうだな、間違いなくここに依光成生の首を持ってきているだろう。再生があると知っているんだ、その阻害のためにってね」

 

 Ms.ダークライが無防備な姿で動けないでいる。もしオールマイトだったら間違いなく行動しただろう。怨敵を屠るという意味なら、代償を払ってでも潰した男なのだから。

 

 

「なら、僕はどうすれば……」

 

 

 俯き、悩み始める勇也。力があり、生まれを知り、影響を知っているが故の苦悩。

 そんな様子は二人は……どこか微笑ましいと柔らかい目を向けていた。

 

「はぁ、成程。これはホントに……ホントにあなたの子供ですよオールマイト」

「違いないね。こんなところで昔のことを思い出すとは……親ってのはこういう感覚なのかい?」

「私に子供はいませんよ」

「知ってるさ。でも『育てる』って最近よく分かるようになってきたよ」

 

 談笑する二人に困惑する勇也。重い話だったはずだがいきなり雰囲気が明るくなったのだ、頭が追い付いていなかった。

 

「……そうだな、まずは私のサイドキックになってくれ」

「雄英の生徒にも会わせたいところだが……いや、今は止めておいた方が良いか」

「あの、何故……?」

 

 恐る恐る口に出す勇也。対して二人は笑みを浮かべながら悩みへの回答を口にする。

 

「君は今悩んでいる。自分一人で対処すべきではない、どうすればいいのか分からないと。が……私達からすれば解決してる悩みだ」

「というか君の母親が解決させた悩みだな。知らないか?

 

 かつてオールマイトが一人で何でもしてた時代を」

「あ」

 

 一人で解決する。理想は確かにそれであり、歴史としてオールマイトが一度確立させたこともある。

 だがそれは更なる理想(依光成生)によって壊された。であれば次の時代へ進めなければならず……そのための灯はしっかりと受け継がれていた。

 

 例えばヒーローのサイドキックであったり、雄英の生徒であったりだ。追加で一人入ってくれるというのなら受け入れるだけ。優秀ならば万々歳だ。

 

 

「英雄が一人いてあらゆる困難を解決してくれる時代は終わっている。もうその時代ではなくなっている。

 

 故に分からないなら『周りに頼る、頼っていい』。そういう時代さ」

 

 

 呆けた顔をしている勇也に、オールマイトは「そうなるよねぇ」とうんうんと頷く。

 何でも一人でできて、何でも解決できるヒーロー。オールマイトも時代が変わった中に放り込まれたようなものなのだ。気持ちはよく分かるものだった。チッと舌打ちがオールマイトの横からは鳴っていたが。

 

「本っ当にソックリだな」

「これ私のせいかい?」

 

 ハハハと笑い合う二人。ルミリオンや雄英の生徒といった学生を相手にしているためか、人を育てることに夢中になっている二人だ。逸材が現れたともなれば、こうなるのも自然なことだった。

 

「君の力はオールマイト想定ならサイドキックにしても文句は言われないだろう。ミリオと切磋琢磨するに丁度いい」

「ヒーローネームも考えないと。私と関係を分けなければいけないな……アイテムとか持たせた方が面白いだろう」

「いっそヒーローらしく無いアイテムにしましょうか。間違いなくあなたとは違うように見られる」

 

 ワイワイとまるで子供がヒーローを語る時の様に二人が話し始める。勇也には勢いや話の方向が予想だにしなかったところへ行っており、頭にははてなマークがいくつも浮かんでいた。

 

 ただ善意で行われていることは分かってしまっていた。

 

 

 

 

「えと、その……?よろしくお願いします……?」

 

 

 

 

 オールマイトの血を継ぐ。ならば善意を受け取らないということはできないし、思考にすら無い。勇也は流されながらも、自分の言葉を入れ込みつつ二人の話についていくのだった。

 

 

 

 後日。ナイトアイのサイドキックは一人増えることになる。時たま現れる、髪をキセルで結ったサイドキック────キセルマイトはヒーロー活動に勤しむ。

 

 ルミリオンが居ない時の代役とも言われながら、解決力や性格はルミリオン以上。二つの柱とも呼ばれ、ナイトアイ事務所は少数ながらも精鋭を持っているという評価へ変わっていくことになる。

 

 そしてキセルマイトは、ナイトアイの事務所だけで動くにはもったいない程の人物に成長していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 






キ セ(成生)ル マイト














ちょっとだけ解説

成生の個性『なりたい自分になる』は基本的に暴走してて、無意識だけど制御しようとしてるって話。本人が直感をめっちゃ大事にしてたのはこれが理由。「直感」=「なんとなく」=「無意識を鑑みた判断」。

でも制御無理だから何とかしようとしてて、『なりたい自分になる』過程でプロセスを弄って解決しようとしてる。


結果として実際に会うと痛ましい印象を与える少女になった。でも本人は健気気質もあったりするからこんなヴィランに。


胎児脳無計画で育っている子供たちが好きに生きてるのもこれが理由だったり。プロセスを弄らないと今の個性は制御できない

ちなみにプロセスを弄るってのは目的である『なりたい自分とは何か』に対していくつもルートあるよねっていうところ。例えるなら、野球選手になるには甲子園で優勝するとか大学からとか選択肢あるじゃんってハナシ

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