泥花市での戦いが報道された頃、オールマイトから緑谷と爆豪は呼び出しを受けていた。緑谷と爆豪にとってはたまにある話し合いだが、大抵はとんでもない重要事項を共有する機会となっている。
今回もそうかと二人が向かった部屋にいたオールマイトは、話したくないなぁという雰囲気を全力で出していた。
「今日はいつにもまして突然で……分かったからかっちゃん目力抑えて。何があったんですか」
「……私の後継問題って覚えているかい?」
「ミリオ先輩のことですか?」
ワンフォーオールの後継者問題。平和の象徴と呼べる力ワンフォーオールは一代で築かれたものではなく、次の代へ継ぐことができる力だ。
故に優秀な者が継ぐ方がいいと思われており、オールマイトもその考え自体は持っていた。ナイトアイが最も苛烈で、そのためにミリオを育てた面もある程なのだ。
オールマイトとナイトアイの仲が一度完全に決裂したのもそれが決定打だった。今はMs.ダークライという決裂してる場合ではない問題が生じているために仲直りしただけであり、Ms.ダークライが解決できたら再び同じ問題にぶつかりかねないだけでもあるのだ。
しかし後継者問題は話の導入の一つでしかない。オールマイトはそこから話した方が当事者であるが故に楽だったのだが……
「そう……ナイトアイと拗れた話だ」
「話が長くなんだろうが!はよ言いたいこと言えや!」
……爆豪はそうではなかった。天才型の爆豪は一を聞けば十を知れる時すらあるのだ。そして何が起きているのか直球で聞きたいという現場型でもあった。
「はぁ……私としてもあまり言いたくない話ではあるんだ。ただ言わないといけないことだし……言わないと拗れるから話す場を設けた」
「拗れた後を知ってるから事前に……。……拗れると分かってる?」
緑谷の疑問に、答えに等しい言葉をオールマイトは口に出す。
「私に子供がいると言ったら、どう思う?」
「「────」」
驚愕に言葉が出ない。AFOの雰囲気に当てられた時の恐怖ではなく、自らの認識内にありながら驚くという感情の1パラメータだけが認識をぶち抜けた状態。条件や相性次第では発狂すらする状態だ。
十数秒の沈黙が続く。それ程に二人は驚いていた。
「隠し子が!?居たんですか!!!???」
「……嘘だろ」
切れたふりしていつも冷静な爆豪ですら驚きを隠せていない。緑谷は言わずもがなだ。
「いたというよりいつの間にか出来てたってのが──待ちなさい警察が関わる話じゃない」
スマホを持ち出し警察に連絡しようとする二人を止めるオールマイト。二人も冗談だったので収めるが、説明が下手くそだったのは変わらない。
オールマイトからすれば説明したくない案件なのだ。説明が雑になるのもある意味当然ではあった。
「はぁ……そもそもこれは私だけの問題ではないんだ」
オールマイトは溜息を吐き話を続ける。デリケートな問題でもあるため、まだ学生である二人にそこを話すのも大人として憚れるものでもあるのだ。
全部それらを無視している依光成生のせいなのだが、大人として二人にはそこまで分かってほしくはないとも考えていた。
自分の身体を弄りまわして子供を作るなんて考え、ヒーローからすれば狂気の発想に近い。そんな真似を平気な顔をして行っているなど、伝えたくなかったのだ。
「ナイトアイが確認しているだけで私とホークスは既にやられた。エンデヴァーも可能性がある」
「ホークス……!No.2ヒーローの!?No.1のエンデヴァーまで!?」
オールマイトは堕とし子の詳細を知らない。誰がどの子なのかまでは聞いていない。聞けば必ず漏らすからとナイトアイに釘を刺されたからだ。
しかし知っている事はある。好き勝手にバラす羽の生えた少女がいるのだ、予想できることはそれなりにあった。
空を飛び、誰よりも速く行動を起こす「誰よりも速い少女」。さらには赫灼熱拳を操り、神野で共に戦ったエンデヴァーの技……「エンデヴァーと同じ技を使う少女」。
直球に問われればオールマイトも話さざるを得ない。悪い意味で爆豪の急ぎ癖が爆発していた。
「依光成生の戦略だ。優秀なヒーローを選別し……遺伝子を、個性を奪う計画」
「遺伝子を──まさか!?」
緑谷の方が爆豪よりも先に結論に至る。こればっかりは妄想たくましい方が先んじていた。
「やつが遺伝子を利用し……自らとの子供を生み出している。君なら知っているだろう?奪姫という子供を」
「──!」
緑谷は死穢八斎會との戦いを忘れていない。結末も、始まりも、全てだ。
初手で現れた最悪のヴィラン、奪姫。子供っぽいのが残っていたから一時的に沈黙まではさせられたという話であり、真正面から戦えば間違いなく死んでいたとされている。
デク自身、今でもどう戦えばいいのか分からない相手だ。真っ向勝負で戦えば同じ結果になると分かっているため、攪乱する手段が欲しいと願うレベルだ。
オールマイトも艶羽と軽い遭遇はしていたため、脅威レベルが分かっていないのは……一人も会ったことが無いと認識している爆豪だけだった。
「結局ガキだろ。何で警戒しなきゃ」
「子供といっても君たち以上に個性を扱える者達だ。さらに……個性を複数扱える。脳無のようにね」
「……なるほどなぁ。モブ女の下に厄介なガキが出来たって訳か」
「かっちゃん、厄介どころじゃないよ」
「ああ゛!?」
「一人でリューキュウ事務所全部相対してた。それで最後は負けたって話で……プロでも相性が大きく出る」
「…………俺なら……いや……そうかよ」
仮に情報無しに爆豪が奪姫と相対したら、一瞬で爆豪は沈むことになるだろう。
背後を取れる可能性はある、一撃でケリをつけれる可能性はある。だが反応されたら奪姫のワンサイドゲームに切り替わる。実際にリューキュウ事務所が戦った時はそうなりかけたのだから。
悩み込む爆豪に悪い情報を流し過ぎたと見たオールマイト。可能性はあることを示さないとと焦り……成生と爆豪の関係が頭の中からすっぽ抜ける。
「ただね、子供たちの皆が皆MSダークライに付いてる訳ではないみたいなんだ。実際に私の子供……勇也は敵対視しているようでね」
ピタリと爆豪の動きが止まる。さっきまでとは全く別の反応であり、緑谷も知らない反応だった。
「かっちゃ」
「はははははは!!ザマァみやがれあのモブ女が!!!」
笑いが止まらないといった言葉が最も的確だった。
爆豪は成生のことが嫌いだ。会いたくもないという嫌いではなく、会ったら必ずブチのめすといった形で嫌いだ。成生が痛い目に合うことがあればそれに越したことはなく、自業自得の形となれば最高もいいところだ。
しかもそれが爆豪が憧れるオールマイトに手を出して失敗したという形。最高に最高が重なったのだ、嬉しさが感情の限界を突破していた。
「それで隠し子って……ナイトアイが確認……もしかして最近ナイトアイの事務所に彗星のように現れてミリオ先輩と双璧と成すと言われて」
「キセルマイトと呼ばれてる子がそうだ。いずれ会わせるつもりだが、如何せん我が強い子でね」
爆豪が笑っているのを他所に二人は話を続ける。爆豪のことだ、どうせ話は聞いているという信頼がそこにはあった。
……爆轟は気づいていなかった。どんな形であれ自分の憧れに手を出したのだ、最も嫌うとすら言える女が、だ。
その女は、当人はそんなつもりは一切ないと言い切れるのだが爆豪にとっては絶妙に嫌なところを突く──果たして子供は?
「ははは……で、俺らにそれ伝えて何したいんだ」
「私が来た!」
ガラッと扉を開いて入ってきた大柄の男。画風がどこか違う姿や、顔立ちはどこかオールマイトの面影を見せていた。
「……こういうことやる子なんだよ」
溜息混じりにオールマイトが呟く。自らの子供がかつての自分と同じことをしているのが目に見え、逆にオールマイトは恥ずかしくなる。未熟な自分自身の写し鏡のようだった。
ただ、ここにいる二人がどういう人物なのかオールマイトは頭から抜け落ちていた。特に緑谷は元々……というか現在進行形で──オールマイトのオタクなのだと。
「私が勇也、キセルマイトと名乗ってる!」
「ほ、ホントにオールマイトの面影がある……!」
「……中々やるじゃねぇか」
未熟な勇也の様子だが二人はどこか目を輝かせるような姿。若い姿のオールマイトに近い姿などレア中のレア、オールマイトに憧れる二人からすれば興奮こそすれど落ち込むようなことはあり得ない。
完全に失念していたオールマイトはゴホンと声を立て、話を仕切り直す。勇也が来たのなら話を結論に持って行っていいとも判断していた。
「二人には……いや、A組には模擬戦をやってほしいのさ。ちょっと手加減が難しいって話で、ちょうどいい相手が君たちくらいなんだ」
オールマイトの言葉に緊張の糸がピンと張られる。特に爆豪はギラりとした目を勇也とオールマイトに向けていた。
「舐められてるってことか」
「いや逆だよ。手加減できるってのは力の調整が緻密にできるってことだからね。緻密にできなかったら抑えてくれるという信頼と実力が無ければ頼めない」
フォローするオールマイトだが勇也は懐からスマホを持ち出して確認するというマイペースっぷりを見せる。おっ、という声を漏らした後に二人へ声をかける。
「という訳で明日の放課後にでも頼みます。ルミリオンも来るってさ」
「ミリオ先輩も!?」
「やっぱ舐められてんじゃねぇか!先輩来ねぇと俺らじゃ止められないって言ってんだろ!」
爆豪は結論を出すのが速いがせっかちな面もある。今回もそれであり、勇也はしょぼんと目に見えて落ち込んでいた。
「そう見えるのか……」
「天然なだけかよ!?」
「これも経験だ。ルミリオンもたまに負けるくらいの強さがある、君たちの訓練にもなるだろう」
「ミリオ先輩が!?」
ミリオが負ける時もある程の強さ。それは単純な戦力で見てもプロヒーローのトップクラスと同等のものだ。
それがまだ発展途上のそれだと言う。しかも依頼はそのための訓練であり目安となるのは若かりし頃のオールマイト。
二人が、燃えない訳が無かった。
「燃えて来るじゃねぇか」
爆豪と、緑谷の目に炎が灯った。
■■■
次の日の放課後。A組は運動場εに集まっていた。爆豪と緑谷に誘われ、ミリオ先輩の同僚の頼みということで二つ返事で了承していた。
しかしミリオという比較対象がいたのはある意味きついものがあった。何せA組はミリオ一人に完膚なきまでに敗れた経験がある。
「先輩の同僚がスランプだから抜け出せるように手伝うって、できんのか俺達に?」
「数分とかからず負けた相手だよ?」
成長こそしているが期間が大きく空いたという程でもない。そして当時、A組からはミリオとの差は大きく見えていた。であれば今訓練に立ち会っても同じ結果になるだけ……とはならない。
「あの時、不参加だったからなぁ!」
「あの時の俺達じゃねぇだろ」
理由はこれだ。あの時爆豪と轟はいなかった。仮免試験で落ちたからという理由であり妥当なものであったが、心残りが無かったわけではない。
もし参加していたらどれくらい通用したのか?。二人も知りたかったことだった。
「昨日今日ですまないな」
「相手できる人を探すのも大変だから丁度よかったさ!A組の皆の成長も見たかったしね!」
「壊れないってのはお前が言ったからだけど……ホントだな。目がぎらついてる」
「いやそれ爆豪くんだけかな」
肝心の勇也はというと、離れたところでミリオと話していた。
そんな勇也に対しギラギラした目を向ける爆豪や興奮している轟や緑谷。戦意も悪く無いと見た勇也とミリオはA組の方へと歩み寄る。
「じゃあ自己紹介でも。名前は勇也、ヒーロー名がキセルマイト、ルミリオン……ここだとミリオだっけ?」
「どっちでもいいさ!」
「じゃあミリオで。ミリオの同僚で最近ヒーローになってね」
「緑谷と爆豪から声かけられてって流れでした!二人との関係は!?」
「二人とは師匠が同じ。オールマイトとナイトアイ」
「師匠じゃねぇ!」
オールマイトが師匠であれば嬉しかった爆豪でも、ナイトアイは明確に違う。緑谷のようにオタクならともかく、爆豪はオールマイトが憧れなのだ。突っ込みを入れるのも自然なことだ。
「スランプって話ですが!」
爆豪の様子も半ば無視して質問が続く。A組が新進気鋭のヒーローと会える機会などそう見逃すはずもないのだから必然だ。
「ヴィラン鎮圧する時たまにちょっとやり過ぎる威力になったりするんだ。仮想相手がミリオだからかな~って」
「おいおいそりゃないだろ」
「透過無しでも大抵の相手沈められるパワーある癖によく言う。A組の皆さん沈めたって聞いたぞ?」
「やったけどさ!」
「やったのか……で、威力控えめの相手を探してたんだけどあんまし耐えられない相手だと病院送りだからさ、渡りに船ってやつだったわけだ」
威力が高過ぎて病院送りが多発する。退治と言えば聞こえはいいがやりすぎなのも問題だ。
目的が分かった面々だが、どうしても運動場に入った時から一つだけ気になっていたことがあった。
ぱっつんぱっつんと千切れんばかりの張り方をした、服装だ。
「何でジャージ?」
「俺が貸したのさ!流石にヒーローコスは問題だからね!」
「何か武器が!?」
「いやあれ丈夫なだけ。機能とかないね。オールマイトと同じ。
ジャージなのはジャージ破らないようにっていう手加減の一つだね。こいつはすぐ脱ぐけど」
「酷いな!俺だってたまにしか脱がないさ!」
「僕がいるとよく脱ぐ癖に」
「安心感が違うからね!ユーモア優先になるのは仕方ない!」
「笑った人いたっけか?僕は笑わせてるけど」
「────!」
ミリオが顔を真っ赤にして勇也に突っかかる。片手で頭を止められてHAHAHAと笑っていたが、ミリオも個性を使っていないのでただのじゃれ合いだとも分かる。
「すげぇ。ミリオ先輩と同格ってのも納得だ」
「会話レベルで抑えられてる……!」
「オールマイトの弟子ってマジかよ」
「いい経験になりますわ」
A組の質問が収まってきたところで勇也は訓練の説明を始める。教師のような説明に、A組はオールマイトの幻影が見えているようでもあった。
「じゃあルールだ。A組からは個性の全開使用可で、僕のジャージ破けば勝ち。全員まとめてかかってきて大丈夫だよ。僕はゆっくり歩く程度の動きにしよう」
「それだと燃えたりでもNGになりますが!」
「それでいいよ。んでこっちのルールは……A組の誰でも、気絶するレベルのダメージ負ったら負け。膝をつく程度ならOKで、手を上げることも出来なかったらそこで僕の負けだ」
縛りがあり過ぎる程とすら言える内容。先んじて説明がなければ舐め腐っているとすら言えただろう。何せ言っていることが「負けなければいい」というものだ。
完全勝利を是とする爆豪や、ヴィランの撃退や退治を行うヒーロー志望の面子としては怒ってもいいと言える。
「こちらに配慮し過ぎなのでは!?」
「逆だよ、これは僕の訓練。君たちは『やられないこと』が大事なところ」
一拍置いて勇也は話を続ける。勇也の仮想敵には母親がいるのだ。もし戦うならと考えた時、一人ではどうしようもなく……同時に、倒されないことこそが大事と考えていた。
「個性同士のぶつかり合いでは勝てない相手だって多い。じゃあその時にどうするか、考えた事はある?」
「けっ、そんなのぶつかり方が間違ってんだよ」
「センスある人ならそれでいいだろうね。でもセンス無い人の方が大半だよ。
時間を稼ぎ、相性が良いヒーローの到着を待つ。もしくは撃退するのどちらかになる。
前者も後者も自分を弱く見せたりと相手の隙を突くしかないから『あがく』必要がある。その訓練の一環とでも思ってくれればいいかな」
圧倒的強者の前にヒーローがどう立ち向かうのか?A組にとってはその訓練とも言える。プロヒーロー相手という強大さであれば経験で一度あったものの、圧倒的なヴィランとの遭遇などインターンでも中々ない。得難い経験であることに変わりはなかった。
「ミリオは審判頼む」
「任された!」
A組と勇也が距離をとり、構える。
「では────初め!」
同時、A組の遠距離攻撃を行える者が全力で個性を扱い、津波が如く押し寄せる。氷、音波、黒い影、電撃、虫にレーザーに酸にテープ。プロヒーローでも捌くのが難しい規模のそれだった。
「ふむ、邪魔だね」
パシッという軽い音がする。それだけの現象による結果は、遠距離攻撃が全て吹き飛ばされるというもの。
「「「なぁっ!!!???」」」
軽く拳を空に奮っただけ。キセルマイトがおこなったのはそれだけだ。緑谷のエアフォースと原理も実際にやったことも同じだ。
だが威力は桁違い。遠距離攻撃の全てを吹き飛ばし、風圧で遠距離攻撃組が一部数mは吹き飛ぶ程だった。護衛に付いていた者も同じ結末だ。
「死ねやぁ!」
「爆破か」
隙を突いた背後からの爆豪の強襲。しかしキセルマイトは視ずに把握する。
そしてピンポイントにデコピンを放った。
「は」
「汗が爆破してると見た。なら汗の段階で吹き飛ばせばいい」
汗を出していた腕だけが弾かれるように吹き飛ぶ。ただ風圧で飛ばすだけだというのに、緑谷とは完成度がまるで違う。身体の出来上がり具合や個性の伸び方が違うのだから当然なのだが、デクの力と同等のものに負けるということが爆豪の自尊心に疵をつける。
「ぐっ!?」
「頑丈っぽい相手だとやりやすくて助かる。ジャージはこれくらいなら問題ないよな、よし」
キセルマイトは、その一瞬の隙を逃さない。後ろに吹き飛ぶように手加減された拳が爆豪の腹に突き刺さり、十数mは吹き飛ばされる。
「先走んな爆豪!相手はゆっくり歩く程度しかしねぇ!」
「遠距離が無いって言ったっけ?」
風圧で遠距離攻撃を防御した。使い方は緑谷のエアフォースと同じ。であれば当然攻撃にも流用できる。
拳を奮うと同時、遠距離攻撃組の護衛に付いていた緑谷が動いた。
「エアフォース40%!」
蹴りで放たれるエアフォースは拳よりも威力は上。ならば身体が明確に鍛え上げられている相手と言えど相殺くらいはできるはず。
緑谷の狙いは……甘いもいいところだった。
「へぇ、これ迎撃できるんだ」
「相殺しきれない……っ!?」
明確に威力がある風圧自体は霧散した。しかし威力が無くなっただけで風圧そのものは生きていた。
「「「おおっ!!??」」」
威力は無いが距離をとらせる風圧。耐えれる者もいれば耐えれない者もいる。連携が明確に崩れていた。
耐えきれていた轟や切島は追撃させないため、ゆっくりと歩くキセルマイトへ接近戦を仕掛ける。必殺技の練習に丁度いいと言いながら。
「扱い切れねぇがやってみるか。赫灼熱拳──ぐっ……噴流熾炎!」
熱を溜め込み放つエンデヴァーの奥義。まだショートは扱い切れていないものだが……既に形にできる段階までは到達していた。
直線状に放たれる炎。触れればアウトの戦いであるため回避しなければならない。
「おおぅ!?」
姿勢を崩して回避するキセルマイト。狙いや範囲の調整がまだまだだから助かったものの、明確に危険な攻撃だった。
「避けられた……!」
「そっか、新技のテストには丁度いいのか」
格上の相手だと分かっていたが圧倒的強者だとどう対処すればいいか分からなくなる。必殺技とはそういった状況の打破のためにもなる。
必殺技。各ヒーローの代名詞でもあり、戦闘や行動の基軸となる技。各々が持つそれは通じないまでも、行動の選択肢としては機能する。
気づいたのはデクだけではない。
「はっ!ならこいつをプレゼントだ!ハウザーインパクトォ!!!」
「HAHAHA!君にはこいつをプレゼントだ!」
いつの間にか復帰していた爆豪が放つ重爆撃ハウザーインパクト。不意打ち気味だったにもかかわらず全ての汗が先ほど同様に吹き飛ばされ、掌底を
殺人的な風圧を起こす拳で放つ掌底を寸止めする。結果は瞬き一つの間で分かった。
「が」
爆豪の身体の目の前が爆発するが如く風が発生し吹き飛んで行く。さっきの拳のおかげで再び帰ってくるのは困難な程の飛距離だった。
「突出すんなって言っただろバカ!」
「相手はオールマイトの弟子って話だ、仕方ねぇ」
「遠距離組は攻撃続けて!」
連携が崩れた遠距離攻撃組が復帰する。ただ最初とは違い、包囲するような形で散らばっていた。
「散開しながら合流したか、やるね。
ただもう一度連携は崩れててもらおうかな」
包囲状態から遠距離攻撃を一斉射されればいくらキセルマイトとはいえ手加減無しでは耐え切れない。故に、技を一つ使う。
人差し指だけを立て、ねじり込むように拳を回して放つ。そうすることで風圧が一点に集中しやすくなる。
「スマッシュ・ピアーズ!」
「聞いたことないスマッシュ!?」
ピンポイントの、遠距離攻撃だった。腕を軽く一振りするだけで明確にダメージを与える風圧が放たれ……次々と倒されていく。
「ぐっ!?」「のわ!」「わっ!?」
「さして威力は無いから安心していい」
驚愕と吹き飛ばされる音が周囲に響く。遠距離攻撃組は耐久力が無い訳ではないが、増強系の個性で直接攻撃をされればダウンしない訳でもない。
特に男子に比べて相対的に耐久力が低い女子は、数分は動けない程度のダメージだった。
「時間を稼ぐ!」
接近戦を挑むのは切島、緑谷、障子に砂藤に尾白に飯田と、硬さと速さと手数を備えた面々だった。
「悪手だろう?」
「分かっててもやらないといけない!」
頑強性といった身体能力では負けているが速度では負けてない。攪乱し遠距離攻撃組の復活時間を稼ぐ────ことも困難なことだ。
何せ相手はミリオ相手に互角。まして経験則という武器を碌に持たないでそれなのだ。純粋な身体能力で戦えば……
「ぐ」「わっ!?」「っ!」「ごふぁ!」「くそっ!」「マズい!」
こうなる。
切島は耐えきり、緑谷は回避。障子と砂藤は一撃でダウンし尾白は尾を振り回され思いっきり飛ばされる。飯田は蹴り足を砕かれかねないと回避したものの、余りの速さに対応しなければとエンストしていた。
身体能力と技能どちらもA組のトップと互角以上。であれば一斉に戦ったとしても時間稼ぎも困難だが、例外も一部あった。
「あと二人しかいないのに厄介だな」
切島と緑谷。硬さは耐久力に繋がり、一時的な増強による回避は持久力に繋がる。
そして二人は個性の使い方が似てきていた。エアフォースのように安無嶺過武瑠を超える『硬さ』を……一瞬だけ引き出せる使い方、硬さを威力に変えれるように増強系の力強さを硬さにできるような『固める』……防御のための使い方。
まだ必殺技とは言えないが、二人共個性をそう使って耐えたのだった。
「光栄だな」
「軋む時間限界を狙って……エアフォース45%っ!」
緑谷が放つ風圧による遠距離攻撃エアフォース。さっきよりも威力が上がったそれを見、キセルマイト──勇也は幻視する。
目の前にいるのは強過ぎる個性と弱い身体、そして強い精神という歯車が合ってない人。頭が示したのは強過ぎる個性と強い身体、そして弱い精神という歯車が合ってない
「ふんっ!」
全力ではない。全力で拳を放てば緑谷は致死に至り……母親は耐える。ならば全力で放っても意味が無い。油断を誘う為の、全力から見れば威力半分程度の破壊力。
目の前の緑谷は、耐えられるギリギリの威力だった。
「ごっ!?」
「あ、やべ」
通常ならデトロイトスマッシュと呼んで放つ正拳突き。必殺技の名前を呼ぶことすら忘れていたのだった。
幸い威力を相手に与えることを優先した扱い方であり、緑谷は目の前に突っ伏していた。
「よかった、無事か。個性が上手く一致してない相手の手加減って難しいんだよね」
「……んんん!?ちょっとそれ詳し」
「……まだ訓練は続けられるな」
「ぐ!?」
意識を落とす程度に威力を抑えて首にトンッと衝撃を与える。
「あとは俺だけか」
立っているのは遠距離攻撃組に二人、上鳴・常闇と切島の三人のみ。スマッシュ・ピアーズで倒されるのが分かっている以上、切島が耐え切れなければ勝ち目は無い。
爆豪に放ったように吹き飛ぶよう掌が放たれ────切島は手刀を伸ばす。
「!?これは」
「緑谷との組手はやってんでな!」
風圧とは向けられた風の勢いが強過ぎて当てられた箇所に圧力が高まり吹き飛ばされることだ。であれば、風の流れを作ってやればいい。そうすれば圧力は分散し高まることは無い。例えるなら新幹線の頭部分だ。
同様の真似を切島はできた。硬化の先に鋭くなる特性があったことも幸いし、鋭くなった頂点に風が当たるようにすることで風を受け流したのだった。
「ならこうだ」
風圧などいらない。直接当てれば何の問題にもならない。
二度放った拳は切島に突き刺さり、後ずさる程度のダメージを与えていた。
「倒れないか。君は、強いな」
「ごふっ……それが強みなんでね!」
三度放たれる拳。強大なヴィランでも致命傷になりかねない程の破壊力が放たれるも、切島は耐える。
「ぐぐ」
「大抵のヴィランならこれで沈むんだが、ダメか──っと!」
手を伸ばす。切島がやったことはそれだけだが狙いはそこに無い。キセルマイトの意識を集中させることこそが狙い。
切島だけに意識を逸らし……雷と黒影がキセルマイトを貫かんと放たれていた。
「これが狙いだったか」
しかし、キセルマイトには届かない。身体をのけ反らせて回避していた。
意識を逸らそうと、雷の速度で狙おうと、影で攪乱しようと、認識の速度を増強できるキセルマイトは気づけてしまう。皮肉にも、仇敵とすら思っている母親と同じように。
馬鹿かと思えるほどの油断、もしくは当人が余りにも不可解過ぎると認識すること。どちらかが無ければどんな刃も届くことは無い。
「くそ」
「まだ生きてる遠距離支援を先に」
「やらせねぇ」
まだ立っている切島は残っている上鳴と常闇の盾になる。遠距離攻撃の間に割り込むだけでも十分な時間稼ぎになるため、それだけでも足掻くのだ。
そういう訓練でもある。キセルマイトも分かっていた。
「倒れなくとも距離をとらせるという選択はできる」
「がはっ!?」
回し蹴りで上に飛ぶように直接当てて蹴り飛ばす。拳は耐えられ、風圧は流された以上そうせざるを得ない面もあった。
しかしその選択を選んだのは時間を稼がれると面倒なことになるという予測からだ。
「加減が難しいからやらなかったが……さっきの耐えた君なら大丈夫だろう」
蹴りは拳よりも威力が高い。加減して放ったとしても事実は変わらない。切島でも立ち上がれない威力は十分にあった。
「あとは遠距離の……電撃と影か」
「止める!」
風圧で吹き飛ばされたが復帰し、接近まで試みていた麗日が間に割り込む。
遠距離攻撃組だが接近戦ができる面子は他にいたが、散らされた方向や防御をミスったといった個々人の問題により最初に到達できたのが麗日だったのだった。
「遊撃はいいが狙いが甘い」
「っ!」
デコピンの風圧をねじり込むように放つ──スマッシュ・ショット。デクのデコピンで放つエアフォースをサポートアイテム無しに……さらに貫通力を高めた攻撃。全力の至近距離で放てば麗日の上半身と下半身は別たれる程になる。
加減したことで吹き飛び、倒れ伏す程度に抑える。ちゃんと調整ができていた。
「よし」
ふぅと安堵するキセルマイトの耳に、ガシッと足を掴む音が聞こえた。
「流石だな」
「……キセルマイトさん。ミリオ先輩と同格ってのも分かる強さっすね」
蹴りを受けてなお抵抗の意志を見せる切島。拳に蹴りと立て続けに喰らったことで立ち上がることはすぐにはできないが、意識を向かせることはできる。
目立ち、相対する相手の意識を集中させる。ゲームで言うところのタンクと呼ばれるものであり、相手が強大な者であれば必須の存在。強大なヴィランが相手なら同じような役割がどうしても必要になる。
そしてその役割が切島であることは、A組が作戦を考える際に真っ先に決定することだった。
「一つだけ──立ち上がるのがヒーローなんで、訓練にしては優し過ぎます」
二方向から爆破と風圧がキセルマイトを襲った。
「おわっ!?」
咄嗟に拳を奮い風圧にて相殺するも、完全に意識の外から放たれた攻撃にキセルマイトも対応がギリギリだった。
「クソが」
「早いってば!」
「もう少し油断してからつっただろうが!」
「千載一遇のチャンス……!」
爆豪、緑谷、上鳴、常闇。立ち上がった者と立っていた者。倒れると分かっていたなら立ち上がっている者たちが囮になれる。本命は先んじて突っ込んだ者たち。
耐えきれるはずという訓練。爆豪が舐められていると言ったこと。緑谷と爆豪は最初からずっとこの作戦で戦うつもりだった。
何せ一度……試験でだが、オールマイトと対峙したことがある。なら手加減されていたとしても相対して勝てないことは身に染みて分かっている。故に一度負けたふりをする。二人共分かっていたことだった。
あとは爆豪が無策で突っ込むなどという違和感から、A組は何も言わずとも連携してくれる。それだけの信頼があるのだ。
「いやぁ手加減って難しいね。『だいたい行動不能』まではできるんだが『完全に行動不能』までは中々難しい。それも君たちみたいなヒーローだとこうもなるか」
「じゃあ続き……お願いします」
緑谷の声にHAHAHAと笑うキセルマイト。笑い声に続いた声は……A組にとっては意外なものだった。
「僕の負けだよ」
敗北宣言。突然の言葉に立っているA組の面々は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。
「ほらこれ」
キセルマイトが指した先は足首。足首のジャージだった。
ほんの少しだけ、破れていた。指が掠った程度であり文字通り服にしか届いていないもの。そんなところに触った人は一人だけだ。
「さっき君が掴んだ時、破れたんだ」
切島の成果だと言いたいのは誰にでも分かる。それだけの耐久を示せていたのも分かる。
だが、理解できるのと納得できるのは別の感情だ。
「負けだろ?」
「「「納得できない(ねぇ)!!!もう一回!!!」」」
ヒーローの卵達の成長はさらに加速していく。プロよりも更に上へ行く加速度がそこにはある。
成生は周りに影響を与えて成長させる。勇也が行っているのもある意味同じ事……というより、正しく言葉にするならば誰にだって当然あるべきことなのだ。
誰しも誰かから影響を受けて成長する。子が親から影響を受けるように、緑谷と爆豪がオールマイトに憧れたように。『誰か』の認識と成長の度合いを格別強くするのが成生の個性が他人に与える影響だ。
そこから『誰か』の人数が純粋に増え、かつ影響を受ける当人も成長の可能性と意志があれば成長するのは必然。成生も、勇也もA組に対してやっていることは同じ。
違いは影響を受ける人が誰なのかという一点のみ。
成生は切島が中心だが勇也や堕とし子は違う。A組全体であったり、個性を継いでいるものであったりだ。
成長がどう変わるかなど予想のつきようもない。何せ堕とし子は各々が好き勝手に動いているのだ、成長する側も引きずられて成長することになる。
ただ人として、心も体も成長するということは個性が伸びることとほぼ同義。そしてそれは一般的には『強くなる』ことと言える。
そうして分かりやすく成長していくのは緑谷や爆豪に轟
────そして、常闇と上鳴だった。
ちょっと書きたいサブ話ができちゃったのでメインストーリー進行遅れそう